米エネルギー大手Sempraは3月20日、同社とKKRが70%出資するSempra Infrastructure Partners, LP がテキサス州Jefferson CountyのPort Arthur LNG Phase 1 の投資を決定したと発表した。2027年の稼働を目指す。

Port Arthur LNG Phase 1 プロジェクトは認可済で、2 系列 年間約1,300 万トンの天然ガス液化トレイン、2 つのLNG 貯蔵タンクを持つ。設備投資総額は130億ドル。

ConocoPhillips(500万トン)、RWE Supply and Trading(225万トン)、INEOS(140万トン)、ポーランドのPKN ORLEN S.A.(100万トン)、ENGIE S.A. などと 約1050万トンの長期契約を結んでいる。

ConocoPhillipsは30%を出資する。同社は年間500万トン、20年間の購入契約を締結している。

KKRが運営するインフラファンドGlobal Infrastructure Investors IV fund が25%~49%を出資する。

Sempra Infrastructure Partnersは、KKRの出資比率次第で、20%~30%を出資する。

Sempra Infrastructure は、Port Arthur LNG Phase 2(申請中、2028年稼働予定)のマーケティングと開発を積極的に行っている。ConocoPhillipsはこれについても出資と引取の権利を得ている。

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本事業には当初、Saudi Aramco が参加する予定であった。

Saudi Aramco と米国のSempra Energyは2020年1月6日、Aramco Services Company が Sempra LNG がテキサス州で開発中のPort Arthur LNG export projectに参加する Interim Project Participation Agreement に調印したと発表した。

AramcoがPort Arthur LNG の第1期分 年間1100万トン(その後、1350万トン)のうち500万トンのLNGを20年間引き取るとともに、第1期計画に25%出資する。今後、最終確定し、正式契約を結ぶ。

2020/1/14 Saudi Aramco、米国でPort Arthur LNG計画に参加

しかし、2021年6月に双方が本件を取りやめることで合意した。 この後、KKRが参画した。

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Sempra LNGは北米の5か所でLNGプラントを建設し、グローバルなLNG市場に年間45百万トンのLNGを輸出する目標を立てており、Port Arthur LNGはその一つである。

現在具体化しているのは、次の3つ。

1) CAMERON LNG (Hackberry, Louisiana)

第1期 3基計 1200万トンは昨年出荷を開始した。

同社は次の液化設備(2基)とLNGタンクの承認手続きを開始した。

2019/6/4 キャメロンLNG、出荷開始

2) 本件 Port Arthur LNG (Port Arthur, Texas)

3)ENERGIA COSTA AZUL LNG (Ensenada, Baja California, Mexico)

Sempra LNG とメキシコ子会社 IEnova が既存の輸入LNGのガス化ターミナル(Energía Costa Azul )に液化設備の建設を計画している。

1期は1系列で年間能力 240万トン。LNGタンクやバースは既存のものを利用する。2期では液化設備2系列とタンクを新設する。

Sempraは2019年3月31日、同地での液化のため、天然ガスをメキシコに輸出する連邦政府の認可を取得したと発表した。
TransCanada所有のNorth Baja Pipelineがアリゾナ州ーカリフォルニア州を結んでおり、メキシコ国境でSempra Energyのメキシコのパイプラインに接続する。

2020年11月17日、最終投資決定を行ったと発表した。

Sempraは中国へのLNG輸出を考えている。

2022年12月22日、米国エネルギー省から、米国産のLNG をメキシコから非自由貿易協定 (FTA) 諸国に再輸出する許可を受けた。

 

3月10日に米国でSilicon Valley Bankが、12日にSignature Bankが破綻した影響で、欧米に金融不安が広がり、世界的に金融株が売り込まれた。

米国では金融機関が加盟する連邦預金保険公社(FDIC)が1口座あたり25万ドルを上限に保護する仕組みがあるが、Silicon Valley Bankはスタートアップ業界を顧客としており、2022年末の預金残高約1750億ドルのうち89%に当たる約1560億ドル(約21兆円)は預金保護の対象外だった。

今回、米規制当局は両行の預金を全額保護する措置をとった。

欧州では、かねてより経営不安がうわさされていたクレディ・スイス(Credit Suisse)の株価が急落した。3月15日に筆頭株主(10%出資)の Saudi National Bankの会長がクレディ・スイスに追加出資しないと述べたと伝わると、クレディ・スイス株を一段と売り込む動きが出た。

スイス当局は、スイス第二位の銀行であるクレディ・スイスを救済するためにすぐに動いた。

スイスの投資銀行大手UBSは3月19日、クレディ・スイスを約32億3,000万ドルで買収すると発表した。

買収は株式交換の形で行われ、2023年末までに完了する。3月17日時点でクレディ・スイスの市場価値は約80億ドルとされていたが、これを大きく下回る額となった。

今回の買収取引には、スイス連邦財務省、スイス金融市場監督機関(FINMA)、スイス国立銀行(中央銀行)も協力している。

スイスの財務省は金融最大手UBSによるクレディ・スイス買収をめぐって、リスクを軽減するための支援策を講じると発表した。

具体的にはUBSがクレディ・スイスから引き継ぐ資産の価値が下がり、将来の損失が一定の額を超えた場合、政府がUBSに90億スイスフラン(約1.3兆円)余りの政府保証を行う。

スイス国立銀行は、UBS に1,000億スイスフラン(約14兆円)の流動性支援を行う。

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クレディ・スイスは3月19日、UBSによる買収の一環としてスイス当局の指示の下、160億スイスフラン(172億4000万ドル)相当のAT1債を無価値化すると発表した。スイス金融市場監督機構がAT1債の減損を決めて同社に通知をしたという。

発行体の経営破綻時に借入金や通常の社債などと比べて弁済される順位が低い劣後債のうち、償還期限がない債券を「永久劣後債」と呼ぶが、AT1債は金融機関が発行する永久劣後債を指す。一般に発行から一定期間後に買い戻す条項をつけることが多い。弁済順位が低い分、通常の社債に比べて高い利回りを得られる。

自己資本に算入できるため、国際的な自己資本規制「バーゼル3」の導入以降、発行が相次いだ。米ブルームバーグ通信によると、AT1債の市場規模は世界で約2750億ドルに達するという。

自己資本比率が一定水準を下回るなど銀行が資本不足に陥った場合に金融機関の自己資本に組み入れられる。AT1債の元本は削減され保有する債券投資家は損失を被る。

通常は、AT1 債で損失が生じる前に株主が最初に痛手を受ける。クレディ・スイスも先週の投資家向けプレゼンテーションで言及していた。このため、株式ではなくAT1債の評価をゼロにするという決定に、同行のAT1債保有者の一部から猛反発が起きた。

