2016年12月アーカイブ


フランスのノルマンディの町Tourouvre で12月22日、世界初の太陽光発電道路 "Wattway" の開通式が行われた。

「Wattway」は、フランスの道路建設会社のColasが、フランスの国立研究機関 INES (National Institute for Solar Energy) との 5年間の共同開発により確立した太陽光発電を行う道路。

開通した区間は約1kmで、基盤材とプラスチックで挟まれた2,800 m2の太陽光パネルで覆われている。この道路の交通量は1日2000台。

太陽電池を埋め込んだ道路としては、2014年にオランダ のアムステルダムの北西約15kmで開通した SolaRoad があるが、これは荷重の小さな自転車用の道路で、Wattway は自動車用道路として世界初を名乗っている。

道路の表面は太陽に照らされているが、車が通って日光がさえぎられるのは 10%程度であり、残りで発電しようというもの。但し、パネルを水平に置くため、効率は悪い。

Colas では、理論的にはフランスの100万kmの道路のたった 1/4に敷き詰めると、フランスはエネルギーを自給できるとしている。

Wattway の 建設コストは約500万ユーロで、2年間の試験運用の間に、道路周辺の住民3400人が暮らすのに必要な電力を供給できるかどうかを確認する。

仏エコロジー・持続可能開発・エネルギー大臣Ségolène Royalは開通式典で、「フランスを走る1000kmあまりのハイウェイがこの太陽光発電道路になることを望む」と語った。

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太陽光パネルは非常に頑丈なプラスチックで覆われており、テストでは100万個のトラックタイヤが通るのにも耐えられたとしている。重いトラックが走っても問題ない。


タイヤが滑るのを避けるため、表面のプラスチックには凹凸がつけてある。

但し、雨が降った場合、水がパネルの上にたまり、ハンドルやブレーキが利かなくなるハイドロプレーニングが起こらないか、懸念する声がある。
また、自動車の走行によるすり減りや耐久性に懸念もある。

これらの実現のためには技術的なブレイクスルーがあり、2つの特許でこれらを保護しているという。

道路工事の工程が必要なく、舗装道路上にそのまま装着できるようになっている。

Colasでは耐用年数を少なくとも10年としており、交通量が少ない場合は約20年としている。

問題はコストで、屋根に設置する太陽光発電が 1 kilowatt-peak (発電力が一定しない太陽光発電などの平均のキロワット)当たり 1.30ユーロなのに対し、17ユーロもかかる。
しかし、Colasでは2020年までに競争力あるものになるとしている。

寿命(20年)以内に投資を回収できるとみており、現在は投資回収期間を15年以内に短縮することを目指している。


中国人民銀行(中央銀行)が運営する中国外貨取引センター(CFETS)は12月29日、人民元指数(
CFETS指数)の算出方法を調整すると明らかにした。


中国人民銀行は2015年12月11日、為替相場は複数の国々との貿易と投資を反映するものであり、 米ドルに対する変動のみでなく、通貨バスケットに対する人民元の変動を考慮する必要があると説明、13の通貨で構成される新たな
人民元指数(CFETS指数を公表した。

2015/12/16 中国人民銀行、人民元の新指数導入

2014年12月31日を100とする。12月23日終値での指数は95.09であった。(対米ドルでは89.27%)

現在の指数は13の外貨で構成されるバスケットで算出されているが、2016年1月1日からはバスケットの構成通貨数を24に増やす。算出メカニズムを向上させることが目的という。

新たに追加する11通貨のバスケット全体へのウエートは21.09%。うち韓国が10.77%で日本円に近い。

変更を受けて、ドルのウエートは、現在の26.40%から22.40%に、ユーロは21.39%から16.34%に、日本円は 14.68%から11.53%に低下する。
バスケットでのドルの比率が下がることで、元の対ドルでの下落を容認しやすくなるとの見方もある。

CFETS指数の構成やウェートは毎年見直す方針。

従来と改定後の構成比率は下記の通り。

  CFETS 指数 2017改定

参考

BIS 指数 SDR 指数
1 米 ドル 26.40 22.40 17.80 41.90
2 ユーロ 21.39 16.34 18.70 37.40
3 日本 円 14.68 11.53 14.10 9.40
4 香港 ドル 6.55 4.28 0.80
5 英 ポンド 3.86 3.16 2.90 11.30
6 豪 ドル 6.27 4.40 1.50
7 NZ ドル 0.65 0.44 0.20
8 シンガポール ドル 3.82 3.21 2.70
9 スイス フラン 1.51 1.71 1.40
10 カナダ ドル 2.53 2.15 2.10
11 マレーシア リンギッド 4.67 3.75 2.20
12 ロシア ルーブル 4.36 2.63 1.80
13 タイ バーツ 3.33 2.91 2.10
14 南ア Rand 1.78 27か国
小計

31.70
15 韓国 Won 10.77
16 UAE Dirham 1.87
17 サウジ Riyal 1.99
18 ハンガリー Forint 0.31
19 ポーランド Zloty 0.66
20 デンマーク Krone 0.40
21 スウェーデン Krona 0.52
22 ノルウェー Krone 0.27
23 トルコ Lira 0.83
24 メキシコ Peso 1.69
others
合計 100 100 100 100


東芝は12月27日、同日の日本経済新聞の報道を受け、昨年末のStone & Webster (S&W) 買収で数十億ドル規模の 「のれん」計上の可能性が生じたことを明らかにした。

影響額の確定を待たずに、とりあえず発表した。

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東芝の米国子会社のWestinghouse は2015年12月31日、Shaw Group子会社で原子力の建設と統合的なサービスを担う Stone & Webster をCB&I から229百万ドルで買収した。

東芝は買収金額を公表していないが、米国証券取引委員会に提出された資料によると2億2900万ドルである。

Shaw Group を買収したCB&I が原子力関係事業からの撤退を決めたもの。

CB&I はEPC契約者としてSouth Texas Project から撤退するとともに、South Texas Project およびABWR事業開発会社 (Nuclear Innovation North America) に対し保持している債権を放棄する。

2016/5/16 東芝、米国大手エンジニアリング会社との原発建設に関する協力関係を解消 

この売買契約について、東芝は8月12日の発表で2つの問題を挙げている。

1) 売買契約には「価格調整条項」があるが、CB&Iは7月21日に 、株式購入契約において合意していた法的手続きを無効にする申し立てをデラウエア州公衡平法裁判所に行った。第三者会計士へ判断を委ねることの差し止めを求めた。

購入契約上、CB&Iは S&B の運転資本額として1,174百万ドル相当額を計上した状況で株式を譲渡する義務を負う。

買収完了後に運転資本額を精査し、運転資本額がこれを下回った場合は、差額をCB&Iが支払い、
逆に、上回った場合は、差額をCB&Iに支払うこととなっている。

見解に相違があった場合は、第三者の会計士が判断する。

Westinghouse では、これに基づく算定結果を含む書面をCB&Iに提出していた 。

2) 「のれん」の金額

米国会計基準に従い、算定中で、年末までに確定する。
この時点では87百万ドルと想定している。

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買収額は229百万ドルで、これと資産価値との差を87百万ドルとみていた。これは極めて妥当である。

しかし、現時点でこれが数十億ドルになるという。 買値が2.29 億ドルのため、資産価値が仮にゼロであったとしても、「のれん」は2.29億ドルで、買値の10倍の赤字など考えられない。

S&B に数十億ドルもの損失(または潜在的な損失)が隠されており、それを知らずに買収したのかも分からない。通常は契約でそんな損失は負担しないようにしている筈であり、当然、相手方に損失を負担させるはずである。

それなのに、東芝が「のれんが数十億ドル規模にのぼる」可能性があるとするのは、契約上、負担せざるを得ないようになっているのかも分からない。

きわめて不可解であり、それが東芝トップにごく最近に報告されたというのも不可解である。

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不適切会計問題で揺れた東芝に、2015年11月、新たに原子力事業での赤字隠蔽疑惑が発生した。

11月12日の日経ビジネスオンラインが、「スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽 内部資料で判明した米ウエスチングハウスの巨額減損」という記事を掲載した。

東芝の米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)で、計1600億円の巨額減損が発生していたことが日経ビジネスの取材で分かった。WHの単体決算は2012年度と2013年度に赤字に陥っていたが、本誌が指摘するまで東芝は事実を開示しなかった

東芝は、原子力事業全体では減損処理が不要なため、WHの減損処理を発表しなかったと弁明した。

2015/12/8 東芝の原子力事業 

東芝が2016年2月4日に発表した2016年3月期の損益予想は7100億円の赤字で、何もしなければ債務超過となる。

東芝は3月17日に、実質的には独禁法に違反する奇手で、キヤノンに医療機器子会社 東芝メディカルシステムズを6655億円で売却し、債務超過を逃れた。

2016/3/18 キヤノン、東芝メディカル買収を発表、独禁法対策で奇手 

公取委は6月30日、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得を承認したが、株式取得のスキームが、事前届出制度の趣旨を逸脱し、独占禁止法第10条第2項の規定に違反する行為につながるおそれがあることから、両者に対し異例の注意を行った。

また、今後、企業結合を計画する者が仮にこのようなスキームを採る必要があるのであれば、当該スキームの一部を実行する前に届出を行うことが求められるとした。

2016/7/4 公取委、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得を承認


東芝は2016年4月26日、改めて原子力事業の減損チェックをした結果を発表した。

原子力事業の事業性に変更はないが、資金調達コストの上昇を受け、割引率を見直した結果、減損処理を行うとし、現段階で約2600億円を見込むとしている。

2016/5/12 発表(5/23 修正)の決算では、原子力事業の一時的費用として下記を計上した。 

ノレン減損  -2,476億円
構造改革費用 -40億円
その他  -90億円
合計  -2,606億円

   

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東芝の2016年9月中間決算での連結資本勘定は3,632億円しかない。この時点での2017年3月末の年間純損益予想は1,450億円で、上期損益は1,153億円のため、下期損益は297億円に過ぎない。

損失額によっては債務超過に陥る恐れもある。

既に東芝メディカルなど、目ぼしい子会社は売却済みであり、一般投資家への増資も難しい。

東芝は2015年9月に東京証券取引所から特設注意市場銘に指定されたが、東証は12月19日、指定期間を延長すると発表した。
上場廃止の恐れが生じたものの、取引所の審査の結果、影響が重大とはいえないと認められて上場廃止に至らない場合で、かつ内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められる場合に指定される。

S&Pは12月28日、東芝の長期会社格付けを「B-」に、1段階引き下げたうえで、格下げ方向の「クレジット・ウォッチ」に指定したと発表した。

ムーディーズ・ジャパンは12月28日、東芝のシニア無担保債務格付けを「B3」から「Caa1」に格下げすると発表、さらに格下げ方向で見直すとした。

このため、東芝は主力取引銀行と金融支援に向けた協議に入ったが、銀行側にも東芝への不信感が強く、難航するとみられる。

上海市政府は12月23日、独占禁止法に違反したとして米自動車大手のGMの中国合弁会社に対し201百万元(約34億円)の罰金を科すと発表した。

上海市政府の物価管理当局が、GMと中国自動車大手の上海汽車集団(SAIC) との合弁会社であるShanghai General Motors(GM 49%、SAIC 51%)に対し、中国で販売するCadillac、Chevrolet、Buick などの一部車種について、販売会社に対し最低価格を指示したとして、年間販売額の4%の罰金額を設定した。

GM は声明で、事業を行っている国の法律、規則を尊重するとし、本件で適切な対応をすべく、中国のJVの支援を行うとしている。

これまでにも多くの自動車メーカーが摘発されている。

2014/9/15 中国、Volkswagen と Chrysler に独禁法違反で罰金 

これまでにもあった単なる独禁法違反事件であり、Trump次期大統領の反中国姿勢に対する反応とは見えないが、米国の対応により米中経済戦争につながる恐れがある。


本件に関しては、中国の英字紙 China Dailyは今月中旬、国家発展改革委員会の幹部の発言として、米自動車メーカーに制裁金を科す考えだと伝えていたが、Trump 次期大統領の政権移行チームの広報担当者は「Trump は米企業や雇用のために戦うと明言している」と強調していた。

12月21日には米通商代表部(USTR)が中国の電子商取引大手 アリババ集団のネット通販サービス淘宝網などを偽造品市場のブラックリスト(Notorious markets list」に組み入れた。4年前にリストから外した経緯があり、アリババ側は「政治的な意向が働いている」と反発。米中双方を代表する企業を狙った報復合戦の様相を呈している。

アリババグループの総裁は、「4年前、USTRは当社の名前をこのリストから削除した。それから4年間、当社はブランド所有者や法執行機関と共に、模倣品や海賊版を販売している業者に対する処罰を実際に展開し、先進的な方法で効果的に知的財産権の保護業務を展開してきた。それにもかかわらず、USTRは当社を再びリストに入れた。当社は、これが本当に事実に基づいた決定なのか、今の政治的雰囲気の影響を受けているのではないかと、疑いをかけざるを得ない」とすぐにコメントを出し、失望感を示した。

Trump次期大統領は12月21日、ホワイトハウス内に国家通商会議(National Trade Council)を新設し、トップに対中強硬路線を唱える Peter Navarro を指名した。「国家通商会議の創設は、米製造業を再び偉大にし、すべての米国民にきちんとした職で妥当な賃金を得る機会を提供するとの次期大統領の決意をあらためて示している」としている。

Peter Navarro 教授は、"The Coming China Wars"、"Crouching Tiger:What China's Militarism Means for the World"、"Death by China"などの著書が世界で注目された。

"Death by China"では、中国共産党政権の下での環境汚染、資源の略奪、毒食品、政治腐敗、軍事拡張、為替操作など多くの面において、世界にとって脅威となっていると批判した。2012年に同著書のドキュメンタリー映画も製作された。




BPは12月17日、アブダビ政府とアブダビ国営石油(ADNOC) との間で、BPがAbu Dhabi Company for Onshore Petroleum Operations Limited(ADCO) に10%の出資をすることと、ADCOが保有する陸上権益の10%を取得する契約に調印したと発表した。見返りにアブダビ政府はBPに2%出資する。

ADCO鉱区は4つの地域に分かれている。

1)SE Hub (South East Asset)

Asab 油田 
Sahil 油田 
   
Shah 油田    
Qusahwira 油田
Mender 油田  開発中、2017年生産開始予定

2)Bab Asset

3)Bu Hasa/Huwaila/BQ Assets

Bu Hasa 油田  
Huwaila 油田   
Bida Al-Qemzan (BQ) 油田 

4) North East Bab (NEB)

Dabbiya 油田
Rumaitha 油田
Shanayel 油田

 


アブダビの陸上油田は1939年以降、外国の石油会社に採掘権を与えられてきた。
1971年の独立を機に、Abu Dhabi National Oil Company
(ADNOC)が参加し、Abu Dhabi Company for Onshore Oil Operations (ADCO)を設立した。

当初 ADNOCの出資比率は15%であったが、1974年に60%となった。
他のメンバーは以下の通り。

BP、Shell、Exxon Mobil、Total  各9.5%、計38%
PortugalのPatex Oil and Gas 2% (
Mr. 5% と呼ばれた石油商人 Calouste Gulbenkian の権益を引き継ぐ)

これら各社の権益は2014年1月10日に期限切れで失効した。

新しく40年間の権益が与えられることとなり、各社が応札した。

先ず2015年1月1日付けでフランスのTotal が10%の権益を取得した。

国際石油開発帝石(INPEXは2015年4月27日 、アブダビ首長国の陸上のADCO鉱区の5%の参加権益を取得し2015年1月1日からの40年間を契約期間とする利権契約を同国政府及びアブダビ国営石油会社(ADNOC)と締結したと発表した。

