2015年3月アーカイブ

東京国税局が日本IBMグループに行った1197億円の課税処分が1審で取り消された裁判で、2審の東京高等裁判所は3月25日、国税側の主張を全面的に退けた。

本件の事態は下記の通り。

1) 米IBMは2002年にアイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホールディングス(IBM APH)という持ち株会社を設置し、米IBMが持つすべての日本IBM株をこの持株会社に売却した。

2) 日本IBMは2002年から2005年にかけて、IBM APHから自己株を3回に分けて安値で購入した。
 IBM APH は計約3995億円の巨額損失を計上した。

3) 2008年から連結納税制度を導入し、日本IBMの黒字とIBM APHの赤字を相殺した。

4) 国税局はこれを租税回避行為とみなし、1197億円を追徴課税した。  

今回のケースは課税処分がおこなわれた時点では合法であるが、国税当局は「税の負担を不当に減少させる結果」となる場合に租税回避行為として認めない法人税法上の規定を適用して課税した。

5) 日本IBM側は「日本の税法上要求されている税金はすべて納付している」とし、処分取り消しを求めて訴えた。

1審の東京地裁は2014年5月9日、「税逃れの意図があったとは認められない」としてIBM側の主張を認め、処分を取り消した。

国側は「IBM APHはペーパーカンパニーで、株売買の条件も経済合理性がない」などとして、こうした取引が税逃れ目的だったと主張した。

他方、IBM側は「法的に問題ない」と主張した。

裁判長は判決理由で「IBM APHはグループ内で資金を柔軟に移動させるなど、持ち株会社としての一定の機能があった」として、ペーパーカンパニーだったとの国側主張を退けた。

株の売買条件などについても「不合理、不自然とは言えず、事業目的のない行為をしたとは認められない」と判断し、こうした手法を明確に禁じた当時の法規定も見当たらないとして「制度を乱用して税逃れを図ったとまではいえない」と結論付けた。

2審の東京高裁も今回、国税側の主張を全面的に退けた。

国側は「株取引は経済的合理性を欠く。損失は見せかけだ」と主張した。

裁判長は、「損失が発生したのは法人税法の規定を適用した結果であり、見せかけの損失という国側の主張は根拠を欠き、採用の余地はない」と述べた。

(国内法人での同種訴訟では「制度の乱用で租税回避行為」と判断された例もある。)

東京国税局は「上告するかどうかを検討中」としている。

 付記  国は4月7日、最高裁に上告受理を申し立てた。

 

素朴な疑問だが、IBM APH は米IBMから買った日本IBM 株を日本IBMに売っているが、売値が買値よりもはるかに安いために多額の損失が発生した。
直前の買値よりもはるかに安い株価での譲渡を寄付金として損金算入を認めないという手は取れなかったのだろうか。

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なお、現在はこの仕組みは利用できない。

2010年度税制改正により、100%グループ内の法人間取引について税務上の取扱いが整備された。

100%グループ内の資産の移転による譲渡損益は、移転を受けた方がその資産をグループ外に売却した時点で計上される。

このため、現在のルールでは、外部への譲渡が行われるまでは、IBM APHの譲渡損失はゼロのままであり、租税の回避は出来ない。

 

 


Dow Chemical は3月27日、同社のクロルアルカリ事業の大半を分離してOlin Corp と合併させ、売上高70億ドルのグローバルリーダーをつくると発表した。

Reverse Morris Trust という手法により、同社のクロルアルカリ事業を分離して無税でOlinに売却し、Olinはこれを統合する。
新しいOlinにはDowが50.5%を出資する。


Dow Chemicalは2013年12月に塩素事業からの撤退を発表した。

2013/12/5 Dow Chemical、塩素事業からの撤退を発表

しかし、今回は売却という形をとるが、新しいOlinの株式の50.5%を持つことで、実質的には自社のクロルアルカリ事業を出してOlinを買収することとなる。

これまでの
"asset light" strategy (自社の事業を分離して他社とのJVとする)とも異なる。

付記

コメントを戴き、調べたところ、上記が間違いであることが判明した。

Dow のLiveris CEO が下記の通り発言している。

「DowはOlin 株の50.5%を所有する。しかし、追ってDowはDow株主にOlin株を直接所有するよう、オファーする。
 最終的には、3人の取締役を出すだけで、それ以外にはOlin の経営には全く関与しない。」

取得したOlin株をDowの株主に売却することを通じて、クロルアルカリ事業を完全に売却することとなる。

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米国には、Morris Trust が開発し、その後、税法上承認されたMorris Trust 取引と、これの変形のReverse Morris Trust 取引がある。

通常、事業を売却すれば売却益に対して課税される。

但し、売却側の企業の株主が 、買収した事業を統合した後の買収企業の株の 50%かそれ以上を所有する場合には無税となる。

売却側企業の株主が、Spin-off した子会社を統合した買収企業の株の過半を支配している。売却はしたが、依然として spin-off した子会社の持分を継続支配しているため、実質的には売却ではなく、売却利益は発生していないという理屈である。

(その後で、株を売却すれば、株の売却益に課税される。)

下図で、A社が本体をB社に売却する形でB社と統合する場合がMorris Trust 取引、不要事業を売却する形でB社と統合する場合がReverse(逆)Morris Trust 取引である。
いずれの場合も新しいB社の株の
50%以上をA社が持つ場合に売却が非課税となる。

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今回の場合は下記の形をとる。

Dow はクロルアルカリ事業をスピンオフし、Olin に売却する。

1) 対象はメキシコ湾岸のクロルアルカリ~塩ビ事業と、グローバルな有機塩素事業及びグローバルなエポキシ事業

  三井物産との50/50 JVのDow Mitsui Chlor Alkali のDow持分を含む。

      ブラジル、ドイツ、豪州の事業は取引の対象外。

2) 売却額は合計50億ドル(非課税)で、内訳は下記の通り。

現金 20億ドル
Olin株式 22億ドル相当
年金その他の債務引継ぎ 8億ドル。

売却代金の一部としてOlin 株式を受け取ることにより、Dow は新Olinの50.5%を取得し、無税売却の条件を満たす。
 (課税取引なら、この手取りを得るためには80億ドルでの売却が必要との計算)

3) Dowは20年間のCapacity Rights Agreement により、Olinにエチレンを供給する。

4) 合併によるシナジー効果として年2億ドルを見込んでいる。

5) 新Olinの取締役会にはDow指名の3人の取締役が加わり、現在のOlinのCEOのもとで、統合新チームが経営にあたる。
 

 

新しいOlin は売上高が70億ドル、EBITDAが10億ドルのクロルアルカリ業界でのグローバルリーダーとなる。

1)EBITDA 10億ドルの構成

Olin Corp の前身は1892年にFranklin W. Olin が設立した火薬会社 Equitable Powder Company で、1898年にWestern Cartridge Companyとなり、 その後ウインチェスター銃で有名なWinchester Repeating Arms を買収した。現在もOlin はWinchester の商標を保持し、弾薬を扱っている。

2) 塩素の能力

Georgia Gulf は2013年1月にPPG Industriesのcommodity chemical divisionと合併し、Axiall Corp.となった。

 

 

 

東京電力は3月25日、原子力規制委員会の第33回特定原子力施設監視・評価検討会に提出した資料で、2014年4月からの1年ほどの間に、福島第一原発から7420億ベクレルの放射性セシウムが海に漏出していたとの試算を明らかにした。

   資料:https://www.nsr.go.jp/data/000101568.pdf P.66

うち、護岸から専用港への流出が5100億ベクレルで最大である。


314日間の流出量 (億ベクレル)
 
  全β Cs 134 Cs 137 Cs 合計 Sr 90
A排水溝 140 26 82 108 11
物揚げ場排水溝 130 23 76 99 15
護岸からの流出 22,000 1,300 3,800 5,100 8,500
K排水溝 2,300 500 1,500 2,000 1,500
C排水溝 320 29 84 113 110
合計 24,890 1,878 5,542 7,420 10,136

 
A排水溝とK排水溝からは外洋に流出
その他は専用港に流出(下記の通り、シルトフェンスで港外への流出防止)


このうち、護岸からの流出に対しては、海側遮水壁で流出を防ぐこととなっていた筈である。

政府の原子力災害対策本部は2013年9月3日、東京電力福島第1原発で相次ぐ汚染水漏れ事故について、政府として主体的に取り組むことを明記した「基本方針」を了承した。

 

汚染水を漏らさない対策の一つとして、海側遮水壁(鋼鉄製の板の壁で、海底から海面上まで幅800mにわたり約700本)を設置し、内側を埋め立てるとなっていた。

2013/9/7 福島原発 汚染水対策 

 

現在、東電のホームページでは以下の通り記載されている。

海側遮水壁

汚染水の海洋流出を阻止するため、2012年5月より、1~4号機の護岸海側に遮水壁を建設しています。
全長約780mの海側遮水壁は、現在、約770mまで建設されたところです。(2015.1.1現在)


しかし実際は、海側遮水壁が完成すると地下水が行き場を失って水位が上がるため、全780mのうち770mを造ったところで中断し、残り10mの部分から地下水を海に流出し続けている。

下記のサイトに広河隆一氏の空撮写真が掲載されているが、遮水壁の内部が埋め立てされているうち、1箇所だけ壁板がなく、海水が出入りできる状態であることが見られる。
http://oshidori-makoken.com/?p=921


東電によると、陸側対策が完成してから、海側遮水壁を閉じることになっているが、凍土壁の完成する時期が見通せない状況が続いており、今後も流出が続くこととなる。

 

なお、専用港では遮水壁未完成箇所を含め3箇所にシルトフェンス(海面から海底までカーテン状になっている汚濁防止フェンス)を張っているだけで、港外への流出防止は完全ではない。

 (汚染水が流出してシルトフェンス内側の水量が増えると、フェンスを超えてフェンス外に出る。シルトフェンスの破損事故もあった。船が接岸する際はフェンスを外す。)




 

 


国際石油開発帝石は3月23日、原油価格の下落等に基づく事業環境悪化を踏まえ、減損テストを実施した結果として下記の固定資産減損損失の計上を発表した。

1) カナダJoslyn Oil Sand計画  約275億円
2) チモール海共同石油開発地域 JPDA06-105鉱区 約75億円

原油価格下落に伴い、減損損失の計上が相次いでいる。

ーーー

1) カナダJoslyn Oil Sand計画

国際石油開発帝石ホールディングスは2007年11月、仏 Total からカナダのアルバータ州のJoslyn Oil Sand上流開発プロジェクトの10%の参加権益(含付随パイプラインへの権利)を取得するとともに、同州エドモントンでTotalの計画するオイルサンド改質(合成原油製造)プロジェクトに参加する権利を取得した。

Joslyn Oil Sand上流開発プロジェクトは、カナダ・アルバータ州アサバスカ地域フォート・マクマレーの北西約60kmに位置する3 つの陸上のリース鉱区で実施されている。

鉱区面積 約220km2
権益保有者 国際石油開発帝石 10%
Total   38.25%
Suncor 36.75%
Occidental 15%
計画 2010年代初頭 日量10万バレル露天掘り
第二段階 日量23万バレル

オイルサンド改質プロジェクトは、Total がアルバータ州エドモントンに改質プラントを建設し、2010 年代前半までに、第一段階として日量13 万バレルの合成原油をオイルサンドから製造することを計画。


2) チモール海共同石油開発地域 JPDA06-105鉱区 約75億円

同社はチモール海共同石油開発地域において、JPDA06-105鉱区と、バユ・ウンダンプロジェクトに参画している。

JPDA 06-105鉱区  キタン油田  今回減損損失計上

権益比率

ENI (Operator) 40%
国際石油開発帝石 35%
Talisman Energy (加) 25%

2001年10月より生産開始


Bayu-Undan 

Conoco Phillips 56.72%
ENI 12.04%
Santos (豪) 10.64%
国際石油開発帝石 10.53%
Tokyo Timor Sea Resources
(東京電力 2 /東京ガス 1)
10.08%


埋蔵量 石油分約4億バレル(コンデンセート・LPG)と天然ガス約3.4兆立方フィート(LNG換算約8,000万t)

 

同社はオーストラリアにおいては、世界的にも大規模なLNGプロジェクトであるイクシスプロジェクトの開発を推進している。

2009/9/18 Chevron、豪州でのGorgon Natural Gas Project 実施の最終決定 後半に記載

 

ーーー

住友商事は2014年9月に減損損失計上を発表したが、2015年3月25日、損益予想を大幅に下方修正した。

米のシェールオイルや北海油田の減損損失を追加し、米国のタイトオイルの減損損失なども追加した。
損益予想修正の要因となった主な事業は下記の通り。

  計上損失  

2015/3 見直し

見直し後  
米 タイトオイル -1700億円

保有資産譲渡

-2000億円

継続方針の南部地区の減損

豪 石炭 -300億円 石炭価格下落 -260億円  
ブラジル 鉄鉱石 -500億円   -650億円  
米 タイヤ事業 -200億円   -220億円  
米 シェールガス、
北海油田
  -400億円 原油・ガス価格下落、事業計画見直し
(合 計) -2700億円   -3520億円  
税効果等 300億円   280億円  
株主帰属損益 -2400億円   -3250億円  


同社の2015年3月期連結決算業績予想の推移は下記の通り。(百万円)

  売上高 税引前利益 株主帰属利益
2014/5/1発表 8,600,000 332,000 250,000
2014/9/29発表 8,600,000 62,000 10,000
(増減)   (-270,000) (-240,000)
2015/3/25発表 8,600,000 -33,000 -85,000
(当初比)   (-303,000) (-335,000)

 

同社は同日、新しい中期経営計画を発表した。

そのなかで、次の点が挙げられている。

   「成長戦略の推進」  資源上流ビジネスの取り組み方針見直し →非資源分野にシフト

   「経営改革の推進」  リスク管理の抜本的な見直し・強化

 


 

 

 

 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設準備の了解覚書が2014年10月24日に22カ国により調印された。
(うち、インドネシアの実際の調印は11月25日となった)

その後、参加が続き、2015年3月初めには27カ国となった。

3月12日に英国が参加、仏、独、伊が続き、現時点では欧州では合計7カ国が参加した。

2015/3/16 英国、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加

香港も参加した。香港は「一国二制度」が適用されており、アジア開発銀行(ADB)などの国際機関に中国とは別に加入している。

中国と米国の板ばさみとなっていた韓国は3月26日、AIIBへの参加を決定し、中国に通知した。

韓国政府は以下の発表を行った。

アジア開発銀行(ADB) の調査によると、アジア地域のインフラ施設投資需要は2020年まで毎年、7300億ドルに達するとされています。しかし世界銀行、ADBなど既存の多国間開発銀行のこの地域に対する投資資金供給は、これに全く及ばないという実情です。

従ってAIIBは、既存の他国開発銀行との相互補完関係の中にこの地域の不足した投資資金供給に力を注ぐことによって地域経済発展を先導し、地域内国家間の経済金融協力関係を強化するという趣旨で設立が推進されています。

AIIBが今後、本格的に運営される場合、アジア地域に大型インフラ建設市場が開かれると予想されています。このような状況で韓国のAIIB参加決定により、建設・通信・交通などのインフラ事業に多くの経験を持つ韓国企業の事業参加が拡大されます。

これまで政府は、AIIBの支配構造やセーフガードなど国際的水準によって設計されなければならないという意見を主な友好国と共に積極的に表明しながら、中国側に設立案改善を継続的に要求してきました。最近、これに関して相当の進展がありました。

政府は今後も主な友好国と緊密に協力しながら、AIIBが責任性・透明性・支配構造・負債の持続可能性などで既存の多国間開発銀行に合った高い水準の模範的基準を持てるようにすることによって、経済の発展に寄与するよう積極的な努力をしていくつもりです。

トルコも3月26日に参加を決定した。

トルコの副首相は訪日中の3月16日「トルコは、AIIBに参加する意向はない」と語 っていた。

オーストラリアのアボット首相は3月25日、組織運営の透明性などを条件に「豪州もぜひ参加したい」と述べた。参加に向け、オバマ米大統領や安倍首相らと協議を重ねていることも明らかにした。