スイス金融市場監査局は、この決定がクレディ・スイスの資本増強につながると説明、民間投資家に痛みの分担を求めた。

AT1債が無価値となる一方で、返済の優先順位が社債より下位となる株式の保有者は、UBSによる株式交換方式の買収で総額32億3000万ドルを受け取ることになる。

日本の金融庁は「今回は必ずしも破綻処理ではないので株主責任を国が問うた訳ではない。AT1債には『国からの支援策があった場合、元本割れとなる』という趣旨の契約条項が入っており、今回はAT1債のみ抵触した」と説明する。


バーゼルIは、国際的な銀行システムの健全性の強化と、国際業務に携わる銀行間の競争上の不平等の軽減を目的として策定された。これにより、銀行の自己資本比率の測定方法や、達成すべき最低水準(8%以上)が定められた。

バーゼルIIでは、達成すべき最低水準(8%以上)はバーゼルIと変わらないものの、銀行が抱えるリスク計測(自己資本比率を算出する際の分母)の精緻化が行われた。

「その他 Tier1」がAT1 債(Additional Tier 1 債)と呼ばれ、「生き残るための資本」であるゴーイング・コンサーン・キャピタルと定義され、Tier2 は「秩序ある破綻のための資本」と定義された。

リーマンショックをきっかけに再度内容の見直しが行われ、2017年に新しい規制の枠組みである「バーゼルⅢ」の最終的な合意が行われた。 具体的には、銀行が想定外の損失に直面した場合でも経営危機に陥ることのないよう、自己資本比率規制が厳格化された。将来の経済危機などの非常時に備え、取り崩しが可能な資本を一律に積み上げておくことが規定されている。

米国と中国など各国は半導体などの先端産業をめぐり競争力確保と企業誘致戦を展開しているが、韓国では、韓国企業の世界最高水準の製造能力と技術力に比べて韓国政府の支援水準と規制環境が不足しており、世界的競争でタイミングを逃せば先進国との格差が広がりかねないという危機意識が高まった。

韓国科学技術情報通信部がサプライチェーン・通商、新産業、外交・安保など技術主権観点からの戦略的重要性を根拠に12大国家戦略技術を選定し、2022年10月28日の国家科学技術諮問会議で「国家戦略技術育成方案」を発表した。

韓国国会は本年1月11日、経済安全保障の確保および先端産業競争力の強化のため、「国家先端戦略技術」を指定し、関連産業を育成・保護することを目的とする「国家先端戦略産業競争力強化および育成に関する特別措置法」(国家先端戦略産業特別法) を議決した。


韓国産業通商資源部と国土交通部は3月15日、尹錫悦大統領主宰で開かれた非常経済民生会議で、国家先端産業育成戦略、国家先端産業ベルト造成計画などを発表した。

尹大統領は「先端産業は核心成長エンジンであり、安保戦略資産で、雇用・民生とも直結する。半導体で始まった経済戦場がバッテリーと未来自動車など先端産業全体に拡張された。さらに成長するための民間投資を政府が確実に支援しなくてはならない」と話した。大統領室の報道官は「尹大統領が現在の先端産業の世界的競争状況は生きるか死ぬかの問題で急がなくてはならないと迅速な育成推進の必要性を強調した」と伝えた。

(国家先端産業育成戦略)

韓国政府はこれら産業の超格差技術力確保に向け2027年までに量子と人工知能(AI)など12大技術研究開発に予算25兆ウォンを投じる。( 1 ウオンは約0.1円)

https://spap.jst.go.jp/korea/experience/2022/topic_ek_22.html

最先端設備を備えた「韓国型 IMEC」を構築し先端技術開発空間に世界の人材を誘致することにした。半導体IMEC を先に作り、二次電池・バイオなどに拡張する。

IMEC (Interuniversity Microelectronics Centre) はベルギーに本部を置く1982年創設の国際研究機関で96カ国の専門家が参加している。リソグラフィ技術や太陽電池技術、有機エレクトロニクス技術など次世代エレクトロニクス技術の開発に取り組んでいる。

これを通じて半導体、未来自動車、二次電池、ディスプレー、バイオ、ロボットの6大産業で2026年までに民間主導で550兆ウォンの投資を引き出す。

半導体 340兆ウォン 約34.6兆円 電力・車両など次世代半導体技術を育て、優秀人材を育成  
うち、サムスン電池の投資は300兆ウォン(下記)
ディスプレー  62兆ウォン 約6.3兆円
二次電池  39兆ウォン 約4兆円 2030年までに世界1位への跳躍。韓国で生産する二次電池の生産容量を60ギガワット時以上に。
バイオ 13兆ウォン 約1.3兆円
次世代自動車 95兆ウォン 約9.7兆円 電気自動車生産規模を5倍に拡大し、センサーや二次電池など核心技術を確保して世界3強に跳躍
ロボット 1.7億ウォン 約0.2兆円
合計 550.7兆ウォン 約56兆円



(国家先端産業ベルト造成計画)

合わせて、 韓国政府は先端産業を育てるために地域別に生産拠点を確保するという計画も発表した。
全国に国家産業団地15カ所、総面積4076万平方メートルを構築するというもので、尹錫悦政権で初の国家産業団地候補地選定である。

国土部は「先端システム半導体クラスター」向けに龍仁市処仁区南四邑一帯の710万平方メートルを国家産業団地の候補地に選んだ。

半導体クラスターのほか、地方14カ所にも国家産業団地を新たに指定することにした。具体的な候補地は下記の通り。

大田 ナノ・半導体、宇宙航空
天安 未来モビリティ、半導体
清州 鉄道
洪城 水素・未来車、二次電池
光州 2ヵ所の完成車生産工場を基盤に未来車の核心部品
高興 ナロ宇宙センターと連携し、宇宙発射体
益山 情報通信技術(ICT)と食品加工を融合
完州 水素貯蔵・活用製造業
昌原 防衛・原子力産業の輸出を促進
大邱 未来車・ロボット
安東 バイオ医薬
慶州 小型モジュール原発
蔚珍 原発を活用した水素生産産業
江陵 天然物バイオ
植物・鉱物・微生物などから抽出した物質を健康食品・医薬品・化粧品に活用

国家産業団地に指定されると、許認可の迅速な処理と基盤施設の構築、税額控除などの特典が与えられる。
政府は新規産業団地を作るため、開発制限区域(グリーンベルト)と農地規制はできるだけ緩和する。
関係機関の事前協議と予備妥当性の調査もできるだけ速やかに進める。

ここに入居する企業は取得税と財産税の減免と容積率引き上げ、迅速許認可などの恩恵を得られることになる。

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先端半導体クラスターは総面積710ヘクタールで、完成すれば世界最大規模の半導体団地になる。

