2010年6月アーカイブ

インド政府は624日遅くに、1984年のBhopal事件に関して、Manmohan Singh首相が指名した閣僚委員会が出した方針案を承認した。
犠牲者への賠償を追加し、
Dow Chemical の責任を追及し、Union Carbideの当時の会長のWarren Andersonの引渡を米国に求めるもの。

インド政府の動きは、6月7日にインドのBhopal 市の裁判所がインド人の元役員等8人に有罪とした判決のあと、被害者の支援者やメディアからの政治的圧力によるもの。

2010/6/9 Bhopal 事件でインド人元役員等8人に有罪判決

判決に対しては以下のような点で批判が殺到した。

犠牲者の数を考えれば、「禁固刑2年」は軽すぎる。
Warren Anderson元会長について、インド政府は「犯罪人引渡し条約」に基づき引渡しを求めたがアメリカはインド政府の要求を全く無視した。アメリカとの経済関係を重視し、「インド政府が意図的に動かなかった」という批判もある。
インド政府は補償金交渉に重点を置きすぎ、アメリカに対し毅然とした対応をしなかった。補償金もインド人一人当たりで計算すれば「雀の涙」程度のものであった。
補償金の少なさに加え、補償金支給の遅れ、役人の横領の可能性、後遺症等に対するインド政府の無策等々。
判決まで25年の年月を要したこと。

新方針の概要は以下の通り。

1. 政府はインドの裁判所に、ダウの責任問題について決定するよう要請する。
   
  ダウは、Union Carbide 470百万ドルを支払ってインド政 府との間で将来にわたって解決した。ダウは10年 以上後の2001年 にUnion Carbide を 買収しており、なんらの債務も引き継いでいない」とし、「工場はUnion Carbide India が所有、運営していたものであり、Union Carbide 自体はなんら工場の操業に関与しておらず、同社及び社員はインドの裁判所の管轄外である」としている。
   
2. Warren Anderson元会長の引渡しについて、米国への圧力を強めるため、インド外務省は政府の諸機関から追加の材料を集める。
   
3. 被害者への補償
  ・死亡者の家族に100万ルピー($21,500
  ・回復不能の障害者に50万ルピー($10,700)
  ・癌患者に20万ルピー($4,300)
  ・一時的障害者に10万ルピー(($2,100)
   
  これまでの支払分は調整される。
  2008年現在で、工場のあるMadhya Pradesh州は一人平均27千ルピー ($580) を支払っている。
   
4. 環境浄化
  Madhya Pradesh州の責任だが、中央政府はこの目的のため31億ルピー($66.6 million) を支出する。
  保存されている危険物の処理、汚染された家屋等の解体、水や土壌の汚染の復旧などが含まれる。
   
  工場は1984年の事故のあと、直ちに閉鎖されたが、2009年現在で州は環境浄化に294千ルピーしか支出できていない。
   
5. その他
  1989年に示談による和解が得られ、ユニオンカーバイドは事故によって生じた被害に対し47000万米ドルを支払うことに同意したが、政府はこの件を再交渉できないかどうか調べる。
   
  また、今回の裁判の判決について、別の犯罪を理由に裁判を再開し、もっと重い罪に問えないか、検討する。
   

ーーー

2008年に米国下院の16名の議員がインドのSingh 首相に、被害者救済運動を支援するレターを出しており、2009年6月にはFrank Pallone 下院議員を初めとする米国の議員27人がダウに対してBhopal 事件被害者の救済を要請している。

2009/6/23 米議員、ダウにBhopal 事件被害者の救済を要請

しかし、インド政府は、米国企業のインド進出への影響を懸念し、ほとんど動かなかった。
世論に押されて、ようやく動き始めたようだ。

 


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信越化学工業は6月28日、シリコーンの工場を中国に建設すると発表した。

同社100%出資の「信越有機硅(南通)公司」を設立する。<p>HTML clipboard</p>「有機硅」は「シリコーン」)
江蘇省南通市経済技術開発区にある工業団地に約15万平方メートルの工場用地を確保済みで、2011年末完成をめどに成形用シリコーンゴム、RTVゴムなど年産25,000トンのゴム系製品の工場を建設する。投資金額は約85億円で、年100億円の売り上げを見込む。
今後、順次製品群を拡大していき、最終的には全ての製品群の製造を行う予定。

原料モノマーは、当面タイのAsia Silicones Monomer(GE社と50:50合弁会社)から手当てするほか、日本や海外他メーカーから調達する。

2001年2月、信越化学はGE/東芝グループと50/50出資のシリコーンモノマーの製造会社Asia Silicones Monomer Limitedをタイに設立した。
能力は年間約7万トン(シロキサンベース)アジア最大の単独シリコーン製造工場である。

GEと東芝はシリコーン事業から撤退し、事業をApollo ManagementMomentive Performance Materials に売却したが、GE(東芝持分はGEが買収)このJVについては売却せず、株主のままとなっている。

2006/9/21 GE、シリコーン事業を売却

信越化学は1953年に日本で初めてシリコーンを事業化し、現在まで国内トップシェアを有している。さらに、アメリカ、台湾、韓国、タイなど海外にも生産・販売拠点を有して、世界市場においても優れた品質と多彩な機能で高い評価を得ている。

中国の需要が大きく伸張し、今後も高い成長が見込めることから、現地生産に踏み切り、中国市場におけるシリコーン事業の拡大を目指すこととした。

信越化学にとり、この投資が中国では初の大型投資となる。

同社は2002年に信越化学 90%出資(残り10%は米国のTOPCO International)で浙江信越精細化工有限公司を設立し、浙江省嘉善県の工業団地に工場を建設、シリコーンの二次製品である一部のエマルジョン製品、一液型RTVゴムなどを中心に生産している。投資金額は工場用地を含め約4億円であった。

また、2003年には「信越有机硅国際貿易(上海)有限公司」を設立、シリコーン製品の販売市場拡大を図ってきた。

ほかに子会社の信越ポリマーが、1993年には蘇州に現地法人を設立してキーパッドの生産を開始、その後、生産体制を拡張し、コネクター、ロールの生産にも着手、2004年には深センに塩ビコンパウンド工場を稼動させている。

<p><p><p>HTML clipboard</p></p></p>これらは小規模の投資で、信越化学はこれまで、カントリー・リスクを考え、中国への大型投資を避けてきた。

金川社長は中国進出については、こう述べている。(2005/6/12 TV朝日 「トップに迫る」)

「中国はね、市場としてはこれからの10年、圧倒的に伸びるでしょうね。 非常に魅力的な市場です。
我々は製品の輸出には中国に大変お世話になっていて、たくさん輸出しています。
ただし、投資とは別のことなのです。
中国の場合は カントリーリスクというと語弊があるかもしれないが、例えば我々の商品の基礎中の基礎の原料である石油とか電力を、政府が一番コントロールしている。
我々が下流、ダウンストリームでいくら努力して、事業を成功させても、上流で押さえられたらそれで一発で終わり。
つまり、我々の経営努力ではできないものがあるところではやってはいけない、というのが私の考え方。
経営努力で克服できるものは経営努力で克服するが、できないものはやらない。」

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同社は1967年にニカラグアで、信越化学 33.75%、三井物産 11.25%、現地(ソモサ大統領系) 55%出資で、塩ビ会社Polimeros Centroamericanos S.A. (POLICASA) を設立した。中米共同市場を対象にPVC 年産 5千トン、同コンパウンド 6千トンを生産するもので、1970年にスタートした。

同社は中米でも一、二を争う高収益企業に成長したが、1979年の革命勃発(ソモサ大統領は亡命、のち暗殺される)で撤退を余儀なくされた。

「この経験は、事業を進めるときにカントリー・リスクは絶対に避けねばならないことを私に教えてくれた」
(金川社長 「毎日が自分との戦い」)

注)本年1月、ニカラグア政府は金川社長(民間外交推進協会=FEC 会長)に対し、FEC会長としての両国関係の長期安定的拡大への貢献と、過去のPOLICASAへの貢献で、「ホセ・デ・マルコレタ勲章」を授与した。

<p><p><p>HTML clipboard</p></p></p>しかし今回、中国政府の関与は変わっておらず、最近は人件費アップや為替の変動などもあり、中国のリスクはあるものの、中国市場の重要性を勘案すれば、現地生産が不可欠と判断した。

5月の社長交代のインタビューで、森・次期社長は以下の通り述べている。

「金川社長は中国に対する取り組みについて、今まではカントリーリスクということで、大型の投資は控え、中小のモノをやり、営業を活発にというやり方だったが、これから中産階級が消費需要が増大してくることを見込んで、積極的に出ようということを昨年暮れに社内に宣告された。それを早く実現していきたい。

中国だけでなくて、今、新興国のGDP伸びは高い比率を示している。期待も高く、当社も相当出ていますけども、現地需要開拓を目指すというのは当然ですが、現地生産も目指して積極的に検討していく。」

 

信越化学では6月29日の定時株主総会終了後の取締役会で、金川社長が会長に、森副社長が社長に就任する。


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再び人民元論争

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中国の中央銀行である中国人民銀行は6月19日、「人民元相場の弾力性を強化する」との声明を発表、2008年8月から固定していた人民元を再び管理フロート制に戻した。

しかし、初日の終値は0.44%高と変動幅の上限に近いものとなったが、その後は政府が介入した結果、非常に緩やかな変動となっている。

このため、人民元をめぐる論争が再燃した。

ーーー

中国は2005年7月21日に2.1%の切り上げを発表、その後、管理フロート制を取ってきたが、2008年夏の金融危機以降、レートを1ドル≒6.8人民元でほぼ固定してきた。

米国は中国に対して元切り上げを要求してきたが、温家宝首相は「中国は自主性、制御可能性、持続性という原則に基づき、人民元為替相場メカニズム改革を穏健に推進する」と表明し、元切り上げ要求を拒否した。

中国にとっては大幅なユーロ安で欧州向けの輸出に影響が出ており、世界的な経済危機のなかでのドルに対するレート固定は国際経済に貢献しており、これ以上の元の切り上げは困難とした。

これに反発して民主党のCharles Schumer上院議員らは3月16日、中国など為替レートの不均衡を是正しない国への制裁措置として、輸入品に反ダンピング関税を課す「通貨為替監視法案」を提出すると発表した。

Debbie Stabenow上院議員は「通貨が過小評価され米国への輸入品が安くなるのは公正ではない」とし「中国が自分で是正しないなら強制するまでだ」と述べた。

2010/3/24 米国、人民元切り上げを要求 

多くの西側諸国のエコノミストは、人民元が25-40%過小評価されているとの見方を示している。

中国の中央銀行である中国人民銀行はG20サミットを控えた6月19日、「人民元相場の弾力性を強化する」との声明を発表、2008年8月から固定していた人民元を再び管理フロート制に戻した。

世界的な経済危機の中で人民元の対米ドル相場の安定を維持したことはアジアと世界経済の回復に寄与した。
最近の世界的な金融情勢の安定化を踏まえて今後は通貨バスケットを参考として市場の需給動向を人民元相場に反映させる。
中国の国際収支は均衡に向いつつあることから、大幅な為替相場修正の根拠は無いものの、弾力性の拡大は容認される。
銀行間市場における為替取引中心レートからの日中変動幅に変更はない。
(対米ドルの日中変動幅は同行の発表する中心レートから上下0.5%以下)
  * 為替取引中心レート(基準値、中間値)は、中国人民銀行が取引開始前に、前日相場などを勘案して発表するもの。

しかし、初日の終値こそ基準値比 0.44%アップと上限に近いものとなったが、その後は政府が介入した結果、非常に緩やかな変動となっている。
G20サミットを控え、人民元高の実績をアピールすると同時に、大幅な切り上げは容認しない姿勢も示した。

このため、米国では再び、更なる人民元切り上げを求める圧力が強まった。

オバマ米大統領は6月24日、人民元相場の弾力化を「初期の動きとしては評価できる」としつつ、「不均衡是正に十分か、評価を下すのは時期尚早だ」と中国にクギを刺した。

米製造業団体の幹部は、「中国の発表はG20を前にした、また議会からの圧力を避ける策略でしかない」と指摘、議会が引き続き、中国に圧力をかけていくことを望んでいると表明した。 

民主党のCharles Schumer上院議員は中国の通商政策に関する公聴会で「中国には対応を迫らない限り何も変わらない」と述べ、人民元の過小評価を政府による補助とみなす法案について近く上院で採決を目指す考えを示した。

同氏や他の議員は、中国の為替政策が同国の輸出に不当に利益をもたらしているとみている。

米上院財政委員会のMax Baucus委員長(民主党)も中国の対応は遅すぎるとし、2007年に策定した人民元改革を促す為替法案を再提出する考えを示した。

これに対し、中国外交部の秦剛報道官は6月24日の定例会見で、人民元切り上げでは中国と米国の貿易不均衡は解決しないとし、対中ハイテク製品輸出規制を緩和すべきだとした。

人民元の切り上げで中米貿易 の不均衡することもできないを解決することはできないし、米国が現在抱える国内問題ー低すぎる貯蓄率、ローン消費、失業などーを解決することもできない。
中国は、米国がひたすら非難し、圧力を加えるのではなく、もっと自国の経済構造に原因を求めることを望む。

人民元相場は中米貿易の不均衡を生み出す主要因ではない。
貿易不均衡はグローバル化を背景とした国際分業調整の結果であり、中米貿易の不均衡を生み出し ているもう
一つの主要因は、米国による対中ハイテク製品輸出規制だ。

中米の経済貿易関係は両国にとって重要であるのみならず、世界にとっても非常に重要だ。
中国は米国との経済貿易関係の発展において相互利益・ウィンウィンを重要な原則としており、強く意図して巨額の対米黒字を追い求めてはいない。

ここ数年来、われわれは一貫して積極的な措置を講じ、米国からの輸入を拡大してきた。
これらの措置は顕著かつ効果的なものだ。
米側が中国側と共に、両国の経済貿易関係の均衡的な発展を促すことを希望する。
人民元問題を政治化し、ひたすら圧力を加え、非難し、さらには保護貿易主義的措置をやたらと発動するやり方には少しの道理もない。

米国は、航空機や航空機用エンジン、コンピュータソフトウェア、レーザー装置、光ファイバー、情報通信機器などハイテク製品の中国向け輸出について、中国が軍備増強のために利用しているとの懸念から、政府の許可を必要としている。

中国は、米国製品を輸入したくても輸入できないのが貿易不均衡の重要な原因としている。

米国も最近、世界各地で緩和が進んでいる現状ではこの規制は意味をなさなくなったとして、輸出規制政策を再検討している。

ーーー

オバマ米大統領と中国の胡錦濤国家主席は6月26日、G20を前にカナダのトロントで会談した。

オバマ大統領は人民元の弾力化方針を歓迎しつつも、「具体的にどう実行されるかが重要だ」とし、「世界経済の安定成長に向けて中国の果たすべき役割は多い」と一層の内需拡大などを求めた。

これに対し胡主席は「対米貿易黒字を追求するつもりはなく、中国は以前から米国からの輸入を拡大する措置をとっている」と主張し、人民元の切り上げ圧力をけん制する立場を示した。


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PetroChina大慶煉油化工(Daqing Refining & Chemical) 69日、黒龍江省大慶市譲胡路区でPPの第二工場の建設を開始した。
BasellSpherizone 技術を使用するもので、能力は30万トン、2012年下期の完成を目指す。
同社は
2005年に30万トンのPP工場を稼動させている。

同じ大慶市の竜鳳区にはPetroChinaのもう一つの子会社、PetroChina大慶石油化学(Daqing Petrochemical) があり、10万トンのPP工場を持っており、大慶煉油化工の第二工場完成後の合計能力は70万トンとなる。

大慶煉油化工の第一工場は原料プロピレンを自社の製油所から得ているが、第二工場については大慶石油化学の建設中の第二エチレンクラッカーからパイプラインで供給を受ける。

大慶石油化学と大慶煉油化工の現状と計画は以下の通り。(千トン)

  大慶石油化学 大慶煉油化工
能力  計画 能力  計画
製油所 6,500   6,000  
エチレン    600   600    
PE    540  250
300
   
PP    100   300 300
ABS    105      
SAN     75      
SM     90 100    
BR     80      
BTX   400    
gasoline hydrogenation   600    
ポリアクリルアミド     100  

大慶石油化学は当初手直しで200千トンの増設を検討したが、600千トンの新設に変更した。
2012年に完成する予定。

ーーー

大慶石油化学は当初、Sinopecの子会社であった。

1983年7月に中国で石油化学を担当するため、中国石油化工総公司が設立された。これが現在のSinopecである。
大慶石油化学(1962年設立)も他の石油化学各社とともに、Sinopecの子会社となった。

大慶石油化学では1980年代に30万トン級のエチレンコンプレックスが建設された。

これに昭和電工のEthylene Plant Information Control Systemが技術供与された。

高杉良の小説「生命燃ゆ」は、大分石油化学コンビナート(鶴崎油化)でこれを完成させ、病を押して中国への技術供与を行い、完成を見ずに亡くなった同社の垣下怜氏(小説では柿崎仁)を描いている。

1988年に政府の石油探査、開発、生産部門を中国石油天然気総公司(CNPCPetroChina)とし、上流をCNPC、下流をSinopecに分離したが、その後、両社の利害が対立した。

この結果、1998年に再編を行い、石油と石油化学を垂直統合した新CNPCと新Sinopecが誕生、両社はほぼ万里の長城を境に、中国東北部と西北部をCNPC、長江以南と北京周辺を新Sinopecが担当することとなり、大慶石油化学はPetroChina に移った。

その後、石油の販売でこの協定は崩れ、現在は各地で競合している。

大慶煉油化工は大慶地区での第二の製油所として2000年にPetroChinaにより設立された。


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EUの欧州委員会は6月23日、浴室の設備メーカー17社が価格カルテルを結んでいたとして、総額6億2225万ユーロの制裁金を命じた。
このうち5社については、当初想定していた制裁金を科すと倒産する恐れがあると判断し、制裁金を減額する異例の措置を講じた。