2015/4/29 国際石油開発帝石、アブダビ首長国の陸上ADCO鉱区の権益取得

その後、韓国のGS Energyが3%を取得している。

今回、BPが10%の権益を取得するとともに、ADCOそのものに10%の出資を行う。

今後ADNOCは海外パートナーに割り当てられた40%の権益の残り12%分について、パートナーを探す。

見返りにアブダビ政府はBPに2%出資する。

BPは 3億9,290株の新株を1株あたり4.47ポンドでアブダビの政府系投資会社 Mubadala Development Company に発行する。12月16日のBP株価4.90ポンドで計算すると19.2億ポンドとなる。


BPは12月23日、同社主導のAIOC (the Azerbaijan International Operating Company) がアゼルバイジャンで操業中のカスピ海で最大の海底油田 Azeri-Chirag-Gunashli (ACG) の開発を2050年まで続けることで、同国国営石油会社 SOCAR (the State Oil Company of the Republic of Azerbaijan) と基本合意したと発表した。

既存の契約は1994年9月に30年間の期限で締結された。今回、これを2050年まで延長する。

原油生産は1997年11月に開始され、今までに約330億ドルの投資で、30億バレル以上の原油を生産している。
現在の生産量は日量 632千バレル。

2006年にアゼルバイジャンのバクー市からグルジア共和国トビリシ市を経由し、地中海に面するトルコ共和国ジェイハン市を結ぶ総延長1,768kmの原油パイプライン BTC Pipe Line が完成し、6月4日にトルコ側の積み出し港から第一船の出荷が行われた。

輸送能力は日量120万バレル。

2006/6/7 BTCパイプライン完成

現在のAIOC (the Azerbaijan International Operating Company) とBTC Pipe Line 運営会社の株主は次の通りで、国際石油開発帝石と伊藤忠商事も権益を保有している。

AIOC BTC
BP 35.78% 30.10%
Chevron 11.27% 8.90%
SOCAR(アゼルバイジャン国営石油会社) 11.65% ---
国際石油開発帝石(INPEX) 10.96% 2.50%
Statoil 8.56% 8.71%
ExxonMobil 8.00% ---
TPAO (トルコ) 6.75% 6.53%
伊藤忠商事 4.30% 3.40%
ONGC(インド)米Amerada Hess から買収 2.72% 2.36%
Azerbaijan (BTC) --- 25.00%
Eni --- 5.00%
TOTAL --- 5.00%
CIECO --- 2.50%

日英両政府は12月22日、原子力分野で包括的に協力する覚書を結んだ。世耕弘成経済産業相が同日、来日したGreg Clark ビジネス・エネルギー・産業戦略相 と会談し、 覚書を結んだ。

・Decommissioning and Decontamination 廃炉、除染での協力
・Research and Development
・Global safety and Security Practices
・Nuclear New Build

覚書では、日立傘下のHorizon Nuclear Power が英中部Wylfa で、東芝傘下のNuGenが英中部 Moorside(Sellafield)でそれぞれ計画する原発について言及した。
(In particular, both sides note the proposals for nuclear power stations in the UK put forward by Japanese companies, namely the Horizon project at Wylfa in Anglesey and the NuGen project at Moorside in Cumbria. Both sides note the progress made to date by the developers and welcome the opportunity to continue to discuss the development of their proposals.)

また、原子力の研究開発や、福島第1原子力発電所の廃炉や除染などでも協力を深めることを確認した。

日本政府は原発の輸出を促進するため、今後英国側と資金支援の詳細な検討を進める方針で、まず、国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行を活用したHorizonへの投融資の検討作業を英国側と進める。
原発稼働後の電力の買い取り価格や買い取り期間、事故が起きた場合の賠償の仕組みなどについても英政府と協議し、持続可能な枠組みづくりをめざす。

支援総額は1兆円規模になる公算が大きく、2017年中にも大枠を固める。

Clark 氏は会談の中で、原発の新増設について「英国の産業戦略、クリーンなエネルギー開発を考える上で非常に重要だ」と指摘した。

安倍政権には、新興国での初の原発受注で、インフラ輸出に弾みがつくと期待していたベトナムでの原発計画が中止になり、あせりがある。

2016/11/14  ベトナムの原発建設計画 中止へ

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英国では19基の原発が稼働しているが、英国政府は2009年11月に原発拡大策を発表した。
10か所に原発を新設し、2025年までに全電力の25%を原発で賄う計画(当時は全電力の13%)。

稼働中 廃止 政府案
Dounreay 実験炉
(Scotland 北端)
2基 
Hunterston  2基   2基 
Torness  2基 
Chapelcross  4基 
Calder Hall  4基 
Braystones
Sellafield
(Moorside)
Windscale(Sellafield)  1基 
Kirksanton
Hartlepool  2基 
Heysham  4基 
Wylfa  2基 
Trawsfynydo  2基 
Sizewell  1基   2基 
Berkeley  2基 
Bradwell  2基 
Oldbury  2基 
Hinkley Point  2基   2基 
Dungeness  2基   2基 
Winfrith SGHWR  1基 
合計  19基   26基 



しかし、福島事故で原発の安全確保のためのコストが見直された結果、2012年以降、ドイツ、英国の企業が原発計画から撤退した。

安倍首相は日本の原発の新規制基準は「世界一厳しい基準」と自画自賛している。

しかし、英国のHinkly Point やSizewellで計画中で、フランスのフラマンビル、フィンランドのオルキルオト、中国の台山で建設中の欧州加圧水型原子炉(EPR) は日本よりもはるかに厳しい基準であり、これが建設費高騰の理由である。

安全システムは日本の2系統に対し、4系統あり、飛行機の衝突や内圧に耐える合計の厚さが2.6mの2層のコンクリート壁 を持つ。

事故で炉心溶融が起きても溶け落ちた核燃料は「コアキャッチャー」と呼ばれる巨大な受け皿に流れ込む仕組みを備える。その上部にある貯水タンクは高温になると蓋が自動的に溶けて弁が開き、その結果コアキャッチャーを水が満たして溶け落ちた燃料(デブリ)を冷やす機能がある。

新規制基準制定時のパブリックコメントではコアキャッチャーの義務化を求める意見があったが、無視された。

しかも、日本との違いは、これらは地震の恐れのないところで建設される。地震のない所でも日本よりはるかに厳しい基準が求められている。

http://maptd.com/map/earthquake_activity_vs_nuclear_power_plants/

地図を拡大すると、日本以外の原発のほとんどが地震発生の歴史がないことが分かる。米国西海岸の原発はほとんど停止した。

各社の撤退を受け、英国政府は原発推進のため自然エネルギーの普及に使われている「固定価格買取制度」を原発に導入した。

フランスのEDF と英国政府は2013年10月、Hinkley Pointに欧州加圧水型原子炉(EPR) 2基 総出力320万kWを建設することで合意した。(追加2基も計画)
中国広核集団(CGN) が33.5%を出資、残りをEDFが出資する。

英国政府とEDFは今回、原子力発電での電力の固定価格買取価格(35年間)について、下記の通り合意した。

Sizewell での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合    £92.50/MWh(約14.6円/kWh)

* この計画については、英国新政権が中国の進出を懸念し、7月29日に「待った」をかけたが、9月15日に承認した。

2016/8/4 フランスと中国の企業による英国Hinkley Point C 原発計画に黄信号

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日立製作所は2012年10月30日、ドイツのエネルギー会社のE.ON及びRWEからHorizon 全株式を買収する契約を締結した。
買収額は
6億7000万ポンド(約850億円)。

2012/11/1 日立製作所、英の原発会社買収

Horizon は、北ウエールズのAnglesey島のWylfa Newydd とSouth Gloucestershire のOldbury-on-Severn の2カ所で、5,400MW級以上の原発(1,300MW級をそれぞれ 2~3基)を建設する。

2016/7/9 日本原子力発電、日立の英国の原電事業に協力 

2020年代前半の稼働を目指すが、2基にかかる総事業費を現時点で約190億ポンド(約2.6兆円)と想定。日立が総事業費の1割程度、英国政府が25%以上を出す案が出ている。

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東芝は2014年1月15日、スペイン大手電力会社Iberdrola S.A.から、英原子力発電事業会社NewGeneration (NuGen)の株式50%を、GDF Suez から同社保有のNuGen社株式10%を、それぞれ譲り受けると発表した。取得額は総額で約1億ポンド。

NuGenは東芝 60%、GDF Suez 40%の出資となる。

NuGen は、英中部Sellafieldで合計出力360万キロワットの原発建設を予定している。

Westinghouse Electric のAP 1000 を3基建設する予定。東芝は 原発設備を納入した後に経営権を売却することを想定しているとされている。

2013/12/27 英国が原発建設再開、固定価格買取制度導入、東芝と中国企業が計画に参加

オバマ米大統領は12月20日、北極海と大西洋の一部で石油と天然ガスの新規掘削を無期限に禁止するとの決定を下した。
外縁大陸棚法(Outer Continental Shelf Lands Act )2条(a) によるもの。

1953年の外縁大陸棚法(Outer Continental Shelf Lands Act )で、外縁大陸棚(米国領の大陸棚でありながらも、どの州にも属していない地域)の鉱業権のリ ースについては連邦政府の権限が確立し、内務省の管轄の下、公開入札によって 鉱区のリースが行われる。

アラスカ地区の外縁大陸棚:

2条(a)では、一部の資源区域をリース・掘削の対象から除外する権限を大統領に認めている。

The President of the United States may, from time to time, withdraw from disposition any of the unleased lands of the outer Continental Shelf.

ホワイトハウスによると、海洋生物などの環境を保護するのが目的で、Chukchi Seaの米管轄海域全域やBeaufort Seaの大半などが対象。(既に認められた地域は除く)

カナダもこれに合わせ、北極圏のカナダ海域全域を今後の洋上石油・ガス権益リースの除外区域に指定した。5年ごとに見直す。

オバマ大統領は、「両国の高い安全基準をもってしても、同海域への油流出リスクは非常に高く、厳しい自然条件下でわれわれが流出油を除去できる力は限られるとの科学的な評価に基づく」と説明した。

オバマ大統領はこれまでも大統領令によって北極海や太平洋、大西洋での新規掘削を制限してきており、先月には北極海の一部で今後5年間、新たな掘削権益の許可を停止すると発表した。

オバマ政権は11月18日、北極海地域にある外縁大陸棚での石油とガス採掘を来年から5年間禁止することを決めた。2017年から2022年まで5年間の開発計画の許認可の審査が進んでいたが、Beaufort と Chukchi seas については開発許可を出さないことを決めた。アラスカでは対象となっていた3区域のうち、Cook Inlet の開発は認められた。

今回は、法律を無期限に適用するという形になるため、簡単に覆すことができない。トランプ次期大統領はエネルギー開発の推進を掲げているが、この法律にはこれを取り消す条項はなく、覆すには法廷で争うしかないが、何年もかかるとみられている。

オバマ大統領が掘削を禁止した区域は、アラスカ沖のChukchi SeaBeaufort Seaの大半、北東部ニューイングランドからチェサピーク湾までの大西洋海域。

禁止区域は北極海で115百万エーカー、大西洋岸で3.8百万エーカーに及ぶ。

これらの地域で既にリースされているところと、Beaufort Seaの沿岸部は禁止の対象外。


米石油業界はこの動きに強く反発し、米国がエネルギー生産の大きなチャンスを逃して今後何十年も外国に依存することになると主張している。
業界団体「米国独立系石油協会(IPAA)」の幹部は、任期切れを1カ月後に控えた大統領が「環境過激派の要求に屈した」と非難した。


Ronald Trump は10月下旬に、大統領に選ばれた場合の公約 "Donald Trump's Contract With The American Voter" を発表した。

大統領就任の1日目に、米国の労働者保護のため、7つのアクションを行うとし、NAFTA再交渉、TPP離脱等を挙げているが、そのなかにエネルギー関連がある。

5) シェール、原油、天然ガス、クリーンな石炭など50兆ドルものエネルギーの開発への制限を取り除く。

6) Obama-Clinton が停めた Keystone Pipelineなどのエネルギー関係のインフラ計画を進める。

7) 国連の気候変動計画への数十億ドルの支払を取り止め、その資金を米国の水と環境のインフラの補強に使用する。

2016/11/11 トランプの公約 

オバマ大統領は自身の政策を守るため、最後に強力な手を打ったことになる。


なお、米政府は2015年8月17日、ShellのChukchi Sea の6カ所での石油や天然ガスを掘削を最終承認したが、Shellは
9月28日、チュクチ海のBurger J 油田の探査活動を停止したことを発表した。「バーガーJ 油田の採掘活動の結果、石油とガス田の発見に至ったが、今後も掘削を続けても十分な埋蔵量を持つ油田の発見に至る十分な保証を得ることはできないことが判った」としている。

2015/5/26  米、シェルの北極海での石油開発を承認


WHOは12月23日、西アフリカを中心に流行したエボラ出血熱について、カナダ政府が開発したワクチンが予防に高い効果を示したと発表した。
昨年の臨床試験で効果が確認できており、WHOは「致死率の高さで知られるエボラ熱の感染を防ぐ最初のワクチンだ」として早期の実用化に期待を示している。

データは12月22日付のThe Lancet で報告された。
  http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)32621-6/fulltext

このワクチンはPublic Health Agency of Canadaが最初に開発した rVSV-EBOV で、NewLink Geneticsの100%子会社のBioProtection Systemsが独占実施権を得た。

FDAは2014年9月、これをエボラワクチン候補のフェース1の臨床テストを承認した。 エボラウイルスに感染した動物のテストでは好結果を得ており、FDAは人間での臨床テストを承認した。

フェース1の安全試験実施に当たり、国防総省の国防脅威削減局(DTRA) と Walter Reed 陸軍研究所 (WRAIR)と協力している。

BioProtection Systemsは8月にDTRAから臨床試験に先立つ追加の毒性試験目的で100万ドルの資金提供を受けている。


米 Merckは2014年11月24日、NewLink Geneticsとの間で
rVSV-EBOV について研究、開発、製造、販売のグローバルの独占実施権を受けるライセンス契約を締結したと発表した。

Merk は2015年7月31日、WHO等が進める臨床試験の中間結果で、上記ワクチンが予防に100%の有効性を持つことが確認されたと発表した。

2014/10/29 エボラ出血熱ワクチンの開発進む 

ーーー

rVSV-EBOVの臨床試験はWHOがギニアの保健省、国境なき医師団、ノルウェー保健省その他の協力を得てギニアで実施した。

2015年に11,841人でテストを行ったが、ワクチンを接種した5,837人は、誰もエボラにかからなかった。逆にワクチン接種をしなかったグループでは23人がエボラにかかった。

これにより、rVSV-EBOVが予防に高い効果を持つと判断した。

現在、子供やエイズ患者などへのワクチンの安全性についてさらなる研究を行っている。


エボラは1976年に最初に見つかったが、2013-2016年の西アフリカでの大流行で11,300人以上が死亡し、ワクチンの必要性が叫ばれた。

富士フイルムグループの富山化学が開発した抗インフルエンザウイルス薬「アビガン® 錠200mg」:一般名 ファビピラビル(favipiravir) も、エボラ出血熱に罹患した患者の治療のため、使用された。

2014/9/27 富士フィルム、エボラ出血熱患者に「アビガン」提供 




多額の不良債権を抱えるイタリア第3位の銀行 モンテ・パスキ(Banca Monte dei Paschi di Siena:Monte Paschi)は12月22日、増資と劣後債の株式交換などを通じて50億ユーロを調達する計画は失敗に終わったと発表した。

アンカー投資家としてカタール投資庁(QIA)との間で10億ユーロの増資引き受けを交渉したが、まとまらなかった。アンカー投資家不在となったことで、他の機関投資家が増資を引き受ける見込みがなくなった。

このため、同行は
債務の株式交換計画の撤回も意味すると表明。20億ユーロを確保したが、提供された債券は返却する。
増資などに関与したJPMorganMediobanca などのアドバイザーに対し手数料は支払わないとし ている