現在の参加国は下記の通りで、37カ国・地域となった。

    アジア 中央アジア 中近東 欧州 オセアニア
1 2014/10/24
 
中国 カザフスタン、
ウズベキスタン
クウェート、
オマーン、
カタール
   
モンゴル        
(ASEAN) ミャンマー、
ラオス、タイ、ベトナム、
カンボジャ、マレーシア、
シンガポール、
フィリピン、ブルネイ
       
インド、スリランカ、
パキスタン、バングラデシュ、ネパール
       
22 2014/11/25 (ASEAN) インドネシア        
25 2014/11/28   タジキスタン サウジアラビア   ニュージーランド
26 2014/12/31 モルディブ        
27 2015/2/7     ヨルダン    
28 2015/3/12       英国  
31 2015/3/17       フランス、ドイツ、イタリー  
32 2015/3/18       ルクセンブルグ  
33 2015/3/20       スイス  
34 2015/3/23 香港特別区        
35 2015/3/24       オーストリア  
37 2015/3/26 韓国   トルコ    
37カ国・地域 20カ国・地域 3カ国 6カ国 7カ国 1カ国



付記


中国財政省は3月28日、ブラジル、オランダ、グルジアがAIIBに参加申請したと発表した。
ロシアのイーゴリ・シュワロフ第一副首相はボアオ・アジアフォーラムで、プーチン大統領の認可を受け、ロシアはAIIBへの参加を表明すると発表した。
デンマークは3月28日、参加を正式表明し、中国側に書面を提出した。

オーストラリアのアボット首相は3月29日、参加方針を正式表明した。

中国財政省は3月30日、エジプトとフィンランドが参加を決めたと発表した。

中国財政省は3月31日、キルギスとスウェーデンが参加申請したと発表した。
 
 合計47カ国・地域となった。


ーーー

中国の楼継偉財政相とアジア開発銀行 (ADB)の中尾武彦総裁は3月22日、北京市内で開かれた経済フォーラムにそろって出席した。

中尾総裁は会場からの質問に答える形で「アジアには非常に大きなインフラ需要があり、ADBとAIIBは協力が可能だ」と強調した。そのうえで「環境への影響を少なくするように、AIIBは(融資審査などの)国際的な基準を守る必要がある」とくぎを刺した。ADB自身も融資能力を高めるために改革を進めていると説明した。

これに対し、楼財政相は「先進国のルールが最良とは思わない」と述べ、ADBなどを「官僚主義で(融資などの)手続きが煩雑だ」と批判し、「AIIBは途上国が主導する機関で、彼らの要求を考慮する必要がある」と主張した。理事会を常設しないなど、意思決定を迅速にする独自の体制を築く構え とされる。

AIIBの初代総裁に就く見通しの金立群・元中国財政次官も講演し「世界銀行やADBを補完するものであり、取って代わるものではない。現行の国際金融秩序を推進するものであり、転覆を狙うものではない」と訴えた。

ーーー

安倍首相は3月20日の参院予算委員会で、AIIBへの日本政府の関与について「慎重に検討していく必要がある」と述べた。
AIIBの課題として「公正なガバナンスを確立できるか、そして債務の持続可能性を無視した貸し付けを行うことにより、他の債権者にも損害を与えることにならないか」と指摘した。

政府内の一部からは参加を求める声もあり、麻生財務相は同日午前の閣議後記者会見で、融資審査の透明性の確保などを条件に「中に入って(参加に向けて)協議になる可能性はある」と発言していた。

経団連の榊原定征会長は3月23日の記者会見で、日本の成長力を高めるには海外のインフラ需要の取り込みが欠かせないと指摘し、「日本企業が競争上不利にならないような対応が必要だ」と述べ、政府内で参加の是非をめぐる議論を急ぐよう求めた。

3月26日の報道では、政府は創設メンバーとなるための期限の3月末までには参加判断を行わない方針を固めた。
日本は、理事会の設置など企業統治のあり方や、融資に関する環境・社会への配慮が不透明として、参加に慎重な姿勢を崩していない。

ーーー

安倍首相はAIIBの課題として「公正なガバナンスを確立できるか 」をあげているが、米国主導の世界銀行、IMFも問題を抱えている。

ルー米財務長官は3月18日、議会での証言で、国際通貨基金(IMF)の改革を議会が承認しないことは戦略的に危険で、中国が主導するアジアインフラ銀行創設といった問題で米国の影響力が低下するとの懸念を示した。改革案の米議会での批准が遅れていることで、新興国の間でIMF以外の機関から資金を調達する傾向が出ているとの認識を示した。

米国が承認を遅らせていることで、他国は国際機関に対する米国の姿勢を疑問視していると指摘。IMFの改革を議会が承認しないことは「戦略的に危険で間違いだ」と述べた。

IMFは2010年に、新興国の出資比率を引き上げ、理事会への登用を増やす「IMF改革」に合意した。
改革案が実現すれば、IMFへの出資比率で米国、日本に続く第3位に中国が浮上、更に上位10カ国にインド、ロシア、ブラジルが入り、新興国の発言力が増す。

IMFへの出資比率 (%)
現状   改革後
米国 17.67 米国 17.41
日本 6.56 日本 6.46
ドイツ 6.11 中国 6.39
英国 4.51 ドイツ 5.59
フランス 4.51 英国 4.23
中国 4.00 フランス 4.23
イタリア 3.31 イタリア 3.16
サウジ 2.93 インド 2.75
カナダ 2.67 ロシア 2.71
ロシア 2.50 ブラジル 2.32

しかし、米国では議会の賛成が得られず、批准されていない。

重要事項の議決には投票権で85%以上の賛成が必要で、唯一15%超の比率を持つ米国が事実上の拒否権 を行使している。

BRICS (ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の第6回首脳会議が2014年7月15日、新興国や途上国の社会基盤整備支援を目的としたNew Development Bankと、5カ国が金融危機の際に資金を融通しあう外貨準備基金(BRICS Contingent Reserve Arrangement)の設立に合意する「Fortaleza Declaration and Action Plan」に署名した。

この宣言でも「2010年に採択されたIMF改革案が実行されないことに失望し、深刻な懸念を持っている。これはIMFの正当性、信用性、有効性を傷つけている」と厳しく批判した。
世銀に対しても、もっと民主的な運営を求めている。

2014/7/23 BRICS開発銀行 設立へ    

 

 

 

 



中国の国有化学大手、中国化工集団(China National Chemical Corp.:ChemChinaは3月23日、イタリアのタイヤ大手Pirelli を買収すると発表した。
ChemChinaの任建新董事長は同日「世界で活躍できるタイヤ企業として市場をリードしていきたい」との声明を発表した

Pirelli は 1872年の創業で、ブリヂストン、フランスの Michelin、米Goodyear、 独 Continentalに次ぐ世界5位のタイヤメーカー。
中国でも「倍耐力」のブランドでよく知られている。

ChemChinaがタイヤ製造子会社・中國化工橡膠(China National Tire & Rubber)を通じ、Pirelliの持株会社Cam Finanziaria (Camfin)から発行済株式の26.2%を買い取る。
価格は両社で合意したPirelliの価値 71億ユーロ(約9200億円)で計算した1株当たり15ユーロ。前週末終値(15.23 ユーロ)とほぼ同額で、株価は身売り観測で上昇していた。

中國化工橡膠は投資会社を設立し、残り全株を1株15ユーロでTOBを行う。TOBは夏にも開始し、年内にも買収手続きを終えたいとしている。

Pirelliの持株会社Camfinの出資者も売却収入の一部を出し、中國化工橡膠 の投資会社に49.9%出資する。その後のTOBの資金を出せば、この出資比率を維持できる。

新Pirelliは本社はイタリアに置き、PirelliのMarco Tronchetti Provera会長と現経営陣が引き続き経営に当たる。会長は退陣時期を自分で決める権利を持つ。

Camfin の出資者は、Marco Tronchetti Provera会長のNuove Partecipazioni と2つの銀行及びロシアの国営石油会社Rosneftである。

Rosneft は2014年3月、間接的にイタリアのタイヤメーカーPirelli の筆頭株主になる契約を締結した。

Pirelliの最大株主はPirelliの会長のMarco Tronchetti Proveraと投資会社のClessidra 及び2つの銀行が出資する持株会社Cam Finanziaria (Camfin) だが、交渉の結果、Camfinを解散し、新しい持株会社をつくり、Rosneftが50%を出資する。Clessidra は離脱し、会長と2つの銀行は新比率で出資することとなった。

最終的にRosneft のPirelliへの出資比率は13.1%となり、Marco Tronchetti Provera会長の10.5%を上回り、最大株主となった。

Cam Finanziaria
(Camfin)
Nuove Partecipazioni
(Marco Tronchetti Provera)
39.09% 新持株会社
Camfin
Rosneft 50% Pirelliの13.1%
Clessidra SGR
(private equity company)
24.06% 新会社 Nuove Partecipazioni
(Marco Tronchetti Provera)
80% 50% Pinelliの10.5%
Intesa Sanpaolo
(bank)
18.43% Intesa Sanpaolo
(bank)
10% Pinelliの1.3%
Unicredit
(bank)
18.43% Unicredit
(bank)
10% Pinelliの1.3%

2014/3/25 ロシアのRosneft、イタリアのタイヤメーカー Pirelli の筆頭株主に


中國化工橡膠の投資会社(Pirelliの26.2%保有)は
下記の通りとなる。

 

Camfin出資者は、今後のTOBの費用を負担すれば、合わせて最高49.9%の出資を維持できることとなる。


計画通り進めば、ChemChina は高級タイヤを製造する技術にアクセスでき、Pirelliは巨大な中国市場での地位を強化できる。

Pirelliは2005年に山東省兗州(Yanzhou)市に進出、約4億USドルの投資を行ってきた。2011年11月に発表されたビジネスプランに沿って、2014年までに2億USドルの追加投資を行い、乗用車用タイヤ生産能力を拡張、2011年の410万本から、年間1,000万本以上に生産量が増加させた。

Pirelli の不採算のトラック用及び工業用タイヤ事業は中國化工橡膠及び同社の子会社のオールスチールトラックタイヤのメーカーAeolus Tyres (風神輪胎)の資産と統合する。

 

 


水俣病と診断されながら国の基準では認定されなかった新潟市などの男女11人が国と新潟県、原因企業の昭和電工に1人当たり1200万円の損害賠償などを求めた新潟水俣病3次訴訟 の判決が3月23日に出た。

1) 原告7人を患者と認定し、昭電に1人330万〜440万円(総額2420万円)の支払いを命じた。

原告は新潟市や同県阿賀野市に住む40〜80代の男女 で、多くは祖父母や両親が水俣病認定患者で、子どもの頃に阿賀野川の魚介類を食べて育ち、大人になってから症状が激しくなったとして提訴した。

国と県は、国の認定基準で棄却されているため、水俣病患者ではないとしたが、判決は、「症状が手足末端の感覚障害のみの人も存在する」とし、水銀摂取から40年以上経過後に発症する「遅発性水俣病」の存在も否定できないと指摘した。
(国の新指針は、摂取から発症まで「通常1カ月前後、長くても1年程度」であれば因果関係の確からしさが高いと例示している。)

同居家族に認定患者がいることを重視する見解を示し、7人を患者認定した。
3人については感覚障害を認めたが、同居家族に認定患者がいないなどとして請求を退けた。
故人1人は係争中に水俣病と認定され、昭電への訴えは取り下げていた。

2) 国と県の賠償責任については、工場排水を規制しなかったことが違法とはいえないとして認めなかった。

原告主張:1956年には熊本の水俣病が確認されており、同種の工場がある新潟でも発生が予見できた。
被告主張:
新潟水俣病が公式確認された1965年5月時点では工場の水銀排出は終了していた。

判決:新潟水俣病が確認された1965年以前に、国や県が阿賀野川での被害発生を認識していたとはいえない。

 ・1965年以前に阿賀野川での被害発生を認識していなかった。
 ・アセトアルデヒドの製造工程でメチル水銀が生成されることが裏付けられたのは1965年11月
 ・ごく微量のメチル水銀を含む排水でも魚介類を介することで人体に危険性があることが解明されたのは1968年ごろ

3) 損害賠償請求権は消失していない。

身体に蓄積する物質が原因で、一定の潜伏期間経過後に症状が表れる。除斥期間は発症した時から起算すべきで、20年を経過していない。


弁護団長は、「行政の責任を認めなかった不当な判決だ。患者が出ないようにするのが行政の責任ではないか」と述べ、控訴する意向を示した。
また、「症状はあっても、同居している親族に認定患者がいなければ認められないという、これまでの判決の悪い点を引用していて残念だ」と述べた。


新潟水俣病の経緯は下記の通り。(共通)は水俣病、新潟水俣病の両方

1956/4 (水俣病公式確認)
1965/5 新潟水俣病公式確認
1967/6 一次訴訟(四大公害訴訟ー両水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病ー最初の訴訟)
1968/9 (共通)政府統一見解、「工場排水が原因」
1971/9 一次訴訟で患者側勝訴。昭和電工の工場排水が原因と確定
1982/6 二次訴訟
1995/12 (共通)政府が未認定患者救済策を閣議決定
1996/2 閣議決定を受け、二次訴訟和解
2007/4 三次訴訟
2009/6 四次訴訟
2009/7 (共通)水俣病救済法 成立
  2009/7/3 
水俣病救済法案、衆院を通過、来週成立の見通し
2010/3 (水俣訴訟、熊本地裁で和解)
  2010/3/20 
水俣病集団訴訟で和解案
2010/4 (共通)政府、水俣病特別措置法の「救済措置の方針」を閣議決定
  2010/4/16 
水俣病「救済措置の方針」を閣議決定 
2010/10 四次訴訟和解勧告、協議開始→10月21日基本合意
2013/4 水俣訴訟、最高裁判決 52年判断条件」に基づく高裁判決を破棄
2013/12 未認定患者ら6人が新潟市に処分取り消しと認定を求め提訴
未認定患者ら22人が国・昭電を提訴(5次訴訟)
2014/1 環境省、水俣病認定基準  厳しい条件
2014/9 三次訴訟結審
2015/3 同上 判決


新潟水俣病第4次訴訟では和解が成立したが、3次訴訟の原告は和解ではなく、判決を求めていた。

新潟水俣病を巡っては、国と昭電を相手取り損害賠償を求めた5次訴訟など2件が係争中。

 

 

米国の女優 Angelina Jolie(39)が卵巣癌の予防のため、すべての卵巣と卵管の摘出手術を受けたことを明らかにした。
3月24日付けのNew York Timesに"Diary of a Surgery" というタイトルで寄稿した。

彼女の場合、癌抑制遺伝子BRCA1の変異があり、2013年には乳癌予防の目的で両乳房の切除手術を受けていた。

乳房の手術を決めた際に、医師から「乳癌になる確率が87%、卵巣癌の確率が50%」と告げられていたが、2週間前、血液検査で卵巣癌につながる異常がわかり、検査を経て手術を決断した。

ーーー

乳癌に関して、癌抑制遺伝子BRCA1、BRCA2 (Breast cancer susceptibility gene ) が見つかっている。

通常は、DNAの損傷変異が修復できないぐらい多数に及ぶ場合、BRCA1タンパク質が機能し、増殖シグナルを停止し、癌の発生を防止する。

      松本邦夫・金沢大学がん進展抑制研究所教授の「知の拠点セミナー」資料

しかし、遺伝子変異でBRCA1の機能が破綻すると、遺伝子異常をもった細胞が蓄積し、癌が発生する。

変異したBRCA1・BRCA2遺伝子は世代から世代へと受け継がれる特徴があり(1/2の確率で親から子へ遺伝)、遺伝のパターンとしては[卵巣癌のみ][乳癌と卵巣癌][卵巣癌と結腸癌]という3種類が確認されている。

乳癌の場合は卵巣癌も、卵巣癌の場合は結腸癌の心配もしなければいけない。

Angelina Jolieは母親・叔母を乳癌で亡くし、母方の祖母も卵巣癌のため40代で命を落としている。

特にBRCA1は、若い年齢で乳癌を発症する可能性が高く、40歳過ぎてからの卵巣癌のリスクも高い。しかも治療が難しい。

そのため、Angelina Jolieはリスク低減手術に踏み切った。

寄稿の最後で、「助言を求め、自分に合う選択をしてほしい。知識こそ力です」と、女性にメッセージを送った。

"It is not easy to make these decisions. But it is possible to take control and tackle head-on any health issue. You can seek advice, learn about the options and make choices that are right for you. Knowledge is power".

