2012年5月アーカイブ

肺がん治療薬「イレッサ」服用後に副作用の間質性肺炎で死亡した患者の遺族ら11人が、国と輸入販売元の製薬会社アストラゼネカに計約1億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は5月25日、アストラゼネカのみに賠償を命じた1審・大阪地裁判決を取り消し、原告側の請求を全面的に退けた。

先行する東京訴訟でも、一審東京地裁判決が国とア社双方の責任を認めたのに対し、二審東京高裁判決は一転して請求を退け、司法判断が分かれた。

イレッサ(一般名はGefitinib)は英国のAstraZenecaが開発した肺がん治療薬

厚生労働省は2002年7月、世界に先駆けて、申請から半年で輸入承認した。
2002年8月に発売され、2カ月の間に、1万人以上の患者に投与された。

がんの増殖、転移に関係する分子を狙い撃ちにする「分子標的治療薬」で、正常細胞を傷つける抗がん剤より副作用が軽いと期待されたが、市販開始直後から間質性肺炎などによる副作用死が相次いだ。

販売を始めた2002年7月には添付文書の「重大な副作用」の4番目に致死性の肺炎が記されていたが、副作用死が相次いだ。

厚労省は同年10月、全国の医療機関に緊急安全性情報を出し、肺炎の副作用を「警告欄」に記載するよう改めた。

致死性の肺炎の可能性の記載を「重大な副作用」の4番目から「警告欄」に移すまでの期間が問題となった。

これまでの多くの研究・調査の結果から、以下のことが明らかになっている。
・ゲフィチニブは上皮成長因子受容体に特定の遺伝子異常を有する人に対して高い有効性を示す。
・日本人肺癌患者の約30~40%程度にこの遺伝子異常が認められる。

2011年3月末時点での死亡者数は,報告されているだけでも825人にも上っている。

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大阪地裁と東京地裁で裁判が行われ、両地裁は和解勧告を行った。

原告側は和解による早期決着を求め、政府も和解を検討していた。

ところが、関係医学会から和解勧告を批判する見解が相次いで出され、結局は国もア社も和解を拒否した。

日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会、日本医学会が和解を批判した。「科学的に合理性を欠いた対策を取ることは避けるべき」とした。

この見解発表の前に、厚生労働省が、「日本医学会として懸念の声明を発します」との声明文案を渡していたことが判明した。東京・大阪両地裁が「非公開」を要請した和解勧告全文も渡していた。

厚生労働省は、「文案提供は過剰なサービス」として局長ら4人を訓告とした。
声明を出す働きかけそのものは、メディア対策として「通常の職務執行の範囲内」とした。

2011/1/31 政府、イレッサ訴訟で和解勧告拒否

和解拒否の結果、両地裁は判決を下した。

地裁判決と、その後の高裁判決の概要は以下の通り。

東京 東京地裁 判決 国とア社に1760万円の支払いを命じる
ア社 イレッサは特定の患者に高い効能、効果があり、製造上の欠陥はない
当初の添付文書の記載では医師らへの情報提供が不十分で、指示・警告上の欠陥
(PL法上で規定する「通常の安全性を欠いた状態」)
添付文書に致死的となる可能性を記載していれば、間質性肺炎で死亡することはなかった
国は承認前の時点で副作用による間質性肺炎で死に至る可能性があると認識
安全性確保のための必要な記載がない場合、国は記載するよう行政指導する責務がある。
間質性肺炎の危険性を目立つように記載するよう指導しなかった国の対応は違法
東京高裁 判決 地裁判決取り消し、遺族側主張を全面的に退ける
ア社 イレッサには有用性があり、製造における設計上の欠陥はない
イレッサの初版添付文書に警告欄がなく、副作用が致死的になり得るとの記載がなくても、指示・警告上の欠陥ではない

専門医が処方する薬剤
専門医であれば間質性肺炎による死亡の可能性を認識
国内の治験で死亡例はなく、海外の死亡例も因果関係があるとまでは言えない

欠陥があるとの前提事実がない以上、規制権限の不行使が違法かどうか論じるまでもない
大阪 大阪地裁 判決 ア社原告9人に計6050万円の支払いを命じる
ア社 警告欄に記載するなどして注意喚起を図るべきだった。
緊急安全性情報配布(2002/10)前は製造物責任法上の欠陥があり、賠償責任あり。
添付文書に関する行政指導は必ずしも十分ではないが、当時の知見のもとでは一定の合理性がある。
国家賠償法上の違法はない。
大阪高裁 判決 大阪地裁判決を取り消し、原告側の全面敗訴
ア社 担当医は肺がん治療を手掛ける医師であり、添付文書の重大な副作用欄を読めば、間質性肺炎の危険性を認識できた
副作用欄の4番目だからといって、担当医が致死的でないと理解するとは考えにくい
治験や海外症例などを含め、副作用の間質性肺炎による死亡は11例あったが、因果関係が明確と言えるのは1例で、「一般的な副作用を超える副作用を予測することは困難だった」
イレッサ自体に問題がない以上、責任はない

東京、大阪ともに、地裁が当初の添付文書の記載では医師らへの情報提供が不十分であるとし、東京地裁は国に指導の責任があるとした。

これに対し、高裁はいずれも、専門医であれば記載の個所に関係なく危険性を認識できるとした。

 

大阪の原告側は上告する方針。東京も原告の一部が上告中で、審理は最高裁に持ち越された。

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5月27日付毎日新聞社説は以下の通り述べている。

2審になると東京高裁も大阪高裁も一転して原告の訴えを退けた。イレッサは難治性の肺がんにも有効性があり、承認当時の添付文書の副作用欄に間質性肺炎が明記されていた。だから認可した国にも販売元の会社にも責任はない、というのが大阪高裁の判断だ。

では、販売後わずか半年で間質性肺炎によって180人が死亡、2年半で死者557人に上ったのはなぜか。
「(添付文書を読めば医師は)副作用発症の危険性を認識できた」と大阪高裁判決は断定する。医師たちは危険を分かりながら副作用死を出してきたというのだろうか。

イレッサは副作用の少ない「夢の新薬」と大々的に宣伝され、難治性の肺炎患者や家族の期待はいやが上にも高まった。間質性肺炎はたしかに添付文書に載ってはいたが、重大な副作用欄の後ろの方の目立たないところにあった。臨床試験では間質性肺炎とみられる死亡例がいくつも報告されていたが、それらは添付文書のどこにも載っていない。

やはり情報の伝え方に問題があったと見るのが自然ではないだろうか。実際、目立つように添付文書が書き換えられてから副作用死は急減した。ただ書いてあればいいということではないはずだ。



ブリヂストンは「持続可能な」社会の実現に向け、再生可能原料のみを使った理想のタイヤ技術を目指すことを明らかにした。
同社の
会長がWorld Rubber Summit 2012 で「100%サステナブルマテリアル化」に向けた取り組みについて講演した。

ブリヂストンの環境長期目標は以下の通り。

ブリヂストンの環境長期目標

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「100%サステナブルマテリアル化」に向けた具体的なアクションは以下の通りで、
①原材料使用量の削減
②資源循環、効率的活用
③再生可能資源の拡充・多様化による非再生資源ゼロを目指す技術
により、何もしなければ増加する資源使用量を地球の自浄能力・扶養力ライン以下に抑える。

「100%サステナブルマテリアル化」に向けた具体的なアクション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






「再生可能資源の多様化・拡充」の取り組みは以下の通り。

1)新しい再生可能資源に『拡げる』取り組み

 ①天然ゴム生産地域の多様化

熱帯での天然ゴム資源に加えて、乾燥帯や温帯で育つ天然ゴム資源となる植物を栽培し活用する。

例 グアユール(guayule)
     米国南西部からメキシコ北部の乾燥地帯が原産の低木
     幹部などに天然ゴムを含む。


   ロシアタンポポ(
Russian Dandelion)
            カザフスタンおよびウズベキスタン原産の多年草
     根部に天然ゴムを含む。

 ②タイヤ用補強繊維で植物由来繊維の多様化・拡充

現在は、ポリエステルやナイロンなどの原油由来と、レーヨンのような植物由来の繊維を使用。
「新セルロース繊維」の実用化に向けた取り組みをスタート、植物由来繊維の供給性を大幅に向上させる。

2)化石資源を再生可能資源に『換える』取り組み

 ①バイオマス由来合成ゴムの開発

バイオエタノール由来のブタジエンを用いた合成ゴムなど

 ②バイオマス由来カーボンブラックの開発

植物油脂類を原料油として用いたカーボンブラックなど

 ③バイオマス由来新規ゴム配合剤の開発等

糖質からのバイオエタノール、植物油脂類からの脂肪酸、木材からのセルロース・リグニンなど、バイオマスから得られる基本化合物から新規に高性能ゴム材料を開発



付記

ブリヂストンは5月31日、味の素からバイオマスから生成したイソプレンの提供を受け、合成ゴムの重合に成功したと発表した。

両社は2011年6月に新しいゴム原料及びそれを用いた合成ゴムの共同開発についての共同研究契約を締結し、研究を行ってきた。

今回、材料にバイオマスを使用、味の素が発酵技術を活用してイソプレンを生成、これをブリヂストンが同社の重合触媒技術を使って、合成ゴム〔高シスポリイソプレン〕の重合に成功した。


宇部興産は5月23日、同社のタイの子会社UBE Chemicals(Asia)の株式の一部をPTTの子会社IRPC Public Companyに譲渡する契約を締結したと発表した。

IRPCは約53億バーツを出資し、UBE Chemicals(Asia)の増資引受及び宇部からの購入で25%の株主となる。
これに伴い、出資比率は以下の通りとなる。

宇部興産   68.99%(←92.67%)
IRPC      25.00%
丸紅        4.78%
その他      1.23%

IRPC は、天然ガス・石油関連を主なビジネスとするタイ最大の上場企業であるPTT Public Company Limited グループの中核会社の一社。旧称 TPI (Thai Petrochemical Industry)で、経営危機に陥り、PTTが38.51%を出資した。

生産能力:エチレン360 千t、プロピレン312 千t、SM 200 千t、HDPE 152 千t、PP 475 千t、ABS 116 千t

UBE Chemicals(Asia)の工場はIRPC の石油化学コンプレックスに近接し、IRPC から硫黄などの原料やユーティリティの供給、港湾設備・貯蔵タンクなどのサービスを受けている。

今回の資本提携により、宇部興産は、IRPC からのより競争力のあるコストでのサービス提供が期待でき、また、今後タイで新たに展開する宇部のプロジェクトにPTT グループが参画することで、原料・土地・ユーティリティの確保、PTT グループの既存設備の有効活用などのメリットも期待している。

ーーー

UBE Chemicals(Asia)は、2010年2月1日に下記の2社を吸収して設立された。
ナイロン樹脂、ナイロンコンパウンド、カプロラクタム、硫安、その他製品の製造・販売を行っている。

1.Thai Caprolactam Public Company  

業務:カプロラクタムおよび硫安の製造販売  
出資:宇部興産     44.45%
53.63%91%
      
 TPI Polene   31.79%
26.50%  0%
             丸紅   14.62%
12.20% 7%
             Bangkok Bank   0  
 →  2.57%2%
能力:
カプロラクタム 110千トン(
13万トン)、硫安 460千トン   

2.UBE Nylon (Thailand) Ltd.   

業務:ナイロンの製造販売 
出資:宇部興産 51%
91%100%
   TPI            40%
0
         日商岩井    9%
9%0
能力:
ナイロン6  74,500トン
   
ガラス強化コンパウンド  6千トン

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宇部興産は2008年12月PTT Public Company Limitedと、カプロラクタム、合成ゴムなど化学事業についてタイ国における共同事業化を検討することを決定し、覚書を締結したと発表した。

豊富な化学原料を持つPTTは、川下製品への進出によりチェーンの強化を図っており、化学製品をグローバルに生産販売している宇部興産との提携は、原料の確実な確保とタイでのさらなる事業拡大を行いたい宇部興産のニーズと一致し、検討を進めることになった。

宇部興産が既にタイに生産拠点を持つカプロラクタム・ナイロン・合成ゴムに限らず、幅広い化学事業を対象としてタイでの事業化の検討を両社で行うとした。

2008/12/23 宇部興産、タイでの化学事業のPTTとの共同事業化を検討

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宇部興産はタイに他に下記の子会社を持つ。

Thai Synthetic Rubbers Co.,Ltd. (ブタジェンゴムの製造販売) 

出資:宇部興産 73.1%、丸紅 13.0%、TSRC(台湾) 13.0%ほか
能力:72千トン(当初 50千トン)

UBE Fine Chemicals (Asia) Co., Ltd. (ファインケミカル製品の製造、販売)

出資:宇部興産 100%
能力:
1,6へキサンジオール、併産1,5ペンタンジオールを含め年産能力 6,000t

  

住友化学は5月25日、Saudi Aramcoと共同で設立したRabigh Refining and Petrochemical (PetroRabigh) の「ラービグ第2期計画」について、FSで事業性を確認し、EPC(エンジニアリング・調達・建設)契約をはじめとする各種プロジェクト契約の締結や、プロジェクト・ファイナンスの確保などの作業を進めていくこととしたと発表した。

住友化学とAramcoは2009年4月に「ラービグ第2期計画」のFS実施の基本的な枠組みを定めた覚書を締結し、FSを続けてきた。

2009/4/21  住友化学とアラムコ、「ラービグ第2期計画」の共同FS実施


「ラービグ第2期計画」の内容は以下の通りで、エタンクラッカーの増設や芳香族プラントの新設を通して、付加価値の高いさまざまな石油化学製品を生産する。
エチレンの生産能力は30万トン増の160万トンになる。

総投資額は約70億ドルを想定、2016年前半から順次稼動させていくことを目標としている。


アクリル酸、SAP(高吸水性樹脂)、カプロラクタム、ナイロン6樹脂、ポリオールについては、第三者との協業も含めて、引き続き最適な実施の形態について検討する。


なお、ラービグ1期計画は安定稼働まで時間がかかり、投資回収が想定より遅れている。

住友化学では、「現地の運転員も技術が向上した。今回は設備が前回より小さいため、早期に稼働率を高められる」としている。

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ラービグ計画のプロジェクト・ファイナンス契約の完工保証は4月17日付で終了した。

完工保証はプロジェクトが安定的な操業を通じて債務返済を可能とするキャッシュフローを継続的に稼ぎ出すことが確認されるまでの一定期間につき、出資企業が借入先に対する融資金全額の返済を保証する仕組み。

PetroRabighは、2006年3月、国際協力銀行やサウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンドを始めとする銀行団と、総事業費 約100億米ドルの6割にあたる約58億米ドルの融資を受けるプロジェクト・ファイナンス契約を締結した。
この契約に関し、住友化学とSaudi Aramcoは、融資額の2分の1ずつについて完工保証を行ってきた。

PetroRabighは今後、出資企業の信用力に頼ることなく、自社で生み出すキャッシュフローを原資に、借入金の返済を行う。


 

ナフサ価格が急落している。

東京オープンスペックナフサ価格は5月1日は1008ドル/トンであったが、その後急落し、5月25日終値は832ドルとなった。

原油価格も下がっているが、ナフサ価格の下落はそれ以上である。

現在行われている石化製品の値上げ交渉にも影響が出ると思われる。




サムスン電子が「夢の新素材」と呼ばれる炭素素材グラフェンを活用した新しいトランジスタ構造を開発した。
グラフェンを活用したトランジスタが完成すれば、従来の100倍以上のデータ処理能力が可能になるとされる。

5月17日付のScience誌(電子版)に掲載された。
  Graphene Barristor, a Triode Device with a Gate-Controlled Schottky Barrier

半導体にはシリコン素材のトランジスタが数十億個含まれているが、半導体の性能を高めるためにはトランジスタを小さくすることで移動距離を縮めたり、電子の移動速度を高められる素材が必要。