欧米の17社は1992年から2004年にかけてドイツなど欧州6カ国で、洗面台、浴槽、蛇口などの価格を調整していた。

17社の社名と制裁金は以下の通り。

社名 制裁金 (Euro)
Artweger (オーストリア) 2,787,015
Cisal (イタリア) 1,196,269
Dornbracht (デンマーク) 12,517,671
Duravit (デンマーク) 29,266,325
Duscholux (オーストリア) 1,659,681
Grohe (デンマーク) 54,825,260
Hansa (デンマーク) 14,758,220
Ideal Standard (US) 326,091,196
Kludi (デンマーク) 5,515,445
Mamoli (イタリア) 1,041,531
Masco (US) 0
RAF (イタリア) 253,600
Roca (スペイン) 38,700,000
Sanitec (スイス) 57,690,000
Teorema (イタリア) 421,569
V&B (デンマーク) 71,531,000
Zucchetti (イタリア) 3,996,000
合計  622,250,783

このうち、米国のMascoはカルテルについて最初に欧州委員会に報告したため、全額免除となった。
また、
Ideal Standard Groheは調査に協力したため、30%の減額となった。

17社のうち、10社が欧州委員会に対して制裁金を支払えないと申し出た。
比較的規模の小さい企業が多く、金融危機で住宅投資が減少し、企業収益が悪化している。

欧州委員会では、各社の最近の決算書や今後の損益予想、諸財務比率(健全性、収益性、支払能力、流動性など)、銀行や株主関係、各社の社会的・経済的状況を検討、更に制裁金のために倒産に追い込まれた場合に各社の資産価値が大幅に失われるかどうかを検討した。
評価は、公平性を確保し、
EUの抑止力を維持するよう、出来るだけ客観的に、数値化して行われた。

この結果、10社のうち、3社に対しては50%の減額、2社に対しては25%の減額とした。減額対象となった企業名は明らかにされていない。

Joaquin Almunia 競争政策担当委員は、違法な行為は摘発していくこと、制裁金は違法行為をやらせないような水準にすることを強調しつつ、「制裁金の目的は経済的苦境にある企業を倒産に追い込むことではない」と述べた。


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USA TODAY紙は621日付けのOPINION欄にダウのCEO Andrew N. Liverisの論文 “How U.S. can launch a manufacturing renaissance”を掲載した。
  http://www.usatoday.com/news/opinion/forum/2010-06-18-Liveris21_st_N.htm?loc=interstitialskip

米国の製造業の雇用が増えず、1990年以来、製造業の雇用減は300万人で、ほぼ20%に達する。この結果、多くのセクターでリーダーシップを失った。

国としての戦略がなければ、雇用減は回復できない。経済を活性化し、産業の競争力を高め、雇用を増やすために、米国は高度の製造業のプランが必要とし、以下の各項目が重要であるとしている。

(1)新しいインフラ

新しいインフラで、企業の設備投資を促進し、米国の通信ネットワーク、送電線、海陸空の輸送システムを近代化することが必要。
これにより、国内の生産を高め、生活の質を改善できる。

(2)最先端のR&D

外国との競争で、R&D投資が経済成長を高め、生産性を高め、生活水準を高める。

(ダウは6月21日、副大統領参列のもと、政府補助金を受けた最新のリチウムイオン電池工場の起工式を実施した)

(3)教育

米国の学生の科学、技術、工学、数学などの能力はグローバルな競争で遅れをとっており、これを高める必要がある。
過去にはSTEM(Science,
Technology, Engineering and Mathematics)教育や社員訓練が米国の強みであり、製造業におけるリーダーシップを支えていた。

(4)"pro-trade" (自由貿易)policy

関税や輸入障壁を減らし、公平な条件での貿易を推進すべし。
多角的貿易交渉を進め、主要貿易国と対等の扱いを確保すべきだ。

(5)代替エネルギー政策

業界の競争力維持のための豊富なエネルギーが必要

(6)規制改革

環境規制は必要だが、イノベーションを止めたり、科学的根拠なしの規制が多い。

(7)税制

製造業を支える税制が必要。
 米法人税率はOECDで2番目に高い。
 他国と異なり、全世界の利益に課税される。
 R&Dの税額控除は主要OECD国で23番目。

(8)裁判制度の改革

原告側弁護士は企業に不当な賠償を請求しすぎである。

ーーー

米国は将来の雇用創出のため、製造業にインセンティブを与える戦略的統合アプローチが必要が必要で、景気対策のためのパッチワークのインセンティブでは不十分である。

米国がグローバルな競争に打ち勝つためには高度の製造業のプランが必要である。アメリカが製造業を諦めれば、子供たちの将来はないと説く。


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BASFは6月23日、ドイツの特殊化学品メーカーのCognisを買収することで合意したと発表した。

買収金額は7億ユーロだが、同社の債務や年金債務を含めると、31億ユーロとなる。

今後、独禁当局の審査などが必要で、最終取引は11月を予定している。

既報の通り、本年春にBASFCognisTOBをかけるとの噂が流れており、また潤滑油メーカーのLubrizolも交渉を始めていた。対価は30億ユーロにもなると噂された。

2010/4/28  BASF、 ドイツのCognisTOB

Cognisの詳細はこれを参照願います。

BASFではこの買収により、景気変動に左右されず、収益力のある事業を強化し、世界の化学業界のリーダーとしての地位を高めることが出来るとしている。


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丸紅は6月23日、中国の総合化学大手、天津渤海化工集団(Tianjin Bohai Chemical)と戦略的パートナーシップ契約を締結し、今後、天津渤海化工が計画しているプロジェクト推進に協力していくと発表した。

天津渤海化工は天津市傘下の国有企業で、長年、石炭を原料としたアンモニア・肥料やソーダ灰(ガラス原料)やクロルアルカリなどの無機化学事業と、輸入エチレンやプロピレンを原料とする石油化学事業、殺虫剤、染料中間体などの事業を天津市の経済開発区で営んでいる。

天津市は、石油・化学産業は発展が期待される基幹産業と位置付けており、天津渤海化工は、天津市のサポートも得て、天津渤海化工園区を現在建設し、プロパンを原料としたプロピレンとその関連誘導品の事業化計画を進めている他、電子材料や精密化学品分野を含むケミカル・チェーン経営への展開も計画している。

プロパン脱水素によるプロピレン計画は能力60万トンとされ、プロピレンは渤海グループのプロピレン誘導品のオクタノール、エピクロルヒドリン、アクリル酸、酸化プロピレン(下記)などに使用される。PPの計画はない。

丸紅は、1980年代に天津渤海化工の殺虫剤や漂白剤の販売から始め、現在ではVCM、エチレンやプロピレン、溶融硫黄などを長期的に同社に供給している。溶融硫黄については輸入・貯蔵する合弁会社を天津渤海化工傘下の子会社と設立している。

今回の戦略的パートナーシップ契約の締結を契機に、丸紅は、天津渤海化工が今後推進する案件への事業提案や、ライセンサーや合弁を含めた海外事業パートナーの積極的な紹介を通じ、その原材料や製品の取扱い、ならびに事業参画にも優先的に関与していく。
また、天津渤海化工との包括的なアライアンスを通じて、中国市場への取組みを強化していく方針。

ーーー

天津渤海化工は子会社に天津大沽化工(
Tianjin Dagu Chemical) を持つ。

天津大沽は自社で800千トンのPVC能力を持つとともに、韓国LG ChemとのJVの天津LG大沽化工(LG 85%、天津大沽 15%)で340千トンのPVCを生産している。

天津渤海はLG Chemとの合弁で、天津に天津LG渤海化工(LGグループ75%、LG大沽10%、渤海化工15%)を設立し、苛性ソーダ 240千トン、EDC 300千トン、VCM 350千トンを生産、VCMは天津LG大沽化工に供給している。

2006/9/12 LG Chem、中国で2工場竣工

ーーー

天津渤海化工の子会社の天津大沽化工は塩ビチェーンのほかにPOおよびPO誘導品を事業化している。
PO能力は年産100千トンで、三井東圧化学(当時)の技術を導入したもの。

同社はこのたび、過酸化水素法酸化プロピレン(HPPO)の年産1,500トンのパイロットプラントの操業を開始したことを明らかにした。本年末に市場に製品を出す予定。

同社ではHPPO年産10千トンの商業生産用プラントの建設も行っている。

過酸化水素法PO(HPPO)、はBASFが1995年頃から研究してきたもので、副産物がなく、最終製品であるPOと水しか発生しないこと、プラントの設置面積が小さく、必要インフラストラクチャが少ないことが特徴とされている。

ダウとBASFは合弁でアントワープに過酸化水素法で30万トンのPOプラントを建設、2009年3月にスタートアップ段階を終え、順調に操業している。

2009/3/12 ダウとBASFのHPPO法PO 生産開始

ダウはまた、2009年9月に、この技術を使用し、タイのMap Ta Phut 近郊のAsia Industrial Estates39万トンのHPPOプラントの定礎式を行った。
実施はタイの
Siam Cement GroupとのJVMTP HPPO Manufacturing で、2011年に生産開始の予定。

2008/6/16 Dow、タイで過酸化水素法PO工場建設

天津大沽化工は独自でこの製法を開発し、中国で特許を取ったとされている。

なお、中国科学院大連化学物理研究所(DICP-CAS)もHPPOの技術を開発したとされる。但し、パイロットプラントは建設していない。

ーーー

また、天津大沽はSINOPECの天津エチレン計画(100万トン)に参加し、2007年11月にSM 600千トン(500千トンから見直し)とABS400千トン(の第一期200千トン)の建設を開始した。

2007/8/23 天津大沽化工、天津でSM 500千トンプラント建設


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http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


トヨタ自動車は6月18日、中国でのストライキによって部品の供給が滞り、中国・天津市にある車の組み立て工場の操業を停止した。

操業を停止したのは天津一汽トヨタ自動車で、年産能力は42万台。

ストライキは機能部品・セーフティシステム製品・内外装部品を生産する部品メーカーの天津豊田合成で起こった。
従業員が賃上げを求めて17日にストを実施、18日もストが続いて、トヨタへの部品供給が停止した。

天津豊田合成は19日に従業員側と協議、全従業員約1800人を対象に賃金の2割アップに加え、暑熱や皆勤の手当充実などの条件で妥結した。日曜日の20日は休日を返上して生産の遅れを取り戻した。

トヨタ自動車は天津市の完成車工場の生産を6月21日に再開したことを明らかにした。

天津では同じくトヨタ向けのゴム製品を生産する「天津星光橡塑」でも6月15日にストが発生したが、会社側が要求の一部を受け入れたため、17日には通常の生産状況に回復し、トヨタへの影響は出なかった。

天津星光橡塑:
 鬼怒川ゴム   7%
 星光橡塑   42%(鬼怒川ゴム75.58%出資の台湾・中光橡膠の香港子会社)
 豊田合成   51%

トヨタ天津が操業を再開した翌日の22日朝、今度は広州市の広汽トヨタ自動車が稼動を停止した。

広州市の南沙開発区にあるデンソーの子会社「電装(広州南沙)」の工場で21日に待遇改善を求めるストライキが発生し、部品の供給が止まったため。

デンソーの部品工場は、トヨタやホンダの工場に燃料噴射装置を供給している。ホンダは「今のところ在庫で対応できているが、長期化すれば生産停止もあり得る」としている。


なお、広東省中山市にある日本プラストが85.1%出資する中山富拉司特工業でも6月17日にストが発生している。
同社は日産とホンダにハンドルやエアバッグを供給している。

また、ホンダ系の自動車部品メーカー高尾金属工業が出資する湖北省武漢市の武漢アイパック汽車配件でも17日から18日にかけてストが起きていた。

付記

ホンダは6月23日、広東省広州市の広汽本田汽車の黄埔工場が稼働を停止したことを明らかにした。

ニッパツの広州市にある部品工場で、22日夜にストが始まり、工場は23日朝から操業を停止、労使交渉が続いている。
この部品工場は自動車のサスペンション用コイルバネと走行性を保つスタビライザーを生産しており、ホンダでは部品不足で稼動を停止した。

ほかの日系メーカーの生産にも影響する恐れがある。

ーーー

今後も労働条件の改善要求は相次ぐものと思われる。
更に、既報の通り、中国は「所得倍増計画」を検討している。

   2010/6/10  中国が「所得倍増」計画 (各社のストライキ状況も)

今後、中国での労務費アップは避けられないが、衣料などがベトナムなど低労務費国への移転を検討しているのに対し、自動車や家電は中国に膨大な投資をしている上、中国が世界最大の市場になりつつあるため、中国から他国に工場を移転することは難しい。

トヨタの張会長は、「労務費アップは自然の流れ」で、「中国進出は人件費が安いためではなく、顧客の近くがよいと思っているからだ」と述べ、現地生産を続ける考えを示した。

中国では下請け企業の従業員が同一労働・同一賃金を主張して、親会社並の労働条件を主張するケースが多い。
今後も労務費アップの要求は続くと思われ、下請けのストで自動車生産がストップする可能性がある。
カンバン方式を見直し、在庫を持つようにする必要があるかも分からない。

ーーー

トヨタの中国での完成車組み立て工場は以下の通り。

社名 天津一汽トヨタ自動車 四川一汽トヨタ自動車 広汽トヨタ自動車
設立 2000年6月 2005年7月
(四川トヨタ自動車1998年11月)
2004年9月
出資比率 第一汽車集団 20%
天津一汽夏利自動車 30%
トヨタ自動車 40%
トヨタ自動車(中国)投資 10%
第一汽車集団 50%
トヨタ自動車 45%
豊田通商 5%
広州汽車集団 50%
トヨタ自動車 30.5%
トヨタ自動車(中国)投資 19.5%
工場 第1工場
天津市西青区
第2工場
天津市経済
技術開発区
第3工場
(同左)
成都工場 長春工場
(旧 
長春一汽豊越汽車)
広州市   
第1ライン 第2ライン
生産開始 2002/10 2005/3 2007/5 2000/12 2003/10 2006/5 2009/5
生産車種 VIOS、
カローラ
クラウン 新型カローラ コースター、
プリウス
ランドクルーザー カムリ、
ヤリス
ハイランダー、
カムリハイブリッド
生産能力 12万台 10万台
15万台(将来)
20万台 1万3千台 1万台 20万台 16万台

なお、日産自動車の中国の活動拠点は以下の通り。

社名 東風汽車有限公司 鄭州日産汽車
設立 2003年 1993年
出資比率 日産自動車 50%
東風グルー プ 50%
当初
 日産自動車
30%
 投資会社「中信汽車」 35%
 トラックメーカー 「鄭州軽型汽車」 35%

2005年 
 東風汽車有限公司 100%
工場 湖北省
十堰市

湖北省
襄樊市 
広東省
広州市
花都工業地区
河南省鄭州市
生産車種 バス、
大型商用車、
中型商用車
ティアナ、
ライトトラック、
ミニバン
ティーダ、
シルフィ、
リヴィナ、
キャシュカイ、
エクストレイル
パラディン、
ピックアップ
生産能力   10万台 36万台
→60万台(2012)
8万台
2010年第二工場スタート +12万台

ホンダの四輪車製造工場は以下の通り。

社名 広汽本田汽車有限公司 本田汽車(中国)有限公司 東風本田汽車有限公司
出資比率 ホンダ 50%
広州汽車  50%
ホンダ 65%
広州汽車 25%
東風汽車 10%
ホンダ 50%
東風汽車 50%
工場 広州市
黄埔工場
広州市
増城工場
広州市
輸出専用工場
武漢市
第一工場
武漢市
第二工場
生産能力 24万台 12万台 5万台 24万台 0→6万台
 
(2012)

 


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6月19日の記事に以下のコメントをいただいた。

ワックスマン(正しくはJoe Barton)議員の「ゆすり」発言については、正直、少し同意しますよ。法的な裏づけもなく 200億ドルの拠出を要請というのは…。じゃあ、なんで油濁法の賠償上限なんてものがあるんだ、という話です。法律の不備に対しては、政府が責任を負うのが筋でしょう。実際、今回の掘削プランは、「だいたいは」総務省のMMSが承認した通りなのに…。

米国油濁法(Oil Pollution Act of 1990 )の問題と、米内務省のMinerals Management Service(鉱物資源管理局=MMSの認可責任の問題である。

1)米国油濁法

三井物産の損害負担について、「米国油濁法による賠償限度額」というブログで、以下の通り記載されている。
 
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=FN&action=m&board=1008031&tid=bb00fjaabbba&sid=1008031&mid=43474

「米国には中小の石油会社がたくさんあり、油濁事故を起こした石油会社の倒産を防ぐため、油濁法により損害賠償の限度額が定められています。その限度額は 7500万ドル(70億円)で・・・

今回の被害の原因は非常時に緊急バルブ(防憤装置)がまったく作動しなかったことによるものですから,メンテナンスを請け負っているTransocean や、緊急バルブを納入したCameron International、掘削泥水の操作を行っていたM I Swacoにも法的責任が発生し、これらの会社も賠償責任を負うことになると三井物産の負担割合はもっと下がってきます。・・・」

(この中で「三井物産の負担が7%」とあるのは、三井物産が、権益の10%を持つ三井石油開発の69.91%株主であるため)

19893月のExxon Valdezの事故を機に、米国で油濁防止に関する関心が高まり、19908月に米国油濁法(Oil Pollution Act of 1990OPA 90)が成立した。
これにより、全てのタンカーはダブルハル(二重底および二重船側)が義務付けられた。

このなかで、損害賠償の限度額が決められ、これを超えた分をカバーするために油濁基金(Oil Spill Liability Trust Fund )が創られた。

 損害賠償の限度額は以下の通り。
 今回の事故の場合の限度額は、全ての回収費用+
$75,000,000 となる。

タンカー 次の大きい方
(1)gross ton 当たり$1,200
(2)3,000gross ton以上の場合 
$10,000,000
  それ以下の場合  $2,000,000
他の船 gross ton 当たり$600か、$500,000の大きい方
offshore facility all removal costs $75,000,000
onshore facilitydeepwater port $350,000,000

 油濁基金(Oil Spill Liability Trust Fund)には、米国で操業する石油会社が生産量+輸入量に対して
 1バレル当たり
8セントを納入する。

ホワイトハウスもこの規定は認識しているが、国民の怒りを利用して、BPに200億ドルの基金創設を認めさせた。

Exxon Valdezの場合、裁判で賠償額が決められたため、長期間の争いの後に賠償額が大幅に引き下げられたケースや、裁判での決着を見ずに亡くなった人が多数あった。

今回は漁業やレストラン、観光など、被害を受けた企業や個人は膨大で、被害は何年も続くため、裁判となれば、それまでに企業は倒産し、個人は生活の糧を失う。
このため、裁判によらず、第三者の査定により企業や個人を救済する必要があった。