増資とともに不良債権の売却も計画していたが、増資が失敗に終わったことで不良債権売却も進めることができなくなった。

Monte Paschiの自主再建の失敗を受け、イタリア政府は12月23日未明の閣議で、民間銀行支援のための200億ユーロの基金設立を了承した。

Monte Paschiは直ちに資本注入を要請した。イタリアでは過去最大規模の銀行国有化となる。


付記

Monte Paschi は12月26日、欧州中央銀行(ECB)が同行について88億ドルの資本不足を指摘したことを明らかにした。

50億ドルの調達で自力再建を目指したが、財務基盤が一段と悪化した。

ーーー

イタリア大手銀行のMonte Paschi は7月4日、欧州中央銀行(ECB)から不良債権比率を下げるように求める書簡を受け取ったと発表した。不良債権の総額を昨年の469億ユーロから2018年までに約30%削減するように求められた。

イタリア政府は公的資金注入による救済の検討を始めたが、EUが定めた銀行再建ルールが障碍となった。

金融危機を受け、EUでユーロを使う国々は各国でばらばらだった金融行政を一元化する「銀行同盟」を進めた。
銀行の破綻処理のルールも1月から施行し、まず銀行の債券などを持つ投資家に一定の割合の損失を負わせることにし
(Bail-in 制度)、公的資金の利用を制限する仕組みにした。

しかし、イタリアでは銀行の債権者に個人投資家も多いため(個人が銀行債を預金に近い感覚で購入している)、このルールを適用すれば大問題となる。

Monte Paschi の劣後債は45億ユーロある。内訳は次の通りで、保護されない側の大半が個人である。

保護の順序 保有者 金額
Tier 1 best-protected 機関投資家等 21億ユーロ
Tier 2 中間 大部分が個人 20億ユーロ
Tier 3 least-protected 機関投資家等 4億ユーロ

このため、イタリア政府は欧州委員会に特例を求め たが、欧州委やドイツは、導入したばかりのルールを破ることに難色を示した。

さらに、欧州銀行監督機構(EBA)は7月29日、大手51銀行(EU:50、ノルウェー:1)を対象に実施したストレステスト(健全性審査)の結果を公表した が、Monte Paschi は、景気が大幅に悪化した場合、中核的自己資本比率 (Tier 1)が唯一マイナス(-2.44%) で最悪となり、同行の経営基盤の脆弱さが突出した。

Monte Paschiは7月29日、資本増強や不良債権売却を柱とする再建計画を発表した。

JPMorgan とイタリアのMediobanca が主導でまとめた案で、まず92億ユーロの不良債権を証券化する。その後、再建策のとりまとめを手掛けたJPMorgan、Mediobanca などの銀行団を引受先に最大50億ユーロの増資を年末までに実施するというもの。

不良債権の証券化については、政府の呼びかけで同国の銀行や保険会社が参加した民間投資ファンドが一部を引き受け、残りは既存株主などに売る。
Monte Paschi は不良債権を簿価の33%で売却することを決めた。

2016/8/1 欧州銀行監督機構の欧州の銀行の健全性審査とMonte dei Paschi 銀行の再建策 

欧州中央銀行(ECB)は増資を年末までに完了することを求めた。


イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票は12月4日開票され、改正案は賛成 40.89%、反対 59.11% で否決された。

これを受けて、改憲を推進していたレンツィ首相は引責辞任した。

憲法改正案が否決され、首相が辞意を表明したことから政治的不透明感が高まり、Monte Paschi の資金調達が難しくなった。

Monte Paschi はECBに対して増資計画の完了期限を3週間延長し、2017年1月20日とするよう要請したが、ECBはこれを拒否した。

ECBは、期限延長により同行の流動性、および資本比率が一段と悪化する可能性があり、存続に対するリスクとなる恐れがあると説明。
増資計画を1月に延期することで市況が改善するとの保証もないとの考えを示した。

ーーー

イタリア政府は、Monte Paschi の国有化について、詳細は今後詰めるとするが、概要は明らかにした。

4万人の小口投資家が保有するTier 2の劣後債については、購入時にリスクを認識してなかったとして保全する方針で、額面で株式に転換する。逆に機関投資家などが保有する Tier 1 債は額面の75%で株式に転換する。

個人の損失回避のため、強制転換された株式を普通社債とスワップし、この株式を政府に売却する仕組みも導入する。

政府による資本注入のほか、流動性への対応として借り入れへの保証も行う可能性を示した。

こうした投資家保護は、厳格に救済ルールを適用すると金融システムに深刻な悪影響を及ぼす場合や、救済額が少額の場合、当該銀行が他の方法ですでに資金を得ている場合にのみ認められる。

政府は保護の対象を小口の投資家に限定することで欧州委員会の理解を得る狙いとみられるが、今後の例となるため、EUがどうするか注目される。

 

Dow は最近の株価高騰で長年の課題であった優先株の普通株への転換に成功する。

12月15日の株価が転換価格に到達したため、40億ドルの優先株を12月30日付で普通株に転換すると発表した。



Dowは2009年4月1日にRohm & Haasの買収を完了した。

2009/4/3 ダウ、Rohm & Haas の買収を完了

Dow はR&H 買収資金の188億ドルを、つなぎ融資130億ドルと、Warren Buffett のBerkshire Hathaway Inc. からの投資 30億ドル、Kuwait Investment Authorirty からの投資10億ドルで賄うことにした。

同社はクウェートのPICとの米国石油化学合弁 K-Dow Petrochemicals 設立で、事業売却額マイナス出資で75億ドル、配当15億ドルで、合計90億ドル(税引後では70億ドル)を受け取ることとなっており、これでつなぎ融資の一部を返済する予定であった。

しかし、2008年12月28日にこのJVが設立寸前に破談となった。このためDowは多くの事業の売却に踏み切ることとなる。

2008/12/29 ダウと、一転破談に  

なお、DowはPICから2013年5月に22億ドルの損害賠償を受け取っている。

2012/5/25 Dow、石化JV中止問題での調停で勝利、21.6億ドルを獲得

Buffett とKIUは2009年4月にそれぞれ30億ドル、10億ドルの優先株を購入した。

2009年時点では金融危機で米国のFF金利は2007年8月までの5.25%から暴落し、0%になっていたが、Dowは8.5%という高金利を払わざるを得なかった。

年間の利払いは255百万ドルと85百万ドルの合計340百万ドルに達し、これがそれ以降今まで続いていた。

契約では、2014年4月以降に、株価が取引日30日のうち20日間、53.72ドルを超えた場合に転換できることとなっている。一時的に超えた日は何回かあったが、継続して超えることはこれまでなかった。(Dowは、誰かが空売りして株価を抑えているのではと見ていたとされる。)

転換により、BuffettにはDowの普通株約6%、KIUには約2%を渡す。普通株への転換により、配当は年間 180百万ドル(1株 1.84ドル)に減少する。

Dowは2009年に大幅な減配としたが、その後順次増配し、現在では以前の水準を超えている。


Buffettの場合、普通株 72.6 百万株、現時点の時価で約42億ドル分を受け取る。Buffettはこれを売却すると思われる。

Berkshire は2009年末には5つの大会社の優先株を持ち、配当だけで年間21億ドルを稼いでいた。




日ロ経済協力

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12月16日の 日ロ首脳会談にあわせて、8項目の経済協力プランに沿って、両国の企業の間でエネルギー分野を中心に当初の見込みの2倍近い68件のプロジェクトの覚書などが交わされた。

政府関係者によると、日本側の総額は約 3000億円規模となる見通しだという。

8項目の経済協力プラン:

(1)健康寿命の伸長
(2)快適・清潔で住みやすく,活動しやすい都市作り
(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大
(4)エネルギー
(5)ロシアの産業多様化・生産性向上
(6)極東の産業振興・輸出基地化
(7)先端技術協力
(8)人的交流の抜本的拡大

主な内容は次の通り。

エネルギー関連:

1) Gazprom 下記の契約を締結

① 三井物産

Sakhalin II 拡張、LNG bunkering (船舶へのLNG燃料供給)を含む戦略的協力協定

② 三菱商事

Sakhalin II LNG plantの第3系列追加を含むLNG部門での協力についての戦略的協力協定
また、現在のLNG計画に限らず、いろいろな事業分野での協力拡大も。

(三菱商事発表)
これまでの両社の信頼関係をさらに発展させ、エネルギー事業分野での協業のみならず、資機材調達など幅広い分野を対象に、更なる協業を検討

 国際協力銀行(JBIC)

日本企業が参加する Gazpromの計画への資金確保の原則の覚書


参考 Sakhalin II
プロジェクト

事業主体 Shell 55%→27.5%-1株
・Gazprom 0%→50%+1株
・三井物産 25%→12.5%
・三菱商事 20%→10%
投 資 額 200億ドル
開発鉱区 ピルトン・アストフスコエ、ルンスコエ
推定可採
埋蔵量
①原油 10億バレル
②天然ガス 4,080億立方メートル

<石油>プリゴロドノエまでパイプラインで運搬後、新設港湾よりタンカーで日本等へ輸出
<ガス>プリゴロドノエまでパイプラインで運搬、液化後、LNGをタンカーで輸出  

2007/1/9 サハリン2計画 再スタートとその背景

2) Rosneft と 丸紅、国際石油開発帝石、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)

ロシア・サハリン島南西海域における炭化水素の共同での探査・開発及び生産に係る協力基本合意

経済産業省資源エネルギー庁が所有する物理探査船「資源」を本海域の一部において活用することや、JOGMECの「知見活用型構造調査」のスキームを活用することも検討。

地質調査や探鉱を進め、2020年代後半以降の本格生産開始を目指す。サハリン北東部のSakhalin II と並ぶ大型のLNG事業に育つ可能性がある。

日本勢は最終的に上流権益への出資比率を3分の1程度確保したい考え。


3) 丸紅、三菱重工、Rosneft

極東でのワールドクラスのガス化学設備建設のFS実施の協力協定

4) 丸紅、Novatek(ロシア民間最大のガス生産販売会社)

石油ガス分野での協力を目的とした覚書を締結。

Novatekがロシア北極圏ギダン半島にて計画する新規の北極 LNG-2プロジェクトの上中流開発、LNG 取引及び輸送、ガス関連インフラの開発、石油製品取引に関する協業機会を検討する。

5) 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) とイルクーツク石油 (Irkutsk Oil)

東シベリア地域における新たな共同探鉱事業創設、油ガス田の生産性向上に資する共同スタディ実施等に向けた覚書

JOGMECは、2003年1月の日露首脳会談で採択された「日露行動計画」、その後2007年6月の日露首脳会談での「極東・東シベリア地域での日露間協力強化に関するイニシアティブ」に基づき、極東・東シベリア地域における探鉱促進による我が国への石油供給源の多様化ならびに日露民間企業の協力促進の一環として、2007年からINKと共同で地質構造調査事業を実施した。

これまでの探鉱作業により、複数鉱区で原油・ガスを確認しており、一部鉱区での発見油田については、テスト生産を経て、現在、開発・生産段階への移行をロシア当局に申請中であり、2016年末までの承認取得を見込んでい る。

今回、隣接地域に連携を広げる。

Irkutsk Oil は、イルクーツク州で最大の上流開発会社で、主な事業は原油・コンデンセートの生産販売。イルクーツク州およびサハ共和国(ヤクーチア)を中心に23の探鉱・生産ライセンスを保有。

6) 日揮

サハリン州政府と超小型 LNG の事業可能性を探る調査に向けて覚書を交わす。
年産12千トンの液化設備をサハリン東部に設け、LNGを同州西部に運んで家庭や産業向けに供給する。
ガスパイプラインの設置が難しい地域もあり、液化して輸送することで、これまでディーゼルや石炭だったエネルギー源を多様化する。


極東地域の産業振興:

1) 双日、日本空港ビルデング、海外交通・都市開発事業支援機構、ロシア連邦ハバロフスク空港会社

ロシア連邦極東地域に所在するハバロフスク国際空港において新旅客ターミナル整備運営事業を共同で実施するための協議を更に推進することを確認した。

2) 北海道銀行などが出資する「北海道総合商事」や、野菜の栽培施設の建設などを手がける「ホッコウ」

極東のサハ共和国の首都ヤクーツクに 1000平方メートルの温室ハウスを建設し、9月からトマトの試験栽培に取り組んできたが、事業化のメドが立ったことから、今の30倍あまりにあたる3.2 ヘクタールのハウスを新たに建設することで合意した 。

医療・健康分野:

1) 三井物産

① ロシアの食糧大手 Rusargo と資本・業務提携をめざす覚書を交わす。出資額は数十億円とみられる。

Rusagro は穀物や食用油、畜産を手がけ、2015年度の売上高は約1400億円 で、ロンドン証券取引所に上場している。

経営ノウハウや日本の農業技術をRusagro に提供し、アジアやロシア国内での販売拡大を後押しする。既に出資するロシアの食用油と穀物を扱う企業との相乗効果も探る。

② ロシアの製薬大手R-Pharm に出資したうえで医薬品の販路拡大などで提携

R-Pharm はインドなどの製薬会社からライセンス供与を受けた医薬品を製造する。

三井物産は150億~200億円を投じて株式の約10%を取得する見通しで、提携によって医薬品の種類を増やし、海外の販路も開拓する。

なお、富士フイルムは、12月14日、ロシア有数の製薬企業であるR-Pharm JSCと、ヘルスケア領域を中心に包括的な事業提携を進めることで合意したと発表した。

先端技術の分野:

1) 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、Ruselectronics(ロシア最大級の国営企業 Rostecの子会社)

リチウム資源開発に関する覚書を締結。

Ruselectronicsのリチウム回収技術を用いて塩湖からリチウムを回収する事業について、JOGMECが日本企業との橋渡し役を務める内容。

2) 富士通、ロシアのソフトウェア大手アビーなど

AI (人工知能) を使った文書管理のシステム開発で協力

出光興産は12月19日、公取委の承認を受け、シェルから昭和シェル株式 31.3% を158,978百万円(1株当たり1,350円)で取得した。

当初、33.3%を169,103百万円(1株当たり1,350円)で取得すると発表していたが、出光興産と昭和シェル石油の合併に反対している出光創業家が昭和シェル株式を0.1%強を取得したと表明しており、出光興産の昭和シェル株式購入はこれを合わせると 1/3 を超えることとなり、TOBが必要となる。

2016/8/5 出光創業家、合併阻止へ強攻策 

今回、これを避けるため、購入株数を減らした。

これで出光興産は昭和シェルの親会社となったが、当初の目的の合併は、親会社の反対で見通しがつかないままである。(出光興産と昭和シェルは10月13日、2017年4月1日に予定した統合を延期することを決めた。)

創業家側は出光興産の議決権の33.92%を握っており、総会決議で拒否権を持つ。

日章興産 * 16.95%
出光文化福祉財団 7.75%
出光美術館 5.00%
(小計) (29.70%)
名誉会長 * 1.21%
長男 * 1.51%
次男 * 1.51%
合計 33.92%

創業家側は8月8日、上記*の共同保有の届出を行った。21.18%となる。


出光興産の創業家の反対を受け、出光興産と昭和シェル石油の合併の件は頓挫しているが、両社は先行して資本・業務提携する調整に入ったと報じられた。

互いに2割前後の株式を持ち合い、製油所や石油製品の物流などの一体運営を始めるというものである。

しかし、合併に反対する出光創業家を刺激する恐れがあるうえ、出光が自ら出資比率を下げることに対し、「自社の利益を損ない、役員の責任が法的に問われる」と社内から問題視する指摘が出たため、断念した。

ーーー

相互出資案は12月7日付けの日本経済新聞が伝えた。

両社は合併に向け、公正取引委員会による審査を受けているが、公取委からの承認を得た後、下記により、資本業務提携を行う。

出光はRoyal Dutch Shell から33.24%の昭和シェル株を取得する。

しかし、このうち8%超の株式を信託銀行に預けることで、議決権ベースの出資比率を25%未満に抑える。

一方、昭シェルは2割程度の出光株を取得する。
取得方法など詳細は今後検討する。(市場での取得、出光による第三者割当増資の引き受けなど)