優れた移動速度を持つグラフェンはシリコンにとってかわる物質として脚光を浴びているが、グラフェンが金属に近い特性を持っていることから、電流を遮断できないという問題点がある。

グラフェンをシリコンの代わりに商用化するためには半導体化のプロセスを変える必要があり、この過程でグラフェンの移動速度が急落するため、トランジスタとして使うことには否定的な意見が多かった。

グラフェン (graphene) は炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をとっている。

参考  グラフェンの高速トランジスタ応用への注目と課題  
    (科学技術政策研究所  科学技術動向 2010年5月号)
 

パク・ソンジュン専門研究員(41)が率いるサムスン電子綜合技術院の研究陣は、2009年から3年にわたる研究で、グラフェンの長所を損なうことなく電流を遮断することのできる素材を開発した。

グラフェンとシリコンを接合して Schottky Barrier というエネルギーの壁をつくり、壁の高さを調節することで電流を発生させたり、消したりできる。
Barrierを自在に調節することから、サムスン電子は新素材を「Barristor」と命名した。

サムスン電子総合技術院はグラフェンを用いたトランジスタの動作方式に関する中核技術を9つ確保している。

パク・ソンジュン専門研究委員は、 「グラフェンの素子研究の難題を解決したという点で大きな意味を持つ。グラフェン半導体の商用化は約10年後になるだろうが、関連分野でリードするための基礎を築いた。商用化に尽力して、半導体強国としての位置を維持するのに貢献したい」と述べている。



国際商工会議所の国際仲裁裁判所は5月24日、Dow とKuwait国営のPetrochemical Industries Company (PIC) との間のK-Dow Petrochemical に関する調停結果を発表した。

PICがK-Dow Petrochemical 設立の契約を破棄したため、Dowが損害を被ったとして訴訟を行い、最終的に調停を求めることとしたもの。

仲裁裁判所はPIC側に責めがあると認定し、PICに対しDowへの21.6億ドルの損害賠償支払いを命じた。金利と費用はこれに追加される。

ダウとPICは調停結果に従うことを決めており、これが最終となる。

ーーー

Dowは2007年12月13日、Kuwait国営石化会社 PIC との間で50/50のグローバルな石化JV K-Dow Petrochemical を設立すると発表した。

DowのPE、PP、PC、エチレンアミン、エタノールアミン などの事業を移管するもので、Dowは事業売却額マイナス出資で75億ドル、配当15億ドルで、合計90億ドル(税引後では70億ドル)を受け取ることとなっていた。

2007/12/14 速報 ダウとクウェートのPIC、グローバル石化JVを設立  

一方、ダウ は2008年7月10日、188億ドルでRohm and Haas (R&H)を買収する契約を締結したと発表した。
現金153億ドルで全株式を買収し、R&Hの35億ドルの借入金を引き継ぐ。

2008/7/11 速報 Dow Chemical、Rohm and Haas を買収

Dow はR&H 買収資金の188億ドルを、つなぎ融資 130億ドル、Warren Buffett のBerkshire Hathaway Inc. からの投資 30億ドル、Kuwait Investment authorirty からの投資10億ドルで賄うことにしており、PICへの売却資金でつなぎ融資の一部を返済する予定であった。

これにより、ダウの変身戦略が成功し、価格変動の影響を受ける石油化学をAsset-light 方式で全てJV化するとともに、R&H 買収でスペシャルティ分野の強化が出来る筈であった。

しかし、2009年1月1日のスタートを目前にして、2008年12月28日、K-Dow Petrochemicals が破談となり、この金が入らなくなった。

2008/12/29 ダウとクウェートの石油化学合弁、一転破談に

2009年1月23日、ダウはR&H との統合でFTCの承認を得たと発表した。

2009/1/26 FTC、Dow と Rohm and Haas の統合を条件付で承認

契約ではすべての条件が満たされた2日後に買収を実行することとなっており、1月27日が期限となる。

しかし、つなぎ融資は1年間の契約のため、 Dowとしては資金繰りの目処をつけるまでは買収を行えない状況に陥り、R&Hに訴えられた。

その後、Dowはこれまでと異なる条件で4月1日までに買収を行うことで合意した。
つなぎ融資の額を減らすとともに、融資期限の延長により、その間に有利な事業売却を検討できることとなった。

2009/3/10  ダウ、Rohm & Haas 買収で合意 

また、Dowは史上初の減配を行い、年間10億ドルの資金を節約した。
   2009/2/23 
Dow Chemical、史上初の減配

Dowは2009年4月1日、Rohm & Haas(R&H)の買収を完了したと発表した。

2009/4/3 ダウ、Rohm & Haas の買収を完了


Dowはその後、つなぎ融資返済のため、多くの手を打ってきた。

  • 60億ドルの新規長期ローン
  • 22.5億ドルの増資
  • 30億ドルの永久優先株の回収
  • R&H子会社のMorton Salt 売却(17億ドル )
  • 塩化カルシウム事業のOccidental Petroleumへの売却(210百万ドル)
  • Total とのJVのTotal Raffinaderij Nederland N.V. のTotal への売却(725百万ドル)
  • マレーシアのOptimal 売却(660百万ドル )
  • Powder Coatings 事業のAkzo Nobel への売却
  • 投資会社Bain Capital Partnersへのスタイロン事業売却(16.3億ドル )

 

Dowはこれらにより資金問題を解決、現在では配当も増やしている。(四半期配当)

 




東京電力は5月21日、2種類の優先株を合計19億4000万株、金額換算で1兆円を発行すると発表した。

同社は原子力損害賠償支援機構から賠償に必要な資金の交付(3月末時点で、枠として2兆4,263億円)を受けているが、賠償費用以外の費用・損失が増大し、財務基盤は大きく毀損している。

債務超過リスクや資金繰り面でのリスクを回避し、事業の継続性を確実なものにするとともに、公募債市場への復帰等自律的な資金調達力の早期回復を図るためにも、資本を増強し、財務基盤を強化する。

6月27日の株主総会で承認を受ける。
政府の原子力損害賠償支援機構が全株引き受け、7月25日までに全額を払い込む。

これにより、東電の経営は実質公的管理下に置かれることになる。

東電は公的管理が終結した後、「経営改革及び株式市場に悪影響を与えない範囲で、適切な時期に当社による機構所有株式の取得、普通株式への転換による株式市場への売却等によって出資金の回収を目指す」としている。

今回の決定の概要は以下の通り。

1.発行可能株式総数の増加

現在        18億株
改正後 141億株

2.2種類の優先株の発行

  A種優先株(議決権付種類株式)    1株   200円   16億株    合計 3,200億円
  B種優先株(転換権付無議決権種類株式)    1株2,000円     3億4千万株              6,800億円
 合計             10,000億円


A種、B種合わせて資本金が5,000億円、資本準備金が5,000億円それぞれ増加し、諸費用を除くと東電の手取り調達額は9,963億円となる。

調達した資金は、素早く適切に損害賠償を進めるほか電力の安定供給に使い、「2015年3月末をめどに随時使用する」。

なお、優先株は他の株主に優先して配当を受け取れるが、賠償資金を返済することを優先することから、配当は考え難い。

3.  A種は議決権付きのため、出資により原子力損害賠償支援機構は50.11%の議決権を取得する。

東電の現在の発行済株式総数   1,607,017,531株 (資本金  9009億75百万円)
うち、議決権付き株式   1,593,149,800株  
A種優先株   1,600,000,000株  50.11%
議決権付き株式合計   3,193,149,800株  

4. 機構は「改革が不十分」と判断した場合はB種優先株を議決権のあるA種優先株に転換

株主総会で合併や定款の変更など、すべての議案を単独で可決できる3分の2以上に議決権を拡大 、
経営を完全に掌握する。

B種優先株が全てA種優先株に転換された場合、議決権は75.84%となる。

B種優先株がA種に転換   3,400,000,000株  発行価格10倍のため、B種1株がA種10株
転換後のA種合計   5,000,000,000株  75.84%
議決権付き株式合計   6,593,149,800株  

5. A種株からB種株への転換も可能
   東電の再建が順調に進めば、関与を弱める。

6. A種、B種優先株の普通株式への転換も可能
   普通株への転換価格は30円~300円への範囲で、東電の時価に連動。(5月21日終値は162円)

  優先株全てが普通株式に転換された場合の議決権は下記の通り。

1)発行可能株式総数141億株限度一杯(発行済 1,607,017,531株を控除)

  転換株式数   12,492,982,469株  88.69%
  議決権付き株式合計     14,086,132,269株  


2)下限取得価額30円で転換(発行可能株式総数の引き上げが必要)

  転換株式数    33,333,333,333株   95.44%
  議決権付き株式合計   34,926,483,133株  

現実にはこれらケースは、機構が出資金を回収する段階で一時的に行うケースなど。

 

付記

   河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり 2012/5/26 「国民負担を増やす東電救済は駄目だ」
 

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なお、3月31日現在の株主は、
①東京都 出資比率は2.68%、②従業員持株会 2.41%、③三井住友銀行 2.26%、④第一生命 2.23%、⑤日本生命 2.21%。
A種優先株の発行で、東京都の出資比率は1.34%となる。

昨年9月末時点では、
①第一生命 3.42%、②日本生命 3.29%、③東京都 2.66%、④三井住友銀行 2.24%
、⑤持株会 1.87%であった。
第一生命、日本生命は配当を期待できないため、一部を売却した。



経産省は日本の10電力の2006~2010年度の販売電力量、電気事業による売上高と利益を発表した。

5年間の平均では、全国平均の販売電力量は家庭向けが38%(3362億kwh)、工場など企業向けが62%(5564億kwh)で、売上高はそれぞれ49%(7兆2006億円)、51%(7兆5589億円)だったが、利益は家庭向けが69%(4329億円)、企業向けが31%(1962億円)と逆転した。

企業向け電力の少ない沖縄電力のみ、電力量と収益は見合っているが、他の電力会社は全て逆転している。

東京電力については、電力供給量と利益の逆転現象は劇的である。

家庭向けは電力量で38%、事業収入で49%であるのに対し、収益では91%も占める。

東京電力は5月23日、電気料金審査専門委員会で、企業向けの電気料金を公表した。
家庭向けと企業向けとの価格差は2倍程度ある。

企業向け上位10社平均  11円80銭/kwh
家庭向け平均   23円34銭/kwh

東電によると、大口顧客10社は夜間電力の使用が中心で、昼間の電力は自家発電で賄っているため、割安になっているという。

東京電力の場合、2007年7月の新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の停止が影響している。
この結果、天然ガス使用増によりコストがアップした。

家庭用は総括原価主義によりコストが上がれば電気代が上がるが、企業向けは他社との競合がありコストアップを転嫁しにくいとしている。
東電管内は、ガス会社や石油元売りなどが特定規模電気事業者(PPS)として電力小売りを手掛けており、大口向け市場は比較的、競争が激しい。

東電ではまた、家庭向けの送電設備の投資を節約した(家庭用のコストダウン→利益増)ともしている。

電力会社は企業との間で、電力が足りなくなりそうな場合に節電に協力することを条件に料金を割り引く契約需給調整契約も結んでいる。

付記

電気料金審査専門委員会の資料が公表され、2007年7月の新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の停止の影響が明らかになった。

事業収益の年度別推移は以下の通り。
この間、家庭向け販売電力量は37~39%で変わらないが、利益は地震前の53%が2009-10年度は63%に上がっている。
(2007-2008年度は大口向けの利益がゼロ~マイナス)

地震前の2006年度でも、家庭向けは電力量が37%に対し、収入は48%、利益は53%と逆転していることには変わりはない。


ーーー

東京電力は7月1日からの家庭向け電気料金の値上げを申請したが、枝野経済産業相は5月11日の閣議後会見で、この日に設置した専門家による「電気料金審査専門委員会」で値上げの妥当性を厳しく検証すると表明した。

値上げの根拠の妥当性を客観的に判断するのが目的で、東電が十分にコスト削減努力をしているかなどを精査する。

上記の数値はこの委員会に出された。



医薬品業界では2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切れる。(「2010年問題」)
アメリカ市場では後発品上市から半年間で先発薬売上高の約7割が消えるとされ、既に影響が出ている。

各社とも、対策として買収を行っており、企業結合会計による費用負担も大きい。

各社の営業損益増減の主たる理由は以下の通り。

武田 薬品

 

前年 米国で特許切れのプレバシドの大幅減収、円高影響(-607億円)など
本年  Nycomed買収の会計処理(-770億円)、
研究費以外の販売費・一般管理費増(
-630億円

    2012/5/14 2012年3月期決算-武田薬品工業 
アステラス

 

前年 円高影響(-473億円)、OSI買収による無形資産償却(-200億円
本年 導入一時金の減による研究費減(274億円)、販売管理費増(-79億円)
第一三共 前年  ランバクシーの営業損益 63億円→277億円
本年 ランバクシーの 減益(-73億円、第一三共グループ の減益(-161億円)
エーザイ

 

前年  前期発生のAkaRx買収に伴うインプロセス研究開発費、
ファイザーに対する提携費用の減少
本年  アルツハイマー型認知症治療剤が米特許切れで約1500億円(49%)の減収
田辺三菱

 

前年 研究開発費減(172億円):前期にライセンス契約変更での一時金100億円あり。
本年 研究開発費増(-44億円)、販売管理費増(-35億円
 2012/5/18 2012/3月期決算-総合化学-1(三菱ケミカル、住友化学 )
中外製薬  前年 タミフル出荷大幅減
本年  同上
塩野義 前年 米子会社の15か月決算の影響で販間費増
本年 同上により販間費が前年より減、米子会社の売上控除計上等で売上総利益減
大正製薬

 

前年 売上総利益増 83億円、研究費減44億円
本年 販売管理費の増(-57億円、うち研究開発費 -6億円
大日本住友 前年 Sunovion Pharmaceuticalsの特許権等償却増(-242億円105億円→347億円)、
武田からの一時金
100億円
本年 前期の一時金100億円の差
 2012/5/18 2012/3月期決算-総合化学-1(三菱ケミカル、住友化学)

 

各社の配当は以下の通り。

大正製薬は2011年10月に単独株式移転により「大正製薬ホールディングス」を設立した。
これに伴い、大正製薬の配当12円、15円をホールディングスベースで40円、50円に換算した。

 

2012年3月期の決算がほぼ出揃った。

一般的に2008年3月期が大好調であったが、Lehmanショックによる世界的な不況で2009年3月期には一転、大幅な下落をみた。
2011年3月期には回復が見られたが、2012年3月期では石油化学と液晶関係を中心とする情報電子化学が悪化し、減益となっている。

これらの事業の問題点については下記を参照。

石油化学    2010/12/29  2010年 回顧と展望

情報電子化学  2011/12/26   2011年 回顧と展望

各社の好調時の2008年3月期(青)と、2011年3月期(黄)・2012年3月期(赤)の営業損益を対比する。

ほとんどの会社が2008/3>2011/3>2012/3となっている。

例外は下記の通りで、他社に差をつけたものを持っている企業が強い

 三菱ケミカル:2011/3月期から三菱レイヨン(MMAほか)が連結子会社となった。

                                        
2012/5/18 2012/3月期決算-総合化学-1(三菱ケミカル、住友化学)     
     

 東レ:繊維(衣料用、産業用)が好調

 2008/3の繊維の利益は(現在と区分が若干異なるが)214億円

 クラレ: ポバールフィルム等
         
2012/5/7 クラレの2012年3月決算と樹脂事業概況 

 積水化学:住宅が好調

 日本ゼオン:エラストマー素材が好調

 日本触媒:基礎化学品(アクリル酸、酸化エチレン等)、機能性化学品(吸水性樹脂等)が好調。

参考  2012/5/3 2012/3月期決算-信越化学



京都大学iPS細胞研究所(CiRA:The Center for iPS Cell Research and Application)は5月14日、山中伸弥教授らのグループによるiPS細胞の製造方法と分化誘導方法に関する特許が、3月6日に米国で成立した と発表した。これは京都大学が米国で保有する3件目のiPS細胞関連特許となる。