ホワイトハウスも、あらゆる場合に全額をBPなどに負担させるとはしていない。

ホワイトハウスは近く、議会に緊急対策のための歳出法案を提出する。
同法案で、賠償責任額の上限額を
7500万ドルから100億ドルに引き上げ、BPにも適用するとされている。

また、同法案では油濁基金への納入を今年から1ガロン当たり9セントへと、1セント増やし、2017年からは10セントへ引き上げる。

賠償限度を100億ドルに引上げた上で、それを超える分を油濁基金の今後の増加額で補うという考えである。

このうち、新上限額をBPに適用するのは問題である。上記のブログでは以下の通り述べている。

「オバマさんがいくら頑張っても,罪刑法定主義の原則からみて、法案が改正される以前の事故にこの金額が適用される見込みはほぼありません。」

新上限額の遡及適用は別として、上限額引き上げ自体は通る可能性が強い。

これまで共和党は引上げに反対していたが、Joe Barton議員の「ゆすり」発言で反対できなくなった。

限度額が低いことが、BPに無謀なやり方を取らせ、事故の原因になったとの意見が強い。

ホワイトハウス報道官は、「Barton議員の発言は個人の発言ではなく、共和党の考え方を反映したものであり、11月の中間選挙で国民が判断するだろう」と述べた。

以上のとおり、油濁法では損害賠償の限度額が決められており、改正での遡及適用も無理筋である。
このため、油濁法以外の法律を適用して、責任を追及するべきだとの意見も出ている。

但し、油濁法の規定では、限度額は以下の場合には適用されず、基金の資金も利用できないとなっている。

(A) gross negligence or willful misconduct (重大な過失、意図的な違法行為), or
(B) the violation of an applicable Federal safety, construction, or operating regulation

このため、今回の事故が重大な過失、意図的な違法行為、規則違反が原因とされた場合、損害賠償の限度額はない。
これまでの下院の委員会の調査では規則違反や重大な過失の疑いが出ている。

この場合、事前に政府に提出した文書に基づき、権益保有者がまず連帯して負担し、分担は権益保有者と他の責任者の間で決めることとなる。
3社間の契約がどうなっているかによるが、例えBPに重大な過失があった場合でも、他の権益者が完全に責任を免れるかどうかは不明である。
恐らくは裁判で決めることとなろう。

Anadarkoは負担を避けるため、BPの責任であるという声明を出したが、BPのwillful misconduct を主張する訴訟を準備中と報道されている。
BPAnadarkoを訴える準備をしていると報道されたが、BPではまだ決めていないとしている。

なお、BP自身は油濁法の7500万ドルの限度と関係なく支払うこと、石油漏洩の結果生活手段をうしなった人に、仕事に復帰するまでは補償を続けるとしている。

BP does not believe that the $75 million cap in the OPA '90 statute is relevant.

We intend to continue replacing this lost income for those impacted for as long as the situation prevents them from returning to their work.

2)Minerals Management Service (MMS)

オバマ大統領は6月15日、元連邦検事補 Michael BromwichMMSの新長官に指名し、以下の通り述べた。

10年以上前から、石油会社とMMSとの癒着した関係がチェックされずにきた。
その結果、安全な計画だからというのでなく、石油会社が安全を保障しているというだけで採掘許可が出された。
これからはこんなことは許されない。

大統領は先月には、「石油業界と政府の監督官との癒着は規制がほとんど、又は全くないとの同じだ」とし、MMSを3つの部門に分割することを発表している。

このように業界との癒着が問題になり、6月2日にはメキシコ湾での掘削の安全規則を厳密にするとの発表がなされているにも係らず、MMSはその後に少なくとも5件の新しい掘削を承認し、そのうち3件は環境評価が免除されていることが明らかになった。

業界とMMSとの癒着は事実であり、大統領も認めているが、それを理由に米国政府が補償を負担すべきだとの主張は全く出ていない。


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新成長戦略

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政府は6月18日の閣議で、2020年度までの新成長戦略を閣議決定した。
http://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/sinseichou01.pdf

政府は2009年12月に新成長戦略の基本方針を決定しており、今回はその具体策にあたる。

新成長戦略では、「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」を実現するとし、以下の通り述べている。

我国の経済政策の呪縛となってきたのは、産業構造・社会構造の変化に合わない二つの道による政策の失敗であり、第三の道による建て直しを図る。

第一の道:公共事業中心の経済政策
60年代、70年代の高度経済成長の時代には、経済成長の原動力となった。
90年代以降は既得権保護のためのばら撒きの継続で、不況対策としても行われた公共事業の拡大は、有効な効果を上げなかった。

第二の道:行き過ぎた市場原理主義に基づき、供給サイドに偏った生産性重視の経済政策
多くの人が失業する中で、国民生活は更に厳しくなり、デフレが深刻化している。

「第三の道」は、経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげようとする政策であり、その実現のための戦略が、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体的実現に主眼を置く「新成長戦略」である。

「新成長戦略」では、「グリーン・イノベーション」、「ライフ・イノベーション」、「アジア経済」、「観光・地域」を成長分野に掲げ、これらを支える基盤として「科学・技術・情報通信」、「雇用・人材」、「金融」に関する戦略を実施する。

ーーー

「新成長戦略」のマクロ経済目標は以下の通り。

 ・名目成長率3%、実質成長率2%を上回る成長
 ・2011年度中に消費者物価上昇率をプラスに転換(デフレ終結)
 ・早期に失業率を3%台に低下

7つの戦略分野の目標は以下の通り。

参考 

経済産業省の「産業構造ビジョン 2010」では、
① インフラ関連/システム輸出  (原子力、水、鉄道等)
② 環境・エネルギー課題解決産業 (スマートグリッド、次世代自動車等)
③ 医療・介護・健康・子育てサービス
④ 文化産業立国 (ファッション、コンテンツ、食、観光等)
⑤ 先端分野(ロボット、宇宙等)を
「戦略5分野」とし、2020年までに149兆円の市場と258万人の雇用の創出を目指すとしている。

   2010/6/4 「産業構造ビジョン 2010」

(1) グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略
     
   
【2020 年までの目標】 
                                    
50兆円超の環境関連新規市場                             
140万人の環境分野の新規雇用
日本の民間ベースの技術を活かした世界の温室効果ガス削減量を13 億トン
(日本全体の総排出量に相当)以上とする。
     
(2) ライフ・イノベーションによる健康大国戦略
     
   
【2020 年までの目標】

・医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出
  新規市場約50兆円、新規雇用284万人

     
(3) アジア経済戦略
     
   
【2020 年までの目標】

・アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築
・アジアの成長を取り込むための国内改革の推進、ヒト・モノ・カネの流れ倍増
・「アジアの所得倍増」を通じた成長機会の拡大
     
(4) 観光立国・地域活性化戦略
     
  観光立国
   
【2020 年までの目標】

・訪日外国人を2020年初めまでに2,500万人、将来的には3,000万人。
  2,500万人による経済波及効果約10兆円、新規雇用56万人
     
  地域活性化
   
【2020 年までの目標】

・地域資源を最大限活用し地域力を向上
・大都市圏の空港、港湾、道路等のインフラの戦略的重点投資

     
  農林水産分野の成長産業化
   
【2020 年までの目標】

・食料自給率50%
・木材自給率50%以上
・農林水産物・食品の輸出額を2.2 倍の1兆円(2017 年まで)
     
  住宅政策への転換
   
【2020 年までの目標】

・中古住宅流通市場・リフォーム市場の規模倍増
・耐震性が不十分な住宅割合を5%に
     
(5) 科学・技術・情報通信立国戦略
     
   
【2020 年までの目標】

・世界をリードするグリーン・イノベーションとライフ・イノベーション
・独自の分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数の増
・理工系博士課程修了者の完全雇用を達成
・中小企業の知財活用の促進
・情報通信技術の活用による国民生活の利便性の向上、生産コストの低減
・官民合わせた研究開発投資をGDP比4%以上
     
(6) 雇用・人材戦略
     
   
【2020 年までの目標】

・20~64 歳の就業率80%、15 歳以上の就業率57%
・20~34 歳の就業率77%
・若者フリーター数124 万人、地域若者サポートステーション事業によるニートの進路決定者数10 万人
・25 歳~44 歳までの女性就業率73%、
 第1子出産前後の女性の継続就業率55%、
 男性の育児休業取得率13%』、
・60 歳~64 歳までの就業率63%
・障がい者の実雇用率1.8%、国における障がい者就労施設等への発注拡大8億円
・ジョブ・カード取得者300 万人、大学のインターンシップ実施率100%、
 大学への社会人入学者数9万人、専修学校での社会人受入れ総数15 万人、
 自己啓発を行っているの労働者の割合:正社員70%、非正社員50%
 公共職業訓練受講者の就職率:施設内80%、委託65%
・年次有給休暇取得率70%、週労働時間60 時間以上の雇用者の割合5割減
・最低賃金引上げ:全国最低800 円、全国平均1000 円
・労働災害発生件数3割減、メンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の割合100%、
 受動喫煙の無い職場の実現

これらの目標値は、内閣総理大臣主宰の「雇用戦略対話」において、労使のリーダー、有識者の参加の下、政労使の合意を得たもの。
また、これらの目標値は、「新成長戦略」において、「2020 年度までの平均で、名目3%、実質2%を上回る成長」等としていることを前提。

・誰もが安心して子どもを産み育てられる環境の実現による出生率の継続的上昇を通じ、
 人口の急激な減少傾向に歯止め
・速やかに就学前・就学期の待機児童を解消
・出産・子育ての後、働くことを希望するすべての人が仕事に復帰
・国際的な学習到達度調査で常に世界トップレベルの順位へ
     
(7) 金融戦略
     
   
【2020 年までの目標】

・官民総動員による成長マネーの供給
・企業のグローバルなプレゼンス向上
・アジアのメインマーケット・メインプレーヤーとしての地位の確立
・国民が豊かさを享受できるような国民金融資産の運用拡大
     

そして、21世紀の日本の復活に向けた21の国家戦略プロジェクトをあげた。

強みを活かす成長分野 グリーン・イノベーションにおける国家戦略プロジェクト 「固定価格買取制度」の導入等による再生可能エネルギー・急拡大
「環境未来都市」構想
森林・林業再生プラン
ライフ・イノベーションにおける国家戦略プロジェクト 医療の実用化促進のための医療機関の選定制度等
国際医療交流(外国人患者の受入れ)
フロンティアの開拓による成長 アジア展開における国家戦略プロジェクト パッケージ型インフラ海外展開
<p><p><p>HTML clipboard</p></p></p>法人実効税率引下げとアジア拠点化の推進等
グローバル人材の育成と高度人材等の受入れ拡大
知的財産・標準化戦略とクール・ジャパンの海外展開
アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を通じた経済連携戦略
観光立国・地域活性化における国家戦略プロジェクト 「総合特区制度」の創設と徹底したオープンスカイの推進等
「訪日外国人3,000 万人プログラム」と「休暇取得の分散化」
中古住宅・リフォーム市場の倍増等
公共施設の民間開放と民間資金活用事業の推進
成長を支えるプラット・フォーム 科学・技術・情報通信立国
における国家戦略プロジェクト
「リーディング大学院」構想等による国際競争力強化と人材育成
情報通信技術の利活用の促進
研究開発投資の充実
雇用・人材分野における国家戦略プロジェクト 幼保一体化等
「キャリア段位制度」とパーソナル・サポート制度の導入
新しい公共
金融分野における国家戦略プロジェクト 総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設を推進

「法人実効税率引下げとアジア拠点化の推進等」において、法人税率について、以下の通り述べている。

日本に立地する企業の競争力強化と外資系企業の立地促進のため、法人実効税率を主要国並みに引き下げる。その際、租税特別措置などあらゆる税制措置を抜本的に見直し、課税ベースの拡大を含め財源確保に留意し、雇用の確保及び企業の立地環境の改善が緊急の課題であることも踏まえ、税率を段階的に引き下げる。

「主要国並み」とは25%程度を想定しているが、引き下げ時期などは明示しておらず、今後の政府税制調査会などでの議論にゆだねる。

最後に、成長戦略実行計画(工程表)をあげている。


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オバマ大統領は6月16日、BP首脳陣と会談し、BPが原油流出事故の補償コストをカバーする200億ドルの基金の創設すること、200億ドルの資金は第三者機関の管理するエスクロー勘定に入金されることで合意した。

本ブログでは、今後、関係者の間で、損害の負担が問題になると述べた。

事故を起こした鉱区Mississippi Canyon 252の権益保有者は以下の通り。

 BP Exploration and Production Inc.  65.0% (Operator
 Anadarko  25.0%
 三井石油開発   10.0%

2010/6/17 メキシコ湾石油流出事故の損害負担 

 

米下院エネルギー・商業委員会小委員会は6月17日、原油流出事故に関し、BPのTony Hayward CEOを招き公聴会を開催した。公聴会は中断を挟みながら7時間超に及んだ。

CEOは冒頭、「深いおわび」を表明したものの、後は議員の追及に「調査中だ」「知らない」などと繰り返した。

世界中で数百の掘削を行っており、本油田に関しては、事故が起こるまでは全く知らなかったとした。

同委員会の調査では、事故発生直前に技師が電子メールで「悪夢のような油井」と指摘していたことが判明。工期や工費を節約するために簡便な設計を採用した疑いが浮上した。

リグ関連サービスを提供する米ハリバートンからの「セントライザー」をほとんど使用していないとする警告を、BP幹部が「多分大丈夫だろう」として無視していたことが示された。

民主党のヘンリー・ワックスマン議員が、BPは最も極端なリスクを取り、コストや時間を省こうとしたことが事故につながったと非難した。

なお、共和党 のJoe Barton下院議員(テキサス州選出)が200億ドルの合意について、「shakedown=ゆすり」とし、「法的地位がなく、将来にとって恐ろしい前例になる」などと指摘、BP会長に謝罪した。
石油業界をバックとする同議員は、今後、これが前例になることを恐れる業界の懸念を代弁したとみられる。

これに対し、猛烈な反発が起こり、議員は発言を取り消し、謝罪した。

席上、Hayward CEO は米政府が「four responsible parties」を挙げていると述べた。
BPのほか、権益保有者の
Anadarko と三井石油開発及び掘削作業担当のTransoceanとされる。

ーーー

Moody's は61825%の権益を保有するAnadarkoの長期債格付けをBa1 からBaa3 に落とし、更に引き下げの可能性があるとした。 
これに対し、Anadarkoは懸念は分かるが、格下げは時期尚早であると反論、同日、以下の声明を発表した。

多くの証拠が、この悲劇が避けられたものであり、BPの無謀な決断と行動の直接の結果であることを、明白に示している。

最近の調査と議会の公聴会で明らかにされた事実、即ち、BPが安全を無視して作業し、いくつかの重要な警告のサインに気づかず、対応しなかったこと、にショックを受けている。
BP
の行動は重大な過失、意図的な違法行為である。

この鉱区の共同操業協定では、BPはオペレーターとして適切に、法や規則を遵守して、掘削を行う義務がある。
また、
BPは重大な過失、意図的な違法行為による損害について、他の権益保有者に対し責任がある。

連邦法の規則では、権益保有者は石油漏洩に対し責任を負うが、BPが全ての法的請求に対し支払いを続けることを求める。

なお(BPがさきに述べたように、)同社も、同油田から回収された油からの収入を寄付する。

これに対し、BPは19日に反論を発表した。

Anadarko の「重大な過失、意図的な違法行為」との主張に強く異議を唱え、責任回避の主張を認めない。

BP以外の権益保有者も石油漏洩から起こるコストと損害に対して責任がある。他の当事者が責任を果たすことを期待する。

最終的にいろいろの関係者の間でどのように損害を分担するかに関係なく、BPとしてはクリーンアップを行い、損害賠償を行っていく。

共同操業協定では、BPはオペレーターとして作業を行う責任を有するが、権益保有者は、石油漏洩のクリーンアップを含む作業のコストを権益比率で負担することとなっている。

更に全ての権益保有者は米連邦政府に対し、Oil Pollution Act of 1990の規定に基づき、他の関係者とともに、漏洩した石油の回収コストと被害について、連帯して責任を持つとの書類を提出している。

ーーー

話題

BPは6月18日、俳優のKevin Costnerが投資、開発してきた原油分離器V20を32台購入することを決めた。

Costnerの会社 Ocean Therapy Solutionsと契約したもので、1台約50万ドル。
汚染された海水を1台当たり1日21万ガロン吸い上げ、遠心分離の原理で99%近く原油と水に分離できるとしている。

Costnerはこの技術を17年にわたり開発を続け、彼自身の金を20百万ドル以上、投入したという。

 


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公正取引委員会は6月9日、シャッターの製造業者らに対し、全国及び近畿地区において独禁法の規定に違反する行為を行っていたとして、排除措置命令と課徴金納付命令を行った。

課徴金額 (千円)
  全国 近畿 課徴金
 合計
排除 課徴金 排除 課徴金
三和シャッター工業   2,516,150  258,990  2,775,140
文化シャッター工業 1,781,670 244,250 2,025,920
東洋シャッター工業 525,490 154,830 680,320
三和HD       40,260 40,260
合計   4,823,310   698,330 5,521,640

このうち、文化シヤッターは公取委から立ち入り検査を受けた直後、課徴金減免制度に基づいて違反を申告したが、公取委は申告に虚偽があり、「調査妨害に等しい意図的な申告」と判断し、適用見送りに踏み切ったとされる。

文化シヤッター側は検査直後、全国販売でのカルテルは事実関係を争う一方、近畿地区での販売価格などを調整するメーカー間の会合に同社幹部が出席したことを認めるとした資料などを、課徴金減免制度に基づいて提出した。
ところが、その数か月後、会合の存在自体を否定するなど、申告内容を全面修正した追加資料を公取委に再提出したという。

課徴金減免制度の不適用は初めてのケース。

独禁法第7条の2の17では、以下の場合に課徴金減免制度を適用しないとしている。

  ・報告又は提出した資料に虚偽の内容が含まれていたこと。
  ・求められた報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたこと。
  ・他の事業者に対し違反行為をすることを強要し、又は当該違反行為をやめることを妨害していたこと。

三番目のケース:
強要を行ったかどうかは、他の事業者に対して何らかの圧力をかけることによって、事業者がカルテル・入札談合に参加せざるを得なくなったかどうかで判断される。
例えば、他の事業者に、カルテルに参加しなければ事業者団体から各種の有益な情報を一切得られないようにする旨を告げることで、参加せざるを得なくなった場合など。
他の事業者が違反行為をやめることを妨害することについても基本的には同じ考え方。
(公取委Q&A)

ーーー

これらのシャッターメーカーは、1977年と1989年にカルテルで勧告を受けている。

1) 1977年3月29日
    3社及び他5社は近畿地区におけるシャッターの見積価格、値引き限度及び受注予定者の選定方法を決定し、これを実施。
     
2) 1989年4月25日
  3社及び他1社は共同して、九州地区における軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格を引き上げ。
  3社及び他2社は共同して、千葉地区における大手建設業者等向け重量シャッターの販売価格を維持し、引き上げ。
  3社及び他4社は共同して、富山地区における軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格を維持し、引き上げ。

 


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ダウは617日、投資会社Bain Capital Partnersへの16.3億ドルでのスタイロン事業売却が完了したと発表した。

Styronは合成樹脂・合成ゴム・ラテックスを扱う株式非公開のグローバルな会社となり、ダウは同社に7.5%を出資する。ダウとスタイロンの間には長期の供給契約やサービス契約が結ばれる。

ダウは本年32日に、スタイロン事業を Bain Capital Partners16.3億ドルで売却する契約を締結したと発表した。この中では、ダウは新会社に15%まで出資するオプションを持つとしていた。
   2010/3/3 
速報 ダウ、スチレン系事業を売却

 

付記
Styron will change its name to Trinseo, effective in late 2011.