具体例は下記の通り。


合併は株主総会の決議案件で、33.92%の出光株を持つ創業家が反対すれば合併はできない。
しかし、今回のような資本業務提携なら、総会案件ではないため、両社が合意すれば実現する。

会社法では25%以上の株式を保有された会社は、相手先の企業の株式を取得しても議決権が無効になる規定がある。
25%未満にとどめることで、互いに議決権を持ち、両社の資本提携となる。

株式の持ち合いと並行し、国内に7カ所ある製油所の一体運営や、約7000カ所の給油所への製品供給などで提携する。
合併では年500億円の統合効果を予想するが、事業提携で年300億円程度の収益改善を見込む。

両社の幹部は「合併を目指す方針に変わりはない。まず業務提携で効果を先行して出していきたい」としていた。

ーーー

これに対し、創業家側は早速反論した。

1) 信託銀行への委託

議決権行使について信託銀行に委託する形式により金融商品取引法の公開買付義務を回避しようという意図のようです。

しかし、これは金融商品取引法の公開買付義務を形式的に潜り抜けるための、いわゆる脱法行為の実現を目的とした信託であり、正当な信託目的が認められません。
信託期間についても創業家と合意できるまで、という通常の信託契約では考えられない定めになると推測され、このような信託は、全うな信託銀行であれば、受託しないと考えられます。

また出光興産の経営判断の観点からも、議決権を行使しない昭和シェル石油株式8%を数百億円も拠出して取得する合理性は認められません。

2) 昭和シェル向けの増資の場合(市場で20%の取得は難しい)

合併という会社の根幹にかかわる事項に関し、見解が異なる状況下での増資は、株主の反対により株主総会で決議できない合併議案を、取締役らが合併に賛同する者に対し議決権を付与して合併議案を通そうというものであって、到底承服できません。
そのような増資をする場合は、発行差止のための法的措置を講じます。


出光興産は、昭和シェル石油との合併を目的に、同株式を取得したが、後日、合併に必要な株主総会の決議が可決できないことを認めざるを得なくなった経緯です。しかし、同株式の取得契約を解除すると多額の損害賠償が生じ責任を問われかねないために、これを履行するための方便として、今になって事業提携を持ち出さざるをえなくなったと考えられます。
以上のとおりですので、出光興産は、本日の報道の内容を、今後実行されることはないと考えております。


公取委は、出光興産による昭和シェル石油の株式取得と JXホールディングスによる東燃ゼネラル石油の株式取得について、そのままでは競争を実質的に制限するとみなした。

しかし、当事会社が申し出た問題解消措置を講じることを前提とすれば、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認め、12月19日に排除措置命令を行わない旨の通知を行い、本件審査を終了した。

1 出光統合:出光が昭和シェルの議決権をShellから20%を超えて取得することを計画しているもの。

2014/12/22 出光興産、昭和シェル買収へ 

2 JX統合:JXホールディングスが、東燃ゼネラルの議決権を50%を超えて取得することを計画しているもの。

付記 両社は12月21日、それぞれ臨時株主総会を開き、議案とした両社の経営統合案を賛成多数で承認した。

2016/9/2  JXホールディングスと東燃ゼネラル石油、経営統合の最終合意

出光統合については、本日の別記事参照。

JXと東燃は2017年4月1日の統合に向け、準備を進める。

2016/9/2  JXホールディングスと東燃ゼネラル石油、経営統合の最終合意


公取委の判断と、当時会社が申し出た問題解消策は次の通り。

1) プロパン

出光が51%出資するアストモスエネルギー、JXの子会社 ENEOSグローブ、ジャパンガスエナジーと昭和シェル及び東燃ゼネラルが各25%を出資するジクシスが、それぞれLPガス元売業を行っている。

統合により、ジクシスにJXの統合会社の出光の統合会社が出資することとなる。


対策は次のとおりで、JX統合会社はジクシスから離脱、出光統合会社も支配権をなくす。

出光統合会社  昭和シェルが保有するジクシス株式について、出資比率を20%に引き下げる
           会社法上認められる権利を超えた権利を行使しない

JX統合会社  東燃ゼネラルが保有するジクシス株式全ての譲渡

いずれも、ジクシスに対する工場生産品の供給を継続する、設備の賃貸を継続する(or 基地提供を継続する)が、情報遮断措置の実施に係る措置を採る。

2) ガソリン、灯油、軽油及びA重油

いずれもシェアが高まり、
①競争事業者の数が減少すること、
②同質的な商品であり、販売条件について競争する余地が少ないこと、
③コスト構造が類似すること、
④業界紙による通知価格の掲載等により、各石油元売会社は適時に他社の通知価格の変動状況等に係る情報を入手できることから、互いの行動を高い確度で予測できるようになると考えられる事情が認められる。

【平成26年度におけるの市場シェア】

ガソリン 灯油 軽油 A重油
JX 約35% 約35% 約35% 約40%
東燃ゼネラル 約15% 約15% 約10% 約10%
昭和シェル 約15% 約15% 約15% 約15%
出光 約15% 約20% 約20% 約25%
他社 約10% 約10% 約10% 約15%
他社 0-5%
その他 0-5% 約5% 約10% 0-5%
合計 100% 100% 100% 100% 
合わない

  

  問題解消策は次の通りで、輸入の障害を取り除き、輸入をしやすくするもの。

(1) 輸入促進措置(備蓄義務の肩代わり)
油種ごとに、石油元売会社以外の事業者によって輸入される数量が内需の10%に相当する数量になるまで備蓄義務の肩代わりを行う。

(2) 輸入促進措置(不利益取扱いをしないことの確約)
当事会社は、取引先に対して、主燃油の輸入を行ったことを理由として、主燃油の販売取引において不利益を与えないことを公取委に確約し、その旨周知する。

 その他の問題解消措置(競争事業者の競争力維持のための措置)

公取委は、競争事業者とのバーター取引の解消等により、競争事業者からの競争圧力が減少するおそれがある旨の問題点を指摘した。
これに対し、競争事業者の競争力を維持するため、当事会社からは現行のバーター取引の維持等に係る措置の申出を受けた。

日本とEUはEPA(経済連携協定)の年内の大枠合意を目指し交渉を続けてきたが、断念した。

安倍晋三首相は12月9日の参議院のTPP 特別委員会で、「本年中の大枠合意の実現を目指して精力的に交渉を進める」と述べ、意欲を示していた。

しかし、交渉のため来日していたEUのペトリチオーネ首席交渉官は12月17日、「いくつかの論点で思っていた以上に妥協が難しい状況だ」と述べ、双方の溝が埋まらないまま終了したことを明らかにした。

交渉では日本はEUに、自動車に10%、テレビに14%かかる関税の即時撤廃を要求、EUはチーズや豚肉、ワインなどの関税引き下げを求めていたが、難航した。

EU側は、日本製の自動車を巡っては「関税撤廃の準備はある」としたが、日本がEU産農産品の関税を撤廃することと「バランスが重要だ」と述べた。EUが日本に輸入自由化を求める豚肉に関しては今回の交渉で「大きな進展があった」と表明しているが、チーズについては「より問題が複雑だ」として決着が難しい段階にあると示唆した。

EU側は「来週以降も合意に向けて作業を進め、来年初頭にも残る課題の解決を目指したい」としているが、来年はフランス大統領選など欧州主要国で重要な選挙があり、欧州側の政治決断は難しくなるため、しばらく進展しない可能性もある。

EUは圏内人口5億人で、世界のGDPの2割を占める巨大市場。日本の輸出入総額の約10%を占め、中国、米国に続き第三位を占める重要な貿易相手で、日本にとっては米国に次ぐ第2位の投資先であり、また、日本への投資元として、EUは第1位。

ーーー

韓国とEUは2010年10月6日、自由貿易協定(FTA)の締結で正式署名、2011年7月1日に発効した。

双方は、相手地域で生産した自動車・冷蔵庫・カラーTVなど工業品に対しFTA発効5年以内に全関税を撤廃することで合意した。
EUの関税は、自動車で10%、テレビで14%と高率で、関税撤廃による韓国企業の輸出拡大が予想される。

工業製品関税については、原則 5年間で関税を完全撤廃。
  自動車部品は協定発効と同時に関税を撤廃、
  中大型乗用車は3年、小型自動車は5年内に撤廃
韓国は例外として40余りのセンシティブ品目について7年内の関税撤廃。
 (関税率が16%のその他機械類、純毛織物など)

見返りとして、農業品などの関税撤廃についても大部分は合意した。
韓国政府は、期間10年、総額270億ドルの国内農家向け支援策をまとめた。

EU産ワインは、直ちに撤廃
EU産豚肉に対する関税は、冷蔵肉全体とバラ肉冷凍肉は10年以内に、その他の部位の冷凍肉は5年以内に撤廃。

但し、韓国のコメ市場は開放しない。トウガラシ、ニンニク、タマネギも「主要調味料」として関税を据え置く。

韓国の自動車メーカーと部品メーカーの輸出競争力が飛躍的に高まる。
まず、エンジン、変速機など大半の部品に対する関税(現行 2.7-19%)が撤廃され、欧州の自動車メーカーは韓国製部品の調達を増やすものとみられる。

自動車メーカーの輸出の伸びも見込まれる。既に強力なブランドを持ち、ウォン安の追い風を受けている現代自動車など韓国のライバル企業が一段と有利になる。

逆に、ドイツやフランスなどが強みとする精密化学、機械分野では、欧州製品の攻勢で韓国企業が打撃を受ける見通し。医薬品、医療機器などの輸入も増えるとみられる。

2010/10/12  韓国とEU、自由貿易協定締結

韓国は米国、EU、ASEAN、インド、チリ、ペルー、コロンビアなどの国・地域との間でFTAを締結し、欧州―東アジア―米国をつなぐ「東アジアのFTAハブ」と自称したが、その後、中国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどとも締結した。

米国、カナダ、EU、中国の大国・地域については、日本はFTAを締結しておらず、差がついている。


その韓国は、英国がEU離脱の交渉を始める前に、早くもEU離脱後の英国との2国間FTA交渉を開始する。


両国は、来年2月に1回目の貿易作業班会議を開き、両国の新しい通商協定を英国のEU離脱と同時に発効させることを目指して協議する。 韓国の産業通商資源部と英国の国際通商省は12月15日、ロンドンで3回目の「経済通商共同委員会」を開いて合意した。

英国がEUから離脱すれば、英国に輸出される韓国製品に対して適用されていた韓国とEUとのFTAに基づく特恵関税が適用されなくなることから、韓国とEUとのFTAを承継する形で、韓国と英国のFTAを早期に締結すべきと指摘する声が上がっていた。

中国商務部は12月12日、同国の「市場経済国」認定を見送った米国とEUをWTOに提訴したと発表した。日本に対しても近く提訴に踏み切るとみられる。

WTOの紛争処理手続きに基づく個別協議を米国とEUに要請、協議が平行線をたどった場合、WTOの紛争処理小委員会(パネル)を設置して判断を委ねることになる。

ーーー

中国は2001年12月にWTOに加盟した。

その際、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてアンチダンピング 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国 (Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。

WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国で、すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能な価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める」と規定している。

この結果、「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。

これまでにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国(2016/2時点)が中国の市場経済国家の地位を認めた。

中国はWTO加盟後 15年が過ぎた12月11日付けで市場経済国に認定される取り決めだと主張してきたが、日米欧は受け入れなかった。

中国は過剰生産設備の解消が遅れ、鉄鋼などのダンピングが世界的に問題視されている。

中国が「市場経済国」になれば、ダンピングの判断は中国の輸出価格が中国国内の価格に比べて安い場合となる。
しかし、国内の設備過剰により鉄鋼製品の国内価格が国際価格よりも大幅に安いため、輸出価格が第三国の国内価格より安くてもダンピングとみなされないこととなる。

中国国内価格 中国輸出価格 第三国国内価格
非市場経済国の場合:

ダンピング認定可

市場経済国の場合:

ダンピングでない

米政府は11月23日、中国を「市場経済国」と認定しない方針を明らかにした。

欧州委員会は11月9日、輸入製品が不当にEU域内で安く販売された場合に適用する、反ダンピング課税の算出に関する制度改正案をまとめた。

WTO上の義務に違反して中国から損害賠償を求められるおそれのある事態を回避し、同時に「市場経済国」として認定することによってもたらされると考えられる安値競争に対抗できなくなるという事態をも回避するために、EU域内での新たな通商上の救済措置を策定することを選択したこととな る。

経済産業省は12月8日、中国のWTOでの立場について、引き続き「市場経済国」と認定しないことを決めたと発表した。

2016/12/1  米、中国の「市場経済国」認定見送り

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中国のWTO加盟の際の協定の15条でこれに関して規定している。

Article VI of the GATT 1994, the Agreement on Implementation of Article VI of the General Agreement on Tariffs and Trade 1994 ("Anti-Dumping Agreement") and the SCM Agreement shall apply in proceedings involving imports of Chinese origin into a WTO Member consistent with the following:

(a) In determining price comparability under Article VI of the GATT 1994 and the Anti‑Dumping Agreement, the importing WTO Member shall use either Chinese prices or costs for the industry under investigation or a methodology that is not based on a strict comparison with domestic prices or costs in China based on the following rules:

(i) If the producers under investigation can clearly show that market economy conditions prevail in the industry producing the like product with regard to the manufacture, production and sale of that product, the importing WTO Member shall use Chinese prices or costs for the industry under investigation in determining price comparability;

(ii) The importing WTO Member may use a methodology that is not based on a strict comparison with domestic prices or costs in China if the producers under investigation cannot clearly show that market economy conditions prevail in the industry producing the like product with regard to manufacture, production and sale of that product.

(d) Once China has established, under the national law of the importing WTO Member, that it is a market economy, the provisions of subparagraph (a) shall be terminated provided that the importing Member's national law contains market economy criteria as of the date of accession.

      In any event, the provisions of subparagraph (a)(ii) shall expire 15 years after the date of accession. In addition, should China establish, pursuant to the national law of the importing WTO Member, that market economy conditions prevail in a particular industry or sector, the non‑market economy provisions of subparagraph (a) shall no longer apply to that industry or sector.