サムスン電子は龍仁市に2042年までの20年間、300兆ウォンを投資し、次世代半導体製造工場5カ所など生産施設を建設する。

2042年までにファウンドリー(半導体受託生産工場)と先端メモリー半導体工場計5カ所を建設し、ファブレス(半導体設計)、素材、部品、設備企業も最大150社を誘致する。現在、世界最大であるサムスン電子の京畿道平沢半導体団地(289ヘクタール)の2.5倍に達する規模となる。

同社は「新しいクラスターが構築されれば竜仁市器興区や華城市、平沢市、(SKハイニックスの)利川市など半導体生産団地と、近隣の材料・部品・装備企業、ファブレスなどを連係した世界最大の『半導体メガクラスター』が完成する」とし、「300兆ウォンが投資されれば直接・間接的な生産誘発効果は700兆ウォン(約70兆5千億円)、雇用誘発効果は160万人に達するだろう」と予想した。



https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2110/22/news034_4.html を補正

2021/5/20 韓国、官民協力で「K半導体ベルト」構築

TSMCを追撃しているサムスン電子は現在、ファウンドリー生産ラインの規模がTSMCの3分の1にすぎず、世界で初めて3ナノメートル製造プロセスによるファウンドリーの量産に成功したにもかかわらず、両社のシェアには3倍以上の格差(TSMC 58.5%、サムスン 15.8%)があり、なかなか縮まっていない。竜仁クラスター構築によって、サムスン電子がTSMCを本格的に追撃する体制が整う。

現在、竜仁市にはSKハイニックスが120兆ウォンを投資し、415ヘクタール規模の先端メモリー半導体クラスターを建設している。

半導体クラスター構築で韓国の半導体生産能力自体が25%以上拡大する見通し。同時に試作品研究開発用ラインも拡充され、国内のファブレス企業、学界との協業もさらに活性化する 。

尹錫悦大統領は「現在のグローバル競争の状況は生きるか死ぬかの問題になっており、急がなければならない」とし、「半導体メガクラスターを世界最大規模に育てていく」と述べた。

日本はどうするのだろうか。

参考  「半導体戦略」(経済産業省 20216

   2021/10/18 半導体大手、台湾のTSMCが日本で工場建設 に記載

ドイツの自動車大手Volkswagen (VW) は3月13日、同社として初めてとなる欧州以外のEV用バッテリーセル工場を建設する場所としてカナダを選んだと発表した。

税優遇などで気候変動対策に動く企業を支援する米国のインフレ抑制法(IRA)を受け、欧州で6つの電池工場をつくる従来の計画を保留し、北米投資に傾斜する。IRAは米国のほかカナダやメキシコでの投資も対象となる。

新工場の投資額は非公表であるが、VWは最大100億ユーロ(約1.4兆円)の優遇措置を見込む。

デトロイトから北東へ約195km 離れたカナダのオンタリオ州 St. Thomasに建設する。2027年の生産開始を目指す。

VW傘下のScout Motorsは3月3日にオフロードモデルの「スカウト」の電動車ブランドとしての復活に向けて、米国サウスカロライナ州コロンビア近辺に最初の工場を建設すると発表しており、これに次ぐ北米での電気自動車関連事業となる。

「スカウト」はInternational Harvesterがかつて販売していたピックアップトラックのオフロードモデルで、2021年にVWグループのトラック・バス部門が買収した。米国で電動車ブランドとして復活させ、まず、ピックアップトラックとSUVの2車種のEVを米国市場で発売する。

投資額は20億ドルだが、IRAによる優遇措置で投資額を抑えられるとしている。

また2020年代後半にもメキシコのエンジン車工場でも新たにEVを製造できるようにすることも検討する。VWは2030年までに25車種以上のEVを米国で発売する予定で、IRAを追い風に投資を加速している。

VWは2022年7月、バッテリー攻勢を開始するために、新しいバッテリー会社「PowerCo」を立ち上げ た。グループの 世界的なバッテリー事業の責任は「PowerCo」が負うこととなり、セル生産に加えて、バッテリー バリューチェーン全体に沿った活動を担当する。同社はパートナーと共に、2030年までにバッテリー関連事業の開発に200億ユーロ以上を投資する。

カナダのギガ計画もPowerCoが担当する。

VWは2022年8月22日、カナダ政府との間でバッテリーのサプライチェーンを強化することなどを目指した覚書に署名した。EV電池の材料であるリチウム、ニッケル、コバルトの安定調達に向けてカナダと協力することで合意した。VWはカナダ国内の鉱山会社に出資し、安定的な供給を確保する 。メルセデス・ベンツも同様の覚書をカナダ政府と締結した。

参考 2023/2/20 LG Chem、北米産リチウム精鉱購買契約を締結

今回はバッテリーセル工場の詳細を発表していないが、昨年8月の時点でPowerCoの会長は、2022年内に北米工場の場所と、採掘、製錬のパートナー候補を発表することを目指していると話し、北米の生産能力は20GWhを目指していることも明らかにしている。

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VWは2021年3月、2030年までのEVなどの電動車向けバッテリーとその充電に関する技術ロードマップを発表した。

遅くとも2025年までに世界EV市場のリーダーになることを目指すとし、最重要部品となるバッテリーについて、電池メーカーとの合弁などを通じて40 GWh の工場を2030年までに欧州で6カ所設ける。規格を統一した電池("Unified Cell")を大量生産しコストを半減、ガソリン車より安いEVを目指す。

これまでにドイツのザルツギッター、スウェーデン、スペインのバレンシアの3カ所の建設を決めていた。

VWはスウェーデンのバッテリーメーカー Northvoltとの間で、今後10年にわたるバッテリー製造で140億ドルの契約を結んだ。提携の一環として、Northvoltのスウェーデンのプラントは拡張し、40 GWh とする。

VWはNorthvoltとのJV(16GWhのリチウムイオンバッテリー工場)を南ドイツのSalzgitterに設立しているが、これをVW 100%子会社とし、ここも40 GWh に増強する。

VWは2022年3月、スペインのバレンシアに40GWのバッテリーセル工場を建設すると発表した。2026年の稼働開始を予定。

2021/3/23 VWグループ、EV向け次世代電池を大量生産

2027年には東欧(ポーランドかスロバキアかチェコ)に1工場、2030年までにあと2工場を建設し、合計6工場 240GWh の能力とする予定であった。

「4カ所目となる東欧での工場立地がまもなく決まる」。2022年12月の臨時株主総会でオリバー・ブルーメ社長はこう語ったが、VW社内でその後、欧州での電池計画の「保留」が決まった。

