気がつかなかったが、欧州で「エチレンカルテル事件」が進展している。多くの企業が損害賠償の訴訟をおこなっている。 価格カルテルは通常、メーカーが販売価格を吊り上げるものである。しかし、今回の事件は化学企業4社が数年間、逆のことをしていた。つまり、エチレンを購入するために共謀し、その価格を引き下げていたという。 欧州委員会が2020年に、エチレン購入者4社が価格カルテル(最も低い価格で原料を購入するために共謀した)を結んだとして総額2億6000万ユーロ(約320億円)の制裁金を科す決定を下した。 問題はこれからである。2023年にShell が、2025年にエチレンメーカー5社が、購入カルテル参加の4社に対し、損害賠償の訴えを行った。6社の請求額合計は65億ドルを超える。 今回、Braskemが、昨年後半に4社に対し損害賠償の訴訟を行ったことが明らかになった。金額は8.12億ユーロである。 エチレン製造業者が今になって訴訟を起こしているのは、2023年10月18日に4社のうちの1社Clariantが2020年の欧州委員会の判決に対する控訴審で敗退したためである。 エチレンをカルテルメンバーに直接販売していない企業も、価格の下落による利益の減を主張して賠償を請求できるため、現在の請求額はさらに増加する。一部の被告企業が破産するリスクがあると業界専門家は指摘している。 ーーー 欧州委員会の判決は下記の通り。 2020/7/14 Antitrust: Commission fines ethylene purchasers € 260 million in cartel settlement Orbia(旧称はMexichem)、Clariant、Celanese、Westlakeの4社は、エチレンの商業市場における購入に関してカルテルに関与していた。彼らはエチレンを可能な限り最安値で購入するために共謀していた。4社はすべて、カルテルへの関与を認め、事件の和解に同意した。(実際はClariantが控訴したが、失敗した。) 「このカルテルは、企業がエチレン購入のために支払う価格を操作することを目的としていた。エチレンはPVCなど、日常的に使用する製品に使われる材料を作るために使用される。このカルテルに関与した4社は、エチレン販売者との価格交渉戦略を調整し、エチレン購入の価格を不正に操作した。このような行為は、EU競争法において違法とされ、欧州委員会はカルテルを一切容認しない。 EU競争法は、販売価格の調整に関連するカルテルだけでなく、購入価格の調整に関するカルテルも禁止しており、これにより、競争のプロセスが保護される。」 エチレン購入者は通常、供給契約に基づいてエチレンを購入する。エチレンの購入価格は非常に変動しやすいため、価格の変動リスクを抑えるために、エチレン供給契約には価格算定式が含まれており、これには通常「月次契約価格(MCP)」と呼ばれる業界価格基準が含まれている。これは、エチレンの購入者と販売者との個別交渉の結果として決定される。 欧州委員会の調査によると、2011年12月から2017年3月まで、月次契約価格(MCP)を設定する過程で、エチレン購入4社がエチレン販売者に対する価格交渉戦略を調整し、MCPを有利に操作していたことが明らかになった。これらの企業は、米国のWestlake、メキシコのOrbia(旧称はMexichem)、スイスのClariant、米国のCelaneseで、これらの行為は、ベルギー、フランス、ドイツ、オランダの地域で行われていた。 ほとんどのカルテルとは異なり、企業が販売価格を引き上げるために共謀するのではなく、これら4社はエチレンの価格を引き下げるために共謀し、エチレン販売者に不利益を与えていた。特に、企業はエチレン販売者との月次契約価格(MCP)の交渉前および最中に、その価格を下げるために交渉戦略を調整した。また、価格関連の情報を交換していた。これらの行為は、EU競争法によって禁止されている。 欧州委員会は、Orbia、Clariant、Celaneseに対してEU競争法違反により合計2億6000万ユーロの罰金を科した。 ーーー これまで判明していた損害賠償訴訟は下記の通り。 請求額(億ドル)
Westlakeには、同社がカルテルを欧州委員会に告発したため、罰金は科されなかった。
罰金の内訳
企業名(グループ) Leniency program 和解による
減額罰金 (€)
Westlake
100%
10%
0
Orbia
45%
10%
22,367,000
Clariant
30%
10%
155,769,000
Celanese
20%
10%
82,307,000
合計
260,443,000
原告エチレンメーカー
請求日
LyondellBasell
18.60
2025/7/16
OMV (オーストリア)
11.60
2025/5/16
Dow
8.94
2025/5/9
Total
7..29
2025/2/25
BASF
16.20
2025/1/9
Shell
10.00
2023/10/18