今回成立した特許(8,129,187)は、4つの遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc)または3つの遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2)を、レトロウイルスベクターで皮膚細胞などの体細胞に導入し、iPS細胞を作製し分化誘導をする、分化細胞の作製方法に関するもので、上記の方法で作製された分化細胞を使用し、販売する行為にも特許権利範囲に含まれ る。特許の有効期限は2026年12月。

新しい薬を開発するために研究開発を上記の方法を用いて行う企業は、この特許のライセンス許諾を受けることが必要になる。

ーーー

京大は2011年8月11日、山中伸弥教授らが開発した新型万能細胞(iPS細胞)の作製技術に関する特許(特許番号8,048,999)が米国で成立したと発表した。

権利範囲は、① Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子を含む初期化因子、② Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びサイトカインを含む初期化因子、となっている。
該当する初期化因子の組み合わせを使ってiPS細胞を作製する行為にまで及ぶ。
体細胞に遺伝子を導入するためのベクターの種類は問わない。
遺伝子の「ファミリー」という範囲をカバーしているので、例えば、「Myc」ファミリーであれば、c-MycもL-Mycも含まれる。(CiRA iPS細胞基本情報から)

2011/8/15  京大のiPS細胞特許、米で成立

京大は2011年11月24日、iPS細胞に関する特許について、4つの遺伝子を用いてiPS細胞を作製する方法に関する米国特許(特許番号8,058,065)が11月15日に成立したと発表した。

体細胞(例えば皮膚細胞)に、レトロウイルスベクターで4つの遺伝子を導入する工程によりiPS細胞を製造する方法に関するもので、特許法の規定により、この方法で製造されたiPS細胞の使用(iPS細胞の販売やiPS細胞を用いた分化誘導)にもその権利が及ぶ。(CiRA iPS細胞基本情報から)

京大は2011年2月1日、米国のiPierian Inc.から同社保有のiPS細胞特許「バイエル特許」(米国などの特許出願を含む)を譲り受けたと発表した。
世界各国に出願された特許(全部で30件程度)が譲渡の対象となり、この中には、2010年2月10日に英国で成立した「3遺伝子とbFGFによるiPS細胞の作製方法」に関する特許も含まれる。

バイエル薬品神戸リサーチセンターの研究チーム(桜田一洋センター長ほか)が山中教授らが2006年8月にマウスiPS細胞の作成を発表した直後から、ヒトでの研究を始め、山中教授らのチームより早く、ヒトの「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作成し、バイエルは2007年6月15日付けで国内で特許を出願した。

独Bayerは2008年にこの特許を iPierianの前身であるiZumi Bioに譲渡した。

2011/2/3  京都大学、米社からiPS細胞関連特許を譲り受け


山中伸弥教授は5月17日、日本経済新聞の電子版2周年フォーラムで講演した。

その中で、最近の研究における特許対策や規制対応の重要性を強調、米国特許取得について、CiRAでは8人の特許専門家が研究会議にも出席して研究内容をフォローし、米国の特許弁護士とも常時連絡をとった結果であると述べた。

CiRAの運営費の大半は競争的資金を始めとする数年間の期間の研究資金で、多くの研究員、研究支援員が有期契約での採用であり、特許専門家も全員が有期契約となっている。

今後、新しい資金の確保で出来なければ、これらの人の雇用を続けられないという状況にある。

CiRAでは「iPS細胞研究基金」への支援のお願いをしている。

ーーー

山中教授はフォーラムで、iPS細胞による再生医療について「2020年まで全力疾走で研究を進め、新しい医学を確立させたい」と語った。iPS細胞をタイプ別に準備する「iPS細胞ストック」の構築事業に今年から取り組む方針も明らかにした。

2010年4月1日のCiRA設立時に4つの「達成目標」をつくった。内容と現状は以下の通り。

基盤技術確立、知財確保(現時点での達成は60%)

24か国で特許成立

②再生用ストックの構築(同 30%)

iPS作成には1人当たり1千万円程度がかかり、作製に半年が必要で急場の間に合わない。

このため、厳重に品質管理されたiPS細胞ストックを構築する。

拒絶反応対策のため、HLAホモドナーのiPSを抹消血、臍帯血から作成し、ストックする。

HLA型は父母ごとに何百種(合わせて何万)もあり、全てのストックは無理だが、HLAホモドナー(父母が同型)のものは、片方が同じなら使用できる。
日本では1名のドナーで全体の20%75名のドナーで80%をカバーできる。

付記 2012/7/26 「iPS細胞ストック構築」で赤十字と提携

再生医療臨床試験(同 20%)

神経細胞(パーキンソン病)、網膜・角膜(眼病)、心筋(心臓病)、神経幹(脊髄損傷)、血小板(血液病)など。下線はCiRAで実施。

④治療薬開発(同 20%)

病気モデル、治療薬開発
毒性、副作用の評価

 


浜 矩子教授が5月21日付の毎日新聞に「さらばユーロの煉獄と地獄」でユーロ解体論を書いている。

彼女は2年前にギリシャ債務問題について、「救うも地獄、見捨てるも地獄」と書いた。

ギリシャ救援を続ければ共倒れの一連托生をもたらす。
いずれ、救う方はカネが尽きる。救われる方は、そのために払うべき犠牲が大きすぎて力が尽きる。

見捨てれば、ギリシャは突如として命綱を断ち切られる。
ユーロ圏は、仲間を救うことのできない非力さが露呈、存続の危機が訪れる。

しかし今は、「救うは地獄。見捨てるは、実は煉獄」と書き改めるとしている。

煉獄とは、天国と地獄の中間地点で、ここでしばらく火に焼かれていると、魂は清められたたき直されて、罪のくびきから解放される。

「ギリシャがユーロ圏に勘当された場合、あるいは、ギリシャ側が癇癪を起こして親子の縁を切った場合、ひとまずは、それこそ地獄の辛酸をなめることになるだろう。何しろ、債権者たちは押し寄せて来る。支援者は誰もいない。追い詰められることは間違いない。」

「だが、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。ひとまず何とか踏ん張れば、自由の身だ。自国の経済運営を、自分で取り仕切ることができる。金融政策も、財政政策も、そして為替政策も。ほかの誰かが決めたルールに振り回されることはなくなる。身を切るようにつらくても、自分で決めて自分でやっていることならば、文句はいえない。文句をいう相手もいない。存外に爽快な痛みであるかもしれない。 」

ーーー

ユーロ誕生前の1979年~1999年に欧州通貨制度(EMS:European Monetary System) があり、英国も加盟した。

欧州経済共同体の加盟国による地域的半固定為替相場制のシステムで、 通貨変動を年±2.25%以内に抑えることを原則とした。

1990年の東西ドイツ統一で、旧西独による東独への投資が増大し、欧州の金利がアップ、この結果、欧州通貨が上がり、英ポンドもこれに連動して過大評価されていった。

1992年にGeorge Sorosがポンド相場は実勢に合わないほど高止まりしていると考え、100億ドル相当のポンドの売り浴びせを行った。

この結果、1992年9月15日にはポンドは変動制限ラインを超え、イングランド銀行はポンド買いを行うとともに、公定歩合を10%から12%、更に15%へと1日に2度上げたが、売りは止まらなかった。

9月17日に英国は公定歩合を10%に戻し、EMSから離脱した。ポンドは変動相場制に移行した。

Sorosはイングランド銀行との勝負で約20億ドルの利益を得たとされる

ーーー

「(EMS離脱後の)英国は、為替レートを特定水準に固定する義務から解放されたため、実に伸び伸びと成長路線を突っ走った。」  

「ことここにいたった以上は、ユーロ圏全体として煉獄行きを目指してはどうか。要はユーロ圏解体である。誰もがみな、自由度が増して責任感も強まる。責任のなすりつけ合いができなくなる分、誠実な付き合いができるようになるだろう。元来、無理のある欧州通貨統合だった。無理な家族化よりも、無理なきご近所付き合いの方が、むしろ、絆は強まるかもしれない。」

 

 

2012/5/15   ギリシャ、再び混迷

 


マレーシアの国営石油会社Petronasは5月18日、伊藤忠商事およびタイのPTT Global Chemicalとの間で、Petronasがマレーシア南部ジョホール州で計画している石油精製・石油化学プロジェクト(RAPID:Refinery and Petrochemical Integrated Development )の一環として、一部石油化学事業の事業化調査に関する覚書を締結したと発表した。

伊藤忠も、Petronasとの2者間覚書と、PTT Global Chemical を含めた3社間覚書の締結を発表した。
一部事業案件について3社でFSを実施する。

Project RAPIDは総事業費600億リンギ(約200億ドル)を見込む石油精製から石油化学までの一貫生産プロジェクトで、2013年央に建設を開始し、2016年末までの商業運転を目指している。

2011年5月に首相が建設を発表した。

既存の同国の石油、ガス、石化設備と合わせ、マレーシアを地域の石油産業のハブにするという政府の方針に基づく。

概要は以下の通りで、規模と範囲で、Petronasの既存のMelakaの製油所とKertihとGebengの石化コンプレックスを合わせたものよりも 大きいものとなる。

 立地:マレーシア南部ジョホール州 Pengerang



 事業内容

   石油精製:日量30万バレル(輸入原油の精製)
     石油化学計画に原料を供給するとともに、ガソリン、ディーゼルを含む石油精製品を製造する。

   石油化学:ナフサクラッカー(エチレン、プロピレン、C4、C5 合計300万トン)
          ケミカルズ、ポリマーズ

     LNGターミナル:LNGの受入・再ガス化(石化原料の多様化、マレーシアの将来のガス不足対策)
     コジェネレーション

ーーー

Petronas はMelakaに2つ、Kertih に1つの製油所を持ち、Kertih とGebengに石化コンプレックスを持っている。




 

三井化学

営業損益は、ウレタン事業や(年度後半の)基礎化学品事業の市況価格下落により減益となった。
2008年3月期と比較すると大幅な減益となる。

4月22日に岩国大竹工場で爆発・火災事故が発生した。
原因究明調査中で、一部を除き操業を停止している。

事故関係の費用や販売を含めた事業への影響の見積もりが困難として、次期予想は不明とした。

付記

6月14日、次期予想を発表。

このうち、事故の業績への影響見通しは以下の通り。

営業利益

 30億円

生産・販売の減少及び代替品の調達による損失等
特別損益  -30億円 補償、撤去及び復旧等に係わる費用
事故に起因するプラント停止に伴う固定費及び保険収入等
税引前損益  -60億円  
単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2008/3 17,867 772 661 248 6 6
2011/3 13,917 405 389 249 3 3
2012/3 14,540 216 229 -10 3 3
前年比 623 -190 -160 -259    
(2008/3比) (-3,327) (-556) (-433) (-258)    
2013/3 15,100 320 290 80 3 3

特別損益に下記を含む。
 2011/3月期 制度改正による退職給付引当金戻入 146億円
 2012/3月期 ポリウレタン材料事業減損 -117億円

 

営業損益対比(億円)  
  2010/3 2011/3 2012/3 増減  内訳      
数量差 交易条件 固定費他
石化 -34 128 93 -35 -38 -8 11
基礎化学品 -48 204 89 -115 -22 -84 -9
ウレタン -21 -90 -144 -54 -29 -65 40
機能樹脂 -44 72 90 18 0 6 12
加工品 8 14 3 -11 -22 -14 25
機能化学品 74 100 104 4 11 -20 13
その他 11 1 -4 -5 0 0 -5
全社 -41 -25 -15 10 - - 10
合計 -95 405 216 -189 -100 -185 96

ポリウレタン事業は各社とも赤字が続いている。            
  三井化学は2009/4に三井化学ポリウレタンを吸収合併。
三井化学ポリウレタンの2008年度(2009/3月)決算は公表されていない。


日本ポリウレタンは東ソー子会社。
(2012/3決算はまだ公表されていない)

付記 2012/7更新


東ソーでは、中国市場の成長率が鈍化する一方で、中国の自製量が増加するなどにより、アジアの需給バランスが軟化した、としている。

住化バイエルウレタン(住友化学 40%、Bayer 60%)は12月決算。

 


旭化成

ケミカルズが大幅減益となった。住宅は好調。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2008/3 16,968 1,277 1,205 699 6 7
2011/3 15,984 1,229 1,182 603 5 6
2012/3 15,732 1,043 1,076 558 7 7
前年比 -252 -187 -107 -45    
2013/3 17,810 1,120 1,150 665 7 7

 

営業損益対比(億円)
  08/3 11/3 12/3 増減 差異内訳
数量差 売値差 コスト差等
ケミカルズ 652 644 445 -199 -35 196 -360
住宅 214 365 463 99 150 -4 -47
医薬・医療 127 70 88 18 43 -23 -3
繊維 72 42 31 -11 0 7 -18
エレクトロニクス 222 143 64 -78 46 -149 24
建材 28 21 18 -3 -5 1 1
その他 52 17 30 13 10 0 2
全社 -90 -72 -97 -25 - - -25
合計 1,277 1,229 1,043 -187 210 27 -424
    売値差のうち、為替要因が -182億円、其の他が+209億円
ケミカルズでコスト差等で -360億円となっているが、中味は不明。

 
2012年度より「クリティカルケア」セグメントを新設( 買収したZOLL Medical 等)


東ソー  

2011年11月13日に南陽事業所のVCMプラントで 爆発・火災事故が発生した。

期央以降の世界的景気減速に伴う需要減退、海外市況の軟化と上記事故が業績の下押し要因となった。

事故を受け、当初3円と発表していた中間配当を無配に変更したが、期末に6円とし、年間では変えず。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2008/3 8,274 591 525 252 4 4
2011/3 6,844 335 298 100 3 3
2012/3 6,871 237 248 94 0 6
前年比 27 -98 -50 -6    
(2008/3比) (-1,403) (-354) (-277) (-158)    
2013/3 7,200 290 310 140 3 3

事故による売上高の減少は195億円。
事故に係わる損失として特別損失 24億円を計上

営業損益対比(億円)    

  2010/3 2011/3 2012/3 差異

内訳

数量差 交易条件 固定費他
石油化学 79 104 125 21 -15 38 -2
クロルアルカリ -143 -35 -100 -65 -122 -18 75
機能商品 148 203 131 -73 5 -65 -13
エンジニアリング 20 36 57 21 27 0 -5
その他 26 27 24 -3 -4 0 1
合計 130 335 237 -98 -109 -44 55
クロル・アルカリ   苛性ソーダ、VCM、PVC、無機・有機化学品、セメント、ウレタン原料
機能商品   無機・有機ファイン製品、計測・診断商品、電子材料(石英ガラス、スパッタリングターゲット)、機能材料等

 

 

 

三菱ケミカルホールディングス 

営業損益は震災の影響(-193億円)を含め、959億円の大幅減益となった。

昨年度に営業損益が2,265億円となり、信越化学を追い抜いたが、本年度は信越化学(1,496億円)に抜かれた。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2010/3 25,151 663  590 128 4 4
2011/3 31,668 2,265 2,239 836 5 5
2012/3 32,082 1,306 1,336 355 5 5
前年比 414 -959 -903 -481    
2013/3 34,500 1,600 1,480 500 6 6

2011/3月期には特別損失に災害損失 -225億円を計上している。
(12/3月期には -23億円

機能商品分野、素材分野(ケミカルズ、ポリマーズ)では、震災の影響に加え、円高継続と中国など海外市場での急激な需要減少で、厳しい状況となった。 素材分野の損益の振れが非常に大きい。