 


Lanxessが合成ゴム事業(2014年売上高51億ドル)をJV化することを検討しており、持分の40%程度を売却する交渉を行っており、Saudi Aramcoが交渉相手に含まれていると本年2月初めに報じられた。

同社は2014年8月に3段階にわたる全社構造改革の実施を発表しているが、そのPhase 3 に当たるもの。
(構造改革のPhase 1 の人員削減は予定通り実施されている。)

合成ゴム市場の過剰能力とそれによる値下げ圧力に対応するため、安い石油・ガス関連原料を持つパートナーを探している。
インドのReliance やロシアのSibur などのような新興市場での低コストの競争相手に打ち勝ち、グローバルに事業を拡大することを狙っている。

候補の各社に対し、具体的なオファーを出すよう求めているとされる。

アナリストは事業価値を26.5億ユーロ程度と見ている。

Lanxessはその後、この報道を事実であると認めた。

ーーー

Lanxessは 3月19日の2014年決算発表時にPhase 2 の事業の競争力強化策の一つとして合成ゴム事業の合理化を発表した。

合成ゴムの過剰能力に対応するため、EPDM とネオジウム触媒ポリブタジエンラバー(Nd-PBRの能力を最適化する。

1)EPDM

同社のEPDMの歴史は下記の通り。

Lanxess(Bayerから分離独立はドイツのMarlで年産6万トン、テキサス州のOrangeで6万トンの合計年産12万トンのEPDM(Buna® EP)を生産していた。

Lanxess は2010年12月、Royal DSM からのDSM Elastomers部門の買収を発表した。買収額は310百万ユーロ。
オランダのGeleen (16万トン)とブラジルのTriunfo(4万トン)を加え、能力は12万トンから32万トンに増えた。

2010/12/20 LANXESS、DSM Elastomersを買収 

2011年9月、オランダのGeleen のEPDMの50%を最新のKeltan ACE技術に転換すると発表した。3系列のうち最大の系列を転換する。

2011/10/5 LANXESS、EPDM事業を強化 

2012年9月、江蘇省常州市のChangzhou Yangtze Riverside Industrial Parkに世界最大のEPDMプラントを建設すると発表した。
能力は年産16万トン、投資額は235百万ユーロで、2015年に生産開始する。

2012/9/10 Lanxess、中国江蘇省に世界最大のEPDMプラント建設 

以上により、現在の能力は51万トンに達する。

今回、ドイツのMarl のプラントを2015年末に停止することを決めた。
同社のEPDMプラントのうち、規模の点とエネルギーコストと原料コストが比較的高いことから、最も経済性で劣るためで、最新鋭の中国プラントで補完する。

2)ネオジウム触媒ポリブタジエンラバー(Nd-PBR

Nd-PBR はタイヤに使用される原料の一部で、他の多くのタイヤ用ゴムに比べ、より効率的な燃費をもたらし、タイヤ摩擦も低減する。自動車の安全性、環境保護、経済性の向上においてより重要な役割を果たす。
世界中で、燃費性能、ウェットグリップ性能、騒音などの新規制に対応できる「グリーンタイヤ」の原料ゴムのニーズが増大している。

Lanxessは2011年6月、新しいNd-PBRの立地をシンガポールに決めたと発表した。
2億ドルを投じて、ジュロン島に年産14万トンのプラントを建設する。2015年上半期の操業開始を目指す。

2011/6/6 Lanxess、シンガポールでポリブタジエンゴムを生産 

この結果、同社はフランスとドイツ、米、ブラジル、シンガポールの5箇所にプラント持つこととなった。

今回、ドイツのDormagen とシンガポールをNd-PBR の生産の本拠地とし、米国とブラジルのプラントはそれぞれの地域のみに供給する。
フランスのプラントと米国プラントの一部は将来、他のブタジエンゴムの生産に転用する。米国プラントは4系列のうち、3系列だけをブタジェンゴム生産に使う。

以上により、EPDMとNd-PBRについては、欧州、北米、南米、アジアに一つずつのプランを持つこととなる。


Phase 3 では合成ゴム事業で他社との協力を通じての競争力強化を狙っており、「現在、数社と交渉中で、本年下半期には報告できるだろう」としている。

 

 


米内務省は3月20日、シェールオイル・ガス開発に関する新規制 "Oil and Gas; Hydraulic Fracturing on Federal and Indian Lands" を発表した。

 http://www.doi.gov/news/pressreleases/interior-department-releases-final-rule-to-support-safe-responsible-hydraulic-fracturing-activities-on-public-and-tribal-lands.cfm

化学物質を混ぜた水を岩盤に高圧で送り込んでガスや石油を取り出す「hydraulic fracturing(水圧破砕法)」が地下水などを汚染する懸念に対応することが狙い。

公有地や先住民保護地区(public and American Indian lands)にある油井の水圧破砕法 を規制するもので、油井の構造、排水処理、使用薬品の開示の要件を決め、安全性を向上させ、地下水を保護するものである。
 

規制の主な点は下記の通り。

油井の構造や、裸孔と水の層の間に強力なセメントバリアがあることの検証による地下水保護
  フラッキングの液体が飲料水を汚染するリスクに対応

水圧破砕法に使用される薬剤の公開

・大気、水、野生生物へのリスクを回避するため、回収廃水の保管基準の見直し
  
open pit ではなく、sealed tank での保管を求める。

・使用される薬剤、流体による油井間のクロス汚染のリスクを下げるため、地層、深さ、既存の油井の位置等のより詳細な情報の提出

 
対象となる
土地での水圧破砕法による採掘は、天然ガス採掘の11%、石油の5%程度である。
これ以外の土地での採掘は州政府に規制権限がある。ニューヨーク州が昨年12月にフラッキングを禁止する規制を作るなど、現在は州ごとに対応がわかれている。

   
2014/12/19 ニューヨーク州、フラッキング(水圧破砕)を禁止へ 

政府はこの新規則が、各州の規則の原型となることを希望している。

石油関連企業団体の Independent Petroleum Association of AmericaとWestern Energy Alliance は同日、新規制は必要性が証明されていないとして、実施の差し止めを求める訴訟をワイオミング州の連邦地裁に起こした。
共和党の上院議員はこの規則の施行を止める法案を提出した。

他方、環境団体は、シェール開発そのものに反発しており、今後、内務省にさらに厳しい対応を求める。

内務省は引き続き、水圧破砕法で発生するメタンガスの焼却の新基準を出す予定。
またEPAは健康リスクの長年の研究を継続している。

ーーー

このなかで薬剤の開示は画期的である。

水圧破砕法では、特殊な砂粒や、酸・防腐剤・ゲル化剤・摩擦低減剤などの化学物質を添加した大量の水が使われる。化学物質の内容、組成は企業によって異なる。
薬剤には有害物質、危険物質が含まれており、また地下にある物質と反応して発ガン物質が発生することもある。

アメリカでは飲料水の安全確保のため、水源地帯の土中に異物を混入する行為は厳重に規制されている。
しかし、
水圧破砕法で使用される薬剤は開示も求められていない。

水圧破砕法を推進しているHalliburtonの元CEOであったDick Cheney副大統領(当時)がガス開発を優先する特例を推し進めた。
2005年連邦エネルギーポリシー条令で水圧破砕を飲料水安全条令から適用除外にした。
シェールガス開発で危険物質を使用するのを認め、物質の開示さえも不要とした。

「Halliburtonの抜け穴」と呼ばれる。

2011/8/8 「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」

2015/3/13 BS世界のドキュメンタリー シェールガス開発がもたらすもの」   

 

 

 

ユーロ圏 19か国の財務相会議は2月20日、2月末で期限を迎えるギリシャの金融支援について4か月間延長することで合意したが、延長の条件とされた4月までの改革案策定が進まず、ギリシャはほとんど融資を受けていない。

ギリシャが抱える3200億ユーロ超の公的債務の大半は、ユーロ圏とIMFからの支援融資で、IMFからの融資は2015年中に期限を迎えるものも多い。
6月末までは、ギリシャのIMFへの返済額は毎月4億5000万~15億ユーロに上る。

さらに7、8月には、欧州中央銀行(ECB)が保有するギリシャ国債計78億ユーロの巨額の償還が控える。

EUは3月19日から2日間の日程で、ブリュッセルで首脳会議を開催、19日の全体会合後に、ギリシャのチプラス首相や独仏の首脳、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁らが協議した。EUは追加融資の条件として詳細な改革案の提示や実行を求め、ギリシャが数日内に財政・構造改革の詳細なリストを提出することになった。

ギリシャのチプラス政権が態度を変えないため、ユーロ圏の中で孤立している。Wall Street Journalは以下のように分析する。

アイルランド、ポルトガル、スペインおよびバルト諸国は、自分たちは難しい政治的コストを背負ったものの、最終的にこれが奏功したと認識しており、ギリシャだけこうした困難を避けるべきとする理由が理解できないとする。
スロバキアやバルト諸国などはギリシャ以上の貧困国であり、最低賃金もより低い。

どのような形であれ、ギリシャ債務に対する追加的減免策を講じれば、他のユーロ圏加盟国が債務を肩代わりすることになる。

域内の規則を守ろうとしないギリシャの急進派政権に大きく譲歩すれば自国の反対勢力が勢いを増し、自分たちの立場が危うくなる。

ーーー

ギリシャは場外戦を始めた。

ギリシャのチプラス首相は2月8日、ナチスドイツによる第二次世界大戦時の巨額損失をドイツに請求するべきだと表明した。
要求額は
1620億ユーロで、
ギリシャが抱える3200億ユーロ超の公的債務の半分を上回る。

1946年パリで行われた第一回国際会議で、ドイツはギリシャに7億ドルの賠償金を支払うことが決定していたことに加え、戦時中にナチスドイツがギリシャから強制的に借りた3.5億ドルの合計を、現在の物価に変換するとと1620億ユーロになるという。

これに対しドイツは、賠償問題はすでに終わっているとし、賠償金を払う意思がないことを伝えた。

チプラス首相は3月10日、今度は第2次世界大戦中のナチス・ドイツ占領による損害の賠償を求める考えを議会で示した。

第2次世界大戦中の1944年6月、ナチス・ドイツは抵抗組織をかくまったとして、ギリシャ中部のディストモで生後2カ月の乳児や妊婦、老人ら218人を虐殺した。

ギリシャ最高裁は2000年、ドイツに対し、この遺族への2800万ユーロの賠償を命じたが、ドイツの反発を恐れた当時の法相は、執行を命じる文書に署名しなかった。

これに対し、独政府の報道官は3月11日、「ドイツは1960年に1億1500万マルクを支払い、賠償問題に関して完全に終了した」と述べ、ギリシャの主張を否定したが、ギリシャのパラスケボポウロス法相は、適切な時期に最高裁の2000年の判決を執行する書類に署名し、ギリシャ国内にあるドイツ資産を没収する用意があると明らかにした。

1960年の協定でドイツはギリシャに1億1500万マルクを支払ったが、それはインフラの破壊や戦争犯罪、ナチスに強要された戦時融資を完全に賠償するものではないとしている。

ドイツがギリシャに所有する総資産は2690億~3320億ユーロだと推定される。

ドイツ国内でも、ドイツは賠償を払うべきだとの声もあると報じられている。


ギリシャ政府は別途、ドイツに対する奇妙な戦術を採っている。

ギリシャの防衛大臣は3月8日、ドイツがギリシャに打撃を与えるなら、ISILのテロメンバーを含む多数の難民をドイツに送り込むと脅した。外務大臣も同様の発言をしている。

ここ数年、イタリアに流れ着くシリアやソマリアの難民が問題になっていたが、ギリシャも地中海から、また、トルコ経由で陸路からも流入し、難民の保護でお手上げ状態になっている。

ドイツ内部ではギリシャを欧州における国境撤廃を目指すシェンゲン協定(Schengen agreement)の対象外にすべきだとの声が起こっている。

ーーー

ギリシャを側面から応援するような記事も出ている。

3月16日の英 Financial Times はフランスの財政赤字を取り上げ、これを罰しないのは誤り (Failure to fine the country is really an indictment of the EU's rules) とした。

以下、記事の概要。

ユーロ圏には1997年6月締結の「財政安定化・成長協定(SGP:Stability and Growth Pact)」がある。

・ 単年度の財政赤字額の比率がGDP の 3% を上回ってはならない
   (ここでいう財政とは、中央政府に限らず、地方政府などのすべての公共財政の合計を指す)
・ 国債残高が GDP の60%を下回ること

その基準をクリアできず、EU経済財務相理事会が「過剰な赤字」と評価すれば赤字是正が勧告され、その後、赤字の解消に進展がないとみなされればペナルティー(罰金)が科される。

1990年代半ばにドイツの連邦財務相Theodor Waigelが提唱したもので、単一通貨圏において、一国が多額の借り入れを行い、中央銀行が通貨膨張の圧力にさらされ、インフレになった場合、1つの国の浪費によるコストを他のすべての国々に拡散して負担させることになり、同盟でも弱体化させるからである。

ドイツとフランスは、2002年以降3年連続で違反を続け、罰金の適用も停止させた。



フランスとドイツの圧力を受け、2005年3月の欧州理事会で見直しが行われ、財政赤字規律の条件を超えても、「小幅かつ一時的」な場合、経済成長がマイナスであれば過剰財政赤字とはみなされないことになった。

単年度赤字発行 3%、累積公債発行残高 60% という上限は残されたものの、ある国に対して債務が基準を超過していることを通告するにあたって、景気にあわせた財政動向、債務水準、景気低迷の期間、赤字発行による生産性向上の可能性といった指標を用いることが認められた。

その後、フランスとドイツは別々の道をたどる。
ドイツは経済改革を急速に進めることで対応し、現在では経常黒字が7%になるまで回復している。
それとは対照的にフランスは1970年代から財政黒字を計上していない。本年の財政赤字は4%を超える見込みだ。

EU財務相会議は2013年、フランスが財政赤字の対GDP比率を3%以内とする期限を2015年まで2年延期することで合意した。

フランス政府は本年2月、これを3年先延ばしにし、2018年とするよう要請した。

これを受け、EU財務相は3月10日の理事会で、財政再建の達成期限の2年延長を承認した。

2000年以降でフランスが基準を達したのは2006年と07年の2回だけ。
フランスの期限延長は2009年以降3度目となり、EU財政規律の信頼性を損ねかねないとして懸念の声が上がっている。

アイルランド、ポルトガル、ギリシャは速やかに赤字を削減することでこれよりもっと深刻な景気後退を持ちこたえた。

欧州はその不均衡に悩まされている。それは単に小規模な赤字国の過失だけによるものではなく、これらの国々だけが非難されるべきではない。

二重基準では、既に弱体化している欧州の結束はぼろぼろになる。銀行の「大きすぎて破綻させられない」問題と同様に、この「大きすぎて罰金を科せられない」問題も有害だ。

 


 

東京電力は1月23日、福島第1原発構内のタンクに保管している高濃度汚染水の2014年度内の全量浄化処理を断念する方針を決め、経済産業省に伝えた。
浄化処理完了の見通しは5月中としている。

しかし、河野太郎衆議院議員によると、東電は「汚染水処理」の定義を変えており、5月中の処理完了も不可能である。

これを受け、経済産業省は2月24日、高濃度の汚染水の浄化を終える時期が2015年度中になるとの見通しを示した。
この日の自民党部会で、5月に終わるのはストロンチウムの除去であり、汚染水を十分に放射線量が低い状態まで浄化するには「6月から数カ月かかる」との見通しを示した。

