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大阪大学の澤教授らの研究グループは、2006年より重症心筋症患者に対して、患者自身の足の筋肉(骨格筋)から採取した筋芽細胞と言われる細胞のシートを作製し、心不全に陥った心臓表面に貼ることにより、心機能回復させる治療の研究を進めてき た。

筋芽細胞は心筋細胞になるわけではないが、生着した細胞は、血管を誘導するVEGFやFGFといったサイトカン(細胞間の情報伝達を担うタンパク質分子)を出し続け、周辺組織に血管が誘導されて、機能が回復する。

筋芽細胞を直接心筋内に注射する方法があるが、注射の際に移植細胞の95%以上が失われ、効果が十分でなく、他にいろいろな問題がある。

この技術は、2016年5月に、テルモ社によって虚血性心筋症患者への新たな治療法として製品化され 、「ハートシート」として発売された。

テルモは、大阪大学との共同研究を進め、先端医療開発特区「スーパー特区」の「細胞シートによる再生医療実現プロジェクト」(研究代表者:東京女子医科大学岡野光夫教授)に参加した。

2018/5/19 iPS細胞の心臓病臨床研究、承認 記載(iPS細胞利用はこの技術の応用)


テルモは、2015年9月に「ハートシート」の条件及び期限付の製造販売承認を取得した。
厚生労働省が再生医療の実用化を促進するために制定した「条件及び期限付き承認」という早期承認制度が適用になった初めての製品である。

再生医療等製品の「条件及び期限付承認」とは (日経バイオテク)

有効性が推定され、安全性が認められた再生医療等製品を、条件や期限を設けた上で早期承認する仕組み。医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、再生医療等製品を対象として導入された。

これまでのところ、条件及び期限付承認された再生医療等製品は基本的に保険適用され、国民皆保険制度で使えるようになっている。再生医療等製品の早期承認とも呼ばれる。

2014年11月に施行された薬機法では、医薬品や医療機器とは別に再生医療等製品の枠組みが新設され、再生医療(組織工学製品)や細胞医薬、遺伝子治療(in vivoもex vivoも)、ウイルス療法、mRNA医薬などが再生医療等製品として扱われることになった。再生医療等製品は細胞や遺伝子を用いることから製品が不均質であることが多く、また、希少な疾患を対象としており少数例を対象とした治験で評価せざるを得ないことが多いため、従来のような承認制度を適用すると、有効性を確認するためのデータの収集・評価に時間を要すると考えられた。

そこで、再生医療等製品の実用化を後押しし、患者がより早期にアクセスできるよう、早期の治験データから有効性が推定され、安全性が認められれば条件及び期限付承認されることになった。

2022年7月時点で、国内では16品目の再生医療等製品が承認されているが、そのうち、(1)テルモの「ハートシート」(ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート)、(2)ニプロの「ステミラック」(ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞)、(3)アンジェスの「コラテジェン」(ベペルミノゲン ペルプラスミド)、(4)第一三共の「デリタクト」(テセルパツレブ)──の4品目が条件及び期限付承認され、いずれも保険適用されている。

テルモは、その際に付された条件に基づき、ハートシートを使用した全症例を対象とした使用成績調査、およびハートシートを移植しない心不全患者群を対象とした臨床研究を実施した。その上で、使用成績調査と臨床研究で得られた情報の比較評価(製造販売後承認条件評価)を実施し、その結果をもとに2023年9月に改めて製造販売承認申請を行った。

今回、再生医療等製品・生物由来技術部会で審議した結果、条件及び期限付承認時に設定した達成基準を満たさず、ハートシートを承認することは適切ではないと判断された。なお、ハートシートの安全性については、条件及び期限付承認時に確認されたリスクや有害事象を超える新たな懸念は認められなかった。

審議の結果を受けて、テルモはハートシートの販売を終了し、今後は医療機関と連携しながらハートシートを移植済みの患者の使用成績調査を継続する。