2011年8月アーカイブ

日本各社やBASFが高吸水性樹脂の増強を行う中、日本触媒やBASFとトップを争うEvonik(旧 Degussa)も高吸水性樹脂の増強を決めた。MMAについてもドイツ、米国、中国の工場の増強を決めた。

2010/12/22 BASF、高吸水性樹脂を増強
2011/8/4 日本の各社、高吸水性樹脂を増強

Evonikは8月17日、サウジのNational Industrialization Company (Tasnee) とSahara Petrochemicalsのアクリル酸系製品の統合会社の Saudi Acrylic Acidとの間で、高吸水性樹脂を製造するJVのSaudi Acrylic Polymersを設立する契約に調印した。
出資比率は明らかにされていない。
(他のJVの例からみると、Evonikの出資比率は25%か?)
       Tasnee、Sahara及び両社のポリオレフィン計画については、下記参照。
    
2006/5/13 サウジの民間ポリオレフィン計画

工場はAl Jubail chemical parkのTasneeの工場に立地し、能力は年産80千トン。2013年下期のスタートアップを目指す。

同地にはTasneeとSaharaの競争力のあるプロピレンと、それを使ったアクリル酸のプラントがあり、新会社は低コストのアクリル酸を使い、高吸水性樹脂を生産する。

これは中東で最初の高吸水性樹脂で、Evonikでは、成長の著しい中東市場への進出の第一歩とするとともに、高吸水性樹脂の世界のリーダーとしての地位を更に高めるとしている。

Tasnee とSaharaのアクリル酸コンプレックスは以下の通り。

製品 エチレン、プロピレン、PE 持株会社 アクリル酸 高吸水性樹脂
社名 Saudi Ethylene and Polyethylene
 (SEPC)
Saudi Acrylic Acid  Saudi Acrylic Monomer

(SAMCO)
Saudi Acrylic Polymers
出資 Tasnee & Sahara Olefins 75%
LyondellBasell            25%
Tasnee
Sahara
Saudi Acrylic Acid      75%
Rohm & Haas(Dow)  25
%
Saudi Acrylic Acid
Evonik
能力 エチレン   1,000千トン
プロピレン    285千トン
HDPE     400千トン
LDPE     400千トン
  アクリル酸  250千トン 高吸水性樹脂 80千トン
原料ソース     SEPCのプロピレン SAMCOのアクリル酸


なお、TasneeとSaharaはSEPC設立以前に、それぞれ、LyondellBasellとの間でPPのJVを設立している。

製品 プロパン脱水素とPP プロパン脱水素とPP
社名 Saudi Polyolefins Al-Waha Petrochemical
出資 Tasnee                75%
LyondellBasell 25%
Sahara               75%

LyondellBasell 25%
能力 プロピレン 450千トン
PP        485千トン
           現在 720千トン
プロピレン 467千トン
PP        450千トン

 

ーーー

Evonik は8月25日、需要増大に対応するため、MMAモノマーの増強を行うと発表した。

2011年と12年に、ドイツWormsとWesseling、米国ルイジアナ州 Fortier及び上海工場のデボトルネッキング等により、合計約50千トンの能力増を行う。

EvonikのMMA事業の元はドイツのRoehmで、(更にその元はRohm & Haas で、第一次世界大戦の敗戦で米国子会社が分離独立した)1989年にHulsに買収された。
Hulsは1899年にDegussaと合併してDegussa-Hulsとなり、その後、Degussaに、更にEvonikに改称した。

米国のCyroは、当初はRoehmの米国再進出のため、CytexとのJVとして設立されたが、現在は100%子会社となっている。

2009年11月、上海ケミカルパークの同社のMMAコンプレックスが商業生産を開始した。

 イソブチレン 105千トン
 MMA    115千トン
 メタクリル酸  15千トン
 ブチルメタクリレート 20千トン
 PMMA    40千トン

Degussa の欧・米のMMAはともにACH法であるが、今回の上海のMMA計画遂行に当たり、同社は日本メーカー(名前を明らかにせず)から直酸法の技術を導入した。

 

BP本年1月、ロシアのRosneftとの間でグローバルな戦略的提携で合意した。

Putin首相と腹心のIgor Sechin副首相がこれをバックアップした。

Rosneft BPの株式5%を購入、見返りにBPRosneft株式 9.5%を購入する。
両社はロシアの北極海大陸棚にある3つの鉱区
EPNZ 1,2,3)を共同で開発する。

2011/1/17 BP、ロシアのRosneft と戦略的提携 

しかし、これに対し、BPのロシアのJVTNK-BPの株主のAlfa Access Renova (AAR)を構成する4人の新興財閥が、BPRosneftとの取引がTNK-BPを除外しているのは、BPTNK-BPの株主契約に違反するとしてロンドンの高等法院に訴えた。
BPが株主契約に基づき、ロシアではTNK-BPを通して活動することを求めた。