2015/2/16  福島第一原発の汚染水、年度内処理断念


東京電力は3月16日、放射能汚染水について、下記の通り発表した。

 ・ 目標の5月までに「処理」しきれない分が2万トン(全体の3%)に上る。

「RO濃縮塩水の処理は、事故後、早い段階で発生した海水成分の多い汚染水約3%(約2万トン)を除き、5月末までに完了する予定。」

事故後、早い段階で発生した海水成分の多い汚染水は、
・カルシウム・マグネシウムの影響で定格流量運転ができず、時間を要することが判明。
・処理には、さらに数ヶ月を要する見込み。

 ・ (河野代議士のいう通り) 「処理水」にはストロンチウム処理をしただけのものが大量にあり(5月末で全体の31%)、
  これらは今後、ALPS処理をする。

「ALPS以外で処理をしたストロンチウム処理水については、今後、ALPSで再度浄化し、さらなるリスク低減を図る。」

* ここまでの「処理」はMETI定義の「処理」で、トリチウム以外の核種も残っている。

  ・ ALPSで処理した水のうち、過去の装置トラブル時に浄化性能が低下した際の処理水があり、再度浄化を進める。

「ALPSで処理した水のうち、過去の装置トラブル時に浄化性能が低下した際の処理水については、再度浄化を進める。」

ーーー

ALPSでは、除去不可能な トリチウムを除き、62核種が除去できるとされてきた。

ところが、当初の処理分で4核種が除去できていないという。

河野代議士の「ごまめの歯ぎしり」(2015/3/18)によると、3月10日の衆議院予算委員会第7分科会で上田エネ庁長官が、「特に早期に処理をしたものについては、コバルト60、ヨウ素129等々の一部の核種が相当程度残っているという部分がある」と説明した。

これらの水の処理をどういうふうにしていくのかということについては、東京電力とも十分今後相談していきたいとしている。

自民党の秋本代議士の質問に対するものだが、宮沢経産大臣はこのことを直前に知ったという。
ALPSに改めて通すかどうか、未定という。

 

このことは昨年(2014年)2月5日の原子力規制委員会の会議で報告されている。

東京電力の事故対策室長が次のように報告している。

多核種除去設備ですけれども、こちらにつきましては、まだ除去性能が十分に現れていない核種が4つほどあるということで、追加的な吸着塔の設置の検討をしておりまして、その性能確認のためのいろいろな試験を続けているところであります。

試験結果につきましては、来月ぐらいに出るということも報告を受けておりますので、---

その後、改良を行って62核種が全て処理できるようになったと思われる。

しかし、2014年度中に汚染水の全量浄化処理を完了するとしながら、4核種の残った処理水の扱いは1年間、放置されていたことになる。

会議では田中委員長が司会をしており、この事態は当然知っていると思われるが、処理を促した形跡はない。

 




農林水産省は3月17日、「食料・農業・農村基本計画」を公表した。

http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/H27/pdf/150317_2.pdf


次期基本計画における食料自給率目標として、カロリーベースの目標をこれまでの現在の50%から45%に下げた。

  2005年度 2010年度基本計画 次期基本計画
目標年度
(2015)
基準年度(2008) 目標年度(2020) 基準年度
(2013)
目標年度
(2025)
自給率(熱量) 45% 41% 50% 39% 45%
自給率(生産額) 76% 65% 70% 65% 73%
飼料自給率   26% 38% 26% 40%

付記 家畜の餌の自給率が2013年ベースで26%と低いため、国内産の畜産物の74%が輸入品扱いとなっている。


今回、新しく「食料自給力指標」を設定した。

国際的な食料需給の不安定が存在し、また、多くの国民が国内生産による食料供給能力の低下を危惧してい る中、平素からその時点(輸入が途切れた場合)における我が国農林水産業が有する食料の潜在生産能力を評価しておくことが重要。

「食料自給率」の場合、非食用作物(花き・花木等)が栽培されている農地が有する潜在的な食料生産能力が反映されない。

このため、我が国農林水産業が有する潜在生産能力をフルに活用することにより得られる食料の供給熱量を示す指標として、食料自給力指標(その時点における我が国の食料の潜在生産能力を評価する指標)を設定する。

食料自給力指標では、以下の4パターンで、熱量効率を最大化して作付けするケースを想定した。
いずれのケースも荒れた農地のフル活用を想定している。

 

栄養バランス

一定程度考慮 考慮せず
主要穀物(コメ、麦、大豆)中心 パターン A  パターン B
いも類を中心 パターン C パターン D


計算結果は下記の通りで、いも類中心の場合はエネルギー摂取必要量(1人・1日当たり2,147KCal)を超える。

 


パターンC、Dの場合の食事メニュー例

ーーー

しかし、食料の輸入が途切れる場合は、石油も肥料も途切れることとなり、この構想は成り立たない。
石油も肥料もないと収穫量は激減する。

膨大な作業をしているが、全く意味がなく、予算の無駄使いである。

石油がないと、耕運機もコンバインも動かせない。

国内で使用される化学肥料は、化石資源やりん鉱石、加里鉱石等の鉱物資源を原料としており、我が国はその全てを輸入に依存している。

    
 農林水産省 肥料原料の安定確保に関する論点整理

 

河野太郎代議士は2010年のブログ「ごまめの歯ぎしり」で、「始めよう、農政改革」として、以下の通り述べている。

地元のJAとの農政勉強会。

カロリーベースの食糧自給率などというまったくのデタラメを政策目標に掲げているような農政では、日本の農業は改革できないと力説する。

こんなことをしている農水省なんか潰してしまって経産省の第一次産業局にでも農政を任せる方がよっぽど農業を強くできる。

食糧自給率などというまやかしをやめ、農業生産額、農業所得、農作物の輸出を増やすことを目標に掲げ、流通やマーケティングを強化しながら農業を強くすべきだ。そのためにJAはできることを最大限にやるべきだ。
 

東京大学大学院農学生命科学研究科の川島博之准教授の著書「食料自給率の罠 輸出が日本の農業を強くする」は下記の通り論じている。

カロリーベース自給率は陰謀
  輸入食料の85%は贅沢品
で、輸入が止まっても、大きな問題ではない。

     「カロリーベースの食料自給率は、農水省が国民の危機感をあおり、税金から補助金を出させるために作り出した道具にすぎない」
    
カロリーベース自給率は、1983年から農水省が始めた日本独自の計算方法で、政府が計算しているのは日本と韓国だけ)

・食料の海外依存でも、不測の事態は起こり得ない。

   (仮に輸入が止まる場合、石油も、化学肥料のうち全量輸入のカリと燐酸も止まることとなる。)

・穀物は安く、利益を出すには規模拡大しかないが、地方の人口が多い日本では規模拡大はできない。

   日本は1戸当たり面積が米国の1/100。
   米国並みの農業にするには農家100戸を1戸にまとめることが必要だが、
     安い価格で農地を売らない。
     人口減で「村」がつぶれる。

   仮に集約できても、生活水準の高さなどから、タイなどには負ける。

   結論:自給率を高めるのは無理

・広い土地を必要としない農業は有望 
  農業における選択と集中(守るべき分野と強くする分野)

・オランダの例
  安い穀物を全量輸入、高価な農産品を輸出し、農業貿易収支で黒字。

 

2010/11/10  TPP参加と農業問題 

 

 

 



日本化学会は3月13日、第6回化学遺産として工業用アルコールの発祥、塗料工業の発祥、ナイロン工業の発祥など5件を認定したと発表した。

3月27日、日本大学理学部船橋キャンパスで開催する「第9回化学遺産市民公開講座」で紹介する。


今回認定したのは、次の5件。

(1)「早稲田大学蔵 宇田川榕菴化学関係資料」 

宇田川榕菴が遺した化学研究の足跡を示す資料群が早大図書館に所蔵されていた。

宇田川榕菴(1798-1846)は『舎密開宗』(1838~1846)を著わし、それまでこの国に知られていなかった化学という学問をはじめて体系的に紹介した。

ーーー

認定化学遺産第1号は、杏雨書屋蔵 宇田川榕菴化学関係資料である。

杏雨書屋は5代武田長兵衞氏が、関東大震災により東京で貴重な典籍が灰燼に帰したことを大いに痛嘆し、私財をもって購入した日本・中国の本草医書の文庫。
1977年武田科学振興財団当財団が継承し、本草医書を中心とする図書資料館として開館した。

榕菴がその『舎密開宗』を著わすに当って渉猟した多くの蘭書の覚書やその稿本類など、多くの貴重な資料が一括して杏雨書屋に所蔵されている。
認定化学遺産第1号は、刊行手沢本、自書稿本類、肖像画、宇田川家伝来の蘭引等、延べ50点に及ぶ。


(2)「工業用高圧油脂分解器(オートクレーブ)」

油脂化学工業の近代化は油脂の分解による高純度脂肪酸及びグリセリンの製造でスタートした。
ライオン石鹸工場(現ライオン)が所蔵する明治43年(1910年)製の高圧油脂分解器は現存する日本最古のオートクレーブ。

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ライオンは1891年10月に「小林富次郎商店」として開設され、主として石鹸の製造・販売を行った。
1896年に粉歯磨「ライオン歯磨」発売、1911年に「ライオン練歯磨」発売。

1910年に「合資会社ライオン石鹸工場」を設立した。 今回指定の化学遺産はこの時のもの。

その後の推移は下記の通り。

1918 ㈱小林商店に  
1919   ライオン石鹸 分離
1940   ライオン油脂に改称
1949 ライオン歯磨に改称  
1980 ライオン歯磨、ライオン油脂対等合併、ライオン㈱ 発足


(3)「日本の工業用アルコール産業の発祥を示す資料」

1934年に昭和酒造(現メルシャン)が無水アルコールの大規模生産を開始した。

1938年5月操業開始の国営出水アルコール工場(現日本アルコール産業)のもろみ塔は工業用アルコール産業の発祥を示す資料として貴重。

ーーー

メルシャンは現在、キリンの100%子会社。
同社の歴史は下記の通りで、原料アルコールはメルシャンの100%子会社の第一アルコールで扱っている。

1934 昭和酒造創立  
1935   川崎工場でアルコール製造開始
1949 三楽酒造に改称  
1961 日清醸造(「メルシャン」)を吸収合併  
1990 メルシャンに改称  
2006 麒麟麦酒によるTOB  
2010   第一アルコール設立
(協和発酵バイオとの原料アルコールJV )
2013   上記をメルシャン100%に


ーーー

アルコール専売事業は1937年のアルコール専売法施行によって始まった。
内外の情勢から、燃料の安定確保と地域農業の振興および化学工業の助長発展を目的に、国営事業として創設された。

大蔵省専売局所管下に専売が開始され、1938年に出水国営無水アルコール工場が竣工、1941年までに各国営アルコール工場が操業開始した。

2001年4月にアルコール専売法が廃止され、アルコール事業法が施行された。
NEDOに暫定措置として5年間を目途に一手購入機能を付与するとともに民営化のための準備を行った。

2006年4月、日本アルコール産業が発足、鹿島、千葉、磐田、出水工場を引き継いだ。


(4)「日本の塗料工業の発祥を示す資料」

塗料の国産化は1881年に日本ペイントの前身である光明社が設立されたことに始まる。
当時のボイル油製造設備などが日本ペイントに保存されていた。

ーーー

洋式塗料が日本に現れたのは1853年のペリー来航時である。

1878年、茂木春太、重次郎兄弟は日本で初めて亜鉛華(酸化亜鉛)の製造に成功、1880年に固錬り塗料を製作し、第二回内国勧業博覧会で褒章を受章した。

当時軍艦の塗料用に国産ペイントの開発を望んでいた海軍はこれに注目し、茂木兄弟の固錬り塗料製造技術を中心に、塗料油を海軍に納入していた田川謙三、光明丹という錆止め塗料を製造していた橘清太郎の三者による塗料工業の共同事業化計画を支援した。

1881年に光明社が設立され、海軍の専属塗料工場となった。

1898年、株式会社組織化し、日本ペイント製造㈱ となった。


(5)「日本のナイロン工業の発祥を示す資料」

1939年に米国デュポンが開発したナイロン繊維のインパクトが日本にも広がり、戦後東洋レーヨン(現東レ)がいち早く工業化した。
東レ所蔵の第1号ナイロン紡糸機や東レとデュポンとの技術援助契約調印式の写真などが資料として認定された。

ーーー

東洋レーヨンは1938年のデュポンの特許公告の1年後に文献トレースでナイロン66の合成と紡糸に成功した。

1941年にドイツIGのe-カプロラクタム重合体に関するイタリア特許でナイロン6の開発を決定、1943年に滋賀工場に試験プラントを建設した。

海軍から電気絶縁材料として要請され、1944年11月に工場を完成、終戦までに8トンを納入した。
(ナイロン66も検討したが、原料面、設備材料面から中止した。)

戦後、研究を再開、1951年にDuPontとナイロンに関する技術提携契約を締結した。

田代会長の判断で、当時の資本金750百万円に対し、特許料として1,080百万円を支払った。

デュポンからは特許権のみ購入、ノウハウは自社開発した。(技術裏付けあり) 

また、DuPontがナイロン66、東レはナイロン6 と異なることを承知の上で特許権を購入した。
(物質特許の重要性、製品輸出時の特許係争を予想したもの)

1951年に名古屋にカプロラクタム合成設備、愛知にフィラメント重合・紡糸設備 を建設した。

  (栂野棟彦 「昭和を彩った日本の石油化学工業」から)




過去に認定された化学遺産は下記の通り。

 
2010/3/18
 
  化学遺産認定
第1号  杏雨書屋蔵 宇田川榕菴化学関係資料
第2号  上中啓三 アドレナリン実験ノート
第3号  具留多味酸(グルタミン酸) 試料
第4号  ルブラン法炭酸ソーダ製造装置塩酸吸収塔
第5号  ビスコース法レーヨン工業の発祥を示す資料
第6号  カザレー式アンモニア合成装置および関連資料
2011/3/17 
   
化学遺産、第二回認定
第7号   日本最初の化学講義録 朋百舎密書(ポンペせいみしょ)
第8号   「化学新書」など日本学士院蔵 川本幸民化学関係資料
第9号   「日本のセルロイド工業の発祥を示す建物および資料」
第10号  日本の板硝子(ガラス)工業の発祥を示す資料
2012/3/17 
    化学遺産、第三回認定
第11号  眞島利行ウルシオール研究関連資料
第12号  田丸節郎資料(写真および書簡類)
第13号  鈴木梅太郎ビタミンB1発見関係資料
第14号  日本の合成染料工業発祥に関するベンゼン精製装置
第15号  日本初期の塩化ビニル樹脂成形加工品
第16号  日本のビニロン工業の発祥を示す資料
第17号  日本のセメント産業の発祥を示す資料
2013/3/21 
    化学遺産、第四回認定
第18号  小川正孝のニッポニウム発見:明治日本の化学の曙
第19号  女性化学者のさきがけ、黒田チカの天然色素研究関連資料
第20号  フィッシャー・トロプシュ法による人造石油に関わる資料
第21号  国産技術によるアンモニア合成(東工試法)の開発とその企業化に関する資料
第22号  日本における塩素酸カリウム電解工業の発祥を示す資料
2014/3/20  
 第5回化学遺産認定
第23号 日本の近代化学の礎を築いた櫻井錠二に関する資料
第24号 エフェドリンの発見および女子教育に貢献のあった長井長義関連資料
第25号 旧第五高等学校化学実験場および旧第四高等学校物理化学教室
第26号 化学技術者の先駆け 宇都宮三郎資料
第27号 日本のプラスチック産業の発展を支えたIsoma射出成形機及び金型
第28号 日本初のアルミニウム生産の工業化に関わる資料


カナダの製薬大手Valeant Pharmaceuticals International は2月22日、米同業Salix Pharmaceuticals1株当たり158ドル、総額101億ドルの現金で全株を買い取ることで合意したと発表した。
借入金込みで145億ドルとなる。