「欧州の投資環境は不透明感が強まり、状況を見定めるまで待つことが重要。意思決定を急ぐ必要はまったくない」としている。

欧州で2030年までに計240ギガワット時の電池生産量が必要だとの方針は変えていないが、2026年以降に4カ所目の投資決定を先延ばしすると示唆、工場の数についても「必ずしも6カ所になるとは限らない」と表現を改めた。

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VWだけではなく、多くの企業が昨年8月のIRA成立以降、米国投資に踏み切った。

BMWグループ:

2022年10月19日、サウスカロライナ州スパータンバーグの工場において、10億ドルを投じて新たにBEVを生産するほか、7億ドルを投じてスパータンバーグ近郊のウッドラフに高電圧バッテリー組立工場を新たに建設すると発表

2023年2月3日、メキシコ中央部サンルイスポトシ州の既存工場に8億ユーロを投じて、高電圧バッテリーとEV「Neue Klasse」を生産すると発表

Stellantis:

2023年2月28日、EV用の電気駆動モジュール(EDM)を生産するため、米国インディアナ州の3つの工場に合計1億5500万ドルを投資すると発表

ドイツ自動車部品大手Bosch

2020年8月31日、サウスカロライナ州の工場を拡張し、2億ドルを投じて燃料電池車向けの燃料電池スタックを生産すると発表

本田技研工業と韓国のLG Energy Solution:

2022年8月29日、北米で生産販売されるHondaおよびAcuraのEV用リチウムイオンバッテリーを米国で生産する合弁会社の設立に合意したと発表。

2022/9/2 ホンダとLG Energy Solution、米国にEV用バッテリー生産合弁会社設立に合意

Pfizer Inc.は3月13日、がん治療の次世代薬開発で先行する米新興企業 Seagen Inc. を430億ドルで買収すると発表した

「コロナ特需」が減り、中期では大型薬の特許失効も控えるため、がん治療薬を新型コロナ感染収束後の新たな成長分野に育てる。

2022年7月に米製薬大手MerckがSeagenの買収に向けた交渉を行っていることが報じられた。Merckのがん治療薬KEYTRUDA® の特許が2028年に切れる。
Merckは2020年にSeagenに出資、一部のSeagen製品をKEYTRUDAと併用する試験も既に実施している。

交渉は進んだ段階にあり、買収総額はおよそ400億ドルかそれ以上となる可能性があると報じられた。最終的に価格で折り合わなかったと見られる。

Seagen Inc.は抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる医薬品の開発で知られる。高い効果が期待できる一方、副作用が少ないとされ、次世代のがん治療薬として期待されている。

Pfizerはコロナワクチンや治療薬(Primary care部門)の販売増で、2022年の売上高は1003億ドル、最終利益は313億ドルと、いずれもコロナ前の2019年から大きく伸びたが、2023年はコロナ関連の売上高の減少が見込まれている。

さらに、Pfizerの場合、主力の医薬品で得られる約170億ドルの売上高が2020年代後半には特許切れによる危険にさらされる。

(単位:百万ドル) 2022 2021
売上高 Biopharma

Primary care
うちコロナワクチン
コロナ治療薬リトナビル
73,023
(37,806)
(18,933)
52,029
(36,781)
( 76)
Specialty care 13,833 15,194
Oncology 12,132 12,333
Total 98,988 79,557
Pfizer CentreOne (CDMO) 1,342 1,731
合計 100,330 81,288
Net Income 31,372 21,979


2022年の売上高 1003億ドルに対し、2023年の売上高予想は670~710億ドルとみている。

Pfizerでは、特許切れ対策として2030年までに企業買収による年間売上高250億ドルの達成を約束しているが、Seagenの「抗体薬物複合体(ADC)」の買収がPfizerのがん治療薬での地位を高めるとし、2030年で100億ドル以上の貢献を期待している。

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抗体薬物複合体(ADC)の仕組みは下図の通り。

第一三共の抗がん剤 ENHERTU ®(トラスツズマブ デルクステカン)が日本で販売されている。新規の薬物トポイソメラーゼI 阻害剤を、独自のリンカーを介して、HER2発現がん(乳がん、胃がん、非小細胞肺がん及び大腸がんなど)を対象とする抗HER2抗体に結合させたものである。

Seagen Inc.はこれについて第一三共と争っている。

Seagen Inc.は旧称Seattle Genetics, Inc.で、第一三共は2008年7月からSeattle Genetics抗体薬物複合体の共同研究を実施したが、新薬開発の成果がでないとして2015年6月に関係を解消していた。

最終的に第一三共は抗HER2抗体とリンカー、ペイロード(トポイソメラーゼI 阻害剤)のすべてを自社技術で構築した。

2019年にSeattle Geneticsから第一三共のADC品に関する特定の知的財産権の帰属を主張して異議の通知をうけた。しかし、ADCの共同研究は現在の第一三共のADC品とは全く異なるため、同社の主張は根拠がないと考えており、デラウェア州連邦地方裁判所に同社を被告として確認訴訟を提起した経緯がある。

テキサス州東部地区連邦地方裁判所は7月20日、Seagen社の主張を認める判決を下した。
他方、デラウェア州連邦地方裁判所へのSeagenを被告とした確認訴訟で裁判所は仲裁による解決を指示したが、仲裁廷 Seagenの主張を全面的に否定する判断を下した。

Seagenは2022年11月10日、ワシントン州西部地区連邦地方裁判所に仲裁判断の取消を求める申立てを提出した。

米国特許商標庁は2023年2月、第一三共が請求していたSeagen Inc.の米国特許 10,808,039の有効性を審査する特許付与後レビュー請求を認め、再度、特許付与後レビューの開始を決定した。

2022/8/16 第一三共の抗体薬物複合体技術に関する Seagen Inc.との紛争

バイデン米政権は3月13日、アラスカ州北部の連邦政府所有地(National Petroleum Reserve-Alaska)でConocoPhillipsが計画する石油開発を許可した。ロシアのウクライナ侵攻も背景に燃料の安定供給を確保する狙い。


アラスカ州の地元当局と多くの先住民団体は税収に期待して開発に賛成する一方、温暖化防止と野生動物保護を求める環境団体は反対し、バイデン大統領の判断に注目が集まっていた。

許可されたのは同社がNational Petroleum Reserve-Alaskaで進めるWillow project。最大で日量18万バレルを生産する計画で、事業規模は70億〜80億ドルと伝えられている。

The Bureau of Land Management の発表によると、承認されたのは3つの掘削箇所(BT1, BT2 and BT3)、合計199の井戸、付属のインフラ。