Styronの社名はスチレン系からきているが、同社はSMやPSを今後も中心とはするが、それ以外にも展開する計画であり、社名を変更する。

TrinseoはIntrinsic(「固有の」、「本質的な」、「内在する」)から取った。
同社の製品や技術が、需要家の製品にintrinsic な役割を果たし、需要家の成功に不可欠なものになるという意味。

なお、PSの商標は従来通り Styron を使用する。

 

売却事業は2009年に37億ドルの売り上げがあり、世界各地の13カ国20箇所に工場を持ち、従業員は30カ国に約2000人。

含まれる製品は以下の通り。
 PS、ABS、SAN、EPS
 エマルジョンポリマーstyrene butadiene latex, terpolymer, acrylic latex)
 PC、PCコンパウンド
 合成ゴム(Low Cis BR、High Cis BR、E-SBR、S-SBR)
 自動車用プラスチック
 スチレンモノマー(数工場)

同社は2007年にChevron PhillipsとのSM/PSの50/50JVAmericas Styrenicsを設立、米国と南米のPS工場を拠出したが、この持分も売却対象に含まれる。

ーーー

ダウはロームアンドハース買収のための借入金返済のため、多くの事業を売却してきた。

ダウの Liveris CEOは、今回の売却で非戦略事業売却で50億ドルを確保するという目標を5四半期で達成したとし、この資金で借入金を返済するとともに、より成長力があり、より高収益の事業への投資を行うと述べた。

主な売却は以下の通り。

  ・R&H子会社のMorton Salt 売却(17.0億ドル)
 ・塩化カルシウム事業の
Occidental Petroleumへの売却(2.1億ドル)
 ・
Total とのJVTotal Raffinaderij Nederland N.V. Total への売却(7.25億ドル)
 ・Petronas とのJVのOptimal グループ3社の持分のPetronas への売却(6
.6ドル) 
 ・スタイロン(16.3億ドル)


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カネカは6月17日、ベルギーのバイオテクノロジー企業であるEurogentecと提携し、新たにバイオ医薬関連事業を積極展開すると発表した。
同社株式の過半数を約40億円で取得し、バイオ医薬関連事業の売上高として10年後に約300億円を目指す。

バイオ医薬は、微生物培養技術、遺伝子組み換えや細胞融合の技術などのバイオテクノロジーにより創られたペプチド、タンパク、核酸などにより構成される医薬品。

Eurogentecは、1985年にリエージュ大学マーシャル教授等により設立され、バイオテクノロジーをベースとした事業分野で20年以上の経験と実績がある。
現在、日米欧に製造販売拠点を有し、タンパク、核酸、ペプチドの3つの事業分野おいて医薬・診断薬の受託製造や研究試薬の販売を行っている。

日本では、遺伝子工学研究用試薬、体外診断用医薬品、検査・診断試薬の開発及び製造を行うニッポンジーンとEurogentecとのJV2001年設立)のニッポンイージーティー(Nippon EGT)で、研究、診断、検査用のオリゴヌクレオチドのカスタム合成サービスを行っている。

ニッポンイージーティーは、Eurogentecのアジアにおけるオリゴヌクレオチドの生産拠点となっている。

ーーー

カネカはこれまで、独自の技術をベースに、医薬バルク・中間体の事業を主力事業の一つとして展開してきたが、新薬承認数も減少傾向にあり、画期的な医薬を創出することが次第に難しくなってきている。

カネカのライフサイエンス部門製品は以下の通り。

医薬品:グルタチオン、ユビデカレノン、半合成ペニシリン中間体、
     血圧降下剤力プトプリル中間体、エナラプリル型血圧降下剤中間体、
     カルバペネム系・ペネム系抗生物質中間体、
     血圧降下剤力プトプリル中間体、エナラプリル型血圧降下剤中間体、
     カルバペネム系・ペネム系抗生物質中間体

機能性食品素材:コエンザイムQ10、還元型コエンザイムQ10、
           カネカ・グラボノイド

血管内治療用カテーテル、血液浄化システム

ライフサイエンス部門の2010年3月期の売上高は392億円(前年比 -7億円)、営業利益は45億円(前年比 -14億円)となっている。

これに対しバイオ医薬は微生物培養の技術などを用い、これまでにない疾患に有効な新薬を作り出せる可能性が高いこと、また生体内にある物質を利用することにより、低分子薬より安全性が高く、副作用も少ない利点があり、近年市場が大きく成長してきている。

カネカでは、長年培ったバイオ技術を活かし、比較的早くから微生物系培養のタンパク医薬製造の基礎技術開発や、次世代抗体医薬である低分子化抗体の生産技術開発などにも取り組んできたが、自社の微生物培養を始めとする独自のバイオ技術力と、Eurogentecのこれら事業基盤を組み合わせることにより、バイオ医薬関連事業の早期育成が図れると判断した。
今後はタンパク医薬受託事業における大型プラントの新設や核酸分野への展開強化も進め、事業の飛躍的拡大を図る。

ーーー

カネカは2006年12月、100%出資子会社でファインケミカル製品の受託生産会社である大阪合成有機化学研究所がジェネリック医薬品分野への積極的な事業展開を進めると発表している。
カネカは同社を2002年7月に買収した。

ーーー

カネカは、2009年の創立60周年を機に策定した長期ビジョン「KANEKA UNITED宣言」の中で、「健康」を重点戦略分野の一つとして位置づけ、「人々の健康や医療・介護に貢献できる素材や製品の創出を目指す」としている。

ーーー

付記

カネカは10月19日、バイオベンチャー企業のジーンフロンティアを実質買収し、100%子会社化すると発表した。

ジーンフロンティアは2003年に、ゲノム創薬支援のためのサービス・製品提供を目的に、IT事業創出会社のITXが80%、残りを、総合臨床検査センターのBMLと「ニッチトップ」を目指すインフォコムが各10%出資して設立された。

独自の抗体作製技術を持つドイツのバイオ企業MorphoSys AGと、日本での独占的業務提携に関する契約を締結、2004年9月から抗体事業に本格参入した。

抗体とは、体内で特定の異物(抗原)に結合して、その異物を体内から排除するように働くタンパク質のこと。
モノクローナル抗体は1個の抗体産生細胞が増殖して生じた均一な細胞群によって生産された抗体で、特定抗原決定基のみを認識する。

MorphoSysが開発した完全ヒトモノクロナール抗体作製技術を用いた、バイオ研究者向けのカスタムモノクロナール抗体作製サービスを提供するほか、製薬会社等に対して、MorphoSysの抗体医薬開発に関する技術ライセンス、共同研究、共同開発の斡旋も行っている。

カネカはジーンフロンティアのカスタムモノクローナル抗体の作製サービス事業を継続しつつ、新たな研究開発支援事業の立ち上げや、スキャフォールド(低分子化した抗体よりさらに小さい分子で、抗体と同様の機能を有する分子)などの次世代バイオ医薬の探索技術の開発を強化する。

同社は同社、Eurogentec、ジーンフロンティアの総力を結集し、提案型のバイオ医薬受託製造のビジネスモデルを確立し、バイオ医薬関連事業の売上高として10年後に約300億円を目指すとしている。



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メキシコ湾石油流出事故への対応は油田の権益の65%を有し、オペレーターであるBPが窓口となり、当面の損害はBPが負担し支払いを行っている。

2010/6/8 BPの原油流出事故のその後 

これまでに原油の回収や賠償などで同社が負担した額は6月14日時点で16億ドルとなっており、株価下落で、事故直前に約17兆円あった時価総額は14日時点で約9兆円と、ほぼ半減した。

株格付け会社フィッチ・レーティングスは6月15日、BPの格付けをそれまでの「ダブルA」から「トリプルB」まで一気に6段階引き下げた。これは「投機的」とするレベルよりも2段階上の水準で、補償への圧力の強まりを受けてのもの。

オバマ米大統領は6月15日の午後8時に大統領執務室から国民向け演説を行い、次のように述べた。
1)総力を挙げてクリーンアップに取り組む。
2)明日BPの会長に会うが、被害を受けた個人、企業への補償に必要な資金を確保するよう要請する。「法的な請求が公正に支払われることを明確にするため、口座は独立した第三者が管理しなければいけない」
3)再発防止に取り組むが、石油依存から脱却し、クリーンエネルギーの開発強化を進める。
 http://www.whitehouse.gov/the-press-office/remarks-president-nation-bp-oil-spill

なお、米上院民主党のリード院内総務は、BPのCEOに対し、被害者救済や原油の清掃作業の費用として、200億ドルを特別口座に確保しておくよう求める書簡を多数の民主党上院議員との連名で送っている。

オバマ大統領は16日、BP首脳陣と会談した。
その結果、BPが原油流出事故の補償コストをカバーする200億ドルの基金の創設することで合意したことを明らかにした。

大統領は、200億ドルの資金は第三者機関の管理するエスクロー勘定に入金されると述べるとともに、200億ドルは賠償額の上限ではないと説明した。

BPは2010年第3四半期にまず30億ドル、第4四半期に20億ドルを払い込み、残りを四半期ごとに12.5億ドルずつ支払う。

この結果、BPは配当政策を見直し、既に発表済みの6月21日予定の第1四半期配当を取り止め、第2、第3四半期の配当も取り止める。
(同社は年間105億ドルの配当を予定していた。)

ーーー

現在のところ、BPだけが表面に出ているが、事件が落ち着いた時点では、当然、事故の責任や損害の負担が大きな問題となる。
この事業の10%の権益を持つ三井石油開発も負担を強いられる可能性がある。

この事件の関係者は以下の通り。

1)鉱区Mississippi Canyon 252の権益保有者

 BP Exploration and Production Inc.  65.0% (Operator
 Anadarko E&P Company LP  22.5%
 Anadarko Petroleum Corporation  2.5%
 MOEX Offshore 2007 LLC  10.0%

Anadarko Petroleum は米国の大手独立系石油・天然ガス会社で、2009末の確認埋蔵量は石油換算23バレル。
同社は
2006年に、米国の独立系石油企業であるKerr-McGee及びWestern Gas Resoucesを買収し、独立系企業では世界最大の確認埋蔵量を誇る企業となった。

MOEX Offshore 2007 LLC は三井石油開発の100%子会社のMOEX USA の子会社。
三井石油開発は本事業に参加するため、2007年6月29日にBP社と
Acquisition and Participation Agreementを締結した。

「本探鉱事業へ参画は、当社にとり米国における更なる事業拡大を図る好機であり、大規模ガス田の発見に至れば、複数のコア事業構築に向けた大きな布石となるものと期待されます」としていた。
当時は権益比率をBP社75%/三井石油開発15%/その他10%となる予定としていた。

三井石油開発は1969年7月に設立された。現在の出資者は以下の通り。

  三井物産  69.91 %
  経済産業大臣 20.03  
  三井不動産 1.94  
  新日鉄エンジニアリング 1.53  
  国際石油開発帝石 0.92  
  極東石油工業 0.85  
  新日本石油 0.77  
  ジャパンエナジー 0.69  
  日本製鋼所 0.69  
  三井造船 0.58  
  カネカ 0.54  
  昭和シェル石油 0.42  
  東京電力 0.38  
  東亞合成 0.30  
  日揮 0.23  
  東洋エンジニアリング 0.23  

同社はタイ・ベトナム・カンボジア地域をコアエリア事業とし、アメリカ、中東・アフリカ(オマーン、エジプト、リビア)、インドネシアを第二のコア事業構築を図るフォーカスエリアとしている。
また、タイではオペレーターとして事業を行っている。
アメリカでは本事業のほか、三井物産と組んで、
Anadarko Petroleum Marcellus Shale Gas事業への参画を決めた。

2)Deepwater Horizon rig 関連
  ・設計:
R&B Falcon
  ・建設:韓国の現代重工業
  ・所有:
TransoceanR&B Falconを買収)
  ・リース:
BP Exploration and Production

  ・コントラクター 
    
Transocean:掘削作業
    
Halliburton:セメント作業(井戸内、または井戸と鉄管との間のセメント作業)
    
M-I SWACOSchlumbergerSmith InternationalJV):Drilling Fluid (mud)サービス

  ・Blow Out Preventor(BOP)の製造:Cameron International Corporation

ーーー

Morgan Stanley 4月30日に本件に関して電話会議を主催した。
http://www.ogfj.com/index/article-display/2323778238/articles/oil-gas-financial-journal/e-__p/offshore/Gulf_of_Mexico_oil_spill.html

その結論は、オペレーターのBPと他の権益保有者(Anadarko と三井石油開発)が損害の大部分を負担することとなろうというものである。

その他のコメント:
M-I SWACOCameron International は責任はない。
  
BOPは今回作動しなかったが、10年前にTransoceanが購入したもので、メンテはTransoceanの責任。

Transoceanの責任は限定的で、保険の範囲内。

セメント作業のHalliburton は責任はない。
 


他の報道によると、同社は掘った穴(1600mの海底から更に3800m)に通したパイプをセメントで固定するため、特殊資材を21本使うよう提案したが、BPは時間がかかるとして6本に減らした。
また、BPは規制で定められたセメントの固定検査も省略したという。

掘削施設のリース料だけで1日50万ドルがかかり、事故発生時点で43日間の工期の遅れがあり、焦りがあった。

ーーー

この結論は、過去の例などから妥当とされる。

但し、BPが既存のガイドラインや実務の国際標準に従っておれば事故は避けられた可能性が強く、BPのオペレーターとしての責任は大きい。

このため、権益比率での負担とはならないと思われるが、三井石油開発の負担は膨大なものとなる可能性がある。
同社は本事業に保険をかけているが、総額4500万ドルとされる。

BPは本件では保険会社に付保せず、自己保険としている。

「その他のコメント」については事故の原因が不明なため、異論が多い。
特に、BOPがきちんと作動しておれば事故が起こらなかった筈で、BOP所有者のTransoceanにはメンテナンスの責任がある。

なお、米政府は一切の負担を拒否しているが、米当局が一部の指針を免除したことが事件につながった可能性があるとの意見も出ている。


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ブラジルのValeが、日本とブラジルが共同で行っている「アマゾン・アルミニウム事業」(アルミ精錬のAlbrasとアルミナのAlunorte)から撤退する。

同事業を含むアルミ事業とアルミナ事業及びボーキサイト鉱山の権益をノルウェーのアルミ最大手Norsk Hydroに売却する契約を締結した。
Valeは現金11億ドルと、Norsk Hydroの株式の22%を受け取る。これらに7億ドルのJVの債務負担を加えると、合計で49億ドルに相当する。
Norsk Hydroは格付け維持と将来の投資資金確保のため、17.5億ドル相当の増資を行う。

この結果、Norsk Hydroが本年第4四半期に、Albrasの権益51%、Alunorte権益91%と、パラゴミナス鉱山の権益60%及びCAPアルミナ(Para州に建設する計画)の権益81%を保有することになる。
Norsk Hydroはパラゴミナス鉱山の残り権益40%については2分割2013と2015年にそれぞれ2億ドル)で購入するオプションを持つ。

パラゴミナス鉱山は世界3位のボーキサイト鉱山で、現在の年産能力は990万トンだが、CAPアルミナへの供給で1500万トンに拡大する。

CAPアルミナは現在建設中で、第一期能力は186万トンだが、744万トンまでの拡大を検討している。ボーキサイトは主にパラゴミナスから供給を受ける。

Norsk HydroQatarQatar Petroleumとの50/50JVのQatalum(年産585千トン)に参加している。
第2期も検討対象となっている。

2008/6/3 中東のアルミ事業

これらの事業の概要及び経緯は以下の通り。

アルミ事業       アルミナ事業
JV Albras
(Aluminio
Brasileiro)
Alunorte
(Alumina do
Norte do Brasil)
CAP計画
(
Companhia
de Alumina do Pará
)
能力   45万トン   626万トン  186万トン
技術 三井アルミ 日本軽金属  
出資    Vale  51%→0%  57.03%→ 0%  61%→ 0%
日本アマゾンアルミニウム  49%   3.80%  
Norsk Hydro   0%→51%  34.03%→91.06%  20%→81%
Cia Brasileira de Aluminio     3.62%  
ジャパン アルノルテ インベストメント     1.19%  
三井物産     0.23%  
三菱商事     0.10%  
Dubai Aluminium      19%

AlbrasとAlunorteは工場はバルカレーナ市にあり、隣接している。
(CAPも同じバルカレーナ市)

アルミナの原料のボーキサイトは、従来からのトロンベタス鉱山(年600万トン)に加えて、新しくパラゴミナス鉱山が開発され、後者からは年900万トンが輸送用パイプライン(約244km)でスラリー輸送される。

電力はツクルイ水力発電所から供給を受ける。

      日本アマゾンアルミニウムのホームページから

この計画は1973年8月にブラジル政府から要請のあったもので、ブラジル東北部アマゾン河流域の豊富な水力資源とボーキサイトを利用して、ベレン地区に年産能カ80万トンのアルミナ工場(アルノルテ計画)および同32万トン(16万トンx2系列)のアルミニウム製錬工場(アルブラス計画)の建設、運営を行うという計画である。
所要電力は同国政府がツクルイ地区に建設する発電所から供給されることとなっていた。