2015/2/28 Valeant Pharmaceuticals、米同業Salix Pharmaceuticalsを買収

しかし、アイルランドの医薬会社Endo International plcが3月11日、Salix Pharmaceuticalsに対して1株当たり175ドル、総額112億ドルの現金と株式での買収提案のレターを送った。

Salix の1株について、Endoの株式 1.4607株(時価 130ドル)と現金45ドルを払うというもの。
買収が成功すれば、Salix株主は新統合会社の株の約40%を保有することとなる。

買収が成功すれば、Salix株主はValeant の買収と比較して11%のプレミアムを得ることとなるとともに、将来が期待できるスペシャルティ医薬でのグローバルリーダー企業に参加することとなるとしている。

これに対しValeant は、Endo提案が現金+株式であるのに対し、同社の提案は全額現金であり、Salix 株主に確実な価値を直ちにもたらすもの としている。

Endoの提案が受け入れられる保証はないが、買収できた場合はValeantに違約金 356百万ドルを支払う必要がある。

Endo が買収する場合は、Valeant は狙った2社 Allergan とSalix をともに獲得できないこととなる。

付記

Valeant Pharmaceuticals は3月16日、新しい条件での買収で Salix Pharmaceuticals と合意した。
1株当たり158ドル
173ドル、総額101億ドル→111億ドルの現金で全株を買い取る 。(負債込みで158億ドル)

Endo International は買収提案を取り下げた。

ーーーーーーーーーー

2014/10/22 米製薬会社 Allergan を巡る買収合戦

ーーー

Endo International plc はアイルランドの製薬会社で、DuPont とMerckのJVであった DuPont Merckから分離した。下記の歴史を持つ。

DuPontが1969年にEndo Laboratories を買収して血液溶剤Coumadin(R) を上市

1991年にMerck との50/50JVのDuPont Merck Pharmaceutical を設立

1997年に3人の役員がEndo Laboratories のジェネリック製品を買収してEndo Pharmaceuticals Inc. を設立(Management Buyout)

DuPont は翌1998年にDuPont Merck Pharmaceutical のMerck持分を買収し、DuPont Pharmaceuticals と改称

2001年、DuPontは世界の事業の構造改革を実施した。
 2001年4月 ポリエステルおよびナイロン工場の閉鎖を発表、3カ月後にはポリエステル事業の一部を売却。
 2001年6月、
DuPont Pharmaceuticals をBristol-Myers Squibbに売却 。

Endoは1999年にAlgos Pharmaceutical Corporation を買収・統合し、上場した。

2014年2月にカナダのスペシャルティ医薬会社 Paladin Labs を買収・統合し、Endo International plc と改称、主に米国で事業展開するが、本社をアイルランドに置いた。

同社は2014年10月、米国のAuxilium Pharmaceuticals Inc の買収で合意した。
現金と株式の組み合わせで約26億ドルを支払う。(前月に22億ドルでの買収を持ちかけたが、拒否されていた。)

Auxilium Pharmaceuticals Inc は法人税の低い国に本社を移転して節税する「inversion」を目指し、カナダの眼科薬メーカー QLT Inc と合併する計画であった。
しかし、Endoの提案を受け入れ、QLTには2840万ドルの違約金を支払った。

EndoとAuxilium は事業統合で、年間約1億7500万ドルのコスト削減効果を見込む。

ーーー

Salixの買収を争うEndo とValeantのCEO は師弟関係にあった。
EndoのCEOのRajiv de Silva と Valeant CEO のMichael Pearson は以前はともにMcKinsey & Co.のコンサルタントで、Valeantでは de SilvaはPearson CEO の直属の部下であった。

de Silvaは2013年にEndo の経営のため、Valeant を離れた。

Endoでは Valeant のやり方を真似し、好ましくない事業を売却し、買収に当たってはリスクのある初期段階の医薬品に投資するのではなく、皮膚薬のように実績のある儲かる事業を買収している。しかしValeant とは異なり、開発後期の医薬品にも投資を行っている。




 
中国の国家統計局は3月11日、本年1~2月の主要経済統計を発表した。
中国の統計は旧正月連休の時期が年によって異なるため、1~2月を合算する。


それによると、生産、消費、投資、消費の伸び率が軒並み鈍化している。

鉱工業生産は前年同期比 6.8%増で、リーマンショックの影響で生産が落ち込んだ2009年1~2月以来、6年ぶりの低水準だった。

消費の強さを示す小売り売上高も10.7%増で、9年ぶりの低い伸びとなった。

固定資産投資は前年同期比で13.9%の増にとどまった。(毎月は年初からの累計)
民間投資、不動産開発投資も伸びが鈍化している。

 

既に発表された統計でも同じである。

2月の生産者物価指数(PPI) は 国内の需要の弱まりを反映し、前年比マイナス4.8%で、5年4カ月ぶりの下落幅となった。

消費者物価指数(CPI) の上昇率も2月は1.4%にとどまった。

政府はCPIの目標を昨年は3.5%としていたが、2015年については「3%前後」に引き下げた。

 


政府は経済成長目標を、過去3年の7.5%から今年は7%に引き下げた。


政府は「量」から「質」への「新常態」(ニューノーマル)への移行を目指すが、これ以上の停滞は避けたい。

中国人民銀行は2月5日から預金準備率を引き下げ、3月1日からは基準金利を引き下げた。
 (人民銀行総裁は3月12日、
2014年11月に基準金利の1.2倍に引き上げ、今回さらに1.3倍に引き上げた預金金利上限を「年内になくす可能性が非常に高い」と述べた。)

市場では更なる金融緩和を求める声が出ている。


また中国人民銀行は本年初めから、毎日発表する人民元の基準値を元安方向に設定しているが、変動幅2%の下限に張り付いている。

 

最近になって、米国企業に「ドル高」の悪影響が出始めており、また中国叩きが起こる可能性がある。


 

付記 

中国人民銀行(中央銀行)が3月17日以降、断続的に人民元買い・ドル売り介入、基準値も引き上げ 
過度な元安が中国からの資本流出につながることを懸念したとされる。




英財務省は3月12日、中国が設立を主導する国際金融機関アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank:AIIB)に参加する方針を発表した。G7からの参加は英国が初めて。

AIIBは中国が年内設立を目指しており、中国政府は3月6日、27か国が参加する見通しを明らかにしていた。楼継偉財政相は、「AIIBは中国が提唱した区域的で開放的かつ多国的な開発機構である。区域内で優先的に創始メンバーを募集するが、開放的でもあり、区域外の国家の加入も歓迎する」と述べた。

3月31日までに参加する国は創始国になるとしており、英国は創始国メンバーになる。

アメリカや日本は、世界銀行やアジア開発銀行など、既存の国際金融体制を揺るがしかねないとして、中国の動きに距離を置いている。

ホワイトハウスは、「英国独自の判断」としながらも、「いかなる国際金融機関も世銀の高い融資基準を備えるべきであり、AIIBがそれに合致するか懸念している」との声明を出し、米政府は引き続き距離を置く姿勢を示した。

麻生太郎財務相も、「誰がどうやって審査するのか分からず、いろんな問題がいっぱいある」と述べ、審査基準の不透明さや融資が焦げ付いた場合のリスクなどへの懸念を示した。

これに対し、訪日中の世界銀行のKim総裁は、「政治的な議論があることは認識しているが、新たな銀行の参入を歓迎する」と述べ、設立を評価する考えを示した。
そのうえで、「新興国や低所得国には、電力を使えない人や必要な衛生サービスを受けることができない人が多くいる」と述べ、新興国などでのインフラ需要は膨大で、開発支援を行う組織が増えることは望ましいという認識を示した。

訪日中のフランスの外相は3月14日、「どういう形で参加できるか検討中」と話し、加盟を検討していることを明らかにした。
「アジアのインフラ整備に金融機関が動くことには反対しない。現存のアジア開発銀行に影響はない」としつつ、「ただし、その仕組みは国際ルールにのっとったものでなくてはならない」と指摘した。

豪州の財務相も、参加するかどうかを検討すると明らかにした。但し、豪州政府内では、財務相らと、米国に配慮し参加に慎重なアボット首相らの間で意見が割れているとされる。

付記

ドイツのショイブレ財務相は3月17日、ドイツとフランス、イタリアの3カ国がAIIBに創設メンバーとして参加する意向であることを明らかにした。

ショイブレ財務相は中国の馬凱・副首相との共同声明で、「われわれは長らく国際金融機関に関わってきた経験を生かし、新たな銀行が国際的に高く評価されるよう、優れた基準を打ち立て設立に貢献することを望む」と述べた。

その後、下記の参加が続く。
3月19日 ルクセンブルグ、3月20日 スイス。

合計33カ国となる。
内訳は、アジアが中国とASEAN全10カ国+7カ国 の合計18カ国、中央アジアが3カ国、中東が5カ国、欧州が6カ国及びニュージーランド。

ーーー

中国を中心としたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設準備の了解覚書は2014年10月24日に調印された。

アジア各国のインフラ整備を支援するAIIB設立構想は2013年10月、習主席が東南アジアを歴訪した際に表明した。日本主導のアジア開発銀行(ADB)に対抗するためとみられた。

当初は、ASEAN 10カ国のほか、韓国などの計16カ国が参加するとされた。中国との国境紛争を抱えるインドなどは交渉に加わっていなかった。

最終的に了解覚書に署名したのは、中国、ASEAN 10カ国と、インド、バングラデシュ、モンゴル、パキスタン、スリランカ、ネパール 、カザフスタン、ウズベキスタンと、アラブ圏のクウェート、オマーン、カタールの計22カ国となった。韓国は現時点では入らず、逆にインドが参加を決めた。

中国は韓国に対し、参加を要請、韓国政府は2015年前半には参加するかどうかについて決定する 。

米国はアジアインフラ投資銀行は国際金融秩序に適合しないと批判、参加を検討する韓国に慎重に検討するよう呼び掛けているとされる。

当初中国の出資比率50%に不満を表したインドは、加盟国間の対話で支配構造を調整することができるという中国の意思を確認し、参加を決めた。

豪財務相は、「AIIB参加を前向きに検討中で、創設準備の了解覚書に署名するだろう」としていたが、署名していない。

その後、2014年中にモルディブが参加、2015年に入り、ヨルダン、サウジアラビア、タジキスタン、更にニュージーランドが参加、合計27カ国となっている。

法定資本金は1000億ドルだが、 当初の資本金は500億ドル規模で、ADB (1650億ドル)の1/3となる。

2014/11/13 中国のシルクロード経済圏構想 

 

現在参加を決めている27カ国は下記の通り。英国の参加で28カ国となる。
内訳は、
アジアが中国とASEAN全10カ国+7カ国、中央アジアが3カ国、中東が5カ国に、ニュージーランドと英国。

 

これに、フランス、韓国、豪州が加わるとすると、日本も参加を考えた方がよいのではなかろうか。

 




一橋大 森口千晶教授によると、日本の所得上位10%は580万円以上、5%は750万円以上、1%は1270万円以上という。

2015/3/12  日本の所得上位10% 


この根拠が分かった。

元資料は、教授と Emmanuel Saez との共同論文の The evolution of income concentration in Japan, 1886-2002 である。

論文の後にTable 2 "Thresholds and Average Incomes for Top Income Groups in 2002" がある。

20歳以上を対象とし、所得は税務申告のグロスの所得で、所得税控除前だが、キャピタルゲインは除いている。
2002年のドルで表示されており、換算レートは125円としている。

税務所得の階層別の表をつくり、 Pareto interpolation を使って計算したとしている。
別統計から得た、2002年の20歳以上の人口 102,139千人、平均所得252万円を使用した。

下の表は森口教授の表をもとに、ブログ筆者が作り直したものである。

 

最低所得(1$=125円)

対象人数 平均所得(1$=125円) 合計所得(兆円) 累計の
シェア
グループ 累計
上位0.01% $648,543 8107万円 10千人 $1,174,672 14683万円 1.5 1.5 0.6%
0.01~0.1% $264,372 3305万円 92千人 $352,165 4402万円 4.0 5.5 2.1%
0.1~0.5% $137,412 1718万円 409千人 $175,391 2192万円 9.0 14.5 5.6%
0.5~1% $109,649 1371万円 511千人 $121,291 1516万円 7.7 22.2 8.6%
1~5% $  65,672 821万円 4,086千人 $80,346 1004万円 41.0 63.3 24.6%
5~10% $  50,748 634万円 5,107千人 $57,666 721万円 36.8 100.1 38.9%

上位10%合計

    10,214千人          

全体

    102,139千人 $20,152 252万円   257.4 100%


数字から推測すると、中央公論での金額は、1ドル=114円で計算しているが、これはおかしい。
(元々は円で計算したものを、125円でドル換算している)

1ドル=125円で計算すると、上位10%は635万円以上、5%は820万円以上、1%は1370万円以上となる。

さきの厚労省の資料は所帯で計算しているのに対し、この資料は20歳以上の全人口で計算している。

働いていない主婦など、所得の無い人を含めた102百万人を順に並べ、10.2百万人目の人の所得が634万円(580万円ではなく)であるということであり、 所得のある人の中での所得上位10%とは異なる。

 

付記

人数 x 平均所得で計算すると、総合計が257.4兆円、上位10%合計が100.1兆円で、比率は38.9%となり、ピケティの言うとおり、「日本の所得上位10%の得た収入が国民所得に占めるシェアが40%近くまで上昇している」。

ーーー

森口教授が2015/2/11付 日本経済新聞に「格差を考える 戦後日本、富の集中度低く」を書いている。

成人人口の上位0.1%の高額所得者を「超富裕層」と呼び、「上位0.1%シェア」の推移をみている。

ここで所得とは課税および公的移転前の市場所得を指す。キャピタルゲインは、実現時のみの一時的な所得で取得者の変動も激しいため通常は除くが、図にはそれを含めた系列も示すとしている。





上海市工商行政管理局は3月9日、P&GのCrest ホワイトニング歯磨き粉(双効炫白牙膏)に対し、広告に虚偽の内容が含まれていたことを理由として603 万元(約1億1700万円)の罰金を言い渡した。

虚偽の違法広告に対する罰金額としては、国内では過去最高額になる。

「Crestのホワイトニング歯磨き粉を使えば、たった一日で歯が白くなります」 (使用佳洁士双效炫白牙膏,只需一天,牙齿真的白了。)
 
 
台湾のタレント 徐煕娣愛称 "Xiao S":小S、姉の徐煕媛は"Da S":大S と呼ばれるが鏡の前でにっこり笑うと白い歯がこぼれる。


同局の調査によると、画面の中で強調された美白効果は、実はコンピューターの画像処理ソフトによるもので、歯が実際に真っ白になったわけではないという。
国が施行する『効果型歯磨き粉の基準』に基づけば、効果作用の検証報告を出さなければ効果を宣伝することはできないとなっている。

このため、この広告には虚偽の内容が含まれているとして、同局はメーカーに罰金603万元を言い渡した。
罰金額は、広告法に基づき、広告費用に対し一定の割合をかけて算出したもの。

同局の局長は、「広告で画像編集ソフトを使用するのは理解できるが、技術を過剰に使用すれば、規定に違反することになる。広告は真実を伝えることを原則とする。
たとえば自動車の広告にフォトショップを使用して青空や白い雲を背景として入れるのは問題ないが、日用品の広告で対象物の実際の効果を捏造したなら、法的な代償をそれなりに支払わなければならなくなる」と述べた。


P&Gは9日、当該広告を昨年半ばに取り止めた、美白効果はあるとのみ発表し、罰金については述べていない。

ーーー

中国では「消費者権益保護法」(1994年1月1日施行)が改正され、2014年3月15日から施行された。

主な改正は次の通り。

・リコールなどの義務化
・7日以内の返品が可能に (「三包」(包修:修理、包換:交換、包退:返品)規定の拡大)
・通販のクーリングオフ
・個人情報保護の義務化
・行政による抜取り検査、検査結果の公開の義務化
・ネット取引プラットフォーム提供者の義務
・罰則の強化(代金の「3倍返し」、懲罰性賠償額の明確化など)
 