ヘルスケア分野では堅調な需要に支えられ、ほぼ良好に推移した。

営業損益対比(億円)           
  2010/3 2011/3 2012/3 増減 うち
価格差  数量差  震災
影響
ケミカルズ 69 530 149 -381 -225  -116  -40
ポリマーズ -225 550 254 -296 -112  -131  -59
エレクトロニクス
アプリケーションズ
-14 10 -53 -63 -20  -32  -16
デザインド
マテリアルズ
133 365 240 -125 -46  -90  -11
ヘルスケア 710 851 764 -87 9  43  -65
その他 62 45 61 16 -  18  -2
全社 -73 -86 -108 -23      
合計 663 2,265 1,306 -959 -394  -308  -193
注 エレクトロニクス・アプリケーションズ:記録材料、電子関連製品、情報機材
   デザインド・マテリアルズ:食品機能材、電池材料、精密化学品、樹脂加工品、
                   複合材、無機化学品、化学製品


上記営業損益のうち、ケミカルズとポリマーズの内訳は以下の通り。
2011/3月期から三菱レイヨン(MMAほか)が連結子会社となった。

  2010/3 2011/3  2012/3  増減
ケミカルズ
 (基礎化学品)
 (炭素)
69
(-20)
(89)
530
(313)
(217)
149
(13)
(135)
   -381
(-300)
(-82)
ポリマーズ
 (ポリオレフィンほか)
 (MMA、アクリル樹脂)
-225
(-225)

(  -  )
550
(182)
(368)
254
(-3)
(257)
-296
(-185)
(-111)

ヘルスケアのうち、田辺三菱製薬の業績は以下の通り。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2011/3 4,095 766 767 377 14 14
2012/3 4,072 690 688 390 15 20
前年比 -24 -75 -79 13 1 6
2013/3 4,290 700 700 405 20 20


住友化学

基礎化学品・石油化学と情報電子化学の減益が響いた。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2008/3 18,965 1,024 928 631 6 6
2011/3 19,824 880 841 244 3 6
2012/3 19,479 607 507 56 6 3
前年比 -346 -273 -334 -188    
2013/3 22,300 900 950 400 6 3

特別損失に多額の持分法投資損失を計上するとともに、繰延税金資産も計上した。

特別損失に持分法投資損失 -260億円

23%出資する豪州農薬メーカー Nufarmの時価が大きく下落したため、のれん相当額を一時償却。
2011/3月期中間決算でも特別損失287億円を計上したが、その後株価が回復したため、評価損を取り消している。

繰延税金資産 115億円(当期利益増)

営業損益対比(億円)   本年度から精密化学を廃止
  2010/3 2011/3 2011/3 2012/3 増減  
基礎化学 13    213   206 93 -113 交易条件悪化
販売数量減
石油化学 -2 111   111 62 -50 販売数量減
精密化学 36 1  

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 
情報電子化学 63 261   261 110 -152 液晶部材価格低下
健康・農業関連 293 224   233 265 32 販売数量増
医薬品 299 269   287 209 -77 下記
その他 67 58   41 77 36 売電量増加
全社 -254 -258   -260 -209 51  
合計 515 880   880 607 -273  

情報電子化学は、偏光フィルム、カラーフィルターの値下がり、円高による在外子会社の邦貨換算の影響が大きい。

 

大日本住友製薬の業績は以下の通り。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
特許権等
償却費
同左
算入前
算入後 中間 期末
2010/3 2,963 -105 461 356 338 210 9 9
2011/3 3,795 -347 657 310 286 168 9 9
2012/3 3,504 -277 481 204 189 86 9 9
前年比 -291 70 -176 -105 -97 -82    
2013/3 3,480 -272 492 220 210 105 9 9

2009年10月に米Sepracor を買収した。(その後 Sunovion Pharmaceuticals と改称)
買収に伴い、特許権(1,197百万ドル)は品目ごとに償却、ノレン(914百万ドル)は20年償却とした。

2011/3月期には武田薬品との間で締結した非定型抗精神病薬の欧州での開発・販売提携に関する契約に基づく契約一時金100億円を売上高、利益に計上している。 当期はその分が減益となった。

営業損益の内訳は以下の通り。

  2011/3 2012/3 増減
日本 682 664 -18
北米 416 274 -142
同 特許権等償却 -347 -277 70
中国 12 10 -2
海外その他 101 70 -31
契約一時金 100   -100
医薬品以外 28 32 4
研究開発費 -682 -569 113
合計 310 204 -106

北米の減益は円高の影響と、2011/2発売の非定型抗精神病薬「ラツーダ」の販売費用増加による。
 


 

 

  

東京電力はChevronとの間で、豪州 Wheatstone LNG プロジェクト からのLNG購入と計画への参画についての基本合意書を締結しているが、これに三菱商事、日本郵船、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、国際協力銀行(JBIC)が参加することが分かった。各紙が報じた。

東電は2009年12月に基本合意書を締結し、単独取得を目指していたが、福島第一原発事故による経営難で余裕がなくなり、交渉が停滞していた。

東電は政府の認定を受けた総合特別事業計画で「燃料の調達力の強化に向け、上流の共同投資プロジェクトへの参画も行う」と明記している。

各社は下記の特別目的会社をつくり、これが計画に参加する。
JBICは優先株で特別目的会社に参加するとともに、民間銀行との協調融資を行う。

特別目的会社   融資
東電 8% 0.7億ドル
JOGMEC 42% 3.5億ドル
三菱商事 40% 3.3億ドル
日本郵船 10% 0.9億ドル
合計 100% 8.4億ドル
JBIC 優先株 2.8億ドル
再計   11.2億ドル
 
JBIC 19.6億ドル
民間銀行 13.1億ドル
合計 32.7億ドル

 

当初、計画全体への11.25%(Chevron鉱区の15%)の参加としていたが、計画全体への8%(Chevron鉱区の10%)に変更する。

ーーー

東京電力は2009年12月5日、豪州 Wheatstone LNG プロジェクトからのLNG購入と計画への参画についての基本合意書を締結したと発表した。

Chevronが中心となって開発中で、同国北西部沖合の海底ガス田で天然ガスを産出、同国内で精製・液化する。
2016年度から18年度に操業を開始、年間最大860万トンを生産する計画。

沖合鉱区とLNG計画にはChevron (Chevron Australia  / Chevron TAPL) が75%、Apache Corporation  / Kuwait Foreign Petroleum Exploration Company (KUFPEC) が25%を出資する。→ その後、Chevron 80%となった。

東電はChevronの持分から15%分を購入する。
この結果、全体の計画には11.25%の参加(持分としては年間約100万トン)となる。

LNG購入に関しては、2016年度~2018年度以降の引渡開始で、最長20年間にわたり、年間約310万トンを購入する。
自社権益と合わせると、年間410万トンとなる。

今回の案ではChevron 持分の購入は10%で、全体では8%(持分として年間約70万トン)となる。
なお、東電のほかに、Shellと九州電力が参加を決めている。(下記)

Wheatstone ガス田は2004年8月にChevron が発見した。
その後、同社はガス田開発とAshburton North でのLNG設備建設の準備を開始した。

2009年10月に、Apache Corporation とKuwait Foreign Petroleum Exploration Company (KUFPEC) に権益の25%を譲渡した。
その後、20%に変更となった。

東京電力のほかに、下記の契約が締結されている。

    権益 購入
Shell 2011/4 Chevron枠の8%
全体の6.4%
 
九州電力 2011/9 Chevron枠の1.83%
全体の1.464%
Chevron、Apache、KUFPECから年間70万トン
自社枠を含め、83万トン
中部電力 2012/4
 覚書
  年間100万トン(20年間)
東北電力 2012/5
基本合意
  最大年間100万トン(20年間)

ーーー

2010年代後半までに予定される主なアジア向け新規LNGプロジェクトは以下の通り。

  プロジェクト 能力
万トン/年
操業主体
豪州 Gorgon 1,500 Chevron
Wheatstone 860 Chevron
Queensland Curtis  850 英BG Group
Ichthys 840 INPEX
Australia Pacific 700 ConocoPhillips
Pluto 430 豪 Woodside
Browse 1,200   Woodside
インドネシア Tangguh 380 BP
Abadi 250 INPEX
Donggi-Senoro 200 三菱商事
パプアニューギニア PNG 660 ExxonMobil


三菱商事は三井物産と共同で、豪州のWoodside Petroleumが推進するBrowse LNG Projectに参画する。

2012/5/8  三井物産と三菱商事、豪ブラウズLNGプロジェクトに参画 

 

三菱商事は5月16日、シェルカナダ、韓国ガス公社(Kogas)、中国石油天然気(PetroChina)とのLNG輸出計画 、「LNG Canada」構想を発表した。

4社でカナダのブリティッシュ・コロンビア州 Kitimat港周辺においてLNG輸出基地を共同開発する。
(当初の案では立地は Prince Rupert とされていた。)

権益比率   シェル   40%
三菱商事 20%
Kogas  20%
PetroChina 20%



液化設備   600万トン/年x2=1,200万トン
将来的な数量拡張の可能性
生産開始   2010年代末

4社は、今後共同でプロジェクトの検討を進めると共に、先住民及び地域住民との協議を開始する。

PNG   Pacific Northern Gas
PTP    Pacific Trail Pipelines

付記

TransCanadaは6月5日、ShellとパートナーからCoastal GasLink projectの設計、建設、所有、運営担当として選ばれたと発表した。

40億ドルと予想されるパイプラインは、Dawson Creekの近辺のガス生産地域とKitimat近辺に建設するLNG輸出基地を結ぶ。

 

日本は現在、LNGの大部分を東南アジア及び中東から輸入しているが、カナダからもLNGを輸入することで、調達先の多様化に繋がり、エネルギー資源の安定供給に貢献 する。

三菱商事はカナダの2つのシェールガス計画に参加している。
同社はカナダで生産した天然ガスを北米市場で販売するが、これを原料にLNGとして輸出する可能性についても検討を進めてきた。

三菱商事は2010年8月、カナダの大手エネルギー会社Penn West Energy Trustが所有するブリティッシュ・コロンビア州のCordova堆積盆地のシェールガスを中心とした天然ガス開発プロジェクトに参画する契約を締結した。
同社は今後50年以上の期間に亘り当該鉱区のシェールガス開発および生産を推進し、持分ガスを
CIMA Energyなどを通じて、北米市場で販売する。

   2010/8/26 三菱商事、カナダのシェールガス開発プロジェクトに参画

三菱商事とカナダの天然ガス最大手のEncana Corporationは2012年2月、British ColumbiaのCutbank Ridgeの未開発の土地でのシェールガス開発で提携したと発表した。

   2012/2/21  三菱商事がカナダのシェールガス開発に参加

三菱商事は、これとは別に、Cameron LNGとの間で、米国産天然ガスの液化を委託する交渉を行っていることを明らかにした。

   2012/4/20 三菱商事と三井物産、米国産LNGを輸入へ

但し、米国からのLNG輸出については米国の国策ともからんでおり、エネルギー多消費型の産業界(発電業界、化学、アルミ、米国ガス協会等)からの反対もあり、簡単ではない。

野田首相は4月30日のオバマ米大統領との首脳会談で、LNGの対日輸出拡大などエネルギー面での協力を求めた。

オバマ大統領は首相の輸出要請に対し、「日本のエネルギー安全保障は米国にとっても重要」と理解を示す一方、「(対日輸出は)政策決定プロセスにある」として、明言は避けた。日本政府内には「少なくとも11月の大統領選までは、オバマ大統領が輸出認可に動く可能性は低い」との見方が強い。

ーーー

カナダの西海岸のKitimat港からのLNG輸出については、本計画のほかに2つの計画が既に政府申請を行っている。

詳細は JOGMEC 「カナダ西海岸からのアジア向けLNG輸出計画」
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/4/4362/1104_out_f_canada_lng_export_upstream_kitimat.pdf

事業計画者 規模と計画 Feedガス

Apache 40%
EOG Resources 30%
EnCana 30%
 
第1フェーズ 500万トン(2015年-)
 
第2フェーズ 500万トン(2017-2018)
 
主に
Horn River及びMontneyシェールガス他
② Douglas Channel
Energy Partnership

 
第1フェーズ 90万トン 2013年末

第2フェーズ 90万トン

上流事業者からガス購入

東京電力は5月14日、2012年3月期決算を発表した。
原子力発電の減少、燃料価格の上昇により燃料費が2兆2869億円と
前期比5割強増えた。

                     単位:百万円、配当 円

  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 法人税等 当期損益 配当
中間 期末
2010/3  5,016,257 284,443 204,340 0   -86,741   133,775 30 30
2011/3 5,368,536 399,624 317,696  -1,077,685 -478,445 -1,247,348 30 0
2012/3 5,349,445 -272,513 -400,405 2,516,891
-2,867,864
-22,839 -781,641 0 0
増減 -19,091 -672,137 -718,101     465,707    
2012/3 6,025,000 -235,000 -355,000     -100,000 0 0
     2011/3の法人税等には、繰延税金資産取り崩しを含む。(2010年12月末時点で約4800億円)
 
株主資本                             単位:百万円
  2011/3月末 2012/3月末
資本金 900,975 900,975
資本剰余金 243,653 243,653
利益剰余金  前期末残高  1,831,487 494,054
 配当支出 -81,002 0
 当期純損益 -1,247,348 -781,641
 その他 5 90
 当期末残高 494,054 -287,497
純資産合計 1,602,478 812,476
   
   
特別損益内訳                                                                                                                   単位:百万円  
  2011/3 2012/3
原子力損害賠償支援機構資金交付金   2,426,271
固定資産・有価証券・関係会社株式 売却益   90,619
特別利益合計   2,516,891
     
原子炉等の冷却、放射性物質飛散防止等の安全性確保等 426,298  
福島第一原発14号機廃止   原発 減損損失 101,692  
原発 解体費用 45,842  
核燃料損失 44,855  
核燃料処理費用 14,627  
合計 207,017  
福島第一原発56号機、福島第二原発の冷温停止状態維持費用 211,825  
福島第一原発 78号機 増設中止損失 39,360  
火力発電所復旧等の費用 49,724  
事故の収束及び廃止措置等に向けた費用・損失    287,111
その他 86,270 10,691
(災害特別損失合計) (1,020,496) (297,802)
原子力損害賠償金 賠償見積額     2,644,930
原子力損害賠償補償契約 補償金   -120,000
(差引 合計)   (2,524,930)
資産除去債務会計基準の適用 57,189  
その他   45,131
特別損失合計 1,077,685 2,867,864


賠償見積額と支援機構資金交付金(億円)

    損害賠償
見積額
賠償補償 差引損失 支援機構
資金交付金
2012/2/13
特別事業計画の変更
第3四半期 17,003 1,200 15,803 15,803
2012/3/29
賠償見積額見直し
  25,463 1,200 24,263 24,263
本決算 26,449 1,200 25,249 24,263

本決算では損害賠償見積額は増加しているが、交付金の申請額は変更していない。


賠償補償:
通常の原子力損害の場合の賠償に対しては、民間の損害保険会社による保険である責任保険により、賠償措置額(発電用原子炉の場合は通常1200億円)まで保険金が支払われる。
地震、噴火、津波の自然災害による原子力損害等の場合は政府補償により、賠償措置額まで補償金が支払われる

上記の支援機構資金は承認済の交付枠で、現在のところ、以下の額が交付されている。

 2011年11月     5,587億円
 2012年3月 1,049億円
 2012年4月 2,186億円
 合計  8,822億円


    付記 5月22日に466億円を交付。


参考 2011/5/16 福島原発損害賠償の政府支援の枠組み 

 