ブラジル政府から要請のあった2ヵ月後に第一次石油危機が発生した。エネルギーコスト上昇の見通しの中、ブラジルへの経済協力とアルミニウムの長期的な安定供給源確保のため、1976年9月に政府支援が決まり、ナショナルプロジェクトとなった。

1977年に日本側投資会社の日本アマゾンアルミニウムが設立された。
当時精錬5社は経営悪化で出資余力に乏しく、需要家や商社などに出資を求め、民間側32社の出資となった。

現在の出資は以下の通り。
 政府: 国際協力機構(当初は海外経済協力基金) 44.92%
 アルミメーカー: 三井アルミ 8.30%、日本軽金属 7.94%、住友化学 4.59%、
神戸製鋼所 1.84%、昭和電工 0%(←3.21%)
 アルミ需要家: YKK 2.02%、三協立山アルミ 0.92%
 商社: 三井物産 12.57%、三菱商事 5.51%、伊藤忠商事 2.75%、丸紅 2.02%、
住友商事 1.84%、双日 1.84%、豊田通商 0.92%、JFE商事 0.92%
 その他: 日産自動車 1.01%、三井住友海上火災保険 0.09%
   注 昭和電工は3.21%を出資していたが、2005年1月に三井物産に売却

1978年9月にVale(当時の呼び名はRio Doce)との合弁で2つのJVが設立された。
  アルミ精錬 Albras   日本側 49%   所要資金 約13億ドル
  アルミナ   Alunorte 日本側 39.2% 所要資金 約 8億ドル

Albrasの建設工事は1978年に開始され、1985年に第一期16万トンの通電を開始、1986年末にフル生産に入った。
引き続き、1987年に第二期16万トンの建設を開始し、1991年に1-2期合計の実質34万トンがフル操業となった。

しかし、借入金の大半は円建てのため、プラザ合意以後の円高で金融費用が大幅増となり、アルミ市況の低迷もあって事業が困難となった。

このため、追加出資、金利引下げ、返済条件緩和など、両国の官民による二度の支援が行われた。
この一環として日本アマゾンアルミへの協力基金の出資も当初の40%から引上げられた。

一方、Alunorteについては、アルミナの需要減少で国際価格が下落したため、1983年から3年間、建設工事を中断したが、日本アマゾンアルミは1986年末に、建設が4割程度完成していたこの計画から撤退した。
日本側の出資・融資金は全額、同社の議決権のない優先株となった。

Alunorteは1993年にブラジル側のみで新株主を加えて工事を再開、2005年にアルミナ110万トンが生産開始した。

その後、ジャパン アルノルテ インベストメントが出資。
(日軽金 49%、三井アルミ 17%、伊藤忠 17%、三井物産 17%)
2003年に三井物産と三菱商事が新たに出資し、引取権を得た。

なお、Valeは2000年に持株の一部をNorsk Hydroに譲渡した。
Valeは1997年に民営化されたが、コアビジネスを鉄鉱石とロジステックスとした。

その後、2006年に250万トンから440万トンに引上げられたが、同年に総額8億ドルを投じて626万トン(世界第一位の規模)に増強する計画が決まり、日本側も増資に応じた。2008年央に増設が完成した。

ーーー

現在、Albrasで生産されたアルミニウム地金は出資比率相当の49%が日本へ輸出されており、これは日本の輸入量の10%に相当する。

Alunorteのアルミナ626万トンのうち、88万トンがAlbrasにアルミ原料として供給され、残り538万トンは主に輸出されている。


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Abu Dhabi Polymers Company Limited Borouge527日、Borouge Ⅲ計画のEPC契約 (Engineering, Procurement, and Construction Contract)を締結したと発表した。

2系列の第二世代 Borstar PE(HDPE/LLDPE) と PP工場(12.25億ドル)と35万トンのLDPE工場(4億ドル)はイタリアのTechnimontと韓国の三星エンジニアリングのJVに発注した。
また、用役やオフサイト設備(
9.35億ドル)を現代エンジニアリングに発注した。

エタンクラッカー(10.75億ドル)については既に本年5月にLinde Engineering に発注している。

Borouge Ⅲ計画は2013年末の稼動を予定している。

Borouge Abu Dhabi National Oil CompanyADNOC)が 60%Borealis 40% 出資するが、Borealis は実質的にADNOCの子会社。
Borealis ADNOC50%Abu Dhabi Investment Authority/National Bank of Abu DhabiのJVが50%出資するIPIC65%、オーストリアのOMV35%出資している)

Borougeは2009年4月、第三期計画(BorougeⅢ)のFSを完了し、基礎設計エンジニアリング(Front-end engineering and designFEED) に入ることを決めた。

 2009/4/17 UAEBorouge、石油化学第三期計画に着手

立地はRuwaisで、BorougeⅠ、Ⅱに隣接して建設する。
計画内容は以下の通り。(Ⅲのプロピレンソースについては言及がない)

  Borouge
(稼動中)
Borouge
(2010/央 稼動)
Borouge
(2013/末 稼動)
エチレン
(原料エタン)
  600千トン 1,500千 トン 1,500千トン
プロピレン
olefins conversion (OCU)
  752千トン
(世界最大)
 
Borstar HDPE/LLDPE 600千トン 540千トン 1,080千トン
(2系列)
Borstar PP   800千トン
2系列)
960千トン
(2系列)
LDPE     350千トン
ブテン-1 27トン  

今回、LDPEを加えることにより、wire and cable市場の需要増に対応する。

同社はwire and cable市場を重視しており、このたび、BorealisStenungsund工場(スウェーデン)に4億ユーロを投じてwire and cable市場向けの 35万トンの高圧法LDPEを稼動させた。
既存の58万トンのうち、老朽化した23万トンをスクラップし、合計能力を70万トンとする。

ーーー

Borougeは設備増設に加え、中国を中心に販売網の拡大を図っている。

2009年に上海に販売会社(Borouge Sales and Marketing Shanghai Co., Ltd) を設立したが、2010年1月に広州にBorouge Sales and Marketing (Guangzhou) Co., Ltd.を設立した。

本年4月に上海にPPコンパウンド工場が完成した。能力は5万トンで、3万トンの増設余力がある。
同社は5月31日に第二のPPコンパウンド工場の建設を発表した。立地は広州で、能力は105千トン。2012年央の完成予定。

同社は上海コンパウンド工場に隣接し、物流センター(取り扱い可能量年間600千トン)を建設した。
ほかに、広州(246千トン)とシンガポール(330千トン)にも物流センターを持っている。

更に、本年1月に、上海のコンパウンド工場に隣接し、Application Centreを建設すると発表した。
本年末の完成予定で、主に自動車と家電用途に絞り、中国の需要家のニーズに応える体制をつくる。

 


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科学技術政策研究所は6月10日、今後30年を見越した科学技術開発テーマの実現予測時期をまとめた調査結果を発表した。

科学技術政策研究所(National Institute of Science and Technology PolicyNISTEP
1985年の臨時行政改革推進審議会の答申において、科学技術政策に係る企画・立案の機能強化の一環として科学技術政策研究の必要性が指摘されたことを受け、科学技術政策展開の基礎となる諸事項について理論的・実証的な調査研究を行う中枢的機関として、1988年7月1日に科学技術庁の附属研究機関として設置された。
その後、2001年1月の中央省庁再編の一環として、文部科学省附属の研究機関となった。

2040年までを展望して科学技術の成果で目指すべき方向性を、「科学技術力で注目される日本」、「グリーンイノベーションによって持続的に成長する日本」、「健康・高齢社会の成功モデルとしての日本」、「暮らしの安全が保障される日本」の4つのグローバル課題・国民的課題として絞り込み、これらの実現に向けてどのような道筋があり得るかについて、科学技術を中心に学際的な視点から検討を行い、その結果を以下の3つの報告書にとりまとめた。

NISTEP REPORT No.140 「第9回デルファイ調査」
NISTEP REPORT No.141 「科学技術が貢献する将来へのシナリオ」
NISTEP REPORT No.142 「地域が目指す持続可能な近未来」

デルファイ調査delphi)は専門家グループなどが持つ直観的意見や経験的判断を反復型アンケートを使って、組織的に集約・洗練する意見収束技法。

調査はほぼ5年おきに実施しているが、今回は3000名を超える専門家(科学技術系、人文社会系)の協力を得て、将来の社会像とその実現に寄与する科学技術に関して学際的な予測調査を行った。

次の各分科会で、技術的実現予測時期と社会的実現予測時期を予測した。
 ①ユビキタス社会に、電子・通信・ナノテクノロジーを生かす
 ②情報処理技術をメディアやコンテンツまで拡大して議論
 ③バイオとナノテクノロジーを人類貢献へ繋げる
 ④ITなどを駆使して医療技術を国民の健康な生活へ繋げる
 ⑤宇宙・地球のダイナミズムを理解し、人類の活動領域を拡大する科学技術
 ⑥多彩なエネルギー技術変革を起こす
 ⑦水・食料・鉱物などあらゆる種類の必要資源を扱う
 ⑧環境を保全し持続可能な循環型社会を形成する技術
 ⑨物質、材料、ナノシステム、加工、計測などの基盤技術
 ⑩産業・社会の発展と科学技術全般を総合的に支える製造技術
 ⑪科学技術の進展によりマネジメント強化すべき対象全般
 ⑫生活基盤・産業基盤を支えるインフラ技術群

具体的課題の実現予測時期(技術的、社会的)の詳細は「第9回デルファイ調査」の各分科会別概要の最後にあります。
iPS細胞を利用した再生医療技術については、技術的実現は2021年、社会的実現は2032年となっている。

主な新技術の社会的実現予測時期は次の通り。

2020 新聞紙に代わる薄く軟らかい電子ディスプレーが普及
22 献血が要らない人工血液の開発
23 がん転移を抑える薬の開発
24 自動車などエネルギーを多く使う物は大部分リースか共有に
25 1回の充電で約500kmの走行可能な電気自動車
26 生体認証技術で外国旅行がパスポート不要に
家事や介護など生活支援ロボットの普及
27 すぐれた視覚や聴覚を持つロボットが爆発物検知や災害救助で警察などに配置
パソコンや携帯電話の電源が燃料電池に  
28 高齢者などの生活支援を遠隔操作でできるロボット
においや味が再現できるディスプレーの実現
感覚機能を備えた義手・義足の実現
29 燃料電池を使った船や鉄道の普及
砂漠の緑化技術
30 太陽光を電気に変換する効率が60%以上の太陽電池
血管の中を移動できるマイクロセンサーを使った医療技術
31 地球周回軌道の宇宙観光旅行
アルツハイマー病の進行を阻止
32 iPS細胞を利用した再生医療技術
33 政策提言や制度設計で社会的重要性などを分析する技術
アトピー性皮膚炎などアレルギーの根治
35 目的地を入力すると自動運転で到着できるシステム普及
海水からウランなど希少金属を経済的に取り出す技術の確立
37 M6以上の地震の発生時期を1年以内で予測
38 高速増殖炉の実現
化石燃料を使わない航空機
40 有人の月面基地

 


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Rio TintoとBHP Billitonは日本の鉄鋼各社に、7~9月期の鉄鉱石価格(120ドル前後)を4~6月期に比べ約23%値上げすると通告した。(日本経済新聞

1トン約147ドルで、中国向けのインド産鉄鉱石のスポット価格を参考として算出した。

ブラジルのヴァーレ (Companhia Vale do Rio DoceCVRD)も7月1日から1トン当たり最大145ドルとすると報じられている。

豪州産の粉状鉱の価格の推移は以下の通りで、2009年の価格と比較すると、7~9月期は約2.4倍となる。

  実際の価格は鉄鉱石の種類と純度により異なるため、概算。

2009/5/27 2009年度鉄鉱石価格

価格改定については供給側は本年度(4月以降)から、これまでの年度ごとの決定から、四半期ごとに変えるよう提案、鉄鋼側は頻繁に鋼材価格を変えられないとして反対し、3月末に4~6月期価格を暫定価格として決めた後、交渉を続けたが、四半期決めに押し切られ、4~6月期価格も暫定価格をそのまま採用することと決まった。

中国の製鉄会社も、ヴァーレ、Rio Tinto、BHP Billitonの世界鉱山大手3社が鉄鉱石価格を大幅に引き上げたとして非難しているが、上海を訪れているヴァーレのCEOは6月1日の記者会見で、「ヴァーレは価格を設定していない。価格を設定しているのは市場だ」と述べた。

ーーー

原料炭についても、国内鉄鋼大手とBHP Billitonが、7~9月期の鉄鋼原料用石炭の価格を4~6月期(200ドル)に比べ約13%高い1トン当たり225ドルとすることで合意した.

2007年は98ドル2008年は300ドル、2009年は128ドルであった。(豪州の強粘結炭 Goonyella炭価格
なお、2003
年は46ドルであった。

 

新日本製鉄とトヨタ自動車は2010年度の鋼材価格交渉で、これまでの年契約を見直し、半期ごとの改定で大筋合意した。

新日鉄は原料価格の4半期決めへの変更に合わせ、鋼材価格も4半期ごとの改定を要求、4~6月期で15,000円/トン、7~9月期で25,000円/トン程度の値上げの意向を示した。

これに対し、トヨタは短期にコストが変動することに反発、妥協案として半年ごととなった。値上げ幅は20,000円程度とみられる。


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信越化学工業が2008年に「移転価格税制」に基づき約110億円の追徴課税を受けていた問題で、還付加算金を含めて日米合計で約119億円が還付される見通しとなった。信越化学が発表した。

信越化学は2008年2月に米国子会社シンテック社からの収益(5事業年度)に関して、東京国税局より移転価格課税に基づく更正通知書を受領したと発表した。

更正通知による国外移転所得金額は約233億円で、追徴税額は法人税、事業税及び住民税(本税及び付帯税を含む)で合計約110億円と試算された。国税局からは「信越化学が提供した技術でシンテックは高収益を得ているのに、見合うだけの対価を受け取っていない」と指摘されたという。

これに対し信越化学は東京国税局の指摘を否定、「現在シンテックは、塩化ビニル樹脂事業で世界一の高収益会社となっておりますが、その源泉は、この同社における一日も欠かすことのない経営努力の積み重ねによるものです」と述べ、2008年3月期に「過年度法人税等」として10,878百万円を計上した上で、二重課税の排除を求め日米相互協議を申し立てていた。

日米両国の当局が進めていた相互協議で、申告漏れと指摘された所得は当初の約233億円から約39億円に減額された模様で、信越化学の主張が通った。

信越化学は当初の233億円に対する課税が39億円に対する課税に減額され、金利を含めて還付を受ける。
シンテックは米税務当局(IRS)が39億円相当の技術料追加を認めたため、相当する税金の還付を受ける。
これを合わせたものが、119億円となる。(信越化学分が約9割)

ーーー

本件に関しては、本ブログでも 2008/2/7 信越化学の移転価格課税で、次の通り述べた。

そもそも、国税局からは「信越化学が提供した技術でシンテックは高収益を得ているのに、見合うだけの対価を受け取っていない」と指摘されたというが、シンテックの高収益が信越が提供した技術のためであるという認識に間違いがある。

もしそうなら、日本の信越化学は他の塩ビメーカーよりも高収益であるはずだが、決してそうではない。

シンテックの高収益の理由は、一つは原料のVCM(塩素とエチレンから製造)をクロルアルカリとエチレンのトップメーカーのダウから供給を受けていることで、塩ビの損益が悪化したときには、損失を一部ダウが負担するという契約条項もあるといわれている。

もう一つが常にフル操業をするという経営方式である。---

金川千尋社長も日本経済新聞の「私の履歴書」に大幅加筆した「毎日が自分との戦い 私の実践経営論」(2007/7)で次のように述べている。

経営力の差が収益に反映する

すでに述べたように塩ビは、物性、加工性、経済性に優れた素材である。経済性について考えると、オイルショックで何度も石油やガスの価格が高騰したが、塩ビの原料は約5割が塩素だから、他の石油化学製品に比べて原油価格高騰の影響は少ない。
環境問題にしても、建築材料として容易に塩ビに代わるものはない。塩ビをやめて木材を使うといっても、木をむやみに切れば森林が破壊され、洪水や地球温暖化の原因になる。このように長期的、総合的に塩ビの特性を判断し、投資を続けてきたのである。

とはいえ、塩ビ事業を手掛けた同業他社が、当社のような利益を上げたわけではない。「信越化学は製造プロセスが優れているから」という解説もあるが、これもおかしい。
当社は1970年代、塩ビの製造技術のライセンスを米国のファイアストンやテネコ・ケミカルズに供与したが、両社ともうまくいかなかった。テネコは、塩ビ事業をオキシデンタルに売却した。ファイアストンは、塩ビ事業をボーデンケミカルに売却したが、そのボーデンも当社の製造技術を生かせなかった。その後ボーデンは、米連邦破産法第11条の適用申請に追い込まれ、工場を当社が買収することになった。
同じ技術を使っているのだから、技術力が優れているというだけでは説明がつかない。
結局、経営の違いというしかない。研究開発、製造、販売、調達、財務など、あらゆる要素に目配りをした経営力の差が収益に反映されていると考える。

注 ボーデンから買収した工場は稼動させず、廃棄している。

ーーー

移転価格税制では本年初めに、国税不服審判所がTDKの移転価格課税の約141億円の処分を取り消し、地方税や還付加算金を含め約94億円が還付されることとなった。

2010/2/5 国税不服審判所、TDKの移転価格課税取り消し


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韓国鉱物資源公社Korea Resources Corp)とGS CaltexLG International Corp の韓国コンソーシアムは6月4日、リチウム専門企業のカナダのLithium One Inc.のアルゼンチンのリチウム探査事業 Sal de Vida Projectに参加する合弁契約を締結した。
コンソーシアムは同計画に30%を出資する。

Lithium One はリチウム開発に特化する会社で、アルゼンチンのSal de Vida Projectのほかにカナダのケベックで James Bay Lithium Pegmatite Project に取り組んでいる。
ペグマタイト鉱物の一種(ケイ酸塩鉱物)のリシア輝石に含まれるリチウムを開発するもの。