6社合計
65.34
Braskem
* 9.66
2025後半
米財務省は1月29日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表した。
https://home.treasury.gov/system/files/136/January-2026-FX-Report.pdf
米財務省は為替操作国に指定する条件として(1) 対米貿易黒字の規模 (2) 経常黒字の規模 (3) 継続的な通貨売り介入――を掲げている。
| 従来の基準 | 2019/5より改正 | |
| ①重大な対米貿易黒字 | 対米貿易黒字が200億ドル(米国GDPの約0.1%) 以上 | 同左 |
| ②実質的な経常黒字 | 経常黒字がその国のGDPの3.0%以上 | GDPの2.0%以上 |
| ③外為市場に対する介入 | GDPの2%以上(ネットで)の額の外貨を繰り返し購入 (12カ月のうち、8カ月) |
同左 (12カ月のうち、6カ月) |
3基準全てに該当すれば「為替操作国」となる。
次の場合、「監視リスト」に入る。
2基準に該当 & 1基準だが、前年「監視リスト」の場合
なお、中国は常時、「監視リスト」
「為替操作国」基準にかかった貿易相手国・地域はなかった。
2019年8月に中国が、2020年12月にスイスとベトナムが「為替操作国」となった。それ以降、2022年11月までの間は、基準では対象となる国があったが、米財務省の判断で実際は非認定となった。
今回は基準でも対象となる国はなかった。
日本は永く2項目でひっかかり、「監視リスト」に入っていた。2022年11月から1項目だけとなり、2023年6月と2023年11月は「監視リスト」から外れた。しかし2024年6月から、①対米貿易黒字に加え、②実質的な経常黒字で該当し、再度、『監視リスト」に入った。
今回のレポートでは、日本について以下の通り述べている。
日本の恒常的な経常収支黒字は近年増加傾向にあり、これは数十年にわたり蓄積された膨大な対外資産による一次所得の増加が牽引している。日本円は、日本銀行(BOJ)が長年にわたる極めて緩和的な金融政策を徐々に解消しつつあるにもかかわらず、対ドル及び実質実効ベースで数十年ぶりの安値付近にとどまっている。日本の財・サービス貿易収支は2019年以降、概ね赤字となっているものの、米国との二国間貿易黒字は比較的安定している。日本は為替介入について非常に透明性が高く、月次介入の総額と四半期ごとの日次介入の詳細な情報を公表している。
日本の経常収支黒字は、2025年6月までの4四半期でGDPの4.8%と、前年同期の4.5%からわずかに増加した。これは、日本の大幅な第一次所得収支黒字の副産物であり続けている。第一次所得収支黒字は、対GDPの6.4%と非常に高い水準を維持している。これは、日本の対外資産からの堅調な収益が継続していることによる。対外資産は、外国直接投資からの配当、国債・社債を含むポートフォリオ資産、外国株式、海外銀行融資などに分散されている。

介入政策
2024年7月に円安圧力が顕著になった頃、日本は7月11日と12日に5.5兆円(350億ドル)のドル売りを行い、外国為替市場に介入した。このドル売りは、2024年における3回目の大規模な介入であり、日本当局はドルに対して円を支えるために介入した。財務省は年間で約1,000億ドルのドル売りを行った。
為替介入については月次での有無を公表していることから「透明性を維持している」とした。2022年以降の介入に関し、日本の財務省は相場の過度な変動や投機筋の圧力を理由としており、「介入は特定の為替水準を目標としない立場を守っている」と評価した。
ーーー
中国については人民元が「下落圧力」に直面しているとしたものの、為替操作国には認定せず、貿易摩擦の激化を回避した。ただ、「主要貿易相手国の中で、為替政策・慣行に関する透明性の欠如が際立っている」と指摘。昨年6月に発表した前回の報告書の文言を繰り返した。
ーー
今回は、日本に加え、前回に続き2項目の韓国、台湾、ドイツ、スイス、アイルランド、ベトナム、シンガポールと、今回2項目となったタイ、1項目でも常時「監視リスト」の中国(今回は久しぶりに2項目)の合計10カ国が「監視リスト」に載った。
なお、③「外為市場に対する介入」でひっかかったのはシンガポールだけであった。
|
3基準 |
|
2基準 |
|
1つで前年監視対象 &中国 | 丸数字は問題となった項目 | |||||
| 日本 | 中国 | 韓国 | 台湾 | ドイツ | スイス | インド | アイルランド | ベトナム | イタリア | マレーシア | シンガポール | タイ | メキシコ | |
| 2016/4 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
| 2016/10 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