政府は5月14日、関係閣僚による「エネルギー・環境会議」などの合同会議を開き、原発再稼働がない場合の節電目標の原案をまとめた。

各電力会社の予備率を元に、安全を見て(火力トラブルを懸念)、北海道 7%、関電 20%、四国 5%、九州 12%の節電目標を決めた。

なお、中部、北陸に5%、四国に元の5%に+α の節電を要請し、関電、九州に融通することを検討する。
これにより融通が増えれば、関電を15%、九州を10%に目標を圧縮する。

電力不足の恐れのある関電、九州、北海道、四国の4電力会社で、計画停電の準備に入る。

関電管内では、大口需要家に罰則付きで節電を強制する「電力使用制限令」の発動も検討する。

政府は週内に目標を正式決定する。

付記 政府は5月18日に節電目標を正式に決めた。
      関電の使用制限令は回避。
      北海道、関西、四国、九州では計画停電の準備を要請。

電力会社

予備率          %

2010年
実績比

節電目標 5/18 決定
予備率
%
安全を
見て
(+3%)
実施 検討

使用
制限令
検討

計画
停電
準備
検討
節電
目標
北海道 -1.9 -4.3 -7.3 7% 7%   7%以上
東北 3.8              
東京 4.5              
中部 5.2       5%     5%以上
関西 -14.9 -18.4 -21.4 20% 15% 15 %以上
北陸 3.6             5%以上
中国 4.5       5%     5%以上
四国 0.3 -1.7 -4.7 5% 5%+α   7 %以上
九州 -2.2 -12.1 -15.1 12% 10%   10 %以上
合計 0.1              
関電の場合、20%の節電をすれば、揚水供給力が増加するため、不足を生じない。九電も同じ。

需給検証委員会電力9社の8月の原発稼働ゼロの需給見通し(万キロワット

電力会社 供給力 最大需要 需給
過不足
予備率  %
最大 随時
調整
差引
北海道 485 500 -6 494 -9 -1.9
東北 1,475 1,434 -12 1,422 53 3.8
東京 5,771 5,520   5,520 251 4.5
中部 2,785 2,648   2,648 137 5.2
関西 2,542 3,015 -28 2,987 -445 -14.9
北陸 578 558   558 20 3.6
中国 1,235 1,182   1,182 53 4.5
四国 587 585   585 2 0.3
九州 1,574 1,634 -24 1,610 -36 -2.2
合計 17,032 17,076 -70 17,006 25 0.1
 
最大需要は2010年夏並みの猛暑を想定。


 2012/5/12 電力の需給検証委員会 

 


ギリシャ議会の総選挙は5月6日に投票が実施された。

最大与党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首(前財務相)は総選挙の前の最後の演説で、選挙の結果次第ではギリシャがユーロ圏離脱を余儀なくされる恐れがあると訴え、有権者の支持を仰いだ。
「ギリシャ国民は6日、運命の岐路に立つ。ギリシャが欧州、かつユーロ圏にとどまるのか、もしくは国家を破たんさせ、国民を深刻な貧困に陥れるかは、6日に決定される」と述べた。

しかし、EU/IMFの支援を受けるために数々の緊縮策を打ち出してきた連立与党の新民主主義党(ND)と全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の2党が300議席中149議席で、過半数を獲得できなかった。

逆に、緊縮策のゼロからの見直しを求める急進左派連合(SYRIZA)が反緊縮世論の支持を追い風に第二党に躍り出た。

SYRIZAは共産党から分裂した左派小集団が2004年に選挙対策で寄り集まったもの。チプラス党首は行政・外交・経済の実務経験は皆無。「債務を検査し直し、EUと合意を結び直す」とするが、具体的な修正点は不明。
 「無責任で大衆迎合的」と批判されている。

選挙結果は以下の通り。

ギリシャの総選挙では第一党には50議席のボーナス議席が与えられる。

  選挙前 今回 増減   
全ギリシャ社会主義運動(PASOK) 160
(50+110)
41  -119
(-69)
緊縮推進

EUとの合意支持

新民主主義党(ND) 82 108
(50+58)
28
(-30)
(連立与党) (242) (149) (93)
急進左翼連合(SYRIZA) 13 52 39 反緊縮

EUとの合意反対

 

独立ギリシャ人 0 33 33
ギリシャ共産党 21 26 5
黄金の夜明け 0 21 21
民主的左翼 0 19 19
正教民衆集会 15 0 -15
合計 291 300 9  

独立ギリシャ人:新民主主義党(ND)の議員が『反緊縮財政策』を掲げて2012年2月に立ち上げた。

ーーー

2011年秋、ギリシャではユーロ圏各国がまとめた支援策の前提条件の改革案に反発、ストが相次いだ。

この時の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)内閣のパパンドレウ首相は当初、国民投票を行う意向を表明した。
最終的にはEUとの協議の後、11月3日に緊急閣議を開き、国民投票を撤回する意向を明らかにした。

しかし、ギリシャの政治的、社会的、経済的混乱は続き、パパンドレウ首相は新たな連立内閣が1300億ユーロの支援策を議会通過させ、財政破綻を避けるよう呼び掛け、自身は首相を辞任する可能性を示唆した。

これを受け、議会は11月5日、内閣に対する信任案を賛成多数で可決した。首相の退陣示唆を受け、与党内で内閣信任に反対していた議員らも賛成に回った。

2009年に全ギリシャ社会主義運動が政権党の新民主主義党を破り、パパンドレウが首相となった。
パパンドレウ首相が前政権の粉飾を明らかにしたのが、ギリシャ危機のきっかけとなった

11月6日に首相辞任と引き換えに、中道右派の最大野党・新民主主義党(ND)が連立政権発足に協力することで与野党が基本合意、11月9日に大連立内閣が誕生し、欧州中央銀行のパパデモス前副総裁が新首相に指名された。

EUは第二次支援を1300億ユーロとするとともに、民間銀行のギリシャ国債元本削減幅を従来の50%から更に拡大することとし、ギリシャにそのため 、「財政緊縮関連法案の議会承認」、「財政緊縮策実行の誓約書」「歳出削減策の具体化」の3条件を科した。    
第二の条件の「緊縮策実行の誓約書」は連立内閣の与党の全ギリシャ社会主義運動のパパンドレウ党首と、新民主主義党のサマラス党首がサインした。

2012/2/23 ギリシャ第二次支援決定 

連立内閣は当初、2012年2月に総選挙を予定していたが、国債の交換完了を優先させるため、5月に延ばした。

---

選挙結果を受け、パプリアス大統領は5月6日、第1党になった与党の新民主主義党(ND)に組閣を要請した。(第二党、第三党に順に要請する)

新民主主義党(ND)は極右政党「黄金の夜明け」を除く全党と連立協議を行ったが、5月7日、組閣を断念した。

全ギリシャ社会主義運動(PASOK)は連立入りに前向きな姿勢を示したが、左派政党の政権参加を条件にした。
急進左派連合(SYRIZA)や民主左派党は連立入りを拒否し、右派新党の「独立ギリシャ人」や共産党は協議自体を拒否した 。

次いで、第2党へと躍り出た急進左派連合(SYRIZA)のアレクシス・チプラス党首も9日、各党との連立協議を断念すると発表した。

共産党と民主左派党との協議が決裂した。

第3党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首も11日、連立交渉が失敗したことを明らかにした。

ベニゼロス氏は
①EUとユー口圏に残留する
②EU・IMFと合意した財政緊縮策を段階的に解消することを目標に、2014年までの財政再建を目指す
とした「挙国一致政権」構想を急進左派連合(SYRIZA)に持ちかけ、参加を求めた。

だが、SYRIZAのチブラス氏は「民意に反して緊縮策を継続するための政権であり、参加できない」と拒否した。
「緊縮策の廃止という自分たちの選挙公約は変わらない。新民主主義党や全ギリシャ社会主義運動のように緊縮策を推進しておきながら選挙で負けたら『修正に応じる』と態度を変えるようなことはできない」と述べている。

これを受け、パプリアス大統領は13日夜、連立政権発足の成否の鍵を握る穏健派政党、民主的左派のクベリス党首と会談したが、調停は不調に終わった。

パプリアス大統領は14日に議会第1~3党の党首とクベリス氏を大統領官邸に招いて、連立政権発足に向けた最後の調停を試みる。
調停が成立しない場合、6月10日か17日に再選挙が実施される。

最新の世論調査では、緊縮策のゼロからの見直しを求めるSYRIZAが第1党に躍進する一方、旧2大政党は現議会勢力をさらに減らすとの予想が出ている。

ギリシャは6月末に追加歳出削減策の策定期限を迎えるが、SYRIZAは緊縮策反対の左派連立政権樹立を目指しており、政権を取れば、緊縮策の廃止、銀行の国有化、賃金・年金カットの取り消しなどの政策を実施する方針 。

付記

その後、大統領による調整は失敗、再選挙を6月17日に行うこととなり、ピクラメノス憲法裁判所長官が16日に選挙管理内閣の首相に就任した。

 

EUのファンロンパイ大統領と欧州委員会のバローゾ委員長はギリシャの各政党の党首に対し、ギリシャがユーロ圏にとどまりたい場合、EUなどから受けた支援の条件を遵守する必要があると電話で伝え た。
ドイツのメルケル首相、およびショイブレ財務相、欧州中央銀行のアスムセン専務理事らも同様のメッセージを公の場で発している。

EUは「財政緊縮関連法案の議会承認」、「財政緊縮策実行の誓約書」「歳出削減策の具体化」の3つを条件として、第二次支援 を1,300億ユーロとするとともに、民間銀行のギリシャ国債元本削減幅を従来の50%から更に拡大することとした。(1,300億ユーロの追加支援のうちIMFの負担分 が280億ユーロ)

1,300億ユーロの融資は2012-14年に実施される。
このうち、ギリシャが既に融資を受けたのは、
3月の75億ユーロ(ユーロ圏から59億ユーロ、IMFから16億ユーロ)など、少額。

ギリシャが3つの条件を満たさない場合、この融資が受けられない可能性がある。

急進左翼連合(SYRIZA)はユーロ圏残留を主張しているが、緊縮策を廃止して融資を受けられなくなった場合どうするかの方策は持っていない。

ーーー

フランス大統領選では、「欧州には雇用と繁栄こそが必要」と成長重視の財政再建策を提唱するオランド氏が勝利した。
単年度財政赤字をGDPの0.5%以内に抑えることを義務付けた新財政協定について、再交渉を主張している。

これに対し、メルケル独首相は、成長戦略の必要性を認めつつ、「これ以上の財政悪化は容認できない」と言明、新財政協定の再交渉を拒絶した。

ドイツのウェスターウェレ外相は5月11日、ドイツも成長に軸足を置きたいが、歳出拡大を意味するのであれば、そうではないと述べた。ギリシャは、追加支援を受け、ユーロ圏にとどまることを望むのであれば、合意した改革を実施する必要があると指摘した。
 また、ユーロ圏の結束を維持したいが、それはギリシャがユーロ圏にとどまることを望むかどうかに左右されると指摘した。

一旦はギリシャ問題に目処がついたように思われたが、ユーロ圏の政治的混迷懸念が高まった。
ギリシャのユーロ圏離脱の可能性も出てきた。


 

武田薬品の営業損益は2010年3月期以降、毎年減少しており、今期は前年比1,021億円の大幅減益となった。
2013年3月期は更に大幅な減益を予想している。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2010/3 14,660 4,202 4,158 2,977 90 90
2011/3 14,194 3,671 3,716 2,479 90 90
2012/3 15,089 2,650 2,703 1,242 90 90
前年比 895 -1,021 -1,012 -1,237    
2013/3予 15,500 1,600 1,500 1,550 90 90

医薬品業界では2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切れる。(「2010年問題」)

武田薬品でも2011年3月期決算で製品別売上高 3,879億円のトップ製品のチアゾリジン系経口糖尿病治療薬・アクトスが、単剤が2012年8月、合剤のアクトプラスメッドとデュエットアクトが同年12月に米国で特許が失効する。
アクトスの売上高のうち3,400億円が海外分で、そのほとんどがアメリカ市場であり、アメリカ市場では後発品上市から半年間で先発薬売上高の約7割が消えるとされる。

この対策として同社は2011年9月末にNycomedを買収した 。

2011/5/23 武田薬品、Nycomed社を買収

当期の1,021億円の減益のうちには、この買収に伴う企業結合会計の影響が770億円含まれている。

売上高はNycomedの半年分の追加が既存事業の減収を補って 895億円増えたが、Nycomed 保有の棚卸資産を時価評価したこと (550億円のコスト増)等で売上原価が増加し、売上総利益は261億円の減益となった。

販売費・一般管理費で、研究費は70億円減となったが、その他の費用が830億円増加し(うち、Nycomed の無形固定資産等の償却が200億円)、差引760億円の減益要因となった。

以上により、営業損益は1,021億円の減少となった。

同社はNycomed買収に伴い、2011年11月4日の第2四半期発表時に、下記の通り業績予想を1200億円下方修正している。 
実績はほぼこの通りとなった。  

    既存事業の減益    - 550億円
    Nycomed 事業の利益    +120億円 
 Nycomed 企業結合合計    - 770億円
  (棚卸資産の時価評価)  売上原価   (-570億円)
  (残り 無形固定資産等償却)  販売管理費  (-200億円)

2013年3月期については、Nycomedがフルに貢献、更に4月に買収合意した米薬品メーカーのURL Pharmaの売上高が加わり増収となるが、買収に伴う無形固定資産、のれん償却費の増加に加え、研究開発費も増えるため、営業利益、経常利益はともに約4割の大幅減となる。

Nycomedの買収にかかるのれん代と無形資産の償却費は年630億円。Nycomedの営業利益は600億円とされ、償却後ではマイナスとなる。

武田薬品は4月11日、痛風の予防および治療薬を扱うURL Pharma, Inc.(2011年売上高約600百万ドル)を800百万米ドルで買収することで合意した。
買収完了後、武田ファーマシューティカルズUSAに統合する。

なお、移転価格税制に基づく更生処分について一部を取り消す異議決定書が出て、455億円が還付され、還付加算金が116億円支払われるため、当期損益は増益となる。

同社は5月7日、残り246億円全額の取り消しを求める審査請求書を、大阪国税不服審判所に提出した。



政府は5月10日、電力会社の今夏の需給見通しが妥当かどうかを点検する需給検証委員会の第5回会合を開き、需給予測の最終報告書案を議論した。

政府は4月8日、関西電力の管内のことし夏の電力需給について、最新の見通しをまとめた。
しかし、これに対する疑問が呈されたことから、枝野経産相がやり直しを指示した結果、4月13日に修正案が提示された。
  2012/4/16 関西電力の電力需給予想

関西電力の需給予想に対しては多くの疑問が出ている。
このため、政府は4月11日、各電力会社が申告している電力需給見通しを審査する有識者会議を新設する方針を決めた。第三者の評価を採り入れて予測の精度を高めるもの。

今夏の電力需給見通しは下記の通りとなった。

原発稼働をゼロと想定した電力9社の8月の需給見通し (万キロワット
電力会社 供給力 最大需要 需給
過不足
予備率
  
%
随時調整
契約効果
込み %
北海道 485 500 -16 -3.1 -1.9
東北 1,475 1,434 41 2.9  
東京 5,771 5,520 251 4.5  
中部 2,785 2,648 137 5.2  
関西
(大飯稼働)
2,542
(2,988)
3,015
 
-473
(-27)
-15.7
(-0.9)
-14.9
(0.0)
北陸 578 558 20 3.6  
中国 1,235 1,182 53 4.5  
四国 587 585 2 0.3  
九州 1,574 1,634 -60 -3.7 -2.2
合計 17,032 17,076 -45 -0.3 0.1
 最大需要は2010年夏並みの猛暑を想定。