まとめると次のとおりとなる。

Case 輸出価格との対比
Article VI of the GATT 1994 等の適用 すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合
(具体的定義なく、各国が判断)
代替国の価格
中国との条約 (a)(i) 明らかに市場経済条件を満たす場合 中国の価格
(a)(ii) 市場経済条件を満たすとは明確にいえない場合 最初の15年間 代替国の価格
15年経過後 ??(規定がexpire)

問題は、 (a)(ii) の条項が expire した場合で、市場経済条件を満たすとは明確にいえない場合にどうするかが明記されていないことである。 (輸入国が、中国の市場経済を認めた場合は、規定(a) は終了するとしている。)

中国の立場は、15年経過で(a)(ii) が規定する「代替国の価格」適用が無くなり、中国の価格との対比とすべきだということになる。

それに対し、日米欧の立場は、原則の代替国価格とすべきだということになる。
(しかし、それなら、
(a)(ii) が15年経過でexpire するという条項を入れる必要はない。)

WTOの紛争処理小委員会の判断がどうなるかで決まる。

なお、米国では、1930年関税法第771条(18)(B)で、ある国が非市場経済国であるかどうかを判断する基準が決められて おり、これに従って判断するとしているが、国内法よりも条約が優先する筈で、WTOの判断が出れば、これに従う必要がある。


米連邦準備理事会(FRB)は12月13-14日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で1年ぶりに利上げを決めた。

政策金利であるFederal Fund 金利(FF金利)の誘導目標を0.25%引き上げ、0.50~0.75%とした。新たな政策金利は15日から適用する。

利上げはイエレン議長ら投票メンバー10人の全員一致で決めた。

さらに今後、2017年に3回、2018年に3回の利上げを見込んだ。

ーーー

米国は、金融危機に対応するため、2008年11月~2010年6月に量的緩和策 QE1(Quantiative Easing Program-1 )を実施し、1兆7250億ドルが供給された。

米国の景気回復ペースの鈍化を受けて、2010年11月~2011年6月に実施されたQE2では6000億ドルが供給された。

更に、労働市場を刺激して景気を回復させるため、2012年9月にQE3 を開始し、以降、毎月850億ドルの債券買い入れを行ってきた。

2014年1月には、債券買い入れ規模を減らし、量的緩和(QE3)の縮小を継続する方針を決めた。

2014/2/4 米国の量的緩和縮小とその影響 

その後、毎月の債券買い入れを月850億ドルから順次減少させ、2014年11月には買い入れをゼロとした。

そして、2015年12月16日に、米経済は2007-09年の金融危機による打撃を概ね克服したとの認識 に立ち、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を 0%~0.25% から0.25%~0.50% に引き上げ、2016年中に4回の利上げを予想した。

今後の利上げの条件としては、「雇用情勢」と「物価」を挙げた。

2015/12/17 米国、利上げ

当初、2016年に4回の利上げを想定したが、5回開催された連邦公開市場委員会ではいずれも見送られた。

8月26日にJanet Yellen FRB議長がJackson Hole Economic Policy Symposium での講演で、「米雇用が改善し、追加利上げの条件は整ってきた」と述べたことで米国の利上げ観測が強まった。

2016/8/29 米国の利上げ観測強まる

9月は利上げを見送ったが、年内の追加利上げに意欲を示した。3人の委員が利上げを主張した。

11月 は利上げの条件は整ってきたとしつつも、米大統領選挙の結果などを見極める考えを示唆した。8名がこれに賛成し、2名が利上げを主張した。

ーーー

今回の声明文では「労働環境と物価上昇率の実績と見通しに鑑みて、政策金利を引き上げると決断した」と強調した。

米国の2016年第3四半期のGDPは、速報では年率 +2.9% であったが、確定値は 3.2% となった。

付記 12/22 発表の最終確定値は更にアップし 3.5%


米労働省が12月2日に発表した11月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が 178千人増となった。失業率は4.6%と、約9年ぶりの水準に改善した。

消費者物価指数の動きは下記の通り。11月実績は前年比+1.7%に上昇した。

 

FRBでは、過去のエネルギー・輸入価格の低下による一時的な影響が消え、労働市場がさらに力強さを増すにつれ、中期的に2%に向かって上昇すると予測する。

欧州のユーロを使う19カ国の金融政策を決める欧州中央銀行(ECB)は12月8日の理事会で、量的緩和政策の実施期間を9カ月間延長し、少なくとも2017年12月末まで続けることを決めた。
ただ、2017年4月から国債などの購入規模を現在の月800億ユーロから月600億ユーロに減らす。

ECBは拡大を続けてきた量的緩和の方向を転換するが、市場の状況などで物価が上がらない場合は、買い入れ規模の再拡大や実施期間の延長をする考えも示した。

ーーー

ECBは2015年1月22日、定例理事会を開き、ユーロ加盟国の国債などを購入し、資金を大量に金融市場に供給する「量的緩和政策」の導入を決めた。

ユーロ圏は物価が下落し続けるデフレの懸念が強まっており、量的緩和はこれを払拭する狙いで、量的緩和の導入は1998年のECB創設以来初めて。

量的緩和政策の概要は下記の通り。

1) 2015年3月から2016年9月末まで、毎月 600億ユーロ、総額1兆1400億ユーロの金融資産を買い取る。

2) ユーロ圏の全加盟国の残存期間2~30年の国債を購入対象とする。購入はECBへの出資比率に応じて行う。

3) 購入した国債の信用が低下し、国債価格が急落して、ECBに損失が生じた場合、
   損失の2割は全加盟国で分担
   残る8割は、国債を発行した国の中銀が負担。

4) ギリシャの場合、EU、ECB、IMFの3機関で構成する国際債権団がまとめた支援プログラムの条件を順守する必要がある。

ーーー

2016年4月、買い入れ規模を当初の月600億ユーロから月800億ユーロに増額した。

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当初案では量的緩和は2016年9月末までとなっていたが、ECBは2016年9月8日、3つの政策金利の据え置きと量的緩和(QE)プログラムの現状維持を発表した。

主要政策金利であるリファイナンスオペの最低応札金利を0.00%で据え置く
下限政策金利である中銀預金金利はマイナス0.4%、上限政策金利の限界貸出金利は0.25%で維持した。

ECBは2016年3月10日、追加緩和で -0.4%に引き下げた。

資産購入規模は月額800億ユーロの現状を維持し、少なくとも 2017年3月まで実施し、必要に応じその後も継続すると確認した。

いずれにしても、インフレ率が中銀の目指す方向に沿った軌道で持続的な調整が認められるまで続けると表明した。

ーーー

今回、量的緩和政策の実施期間を9カ月間延長し、少なくとも2017年12月末まで続けることを決めたもので、2017年4月から国債などの購入規模を現在の月800億ユーロから月600億ユーロに減らす。

当初期限 買い入れ規模
2015/3~ 2016/9 月 600億ユーロ
2016/4~ 月 800億ユーロ
2016/9 2017/3
2017/4~ 2017/12 月 600億ユーロ

買い入れ規模の縮小を決めた背景には、物価上昇が緩やかに続いていることがある。

ドラギECB総裁は、 原油価格の上昇などに後押しされて物価が上向くと説明。2019年の消費者物価上昇率が1.7%と、政策目標である「2%未満で、その近辺」に近づくとのシナリオを示した。

しかし、ドラギ総裁は「(量的緩和の規模を段階的に縮小して終了する)Tapering は議論していない」と繰り返した。市場の状況などで物価が上がらない場合は、買い入れ規模の再拡大や実施期間の延長をする考えも示した。

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米国は2012年9月にQE3 を開始し、以降、毎月850億ドルの債券買い入れを行ってきたが、2014年1月には、債券買い入れ規模を減らし、その後、毎月の債券買い入れを順次減少させ、2014年11月には買い入れをゼロとした。

そして、2015年12月16日に、米経済は2007-09年の金融危機による打撃を概ね克服したとの認識に立ち、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を 0%~0.25% から0.25%~0.50% に引き上げ、2016年中に4回の利上げを予想した。

2015/12/17 米国、利上げ

その後、利上げを見送ったが、12月13日~14日の連邦公開市場委員会では利上げが決まると予想されている。

経済産業省は12月9日、東京電力の経営再建策を検討する有識者会議「東京電力改革・1F問題委員会」 で、福島第1原発の廃炉や損害賠償・除染などの事故費用が、現状の約11兆円の予想からほぼ倍増し、21.5兆円になるとの試算を公表した。これらの費用を確保するために、東電に原子力や送配電事業の再編・統合を求め、収益力を高めることを明記した。

福島第1原発事故の処理費用の見積もりと、その負担案は下記の通り。(単位:兆円)

従来

今回

負担

増加理由 東電 他電力 新電力
廃炉 2.0 8.0 燃料デブリ取り出し 2.0→8.0
賠償 5.4 7.9 営業損害、風評被害
新たな賠償項目
2.7→3.9 2.7→3.7 0→0.24
除染 2.5 4.0 工事費などの増加 2.5→4.0
中間貯蔵 1.1 1.6 1.1→1.6
合計 11.0 21.5 7.2→15.9 2.7→3.7 0→0.24 1.1→1.6

1) 廃炉費用  東電負担

管理型積立金(東電がコスト削減などによって捻出した資金を原子力損害賠償・廃炉等支援機構機構に積み立て)

2) 賠償費用

当初案 東電を含む原子力事業者が負担

東電がコスト削減などによって捻出した資金を機構に積み

今回案 新電力も負担

増加分は2.4兆円で、経産省は「本来は電力会社が原発事業を始めた時から、事故に備えて一般負担金を積み立てておくべきだった」ものの不足分で、大手から新電力に移行した消費者も含め「過去分」の負担金を請求する。

この分を2020年から40年間、新電力も支払う送電線使用料(託送料)に上乗せし、上乗せ額は電気料金に転嫁される。

新電力負担分を1/10の 0.24兆円とした。40年回収とすれば、年額60億円で、託送料金0.07円/kWh(一般標準家庭で18円/月)となる。

この案には自民党内からも費用の上ぶれなどを懸念する声が出た。このため、経産省は12月12日、託送料に上乗せする上限を2.4兆円にする方針を明らかにした。新電力負担上限は0.24兆円となる。

賠償額がさらに増える場合は従来の負担方法で対応する。

3) 除染費用  東電の株式売却益で充当する。

東電の収益力を拡大し、将来の株式売却益を増やす。

現状年間 0.4兆円の利益を、0.5兆円に。(送配電コスト改革)
更に柏崎刈羽原発 2基再稼動で、0.1兆円

国は1兆円で株式取得、腰を据えて売却益4億円を実現

中部電力との共同発電会社(JRRA)による既存火力も含めた統合
送配電事業の共同事業体設立(共同調達、火力調整電源の共同運用、連系線の共同投資、デジタル化対応、海外展開)
原子力事業の共同事業体設立(共同調達、安全防災の共同投資、廃炉の事業化、海外展開)

付記

政府は12月20日、福島の帰還困難地域に限り、除染をインフラ整備などの公共事業と位置づけ、国が負担することを決めた。3~5千億円を見込む。

4) 中間貯蔵 電源開発促進税を充てる


なお、経産省は12月12日、上記の処理費用のなかに、帰還困難区域の復興拠点の整備費用や、炉内の燃料デブリ取り出し後に生じる廃棄物の処分費が含まれていないことを明らかにした。総額が21.5兆円から更に増加することが確実である。

ーーー

河野太郎衆院議員の「ごまめの歯ぎしり  河野太郎の国会日記」(2016/12/7) は、原発ゼロの会(8党・会派及び無所属の衆参国会議員78名が参加、共同代表:自民党の河野太郎と民進党の近藤昭一) 役員の談話 「東電賠償・廃炉費用、老朽炉廃炉費用の託送料金上乗せについて」を掲載している。


「電 力システム改革貫徹のための政策小委員会」と「東京電力 改革・1F問題委員会」で議論が進んでいる。

国民的議論はもちろん国会の関与も一切ないままに原則を歪めた国 民負担増大案がまとめられるのであれば言語道断である。これまでに提 案されている託送料金上乗せ案には根拠がないか飛躍した 論理が用いられており、そもそも議論の前提となる数字等も十分に公開 されていない。

原発ゼロの会は各種費用の託送料金上乗せに反対するとともに、「原発の後始末費用」については原則に立ち返るべきであると強く主張する。

■ポイント
【総論】
1. 既に東電賠償・廃炉費用は国民負担に転嫁されはじめている
2. 東電債務超過回避のために費用見積りを隠すべきではない
3. 老朽炉の廃炉関係費用の見積りを明らかにすべき

【東電賠償・廃炉費用について】
4. 原賠機構一般負担金「過去分」はあり得ない
5. 「使用済燃料再処理等既発電費」の前例を悪用すべきではない
6. 1F廃炉費用の託送料金上乗せの根拠がない
7. 1Fへの廃炉会計制度(廃止措置資産)適用には歯止めがない
8. 東電破綻処理、株主・貸し手責任の完遂が前提

【老朽炉の廃炉費用について】
9. 「安全神話」の反省がない
10. ベースロード電源市場とのバーターにすべきではない
11. 廃炉促進の特別法で分割償却を担保すべき
12. 託送料金上乗せは電力会社に不当な損益改善効果
13. 会計制度を歪めるべきではない
14. 「原発は安い」というコスト計算に意味はない


「そもそも、事故リスクを過小評価し、事故費用の備えを怠ったどころか、 リスクに備えると原発が危険だと思われる恐れがあり、また投資に金が嵩 むことから、賠償費用の備えをせず安全投資も抑えた国及び電力会社 の甘い判断の問題である。『安全神話』を流布させてきた責任を棚に上 げ、賠償の原資不足を電気利用者全員で負担しろと言うような、事故検 証と断絶した費用負担論は認められない。」


OPECとロシアなどの非加盟の主要産油国は12月10日、ウィーンのOPEC本部で閣僚会合を開き、協調減産で合意した。

OPECは11月30日に国別としては8年ぶりの減産で合意した。日量1,164千バレルの減産とし、2017年1月以降の生産枠を32,684千バレルとしたが、非加盟国の参加を減産実施の条件としていた。

2016/12/5 OPEC、8年ぶり減産合意

参加したのは、ロシア、メキシコなど、合計11国で、ロシアが日量300千バレル、メキシコが100千バレルなど、合計558千バレルの減産を約束した。これにより、OPECと合わせて1,722千バレルの減産となる。

参加国と減産量は下記の通り。(千バレル)

ロシア 300
メキシコ 100
オマーン 40
アゼルバイジャン 35
カザフスタン 20
バーレーン 小計  
63
ブルネイ
赤道ギニア
マレーシア
スーダン
南スーダン
非加盟国合計 558
OPEC 1,164
合計 1,722

減産の実施状況を確認するため、アルジェリア、クウェート、ベネズエラのほか、非加盟のロシアとオマーンの5カ国で構成する監視委員会を設置する。


ーーー

OPECと非加盟国の協調減産は2001年以来となる。

OPECは1999年4月以降、減産目標を強化したが、非加盟国のメキシコ、ノルウェーほか4カ国合計で388千バレルの減産を約束した。

その後、2001年12月に、OPECの要請に応じ、アンゴラ、メキシコ、ノルウェー、オマーン、ロシアが合計462.5千バレルの減産を声明、OPECは2002年1月から6ヶ月間、1,500千バレルの減産を実施した。

今回はそれ以来となる。

ーーー

但し、この協調減産により原油価格が一時的に上昇したとしても、その後も上昇が続くかどうかは疑問である。

米国のシェールオイルの生産コストは50ドル台前半にまで下がってきているとされ、シェールの増産で価格が抑えられると思われる。

米連邦最高裁は12月6日、特許権をめぐるAppleとSamsungの裁判について、Samsung に多額の罰金支払を命じた控訴審判決の一部を無効として連邦巡回区控訴裁判所に差し戻した。


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特許訴訟を専門に扱う米連邦巡回区控訴裁判所は2015年5月18日に、SamsungがAppleの複数の特許を侵害したと認定、賠償額は 548百万ドルとなった。

これを受け、2015年12月3日に、Samusung が Appleに548百万ドルの損害賠償金を払うことで両社が合意し、12月14日に支払が行われた。

しかし、Samsung は2015年12月14日、米最高裁判所に上告し、上記の548百万ドルのうちのデザイン特許に対応する399百万ドルについて、意匠に関する権利がどの範囲まで適用されるのか、またどのような賠償を請求できるのかについて指針を示すことを求めた。

2016年10月11日、連邦最高裁でヒアリングが行われた。連邦最高裁が上訴を認める確率は1%にも満たない。
最高裁が意匠に関する訴訟を取り扱ったのは、1800年代にスプーンの取っ手、カーペット、鞍、ラグなどに関するものが最後で、
約120年ぶりとなる。

ヒアリングは Samsung に有利な方向で進んだ。

2016/3/26 米最高裁、Samsung とApple のデザイン訴訟を審理

2016/10/21 Samsung と Apple のデザイン特許訴訟で米最高裁のヒアリング

連邦最高裁は、Samsung による上告のうち、「デザイン特許が製品の1つのコンポーネントにのみ適用される場合、そのコンポーネントに起因する部分に限定して侵害による利益を算定すべきではないか」という点についてのみ上告を受理し、審査した。

デザイン特許に関しては、1887年に制定された特許法289条の規定を根拠に、製品の全体の価値(Entire Market Value:EMV)ルールに基づく算定が現在も行われている。

第289条 意匠特許の侵害に対する追加的救済

(2)特許意匠若しくは実質的に周じ意匠が利用されている製造物品("article of manufacture")を販売した者、若しくは販売のために展示した者は、$250を下回らない総利益を特許権者に支払う責任を負い、当該回収は当事者に対する管轄権を有する合衆国地方裁判所において行われる。