同じケベックではCanada Lithium Corp.がリチウムを生産しており、三井物産が独占的な営業権を取得した。
2013年から年2000トン程度を輸入する。

Sal de Vida計画はアルゼンチン北部のHombre Muerto塩湖の東部地区でリチウムを開発するもの。Lithium One は東部地区600km2のうちの300km2を取得するオプションを持っている。
Sal de Vida地域には推定で炭酸リチウム200万トンと塩化カリウム900万トンが埋蔵されているという。

現在、権利所有地の1/3について、サンプリングが完了している。

コンソーシアムはまず1,500万ドルを投入し、2012年まで詳細探査作業を行う予定で、探査結果を検討して本格的に開発するかどうかを決める。
開発が施行される場合、生産量は年
12,000トンの予定で、韓国側は昨年の輸入量(5,142トン)より多い年 6,000トンのリチウムを確保する。

西部地区ではFMCの子会社Minera del Altiplanoが所有するFenix1997年から生産を開始、現在、アルゼンチンで唯一、リチウムの商業生産を行っている。同社の2008年の生産量は全世界の生産の14%を占める。

韓国鉱物資源公社は、「リチウムはハイブリッド自動車や電気自動車などの2次電池の原料として需要が急増しているが、現在、韓国はすべて輸入に頼っている。今後はリチウム確保に向け、チリやアルゼンチン、ボリビアを積極的に攻略したい」と語った。

ーーー

豊田通商は2010年1月19日、豪州 Orocobre Limited と、アルゼンチンのOlaroz塩湖でのリチウム資源開発のための事業化調査を約する覚書を締結した。
事業化調査の結果をもとに、共同出資会社を設立し2012年より生産を開始する予定で、2014年には、炭酸リチウム年間15,000トン、塩化カリウム年間36,000トンの生産を目指す。

豊田通商が先ず25%を出資するが、その後、政府が独立行政法人を通じて、その3~4割を出資する方針。

南米のリチウム開発: 2009/5/5 韓国鉱物資源公社、ボリビアでリチウム鉱開発へ 

ボリビアでは既報の通り、日本や韓国、フランスが開発権の取得で争っているが、ボリビア政府は2010年3月、リチウムの探査から開発、商業生産まで一手に担う新組織「国営ボリビア蒸発資源会社」を発足させた。

外資に依存せずにリチウムを国内で一貫生産し、経済発展の起爆剤にしたい考え。

Morales大統領はリチウムを“
hope of humanity” と呼び、ボリビアの将来の経済発展のキイであるとしている。
抽出したリチウムをそのまま輸出するのではなく、ボリビア国内で精製し、電池や自動車会社を誘致して、産業化したい意向。

ボリビアでは新しい鉱山法を準備中である。


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中国政府は2011年から始まる次の5カ年計画に労働者の賃金を現在の2倍に増やす「所得倍増計画」を盛り込む検討に入った。

現在の所得分配は不合理で、貧富の格差が拡大しており、この問題を解決しなければ、一連の深刻な社会問題をもたらす可能性がある。

都市部住民と農村部住民との間の所得格差は3.3倍前後を保ち、業界間格差は最高で約15倍に達する。
所得の上位10%の一人あたり平均所得は下位10%の約20倍以上に達する。
少数の国有系金融企業のトップ層の給与水準は社会全体の平均給与の約100倍にあたる。
一部企業のトップ層の最高給与は社会全体平均の約2千倍にも上る。

2010/3/6  中国の都市部と農村部所得格差が拡大

人力資源・社会保障部労働工資研究所の蘇海南所長は、現在の所得分配の不合理さや貧富の格差の拡大を招いた主要因として、次3つをあげている。

経済発展モデルや経済構造などにおける不合理さが招いた制約や影響
生産力のアンバランスや自然資源などの客観的条件によって形成された所得格差を拡大
   
経済社会体制に存在する弊害の影響や制約
問題を一層悪化させ、不公平な所得分配格差を拡大し、所得分配の不公平さの深層レベルでの根源となっている
   
所得分配システムの不完全さ

ここ数年を総合的にみると、国民の所得の伸びや労働所得の伸びは低く、GDPと平均労働生産率の増加水準を下回った。
中国共産党の第17回(2007年)全国代表大会で、両者の割合を高め、サラリーマン給与の正常な増加メカニズムをうち立てることが求めらた。

第17回報告には、「より多くの民衆が財産所得を得られるような環境を整える」が初めて記された。

この解決策として、かつての日本の「所得倍増計画」を導入し、所得分配の不合理を解決しようというもの。
平均賃金を毎年15%以上のペースで増やせば、5年で2倍になる。

中国改革発展研究院の遅福林院長は次のような収入分配体制改革の提案をしている。

企業従業員が集団で賃金引き上げを談判できる制度の導入と、賃金が定期的に増加する制度の導入。
従業員持ち株会の制度強化
企業利益・株価上昇の恩恵を従業員にも拡大
土地価格上昇の恩恵を農民に広く享受させるような制度

ーーー

既報の通り、既に中国では労務費引上げの例が相次いでいる。

2010/6/1 ホンダ中国の部品工場でスト、完成車工場が休止

広東省仏山市で変速機を製造する本田汽車零部件のストについては、ホンダが平均月給 1544元を24%アップし1910元にする案を提案、大半の従業員が受け入れ、6月2日に部品工場の操業を全面的に再開した。

しかし、6月7日にホンダの系列部品メーカー、ユタカ技研の中国・広東省仏山市にある佛山市豊富汽配有限公司で賃上げを求めるストが発生、8日も生産が完全停止した。
このため、ホンダの仏山市の「増城工場」「黄埔工場」に部品を供給できなくなり、ホンダは2工場の9日の操業を再度停止すると発表した。

豊富汽配はユタカ技研が65%、台湾のMoonstone Holdingsが35%を出資、コンバータ、サイレンサー等の生産を行っている。

更に、自動車用の鍵部品を製造する広東省中山市にあるホンダ子会社ホンダロックの本田制鎖(広東)で賃上げを求めるストがあり、6月9日に操業を停止した。

賃上げを求める動きが、ホンダから系列メーカーの工場に波及した。

ーーー

中国の現代自動車の完成車工場に部品を供給する北京市の現代系の自動車部品メーカーの北京星宇車科技で、5月28日に賃上げを要求するストライキが発生した。

部品供給先である完成車工場で特別手当が支給されたことから、同様の手当を求め、生産がストップしたもので、ホンダのストが飛び火した。

現代自動車ではインド南部のチェンナイ工場でも現地労働者によるストライキが発生した。

ヒュンダイ・モーター・インディアでは労使協議会が設置されているが、最近一部の従業員がこれとは別に違法労組を結成し、公式に認めるよう要求している。違法労組の結成を主導した従業員87人が解雇されたことを受け、一部の従業員が解雇者の復職を要求し、ストを決行した。

工場の従業員約150人がストに突入し、インド第1工場、第2工場 (それぞれ年産30万台)の生産ラインが全面的にストップした。

現地の警察は6月8日、約200人の労働者を拘束した。

ーーー

台湾の大手電子機器メーカー「鴻海グループ」の中国子会社「富士康」(広東省深セン市)で若い従業員の自殺が相次いでいる問題については、鴻海グループは富士康の深セン工場の基本給を当初の20%アップから拡大、6月1日から、月900元から1200元に33%引上げたが、6月6日には、富士康の深セン工場の基本給を10月1日から月2000元にすると発表した。
6月1日からの引き上げと含め、それまでの2.2倍になる。
基本給を引上げるとともに、残業を3時間に縮小した。

深セン以外の中国人従業員の再賃上げは7月1日以降、地域ごとに発表される。

ーーー

ブラザー工業は6月9日、工業用ミシンを生産する陝西省西安市の全額出資子会社「兄弟ミシン(西安)有限公司」の2工場で賃上げや待遇改善などを求めてストが発生、3日午後から操業を停止していることを明らかにした。

ーーー

中国政府が所得倍増計画を打ち出せば、この動きは強まり、進出企業にとっては、労使トラブルや労務コストの増大が大きな問題となる。


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中国の国家発展改革委員会、科学技術部、財政部、工業情報化部は 2010年の年初に、「戦略的新興産業の形成加速に関する決定(草案)」を共同で作成し下達したが。その後の意見のすり合わせの結果、5月下旬に、戦略的新興産業計画の方向性が7分野と23の重点項目に整理された。

「戦略的新興産業計画」は最終的に9月にとりまとめられ、その後各分野の具体的発展計画および関連の支援政策が続々と打ち出される見通し。

狙いは発展構造の根本的な転換で、次の7分野、23重点項目となっている。

省エネ・環境保護 ・高効率・省エネ
・先進的環境保護
・循環利用
新興情報産業 ・次世代通信ネットワーク
・モノのインターネット(*)
・ 「三網融合」(通信・放送・インターネットのネットワーク融合)
・新型フラットモニター
・高性能IC(集積回路)
・ハイエンド・ソフト
バイオ産業 ・バ イオ医薬
・バイオ農業
・バイオ製造
新エネルギー ・原子力エネルギー
・太陽エネルギー
・風力エネルギー
・バイオマス
新エネルギー車 ・プラグイン型のハイブリット車(HV)
・電気自動車
ハイエンド機械製造業 ・航空・宇宙
・海洋プロジェクト設備
・最先端のインテリジェント設備
新素材 ・特殊機能
・高性能の複合素材

(*)モノのインターネット(IoT: Internet of Things)は日本の「ユビキタスネット」と同様、RFID(無線チップによる識別・管理)技術などを使って、あらゆるものをインターネットに接続しようというもの。

中国政府はグローバルな金融危機に対応するため、2008年末に4兆元投資計画」、2009年初めに10大産業振興計画」を実施し、成功を収めた。

2008/11/12 中国、緊急経済対策に57兆円

2009/2/25  中国政府、石油化学産業の景気刺激策を承認

「戦略的新興産業計画」は「10大産業振興計画」「4兆元投資計画」以来の大規模な産業投資計画であるが、これらと本質的に異なるのは、今回の投資計画が発展モデルの転換という根本的変革を狙ったものであること。

国家発展改革委員会の張暁強副主任は「前回の2計画はいずれも内需拡大とインフラ建設強化という視点に立ち、伝統産業の建て直しを見据えたものだったが、今回の計画は新興産業プロジェクトにシフトしている」と述べている。 


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1984年12月にインドのBhopal Union Carbide 工場から有毒ガスが漏れ、その夜のうちに3,000人が死亡し、最終的に2万人以上が死亡した。

Bhopal Union Carbide 工場では殺虫剤のCarbarylを製造していた。この中間体のmethyl isocyanate(MIC)はホスゲンから製造するが、MICタンクに水が混入し、大量の有毒ガスが発生し、ガス洗浄装置が修理のため停止していたため、有毒ガスが漏れ続けた。 

現在もなお工場から漏れ出した化学物質による周辺住民への健康被害が続いており、10万人が慢性疾患で苦しんでいる。

2008/6/25 Bhopal 事件のその後

インド最高裁等の資料では、被害状況は以下の通り。

事故当初(12/3~12/6)の公式の死者  3,000人以上
同 非公式の死者  7,000~8,000人
現在までの死者合計 15,000人以上
被害者  約60万人

被害者団体によると、Bhopal では、生まれつき障害を持った者や成長障害がある者、癌や糖尿病や他の慢性疾患の患者が異常に多く、事故から何年もたってから生まれた人の間でも見られる。

インドのBhopal 市の裁判所は6月7日、25年以上前の事件でインド人の元役員等8人に有罪とした。

被告は当時のUnion Carbide India の会長のKeshub Mahindra (現在はインドの自動車会社 Mahindra & Mahindra の会長で、85歳)のほか、同社社長、副社長、工場長、製造部長など。

当時のUnion Carbide会長のWarren Anderson も告発されているが、裁判に出頭せず、「逃亡中」で、今回の判決には入っていない。

量刑は追って決められる。

1987年にインド中央捜査局が12名を過失殺人(culpable homicide not amounting to murder)で告発した。
この罪状は最高
10年の懲役刑となる。

しかし、
1996年にインドの最高裁は過失致死(death by negligence)に引き下げたため、最高刑は2年の懲役となる。

このため、被害者の間では、ひき逃げと同じかとの不満が出ている。

ーーー

インド側は事故の原因は工場の設計とメンテナンスにあるとしているが、Union Carbide は、それまでの安全実績をあげ、ガス漏れは一人の従業員がサボタージュでガスタンクに細工したために起こったと主張した。

同社は
1989年にインド政府に解決金として470百万ドルを支払った。

支援グループでは生存者は補償金として平均500ドル程度しか受け取っていないとしている。

Dow Chemical は、「Union Carbide 470百万ドルを支払ってインド政府との間で将来にわたって解決した。ダウは10年以上後の2001年にUnion Carbide を買収しており、なんらの債務も引き継いでいない」と主張している。

更に、「工場はUnion Carbide India が所有、運営していたものであり、Union Carbide 自体はなんら工場の操業に関与しておらず、同社及び社員はインドの裁判所の管轄外である」としている。

ーーー

インド政府が企業誘致を優先し、Dowに対して弱腰であるとの批判が強い。

Manmohan Singh 首相は昨年の25周年に当たり、事故を"tragedy of neglect"とした。
「政府はこれまで、救済、医療、被害者の生活環境の改善に努めてきたが、今後も、安全な飲み水の確保、工場跡地のクリーンアップ、医療継続、その他に取り組んでいく」と述べた。


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4月20日夜に米南部ルイジアナ州沖のメキシコ湾で起きた原油の流出は今も続いている。

2010/5/4  米の原油流出、環境や漁業に影響

米政府は5月27日、原油流出量を日量12千~19千バレルと発表した。これまでの推定の2倍以上。
単純計算ではこれまでに42万~66.5万バレルが油井から噴出、アラスカ沖原油流出事故をはるかに上回る。

BPは6月4日、油井の元の機能しなかった噴出防止バルブ(blow-out preventer)の先からパイプを切り取り、キャップをかぶせるのに成功し、そこから石油のくみ上げを開始したと発表した。

仕組みは http://bp.concerts.com/gom/lmrp6_060310.htm の通りで、5日までに16,000バレルの石油が回収され、32.7百万立方フィートの天然ガスが燃やされた。

但し、まだ大量の石油が回収されずに漏れている。遠隔操作のロボットでキャップのバルブを閉め、漏れを防ぐ必要がある。
5000フィートもの深海での経験はなく、成功するかどうかはまだ不明。

沿岸警備隊では、「成功したとしても、一時的・部分的な解決にすぎない」としている。

付記 

BPは6月8日、くみ上げて回収した原油の売却代金を、4州の海岸の野生動物生息環境の回復、改善、維持のためのファンドをつくるため寄付すると発表した。

これまで、折れたパイプの先端にロボットでバルブをつける作業は成功したが、ROVによるBOP起動やContainment chamberでの油の汲み上げ、その後のTop Kill (漏れている箇所に泥などを流し込んで原油を封じ込める)などの作業は全て失敗しており、別の井戸を掘る作業(図の③)は、あと2ヶ月かかるとされている。

Containment chamberの失敗の原因は、温度と圧力と海水が作用してシャーベット状のgas hydrates が生成し、詰まったこと。
(このため、今回は小さなキャップとした。)

BP6月2日、米政府が決めた6箇所の Louisiana barrier islands計画を支持すると発表、費用360百万ドルを負担するとしている。
Louisiana州の沿岸に列をつくる砂州と砂州の間に浚渫した砂を投入して繋ぎ、防壁とする計画。

ーーー

米政府は6月3日、原油流出事故を巡り、流出停止や汚染拡大防止の作業などに使った6909万ドルの請求書をBPなどの関係者に送付したと発表した。
事故の責任がBPなど当事者側にあると主張している米政府は米国民の税金を対策に使わないことを重視している。

オバマ米大統領は3日、CNNテレビとのインタビューで、メキシコ湾で続く原油流出事故に「激怒している」と述べ、流出原因をつくったBPなどの対応の遅れを批判し「自分たちの行動がどういう結果を招くか考えていなかった」と指摘した。

大統領は4日に事故発生から3回目の現地視察を実施し、メキシコ湾の原油流出事故でBPに対し、株主への配当やテレビ広告よりも、被害を受けた地元住民への補償を優先すべきだと非難した。

「BPはこの危機の最中、自社のイメージアップのため5000万ドル相当のテレビ広告を契約した」と非難。「それに加え、今四半期(正しくは年間配当)に105億ドルの株主配当を予定しているとの報道もある」と述べた。

原油流出事故について「BPが被害について道徳的、法的責任があることを明言して欲しい」とし、「聞きたくないのは、彼らが株主のためやテレビ広告にそうした資金を投じる一方、メキシコ湾の漁業関係者や中小企業向けには出し渋ることだ」と述べた。

大統領は今月に予定していたオーストラリア、インドネシア歴訪の延期を決めた。

米司法長官は6月1日、「法律違反の及ぶ範囲内で起訴する」と明言、民事・刑事の両面で法的責任を追及する方針を明確にした。

なお、オバマ大統領は5月27日、新規の海底油田掘削許可を6ヶ月間凍結することを明らかにした。メキシコ湾の33地点で行われている試掘作業の停止も決定した。

ーーー

BPは個人や事業者に対し、所得補償の仮払いを行っている。
5月に最初の支払いを行い、6月に入り、2度目の支払いを始めた。

ルイジアナ州の7900人(個人と事業者)に2回合計で50百万ドル、アラバマ州の3000人に16百万ドル、ミシシッピー州の1900人に10百万ドル、フロリダ州の1200人に8百万ドルで、合計84百万ドルとなる。

被害者が支払いをする必要性を考慮し、要求通りの仮払いを行うもので、追って精算は行うが、払い過ぎで返金を要求することはないとしている。

ーーー

BPCarl-Henric Svanberg 会長と Tony Hayward CEO6月4日、株主に対して、本件の対処と、BPへの信頼を取り戻し、このような事故を二度と起こさないことが、同社の最優先事項であるとし、以下の説明を行った。

BPは既に直接費用として10億ドル以上を支出した。
今後も暫くはこの水準で支出が続く。更に、罰金などがこれに加わる。
油の回収やクリーンアップは2010年中に終わるが、環境回復や訴訟その他の解決には数年かかると思われる。