関西電力については、事務局が委員の求めに応じ、参考として大飯原発の供給力を見込んだ試算を提出した。

2基を合わせると計236万キロワットの出力がある大飯原発の再稼働で、夜間にくみ上げた水で発電する揚水発電の出力も増加し、電力需給が逼迫した時に企業に電気使用を抑えてもらう「随時調整契約」を見込んだ場合、電力不足は解消される。
随時調整契約を考慮しない場合は0.9%の電力不足となる。

この試算は、地元などに「再稼働か、使用制限か」を迫るものとして、反感を呼んでいる。
滋賀県では、「再稼働で需給の帳尻が合う新試算公表は予想された筋書。再稼働はあくまで安全性確保が条件」としている。

関電はこれまで、再稼働しても5%程度の電力不足になるとの見通しを示していた。
松井一郎大阪府知事は「『再稼働しても足りない』という話だったのに、今度は『足りる』という見解がでた。何を信じていいのか」と批判した。
「(原発を)動かせば足りると、誘導されていくのは理解できない」と述べ、政府や関電への不信感を示した。

ーーー

政府は4月23日、今夏の電力需要や供給能力を精査する「需給検証委員会」の初会合を開いた。

4月26日の第二回会合で、電力会社から提出を受けた供給力見通しをこれ以上積み増すことは難しいという見方でおおむね一致した。

昼間の電力需要ピーク時は、夜間の余剰電力でくみ上げた水で発電する揚水発電に期待がかかるが、原子力発電所が軒並み停止したことで夜間の余剰電力がそれほど生まれず、従来ほど貯水量を確保することができないと判断した。


 

企業の自家発電設備も、既に電力会社の見通しに最大限盛り込まれているとした。

電力融通については下記の通りが計画されている。

  最高想定
需要時
夜間最大
関西電力 110万kw 240万kw
中部電力  -100万kw  -230万kw
北陸電力 -6万kw -18万kw
中国電力 -49万kw -92万kw
九州電力 45万kw 101万kw

計算上はもっと余力があるが、火力等の電源脱落等のリスクがあることから、現時点で「安定的に必要とされる予備率」を下回るような融通の上積みは難しい。1週間前か前日になれば、リスクが見通せるようになり、融通量が増加する可能性 はあるとしている。

各電力会社は当然、安全を見ている。トラブルがなければ、融通量が増え、不足とならない可能性はある。

なお、電力会社各社のピーク時の使用電力の見通しに盛り込んだ節電効果がバラバラであることが分かった。

東京電力   10% (610万kw)
九州電力   7%  
       
関西電力   3% (102万kw)
中部、北陸   4%  
北海道、東北、四国   3%  
中国   2%  

5月2日の第3回会合では、検証委は「関電の見通しよりも、節電による需要削減などが期待できる」と判断し、不足幅を15%に圧縮した。

関電は、今夏の節電効果を102万キロワットとし、16.3%不足すると説明していた。

これに対し委員会は、一般家庭の節電意識の高まりなどで、需要予測に関電の申告より節電効果が15万キロワット多く反映できるとした。

また、需要の逼迫時に限り企業に電気の使用を抑えてもらう「随時調整契約」で、最大需要から28万キロワットを差し引けると想定、43万キロワットの需要削減を見込んだ。

電力会社 供給力 最大需要 需給
過不足
予備率
 (%)
当初 2,535 3,030 -495 -16.3
今回 2,535 2,987 -452 -15.1
差異  

節電  15
契約   28

   

関西電力の需給をまとめると以下の通りとなる。(万kw)

  能力 2011夏
実績

2012/8見通し

4/23
需給検証
委員会
5/7
需給検証委員会
2011夏
並み
2010猛暑
並み
過去5年
平均
大飯
稼働無し
大飯
 稼働
需要①   2,784 2,784 3,095 3,023 3,030 3,015 3,015
需要②
 随時調整契約
            2,987 2,987
供給力
(除 原発)
4,079
(3,046)
2,947
(2,611)
2,631 2,525 2,540 2,535 2,542 2,988
過不足   163
(5.9%)
-153
(-5.5%)
-570
(-18.4%)
-483
(-16.0%)
-495
(-16.3%)
-473
(-15.7%)
-27
(-0.9%)
過不足②
 随時調整契約
            -445
(-14.9%)
1
(0.0%)
                 
原子力 977 337 0 0 0 0 0 236
火力 1,697 1,415 1,472 1,472 1,472 他社込み
1,923
他社込み
1,923
他社込み
1,923
一般水力 331 225 203 203 203 254 254 254
揚水 488 448 312 206 221 232 239 449
太陽光 0 0.2 0.2 0.2

含地熱 5

5 5
自社合計 3,494 2,425 1,987 1,881 1,896      
他社一般 585 405 523 523 523      
融通 0 118 121 121 121 121 121 121
他社合計 585 523 644 644 644      
総合計 4,079 2,947 2,631 2,525 2,540 2,535 2,542 2,988
原発除く 3,046 2,611            

 

 


DuPontは5月1日、大豆タンパクと大豆食物繊維製品のJVのSolae LLC(ソレイ)を100%子会社にしたと発表した。
JV相手の
Bungeから28%の持分を440百万ドルで取得した。

Salaeの元はProtein Technologies International で、1958年に設立され、当初は産業用大豆タンパクのみであったが、その後食品などに展開した。

1997年にDuPont がRalston PurinaからこれをDuPont株式 15億ドルで買収した。

DuPontは2003年
4月にBunge Ltdとの合弁(DuPont 72%、Bunge 28%)でSolae LLC を設立した。
当初はDuPontのProtein Technology事業とBungeの北米と欧州の素材事業を新会社に移行し、第二段階でBungeのブラジルの素材事業を移行した。

ーーー

Solae LLCの14億ドル~17.5億ドルでの売却を目指し、ファンドや欧州企業と交渉していると報じられた。

しかし、DuPontはその後、売却方針を変換し、逆に SolaeのBunge持株の28%を購入し、100%子会社にすることを検討した。

今回の100%子会社化に当たり、DuPontでは「同社はNutrition & Health事業に注力しており、今回の投資は、2011年のDanisco買収と並び、食品素材業界のリーダーとしての同社のポジションを強化するもの」としている。

ーーー

DuPontは2011年5月に、デンマークの食品用酵素や素材のメーカーのDanisco64.9億ドルで買収した。
Daniscoの工業用酵素事業(Genencor部門)とDuPontは2008年に50/50 JVDuPont Danisco Cellulosic Ethanol LLCを設立し、次世代バイオ燃料であるセルロース系エタノールの生産に取り組んでいる。

DuPontEllen Kullman会長兼CEOは、「Daniscoの食品添加剤事業と工業用酵素事業(Genencor部門)のDuPontへの統合は、Dupont自体のNutrition & HealthApplied BioSciences部門と相補い、工業用バイオサイエンス、栄養、健康分野で業界のリーダーになれる」と述べた。

2011/5/27  DuPontDaniscoの買収成功 



Delta Air Linesは4月30日、子会社のMonroe Energy LLCがPhillips 66との間でフィラデルフィアの南にあるTrainer refinery complex を買収する契約を締結したと発表した。

Monroe Energy LLCは同時に、BPとPhillips 66と原油供給とマーケティングに関する戦略的契約を締結した。

Trainer Refineryは精製能力日量185千バレルで、主に軽質の低硫黄原油を処理する。

ConocoPhillipsはスピンオフにより Exploration & Production事業のConocoPhillipsRefining & Marketing事業のPhillips 66に分かれた。
   2012/4/10  ConocoPhillips、川下事業をPhillips 66 として分離 

買収金額は150百万ドルで、ジェット燃料を最大限取るために100百万ドルを投資して改造する。
州政府から雇用創出とインフラ改良の補助として30百万ドルを受ける。

戦略的契約に基づき、BPは今後3年間、Trainer製油所で処理する原油を供給する。
また、BPとPhillips 66はTrainer 製油所で生産されたガソリンや他の留分と、両社が他の製油所で生産するジェット燃料を交換する。

Delta Airは製油所での生産と交換により得られたジェット燃料で同社が米国で必要とするジェット燃料の8割を確保する。

Delta Airでは新しいワイドボディの飛行機1機分のわずかな投資で年間3億ドルの燃料費の節約が出来、また燃料の安定供給が確保できるとしている。

上期中に買収完了し、ジェット燃料生産は第3四半期に始まる予定。設備の改造は第3四半期末には終わる。

ーーー

ConocoPhillips は(分離前の)2011年9月に、Trainer製油所の買い手を探しており、直ちに生産を停止し、6か月以内に売却できない場合は永久に停止すると発表した。

製品輸入、ガソリン需要の弱さ、規制への対応にコストがかかることなどから、米国東海岸の製油所は何年もの間厳しい状況にあるとしている。

このため、州の政府や議会は雇用維持のため製油所存続に動いていた。

Sunocoも2011年9月に、Refinery事業からも撤退し、Marcus HookとPhiladelphiaの製油所の売却手続きを開始したと発表した。
同社は石油化学からも撤退している。

2011/8/25 Sunoco、石油化学の売却を完了




米天然ガス2位、Chesapeake Energy は5月1日、創業者で会長兼CEOの Aubrey K. McClendonが会長職を辞すると発表した。CEO職には止まる。
独立した非常勤の会長候補を新たに探す。

ーーー

4月18日に同社の株価が一時10%近く急落した。

McClendon CEOがChesapeakeの石油・ガス井に対する個人持分を担保に過去3年間で11億ドルを借り入れていることをReutersが報じた。

Chesapeakeには創業者参加計画(FWPP:Founder Well Participation Program)という名の計画があり、McClendonが同社の数千にも及ぶ井戸の全てについて2.5%の持分を購入することを認めている。
借り入れた資金はこの個人持分の購入に使われていた。

借入金の一部はChesapeakeが取引している投資会社 EIG Global Energy Partnersからのもので利益相反の疑いがある。
この借入金については株主に公開されていない。

これを受け、同社は4月26日にこのFWPPを2015年末までの10年の期間が過ぎれば延長をしないと発表したが、5月1日になってこれを見直し、2014年6月末に終了させると発表した。

4月30日に Wall Street Journalは税務当局(IRS)がFWPPの調査を始めたと報じた。

Chesapeake Energy は5月1日、McClendonが会長職を辞すると発表した。

5月2日には、McClendon が2004年から2008年までの間にヘッジファンドを通じChesapeakeの扱う製品と同じ石油や天然ガスなどに2億ドルを投じていたと Reutersが報道した。
ヘッジファンドの石油やガスの取引は、McClendon がCEOとして市場を動かすような情報を得ている期間に行われており、 これらの情報を個人のために利用しているのではとの疑惑が起こり、この報道で株価は更に下がった。

ある上院議員は司法省に対し、詐欺、価格操作、利益相反、その他の違法行為がないか、Chesapeakeを捜査するよう求めた。

SECは非公式調査を開始しており、会社とMcClendon に対し、資料の保持を求めた。

S&Pは本件を懸念し、同社の格付けをBB+からBBに下げた。


ーーー

Chesapeak Energy はMcClendonがTom L. Ward(元社長)と二人で1989年に5万ドルの投資で始めたもので、現在では天然ガスではExxonMobilに次ぐ2位で、昨年の売上高は116億ドル。
"America's Champion of Natural Gas"、"the biggest frackers in the world"(シェールガスのFracking)と自称している。

同社の業績       

単位:百万ドル 

  2008 2009 2010 2011
売上高  11,629  7,702  9,366  11,635
営業損益 1,457 -8,945 2,805 2,921
純損益 504 -5,853 1,663 1,570
 2009年:減損その他で -11,202百万ドル


同社は過去5年で900万エーカーを超える土地をリースした。これは全てを掘削するのに30年かかるというもの。
そして新しいシェール層が見付かると、権利の獲得を続けた。

Chesapeake Energyの現在の主な鉱区は以下の通り。

このうち、Eagle Ford Shale については中国のCNOOCが60万エーカーのリース権益の33.3%を購入している。

2010/10/18  CNOOC、テキサス州のEagle Ford Shale projectに参加

BHP Billitonは、Chesapeake Energyからアーカンソー州のFayetteville Shaleの権益全てとパイプラインを47.5億ドルで買収すると発表した。

2011/2/23 BHP Billiton、米シェールガス鉱区を買収 

日揮は2011年6月、Chesapeake Energyからテキサス州 Eagle Ford シェールの権益の10%を65百万ドルで譲り受けた。


しかし、最近はシェールガスの供給拡大で天然ガス市況は昨年に50%下がり、直近では100万BTU当たり2ドルを割り、2001年以来の安値となっている。

天然ガスの供給過剰を懸念し他の業者が減産を始めたのに対し、McClendonは天然ガス価格の高騰に賭け、Chesapeakeは第1四半期に生産を18%増やしている。

この結果、同社の長期債務は100億ドルに達した。

このやり方は資産価値が高止まりする場合にのみ成功するが、天然ガス価格が近い将来高騰する可能性は少ない。

2012年第1四半期決算は予想外の赤字となった。

McClendon CEOの個人の行動だけでなく、彼の考え方で拡大を続けてきたChesapeake Energy自体が大きな問題を抱えている。



タイのMap Ta Phut 工業団地にある合成ゴムメーカー、BST Elastomersの工場で5月5日、トルエンタンクが爆発して火災が起こり、11人が死亡、140人以上が重軽傷を負った。

工場はグレード変更のために停止中で、水分を除くためトルエンで設備を洗っていた。爆発の原因は不明。

すぐ近くにIndoramaの年産70万トンのPTAプラントなどがあるが、これらは稼働を続けている。

BST Elastomersはタイの化学メーカー
Bangkok Synthetics (BST)の子会社。

BST本体は以下の製品を生産している。
  ブタジエン 140千トン
  MTBE       55千トン
  ブテン-1     35千トンなど

BST Elastomersは1996年に下記各社による合弁会社として設立された。

BST 60%、タイ企業 8%
JSR 14%、日本ゼオン 12%、三井物産 3%、伊藤忠商事 3%  

JSR(Ni触媒)とゼオン(Ni触媒)の技術によるブタジエンゴム(4万トン)とJSR技術(エマルジョン重合)によるSBR(6万トン)プラントを建設、1998年に商業運転を開始した。

製品の主な販売先は、タイ国内外のタイヤ、PS樹脂、工業用品、履き物メーカーで、タイ国内の販売はBST Elastomersが行い、輸出はJSRとゼオンが支援、協力した。

その後JVを解消し、現在はBSTの子会社となっている。
現在の能力はBRが5万トン、SBRが7万トン。

タイでは他に宇部興産がJVでBRを生産している。

会社名Thai Synthetic Rubbers
設立  :1995/11
出資  :宇部興産 73.1%、丸紅 13.0%、TSRC(台湾) 13.0%ほか

能力  :当初 50千トン、2006年の増設後 72千トン

ーーー

JSRはこのJVからは離脱したが、別途2011年6月にBSTとS-SBRの製造のJVを設立した。

会社名JSR BST Elastomer Co., Ltd.
工場 :
Map Ta Phut  
出資  :
JSR 51%
     BST 49%  
能力  :S-SBR 第一期 50千トン (2015年に 100千トンに)

2012年3月に起工式を行った。2013年6月稼働予定としている。

S-SBRはエコタイヤと呼ばれる低燃費タイヤ向けへの需要が世界的に急拡大しており、JSRでは2011年12月に四日市工場で25千トンの増強を完了し、60千トンに生産能力を拡大している。

  
2010/12/27 溶液重合法SBRの増設相次ぐ

建設中のこのプラントは事故現場とは2キロメートル離れており、直接の影響はない。
JSRではBSTからの要請があれば、個別に検討し可能な限りの支援を行っていく予定としている。

ーーー

Map Ta Phut 工業団地では、急激な重工業化にともない、住民たちが十数年前から大気や水汚染による環境・健康被害を訴えてきた。1990年代末には悪臭騒ぎで学校が避難・休校となり(数年後に移転)、「マプタプット公害問題」が全国でも知られるようになった。