Samsung はこの all-profits rule をスマートフォンのような複雑で多くの部品からなる製品に適用するのはフェアでないと主張した。

控訴審では、スマートホンのfront face やスクリーンは個別に売られていないため、スマートホン全体が "article of manufacture"であるとし、製品の総利益で罰金を計算した。

今回、最高裁はこの考え方を否定し、多くの部品からできた製品の場合、"article of manufacture"は最終製品である必要はなく、その製品の部品であってもよいとした。

第289条に規定する "article of manufacture" は 手作業または機械により製造された物品を示すに過ぎず、最終製品のほかにその部品も含んでいる。

特許法§171(a)では、"design for an article of manufacture" をデザイン特許の対象としているが、特許庁も裁判所判決も、多くの部品でできた製品の特定部品のデザイン特許を認めている。今回の解釈はこれと矛盾しない。

"article of manufacture" 損害賠償のベース
従来の判決 最終製品
(部品は売られていない)
最終製品の総利益
今回の最高裁 販売対象とは限らない。
部品もあり得る。
部品の利益相等分

判決文 https://www.supremecourt.gov/opinions/16pdf/15-777_7lho.pdf

その結果、控訴審による狭い意味での解釈は289条に一致しないとして判決を差し戻し、最高裁の意見に従った判断を示すよう命じた。裁判官 8人全員一致である。


ーーー

Samsung は上告に当たり、「この判例が効力を持った場合に影響を受けかねない大小すべての米国企業のために、米最高裁判所に上訴することが重要であると考えている」と述べているが、多くの企業、団体がSamsung を支持する法廷助言書(amicus curiae)を提出した

Google、Facebook、eBay、Hewlett-Packard、Dell、Vizioなどの各社に加え、スタンフォード大学やジョージタウン大学などの法律専門家、Public Knowledgeや電子フロンティア財団といったNPO、Computer & Communications Industry AssociationやHispanic Leadership Fund などの権利擁護団体がそれぞれ提出した。

いずれもSamsung の要求を支持するもので、 「最近の判決は一部装飾的な特許を違反したとの理由で (スマートフォンのような)複雑な革新製品の全体を侵害したと見なしており、憲法的価値と合わない」と述べ、最高裁に対して、デザイン特許に関する定義を明確にすることや、この特許の侵害に関する賠償金の額を制限することなどを求めている 。

これはSamsungに好意をもってのことでなく、情報技術業界の利益がかかる問題であるためだと見られた。

Samsung は、「今回の記念碑的判決で、市場の公正な競争や技術発展が促進されることを期待する」と述べた。


米上院は12月9日午後11時16分に、2017年4月28日を期限とする連邦政府の暫定予算案を賛成 64票 反対36票で可決した。

昨年とほぼ同レベルの支出を政府に認めるもので、Hurricane Matthew の災害対策など若干の追加を含んでいる。

4月29日以降についての本格予算はトランプ次期政権が発足してから審議する。

現在の暫定予算は12月9日に期限切れを迎えるため、審議が遅れれば2013年10月以来の政府機関の閉鎖の恐れもあった。ギリギリの可決である。

2014年度が開始する2013年10月1日には暫定予算も成立せず、政府機関が一部閉鎖された。

2013/10/1 米国、予算成立せず、政府機関を一部閉鎖

米下院は前日の12月8日に暫定予算案を賛成 326票、反対 96票賛成多数で可決し、既に休暇に入っていた。
(このため、上院で法案を修正しても、下院での12月9日の修正はできない。上院議員の一部はこれを無責任として強く非難している。)

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2016年10月1日から始まる2017会計年度の予算について、12月9日までの暫定予算が決まり、オバマ米大統領は9月29日に署名し、成立した。

2016/10/5 米国、2017会計年度も暫定予算でスタート 

債務上限問題については、2015年10月に債務上限凍結を2017年3月15日まで再び延長して、乗り切っている。

  2015/11/4 米議会、債務上限引き上げと予算案を承認、大統領署名 

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上院民主党は、元探鉱労働者への医療費給付の期限延長を共和党が拒否したことに反発、採決繰延の可能性も出た。

問題は、米国の多くの炭鉱が破産しているが、破産企業の労働組合員の炭鉱夫2万人に対する医療保険が年末に打ち切りになること。

暫定予算案ではこれを来年4月まで延長することとしているが、炭鉱を抱える州の民主党議員がより長期の延長を求め、政府閉鎖を人質にした。
炭鉱夫も議会前でデモをし、議員を訪問し、訴えた。石炭復活をうたい、大統領選で票を得た Trump 陣営にも訴えた。

しかし強硬派はフィリバスターに必要な41票を確保できず、期限切れ直前に暫定予算案を可決した。

フィリバスター制度で、演説を長時間続けて議事妨害することが出来る。
フィリバスターを宣言するだけでフィリバスターが有効となるが、上院の5分の3以上の議員(60人以上)が打ち切りに賛成した場合は、1時間以内に演説者は演説をやめなければならない。

破産企業の労働組合員の炭鉱夫2万人に対する医療保険は来年4月まで延長されるが、それ以降については今後の議論となる。



米国産LNGの初輸入

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東京電力と中部電力の共同事業会社 JERA は12月8日、米国産LNG 約7万トンを2017年1月初旬に輸入すると発表した。

JERAは、燃料上流・調達から発電まで火力発電事業のサプライチェーン全体に係る包括的なアライアンスのために2015年4月30日に設立された。

東京電力フュエル&パワーと中部電力が折半出資している。

事業:
 燃料上流事業、燃料調達事業
 燃料輸送事業、燃料トレーディング事業
 国内火力発電所の新設・リプレース事業
 海外発電・エネルギーインフラ事業

 両社の既存火力発電事業のJERAへの統合は、2017年春頃判断するとしている。

  2015/4/20 東京電力と中部電力、共同事業会社JERAを設立

LNGの調達先はCheniere Energyで、同社が運営するルイジアナ州のSabine Pass LNGプロジェクトで生産されたLNGを購入した。

12月7日に LNG船 Oak Spirit に積み込まれた。2017年1月初旬に、中部電力のLNG基地に到着、上越火力発電所で使用される。

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Cheniere Energyは2016年2月にブラジル向けに米国のLNGの初輸出を行った。

2016/2/27 米国のLNGの初輸出 

2010年9月に米国がFTAを締結している国(将来締結した国も含む)に限定して輸出許可が出されたが、同社は、多国間での自由貿易協定を目指すWTO加盟国へのガス輸出を禁止することが正当かどうかの判断を政府に求め、エネルギー省は2011年5月、同社に条件付きですべての貿易相手国への輸出を認めた。

同社はSabine Pass に年産450万トンの液化設備 7系列(合計年産 3,150万トン)を建設中で、第1、第2系列が既に完成している。

このうち、1~5系列分(能力合計2,250万トン)について、既に6社との間で年 1,975万トンの20年間の長期販売契約を締結している。

契約概要は下記の通り。

相手先 年間数量
 万トン
固定費
$/MM Btu
製造系列 完成時期
BG Group(英) 350 2.25 第1系列 2016/4-5
200 3.00 第2, 3, 4 系列  
GasNatural(スペイン) 350 2.49 第2系列 2016/8
Kogas(韓国) 350 3.00 第3系列 2017/4
Gail (インド) 350 3.00 第4系列 2017/8
Total (仏) 200 3.00 第5系列 2019/8
Centrica (British Gas) 175 3.00 第5系列  
合計 1,975      

FOB価格は、原料ガスコスト(Henry Hub 渡し市況 x 115%)+固定費(ガス化費用など)。
15%は天然ガスのトレーダーとしてのマージン。

第1、第2系列合計900万トンのうち、BGが350万トン+α 、GasNatural が350万トンの長期契約を締結しており、残りはCheniere Marketingが、長期契約ベースではなく、スポットで販売する。

今回のJERAの購入はこの分である。今回の購入はスポットのため上記の価格フォーミュラは適用されない。

しかし、このベースでの日本着価格は次のようになる。(10月のHenry Hub天然ガス価格に15%の口銭を乗せ、加工賃3ドル、運賃3ドルとした)

現在の価格では日本の輸入LNG価格より割高となるが、日本の輸入価格は原油価格スライドが中心で、原油価格の上昇で、今後10ドル近くまで戻る可能性はあり、その場合、米国産LNGも競争力を持つ。



2011年の福島第1原発での事故を受け、ドイツ政府が自国の原発の停止を命じたことについて、ドイツの連邦憲法裁判所は12月6日、原発を操業していたエネルギー企業各社が補償を求める権利を認める判断を下した。

原発事業者のRWE、E.ON とスウェーデンに本社を置く Vattenfall の3社が所有権、職業及び事業の自由を侵害されたとして、憲法裁判所に訴えていたもので、3月15日から2日間公判が行われた。3社とも脱原発に異議はないとした上で、適切な損害賠償(190億ユーロ)を求めた。

2002年に当時のSchröder政権(ドイツ社会民主党と緑の党の連立政権)が原子力法を改正し、原発の運転年数を32年と定めて順次停止し、2022年までに原発を廃止すること、原発の新規建設は認めないことを決定した。

しかし、2009年にMerkel 政権(キリスト教民主・社会同盟と自由民主党の連立政権)が成立し、方向転換した。

1980年以前に稼働を開始した原発7基の稼働期間を8年、1981年以降に稼働を開始した原発10基の稼働期間を14年延長する「エネルギー計画2050」を決定し、2010年12月に原子力法を改正した。

ところが、2011年3月11日の福島第一原発事故で、この決定が覆ることになった。メルケル政権は、すべての原発を2022年までに廃止するという以前の決定を受け入れることになった。

争点となっているのは、2011年の原発8基の即時停止及び、2022年までの稼働期間制限が国家による収用に相当するか否かで、事業者側は、2002年に締結された脱原発契約における脱原発までに生産可能な「残留電力量」が、憲法の保証するところの所有権にあたるという主張した。

これに対し、政府側は、「残留電力量」は当時の政府の予想電力量であり、事業者に生産の権利を保証したものではないという見解で、それが減ったからと言って損害賠償を求める根拠にはならないとした。

8人の憲法裁判所判事たちは、「所有権」の根拠に疑念を抱いていることを匂わせた。
判事の一人は「収用」の条件として、国家が物資を統治権に基づいて調達し、自らそれを使用した場合又は使用する意図を持っていた場合を挙げ、原発による発電量の制限はこれに当たらない、という見解を明らかにした。

今回の判決で、憲法裁判所の主席判事は「福島の事故をきっかけとして国民の健康と環境を守るために議会が原子力発電からの脱出を加速させたことは容認できる」と述べた。
さらに段階的廃止の決定自体も合法だとしながら、企業側が政府から「適切」な補償を受け取る権利があると認めた。

2011年の法律が補償に関する規定が欠けているとしたが、電力会社の資産の収容であるという主張は否定し、補償額に限度があることを匂わせた。

憲法裁判所は補償額の決定は行わない。政府に対し、2018年央までに補償額を決めるよう指示した。Goldman Sachs は補償額を、EONの場合は7億ユーロ、RWE の場合は4億ユーロ程度と予想している。

ーーー

電力各社は、これとは別に、政府を相手に個別に損害賠償を求める訴訟を行っている。

停止命令を受けたRWEは直ちに訴訟を起こし、2014年1月にドイツ最高行政裁判所から停止命令が違法であるとの判決を得た。
(2014年8月にRWEは連邦政府とヘッセン州政府を相手取って、235百万ユーロの損害賠償の支払いを求める民事訴訟を起こしている。)

ドイツ北部ハノーバーの地方裁判所は7月4日、エネルギー大手E.ON が政府などに計約380百万ユーロ(約434億円)の損害賠償を求めた訴訟で、請求を棄却した。

E.ON が命令を受けた時点で法的措置を取らなかったためとしている。E.ONは一時停止であると考え、損害賠償訴訟にかかる時間は一時停止期間を上回るとの判断から、提訴を行わなかった。しかし2011年6月に議会はこれらの原子炉の閉鎖を決めた。
裁判長は、「E.ONが直ちに訴えを起こしていれば、運転停止による損失を回避できた可能性がある」としている。

電力会社EnBW も、Neckarwestheim 1 原発とPhillipsburg 1 原発の停止命令に関し、RWE訴訟での判決を受け、261百万ユーロの賠償を求め訴えたが、Bonn 地裁は2016年4月、これを却下した。停止命令を受けた時点で、直ちに全ての法的措置を取らなかったとしている。

なお、もう1社の電力会社で、スウェーデンに本社を置く Vattenfall は、ワシントンの投資紛争解決国際センター (ICSID)に47億ユーロの賠償を求め、訴えている。

2016/7/12 ドイツの原発停止訴訟、電力大手の敗訴続く


イタリアでは、第2次世界大戦後の1948年に施行した憲法によって、上院と下院が完全に対等な力を持っている。

ファシスト政権を生んだ戦時の反省から、政党の暴走を抑止するために設計された仕組みだが、法案の審議に時間がかかり過ぎることが欠点とされてきた。

マッテオ・レンツィ首相は、これが政策運営を進めにくくしている構造的な要因だと考え 、改革に取り組んだ。

まず、2015年5月に下院新選挙法を成立させ、2016年7月に施行された。

下院は比例代表制で、「プレミアム議席制度」がある。

第一回投票で最も多くの得票を得た第一党に、得票に関係なく、全630議席の54%に相当する340の「プレミアム議席」が与えられる。(40%の最低得票率を超える政党がない場合は上位2党で決戦投票を行う。)

残りのうち、277議席は2位以下の政党及び政党連合に比例配分する。
他の12議席は国外在住者選挙区定数で、残り1議席は有効投票の最多数を獲得した候補者を当選人とする。


これまでは、プレミアム議席制度は複数の政党が組んだ政党連合にも及ぶため、プレミアム議席を狙って、政策的な主張が一致しない党とも政党連合を組む現象が起こり、連立政権がまとまらず、政権の不安定化を招いてきた。

改正で、プレミアム議席(340議席)の配分先から政党連立が除外され、第一党のみが配分対象となる。 第一党は議席の過半数を握り、政策を進めやすくなる。

憲法改正は上院の改革で、上院と下院が対等である現在よりも、上院の権限を大幅に縮小する一方で下院の力を高める仕組みを構築しようと いうものである。

・ 上院の立法権限を制限し、憲法改正など一部の例外を除き、法案成立に上院の議決を必要としない。
・ 上院は下院が可決した法案の修正を求めることが出来るが、下院がこれに従う義務はない。
・ 政権発足時の内閣信任投票は下院のみで必要となり、上院で信任投票は行われない。
・ 上院が内閣不信任動議を提出することはできない。
・ 終身議員を除いた上院の定数を、現在の315人から100人に削減する。うち95人は地方議会によって選出され、5人は大統領が指名する任期7年の議員。

これにより、上院を諮問機関的な役割を担うものに変更し、実質的な一院制にする。

7月に施行された改正選挙法で最大政党が「ボーナス議席」を得て過半数を確保できるようになったのと併せ、レンツィ氏の政治制度改革が実現することになる。

首相は憲法改正が実現した場合、法案成立のスピードは大幅にアップし、さらに年間5億ユーロほどのコスト削減が可能になると訴えていた。

ーーー

本来、政治改革の是非を問うはずだった国民投票は、首相の「負けたら退陣」発言でレンツィ政権発足後の2年間の成果に対する信任投票の意味合いを帯びてしまった。

イタリア国民の多くは、レンツィ首相の政策によって景気が回復したという実感に乏しく、中東やアフリカ地域からの移民が増え続けるなど、イタリアの課題を何も解決していないと考える人が多い。

イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票は12月4日開票され、改正案は賛成 40.89%、反対 59.11% で否決された。