Conocoは5カ所での掘削に加え、周辺地域の道路や複数の橋梁、パイプラインの整備を計画していたが、政府は環境破壊の懸念に配慮して掘削は3カ所だけを承認し、インフラ整備計画も縮小した。

https://www.nativefederation.org/wp-content/uploads/2019/01/ScottJepsen_ConocoPhillipsAlaska_Jan16_2019AlaskaDay_Presentations-3.pdf


このプロジェクトはトランプ前政権が2020年末に承認していたが、
米連邦地方裁判所は2021年8月に、環境アセスメントが不十分と判断、ライセンス許可を取消す判決を下した。

バイデン大統領は、連邦の土地での新たな石油・ガス掘削を認めないことを約束して就任した。

しかし、バイデン政権は2021年5月、この油田開発プロジェクトを支持する方針を示した。


今回の承認と同時に、バイデン政権はNational Petroleum Reserve-Alaska における将来の産業発展を制限するための重要な措置を発表した。

内務省は、特別エリアを最大限に保護するための規則作りに着手しており、特別地域として指定された 1,300 万エーカー以上の追加保護を検討する。特別地域での将来の石油とガスのリースと産業開発を制限することになる。

バイデン大統領は、NPR-A に近い北極海の約 280 万エーカーを、将来の石油とガスのリースの立ち入り禁止として無期限に指定する措置を講じる。

韓国LGグループ具光謨会長の義理の母と妹2人が2月28日、ソウルの裁判所にLGグループの具本茂前会長の2018年5月の逝去に伴う相続の取り消しを求める訴えを行った。

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LGグループの具本茂前会長は2018年5月20日に死去した。73歳だった。具会長は3代目で、LGを20年余りでテクノロジーおよび化学分野の世界的企業に育て上げた。

グループの持ち株会社・LGは6月29日、臨時株主総会で具光謨・LG電子常務を取締役に選任し、総会後の取締役会で代表取締役会長に選出した。

具光謨氏は具本茂会長の弟の具本綾氏の長男で、事故で息子を亡くした具本茂氏が2004年に養子に迎えた。 初代以降、長男がグループの会長を引き継ぐことになっており、後継者として養子に迎えた。
グループの中核会社・LG電子で常務として、B2B(企業間取引)事業本部の Information Display事業部長を務めていた。

2018/7/7 韓国のLG、具光謨氏が4代目の会長就任 


今回、訴訟を行ったのは具本茂前会長の妻の金英植と長女と次女の3人。

具本茂前会長はLG Groupの株の11.28%を所有していた。

逝去に伴い、具光謨現会長はこのうちの8.76%を相続し、保有の 6.24株と合わせ15%とし、最大株主となった。現在の持株は15.95%である。

長女が2.01%(3300億ウオン相当)、次女が0.51%(830億ウオン相当)を相続した。妻の金英植は株は相続していない。

LGによると、数回の交渉の結果、妻と2人の娘は上記のLG株式のほか不動産や美術品など合計5000億ウォン相当の遺産を相続した。(1ウオンは約0.1円)

遺産総額は2兆ウオンとされ、現会長はそのうち1兆5000億 ウオン、他3人が合計5000億ウオンを相続したとみられる。

現会長は、相続税7200億ウオンを6年分割で支払っており、最終分を本年末に支払う。 (全体の相続税は9215億ウォン)

2020年10月に死去したサムスン電子の李健熙前会長の相続税は12兆ウォンである。

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今回、3人は遺産を法律に基づき遺産の再配分を求める訴訟を起こした。 訴訟の理由については明らかでない。

韓国では下記による相続が可能である。

1. 指定分割 遺言書による分割
2. 協議分割 相続人全員で協議
3. 調停分割 家庭裁判所の調停
4. 審判分割 裁判官による決定

韓国の相続法では相続者は下記のとおりとなっている。

第一順位 配偶者と直系卑属 配偶者は常に他の相続人より1.5倍 
第二順位 配偶者と直系尊属  直系卑属のいない場合
  直系卑属、直系尊属がいない場合は全額を配偶者が相続 する。
第三順位 兄弟姉妹 配偶者も直系卑属、尊属もなしの場合
第四順位 四親等内親族

韓国紙は、原告が「養子は相続権無し」としていると報じているが、これは誤りで、養子も相続権を持つ。

相続法に基づけば、相続人は配偶者と子供3人(養子1、実子2)のため、配偶者が3/9、子供3人は各2/9 となる。

今回、3人は相続法の規定どおりの遺産相続を要求したとみられる。

これによると、グループ株式(11.28%)も配偶者に3.76%分、娘2人にも各2.51%分が相続され 、養子の現会長の相続は2.51%分にとどまることになる。

亡くなった具本茂前会長は、長子相続の原則維持のために養子を迎え入れたのであり、当然、LGの株式を養子に譲る遺言書を残したと思われる。

しかし、この場合、配偶者と娘2人は遺留分の請求ができる。

配偶者と直系卑属の遺留分は相続財産の1/2であり、これにより、配偶者は全体の1/6、娘2人は各1/9ずつ権利を持つ。

グループ株式(11.28%)も配偶者に1.88%分、娘2人にも各1.25%分が相続される。相続税の支払いのため売却されることも考えられる。


LGグループではグループの会長は具一族の長子が相続することとしており、後継者はグループ企業の株式の最大株主である必要がある。

このため、グループとして3人と5ヶ月にわたって交渉を重ね、上記の案(協議分割)で合意を得たと思われる。


LGでは、「相続が完了して4年も経った今、なぜこんなことを言い出したのか理解できない。LGグループの伝統と経営権をゆるがす試みは我慢できない」と述べた。

法的に認められた協議分割に合意し、相続財産分割協議書に署名し、既に4年も経ち、3年の除斥期間も過ぎているため、裁判所が取り上げることはないと思われる。

但し、協議の過程で錯誤・強要・詐欺のような契約無効、取り消しの理由があったとすれば、除斥期間が過ぎても合意無効・取り消しを主張することができるとなっており、除斥期間が過ぎた後も相続回復請求訴訟を認めた前例があるという。

米国商務省は2月28日、The CHIPS and Science Act(CHIPSプラス法)に基づく、半導体産業に対する第1弾の資金援助申請の受け付けを開始すると発表した。


申請は3段階に分かれ、第1弾となる今回は商業用の半導体製造施設の建設、拡張、現代化が資金援助の対象となる。今春後半には素材や製造装置施設、今秋には研究開発施設に関する申請を受け付ける。

今回、米政府は補助金支給の条件を明らかにした。


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米議会下院は2022年2月4日、中国に対抗するため先端技術の競争力向上をめざす包括法案 The America COMPETES Act of 2022 を賛成多数で可決した。