会社はこれら費用を負担する能力があり、従業員や株主に対する義務を果たす。
負担は大変だが、
BPは強い企業で、過去にもこれらの嵐に耐えてきた。

配当については株主の長期的な利益になるよう、あらゆる事態を考慮して決定する。
株主にとっての配当の重要性はわかっている。

流出した原油の除去作業に加え、損害賠償金、制裁金、各種補償などにかかる費用を専門家は大まかに最高200億ドルと見積もるが、それは数百億ドルに膨れあがる可能性もある。
Credit Suisseでは、BPが370億ドルの費用負担を強いられる可能性があるとの試算をしている。

同社の業績は以下の通り。

2009年 2008年
売上高   2,392.7億ドル  3,611.4億ドル
税引前損益 251.2億ドル 342.8億ドル
当期純損益 165.8億ドル 211.6億ドル

爆発事故を起こした4月20日以来、同社株価は34%下落して資産価値は大きく損なわれ、1,150億ドルまで下落し、米エクソンモービルの2,800億ドル、中国石油天然気の2,780億ドル、シェルの1,590億ドルの後塵を拝している。

格付け会社のFitchRatingは6月3日、原油流出に伴うリスクが増大していると指摘し、BPの格付けを従来の「AA+」から「AA」に引き下げた。アウトルック(長期見通し)は「Negative」とした。

Moodysも同日、「Aa1」から「Aa2」に引き下げ、一段の格下げ方向で見直す方針を示した。
S&Pは5月7日にアウトルックを「安定的」から「Negative」に引き下げている。

ーーー

事故を起こしたDeepwater Horizon rig (移動式海洋掘削プラットフォーム)はR&B Falconが設計、2001年に韓国の現代重工業 が建設した。R&B Falconを買収したTransoceanが所有し20139月 までBPにリースしている。

現代重工業の関係者は「施設が作られてから 10年以上が過ぎた。アフターサービスも終わり、10年間の運用をみると施工上の問題ではなく運用上の問題だと思われる」と事故との関係性を否定した。

一部の韓国メディアは、石油掘削施設の寿命は通常25~30年程度であり、建設してアフターサービス期間が過ぎたからといって責任が消滅したとはいえないと指摘、BPが事故の責任をほかの企業に転嫁した場合には、現代重工業にも何らかの影響が及ぶ可能性があるとしている。

ーーー

原油流出が大西洋クロマグロの産卵の海域とほぼ重なっていることを、米スタンフォード大などが5月28日発行の米科学誌PLoS ONE」で発表した。

大西洋クロマグロは、地中海で産卵する群とメキシコ湾で産卵する群に分けられる。
後者は毎年3~6月にメキシコ湾に回遊してくる。やや水温の低い湾内の二つの海域に集中して回遊しているが、特に北東側の海域は原油が広がっている海域と重なっており、回遊のピークは流出が始まった4~5月だった。

クロマグロは海面付近で産卵するため、漂っている油膜で卵や稚魚が死滅する恐れがあり、原油の油滴を小さくして分解を促す薬剤の影響も心配される。


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公取委は6月2日、「平成21年度における主要な企業結合事例」を発表した。
  http://www.jftc.go.jp/pressrelease/10.june/10060202.pdf

化学関連では次の2つが取り上げられている。

(1) 三菱ケミカルホールディングスによる三菱レイヨンの株式取得
(2) 新日本石油と新日鉱ホールディングスの経営統合

(1) 三菱ケミカルホールディングスによる三菱レイヨンの株式取得

両社で競合する7品目のうち、PBT樹脂配合品、アクリルアミド及びUV硬化型ハードコーティング材料の3品目が「競争に及ぼす影響が大きい」と指摘。

【PBT樹脂配合品(コンパウンド)】

順位 会社名 シェア
1 A社 (ウィンテック ポリマー*1) 約35%
2 B社 (東レ) 約30%
3 三菱化学*2 約20%
4 三菱レイヨン 約5%
  その他 (SABIC*3、東洋紡*4) 約5%
合計 100%
(当事会社合算) ( 約25%)

*1 ポリプラスチック (60%)と帝人(40%)のJV
*2 販売は三菱エンジニアリングプラスチック(三菱化学/三菱ガス化学)
*3 SABICイノベーティブプラスチックス(元 GEプラスチック)
*4 2010/3にDICから譲り受け

平成19年度におけるPBT樹脂配合品の国内市場規模は約570億円で、当事会社の合算市場シェア・順位は約25%・第3位となる。また、本件行為後のHHIは約2,800、HHIの増分は約200であり、水平型企業結合のセーフハーバー基準競争を実質的に制限することとなるとは通常考えられない範囲)に該当しない。

HHIHerfindahl-Hirschman Index)は寡占度を示す指標で、市場シェアの2乗を合計した数値。

セーフハーバー基準は以下の通り。
①HHI 1500以下
②HHI 1500~2500 かつ HHIの増分 250以下
③HHI 2500超 かつ HHIの増分 150以下

なお「シェア35%以下で、HHI 2500以下」の場合、「おそれが小さい」として簡単な審査で済む。

2007/2/5 公取委、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」の一部改正案を発表

公取委判断:
・市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が複数存在する。
・輸入圧力が一定程度存在すると認められる。
・用途ごとにポリアミド樹脂、ガラス繊維強化PET、液晶ポリマーといった競合品が存在する。
・どのユーザーも、メーカーに対しては、強い価格交渉力を有している。

◎一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならない。

【アクリルアミド】

順位 会社名 シェア
1 三菱化学 約45%
2 D社(三井化学) 約35%
3 三菱レイヨン 約15%
4 E社(昭和電工) 0-5%
合計 100%
(当事会社合算) ( 約60%)

平成20年におけるアクリルアミドの国内市場規模は約100億円で、当事会社の合算市場シェア・順位は約60%・第1位となる。また、本件行為後のHHIは約5,100、HHIの増分は約1,400 であり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

公取委判断:
・市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が存在するが、事業者数は4社から3社に減少する。
・重合を防止するための温度管理が難しいことからほとんど輸入はされていない。輸入圧力なし。
・新規参入は困難。参入圧力が存在しない。

◎一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

当時会社からの問題解消措置の申出:
三菱レイヨンが行っている紙力増強剤向けのアクリルアミド販売事業を資本関係のない会社(アクリルアミド等を原料とする高分子凝集剤に特化した世界最大級の水処理用高分子ポリマーメーカーの日本子会社)に譲渡する。
(譲受会社の求めに応じてその必要とする数量を適切な条件で提供する。)

結論:
問題解消措置が確実に履行された場合には、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断。

【UV硬化型ハードコーティング材料】

本件行為後のHHIの水準及び本件行為によるHHIの増分が水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当することから、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断。

結論 本件行為により、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断。

ーーー

(2) 新日本石油と新日鉱ホールディングスの経営統合

当事会社間で競合する29品目のうち、市場規模が大きい、競争に及ぼす影響が大きいなどと考えられる品目は、ガソリン、ニードルコークス、パラキシレン及びナフサ。

【ガソリン】

順位 会社名 シェア
1 新日石 約25%
2~5
6 新日鉱(ジャパンエナジー) 約10%
7~9
合計 100%
(当事会社合算) ( 約35%)

平成20年度におけるガソリンの国内市場規模は約7兆9000億円で、当事会社の合算市場シェア・順位は約35%・第1位となる。
また、本件行為後のHHIは約2,100、HHIの増分は約500 であり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

公取委判断:
・競争事業者の供給余力は十分存在すると認められる。
・輸入圧力が一定程度存在すると認められる。
・需要者からの競争圧力が一定程度存在すると認められる。

◎一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断。

【ニードルコークス】

順位 会社名 シェア
1 新日鉱(ジャパンエナジー) 約35%
2 H社 約25%
3 新日石 約20%
4 I社 約20%
合計 100%
(当事会社合算) ( 約55%)

平成19年度におけるニードルコークスの国内市場規模は約200億円で、当事会社の合算市場シェア・順位は約55%・第1位となる。
また、本件行為後のHHIは約4,200、HHIの増分は約1,500であり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

公取委判断:
今後、需要拡大が予想される一方で、新規参入は容易ではないことから、競争事業者の供給余力は十分には存在しないものと認められる。
輸入圧力は弱い。(代替しうる海外メーカーは1社で、能力不足)
参入圧力は存在しない。
隣接市場からの参入圧力は存在しない。

◎一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

当時会社からの問題解消措置の申出:
いずれかの当事会社のニードルコークス事業を当事会社とは別の会社に分離した上で、その議決権の90%以上を第三者(大手商社)に譲渡する。

結論:
問題解消措置が確実に履行された場合には、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断。

【パラキシレン(PX)】

アジア市場
順位 会社名 シェア
1~2 (海外2社) 約30%
3 新日石 約10%
4 新日鉱(ジャパンエナジー) 約10%
5~9 (海外3社)
(国内2社)
その他 約30%
合計 100%
(当事会社合算) ( 約20%)

次の理由で、「アジア地域」を地理的範囲として画定。
①アジア地域においては、PXの統一の指標価格が存在し、これに基づき販売価格が決定される。
②日本を含むアジア地域のPXのユーザーは、比較的容易に輸入できる。
③アジア地域のPX製造会社が域内各国に供給できる仕組み及び能力を有する。

平成19年度におけるPXのアジア地域の市場規模は約2兆4500億円で、当事会社の合算市場シェア・順位は約20%・第1位となる。(日本市場における当事会社の合算市場シェアは、約40%・第1位)

本件行為後のHHIは約1,000 であり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当するため、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断。

METI発表の2009年末の日本のPX能力は以下の通り。(千トン)
両社の出資するJVを入れると、シェアは66%となる。

1 新日本石油精製 1,260   32%
2 東燃ゼネラル石油 490 12%
3 出光興産 479 12%
4 鹿島アロマテイックス*1 420 11%
5 ジャパンエナジー 380 10%
5 水島パラキシレン *2 380 10%
7 帝人 300 7%
8 鹿島石油 *3 170 4%
9 三菱化学 100 2%
合計 3,979 100%
(当事者会社合算) (1,640) (42%)
(同上 JV含む) (2,610) (66%)

*1 鹿島アロマテイックス
   ジャパンエナジー 80%、三菱化学 10%、三菱商事10%のJV (鹿島石油内)
   アロマ製品をジャパンエナジーが、軽質ナフサを三菱化学が引き取り。
*2 水島パラキシレン
   
新日本石油 51%、三菱ガス化学 49%(三菱ガス化学水島工場内)
   2001/3に三菱ガス化学
丸紅が折半出資で設立。
   2006/4に現在の出資比率に。
   
新日石仙台製油所で増産するキシレン等を持ち込み、増産(当初28万トン)。
*3 鹿島石油
   
ジャパンエナジー 70.675%、三菱化学 19.875%、東京電力 7.950%、日本郵船 1.500%
 

【ナフサ】

順位 会社名 シェア
1 新日石 約20%
2~3 30
4 新日鉱(ジャパンエナジー) 約10%
5~8
輸入 約25%
合計 100%
(当事会社合算) ( 約30%

平成19 年度におけるナフサの国内市場規模は約2兆9800億円で、当事会社の合算市場シェア・順位は約30%・第1位となる。
また、本件行為後のHHIは約2,100、HHIの増分は約400であり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

公取委判断:
競争事業者の供給余力は十分存在すると認められる。
輸入圧力が存在すると認められる。
非ナフサ系化学原料は、ナフサの競合品となりつつあり、隣接市場からの競争圧力が一定程度存在すると認められる。
ユーザー自ら調達することが容易で、取引先を自由に切り替えることができ、需要者からの競争圧力が存在すると認められる。

◎一定の取引分野における競争を実質的に制限することとならない。

結論 本件行為により、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断。

ーーー

パラキシレンで、国内の統合後の能力シェアが実質66%となるが、アジアが一体の市場であり、アジア全体ではシェアが低いため、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断したのは画期的である。

 

付記  2010/6/8発行 公取委メールマガジンから「6月2日事務総長定例会見記録」

 審査した品目のうちのパラキシレンという品目について、これはポリエステル繊維やペットボトルなどに使われる樹脂の原料であるテレフタル酸などの原料となる液体の炭化水素ですが、このパラキシレンにつきましては、アジア地域で見ると、各国のユーザーが比較的容易に輸入できるということ、また、各国のメーカーがアジア地域の各国に供給もできるということから、アジア地域を1つの市場として認定して審査を行ったわけであります。このアジア地域でのシェアをみますと、通常、競争を制限することにはならない企業結合の範囲を示す、いわゆるセーフハーバー基準に該当するということで独占禁止法上の問題はないと判断したものであります。もし、これを日本市場という形で狭く見ると、当事会社のシェアは4割でシェア第1位となり、このセーフハーバー基準には該当せずに様々な判断要素を考慮する必要があったものであります。

 次に、国際競争の実態を踏まえた判断の事例として、市場としては、日本国内、日本市場を画定した上で判断した事例で、輸入等を考慮した事例であります。これは、新日本石油と新日鉱ホールディングスの経営統合事案のうちの、ナフサという品目について、日本全体で1つの市場が形成されていると判断したものでありますが、統合後の当事会社のシェアが第2位の会社の2倍ぐらいになって高くなったとしても、輸入のシェアが25パーセント程度あるということを踏まえ、輸入の競争圧力も評価した上で独占禁止法上の問題にはならないという判断を行ったものであります。このように輸入の競争圧力も考慮した上で具体的な事案ごとに判断を行っております。


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世界最大の発泡スチロールメーカー(商品名 King Pearlの台湾の見龍化学工業(Loyal Group)は5月14日、新疆ウイグル自治区の克拉馬依で発泡ポリスチレン(EPS)工場の建設を開始した。

見龍化学の100%子会社の新疆龍橋工程塑料(エンジニアリングプラスチック)が建設・運営するもので、2億人民元を投じて2段階で年産合計16万トンのEPS工場を建設する。今回第1段階の8万トンの建設を開始した。

原料のSMはペトロチャイナの新疆独山子石油化学から調達、製品は中国北西部や中央アジア市場で販売する。

なお、本年3月には藍山屯河化学(Blue Ridge Tunhe)が新疆ウイグル自治区の奎屯ー独山子石化パークで年産12万トンのEPS工場が生産を開始している。新疆独山子石油化学に隣接、同社からSM の供給を受ける。

2010/3/29 米投資会社の買収企業、EPSの 生産開始

創業者の廖有昌(Liao Yo-Chang) は1973年にLoyal Groupを設立して化学品の売買を開始、1976年に見龍化学を設立して高雄でEPSの生産を開始した。

Liao Yo-Changは1989年に訪中し、中国進出を決意、1990年に寧波で生産を開始、その後、中国各地で工場を建設した。

更に、2007年にはEU市場での販売を狙い、ポーランドに進出した。

同社のEPSの製造拠点は以下の通り。(単位:千トン)

  社名 立地 稼動中  建設中  
台湾 見龍化学工業 高雄市 40   1976
新龍光塑料 100 2007 (第二工場)
中国 寧波新橋化工 浙江省寧波市 180   1990 寧波和橋化工
1996 寧波新橋化工
2005 両社合併
江陰新和橋化工 江蘇省江陰市 400   1997
東莞新長橋塑料 広東省東莞市 440   2003
天津新龍橋工程塑料 天津市 320   2004
新疆龍橋工程塑料 新疆ウイグル自治区
克拉馬依
  80 第二期 +80
ポーランド Loyal Chemical
Industrial Sp. z.o.o
Kostrzyn-Slubice
Special Economic Zone
,
Police
  100 2007 設立
合計 1,480 180  

このほか、江陰市と寧波市でEPS発泡剤のC4/C5を製造している。

また、カナダのNOVA Chemicals とのJVの寧波長橋工程塑料(Ningbo Chang-Qiao Engineering Plastics)で、NOVAの発泡樹脂 Arcel PS70%/PE 30%)年産45千トンの製造を行っている。

両社は2005年9月に契約を締結、2006年7月に製造を開始した。 


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経済産業省は6月1日、産業構造審議会第6回産業競争力部会を開催し、「産業構造ビジョン 2010」の最終報告書をまとめた。
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004660/index.html#vision2010 

「今後日本は、何で稼ぎ、何で雇用していくのか」について検討、次世代産業として、戦略5分野、①新興国インフラ開拓、②次世代エネルギー、③社会課題解決サービス、④感性・文化産業、⑤先端分野、を挙げている。   

直嶋正行・経済産業大臣から国民へのメッセージ 
   
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004660/vision2010_01.pdf

まず、日本の産業を巡る現状と課題として以下をあげた。  

    ① 日本経済の行き詰まり

  ② 産業構造全体の課題
      特定グローバル製造業依存 
      内需依存型企業のジリ貧 
      国内消耗戦・低収益体質

  ③ 企業のビジネスモデルの課題
      技術で勝っても、事業で負ける

  ④ ビジネスインフラの問題:急速に低下する日本の立地競争力
      アジア中核拠点としての競争力喪失
      高い法人課税負担 
      物流インフラ競争力 
      低水準の高度外国人材受け入れ

  ⑤ 諸外国の産業政策の積極化

日本産業の行き詰まりを直視し、戦後の成長神話から脱却して、産業競争力強化に「4つの転換」を行うことが必要で、国と企業の壁、省庁の壁、国と地方の壁を越え、グローバル大競争時代に打ち勝つ戦略の構築と実施が不可欠とする。

  ① 産業構造の転換
     隠れた強みをビジネスにつなげる「新・産業構造」の構築
       自動車依存から「戦略5分野」の「八ヶ岳構造」へ
      システム売りから文化付加価値型へ
      環境エネルギー、少子高齢化などの制約要因を課題解決産業へ

  ② 企業のビジネスモデル転換
     技術で勝って、事業でも勝つ

  ③ グローバル化と国内雇用の二者択一からの脱却
     積極的グローバル化と世界水準のビジネスインフラ強化による雇用創出

  ④ 政府の役割の転換  
     国家間の熾烈な付加価値獲得競争に勝ち抜く
      市場機能を最大限活かした新たな官民連携の構築

「戦略5分野」は下記の通りで、2020年までに149兆円の市場と258万人の雇用の創出を目指す。

  生産額(兆円)   雇用(万人)
2020年 2007年比
 増減
  2007年 2020年 2007年比
 増減
① インフラ関連/システム輸出
  (原子力、水、鉄道等)
13.4 +12.3   9.8 28.5 +18.7
② 環境・エネルギー課題解決産業
  (スマートグリッド、次世代自動車等)
30.6 +23.7   29.9 66.1 +36.2
③ 医療・介護・健康・子育てサービス 30.5 +12.9   211.8 325.2 +113.4
④ 文化産業立国
  (ファッション、コンテンツ、食、観光等)
56.6 +6.9   299.7 326.1 +26.4
⑤ 先端分野(ロボット、宇宙等) 48.2 +27.4   56.7 119.9 +63.2
合計 179.3 +83.2   607.9 865.8 +257.9
他部門への波及効果   +65.8        
再計   +149.0        