これを受けて、改憲を推進していたマッテオ・レンツィ首相は引責辞任すると表明した。

野党の決定的な勝利で、主導したのは共通通貨ユーロからの離脱も主張する大衆主義的な「五つ星運動」である。
「五つ星運動」は、次の総選挙での勝利と、EUとの関係見直しを目指すとしており、政権獲得の準備に着手した。

党名の「五つ星運動」は社会が守り抜くべき5つの概念で、水資源 (public water)、持続可能性な発展 (sustainable development) 、持続可能な交通 (sustainable transport)、環境主義 (environmentalism) 、インターネット社会 (right to Internet access) を指す。

今後、EUに懐疑的な政党が躍進した場合、EUの混乱はさらに広がるのではないか、との懸念が生じた。

イタリアには、金融機関の不良債権問題もある。

イタリア銀行3位のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行 は7月に経営再建策を発表した。

モンテ・パスキは年末までに50億ユーロを調達する必要があるが、政治不安から見通しがついていない。憲法改正案が否決され、首相が辞意を表明したことから政治的不透明感が高まり、資金調達が難しくなった。

公的資金の投入が必至だが、EUのルールが障害となる。

金融危機を受け、EUでユーロを使う国々は各国でばらばらだった金融行政を一元化する「銀行同盟」を進めた。
銀行の破綻処理のルールも1月から施行し、まず銀行の債券などを持つ投資家に一定の割合の損失を負わせることにし、公的資金の利用を制限する仕組みにした。

しかし、イタリアでは銀行の債権者に個人投資家も多いため(個人が銀行債を預金に近い感覚で購入している)、このルールを適用すれば反発を招くおそれがある。 
個人投資家は20億ユーロに上る劣後債を保有している。

2016/8/1 欧州銀行監督機構の欧州の銀行の健全性審査とMonte dei Paschi 銀行の再建策

暫定首相が指名されると、国がいくら拠出し、投資家(特に劣後債の保有者)がどの程度の損失を負担するか、といった最終的な救済策の詳細について議論が始まるとみられる。

付記 

モンテ・パスキは12月7日、救済計画の完了期限を3週間延長し2017年1月20日とするよう要請したが、ECBの監督委員会は12月9日の会合でこの要請を拒否した。延期することで得られる効果はほとんどなく、イタリア政府が介入する時期に来ていると判断した。



ソフトバンクグループの孫正義社長は12月6日、Trump 次期米大統領とニューヨークの Trump Tower で45分間会談した。

孫社長は、米国のスタートアップ企業などに500億ドルを投資し、5万人の雇用を生みだすと約束した。

Trump 氏は会談後、孫社長とともにTrump Tower のロビーに現れ、孫氏を「業界で最もすばらしい男の1人」とたたえた。

孫氏は記者団に対し、「我々はもう一度、米国に積極的に投資をすると話した」と語り「会談は大成功だった」と述べた。米国で規制緩和が行われ、再びビジネスをやる国になることを期待しているとしている。

Trump氏はその後、自身のTwitterでこれを発表した。孫社長は、Trumpが勝たなければやらないと述べたという。

Masa (SoftBank) of Japan has agreed to invest $50 billion in the U.S. toward businesses and 50,000 new jobs....

ーーー

Masa said he would never do this had we (Trump) not won the election!

孫社長は具体的な投資先については明らかにしていないが、投資は今後4年間で行われる。

会談は孫氏から申し入れ、共通の友人を介して実現した。

総額1,000億ドルにもなるとされる「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(仮称)を通じての投資と思われる。


付記

孫社長はTrump 次期大統領とともに記者団の前に現れた際、写真の紙を示した。

次の4年に米国に500億ドル+70億ドルを投資し、米国に50千人+50千人の雇用を生むとなっており、Softbank に加え、Foxconn鴻海精密工業)の社名が示されている。

鴻海の要請で追加したという。

鴻海精密工業は12月7日、米国内での事業拡大に向けた協議の初期段階にあると明らかにした。「投資規模は未定だが、当社首脳と米関連当局との直接協議が完了後に詳細を明らかにする」との声明を発表した。

ーーー

ソフトバンクグループは10月14日、グローバルにテクノロジー分野へ出資することを目的とした私募ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(仮称)の設立を決定したと発表した。

ソフトバンクグループは、今後5年間で少なくとも 250億米ドルを本ファンドに出資する。

また、サウジアラビアの公的投資基金(Public Investment Fund :PIF) との間で、主要な資金パートナーとして本ファンドへの出資を検討することについて、覚書を交わした。
さらに、本ファンドへの出資を目的に、複数のグローバルな大手投資家たちと協議中で、1,000億米ドルとなる可能性がある。

2016/10/17 ソフトバンクグループ、10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立 


半導体製造装置メーカーのドイツのAixtron は 2016年5月23日、中国の福建芯片投資基金 (Fujian Grand Chip Investment Fund:FGC) が ドイツ子会社の Grand Chip Investment (GCI) を通じて同社を買収することで合意したと発表した。

GCI はAixtron の全発行済み普通株式の取得を目指してTOBを実施する。買収総額は約6億7000万ユーロにのぼる見込み。

Aixtron は1983年創業で、ドイツのヘルツォーゲンラートに本社を置く。買収手続き完了後も、ヘルツォーゲンラートの本社と技術拠点、および英国のケンブリッジと米国カリフォルニア州 Sunnyvale にある技術拠点を維持する。

これによりAixtron は中国市場に事業を拡大し、アジアでの地歩拡大を図ることができる。Aixtron は 2015年12月、中国Sanan Optoelectronics(三安光電)の発注キャンセルを受けて業績見通しを引き下げ、株価が43%下落した。

ーーー 

これに関し、オバマ米大統領は12月2日、Aixtron のカリフォルニア州の子会社 Aixtron Inc の買収を禁止すると発表した。軍事利用が可能な技術が対象に含まれ、米国の安全保障の脅威になると判断した。

Aixtronは発光ダイオード(LED)照明やレーザーなどに使う化合物半導体の製造技術を持つ。研究機能のある米子会社がこの技術に重要な役割を果たしているという。
また取引先には米防衛大手 Northrop Grumman が含まれる。

窒化ガリウム(GaN)ベースの新しい半導体技術が問題になったのではとされる。

米財務省の声明は、今回の買収に関し「中国政府が資金調達で支援している」と指摘した。

対米外国投資委員会(CFIUS)がAixtron の技術が軍事用途に使われる可能性があると判断しており、米子会社買収が「緩和措置を講じても解決できない安全保障上のリスクをもたらす」と強調した。

米国は外国からの米国内直接投資を歓迎するが、国家安全保障を保護するための例外を設けている。
外国投資委員会(CFIUS)が審査を行い、投資内容が米安全保障にかかわるものと大統領が判断した場合には究極的には買収案件を拒否できる。

まずCFIUSが外資による投資の予備審査をした後、同委員会が必要と認める案件についてのみ、本審査を行い、最終的に大統領の決定を仰ぐ。
財務省が議長となり、国土安全保障省、商務省、国防総省、国務省、司法省、エネルギー省、通商代表部、労働省、国家情報局がメンバーとなる。

ホワイトハウスが米国の安全保障リスクを理由に海外の買い手による投資を拒否するのはここ 4半世紀余りで3度目となる。

最初は 1990年2 月にGeorge Bush大統領が行ったもので、China National Aero-Technology Import and Export Corp(中国宇宙航空技術輸出入公司)による航空機部品メーカーのMAMCO Manufacturing, Inc.の買収である。

オバマ大統領は2012年9月28日、「国の安全保障に関わる」として、中国系企業Ralls Corp. によるオレゴン州の米海軍施設近くの風力発電企業4社の買収と所有を禁止し、本年取得した所有権を放棄することを求めた。

2012/10/4  オバマ大統領、米国内での中国企業の風力発電買収を阻止 

しかし、これについては、2015年11月4日、三一重工と米国政府の間で全面和解に至った。

三一重工側が訴訟を撤回し、米国政府も大統領令の強制執行を撤回する。
Ralls Corp.は風力発電企業4社を第三者に売却できる。
外国投資委員会(CFIUS)はRallsが買収した他の風力発電事業が国の安全保障上で問題がないことを認め、将来の更なる投資を歓迎する。

実質的には三一重工の勝利である。

2015/11/10 中国の三一重工、米国での風力発電買収阻止事件で米政府と和解、実質勝利 

今回が3度目で、オバマ政権としては2度目である。

これを受け、Aixtron は12月3日、「大統領令は米国事業に限られ、GCI が Aixtron 株を取得することは禁じていない」との声明を出し、米子会社を除いた買収に切り替える方針を示した。

中国外交部は12月2日、買収は通常のコマーシャルなM&Aであり、市場のルール、原則に従って取り扱うべきだと述べた。

ーーー

ドイツ政府は9月8日に買収を承認しているが、10月21日にこの承認を取り消し、買収の審査手続きを再開すると発表した。

ドイツ政府は、今回の米国の決定とは無関係としている。

FGCでは、買収を撤回しないとし、認可取り消しの法的な影響を精査しているという。


付記

福建芯片投資基金は12月8日、独 Aixtron の買収取り止めを発表した。声明の中で「米大統領が禁止の決定を下さないことが買収の必要条件だった」との説明を行っている。

米子会社を除いた買収も検討したが、戦略拠点の米子会社が除外され、独政府の認可の行方も不透明なことから買収を断念した。



米航空機エンジン・機械大手 United Technologies 傘下の空調大手 Carrier は11月30日、メキシコに移転予定だったインディアナ州のIndianapolis 工場の1,000人の雇用を維持することで、Trump 次期大統領と Pence 次期副大統領(同州知事)と合意したと発表した。

Carrier は2016年2月にメキシコ移転を発表した。Indianapolis 工場は閉鎖とな る。移転は2017年に始まり、2019年に完了、約1,400人の雇用が犠牲になる。

Trump 氏はCarrierが2月のメキシコへの生産移転を発表した直後からこれを批判しており、最近も同社の名前をあげて移転を阻止する方針を明らかにしていた。

しかし、会社側は計画を進め、7月には労働組合が退職条件で会社側と合意している。

大統領選挙での勝利を受け、Trump氏はCarrier の親会社のUnited Technologies のGregory Hayes CEOに電話し、計画取り止めを求めた。CEOがメキシコに新工場を建設済みだと反論したのに対し、「貸すか、売るか、壊すかしろ。知ったことか」と応えたという。

インディアナ州知事でもあるPence 次期副大統領とHayes CEOが水面下で交渉した。

今回の合意に伴い、インディアナ州はCarrierに10年間で700万ドルの助成金を支給する。

具体的には以下の通り。

The Indiana Economic Development Corp. (インディアナ経済開発公社)は Carrierに対し、平均時給 30.91ドルで 1,069人の雇用を維持する条件で、

1)  年50万ドルの税額控除を10年間行う。(計500万ドル)

2)  従業員訓練費用の補助金として100万ドルを支払う。

3) Carrierが同工場に将来投資をすることを条件に100万ドルの税額控除を行う。

Carrierはこの取り決めで、工場の従業員1400人中 800人前後と本社の開発・ 管理要員など 300人前後の雇用を継続する。

United TechnologiesのCEOは、Indianapolis 工場を維持するため2年間で1600万ドル以上を投資すると表明している。

合計でも1年当たり70万ドルの助成で、工場移転で想定していたコスト削減効果のごく一部に 過ぎない。

米メディアによると、Carrier はメキシコでの平均賃金を日給11ドルと見込んでおり、30.91ドルとは大きな開きがある。
1,069人をメキシコに移す場合の人件費の差は年間 45百万ドルに達する。

親会社のUnited Technologies は子会社にジェットエンジン製造のPratt & Whitney を持つ防衛関連のコントラクターで、連邦政府向けの売上高は全体の約10%の56億ドルもある。連邦政府はまた、同社に15億ドルの研究開発費を払っている。

メディアでは同社とTrump 次期大統領との間でなんらかの約束があるのではないかと見ている。

United Technologiesが軍用機事業で政府側の取引停止など報復を恐れたとの報道もある。
Trump次期大統領はUnited TechnologiesのCEOに対し、メキシコ移転で失業する従業員の多くを救済する道を探さなければ、次期政権の怒りを買うと警告していた。

同社は「Trump - Pence 次期政権がビジネス社会を支え、国内ビジネス環境の改善と競争力強化を進める方針を力説したため、今日の合意に至った」と表明した。

Trump次期大統領は12月1日に同工場を訪問した際、他の企業へのメッセージとして、生産を海外に移す企業が製品を米国に輸入する際、その製品に厳しい関税を課するとの誓約を実行する積もりだと 述べた。「我々は米国の労働者を守らねばならないということをCorporate America は理解する必要がある」と述べた。

12月4日のツイッターでは海外移転企業の米国への輸入品に35%を課税すると述べた。

また、NAFTAは「全くの災害」と批判し、「それは変わるだろう」と見直しの必要性を改めて示唆した。

Ronald Trump は10月下旬に、大統領に選ばれた場合の公約 "Donald Trump's Contract With The American Voter" を発表している。
その中で、米国の労働者保護のため、7つのアクションを行うとし、「TPPからの撤退宣言」と「米・加・メキシコの北米自由貿易協定(NAFTA) の再交渉又は撤退の意思を発表」などを挙げている

2016/11/11 トランプの公約 

今回、Carrier はメキシコに雇用を移す予定であった1400人のうち、800人をIndianapolis 工場に残すが、残り600人分の雇用をメキシコ工場に移す。Carrier は更に、インディアナ州Huntingtonの工場を閉鎖し、700人分の雇用をメキシコに移す予定である。

United TechnologiesはCarrier のほかに Pratt & Whitney(ジェットエンジン)やOtis (エレベーター)を持ち、20万人を雇用するが、そのうち米国での雇用は1/3に過ぎない。

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米国の資本主義はルールと法をベースにする。

Carrierに関しては、次期大統領は飴と鞭を使って自分の望むようにやらせた。

Reagan 大統領の空港管制官ストライキへの対応は小さな行動だったが大きな影響を与えた。今回のことも小さなことだが、そうなるのではなかろうか。

大統領が、国民が何を求めているか見当をつけ、それを国民に与えるよう企業に圧力をかけるのが良いことだという原則が確立されつつある。

中国が自分の意思をどんどんと課している香港のように、我々は、ルールに基づく資本主義(rule of law capitalism)からその場しのぎの合意に基づく資本主義 (ad hoc deal-based capitalism) への逆行の第一歩を踏み出したのかも知れない。

大統領は大きな権限を持つ。しかし、その使用を制限するのが、我々と独裁国 (banana republics ) との重要な違いの一つだ。

もし、企業が大統領の望む場所に工場をつくり、大統領の再選の選挙資金を寄付し、大統領が望む人を雇用し、大統領が望む研究開発を行い、大統領が支援したい人に金を貸すなら、どうなるか?