国内の半導体生産支援に約520億ドルを充てる。半導体製造・組み立て・試験・先端パッケージ・研究開発のための施設・装置の建設・拡充などを財政支援する。

上院は2021年6月8日に同様の法案 United States Innovation and Competition Act を異例の超党派で可決している。

2022/2/7 米下院、「対中競争法案」可決 

しかし、上下両院の法案の調整に手間取った。

バイデン米大統領は2022年7月25日、経済安全保障の観点から半導体の国内生産を補助金で後押しする超党派の法案について、「議会は一刻も早く通過させなければならない」と述べた。大統領は半導体供給に関するオンライン会合を開き、「米国は半導体で世界をリードする必要がある」と強調、巨額補助金をつぎ込んで国産半導体の育成を加速させる中国に対抗する構えを見せた。

台湾積体電路製造(TSMC)のアリゾナ州の120億ドルの設備、Intel のオハイオ州の200億ドルの設備など、これの対象となる新設備は補助金を前提に既に着工されている。

2022/7/27 バイデン大統領、半導体法案の早期成立訴え 
米上院は2022年7月27日、国内半導体産業向けの527億ドルの補助金を含む「The CHIPS and Science Act of 2022」(CHIPSプラス法)を64対33の賛成多数で可決した。

国内半導体メーカーやその声を受けたバイデン政権からの強い後押しがあり、通商条項などを削除したかたちで上院可決に至った

下院は翌28日、これを可決した。バイデン大統領は8月9日、国内半導体産業支援法「CHIPSプラス法」案に署名し、同法が成立した。

2022/7/29 米議会、「CHIPS法」を可決 

バイデン政権はCHIPSプラス法を活用して、2030年までに次の事項を達成する。

  • 先端ロジック半導体の工場を中心とした新たな大規模クラスターを少なくとも2つ形成する。
  • 複数の先端パッケージング施設を開設し、同技術の世界のリーダーとなる。
  • 経済的に競争力あるかたちで、先端のメモリー半導体を製造する。
  • 自動車や医療機器、防衛装備品に搭載されるレガシー半導体の製造能力を増強する。

CHIPSに関する527億ドルの予算の内訳は次のとおり。

  1. 商務省製造インセンティブ(390億ドル):半導体の設計、組み立て、試験、先端パッケージング、研究開発のための国内施設・装置の建設、拡張または現代化に対する資金援助。
       うち、60億ドルは直接融資または融資保証に使用可能。
  2. 商務省研究開発(110億ドル):商務省管轄の半導体関連の研究開発プログラムへの予算充当。
  3. その他(27億ドル):労働力開発や国際的な半導体サプライチェーン強化の取り組みへの予算充当。

また、上記のほか、半導体製造に関する投資に対して25%の税額控除を導入するとしている。

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今回、米政府は半導体産業に対する第1弾の資金援助申請の受け付けを開始するにあたり、そのための条件を明らかにした。

申請者は次の6点を説明する。
 (1)経済や国家安全保障への影響 (最重要)
 (2)商業的な実行可能性
 (3)財政面での強靭性
 (4)技術的な実現可能性と即応性
......
core underlying technology and manufacturing processes の詳細を含む( 技術が米企業に漏れる懸念)
 (5)労働力の開発
 (6)幅広い影響(米国半導体産業への将来的な影響など)

全ての受益者に課される条件:

 1. 自社株買いへの資金利用が禁止

「補助金は、米国の国家安全保障に対する投資であり、企業が自社の利益を増やすためのものではない」

 2. 懸念国(中国)での半導体製造能力の拡張を伴う重要な取引を10年間行わないことを商務省と合意する必要
  (安全保障上のガードレールと呼ばれる条項)

「CHIPS法の補助金を受領する企業は、受け取ってから10年の間、懸念される外国において、自社の半導体生産能力を拡充することが制限されるという契約を締結しなければならない」

1億5,000万ドルを超える直接の資金援助の受益者に課される条件:

 1. 施設の従業員や建設労働者に対して安価で質の高い児童ケアを提供する計画の提出

 2. 政府と合意した収益見込みを超えたキャッシュフローの一部を政府に償還
   ("Upside Sharing" of a portion of "excess profits" with the U.S. government)

事業が大成功であった場合、申請書に記載した額を超える部分(最大は補助金の額の75%)を政府に償還

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特に問題なのは、中国での半導体製造能力の拡張を伴う重要な取引を10年間行わないという条件である。

2021/11/26 サムスン電子、米テキサス州に半導体工場新設  

2022/1/31  インテル、米に世界最大級の半導体工場新設

サムスン電子はNAND型フラッシュメモリーの40%、SKハイニックスはDRAMの40%とNAND型フラッシュメモリーの20%を中国で生産している。サムスン電子とSKハイニックスはこれまでに中国に合計で68兆ウォン(約7兆800億円)を投資した。 (サムスンが33兆ウォン、SKが35兆ウォン)

現在、サムスンは西安で128層NAND型フラッシュメモリー、SKハイニックスは無錫と大連でそれぞれ10ナノメートル台後半のDRAMと96・144層のNAND型フラッシュメモリーを生産しているが、「先端製造プロセスへの転換が不可能になれば、サムスン電子とSKハイニックスが中国で生産する半導体は来年から20%程度減る」とされる。

特にSKハイニックスはインテルから買収したNAND型フラッシュメモリーの大連工場が問題となる。インテルに昨年、買収代金の第1期分として70億ドルを支払い、2025年に残る20億ドルを支払うことになっているが、工場をアップグレードできない場合、相当な被害を受けることになる。

2020/10/22 SK Hynix、IntelのNAND事業買収

韓国では、1986年の日米半導体協定を通して米政府が日本の半導体産業を押さえ込んだ経緯を踏まえ、米政府の手段を選ばぬ自国中心の産業保護策に警戒感を抱いている。レモンド長官が「最先端の半導体企業にとって米国が研究開発と量産において存在感を持つ唯一の国になることを望んでいる」と述べたことも簡単に聞き流せない発言でもあるとしている。

Intel が米政府による対中制裁方針を事前に察知して大連工場を売却したのではないかという「Intel 陰謀論」も出ている。

旭化成は3月8日、2023 年3月期通期の連結業績予想を修正すると発表した。

リチウムイオン電池のセパレーター生産の米子会社Polyporeで減損損失 1,850 億円を計上、株主帰属当期純損益をこれまでの700億円の利益から、1050億円の損失に修正した。

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旭化成は2015年2月23日、米国のバッテリーセパレータメーカーのPolypore International, Inc.を約22億ドルで買収すると発表した。8月26日に買収を完了した。