「中国消費者の日」にあたる2014年3月15日、中国中央テレビ(CCTV)は、毎年恒例の消費者保護番組で、「ニコンのデジタルカメラには欠陥がある」と批判した。
デジタル一眼レフカメラ「D600」で撮影した画像に黒い斑点が写り込むなどの不具合が多発し、部品交換などの保証対応も不十分だとした。

上海市の工商局は3月16日、ニコンに対し「D600」の中国国内での販売停止を命じた。

ニコン中国法人は正式な謝罪を行うとともに、D600の利用者に無償で点検とクリーニングサービスを提供すると発表した。問題が解決されない場合は、新しいものと交換する。





 

付記

3月15日夜、中国中央テレビ(CCTV)は「3.15晩会」を放映した。
  
http://315.cntv.cn/special/2015/shipin/index.shtml

本年も外国企業、内国企業の多くの問題が取り上げられたが、トップは自動車会社である。

1) 東風日産、上海VW、ベンツなど各ディーラーの内情暴露

東風日産、上海VW、ベンツなどの自動車のディーラーが、小さな故障でも大げさな修理を行って暴利をむさぼっているなどの問題が暴露され た。

東風日産の場合は取材班が故意にプラグを外して持ち込むと、部品の交換が必要だとして法外な修理費を要求されたという。
単純な故障が起きたベンツ(イグニション・コイルとスパークプラグの不具合だったが、システムを再起動すれば正常に戻る問題)をオーナーがディーラーに持ち込んだところ、点火プラグなど各種部品の分解修理が必要だと言われ、修理代が1万元近くかかった。

2) 多発するランドローバーのATF不都合

同番組によると、全国で数えきれないほど多くのオーナーが、ランドローバーのATFに不都合が生じ、路上で走行中に突然停止する、あるいはバックギアが故障するという事態に見舞われた。これは、ATFの故障によるものとみられるが、オーナーの中には、ATFを2回交換しても、やはり故障が起きると指摘する人もいる。

3) 山東魯深発化工など中国企業のガソリンへの違法物質混入

ガソリンの生産コストを下げるため、毒性のある違法物質を混入

その他、中国移動通信、中国鉄通などが顧客情報を他社に違法転売している疑いや、中国銀行、中国工商銀行、中国農業銀行がニセ身分証明証でも安易に銀行カードを発行(管理体制)、偽物・不合格品・問題食品など。

東風日産は直ちに、「弊社は取り上げられた問題を重視し、調査チームをすぐに立ち上げ、調査に乗り出した。今後は、カスタマーサービスに対する監督を強化し、同じような問題の再発防止に取り組む。今回の調査が進み詳細が明らかになれば、社会各界と多くの弊社ユーザーに公表して、意思疎通を図る」とコメントした。


 



以前に、NHKBS世界のドキュメンタリー 「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」について報告した。

2011/8/8  「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」


3月9日深夜のBS世界のドキュメンタリーシェールガス開発がもたらすもの」を見た。今も同じ状態であることが分かる。
    
    NHKホームページから
シェールガス開発が進む南アフリカ。より環境への負担が少ないとされるが、疑問を持ったディレクターがアメリカの採掘現場へ飛ぶ。その取材からは厳しい現実が見えてくる。

南アフリカの南部ではシェールガス開発が計画され、住民は経済発展と雇用創出に期待を寄せている。しかし地元で育ったディレクターのミナーは、シェールガス採掘で被害を受けたというアメリカ人とのネットでのやりとりをきっかけに、環境への影響を危惧するようになる。開発は南アフリカの自然と人々の暮らしに何をもたらすのか。真実を確かめるため、"シェールガス革命"に沸くアメリカへ向かう。彼女が目の当たりにしたのは...。


  • 原題:UNEARTHED
  • 制作:Stage 5 Films / Zootie Studios (南アフリカ 2014年)

再放送 3月17日 火曜 午後6時00分~6時50分)


南アの
Karoo 地区でShellによるシェールガス開発が計画される。

この地区で生まれた女性ディレクターのJolynn Minnaar は最初は楽観的だった。
Shellは水圧破砕法(fracking ) は安全であり、60年の実績があり、貧しいKaroo地区に繁栄をもたらすと説明した。

しかし、シェールガス採掘で被害を受けたというアメリカ人とのやり取りで現地視察を決めた。18ヶ月にわたり調査を行い、400人以上にインタビューした。

現地でいろいろの問題を知る。
 水溜りでブクブク出るガスを集めると火がつく。水道水が燃える。
   真っ黒な井戸水(EPAは色が着いているだけで害はないとする)。

連絡してきたアメリカ人は会うのを拒否、その後もインタビュー拒否が続く。

学者などから以下のことを知る。

 ・ 「60年の実績」は嘘。1980年代までの技術と今使われている技術(1990年以降)は全く異なる。

 ・「Frackingは安全」という言葉に注意が必要。
  業者が安全と言っている「fracking」は水平抗での水圧破砕そのもののこと。

  危険なのはその部分でなく、掘削井戸の地表周辺。
  膨大な水、化学品、砂などを使用する。
       化学品そのものに危険なものがあり、地中の物質と反応して発がん性を生むものもある。

  井戸掘削でセメント処理がうまくいかないと、汚染水やガスが漏れる。
  掘削済みの古い井戸は監視されていない。

 ・ 業者は問題が発生するとすぐに被害者と交渉し、被害を補償する。
  そのときに「相互秘密保持契約」を締結するため、被害者は被害について官庁も含め、外部に漏らすことは出来ない。
  
  これが実際に問題があるのに、「問題は一切ない」と公表されている理由であり、取材拒否の理由である。
 

南ア政府は計画を進めることを決めた。

彼女は帰国し、現地シェルの社長にインタビューする。

社長はシェルでは水圧破砕で環境に影響を与えたことは一切ないと断言した。

彼女が、ペンシルベニア州でのシェルによる掘削でメタンが井戸水に混入した事例(官庁もシェルも認めた)があり、他にも、シェルだけでなく他社にも同様の事例が多く起こっている、秘密保持契約で明らかにされないだけではないかと伝えると、社長は開き直って言った。

言葉を慎重に選んで話している。「水圧破砕」と井戸水の汚染に直接の因果関係がある事例はない。一般的な掘削作業については記録された汚染は勿論たくさんある。

 

ドキュメンタリー "Unearthed" のホームページは http://www.un-earthed.com/


 



2015年4月号の中央公論の特集は「ピケティの罠~日本で米国流格差を論じる愚」で、ピケティの指摘は、本当にそのまま日本にも当てはまるのかとの疑問からスタートしたという。

同社のホームページの「編集長から」は以下のとおり述べている。

来日したピケティは、日本の所得上位10%の得た収入が国民所得に占めるシェアが40%近くまで上昇していることを指摘し、日本の格差拡大に警鐘を鳴らしました。
それでは、日本の所得上位10%って、どれくらいの年収なのでしょうか。

ピケティのデータ収集を日本で唯一手伝った(一橋大教授)森口千晶さんが、(阪大教授)大竹文雄さんとの対談で明かしてくれました。
答えは「年収580万円以上」。

「そんなに低いの?」と驚いた方も多いのではないでしょうか。

ちなみに、米国の上位 10%は「年収1335万円以上」(1ドル=119円換算)。

こうした実態をどうみるのか。猪木武徳、竹森俊平、原田泰らの各氏が様々な視点を示し、最後にピケティが「みなさんの疑問に答えましょう」で解説します。ビジネスマン必読です。

記事で、森口教授が、「日本では所得上位 5%~10%の層が増えている」と述べたのに対し、大竹教授が「800万~1000万円の層ですか」と質問。
それに対し、森口教授は、「もっと低い。所得上位10%は580万円以上、5%は750万円以上、1%は1270万円
以上ですから  (580万~750万円の層となる)」と答えている。

計算は税務統計によると思われる。

ーーー

しかし、どう考えても所得580万円で上位10%に入るとは思えない。

厚労省が「国民生活基礎調査の概況」を発表している。

平成24年分は2013年7月発表で、東日本大震災の影響で福島県を除外している。

  http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa12/dl/12.pdf

それによると、所得金額別の所帯数の割合は下記の通り。(別グラフから筆者作成)

平均所得は5,482千円、中央値は4,320千円となっている。

所得1000万円未満が全体の88.4%、1100万円未満が91.3%となっており、上位10%以上は1000万円強以上の人である。
また1300万円未満が94.7%となっており、上位5%以上は1300万円超である。

所得2000万円以上が1.3%もある。(森口教授は、1%は1270万円以上とするが)

所得が600万円未満の人は、上位33.6%より下である。

ーーー


対比すると次のようになる。

  森口教授 厚労省
上位1% 1270万円以上 2000万円超
上位5% 750万円以上 1300万円超
上位10% 580万円以上 1000万円超

実感からしても、森口教授の数値は低すぎると思われる。

 

付記 2015/3/14の記事で補足


米司法省は3月10日、日本郵船の幹部 S. T. 氏が海上貨物輸送に関するカルテルを認め、15ケ月の禁錮刑と罰金2万ドルが言い渡されたと発表した。
海上貨物輸送カルテルで3人目となる。

米国の独禁法 Sherman Act 違反では、個人の最高刑は禁固10年、罰金100万ドルとなっている。
(犯罪から得られた利益、犯罪により失われた損失の2倍まで増額される可能性もある)

司法省では、「調査は完了からは程遠い。違法な反競争手段で利益を得た企業、個人を更に追求する」と述べている。


日本の公取委は2014年3月18日、自動車運送業務を行う船舶運航事業者に対し、独禁法違反行為を行っていたとして、排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。

2014/3/22  公取委、自動車運送の船舶運航事業者に課徴金納付命令 

米国も米国発、米国着の乗用車・トラックなどの roll-on, roll-off cargo の輸送のカルテルの調査を行った。
これまで摘発されたのは下記の通りとなる。

 企業    個人
会社名

罰金
(百万$)

決定日   個人名 禁固刑 罰金 決定日
Compañía Sud Americana de Vapores S.A.(チリ) 8.9 2014/2          
川崎汽船 67.7 2014/9   H. T. 1年6ヶ月 2万ドル 2015/1
T. Y. 14ケ月 2万ドル 2015/2
日本郵船 59.4 2014/12   S. T. 15ケ月 2万ドル 2015/3


米国で日本人がカルテルで禁固刑となったのは、これで33名となる。

2004年 ソルビン酸カルテル ダイセル 1名
2008年 マリンホースカルテル ブリヂストン 1名
2011年~ 自動車部品カルテル  13社 28名(うち外国企業の日本人1名)
 他に日本企業の米人1名
  
 他に起訴段階 21名
 自動車部品カルテルでの摘発 合計 50名
2015年 海上貨物輸送カルテル 3


一覧表  2014/11/19 米国、自動車部品カルテルの摘発続く (追加分 付記)

     


Exxon Mobil のCEO Rex W. Tillerson は3月4日、アナリスト説明会で、グローバルに原油の供給が続くこと、経済成長が低いことから、今後2年は原油の低価格が続くと述べた。

同社の2017年までの事業計画では、原油価格を1バレル55ドルとしていることを明らかにした。

供給は十分にあり、原油価格は下落しているが、そのなかでもExxon自身も能力を増加させる。

ExxonMobilは次の3年間で16件の大きな油田・ガス開発計画をスタートさせ、同社の原油換算生産量を2014年の日量400万バレルから430万バレルに増やす計画である。

先ず、2015年にはメキシコ湾の Hadrian South、カナダのKearl 拡張、インドネシアのBanyu Urip、ナイジェリアの深海油田Erhaの拡張、アンゴラのKizombaなど、7つの大プロジェクトがスタートし、日量410万バレルとなる。

2016 - 17年には、豪州の Gorgon Jansz、東カナダの Hebron、UAEのUpper Zakum拡張計画、極東ロシアのOdoptuなどの生産が始まる。

地政学的混乱により予想外の価格アップはありうるが、緊張が緩和されるとさらに多くの原油が市場に出回るだろうと述べた。

同社の投資額は2015年は340億ドルで2014年より12%少なく、2016 - 2017年は平均して340億ドル以下となるが、これは投資案件が減るためではなく、原油価格の値下がりによる資材・サービス・建設のコストの値下がりによるものである。

同社の下流部門、石油化学部門の事業も原油価格値下がりの下でも堅調である。

ーーー

BPのCEO Bob Dudley も最近の投資家との会合で「あんなに大量の在庫があると、原油価格値上がりには時間がかかる」との発言をしている。

世界中で進行する石油開発、需要の低調な伸び、大量の在庫がこの数年は原油価格を抑えるとの見方が業界で増えている。

米エネルギー省は3月4日、米国の原油在庫(戦略石油備蓄を除く)が前週から103.百万バレル増加し、444.4百万バレルと80年間で最高レベルになったと発表した。
 




 





中東4カ国を歴訪中の韓国の朴槿恵大統領は3月3日、2番目の訪問国のサウジアラビアでサルマン新国王と会談し、韓国製の中小型原子炉「SMART」 2基のサウジでの建設・試験運用と、第三国への共同輸出を推進する内容の了解覚書を締結した。

韓国が開発した中小型の出力10万kw のSMART (System-integrated Modular Advanced Reactor) は発電や海水の淡水化など多目的に活用でき、冷却水の代わりに空気で原子炉を冷却できるため、内陸地域での建設も可能。SMART 2基の事業費は20億ドル。

電力生産と同時に4万トンの海水を淡水化でき、1基で人口10万人の都市に電力と水を供給できる。
発電コストは大型原発に比べると高いが、天然ガスや石油と比較すると十分競争力があるとしている。

両国は共同投資で2018年まで事前検討を実施した上で、スマート原子力発電所2カ所をモデルとして建設し、共同で第三国への輸出に取り組む。

また、首脳会談を機に両国は経済分野で14件の了解覚書を締結した。

ーーー

出力10万kw級(一般の原発の1/10) のSMARTは、韓国原子力研究院が中東など水不足の国家に輸出するために開発した。1997年に開発に着手し、15年間で完了、計3100億ウォン(約2200億円)の研究費が投資された。

韓国の原子力安全委員会は2012年7月、韓国原子力研究院と韓国電力を主軸とするKEPCOコンソーシアムが申請した中小型原子炉SMARTの標準設計を認可した。

韓国原子力研究院長は「スマート原子炉は冷却モーターへの外部電気が完全に途絶えても、20日以上は重力によって自動で冷却水が供給されるなど、安全と経済性を兼ね備えている」としている。

現在、カザフスタン、エジプト、リビアなど約20カ国がスマート原子炉に関心を見せているという。


SMARTの概要は 
http://www.davidpublishing.com/davidpublishing/Upfile/2/24/2014/2014022406472820.pdf

冷却材ポンプや蒸気発生器などの主要設備を、圧力容器の中に全て格納しており、これにより、安全性を飛躍的に向上させたとされる。

安全システム

 
 


    

AbbVie は3月4日、同業のPharmacyclics Inc を210億ドルで買収することで合意したと発表した。
買収は58%が現金、42%がAbbVieの普通株式で行われ、Pharmacyclicsの株主は現金、株式、その組み合わせの選択が出来る。

これにより、AbbVie はPharmacyclicsの血液癌治療薬 Imbruvica ®(一般名:ibrutinib)を手に入れる。
Pharmacyclicsはこれ以外に3つの候補薬を持つ。

AbbVieは
世界ナンバー1のブロックバスターの関節リウマチ薬Humira ®に依存している (2014年の総売上高の60%を占める) が、2016年の特許切れにより2017年頃から販売の減少が予想されており、今回の買収で癌分野へパイプラインを広げ、これに備える。

ーーー

AbbVie Inc.は米国の製薬会社で、2013年初めに、米Abbott Laboratoriesからスピンオフして誕生した。

同社はアイルランドの製薬大手Shire Pharmaceuticalsに買収提案をしていたが、Shireは2014年7月、買収で合意した。

AbbVieはShireの取締役会に現金と株式を組み合わせた買収案を3度提示したが、Shireの取締役会は安すぎるとして拒否した。
最終的に買収金額は従来の総額約270億ポンドから約310億ポンドに引き上げられた。