私が間違っていることを望むが、結果として我々がより貧しくなるだけでなく、より不自由になると考える。

OPECは11月30日にウィーンの本部で開いた総会で、8年ぶり(国別)の減産で合意した。

総会では9月28日のアルジェリアでの臨時総会で合意した日量3,250万~3,300万バレルの下限である3,250万バレルに減産することで加盟国がまとまった。
2017年1月1日から実施し、実行をチェックするためのHigh-level Monitoring Committeeの設置を決めた。

発表文では「OPEC14カ国の生産枠を3,250万バレルとする」としているが、報道されている国別枠の合計では32,682千バレルで、現状からは1,164千バレルの減産となる。 (「現状」は新生産枠と減産量から逆算したもので、10月の外部ソースの実績とは一致しない。)

当初は全加盟国に減産協力を求めるサウジと、減産の適用除外を求めるイランが対立していた。また、政情不安によって生産量が一時的に落ち込んだリビアやナイジェリアも生産量の回復を目指していた。

今回、アルジェリアの仲介で、イランへの譲歩に難色を示してきたサウジが軟化し、下記の調整をすることで合意に達した。

政情不安などで生産量を落としているナイジェリアとリビアは減産の適用を免れた。

昨年、
OPECに再加盟したインドネシア は、石油の純輸入国であることから減産への参加を見送り、加盟を一時停止した。

イランはかねて、米欧の経済制裁前の生産量である日量400万バレルへの回復を主張してきた。
今回の合意では、現状の生産量を9万バレル上回る380万バレル弱の生産量を割り当てた。

これ以外の加盟10カ国は現状から4.6%の減産となる。
当初はイランなどの例外措置の分をサウジが引き受けると見られていたが、そうはなっていない。

OPECでは、生産調整に協力する姿勢を示すロシアなどの非加盟国と12月上旬に協議する 。

非加盟国の合計で60万バレルの減産を求める考えで、非加盟国の参加を減産実施の条件とする。
OPEC議長国カタールのサダ・エネルギー相は総会後の記者会見で、「ロシアは30万バレルの減産に応じる」と述べ、他の非加盟国にも減産への参加を呼びかける。

今回、約120万バレルの減産が決まったが、新しい生産枠は2016年の第1四半期の生産量より多く、たいした減産ではない。
原油市場の需給は2017年に均衡に向かう
見通しだが、シェールオイルが増産する可能性が高く、高価格が続く可能性は少ない。

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OPEC発表の生産実績(外部ソース)と報道による国別の減産量と新しい生産枠は下記の通りとなる。

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OPEC生産枠の推移は下記の通り。(千バレル/日)

2007/2 2007/11 2008/1 2008/9 2008/11 2009/1 2012/1 以降
Algeria 794 1,357 1,357 1,357 1,286






Iraq
 含まず

Iraq
 含む

Iran 3,788 3,817 3,817 3,817 3,618
Kuwait 2,065 2,531 2,531 2,531 2,399
Libya 1,371 1,712 1,712 1,712 1,623
Nigeria 2,123 2,163 2,163 2,163 2,050
Qatar 663 828 828 828 785
Saudi 8,399 8,943 8,943 8,943 8,477
UAE 2,257 2,567 2,567 2,567 2,433
Venezuela 2,970 2,470 2,470 2,470 2,341
Angola     ー     ー 1,900 1,900 1,801
Equador     ー     ー 520 520 493
Iraq (ー) (ー) (ー) (ー) (ー) (ー)
Indonesia 1,370 865 865

離  脱

2015再加盟
Gabon

離   脱

2016再加盟
Total 25,800 27,253 29,673 28,808  27,300 24,845 30,000

枠なし

Relianceはこのたび、サムスン重工業の巨済市の造船所で世界初の大型エタン輸送船(Very Large Ethane Carrier:VLEC) 2隻、Ethane Crystal と Ethane Emerald の引渡しを受けた。

Relianceが2014年に発注した6隻の最初の2隻で、輸送量は87,000 m3、これまでで最大のエタン輸送船である。
フランスのGaztransport et Technigaz SA (GTT) の新しいメンブレンを使用している。

LNGやエタンの輸送には球形独立タンク方式(モス方式)とメンブレンタンク方式がある。後者は船体内部に防熱材を取り付けてその表面をメンブレン(金属の薄膜)で覆った構造となっている。メンブレンは貨物漏れ防止の液密を保持することが目的である。

本船はGTT社製のMarkIII メンブレン型のカーゴタンクシステムおよび再液化装置を搭載しており、約 -92℃の液化エタンを輸送する。
LNG船が約 -162℃、LPG船が約 -42℃の貨物を想定しているのに対して、VLECはいわば両者の中間に位置づけられる。


価格は1隻 120百万ドル。


商船三井(Mitsui O.S.K. Lines)が2014年12月にこれらの船の管理の契約を締結した。2016年末より順次竣工を予定するVLEC6隻の建造を監督し、竣工後は長期契約のもと本船の船舶管理および運航を行う。

日本の海運会社として初めて、本格的な液化エタン輸送に参入する。

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Reliance は米国のシェールのJVからの年間150万トンのエタンをインドのGujarat の石化コンプレックスに輸送する計画。

RelianceはMarcellus shaleでChevron及びCarrizo Oil & Gasとの2つのJVを持っている。

Reliance Industries は2010年4月9日、米国のAtlas Energy, Inc.との間で米国ペンシルベニア州のMarcellus Shaleエリアでのシェールガス開発でAtlasの権利の40%を取得する契約を締結したと発表した。

Relianceは、Atlasが権利を持つ合計30万エーカーの未開発鉱区のうち不可分の40%の権利を取得する。
操業はAtlasが行うが、Relianceは将来、Atlasの主操業地区以外で操業を行うオプションを持つ。

Reliance は権利取得に339百万ドルを支払うとともに、7年半の開発期間中に自社枠の開発投資のほか、Atlas分の開発投資の75%(13.6億ドルが限度)を負担する。

その後、2010年11月にChevronがAtlas Energyを買収すると発表した。

2010/4/15  Reliacne Industries、Atlas Energy と組んで Marcellus Shale を開発

Relianceは2010年8月、Carrizo Oil & Gas Inc.とのJVを設立し、Marcellus shaleの鉱区の60%の権利を取得した。

同鉱区では、Avista Capital PartnersのACP II Marcellus LLCと.Carrizoの50/50JVが権利を持っていたが、RelianceはAvistaの権利全てとCarrizoの権利の20%を合計392百万ドルで取得することで、権益の60%を取得する。


Relianceは更に、Eagle Ford Shaleでも権益を有している。

Reliance Industries は2010年6月24日、米国のPioneer Natural Resources CompanyとJVを設立し、PioneerのEagle Ford Shaleの45%を取得すると発表した。

この計画に16%の権益をもつNewpek LLCも権益の一部を譲渡、JVの比率はPioneerが46%、Reliance が45%、Newpekが9%となる。
JVは289千エーカーの鉱区のうちの91%の権益を保有する。

Relianceは対価として13.15億ドルを支払う。

Pioneer Natural Resources と Reliance はその後、このEagle Ford Shale からのコンデンセートや天然ガスを集荷、処理するためのJV Eagle Ford Shale Midstreamを50.1/ 49.9で設立した。

しかし、PioneerとReliance は2015年6月1日、Eagle Ford Shale MidstreamEnterprise Products Partners L.P.に21.5億ドルで売却する契約を締結した。

2010/7/3 Reliacne Industries、Pioneer Natural Resources と組んでテキサスのShale を開発




財務省は11月24日の関税・外国為替等審議会で、特恵関税制度の対象国の要件を見直し、2019年度に実施する方針を示した。

現在は「高所得国」を対象外としているが、これを、3年連続で「高中所得国」で、かつその国の輸出額が世界の輸出額の1%以上の国も対象外とする。

新規定では、高中所得国に属している中国とメキシコ、ブラジル、タイ、マレーシアの5カ国が適用対象外となる。

EU とカナダ も同様の制度改正を行っている。

この報道を受け、中国商務部の報道官は24日の定例記者会見で、次のように述べた。

報道に注意している。中国は今なお世界最大の発展途上国だ。中国の経済規模は世界2位だが、一人あたり平均GDP、都市部・農村部の発展、社会福祉などでは先進国とはまだ大きな開きがあり、近代化実現への道のりは依然として遠い。

中日はともに世界の貿易大国であり、お互いに重要な経済貿易パートナーであり、両国経済は相互補完性が高く、協力の発展は双方の利益に合致しており、双方がともに努力し、同じ目標に向かって進み、中日経済貿易関係の健全な発展を後押しし、グローバル経済の成長に貢献することを願う。

ーーー

特恵関税制度は、開発途上国を原産地とする特定の輸入品について、一般の関税率よりも低い税率を適用して、開発途上国の輸出所得の増大、工業化の促進を図り、経済発展を支援しようとするもので、日本では1971年8月から実施している。


対象国については、

農水産品については、一部の品目を対象としており、その関税率は品目ごとに異なる。
鉱工業品については、一部の例外を除く全ての品目を対象としており、その関税率は原則として無税だが、一部有税のものがある。

後発開発途上国(LDC)からの輸入に関しては、特別特恵関税制度で、ほぼ全ての品目に対して無税が適用される。

現在の特恵関税の対象国は、国際復興開発銀行(世銀)が公表する統計において、「高所得国」に分類される国又は地域以外となっており、現在は138カ国と5地域が対象で、そのうち47カ国が特別特恵受益国となっている。

2016年度の世銀統計では、2014年時点の1人当たり国民総所得により分類している。

高所得国 $ 12,736 以上
高中所得国 $ 4,125 超 $12,736未満
低中所得国 $ 1,045 超 $4,125 未満
低所得国 $ 1,045 以下
現在のルールでは、前年までの3か年の世銀統計において、連続して「高所得国」に分類された国は 特恵対象から除外することとなっている。(特恵卒業国)


今回、ウルグアイ、セントキッツ・ネーヴィスセントクリストファー・ネーヴィス、チリの3カ国がこれに該当し、2017年度に卒業する。

過去には、EU加盟国は、上記の条件に関係なく、EU加盟に伴って対象から外れた。

今回、現在の要件に加え、3年連続で、①「高中所得国」以上に該当し、かつ、②世界の総輸出額に占める当該国の輸出額の割合が1%以上で国を対象外とする。
実施は2019年度が適当としている。

背景には、特恵制度の適用実績では、便益を享受している国が一部の高中所得国に偏在していることがある。

2015年度の一般特恵輸入額実績
   高中所得国     1兆320億円
   低中所得&低所得国  390億円

このなかで中国は、日本の輸入額の4分の1を占める。
2015年度に優遇税率を適用されたものの6割が中国からの輸入品。

そのなかで、中国など5カ国は急速な経済成長で輸出競争力を上げており、輸出額が世界の輸出額の1%以上を占めている。

EUとカナダが同様の改正を行っている。

特恵除外 改正時期 特恵対象国
EU 「3年連続で高中所得国に該当」 2014年1月 17785
カナダ 「2年連続で高中所得国に該当」、かつ、
「2年連続で世界の総輸出額の1%以上」
2015年1月 175103
日本 「3年連続で高中所得国に該当」、かつ、
「3年連続で世界の総輸出額の1%以上」
2019年4月 143138



米政府は11月23日、中国を世界貿易機関(WTO)協定上の「市場経済国」と認定しない方針を明らかにした。


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中国は2001年12月にWTOに加盟した。

その際、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてAD 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国 (Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。

WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国で、すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能な価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める」と規定している。

この結果、「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。

これまでにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国(2016/2時点)が中国の市場経済国家の地位を認めた。
しかし、米、EU、日本、カナダなどの多くの国々や地域は未だに承認していない。

中国は、中国を「非市場経済国」とする根拠となっている条項は15年が経過する2016年12月11日に失効するため、自動的に「市場経済国」へ移行すると主張している。

2016/2/12 中国の「市場経済国」認定問題

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プリツカー米商務長官は11月23日の記者会見で、「市場経済国への移行は機が熟していない」と述べた。

中国は15年の経過で移行するとしているが、長官は、「WTO協定は中国が市場経済国に自動的に移行するとは定めていない」と主張した。
そのうえで、移行の条件は法律で決めれれた6つの基準に従って決めるとし、「現時点では機が熟していない」とした。

米国では、1930年関税法第771条(18)(B)で、ある国が非市場経済国であるかどうかを判断する基準が次のように決められている。

 1)どの程度当該国の通貨が他国通貨と交換可能であるか、
 2)どの程度労使間交渉により賃金水準が決まっているのか、
 3)どの程度外資による投資が認められているか、
 4)どの程度政府が生産手段を統制するのか、
 5)政府による資源配分、価格、および生産決定に対する統制はあるのか、
 6)その他当局が適切であると考える要因

鉄鋼製品など中国の安値輸出に歯止めをかける狙いがある。

中国は過剰生産設備の解消が遅れ、鉄鋼などのダンピングが世界的に問題視されている。

中国が「市場経済国」になれば、ダンピングの判断は中国の輸出価格が中国国内の価格に比べて安い場合となる。
しかし、国内の設備過剰により鉄鋼製品の国内価格が国際価格よりも大幅に安いため、輸出価格が第三国の国内価格より安くてもダンピングとみなされないこととなる。

中国国内価格 中国輸出価格 第三国国内価格
非市場経済国の場合:

ダンピング認定可

市場経済国の場合:

ダンピングでない

これに対し、中国外務省は 「中国が市場経済を発展させた成果は世界が認めている」と強調した。

トランプ次期大統領は大統領選中、「為替操作国である中国からの輸入品に45%の関税を課す」と主張してきた。当選後はこの件に触れていないが、中国には危機感が強い。

ーーー

EUは2月2日、中国をWTO協定上の「市場経済国」と認めるかどうかの協議を始めた。


欧州議会は5月に中国の「市場経済国」としての扱いに反対するとの決議を採択し、欧州委員会に対して本件についての適切な措置を提案するよう求めた。

欧州委員会は7月20日、中国を12月以降に「市場経済国」として扱う 場合、どのような政治的、経済的及び法的な影響がもたらされるかを中心に、3つの選択肢について審議したと発表した。

 ①中国を「非市場経済国」としているEUの現行法制を維持する 。
 ②中国を「非市場経済国」のリストから外し、ダンピングの認定手続き等について通常の方式を適用する。
 ③WTO加盟国としてのEUの国際的な義務を履行する一方で、貿易上の防御制度を抜本的に見直し、新たな方式によりダンピング問題等に対処する 。

審議の結果、欧州委員会はWTOの法的な枠組みの下でのEUの国際的な義務を尊重するとともに、現在の実態 :特に、現存する鉄鋼製品等の過剰生産問題:に対処することができる新たな貿易上の防御手段を備える必要があるとの点で意見が一致した。

WTO上の義務に違反して中国から損害賠償を求められるおそれのある事態を回避し、同時に「市場経済国」として認定することによってもたらされると考えられる安値競争に対抗できなくなるという事態をも回避するために、EU域内での新たな通商上の救済措置を策定することを選択したこととな る。

カタイネン欧州委員会副委員長(雇用、成長、投資及び競争政策担当)は、今回の審議は中国が「市場経済国」であるかどうかについて行ったわけではなく、過剰生産能力という実態、さらには変貌しつつある国際的な法的枠組みに対処する上でEUの貿易防御手段をこれにどう適合させるかについて行ったものであると述べてい る。

また、マルムストロム通商担当委員は、市場の歪みに対処するための効果的な通商上の貿易手段が今後必要になるとし、新たな経済の実態に適合し、臨機に活用することのできるツールを確保することが必要であると述べ た。

欧州委員会は11月9日、輸入製品が不当にEU域内で安く販売された場合に適用する、反ダンピング課税の算出に関する制度改正案をまとめた。
鉄鋼の過剰生産などで域内企業を脅かす中国を念頭に、WTOルールとの整合性を保ちつつ、制度の実効性を確保するのが狙い。

まず、輸入品のダンピング判定に関しては、中国を含む15カ国を指定している非市場経済国のカテゴリーの廃止を提案する。

一方で、国家介入によりゆがめられていると見なされる市場を有する国に対し、反ダンピング税算出の特別な公式を策定することを目指している。
これにより中国製品への反ダンピング税は現行水準で維持できることとなり、域内の経済成長や雇用に障害となる安い中国製品の大量流入の可能性に対する産業界の懸念と政治的懸念の双方に対処できる。

これに対し中国は、EUが中国の「市場経済国」としての地位を完全には認めていないことに政府は失望していると述べた。

EUの提案は、 中国が「非市場経済国」であるとの認定を取り下げるものだとみなすが、欧州委員会が「著しいゆがみ」が生じた場合の条項を盛り込んだことに失望していると述べた。

「現状をひそかに維持することを許容したに過ぎない」と述べ 、新しい基準は「公正で合理的かつ、透明性を持つべきであり、新しい形で差別を行うものであってはならない」と主張した。

日本は外交関係も考慮して市場経済国か否かを明確にせず、事実上は非市場経済国としての対応を取るものとみられる。

付記 経済産業省は12月8日、中国のWTOでの立場について、引き続き「市場経済国」と認定しないことを決めたと発表した。

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