Polyporeは
車載用途を中心に強みを持ち、グローバルな供給体制と高度な製品開発力を有する企業である。

Polypore買収により、下記の効果が期待できるとした。

1) 車載用途を中心に強みをもつPolypore社との共同研究開発、相互技術提供等を通じて、多様な分野で用いられるより革新的な製品開発を実現する

旭化成 リチウムイオン二次電池用湿式セパレータ「ハイポア™」 スマートフォンやタブレット端末、ノートパソコン用
Polypore リチウムイオン二次電池用乾式セパレータ「Celgard™」 電気自動車用
鉛蓄電池用のセパレータ「Daramic™」 自動車や産業向け用途等で広く普及


2) 車載用途を含め、今後成長が期待されるリチウムイオン二次電池用セパレータ事業で、より幅広い製品・技術の提供が可能になる。

3) 中長期にわたって安定的な収益貢献が期待できる鉛蓄電池用セパレータ市場への参入を果たす。

4) Polyporeのグローバルな製品供給体制及び販売網等の活用によって、「ハイポア」のグローバル展開の一層の加速を図る。

買収により、セパレーター世界首位の旭化成は現状で35%のシェアを約50%に引き上げ、2位の東レを引き離す。

2015/2/26 旭化成、米電池素材会社Polypore International を買収


旭化成は、同社の買収後、環境対応車等の車載用途の需要が高まると想定されていたリチウムイオン電池用乾式セパレータ「セルガード」、幅広い用途で安定的な需要が見込める鉛蓄電池用セパレータ「ダラミック」と、電子機器等の民生用途で成長していたリチウムイオン電池用湿式セパレータ「ハイポア」事業と共に、一体のバッテリーセパレータ事業として運営してきた。

セパレータはLIBの正極・負極間に位置する多孔質膜で、正極・負極間でリチウムイオンを透過させる機能を有するとともに、正極と負極の接触を遮断し、ショートを防止する部材である。

PPを主原料として製造工程で溶剤を使用しない乾式法と、PEを主原料として製造工程で可塑剤・溶剤を使用する湿式法の2つの製法がある。

グループの能力は、2021年度に湿式膜が約10億m2/年、乾式膜が約5.5億m2/年、合計約15.5億m2/年となった。

しかし、Polypore 買収後、車載市場の状況が大きく変わった。

車載LIB市場は湿式+塗工が主流となった。ハイポアは需要が拡大、逆にCelgardは需要が低迷した。

なお、鉛蓄電池用の湿式セパレータ「Daramic™」は原料コスト高で収益が伸び悩んだ。

これに伴い、日向工場の能力を拡大し、2023年度上期に2工場の生産能力を13.5億m2/年とし、電気自動車(EV)など向けの需要拡大に対応する。

ハイポア事業とPolypore事業をそれぞれ独立運営するよう転換することとした。

なお、米国ではインフレ抑制法」で自動車用電池の生産が増えるが、北米地域に存在するセパレータの量産工場はPolyporeのCelgardのみであり、旭化成にとって大きな事業機会のある市場となる。

して、Polyporeの減損テストを実施した結果、買収時の広義の「のれん」(買収関連無形固定資産を含む)相当の1850億円を減損損失に計上した。

付記  ディールラボによると、2021年のセパレータのシェアは下図の通り。(日本メーカーの製法は他ソースから)

韓国の朴振外相は3月6日、元徴用工問題の解決策を正式に発表した。韓国最高裁が日本企業に命じた賠償金の支払いを韓国の財団が肩代わりする。

骨子:

・ 韓国政府傘下の公益法人「日帝強制動員被害者支援財団」が原告に判決金相当の金額を支払う。

新日鉄住金(現・日本製鉄)と三菱重工業を相手取った3件の訴訟で判決が確定している。韓国外務省によると賠償対象となる元徴用工は故人を含め15人いる。

聯合ニュースによると15人分の判決金と利子の総額は40億ウォン(約4億円)規模になる。遺族を含む原告に支給する。

・ 係争中の訴訟も、原告の勝訴が確定した場合は財団から支給する。

韓国の裁判所では、元徴用工らが日本企業に賠償などを求めた同様の訴訟が多数、係争中。

・ 肩代わりの財源は民間の自発的貢献により調達

1965年の日韓請求権・経済協力協定に基づく日本の経済協力で恩恵を受けた韓国鉄鋼大手ポスコなどが想定されている。

付記 韓国鉄鋼大手ポスコは3月15日、元徴用工を支援する韓国政府傘下の財団に40億ウォン(4.1億円)を拠出すると表明した。

被告の日本企業の資金拠出は前提としていない。日本政府は、元徴用工問題は1965年の協定で最終的に解決済みとの立場で一貫し、大法院判決は国家間の約束を覆す「国際法違反」と主張してきた。被告の日本企業の拠出がなければ、日本側も受け入れが可能となる。

別途、経団連と、韓国側のパートナーとなる全国経済人連合会は共同で「未来青年基金」(仮称)を設立する予定で、基金は留学生への奨学金支給など若者世代の交流増進に活用されるという。

・ 原告に判決金の受け取りに理解・同意を求める努力を継続する。

・ 歴史問題の真の解決に向けた研究と、未来世代に対する教育を強化


朴外相は「膠着した日韓関係をこれ以上放置せず、国益の次元で悪循環の輪を断ち切る」と話した。「これが最後の機会だと思う」と強調した。小渕恵三首相と金大中大統領による1998年の日韓共同宣言を「発展的に継承する」と言及した。

日本側には「日本政府の包括的な謝罪、日本企業の自発的な寄与で呼応することを期待する」と求めた。経団連と韓国の全国経済人連合会(全経連)による共同事業を念頭に「両国の経済界の自発的な寄与を検討中と聞いている。日本政府も反対しないという立場と理解している」と明らかにした。

ーーー

新日鉄住金(現・日本製鉄)と三菱重工業 とを相手取った3件が韓国最高裁で判決が確定している。

韓国大法院は2018年10月、日本製鉄強制徴用の被害者が出した損害賠償訴訟で日本製鉄の上告を棄却(原告の請求認容、当社敗訴)した。日本製鉄(旧新日鉄住金)に対し、戦時中に日本の工場に動員された4人の韓国の元労働者に1人あたり 1億ウオン(約1000万円)の賠償を命じたソウル高裁判決が確定した。

原告側は2019年1月と3月の2回にわたり、日本製鉄とPOSCOのJVのPOSCO-NIPPON STEEL RHF JV の株式9億7300万ウォン(約8700万円)相当を差し押さえた。