しかし、AbbVie は2014年10月15日、Shire Pharmaceuticals 買収を撤回すると発表した。
米政府が9月22日に節税目的の本社移転の
抑制を狙った新規則を発表したため、国外に会社を設立することを含む買収効果が不透明になったと判断した。

2014/10/20 買収・合併による節税目的の海外移転禁止の動き強まる    

ーーー

Imbruvica®は慢性リンパ性白血病など3種の血液癌の治療薬として2013年にFDAに承認されたブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤 で、FDAが「画期的治療薬:Breakthrough Therapy」に指定している。現在、40カ国以上で承認されている。

ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)とよばれるタンパク質はシグナル伝達分子で、腫瘍化Bリンパ球の生存と転移において重要な役割を果たす複合体のシグナルを伝達する。
Ibrutinib
は腫瘍化Bリンパ球に対し増殖および転移を指令するシグナルを阻害する。

Ibrutinib は、Johnson and JohnsonグループのJanssen Pharmaceutical の子会社 Cilag GmbH International とPharmacyclics Switzerland GmbHにより共同開発された。

Janssen Pharmaceutical の関連会社が欧州、中東、アフリカおよび米国以外のその他の地域で販売し、米国ではPharmacyclics とJanssen Pharmaceutical が共同販売している。

Imbruvica®はPharmacyclics の登録商標。

Pharmacyclicsについては、この関連で Johnson and Johnsonが買収寸前であると見られており、他にNovartis も関心を示していた。

Ibrutinib の権利の半分を持つJohnson and Johnsonは、残り半分の権利を法外な価格で買うことを辞退したとされる。
2011年にその権利を獲得したときの価格は10億ドル未満で、AbbVie の買値の210億ドルは余りにも高過ぎると考えた模様。

ーーー

製薬会社の買収が続いている。

Pfizer は2月5日、同業の米 Hospira, Inc.を170億ドルで買収する契約を締結したと発表した。

2015/2/11   Pfizer、米製薬会社 Hospira, Inc. を買収 

カナダの製薬大手Valeant Pharmaceuticals International は2月22日、米同業Salix Pharmaceuticalsを借入金込みで145億ドルで買収することで合意したと発表した。

2015/2/28 Valeant Pharmaceuticals、米同業Salix Pharmaceuticalsを買収    


今回の案件で年初来の約2ヶ月で米製薬会社によるM&Aの総額は542億ドルに達した。
これは1995年以降で買収総額が最も大きかった2014年のM&Aの4分の1以上である。


 

 
   

オリンパスは3月6日、「米国における十二指腸内視鏡に関する報道等について」との発表を行った。

米国の一部報道機関において、2010年に十二指腸内視鏡を米国で販売するにあたり、FDAの認可を得ずに行っているとの報道がされている。

米国法では、過去にFDA認可を得た製品と同等の製品を販売する場合、過去の製品と同等であることを製造業者が文書化することにより、FDAの新たな認可を得ること無くこれを販売することができ、同社はこの規定に従って当該十二指腸内視鏡を販売している。

 

同社は全く触れていないが、報道はもっと大きな事件の報道の一部として行われたものである。また、同社はFDAの要請を受け、認可申請をしたという。

Los AngelesのRonald Reagan UCLA Medical Center は2月18日患者7人が抗生物質に耐性をもつ細菌 "superbug"に感染し、うち2人が死亡、179人に感染の疑いがあると発表した。
 

米国反キックバック法では第一三共が米国子会社の行為に対し、46億円の和解金を払っている。

第一三共は2015年1月13日、米国子会社のDaiichi Sankyo, Inc.が、高血圧症治療剤と高コレステロール血症治療剤のプロモーション活動の一環としてなされた医師講演施策に関する米国司法省による調査につき、1月9日付で、米国司法省およびその他の政府機関との間で民事上の和解に至ったと発表した。

外電によると、医師に同社の薬を処方するようキックバックを払った容疑であり、裁判書類では、第一三共は2004年から2011年の間に、いろいろの医師講演を開催し、医師に講演料名目で(同社の薬を処方することへの)キックバックを払ったとしている。

2015/1/15 第一三共、米司法省に46億円の和解金支払い 


虚偽請求取締法のケースでは、Pfizerが2009年に、4つの医薬品を違法に販売促進したこと、本来は公的医療保険が適用されないのに保険申請したことで、虚偽請求取締法に基づき、10億ドルの和解金を支払っている。

2009/9/4 米Pfizer、Health Care不正で政府に23億ドル支払い

また、東洋インキは2012年12月、紫色顔料(
CVP-23)の輸入に関し虚偽請求取締法違反とされた件で米国政府と和解し、45百万ドルを支払っている。

米国への輸入に際し、原産国を日本とメキシコとしたが、実際には中国とインド製であった。(最終仕上げ処理は日本とメキシコで実施)

中国とインドのCVP-23は反ダンピング税と(インドについては更に)反補助金税が課せられるが、日本製、メキシコ製とすることでこれを免れたとして訴えられた。

なお、False Claims Act では一般市民が政府に代わって訴える whistleblower lawsuit が可能で、本件は米国のCVP-23メーカーの社長が訴えたもので、回収した45百万ドルのなかから、7,875千ドルを受け取った。




米オバマ政権の移民制度改革を巡る与野党対立で国土安全保障省関連の予算案が通らず、一部閉鎖の危機に追い込まれていた問題で、下院は3月3日の本会議で、9月までの本会計年度の予算案を可決した。オバマ大統領が進める移民制度改革に関する条項は盛り込まれていない。

上院は既に2月27日に可決しており、オバマ大統領が 3月4日に署名して成立した。

これで、本会計年度(2015年9月末まで)の予算案はすべて成立することとなる。
 

米上院本会議は2014年12月13日深夜、2015年9月までの大半の政府支出を賄う内容の総額1兆1000億ドルの包括的歳出法案を賛成56、反対40で可決した。

下院は12月11日夜に219対206の賛成多数で可決しており、オバマ大統領の署名を経て成立した。

しかし、オバマ大統領の移民制度改革(不法移民の大量受け入れ)の所管事項が多い国土安全保障省の予算については、2015年2月までとされた。

2014/12/18 米国、包括的歳出法案が可決するも、問題を残す

下院は1月に、何百万人もの不法移民の強制送還を免除するオバマ大統領の移民政策を阻止する条項を国土安保省予算案の一部に盛り込んだ。
しかし上院では、民主党が抵抗、フィリバスターを避けるための60票に満たないため、共和党はこの条項を通過させられなかった。

米議会の上下両院は2月27日夜、同日深夜に期限が切れる米国土安全保障省の暫定予算について、期間を1週間延長する法案を賛成多数で可決した。

共和党上院トップのマコネル院内総務は、国土安保省の一部閉鎖に至った場合、同党への批判が高まる事態を懸念し、移民制度改革を阻止する条項を切り離し、2015会計年度の予算を認める案を提案、27日午前の本会議で可決した。

  共和党 民主党 無所属 合計
賛成 23 43 2 68
反対 31     31
棄権   1   1
合計 54 44 2 100

しかし、下院では移民制度改革に対する保守派の抵抗が強く、1週間延長にとどめた。
この結果、3月6日が新しい期限となった。

その後も共和党は移民制度改革案の破棄に向け圧力を強めたが、民主党は無条件で予算を通すよう、要求した。

下院議長(共和党)は、テロの脅威が高まる中、国境警備などを担う同省を一部閉鎖に追い込めば、世論の批判の矛先が自党に向かうとみて方針を転換、当日朝になって、移民制度改革案破棄の要求を下ろし、数日前に拒否したばかりの上院案に沿った内容をそのまま議決すると党員に伝えた。

しかし、共和党内部でこれに対する反発が強く、多くの党員が反対票を投じた。(米国には党議拘束の制度はない。)

  共和党 民主党 合計
賛成 75 182 257
反対 167   167
棄権 3 6 9
欠席 2   2
合計 247 188 435

移民問題をめぐる戦いでは、下院共和党は、今後は裁判所の動きに注目したいと述べている。

オバマ大統領が大統領権限で進めようとする移民制度改革を巡って、共和党の州知事らが憲法違反だと訴えたのに対し、南部テキサス州の連邦地方裁判所は2月17日までに制度改革の実施を禁じる仮処分の決定を出した。

これに対し、オバマ政権は2月23日、判事に対し、大統領令による移民制度改革を一時差し止めるとした先週の同判事の決定の執行延期を求めた。
司法省はこれとは別に、この命令の取り消しを求めてニューオーリンズの第5巡回控訴裁判所に提訴した。早い時期に最高裁判所で審理される可能性がある。 

ーーー

9月までの予算は成立したが、債務上限問題が残っている。

2011年5月に14.29兆ドルの上限に達して以降、米国は何度もデフォルトの危機に見舞われた。

2014年2月に、歳出削減などに関する条件を設けずに、債務上限の適用を2015年3月まで凍結する法案が通り、一息ついた。

2014/2/14 米債務上限上げ法案可決 デフォルト回避確定

しかし、本年3月15日にその期限が来る。それ以前に上限引き上げなどの措置が取られなければ、財務省は臨時措置を通して資金を調達する必要が出てくる。

米議会予算局は3月3日、連邦債務上限が引き上げられなければ、10月もしくは11月に財務省の資金調達手段が尽き、資金が枯渇するとの予想を示した。

 



公取委は2月27日、新潟のタクシー事業者の独禁法違反事件で審判請求を棄却する旨の審決を行った。

本件は、新潟市等に所在するタクシー事業者26社が2010年3月に北陸信越運輸局から運賃値上げの認可を受けたが、これに関し、公取委が2011年12月、タクシー事業者が共同して運賃を決定したとして、25社に対し排除措置命令及び総額2億3175万円の課徴金命令を出したもの。

新自動認可運賃で上限は据置き、下限は引き上げられたが、これについて、中小型については新自動認可運賃の下限、大型・特定大型については上限とすると決めたとしている。

課徴金は最高が3479万円、次が1423万円、他9社が1000万円以上となっている。

これに対し16社が審判請求を行い、2012年4月に審判が開始されたが、2014年10月に審判請求を棄却する旨の審決案が出された。

これを受け、新潟県では2014年12月2日、業界の置かれている窮状を踏まえ、課徴金納付により、タクシー事業者の廃業やそれに伴う従業員の失業を始め、労働条件の悪化が懸念され、地域社会全体にも大きな影響を及ぼす恐れがあることから、公正取引委員会に対し、要望書を手交した。

本ブログは下記コメントを書いた。

タクシー業界の苦境は小泉政権下の2002年に施行された「改正道路運送法」でタクシー事業への参入が原則自由化され、タクシー会社が乱立したことにある。

本件についてカルテルの事実関係は分からないが、こういう状況が背景にあり、これ以上の混乱を生まないための苦肉の策ではなかろうか。

特に今回の場合、一般市民に影響を与える中小型については新自動認可運賃の下限とすると決めたとされる。
この場合、最低の値上げで済むこととなり、一般市民には有利な結果となる。

合意により、「取引分野における競争を実質的に制限していた」としても、「公共の利益に反して」はいない。
料金を下限にすることによる不当利益はなく、課徴金をとることは不当利益を取り戻すという趣旨に反する。

法律上、免除の規定がないから出来ないというなら、上限に設定して「公共の利益に反して」いると思われる大型、特定大型の売上高についてのみ、課徴金を求めるということも可能である。

欧州委員会の言うとおり、制裁金の目的は経済的苦境にある企業を倒産に追い込むことではない」。


今回の棄却審決で、26社の共同行為に正当化理由があるかに関する公取委の主張は下記の通り。

認定した新潟運輸支局等の担当官の発言からは、新潟運輸支局等がタクシー事業者が新自動認可運賃に移行することが望ましいとの考えを有していたことが認められ、担当官が、新自動認可運賃へ移行することを促す方向で何らかの働きかけをしたことがうかがわれるが、一律に新自動認可運賃への移行を強制するようなものであったとは認めることができない。

26社が新自動認可運賃へ移行するか否かについて意思決定の自由を失っていたとは認められず、また、新潟運輸支局等が行政指導をした事実も認めることはできない。

26社は、新自動認可運賃への移行を合意したばかりでなく、その意思で新自動認可運賃の枠内の特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことまで合意したものである。

「法的解釈」はその通りである。「自動認可運賃」は地域ごとに設ける上限と下限の範囲内に収まれば、申請がすみやかに認められるものであり、強制するものではない。当局は絶対に「行政指導」であるとは言わない。

但し、下限より安い運賃を設定する場合、従業員の勤務や車両の運行状況はじめ、コスト構造に無理がないか厳しい査定が課せられるため、京都のMKタクシーのように強い意思でこれに反する行動を取る企業でない限り、これに従うのが普通であろう。経営の苦しいなか、 そんな企業はなく、あったとしても査定に通る企業があるとは思えない。

このため、「行政指導」とは絶対に言わないが、一般のタクシー会社にとっては実質的には従わざるを得ない行政指導である。

そうであれば、どちらにせよ「自動認可運賃」で値上げすることとなるが、中小型については下限を採用しており、一般市民には有利な結果となる。

合意により、「取引分野における競争を実質的に制限していた」としても、値上げを制限するものであり、「公共の利益に反して」はいない。
料金を下限にすることによる不当利益はなく、課徴金をとることは不当利益を取り戻すという趣旨に反するのではなかろうか。

公取委の主張はあまりにも「法解釈」中心であり、本ブログ提案のように、上限に設定して「公共の利益に反して」いると思われる大型、特定大型の売上高についてのみ、課徴金を求めるということで収めるも一つの手である。

本件に関しては、弱いもの苛めの感がある。

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公取委は売り手側のカルテルは徹底的に取り締まるが、買い手側の値上げ阻止、値下げ要求の行動はカルテルでない限り、問題としない。

自動車メーカーによる部品価格の値下げ要求が一つの例である。

公取委の「不公正な取引方法」の1つに下記を挙げている。カルテルでなくても、違反である。

自由な競争の基盤を侵害するおそれがあるような行為で、大企業がその優越した地位を利用して、取引の相手方に無理な要求を押し付ける行為。

この行為の形態から直ちに違法となるのではなく、それが不当な場合(公正な競争を阻害するおそれがあるとき)に違法とな る。

「公正な競争を阻害するおそれ」の例に、
取引主体の自主的な判断で取引が行われていないこと(自由競争基盤の侵害)により、競争秩序に悪影響を及ぼす行為。

自動車メーカーの定期的な値下げ要求に対し、低賃金の弱小部品メーカーが自主的判断で常時値下げに応じていたとは考えられない。

「法的解釈」からは明らかに違反と思われるが、どうして放置しているのだろうか。

公取委も、まさか、「申告がないから自主的判断で値下げに応じていると思っていた」とは言わないだろう。
そんな申告をしたら、切られるのは明らかで、出来る筈がない。

昨年下期から円安を勘案し、値下げ要求をやめている。
しかし、通常は1%の値下げ要求だが、歴史的な円高環境下の2011年下期からは「円高協力分」を上乗せし、最大で同3%の値下げを要求した。
今回はむしろ
1%程度の値上げしてもおかしくないところである。

自動車メーカーが円安で大きな利益を上げているのに対し、末端メーカーは円安による原材料値上がりで苦しんでおり、据置きだけでは「優越した地位を利用した無理な要求」である。


 

 

 

2月28日、中国の主要ニュースサイトなどで突然、中国のPM2.5問題を告発するドキュメンタリー映像『穹頂之下』("Under the Dome")が公表され、2日間で1億回を超えるとも言われる再生回数を記録し、中国全土を震撼させた。

ニュースの特集番組仕立てで、103分の動画をつくったのは、国営中央テレビの有名記者・キャスターだった柴静(Chai Jing:39歳)で、これまでは公害について意識したことはなかったが、1年前に出産した長女の健康を考え、中国を覆う PM2.5の原因と背景を探った。 (娘は先天性の腫瘍があり、出産直後に手術を受けた。)


