「黒海穀物イニシアチブ」 破綻の一因、ロシアのアンモニア輸出

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ロシア外務省は7月17日、黒海を通じたウクライナ産穀物輸出に関する合意「黒海穀物イニシアチブ」に関し、同日に期限を迎えたイニシアチブの延長に反対するとし、合意当事国のトルコ、ウクライナと国連事務局に通知した。これにより7月18日にイニシアチブの効力が停止した。

2022年7月22日、トルコ、ウクライナ、ロシア及び国連は、ウクライナのオデッサ港、チェルノモルスク港、ユージヌイ港から、 穀物とアンモニアを含む肥料の安全な輸出に関するイニシアチブに署名した。

外交関係者らによると、主な合意内容は次の通り。

  • 農産物を載せた貨物船が航行中は、ロシア軍は黒海に面したウクライナの港を攻撃しない
  • 機雷が敷設された水域では、ウクライナ艦艇が貨物船の安全航行を誘導する
  • 密輸に対するロシアの懸念に対応するため、トルコは国連の支援を受けて貨物船を検査する
  • 黒海からのロシア産穀物や肥料の輸出も可能にする

 対象輸出品については、実際の条項は次の通り。

 3. The purpose of this Initiative is to facilitate the safe navigation for the export of grain and related foodstuffs and fertilizers, including ammonia from the Ports of Odesa, Chernomorsk and Yuzhny ("the Ukrainian ports").

ウクライナの3港からの輸出であり、ロシア産穀物は対象とならないが、ロシア産のアンモニアはOdesa港までパイプラインで運ばれており、対象になる。

しかし、ウクライナがロシアのアンモニアが領内を通過するのを認めない。このため、国連は米国のトレーダーのTramoがロシアとウクライナの国境でアンモニアを買い取り、自社品としてウクライナ領内を運び、輸出させる案を検討した。Tramoも前向きであったが、実施されていない。

2022年10月30日、ロシア政府は、黒海穀物イニシアティブの履行を無期限で停止するとの声明を発表した。ロシアは、履行停止の理由として、クリミア半島のロシア海軍基地にある黒海艦隊の艦船が穀物輸出船からのドローン攻撃を受けた可能性があることを挙げた他、同攻撃への英国の関与を主張した。

11月1日、トルコのエルドアン大統領はプーチン大統領との電話会談において、合意への復帰を求めた。ウクライナ・インフラ省は11月17日、黒海を経由するウクライナ産穀物輸出に関する合意が120日間延長されると発表した。

ロシア外務省は2023年3月14日、3月18日に期限を迎える穀物合意「黒海イニシアティブ」の再延長に合意するも、その期間を60日に限定すると発表した。

期限前日の5月17日、ロシアが60日間の延長に合意した。

今回の効力停止について、ロシア外務省は声明の中で、2022年7月のイニシアチブ締結の際に、ロシアと国連事務局との間で締結したロシア産農産物と肥料輸出の正常化に関する覚書の実施に前進がないことを挙げたほか、ウクライナが人道的海上輸送路を隠れみのに、ロシアの民間および軍事施設を攻撃していると批判した。

プーチン大統領は7月19日、ロシアが延長に合意しなかった黒海イニシアティブについて、西側諸国が自らの目的達成のために歪めていたと非難した。同時に、ロシアが提示している5つの重要な条件の全てが満たされれば、ロシアは「直ちに」復帰すると改めて表明した。

プーチン大統領は「黒海イニシアティブには当初は極めて重要な人道的意義があったが、西側諸国はこの本質を完全に骨抜きにし、変質させた。困窮している国々を支援する代わりに、西側諸国は穀物取引を政治的な恐喝の手段として利用しただけでなく、世界の穀物市場で投機を行う多国籍企業を富ませる道具にした」と述べた。 

プーチン氏が挙げた要求は、
1)ロシア農業銀行の国際銀行間通信協会(SWIFT )決済システムへの再接続
  2022/3/4 EU、ロシア7銀行をSWIFTから排除
2)ロシアへの農業機械とスペア部品の禁輸措置の解除
3)ロシアの船舶と貨物に対する高額の保険料設定の見直しと港湾施設へのアクセス制限の撤廃
)ロシアのトリヤッチとウクライナのオデーサをつなぐアンモニア輸出パイプラインの復旧
5)ロシアの肥料会社の口座と財務活動の遮断解除。

アンモニア輸出パイプラインは2022年2月のウクライナ戦争勃発後、稼働を停止しているが、この再起動がウクライナの数百万トン穀物の輸出同意の交渉条件であったにも拘らず、アンモニア・パイプラインが破壊されたと伝えている。

パイプライン爆破は 本年6月5日の夜間、ウクライナ北東部ハルキフ州、マシウトフカ村近くで発生した。 ロシア防衛省は、6月7日、ウクライナのテロ破壊グループが、ロシアが再稼働を強く希望していたアンモニア・パイプラインをダイナマイト爆破したと発表し、ウクライナを強く非難した。 ウクライナ側のハリコフ州知事は、ロシア軍が州内でパイプラインに繰り返し砲撃を行ったと主張した。