大邱地裁浦項支部は2021年12月30日、日本製鉄が韓国内に所有する資産、POSCOとの合弁会社「PNR」の株式の売却命令を出した。

韓国大法院は2018年11月29日、三菱重工業の上告を棄却し、同社に対し、第2次世界大戦中に同社の軍需工場で労働を強制された韓国人の元徴用工らに対する賠償支払いを命じる判決を下した。

1件は、元女子勤労挺身隊員の女性4人と親族1人に対し、それぞれ最大で1億5000万ウォン(約1500万円)の賠償を命じ た。この女性らは1944年、名古屋市にあった三菱重工の航空機製作工場で、無償労働を強制されたと話している。
もう1件の訴訟では、原告6人(うち生存者2人)にそれぞれ8000万ウォン(約800万円)の賠償支払いが命じられた。

韓国の大田地裁は2019年3月25日、三菱重工業の商標権2件と、三菱重工業が韓国国内に保有中の770件余りの特許権のうち 発電技術特許などの特許権6件の差し押さえを決定した。

韓国大法院は2022年8月にも三菱重工業が韓国国内にもつ資産の売却命令を確定させる予定であったが、(恐らく韓国政府の介入で)最終判断をしないまま、現在に至っている。

日本政府は、元徴用工問題は日韓請求権協定によって「請求権問題は完全かつ最終的に解決された」という立場で一貫している。

第一条 日本が韓国に対して無償3億ドル(生産物、役務を10年にわたり供給)、有償2億ドル(長期低利の貸付)を供与する

第二条
 1 両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む) の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。 (中略)

 3 2の規定に従うことを条件として,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとする。

新日鉄住金(現・日本製鉄)と三菱重工業は、日本政府の見解をもとに、支払いに応じていない。

それに対し、大法院判決は「請求権協定は植民地支配の不法性を前提としていないから不法性を前提とする損害賠償請求権は協定の対象外であり、成立する」という論理を展開している。

日本は、植民地支配の不法性を否定、大韓帝国は1910年8月の韓国併合条約によって大日本帝国に合法的に併合され、植民地となったとしてきた。

日本の外交上の立場と韓国司法の判断が相反し、関係悪化の要因となっていた。

なお、中国については状況が異なる。

三菱マテリアル(旧三菱鉱業)と中国人元労働者側の2016年6月の和解合意に基づき、「歴史・人権・平和」基金を通じて、2022年10月までに元労働者側の1290世帯に1億2900万元(約25億円)の「謝罪金」が支払われた。

サンフランシスコ平和条約では、連合国の日本への戦後補償請求権は放棄されることとなった。放棄された「請求権」の主体は個人も含む。しかし、当時、中華民国、中華人民共和国いずれを中国とするのか国際的に定まっていなかったため、中国(中華民国と中華人民共和国)は同会議に招請されず、上記放棄条項を批准していない。

中国については、1972年9月の日中共同声明で、「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」としているが、個人の請求権の扱いについては触れていない。

中国の強制連行被害者が西松建設を相手におこした裁判では、日本の最高裁が2007年4月、裁判上の個人の請求権は日中共同声明により失われたとしながらも、「個人の実体的な請求権までは消滅していない」と判断、「被害者らの苦痛は極めて大きく、西松建設を含む関係者に被害救済の努力が期待される」として日本政府や企業による被害の回復に向けた自主的解決の期待を表明した。その後、2010年4月に西松建設は被害者らと正式に和解、謝罪し、記念碑を建立、和解金を支払っている。

2022/11/30 三菱マテリアル、中国人元労働者側に「謝罪金」計25億円支払い

韓国の文在寅前政権は日本との交渉に動かず、現金化に向けた司法手続きが進んだ。日本側は現金化されれば国交正常化の前提が崩れ、関係修復が困難になると警鐘を鳴らしてきた。

尹錫悦現政権は2022年5月の発足後、日本との外交対立を避けながら補償を進める解決策づくりに取り組んだ。同年11月に岸田文雄首相と正式な首脳会談を3年ぶりに開き、早期解決で一致した。

韓国外務省は2023年1月、公開討論会で今回の案を有力案として示し、原告の説得を続けている。韓国政府は原告の納得を広げるため、一連の交渉の過程で日本に「誠意ある呼応」を求めた。過去の植民地支配や侵略に対する「反省とおわび」の表明や、日本企業による自発的な寄付を求めて交渉してきた。

林芳正外相は3月6日、韓国政府が発表した元徴用工問題の解決策について、「非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すものとして評価する」と述べた。

「日韓共同宣言を含めて歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と強調した。日本政府は資金を出さないものの、過去の政権が表明した「反省とおわび」を継承する 。

日本企業による自発的な寄付活動については「政府は特段の立場を取らない」と語り、容認する姿勢を示した。 聯合ニュースによると、被告の日本企業が加盟する経団連と、韓国側のパートナーとなる全国経済人連合会(全経連)は共同で「未来青年基金」(仮称)を設立する予定で、基金は留学生への奨学金支給など若者世代の交流増進に活用されるという。

今回の韓国政府案で問題がすべて解決するかどうかは疑問である。

最大野党の「共に民主党」の代表は発表について、「外交史上最大の恥辱だ」と述べた。

被害者の支援団体と原告代理人は、「韓国の行政部が日本の加害企業の司法的な責任を免責するもの」と批判した。勝訴が確定した3件の訴訟の原告のうち、存命中の3人はいずれも解決策に反対しているという。 解決策に同意しない被害者は、被告の日本企業の韓国内資産を売却する現金化を引き続き進める方針を明らかにした。   

日韓両政府が2015年に結んだ慰安婦合意では、日本が基金を設立して、「最終的かつ不可逆的な解決」で一致をみたが、元慰安婦の支援団体が反対したままで、前政権が合意の欠陥を訴え基金を解散した。 

自民党の一部議員は、韓国側の解決策について、政府は反対の立場を取るべきだと主張している。敗訴した日本企業の賠償を韓国政府傘下の財団が肩代わりするのを受容すれば、日本政府は朝鮮半島の人々を強制労働させたという話に乗ることになるとしている。徴用はごく一部で、それ以外は応募して働いていたとしている。


日本政府は2019年7月、安全保障上の懸念が拭えないとして半導体材料3品目で輸出管理を強化。翌月には、貿易管理手続きを簡素化する「ホワイト国」から韓国を除外した。

2019/7/3  政府、半導体材料の対韓輸出規制を発表

これに対し、韓国は徴用工問題を巡る報復措置だと強く反発し、撤回を求めている。

岸田首相は3月6日午前の参院予算委員会で、韓国に対する半導体素材などの輸出規制について「労働者(元徴用工)問題とは別の議論だ。日韓当局間の政策対話が困難な状況になっている。韓国側に適切な対応を求めていく」と述べた。

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