この実施のため、以下の日本の産業を支える横断的政策が必要としている。

① 日本のアジア拠点化総合戦略

② 国際的水準を目指した法人税改革
   実効税率の国際的水準(25~30%)を目指す。まず5%程度の引き下げ

③ 収益力を高める産業再編、新陳代謝の活性化

④ 付加価値獲得に資する国際戦略
   国際標準化、通商戦略、CO2関連新メカニズム

⑤ ものづくり「現場」の強化・維持

⑥ 新たな価値を生み出す研究開発の推進

⑦ 産業全般の高度化を支えるIT

⑧ 産業構造転換に対応した人材力強化

⑨ 成長を創出する産業金融・企業会計

ーーー

本件は6月3日の日本経済新聞の景気討論会でも取り上げられ、出席の三菱ケミカルHDの小林喜光社長(産業競争力部会メンバー)から説明があった。

直嶋正行・経産相が陣頭指揮し、まとめたとのこと。

経産省の責任分野を超えた日本経済全体の問題を扱っており、「国と企業の壁、省庁の壁、国と地方の壁を越え、グローバル大競争時代に打ち勝つ戦略の構築と実施が不可欠」としているが、省庁の壁を越えて実施できるかどうかが問題であろう。


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購入した土地に有害物質のフッ素が含まれ、汚染除去が必要になったとして、東京都足立区土地開発公社が売却元の化学会社「AGCセイミケミカル」に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が6月1日、最高裁第3小法廷であった。

堀籠裁判長は「土地売買時にフッ素の有害性は認識されていなかった」と述べ、同社に約4億5000万円の賠償を命じた2審東京高裁判決を破棄し、請求を棄却した。

AGCセイミケミカルは旭硝子の100%子会社で、1947年に合成香料クマリンの国産化のため清美化学として設立された。(「清美」は、宇田川榕菴がオランダ語で化学を意味する単語「Chemie」を音写して当てた「舎密:セイミ」から名付けられた)
2007年にAGCセイミケミカルと改称。

一貫してファインケミカルの研究開発に力を入れ、特色のある事業を次々と確立した。

現在の扱い製品は以下の通り。
  化学品事業部:含フッ素機能商品、スチレン系機能性モノマー、ガラス用研磨剤
LIB事業部:リチウムイオン電池用正極材料
マテリアル事業部:電子・光関連材料を中心とした機能性有機材料
   (液晶材料で培った材料開発力と受託製造で養ったプロセス開発力、設備能力を融合)
ポリッシング事業部:半導体デバイス表面の平坦化のために使用されるCMPスラリー
Fuel Cell事業推進部:燃料電池材料
      (固体酸化物型燃料電池事業分野の原料粉体供給トップメーカー)

ーーー

足立区土地開発公社は1991年にAGCセイミケミカルから足立区内の化学工場跡地を約23億3600万円で購入した。
問題の土地は「日暮里・舎人ライナー」の建設に伴い、用地買収のため立ち退いてもらう人に提供する代替地になるはずだった。

2003年に都条例でフッ素が土壌汚染の原因物質として規制対象となり、2005年の土壌調査で環境基準を超えて含まれていることが判明した。再調査したところ、40地点でフッ素が基準を超えて検出され、最高で基準の1200倍に達した。

汚染判明後、立ち退く人が土地の受け取りを拒否したため、足立区は掘削などの汚染対策をしたうえで公園用地として利用することを決めた。

公社は売り主のAGCセイミケミカルに除去費や土壌調査費など約4億6100万円の賠償を求めた。

裁判では、契約時には売り手、買い手とも有害と分からなかった物質による汚染が、民法上の「隠れた瑕疵」に当たるかどうかが争点だった。

公社が土壌中のふっ素の存在をはじめて認識したのは2005年11月頃であり、土地引渡し(1992年4月)から10年以上経過していることから、瑕疵担保による損害賠償請求権の時効(消滅時効の起算点は引渡時であるとした最高裁判例あり)により消滅したものとなる。
この点につき、東京高裁は、損害賠償請求権を行使できない特段の事情があったと認定し、消滅時効の起算点を遅らせる解釈をとり、セイミによる消滅時効の抗弁を排斥している。

一審・東京地裁判決は「契約後に生じうる瑕疵について、売り主が半永久的に責任を負うことになり、当事者間の公平を失する」とし、「売買時には社会的に認識されていなかった商品の欠陥について、売り主は責任を問われない」との判断を示し、公社側の請求を棄却した。

二審は当時の認識にかかわらず「本来備えているべき性能、品質に欠ける点があれば瑕疵に当たる」とし、「後から危険性が分かったとしても、売り主が負担すべきだ」と判断、一審判決を変更、同社に約4億5千万円の支払いを命じた。

今回の最高裁小法廷で堀籠裁判長は、「売買契約の当事者間でどのような品質が予定されていたかは、契約締結当時の社会通念を斟酌して判断すべきだ」と指摘。フッ素が有害と認識されたのは契約締結後であり、「売買契約時に危険性を認識できなかった場合、商品に瑕疵があったとは言えず、売り主は責任を負わない」との初判断を示した。


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三菱ケミカルホールディングスと旭化成は5月31日、三菱化学と旭化成ケミカルズの水島地区エチレンセンターの統合について発表した。

両社の水島地区におけるエチレンセンターを統合し、最適生産体制の確立と効率的な事業運営体制が必要と判断し、検討を進めてきたが、共同出資会社を設立して、水島地区の基礎石油化学原料事業を集約・統合することに合意したもの。

経営環境の変化に適時対応した基礎石油化学原料事業生産体制の最適化を実行するとともに、石油精製との連携も視野に入れた水島地区の強化にも鋭意取り組んでいく所存としている。

内容は以下の通り。

・共同出資会社:出資比率 50/50
・事業開始時期:2011年4月1日
・対象製品:エチレン、プロピレン、ベンゼン
       副産品C4、C5、水素、C9、ヘビーエンド等
       (エチレンプラントのみの統合で、誘導品は統合しない)
・事業内容:原材料及び用役の調達
       製造
       三菱化学、旭化成ケミカルズへの販売
       不足分の外部調達
       合理化、効率化計画の具体策立案と実行
・社名、代表者、資本金、企業形態等:未定

・最適化計画
 (1) 両社ともエチレンセンター生産設備のダウンサイジング
     エチレン需要3割減を前提とした設備対応(2012年までに実施)
      * 三菱化学はVCM停止で、2011/5定修時にエチレン 50万トン→38万トン
 (2) さらなるエチレン需要の縮小時にはエチレンセンターを1基に集約(需要動向にあわせて実施)
 (3) 設備のインテグレーションまで含めた留分バランスの最適化
 (4) 原料ナフサの調達、C3等不足留分の共同調達によるコストダウン
 (5) 用役、エネルギー関連のバランス最適化
 (6) インフラの相互活用による効率化

両社の水島のエチレンプラントは定修なし時の能力がいずれも50万トンとなっている。
(METI調査では三菱が496千トン、旭が504千トン)

ーーー

本件は2009年5月に日本経済新聞が報道し、同年6月2日に両社が以下の発表を行った。
    
1. 三菱化学と旭化成は、共同出資会社を設立し、両社の水島地区のエチレンセンター を一体運営する。
2. 3年以内を目処に、水島地区のエチレンセンターの最適化を図る。ただし、設備の統合形態については、現時点では未定であり、今後両社の顧客との関係も考慮しながら検討していく。
3. 両社の石油化学誘導品については、本検討の対象外とし、各社で最適な生産バランスを検討する。

2009/5/19  三菱化学と旭化成、水島でエチレン統合 

その後1年が経過して、ようやく発表されたが、具体的なことは決まっておらず、実施も20014月からとなっている。
設備も需要
3割減を前提にダウンサイジングするだけで、更に需要が減れば需要動向に合わせ1系列に集約するとしている。

日本経済新聞(5/30)は次のように報道している。

両社は昨年6月に交渉入りを発表したが、中国需要の急回復で統合を急ぐ必要性が薄れ、協議が一時中断するなど交渉が難航していた。

当初は今年
4月に事業統合し、3年後をメドに2基のうち1基を停止・廃棄する考えだったが、どちらの設備を止めるかで交渉が難航し、一時は破談の危機を迎えた。今回、設備能力削減については将来の需要をみて統合会社で柔軟に判断するとの方針に転換、1年遅れで合意にこぎ着けた。

千葉地区では出光興産と三井化学が本年4月1日に折半出資で「千葉ケミカル製造有限責任事業組合」(LLP)を設立し、両社のエチレンの運営統合を発表している。

2010/4/3  出光興産と三井化学、千葉のエチレン統合 

単なる運営統合だけでの合理化効果はしれており、抜本対策にはならない。
統合を通じて設備の停止・廃棄することが必要であるが、どちらを止めるのか、決定は難航すると思われる。

ーーー

設備廃棄で問題になるのは従業員対策である。

設備そのものは統合会社に移管するため、どちらを廃棄しても、損失を出資比率で負担するから同じである。
但し、従業員については、恐らく、統合会社に移籍せず、親会社からの出向、もしくは親会社が製造受託する形となる。
このため、廃棄する設備の元の会社が、その従業員の面倒をみる必要が出てくる。

エチレンの縮小は当然、誘導品の縮小にもつながるため(三菱化学はヴイテックの苛性ソーダとVCMプラントの停止を決めている)、そちらの従業員の問題もあり、どちらの設備を廃棄するかは大きな問題となる。

ーーー

三菱化学は2009年5月、ヴイテックが全製造設備を2011年3月末までには停止することを決定したと発表した。

カ性ソ-ダ VCM PVC
水島工場 180千トン  400千トン
四日市工場  100千トン
川崎工場 120千トン

但し、東亞合成の川崎工場内に位置する川崎の設備については、ヴイテックとしては停止するものの、その後については東亞合成が方向性を検討するとしていた。

2009/4/13 三菱化学、PSとPVC事業から撤退 

東亞合成とカネカは本年5月25日、東亞合成が2011年3月にヴイテックから川崎工場のPVC設備を引取り、カネカから年間70~100千トンの製造受託を行うと発表した。東亞合成自体は塩ビ樹脂事業から撤退する。

恐らく東亞合成としては従業員を他の事業に配置転換できないため、この形で雇用を継続するのが目的と思われる。
カネカとしては関東地区の需要家への供給のため、高砂の生産を落として、製造委託するものと思われる。

 

従業員問題がネックとなって、設備過剰状況が続き、業界全体の体力がますます弱まることとなる。



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ホンダの中国の変速機工場でストライキが続き、この影響で完成車を生産する中国の全工場の操業が止まっている。
工場再開の見通しが立たず、影響が拡大していることから、中国の国外にあるホンダの工場から変速機の調達をする検討に入った。

5月17日、広東省仏山市で変速機を製造する本田汽車零部件(南海本田自動車部品製造)で、数百人の社員が賃金と福利に対する不満から仕事を中止した。
一旦復帰し、交渉を続けたが、5
月21日夕刻に再びストに入った。

本田汽車零部件製造有限公司(Honda Auto Parts Manufacturing Co., Ltd.
  設立 : 2005年9月
  稼動開始 : 2007年3月
  所在地 : 広東省佛山市南海工業園区
  生産品目 : トランスミッション(AT/MT)、ドライブシャフト、クランクシャフト、コネクティングロッド
  生産能力 : 24万基/年→現在40万基/年(トランスミッション)

経営側は約350元の賃上げを提示したが、ストに参加した従業員らがこれでは満足できないとして拒否、「日本人駐在員との給与格差が大きすぎる」との不満の声も上がった。

経営側は 一級従業員と2級従業員については、基本給200元、生活補助金35元、食事補助金120元の合計355元引き上げると提案した。

従業員は、「昇給率をさらに拡大し、月給は 20002500元に引き上げるべきだ。業界の平均賃金と比べ、我々の要求は高すぎるものではない」とし、新賃金体系、会社の給与制度改革、会社の管理制度改革の3点を要求した。

江西省の衛星テレビによると、ストが起きているホンダの新人女性従業員が手取りで月額平均約1000元(約1万3500円)なのに対し、同社駐在員の日本人技術者は同5万元と50倍の開きがあり、従業員らが経営側に日本人の給与を公表するよう迫った。

中国では年内にも「同一労働・同一賃金」などを柱とする「賃金法」の成立が見込まれており、中国人従業員らは こうした法整備もにらみながら労使交渉を進めているものとみられる。

同市政府も調停に入ったが、歩み寄りに至らなかった。
調整にあたっているある役人は「賃金表や勤務時間表を見ても、ホンダは規則に違反しているわけではなく、労働者が仕事を中止した理由は主に、最近の物価高で生活が苦しくなったことだ」と明らかにした。

ホンダはこの部品工場でつくっている変速機を、完成車を組み立てている広東省広州市の3工場と湖北省武漢市の1工場に供給してきた。
部品供給がストップし たため、4工場とも5月24日から操業停止に追い込まれる深刻な事態となっている。

中国 四輪車製造工場
年間生産能力(万台)
現在 2012/
広汽本田汽車有限公司
(ホンダ50%/広州汽車 50%
広州・黄埔工場 24 24
広州・増城工場 12 24
本田汽車(中国)有限公司
(ホンダ65%/広州汽車25%/東風汽車10%)
広州・輸出専用工場 5 5
東風本田汽車有限公司
(ホンダ50%/東風汽車50%)
武漢・第一工場 24 24
武漢・第二工場 6
中国合計 65 83

ホンダでは、中国の国外から変速機を調達する検討に入った。しかし、40万台分の変速機をすぐに国外から調達するには量が多すぎるため、すぐに手当をするのは不可能としている。

従業員側の要求を全面的に受け入れれば、ほかの工場の賃上げにもつながる可能性がある。

中国政府はここ数年、労働者の権益保護に力を入れている。
一方、経済発展と一人っ子政策の結果、労働者にとって“売り手市場”になってきている。

付記

ホンダは平均月給 1544元を24%アップし1910元にする案を提案、大半の従業員が受け入れ、6月2日に部品工場の操業を全面的に再開した。

ホンダによると、部品工場の初任給(手当除く)は1049元で、法定の最低賃金ガイドラインを大きく上回っていたが、完成車工場の従業員との給与格差による不公平感などが原因でストがおこった。湖北省武漢の完成車工場では毎年約6%の割合で賃金が上がっているという。

ホンダと下記の現代自動車で共通するのは、完成車と部品工場の待遇差で、製造するモノの付加価値の差により、労務費に大きな差がある。単純労働の従業員にとっては完成車でも部品でも同一労働であり、部品工場が冷遇されたとの差別感がある。
これに、日本や韓国など本国から派遣された管理職や駐在員とのケタ違いの給与格差を中国メディアに指摘され、被害者意識を増幅しているという。

付記

ホンダは6月8日、広州市にある完成車生産の主力2工場「増城工場」「黄埔工場」の9日の操業を停止すると発表した。
同じ仏山市にあるホンダの変速機工場で起きたストで約2週間生産がストップし、先週末から平常稼働に戻ったばかり。

ホンダの系列部品メーカー、ユタカ技研の中国・広東省仏山市にある佛山市豊富汽配有限公司で7日、賃上げを求めるストが発生、8日も生産が完全停止し、9日も生産停止が決まった。このため、ホンダの両工場に部品を供給できなくなった。

同社はユタカ技研が65%、台湾のMoonstone Holdingsが35%を出資、コンバータ、サイレンサー等の生産を行っている。

賃上げを求める動きが、ホンダから系列メーカーの工場に波及した。

ーーー

中国紙によると、中国の現代自動車の完成車工場に部品を供給する北京市の工場で5月28日に賃上げを要求するストライキが発生した。ホンダのストが飛び火した。

ストを行ったのは現代系の自動車部品メーカーの北京星宇車科技で、部品供給先である完成車工場で特別手当が支給されたことから、同様の手当を求め、生産がストップした。

ーーー

中国では台湾の大手電子機器メーカー「鴻海グループ」の中国子会社「富士康」(広東省深セン市)で若い従業員の自殺が相次いで問題になっている。

富士康はアップル、デル、ヒューレット・パッカード、ソニー、任天堂など有名企業のIT製品を受託製造しているが、今年に入って27日までに13人が自殺を図り、うち10人が死亡した。

自殺が相次いだ原因は今のところ不明だが、同社では従業員の待遇はいいと強調し、背景には多数の要因があるようだと説明、従業員の心理状態を分析し、問題の根本を突き止めようとしているという。

台湾メディアによると、富士康の若い従業員の給料は1000元前後と、現地の最低賃金とほぼ同額で、残業代を加えて1600~2500元で、田舎の家族に約3分の2を仕送りするという。

「勤務体系が115時間で、月の残業時間が80時間以上」とする報道もある。

「南方週末」は取材のため、記者を正社員として28日間工場に潜入させた。
「短い食事と睡眠休憩以外は来る日も来る日も祝日以外ノンストップの、いつ果てぬともない単純作業の繰返し」という労働環境に強い衝撃を受けたと言う。

同社に製造委託している各社は、労働条件の調査に乗り出した。

中国紙によると、アップルでは低賃金が自殺続出の一因とみて、新型マルチメディア端末「iPad」などの加工費引き上げを検討している。

鴻海グループは5月28日、富士康の中国人従業員を対象に約20%の賃上げを行う計画を明らかにした。

付記

鴻海は富士康の深セン工場の基本給を当初の20%アップから拡大、6月1日から、月900元から1200元に33%引上げた。深セン以外の中国全土でも30%以上の賃上げ実施としている。

付記

6月6日、鴻海は富士康の深セン工場の基本給を10月1日から月2000元にすると発表した。6月1日からの引き上げと含め、それまでの2.2倍になる。
基本給を引上げるとともに、残業を3時間に縮小した。
深セン以外の中国人従業員の再賃上げは7月1日以降、地域ごとに発表される。

他の外資企業にも影響が出そうだ。

ーーー

今後、中国進出企業にとって、労使トラブルや労務コストの増大が大きな問題となりそうだ。


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