他の項目については、ロシアへの追加経済制裁として実施されているもので、欧米がこの要求に応じる見込みはほとんどない。

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アンモニアは窒素肥料の原料で、2022年2月のウクライナ侵攻以前はこのパイプラインがロシアの主要な輸出ルートだった。

ロシア内陸部のサマラ州トリヤッチから、黒海に面したウクライナ・オデッサ州のピウデンヌィ港まで、全長2,471kmに及ぶパイプラインが伸びている。

パイプラインの起点になっているトリヤッチ市にUralchemの子会社の「トリヤッチアゾト (Togliattiazot )」という窒素肥料工場であり、ここで生産された液化アンモニアがパイプラインに注入され 、その終点に当たる「オデッサ臨港工場」のターミナルでタンカーに積み込まれて輸出されていた。


このパイプラインでは、年間250万tあまりの液化アンモニアの輸送が可能。

プーチンはこのパイプラインの復旧を「黒海穀物イニシアチブ」延長の条件の一つにしている。

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1970年代に「デタント(緊張緩和)」の時代が訪れ、米ソの経済協力が行われた。その機会を捉え、Armand Hammerが経営するOccidental社は1973年にソ連との間で、トリヤッチアゾトとオデッサ臨港工場という2つの工場と、両者を結ぶアンモニアパイプラインの建設プロジェクトの契約を締結した。単にインフラを建設するだけでなく、生産されたアンモニアをOccidental社が買い取るというスキームである。

その当時、アメリカではリン酸肥料は潤沢だったが、アンモニアおよび窒素肥料は輸入に依存していた。一方、天然ガス大国であるソ連ではアンモニアおよび窒素肥料のポテンシャルが大きい一方、当時はリン酸肥料が不足していた。
そこでHammerは、アメリカから資金と技術を提供してソ連に窒素肥料工場とパイプラインを建設し、アンモニアをアメリカが引き取る一方、米フロリダのOccidentalの工場で生産したリン酸肥料をソ連に供給するという契約をまとめた。 期間20年、200億ドルという大型契約である。

トリヤッチアゾトとオデッサ臨港工場の建設は1974年に始まり、前者は1978年に、後者は1979年に稼働。パイプライン全体が開通したのは1981年で ある。

1991年暮れにソ連邦が崩壊し、アンモニアパイプラインはロシアとウクライナという2つの独立国にまたがることになったが、パイプラインの利用は続いた。液化アンモニアは鉄道での輸送も可能だが、出来合いのパイプラインで港まで運んだ方が、コスト的にメリットが大きい。

近年アメリカではシェール革命を受けアンモニア輸入需要が縮小しているため、オデッサからの輸出もアメリカ以外の国向けが多くなってきている。

2019年にパイプラインは251万tのロシア産液化アンモニアを輸送し、これは史上最高記録である。

  以上 https://globe.asahi.com/article/13613073 から

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化学肥料の三要素である窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)は生産地が偏っているが、ロシアはそれら全てを産出する世界最大の肥料輸出国である。2021年の世界輸出量でロシア産は全体の17%、ベラルーシ産は6%を占める。とくにカリウムは両国が42%の世界シェアを握っている。(下の農水省資料では34%)

詳細は 農林水産省 我が国と世界の肥料をめぐる動向


ロシアはトリヤッチ~オデーサのアンモニアパイプラインが使えないが、ベラルーシもEUがルカシェンコ大統領の人権侵害に対して、2021年にカリウムなどの輸出を規制する経済制裁を決めたため、隣国リトアニアなどEU加盟国を経由してバルト海から肥料を輸出するルートは閉ざされている。

このため、両国は肥料の迂回輸出に動いている。

「ロシアは黒海から輸出していた肥料のほとんどをバルト海経由(北西部ウスチ・ルガ港や北極圏のムルマンスク港など)に切り替え、中国に向かう国内鉄道でも輸送している」(IFAの市場戦略情報ディレクター)。

黒海に面するタマン半島ではアンモニアなど肥料の積み替え施設の建設が進んでいる。 (ずっと以前に計画されたが、 買収した農地の所有権問題で裁判沙汰になり、長らく中断していたもの)

Taman港まで鉄道を延長、港に貯蔵・出荷設備を建設する。 建設費は約8億米ドル。第一段階として2023年12月に年間200万トンのアンモニア輸出を開始、2025年12月には更に年間150万トンのアンモニア(合計年間350万トン)と年間150万トンの尿素を輸出する。これにより既存のウクライナ経由のパイプラインは不要となる。(その場合、プーチンのその他の要求が重要となる。)

Togliattiazot 親会社Uralchemの会長のインタビュー 

Togliattiazot:アンモニア、尿素

OTEKO Group (Tamanneftegas):石油製品、LPG

Pischevye ingredienty:
 grains and grain meal (年間1000万トン)
 vegetable oil (年間300万トン)
 
 輸出能力は出来るが、代金決済問題、保険問題が障害
  (プーチンが解決を要求)

ベラルーシは「ロシアの鉄道網を使って中国にカリウムを輸出している。今のところ数量は限られるが、いったんロシアに輸出してバルト海から海上輸送するルートもある」。

ロシアやベラルーシが肥料の輸出先を中国やインド、ブラジルなどにシフトしている。国際取引の急激な変化は肥料供給のバランスを崩しかねない。

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