複数の協力者と共に1年かけて製作した。

       https://www.youtube.com/watch?v=T6X2uwlQGQM


Al Gore元副大統領の映画「不都合な真実」(An Inconvenient Truth)と同様、大きなスクリーンの前で柴静が大勢の聴衆に説明する形を取っている。


このドキュメンタリーフィルムの総制作費は100万元(1900万円)で、柴静はそれを自腹で支払った。

柴静はニュースやドキュメンタリー番組での果敢な報道ぶりが人気を集めた。
2012年に発表した著書「看見」(邦訳「中国メディアの現場は何を伝えようとしているか」)は、10年におよぶ取材生活でSARSや四川大地震などに遭遇した体験を、個人の感想を交えながら率直に語ったもの で、中国では150万部を超える大ベストセラーとなっている。

ドキュメンターで中国各地で1年の半分程度が雾霾(Haze、PM2.5) に覆われている状況を示し、柴静は昔見たテレビ映画『穹頂之下』("Under the Dome" :Stephen Kingの同名の小説を原作とした米のCBSのテレビドラマシリーズ)を思い出す。
ドームに覆われ
、外界から隔離された町の話で、このままでは、娘は締め切った部屋から一歩も出られなくなるかも知れないと懸念した。

娘が大きくなったときに答えられるよう、「雾霾(PM2.5)とは何か」「どこから来るのか」「我々はどうすればいいか」という3つについて、現地取材や専門家へのインタビューによって、明らかにする。

「雾霾(PM2.5)とは何か」では、漫画を使い、いかに人体に悪影響を与えるかを説明する。中国衛生部の元長官によれば中国で毎年50万人が死亡している。 最大の被害者は赤ん坊である。

「どこから来るのか」では、中国ではPM2.5の60%は石炭と石油から来るとし、1960年代のロンドンのスモッグ被害の後、各国は石炭使用を制限し始めたが、中国(とインド)はその時から経済発展が始まり、石炭使用が増加し始めたと説明。

違法操業をする鉄鋼工場などへの突撃取材のほか、科学者や政府、企業関係者にインタビュー。中国が国を挙げて経済成長を追い求めた結果、様々な環境規制が企業の利益や雇用の維持を理由に守られてこなかった実態を指摘した。

北京だけをとると、PM2.5の源泉は、自動車が最大で31.1%、暖房が22.4%、工業生産が18.1%となっている。自動車の排気ガス公害を詳しく説明、対比として東京の地下鉄網を示す。

中国のガソリンの品質が米国や日本と比較し、劣っていることを示し、市場を独占し巨額の利益を上げながら、ガソリンなどの品質の向上を怠ってきた国有石油大手を手厳しく批判。社会的責任を問いただされたSinopecの元幹部は「我々は肥え太ったが、企業としての体質は脆弱なのだ」などと苦しい釈明を重ねている。

柴静は米国に飛び、カリフォルニア州の状況を調べ、中国と対比する。

世界は天然ガスの時代になったのに、中国は依然として石炭中心であると嘆く。


「我々はどうすればいいか」については、環境保護部門が正しく法律や規制を執行し、1人1人の「公民」は問題を発見したら通報し、環境保護につながるエネルギー消費行動を取るべきだと提言している。


挙げられた例の一部:

バスや自転車、大勢での自動車利用 環境保護告発ホットライン 12369
   
写真を当局へ送付 汚染企業の製品の不買

 

3月3日に北京で開幕する全国人民代表大会と全国政治協商会議を目前に控えた時期に同作品が配信されたこともあり、全国政治協商会議の報道官は、「私も同作品を見た。科学的な観点で論じられている点が重要」とし、「微小粒子状物質『PM2.5』の成分は何なのか、人の脳や血管、心臓、肺、胃にどのような影響があるのかなどの調査が時間をかけて行われている」と評価した。

中国の環境保護部長(環境大臣)に就任したばかりの陳吉寧は、このドキュメンタリーをRachel Carson の "Silent Spring" になぞらえ、柴静に感謝のメッセージを携帯メールで送ったとも言われる。


 

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Richard Muller はその著書の"Energy for future presidents" で、温暖化問題のキイは中国の石炭使用であり、豊富な天然ガス埋蔵量(シェールガス中心)に切り替えるのが最善の解決策であり、中国の技術者に米国でシェールガス開発の訓練をしてはどうかとしている。PM2.5の解決にもつながる。

化石燃料エネルギーの埋蔵量(単位: 石油換算 10億バレル)

 Richard Muller  "Energy for future presidents"


 

 

 


日本では、2012年に改正された原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)で、原発の運転は、使用前検査に合格した日から原則として40年とし、原子力規制委員会の認可を得たときに限って、20年を越えない期間で運転延長できるとなっている。

 (運転の期間等)
第43条の3の32  発電用原子炉設置者がその設置した発電用原子炉を運転することができる期間は、当該発電用原子炉の設置の工事について最初に第43条の3の11第1項の検査に合格した日から起算して40年とする。

 2   前項の期間は、その満了に際し、原子力規制委員会の認可を受けて、一回に限り延長することができる。

 3   前項の規定により延長する期間は、20年を超えない期間であつて政令で定める期間を超えることができない。


これに対し、韓国では原発の設計寿命は30年とされている。

韓国原子力安全委員会は2月27日未明、2012年に30年の設計寿命を終えて停止した月城原発1号機(慶州市)の再稼働を認めると発表した。10年延長し、2022年まで運転できる。

月城1号機は韓国で2番目に稼働した原発で、発電容量は67.9万キロワット。

2012年に設計寿命を迎えるのに先だって2009年に10年間の稼働延長を原子力安全委に申請、当初稼働延長は技術的に問題がないとみられたが、東日本巨大地震の原発事故を受け、審査が長期化していた。

同原発を巡っては安全性に問題があるとして一部の地域住民や市民団体が再稼働に強く反対していた。

委員らは月城原発1号機の格納容器に最新安全基準であるR-7を適用すべきかや、住民の意見集約をめぐる15時間に及ぶ議論を繰り広げた。

「R-7要件」は、原子炉内部の冷却剤を喪失する事故が発生し、格納容器の内部に水を注ぐ装置までが故障した場合、予想される高い圧力条件に対応できるよう設計に反映するカナダの安全基準。
1991年以降に建設された月城2、3、4号機には適用されたが、それ以前に建設された月城1号機には適用されていない。

原子力安全委員会は「老朽設備をすべて変え、"中身"は新しいものと変わらない」という韓国水力原子力の主張を受け入れた。
再整備を担当したカナダのCandu Energy「再整備を終えた後には完全に新しい原発になった」と主張した。
安全委員会は、「韓国原子力安全技術院の継続運転審査と専門家検証団のストレステストの結果、継続運転に適合するという結論を出した」としているが、ストレステストに参加した民間検証団は32件の安全改善事項を指摘し、「継続運転時は安全性の保障が難しい」と主張している。






委員9人のうち 野党推薦委員2人は「十分に議論されていない状態で表決を強行しようとし、参加しないことにした」とし、退場し 、残る7人全員が賛成した。

ーーー

韓国の第1号原発の古里原発1号機(58.7万kw)は1978年に商業運転を開始、2007年に30年が経過したが、10年間の延長が認められ、2017年まで稼動する。

韓国水力原子力は本年6月に更に10年の延長を申請する意向だが、事故や故障が相次ぎ、反対運動が広がっている。

延長承認時にも基幹部分の原子炉圧力容器の安全性が脆弱だという問題が厳しく指摘された。稼動延長以後も遮断機や非常ディーゼル発電機の故障などにより、ささいなことでも止まり、部品の不正事件も絶えず、安全性が疑問視されてきた。

釜山地域の進歩系と保守系の市民社会団体が参加した古里1号機閉鎖釜山汎市民運動本部は2月10日、発足記者会見を行い、「寿命が尽きた古里原子力発電所1号機を直ちに閉鎖せよ」と要求した。釜山市も古里1号機の閉鎖運動に加わった。

「原発から半径30キロ以内」に釜山、蔚山、慶尚南道の住民が350万人も暮している。

複数の韓国メディアは2月26日、古里原発1号機について、与党セヌリ党の代表が韓国政府が閉鎖する方針を決めたことを示唆する発言をしたと報じた。
ただ閉鎖時期は不透明で、韓国政府は報道について反応していない。


 

韓国の原発一覧 (ハンウルは元の蔚珍、ハンピッは元の霊光)


 

 

運転開始 原子炉形式 容量 kW
ハンウル

1

1988/9/10 加圧軽水炉 (PWR) 95万
2 1989/9/30 加圧軽水炉 (PWR)  95万
3 1998/8/11 加圧軽水炉 (PWR)  100万
4 1999/12/31 加圧軽水炉 (PWR)  100万
5 2004/7/29 加圧軽水炉 (PWR) 100万
6 2005/4/22 加圧軽水炉 (PWR) 100万
新ハンウル 1 2012/5 着工 KSNP (APR-1400) 140万
2 2012/5 着工  KSNP (APR-1400) 140万
3 計画 KSNP (APR-1400) 140万
4 計画 KSNP (APR-1400) 140万
ハンピッ

 

1

1986/8/25 加圧軽水炉(PWR) 95万
2 1987/6/10 加圧軽水炉(PWR) 95万
3 1995/3/31 加圧軽水炉(SYSTEM80)  100万
4 1996/1/1 加圧軽水炉(SYSTEM80)  100万
5 2002/5/21 KSNP(OPR-1000)  100万
6 2002/12/24 KSNP(OPR-1000) 100万
月城 1 1983/4/22 CANDU  67.9万
2 1997/7/1 CANDU 70万
3 1998/7/1 CANDU 70万
4 1999/10/1 CANDU 70万
新月城 1 2012/7/31 KSNP(OPR-1000) 100万
2 試運転中 KSNP(OPR-1000) 100万
3 計画 KSNP(OPR-1000) 100万
4 計画 KSNP(OPR-1000) 100万
古里 1 1978/4 加圧水型(PWR) 58.7万
2 1983/7 加圧水型(PWR) 65万
3 1985/9 加圧水型(PWR) 95
4 1986/4 加圧水型(PWR) 95万
新古里 1 2011/2 加圧水型(PWR) 100万
2 2012 加圧水型(PWR) 100万
3 建設中 加圧水型(PWR) 140万
4 建設中 加圧水型(PWR) 140万
5 計画 加圧水型(PWR) 140万
6 計画 加圧水型(PWR) 140万

2013/5/31 韓国の原発10基が稼動中断、夏の電力不足憂慮 

 



 




Obama大統領は2月24日、米議会上下院が可決したKeystone XL Pipelineの建設推進法案に拒否権を発動した。


TransCanada 社が建設計画中のKeystone XL Pipelineは、カナダのOil sandを採掘・処理した合成原油の輸入拡大を目指す取組みで、既に操業中のKeystone パイプライン(Phase 1-2)が、カナダ産合成原油を米国中西部製油所に輸送するのに対し、現在検討中のKeystone XL パイプライン(Phase 3-4)はメキシコ湾岸製油所まで輸送する。

問題になっているのは、Phase 4 で、ネブラスカ州の1/4を占めるSand Hills 地域は湿原地帯で、Ogallala Aquifer (帯水層)の上にある。
ネブラスカ州の責任者や住民はSand Hills 地域への懸念に加え、Great Plains 諸州の飲用水のソースであるOgallala 帯水層を横切ることに懸念を表していた。

 

米国務省は2011年11月、Keystone XL 計画を2012年の大統領選挙後まで凍結すると発表したが、オバマ大統領は2012年1月18日、安全性や環境保全などが完全には保証できないとの見解を示し、これを認可しないと発表した。

2011/11/19  オバマ政権、Keystone XL オイルパイプライン計画を凍結

2014年1月31日、国務省がKeystone XL 計画に関するFinal Supplemental Environmental Impact Statement を公表 、温室効果ガスへの重大は影響はないとした。

仮にKeystone XLが建設されなくとも、カナダのオイルサンドの石油は鉄道などにより輸送されることとなり、環境への影響は変わらないとしている。


2014年11月の中間選挙で野党共和党は上院と下院で多数を占めた。

2015年1月9日に下院が建設を推進する法案を可決し、上院は別の法案を1月29日に可決した。  

  共和党 民主党 合計
賛成 238 28 266
反対 0 153 153
棄権 4 6 10
欠席 5 6
合計 247 188 435
 
  共和党 民主党 無所属 合計
賛成 53 9 0 62
反対 0 34 2 36
棄権 1 1 0 2
合計 54 44 2 100

これを受け、下院は2月11日に上院が通した法案を可決し、大統領に送った。

  共和党 民主党 合計
賛成 241 29 270
反対 1 151 152
棄権 2 8 10
欠席 3 0 3
合計 247 188 435

統領は拒否権発動に当たり、国境を越えるパイプラインの建設承認は国務省の権限であることを踏まえ、「法案は行政上の手続きに違反し、パイプラインが国益にかなうかどうか判断する手続きを回避しようとしている」と米議会を批判し、地球温暖化や安全保障など国益への影響を考慮すべきだとの意向を改めて訴えた。

パイプライン建設は雇用創出につながるとして法案可決を主導してきた共和党は再度採決する意向を明らかにし ているが、大統領が拒否権を発動した法案の成立には、両院が3分の2以上の多数で再可決する必要があ り、難しいと見られている。

建設を申請したカナダのTrans Canadaは2月24日の声明で「パイプラインよりも安全でなく非効率な方法で原油を運ぶことになる」と反論した。


ーーー

米国は石油と天然ガスに石炭を加えると、世界最大の埋蔵量を誇るが、石油の埋蔵量は少ない。

化石燃料エネルギーの埋蔵量(単位: 石油換算 10億バレル)

 Richard Muller  "Energy for future presidents"


米国ではエネルギー不足が問題ではなく、自動車の燃料用等の石油不足が問題である。

CTL (Coal to Liquid)やGTL (Gas to Liquid)で豊富な石炭・天然ガスから Synfuel をつくるのがベストだが、建設費が高く、石油価格が下落すれば採算が取れないため、そのリスクの懸念から進んでいない。

一時はモノの貿易収支の赤字の半分を原油が占めた。2014年でも赤字は2000億ドル近くとなっている。


米国は中東の原油に依存することに非常に神経質になっている。石油ショック時のような禁輸が行われれば、安全保障上、大変なこととなるとの懸念である。

このため、カナダからのパイプライン輸送は米国にとってベストな選択である。

オイルサンドの環境汚染、先住民族の健康被害が大きな問題となったときに、当時のクリントン国務長官は、「中東の汚い石油か、カナダの汚い石油か、アメリカの選択肢は2つです」と述べている。

2011/4/14 「岐路に立つタールサンド開発」


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オバマ大統領と野党共和党は、金持ち増税や「医療保険改革法」(オバマケア)など、色々な点で争っているが、最近では移民制度改革(不法移民の大量受け入れ)が争点になっている。

米上院本会議は2014年12月13日深夜、2015年9月までの大半の政府支出を賄う内容の総額1兆1000億ドルの包括的歳出法案を賛成56、反対40で可決したが、移民制度改革(不法移民の大量受け入れ)の所管事項が多い国土安全保障省の予算については、2015年2月までとされた。

2014/12/18 米国、包括的歳出法案が可決するも、問題を残す

米議会の上下両院は2月27日夜、同日深夜に期限が切れる米国土安全保障省の暫定予算について、期間を1週間延長する法案を賛成多数で可決した。

共和党上院トップのマコネル院内総務は、国土安保省の一部閉鎖に至った場合、同党への批判が高まる事態を懸念し、移民制度改革を阻止する条項を切り離し、15会計年度の予算を認める案を提案、27日午前の本会議で可決した。

しかし、下院では移民制度改革に対する保守派の抵抗が強く、1週間延長とし、移民制度改革の阻止に向けて引き続き圧力を強める。

大統領と共和党の対立は続く。




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