タイ中央行政裁判所は2009年9月、同国東部のRayongMap Ta Phut地区で計画されている石油化学などの76事業について、健康影響アセスメントと公聴会が行われなかったのは違憲という訴えの最終判決を下すまで一時凍結するようタイ政府に命じた。

2009/12/4 タイ最高行政裁判所、マプタプットの石化計画などの凍結を継続

その後、ほとんどの計画が認められたが、住民の不満は強い。

2010/9/24 タイマプタプットで抗議集会開催か

今回の爆発事故を受け、住民の反応は厳しく、工場の再開を認めるべきではないとの声も出ている。

 

三井物産と三菱商事は5月1日、豪州のWoodside Petroleumが推進するBrowse LNG Projectに参画すると発表した。

Browse LNGプロジェクトは、豪西オーストラリア州沖合のBrowseコンデンセート田で生産する天然ガス・コンデンセートをKimberley地区に輸送し、精製・液化・出荷を行う大規模な開発計画で、Woodsideの子会社がオペレーターを務めてい る。
LNGの生産は年間1,200万トンの予定。

両社が折半出資する豪Japan Australia LNG (MIMI) Pty Ltdを通じて、Woodsideの子会社Woodside Browse と4月30日に権益売買契約を締結した。

Woodside Browseの持つ権益46%のうち、14.7%を20億ドルで買収する。

現在、2013年6月末までの最終投資決断を目指し、2012年初めに終了した基本設計の評価作業および設計・調達・建設業者の選定に向けた作業を行って いる。

MIMI BrowseとWoodside Browseは今後共同で、両社が本プロジェクトから引き取る一定量のLNGに関し日本を含むLNG顧客向けの販売活動を進めること で合意した。日本向けについては年約150万トンと報じられている。

Woodside は既に台湾の CPC Corporation と年間200-300万トン、PetroChinaと200万トンのLPGを供給する契約を結んでいる。

ブラウズLNGプロジェクトの概要は以下の通り。

 

BrowseはTorosa(Scott Reef)ガス田、Brecknockガス田、Callianceガス田に分かれている。

隣接のIchthysガス田については
  2012/1/16 国際石油開発帝石、豪州イクシスLNGプロジェクト 最終投資決定


プロジェクトパートナー Woodside Browse (Operator)
BHP Billiton
BP
Chevron
Shell
          ※各パートナーの最終的な権益比率は未定。
ガス・コンデンセート田位置 西オーストラリア州Broome市沖合425km 北西大陸棚Browse 地域
陸上プラントサイト予定地 西オーストラリア州Kimberley地区James Price Point
年間LNG生産量 1,200万トン(400万トン×3系列)
※将来的には2,500万トンまで拡張可
埋蔵量
(ウッドサイド・エナジー社見積もり)
ガス:15.5兆立方フィート、
コンデンセート:4億1,700万バレル
最終投資決断 2013年上半期


ーーー

豪州沖合は近年ガス発見率が高いが、ガス田開発を先送りする事例が増えている。

Browse LNGも、1970 年代に主要ガス田(Torosa、Brecknock)が発見されていたにも拘わらず、パートナー(オペレーターWoodsideとBP、Chevron、Shell、BHP Billiton)間のガス事業戦略が異なるために開発時期と開発方法が合意できなかった。

2 0 0 9 年1 2 月に連邦及び州政府は、Browse LNGガス田群のリース更新に際し、Woodsideに対して1 2 0日以内にKimberleyでの液化設備建設を受け入れるか、あるいは経済合理性のある他の候補を提案するように申し渡した。
併せて3 年以内にBrowse LNGプロジェクトの最終投資を決定することを求めた。

ライセンス失効を恐れたBrowseコンソーシアムは、20100 年2月にJames Price Point に液化基地を建設するガス田開発案に合意することを表明し、直ちにプレFEED作業を発注し、計画が進み始めた。

ーーー

2010年代後半までに予定される主なアジア向け新規LNGプロジェクトは以下の通り。(2012/1/14 日本経済新聞)

  プロジェクト 能力
万トン/年
操業主体
豪州 Gorgon 1,500 Chevron
Wheatstone 860 Chevron
Queensland Curtis  850 英BG Group
Ichthys 840 INPEX
Australia Pacific 700 ConocoPhillips
Pluto 430 豪 Woodside
インドネシア Tangguh 380 BP
Abadi 250 INPEX
Donggi-Senoro 200 三菱商事
パプアニューギニア PNG 660 ExxonMobil


ーーー

三菱商事と三井物産は4月17日、それぞれが米国のSempra Energyの子会社であるCameron LNGとの間で、米国産天然ガスの液化を委託する交渉を行っていることを明らかにしている。

2012/4/20 三菱商事と三井物産、米国産LNGを輸入へ 

野田首相は4月30日のオバマ米大統領との首脳会談で、LNGの対日輸出拡大などエネルギー面での協力を求めた。

オバマ大統領は首相の輸出要請に対し、「日本のエネルギー安全保障は米国にとっても重要」と理解を示す一方、「(対日輸出は)政策決定プロセスにある」として、明言は避けた。日本政府内には「少なくとも11月の大統領選までは、オバマ大統領が輸出認可に動く可能性は低い」との見方が強い。



クラレの2012年3月期決算は好調で、営業損益は2008年3月期を上回り、2期連続最高益となった。
配当も年6円の増配とした。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 当期損益

 配当

中間 期末
2008/3 4,176 481 428 256 11 11
2011/3 3,632 531 511 287 13 14
2012/3 3,690 547 539 315 16 17
前年比 58 16 29 27 3 3
2013/3予 4,000 600 585 350 18 18

セグメント別ではポバール、PVB、エバール等の酢酸ビニル系の「樹脂」が好調で、500億円程度の営業利益を計上している。
特に、液晶向け「ポバールフィルム」が安定的に利益を稼いでいる。

  11/3実績 12/3実績 13/3予想 対象製品
樹脂 508 499 550 ポバール、PVB、エバール等の樹脂・フィルム
化学品 87 91 95 MMA樹脂、熱可塑性エラストマー、イソプレン関連、メディカル関連製品
繊維 -2 11 20 合成繊維、人工皮革、不織布
トレーディング 33 35 40 合成繊維・人工皮革の加工・販売、グループ製品等の販売
その 49 57 60  
全社 -144 -145 -165  
合計 531 547 600  

ーーー

ラレの「樹脂」セグメントは酢ビ系の樹脂・フィルムで、以下の製品がある。

ポバール樹脂はクラレが世界で初めて事業化した機能性樹脂で、世界トップシェアを誇る。

水溶性、造膜性、接着性、乳化性、耐油性、耐薬品性などの特性をもち、紙加工剤、接着剤、塩ビ重合安定剤をはじめ、自動車のフロントガラス用中間膜原料などの様々な用途で使用されている。

ポバールフィルムは、大型薄型テレビをはじめモニター、パソコン、携帯電話等のLCDの表示に欠かせない偏光フィルムのベースフィルムで、同社の製品は30年以上前からほぼ独占的にこの分野に使用されてきた。

光学用ポバールフィルムの世界シェアで約8割を占める。
日本合成化学工業がこれに続き、世界市場でもこの2社でほぼ独占している。

PVB(ブチラール)樹脂はポバールを主原料とする樹脂で、安全ガラスの中間膜、燃料電池用セルなどファインセラミックス用のバインダー、塗料・インク用のバインダーなどの用途に幅広く用いられる。

PVBフィルムは、その優れた透明性、ガラスとの接着性、耐貫通性を生かし、建築用の安全合わせガラスや自動車のフロントガラスなどの中間膜に使用されている。近年は太陽電池の封止材用途へも拡大している。

EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)樹脂のエバールはプラスチックの中で最高の気体遮断性をもつ機能性樹脂で、酸素を遮断して内容物の劣化を防ぐことから、各種食品包装材に広く使用されている。またプラスチック製ガソリンタンクや、床暖房用のパイプなど食品包装以外の分野でも需要が広がっている。

1972年にクラレが世界で初めて工業化した。クラレの世界シェアは約65%。


同社は酢ビ系事業の世界展開を図っている。
欧州のポバールとPVB樹脂及びPVBフィルム事業は買収事業を拡大した。
更に北米とアジアでの新設を検討している。

    付記

クラレは6月5日、クラレアメリカ(クラレ100%間接出資子会社)によるポバール樹脂生産設備の新設を決定したと発表した。

立地:テキサス州ラ・ポルテ市(工場用地は先行取得済)
生産能力:第一期 40,000トン/年
時期: 2014年9月完工予定

 

クラレの世界展開  数字は能力(単位:千トン)
  日本 アジア 欧州 北米 合計
酢ビ 岡山 150             150
PVA(ポバール)樹脂 岡山・新潟 124 Kurare Asia
Pacific

40

Kurare Europe
    (増強中)
70
+24
(決定*1)   234
+24
ポバールフィルム 玉島・西条
(増強中)
*2                                          
PVB樹脂         Kuraray Europe 39     39
PVBフィルム     (検討中)   Kuraray Europe
  (増強中)
34
    34
エバール 岡山 10 (検討中)   Eval Europe 24

Kuraray
 America
(増強中)
 

35

+12
69
  (+12

*1  Kuraray America は2011年1月、酢ビ・ポバール事業の拡大のためエバール工場の近くの土地を購入した。
  上記 付記参照

*2 ポバールフィルム能力
        2007年初めは西条3100万m2、玉島3000m2の合計6100万m2であったが、
    現状は 1億8000万m2となっており、2013年6月には西条増強で合計2億1200万㎡まで拡大する。
        西条工場の増強では大型液晶テレビ用偏光フィルムのための幅5000mmの広幅タイプの生産ができる。

   

クラレはポバール原料の酢ビを岡山工場で生産している。
なお1983年に中条工場の
天然ガス法酢ビ(86.4千トン)を休止した。

2006/5/20 酢酸業界


同社の海外拠点は以下の通り。

Kurare Asia

クラレは1996年10月、シンガポールに日本合成化学との50/50JVのPoval Asia を設立したが、2008年1月付けでクラレ 100%になった。

2008年7月にアジア・オセアニアのポバール樹脂販売会社Kuraray Specialities Asia と統合し、Kuraray Asia Pacificとした。

Kurare Europe

 1) PVA、PVB事業

クラレは2001年にClariantのPVA、PVB事業を買収、Kuraray Specialities Europe GmbH を設立した。
工場はフランクフルトで、能力はPVA 50千トン、PVB 16千トンであった。その後増強。


2006年
9月に
Kuraray Europeが吸収合併した。

 2) PVBフィルム

2004年11月にRütgers AGの子会社HT Troplast社から買収した。
工場はドイツのトロイスドルフで、能力は26千トンで、2007年に34千トンに増強した。 
これにより、PVA樹脂→PVB樹脂→PVBフィルムの一貫体制を完成

2012年3月、世界的なPVBフィルムの需要拡大(特に新興国を中心に伸長する自動車用途)に対応し、増強を決定(能力非公表)。2013年11月稼働目標。

Eval Europe

1999年にベルギーのアントワープでエバールの生産を開始した。

Kuraray America

当初、Eval Company of America を設立し、1986年にテキサス州パサディナでエバールを生産開始した。
その後、
Kuraray Americaに吸収合併した。

 

付記

クラレは5月22日、米国のポバールフィルムのメーカーのMonoSol社を買収すると発表した。
MonoSolは、洗剤・農薬・染料などの個包装、人工大理石離型用など産業用ポバールフィルムではリーディングカンパニーの位置にある。
本件買収により、クラレはポバールフィルムに関し、偏光フィルム向けの光学分野だけでなく、広範な産業分野においてもグローバルリーダーとなるとしている。

米の非営利組織「全米発明家殿堂」による2012年の殿堂入りの授賞式が5月2日、Washington, D.C.の旧特許庁ビル(現 Smithsonian American Art Museum and National Portrait Gallery)で行われた。

米国の特許を持ち、その発見が人類の福祉に貢献していることなどを評価して選考されるもので、今回、血液中のコレステロール値を低下させる「スタチン」を発見した遠藤章・東京農工大特別栄誉教授など10名が選ばれた。

遠藤氏は日本人として初の受賞。
2008年には優れた医学研究者に贈る「ラスカー賞」(「アメリカのノーベル生理学・医学賞」)を受賞しており、ノーベル賞の有力候補とされている。

2008/9/16 米ラスカー賞に遠藤章・東京農工大名誉教授

遠藤氏は授賞式で、「子どもの頃にキノコがハエを殺すのを見て科学への情熱が生まれた。そのキノコの研究から1973年のスタチン発見に至った」と述べた。
彼自身が2000年にコレステロールが高いと診断されたが、医者から「心配するな、いい薬がありますよ」と言われたと述べた。


今回の受賞者は以下の通りで、故 Steve Jobs も入っている

遠藤章   スタチン
Barbara Liskov   コンピュータ言語、システム設計
C. Kumar N. Patel   炭酸ガスレーザー
Lubomyr Romankiw & David Thompson   薄膜磁気ヘッド
Gary Starkweather   レーザープリンター
Alejandro Zaffaroni  
放出制御薬物送達システム
故 Dennis Gabor   光電子ホログラフィー
Steve Jobs   コンピュータ技術
故 Mária Telkes   太陽熱貯蔵システム


非営利組織の全米発明家殿堂は1973年に米国特許庁と米知的財産法律協会により設立された。
今回を含め、470人が殿堂入りをしている。
  殿堂入りリスト http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_National_Inventors_Hall_of_Fame_inductees

第一回の1973年にはThomas Edisonがただ一人殿堂入りした。

第二回(1974年)には5人が選ばれた。
 電話の
Alexander Graham Bell
 トランジスターの
John Bardeen、Walter Houser Brattain、William Shockley
 綿繰り機のEli Whitney, Jr.