| 2017/4 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
| 2017/10 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | 〇 | 〇 | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
| 2018/4 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
| 2018/10 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
| 2019/5 |
〇 ①② |
〇 ① |
〇 ② |
ー | 〇 ①② |
ー |
ー |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ②③ |
ー | ー |
| 2019/8 | 操作国 | |||||||||||||
| 2020/1 | 〇 ①② |
〇 ① |
〇 ①② |
ー | 〇 ①② |
〇 ①② |
ー |
〇 ① |
〇 ① |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ②③ |
ー | ー |
| 2020/12 | 〇 ①② |
〇 ① |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
操作国 | 〇 ①③ |
ー | 操作国 | 〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ②③ |
〇 ①② |
ー |
| 2021/4 | 〇 ①② |
〇 ① |
〇 ①② |
操作国 非認定 |
〇 ①② |
操作国 非認定 |
〇 ①③ |
〇 ①② |
操作国 非認定 |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ②③ |
〇 ①② |
〇 ①② |
| 2021/12 | 〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
操作国 非認定 |
〇 ①② |
〇 ①③ |
〇 ①③ |
〇 ② |
操作国 非認定 |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ②③ |
〇 ①② |
〇 ①② |
| 2022/6 | 〇 ①② |
〇 ① |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
操作国 非認定 |
〇 ① |
ー | 〇 ① |
〇 ① |
〇 ①② |
〇 ②③ |
〇 ① |
〇 ① |
| 2022/11 | 〇 ① |
〇 ① |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
操作国 非認定 |
ー ① |
ー | ー ① |
ー ① |
〇 ① |
〇 ②③ |
ー ① |
ー ① |
| 2023/6 | ー ① |
◯ ① |
◯ ① |
◯ ①② |
〇 ①② |
◯ ② |
ー ① |
ー ② |
ー ① |
ー ① |
〇 ①② |
〇 ②③ |
ー ① |
ー ① |
| 2023/11 | ー ① |
◯ ① |
◯ ① |
◯ ①② |
〇 ①② |
◯ ② |
ー ① |
ー ② |
◯ ①② |
ー ① |
〇 ①② |
〇 ②③ |
ー ① |
ー ① |
| 2024/6 | ◯ ①② |
◯ ① |
◯ ① |
◯ ①② |
〇 ①② |
◯ ② |
ー ① |
ー ② |
◯ ①② |
ー ① |
〇 ① |
〇 ②③ |
ー ① |
ー ① |
| 2024/11 | ◯ ①② |
◯ ① |
◯ ①② |
◯ ①② |
〇 ①② |
◯ ② |
ー ① |
ー ② |
◯ ①② |
ー ① |
ー ① |
〇 ②③ |
ー ① |
ー ① |
| 2025/6 | ◯ ①② |
◯ ① |
◯ ①② |
◯ ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
ー ① |
〇 ①② |
◯ ①② |
ー ① |
ー ① |
〇 ②③ |
ー ① |
ー ① |
| 2026/1 | ◯ ①② |
◯ ①② |
◯ ①② |
◯ ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
〇 ①② |
◯ ①② |
〇 ②③ |
◯ ①② |
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赤字が為替操作国基準にひっかかった項目













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