2011年の殿堂入りにはリチウム銀バナジウム酸化物電池の発明でEsther Sans 竹内 が入っているが、彼女は同じ分野の研究者である Kenneth 竹内の妻。




Shintechは4月30日、ルイジアナ州知事の同席のもと、信越化学の子会社(Shintechの姉妹会社)のSE Tylose がルイジアナ州PlaquemineのShintech敷地(約900万坪)でヒドロキシエチルセルロース(HEC)を製造すると発表した。
(信越化学も5月1日に発表した)

能力は年産9千トンで、投資額は120百万ドル。年末には着工し、2014年初めの操業開始を予定している。

HECは、セルロース誘導体の一種で、主に水溶性ペイントに使用され、粘度の調節、着色剤の沈殿防止、接着力の向上などで優れた効果がある。

HECの需要は堅調な伸びが期待されているが、Shintechが所有する工業用地の一画を利用できることにより、将来の増設も見据えた事業展開が可能であることが、米国で新工場を建設する決め手となった。

SE Tylose は信越化学が2004年1月にスイスのClariant(1955年にSandozの化学品部門がスピンオフしたもの)からセルロース部門を買収したもので、Shin-Etsu International Europe の100%子会社とした。

同社は医薬用、建築材料用、工業用のメチルセルロース(MC)と塗料用のHECを生産している。

信越化学による買収時には能力はMCが27千トン、HECが10千トンであったが、2006年にMCを40千トンに増強した。
その後更に、MCを50千トンに、HECを16千トンに増強している。

2006/10/10  信越化学、ヨーロッパのメチルセルロース能力増強完了 

なお、信越化学は直江津でMCを生産している。


信越グループのセルロース誘導体の能力は下記の通りとなる。

  MC HEC
信越化学 直江津工場 (20千トン23千トン) 20千トン

SE Tylose ドイツ

(27千トン40千トン) 50千トン

(10千トン)                    16千トン

     ー 9千トン
合計 (47千トン63千トン)70千トン  (10千トン16千トン) 25千トン

HECの増設の結果、信越化学は米Ashlandに次ぐ世界第2位のHECメーカーになる。

Ashlandは2010年11月に南京市に10千トンプラントを完成させた。20千トンへの増強が可能。

ーーー

MCについては信越化学は2005-06年に200億円をかけて日独で増強をおこない、直江津工場の生産能力を年産20千トンから23千トンに増強、ドイツの能力を27千トンから40千トンに増強して、合計能力を63千トンとした。

この時点でこれまでの首位の米Dow Chemical(約45千トン)を抜き世界第1位の座を確固たるものとした。

しかし、Dow Chemicalは2007年にBayerから主にセルロース事業を行っているWolff Walsrode business group を買収、同社のWater Soluble Polymers businessと統合し、Dow Wolff Cellulosics とした。
(Wolffに関しては信越化学も買収に乗り出していたとされる)

Dow Wolff Cellulosicsは2009年2月にドイツBitterfeldに新しい工場を建設した。
更にDowは2011年12月に、アジアでの増設の意向を明らかにしている。

2007年3月に直江津のMCプラントで爆発事故が発生した。
医薬品(医薬品錠剤を固める結合材やコーティングなどに使用)向けは信越化学が国内シェアの約9割を握っており、
SE Tyloseでは医薬品向けは生産していないため、需要家に混乱を生じた。

2007/4/16 信越化学 爆発事故のその後

直江津能力は現在20千トンに減っているが、これは事故に伴うもの。
但し、医薬用は2008年10月に増産した。

ドイツでは2008年に医薬用を4千トン、建材用を6千トン、合計10千トンの増設を行った。



 

中国と韓国は5月2日、2国間の自由貿易協定(FTA)の交渉開始で正式合意した。
北京で会談した中国の陳徳銘商務相と、韓国外交通商省の朴泰鎬通商交渉本部長が発表した。


合意内容は:
 ・FTA交渉の開始を宣言する
 ・早期の交渉妥結を目指し努力する
 ・国内への影響が大きい品目の保護のため、交渉は2段階方式で行う
   「敏感品目」「超敏感品目」について保護策を検討する
 ・サービス・投資でも高い水準の自由化を目指す

「敏感」品目に関し、関税撤廃対象からの除外といった保護策を協議し、双方が満足できる内容にならなければ先には進まないというもので、交渉がもつれる可能性はある。

韓国は唐辛子や玉ねぎ、ニンニクなどのあわせ調味料や一部の水産物について、最初から交渉テーブルから外したい意向。

中国は韓国が輸出拡大を期待する自動車や石油化学分野の開放時期をできるだけ遅らせるという計画を持っている。

韓国の農村経済研究院は、韓中FTAの発効の際は、韓国の中国からの農水産物輸入額は今後10年間、計108億ドルが増え、農業生産額は14.7%が減少するだろうと見込んでいる。


両国は今年1月、首脳会談で早期にFTA交渉を開始すると合意していた。

韓国はこれまで産官学共同研究や公聴会など、中国とのFTA交渉のための国内での事前手続きを終わらせている。
2年以内の交渉妥結を目指す。

韓国は米国、EU、EFTA(欧州自由貿易連合)、シンガポール、ASEAN、インド、チリ、ペルーとFTAを結んでいる。
3月26日には
トルコとのFTA交渉が合意に達した。

米国・EU・ASEANの世界3大経済圏とFTAを結んだ唯一の国だが、更に最大の輸出先である中国とFTAを結び、欧州―東アジア―米国をつなぐ「東アジアのFTAハブ」(韓国政府) を目指す。

日本は日中韓3カ国のFTA交渉をめざすが、中韓FTAに後れを取り、不利な立場になった。

中国の陳徳銘商務相は「中韓FTAは日中韓FTAの重要な基礎であり、推進力となる」と日本への配慮を示した。
5月13日から北京で開く日中韓首脳会談に向けて、実務者間で日中韓FTAの交渉入りに関する文言調整を続けている。

中国は米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)に対抗してアジアでの自由貿易圏づくりの主導権を握ることを狙っている。

韓国の企画財政部では韓中FTAが発効すると、5年内にGDPが0.95%~1.25%上昇するとみている。
10年では2.28%~3.04%のアップを期待している。

韓国の中国との2011年の貿易額は2206億ドルで、米国との貿易額1008億ドル、EUとの貿易額1031億ドルをはるかに超えている。

 

 


信越化学の2012年3月期の連結決算は、前期比若干の減収で、損益はほぼ前期と同じであった。

同社の営業損益はこれまで増益を続け、2008年3月期には過去最高の2,871億円となったが、一転減益に転じ、2010年3月期には1,172億円となった。
2011年3月期から再度増益となったが、レベルは最高時の半分強に止まっている。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 当期損益

 配当

中間 期末
2008/3 13,764 2,871 3,000 1,836 40 50
2011/3 10,583 1,492 1,603 1,001 50 50
2012/3 10,477 1,496 1,652 1,006 50 50
前年比 -105 4 49 5    
(2008/3比) (-3,286) (-1,375) (-1,348) (-829)    
2013/3予

未定

報告セグメントが変わったため、以前との厳密な比較は難しいが、下記のシンテック及び信越半導体グループの実績が示すように、塩ビと半導体シリコンの損益が以前の水準に戻っていない。

営業損益対比(億円)
  2008/3 2010/3
塩ビ系 315 174
シリコーン系 431 268
その他有機・無機 249 169
電子材料 1,621 395
機能材料ほか 260 180
全社 -4 -14
合計   2,871   1,172
 
  2010/3 2011/3 2012/3 増減
塩ビ・化成品 196 197 237 40
シリコーン 249 341 337 -4
機能性化学品 139 129 147 18
半導体シリコン 226 389 343 -46
電子・機能材料 307 361 382 21
その他・全社 55 76 51 -25
合計   1,172   1,492 1,496   4

Shintechと信越半導体グループの状況は下記の通り。

  米国の塩ビ子会社 Shintech

2010年後半にPlaquemineの第2期が稼働し、PVC能力は264万トン、VCMも80万トンとなった。
更に、VCM 80万トンの増設を行っている。2011年完成予定となっていたが、状況不明。

立地 PVC VCM カ性ソーダ  
現状 計画 現状 計画 現状 計画
Texas州 Freeport  1,450     -     -   VCMは 隣接のDowから購入
        (825)   (550) 2007/5発表 DowのVCM代替
(今回計画に変更?)
Louisiana州 Convent   (500)   (500)    (275) 反対運動で中止
Addis   590     -     -   VCMは 隣接のDowから購入
PlaquemineⅠ   600     800     530   2期完成後(2010年後半)の能力
PlaquemineⅡ       800   530 2011年完成予定
Addis  (270)     -     -   Bordenから購入、廃棄
合計  2,640    800 800   530 530  


PVC増設により売上高(ドル建て)は2008年に比して大きく増大しているが、経常損益は下回ったままである。

理由(推定)については 2010/5/3 注目企業の決算-1(信越化学) 参照。

米国各社の損益は下記の通り。

* 過去の損益を一部修正した。
過去に含めたPolyone(GeonとM.A.Hannaが合併)はOxyVinyls持分をOccidental に売却し、PVCレジンから撤退。   

  信越半導体グループ(信越半導体・SEHアメリカ・SEHマレーシア・SEHヨーロッパ・SEH台湾)

 



東京高裁は4月26日、大衆薬のネット販売の権利の確認を求めた訴訟の控訴審で、原告側敗訴の一審判決を一部取り消し、2社に販売権を認める逆転判決を言い渡した。
省令の無効確認などの訴えは、一審同様に不適法として却下した。

付記

国は2社に販売権を認めた東京高裁判決を不服として上告する方針を固めた。

これについて、池田信夫blog (2012/5/9) 「法の支配を無視する厚労省」は以下の通り述べている。

東京高裁の判決で注目されるのは、「・・・法律の委任によらないで国民の権利を制限する省令の規定は国家行政組織法12条3項に違反する」として、法律で決まっていない規制を官僚が恣意的に行なうことを禁じた点だ。
厚労省が上告したのは、このような省令による裁量行政が霞ヶ関では当たり前だからである。(以下略)

ーーー

2006年に薬事法が改正され、2009年6月1日に実施された。

これまでは一般用医薬品は薬剤師を置かないと販売できなかった。
逆に、薬剤師を置けばインターネット販売も可能であった。

薬事法 第37条 
薬局開設者又は一般販売業の許可を受けた者、薬種商若しくは特例販売業者は、店舗による販売又は授与
以外の方法により、医薬品を販売し、・・・・してはならない。

厚生労働省は、薬事法上「店舗による販売又は授与」とは必ずしも店頭に限定するものではないとの解釈の下、インターネット販売は適法とし、これを容認してきた。


改正でコンビニエンスストアなどでも、登録販売者を置けば、「一般医薬品」の販売ができるようになるなど、医薬品販売の規制緩和がなされた。

             改正薬事法 省令
専門家 相談対応 積極的情報提供 ネット販売
第一類 副作用等により日常生活に支障を来す程度の
健康被害が生ずるおそれのある一般医薬品のうち、
特に注意が必要なもの
(胃腸薬「ガスター10」、発毛剤「リアップ」など)
薬剤師 義務 文書義務付け   ○    X
第二類 副作用等により日常生活に支障を来す程度の
健康被害が生ずるおそれのある一般医薬品
(主な風邪薬、「葛根湯」などの漢方薬、鎮痛薬など)
薬剤師
登録販売者
義務 努力義務   ○ X
第三類 第一類医薬品、第二類医薬品以外の一般医薬品
(ビタミン剤、整腸薬など)
薬剤師
登録販売者
義務 規定なし   ○
  * 登録販売者:実務経験1年以上で、都道府県が実施する試験に合格したもの


しかし、厚生労働省は2月6日、改正薬事法施行に合わせて、一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を規制する内容の省令を公布した。

今回の省令は、薬剤師や販売者が説明や情報提供を尽くすため、薬局や店舗での「対面販売」を原則とし、インターネット販売を含む通信販売の対象を、ビタミン剤や整腸薬などの第三類に限定した。

この結果、それまでインターネットで購入できている一般医薬品のうち7割近くが販売できなくなった。

但し、離島居住者などの問題が出たため、厚生労働省は2009年5月29日に一部改正の省令を交付・施行し、薬局などが存在しない離島に居住する者などに伝統薬などと第2類医薬品の通信販売を2011年5月31日まで2年間可能にするとした。
2009/6/1 薬事法施行規則などの
一部を改正する省令の一部を改正する省令

これは法律で認められているものを省令で禁止する形となるもので、内閣総理大臣の諮問機関である規制改革会議では、省令案の段階で「法律に基づかない規制は違法性もある」と指摘していたという。

2009/2/9  大衆薬ネット販売規制

医薬品・健康食品のインターネット通販会社のケンコーコムとウェルネットは2009年5月、国を相手取り、医薬品ネット販売の権利確認と省令の無効確認・取消を求め、東京地裁に提訴した。

東京地裁は2010年3月30日、上記の請求を棄却した。

岩井伸晃裁判長は「規制は健康被害防止の観点から必要性、合理性が認められ、行政の裁量の範囲内」として、省令は合憲と判断した。

一方で、将来的に副作用に対する消費者の認識や、情報通信技術などに変化が生じた場合は「新たな状況に応じた規制の見直しが図られるのが改正法の趣旨にも合致する」として、 「
今回の規制が恒久的に固定化されるべきだという判決ではない」と付言した。

今回の高裁判決では、三輪和雄裁判長は「改正法には医薬品のネット販売を直接禁止・制限する規定はなく、一律に禁止しているとは認められない」と指摘し、ネット販売を原則禁止する省令の規定は「法律の委任なしに国民の権利を制限しており違法」と判断した。

規制について定めた省令の部分は、国民の権利を制限する省令の規定であり、国家行政組織法12条3項(「省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、または義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない」)に違反する。

薬品を適正使用するための情報提供についても「インターネットなどを通じた幅広い情報提供の方法が考えられる」として、「ネット販売は情報提供が不十分」とする国の主張を退けた。

小宮山洋子厚労相は4月27日の閣議後の記者会見で、「便利にインターネットを利用したい方がいる一方で、薬害の被害にあった方からは、慎重な対応を求める声もある」と指摘し、「しっかりと判決内容を見て検討し、関係省庁とも協議をしていきたい」とした。


米地質調査所(USGS)は米中部地域での地震の急増はシェールガス採掘が関係していると報告した。

水圧破砕法(fracking:液体を地中に注入し天然ガスを抽出)の廃液をdeep well に注入することにより起こされるとみている。

Deepwellは深さ1~4kmの井戸で、廃液を岩塩層の下に流し込むもの。岩の割れ目を通って地下水中に漏れる化学物質も見られ、問題とされている。

テキサスなどではシェールガス採掘の廃液はDeepwellに投入して処分するが、ペンシルバニアでは地形上これが出来ず、下水処理場に輸送して処理している。

USGSは昨年8月にオクラホマ州の地震について報告書を出したが、それによると、小さな地震が多発したが、ほとんどはfracking 作業が終了して24時間以内に発生した。

2011年11月に英エネルギー会社Cuadrilla Resourcesは、同社がイングランド地方北西部ランカシャー沿岸で行った水圧破砕法による天然ガスの掘削によって、いくつかの弱い地震が引き起こされた可能性が極めて高いと発表した。

同地域では4月にM 2.3、5月にM 1.5の地震が記録された。同社が委託した外部の専門家チームの調査報告書は、「採掘現場の地質に、操業時に注入された水の圧力が加わるという、珍しい条件が重なったことがこれらの地震の原因」だと している。

今回、USGSは米国地震学会の年次大会での報告で、magnitude 3.0以上の地震が急増していることを明らかにした。
最終報告書は夏に発表される予定。

異常なことが起こっており、地震の多くは産業活動に結びついていると考えている。

2000年までの30年間で米中部地域での地震活動は年平均21回であったが、2009年に50回、2010年87回、2011年134回と急増した。

2001年に始まった増加はColorado-New Mexico の境界のRaton Basinでのcoalbed methane層での地震活動による。

OklahomaではM3以上の地震は、過去50年の年間平均1.2回から2009年には25回以上と急増した。
2011年11月には
M5を超える観測史上最大級を記録した。

こんな急増は火山地域以外では過去にないことで、ほぼ確実に人工のものである。

2009年に始まった急増はArkansasやOklahomaの石油とガス生産地域で起こっており、廃液のDeep well への注入に関係するという証拠がある。

Frackingでは水と砂と薬剤をシェール層に注入し、地中の岩を砕いて、閉じ込められている天然ガスを取り出すが、注入された水は回収され、処分される。
地震活動はガスや石油を抽出するプロセスよりも、排水を井戸に流し込んで処分するプロセスで発生する。

メンフィス大地震研究情報センターの研究員によると、地下に戻された水が断層の隙間に入り込んで滑りやすくなり、地震が起きやすくなったと考えられる。

なお、これらの人工の地震による被害はほとんど出ていない。

2011年にエネルギー省はfracking の環境影響を調査する委員会を立ち上げたが、委員会は天然ガス業界への環境ガイドラインに、fracking や廃液注入により起こされる地震に関する調査を求めた。

各州ではDeep well に対する新しい規制を検討している。

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なお、EPAは4月17日、ガス井戸からの大気汚染に対する最初の規則を発表した。

http://epa.gov/airquality/oilandgas/actions.html


NHK
BS世界のドキュメンタリー 「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」 では水質汚染の問題に加え、大気汚染の問題も取り上げている。

回収された薬剤入りの水は仮の溜池に保管されているが、池の土手から水が漏れている。
また、溜池から薬剤がどんどん蒸発している。

コンデンセートタンクからもガスがもうもうと蒸発しており、大気汚染を起こしている。

天然ガスのパイプラインは途中でガスを放出している。

2011/8/8  「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」

 


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