TNK-BPはBPとAAR45%ずつ出資、残り5%が一般株主となっている。
AARの構成は以下の通り。

Alfa Group ロシアの新興財閥で、ロシア最大の金融産業コングロマリットのひとつ。
Mikhail Fridman German Khan 50%ずつ保有。
Access Industries ロシア生まれの Len Blavatnik が設立し所有する米国の投資会社で、Basellを買収した。
Renova Holding ロシアの長者番付では第5位のViktor Feliksovich Vekselberg SUALの大株主)のベンチャーキャピタル。

21日、裁判所は調停での問題解決を命じた。

調停委員会は201151日、下記の決定を下した。
  ・
TNK-BPRosneft の同意を前提に、北極海開発に参加する。
  ・これを条件に、
BPRosneftの株交換を認める。

これに対しRosneft TNK-BPの北極大陸棚での事業参加には難色を示した。
このため、
AARの持ち株をBPRosneftが買い取る交渉が進められたが、AARは拒否し、この結果、BPRosneftの契約は5月16日に時間切れで白紙となった。

2011/5/18 BPRosneft との提携、白紙に 

 

AAR側は4月の時点で、BPの行動により TNK-BPが北極海開発の機会を失ったとして、100億ドルの損害賠償を求める意向を明らかにした。

この対抗策として、BPは8月5日、AARのメンバーのRenova Holdingに対し、調停の通知を行った。
RenovaがIES Holding Ltdを通じて大規模な天然ガス、燃料事業を行い、株主契約に違反しているとする。

Renova側はTNK-BP の株主契約になんら違反しないとし、AARが予定している仲裁を遅らせることを狙っていると批判した。

この直後の8月10日にTNK-BPのロシアの少数株主のAndrei Prokhorovが TNK-BPの役員でもあるBPの役員Peter Charrow と Richard Sloanを訴えた。
BPとRosneftの交渉を知っていたに違いないとし、この情報をTNK-BPに伝えなかったために、
TNK-BPが北極海開発の機会を失い、約870億ルーブル(約2,970百万ドル)の損害を被ったとしている。

このAndrei Prokhorovはごく少数の株を持っているだけで、AARの利益を代表しているとみられている。

ロシア紙によると、西シベリアのTyumen仲裁裁判所が9月21日にヒアリングを予定している。既にTNK-BPとBPに資料提出を求めている。BP はこの訴えは根拠がないとし、徹底的に争うとしている。

付記
ロシアの司法当局は8月31日、モスクワのBPの事務所を家宅捜索を行った。

裁判所が派遣した捜査員や武装警官、訴訟原告の代表者など二十数人が到着、Rosneft
との提携交渉やTNK-BPに関連した書類を 調べた。

その後、BPはこの家宅捜査を法律違反であるとして取り消しを求め、連邦執行局(Federal Bailiff Service)は9月10日まで執行を延期した。


AARは8月15日、Stockholm仲裁パネルに、BPがRosneftとの提携によりTNK-BPの株主契約を破ったかどうかの審理を求めた。

AARでは損害賠償についての判断は求めていない。
損害賠償はAARとBPとのストックホルムでの調停ではなく、TNK-BPとBPの間の英国での裁判でやる必要があるとしている。

 

5月の調停では、Rosneft の同意を前提にTNK-BPが北極海開発に参加するとし、これを条件にBPRosneftの株交換を認め た。
BPとAARの株主契約を尊重したものであり、調停ではBPが株主契約を破ったとの判断が下される可能性がある。

BPは北極海開発での将来の利益を失ったうえに、多額の損害賠償を求められる可能性があり、メキシコ湾原油流出事故に続く大きな負担となる

 

ーーー

BPRosneftの契約は5月16日に時間切れで白紙となった。

Rosneft は8月30日、北極海大陸棚などでの油田探査・開発に関し、ExxonMobilと業務提携することで合意した。

対象はロシア北部の北極海と、ロシア南部の黒海の深海油田で、Rosneft が66.7%、ExxonMobilが33.3%のJVで油田のほか、ガス田の開発を行う。

ーーー

BPは2011年2月、インドの石油精製・石油化学最大手のReliance Industries と提携し、インドでの石油・ガス開発を拡大すると発表した。
両社はロンドンで枠組み協定に調印した。

BPRelianceが操業しているベンガル湾のKrishna Godavari (KG)海盆のKG D6 blockを含む23の鉱区(総面積27km2)の石油・ガス権益の30%を取得する。
また
50/50JVを設立し、インド市場でのガス販売の市場調査などを実施する。
JVはまた、インドで天然ガスの受け入れ、輸送、販売のためのインフラ作りに努力する。

2011/2/28 BP、インドでのガス・石油開発でRelianceと提携 

両社は2011年8月30日、正式契約に調印した。
BPは対価として72億ドルを支払うが、実績に応じて追加で最高18億ドルを支払う。

 

大阪府の泉南地域の石綿紡織工場の元労働者や元周辺住民ら29人が石綿肺や肺がんなどになったのは、国がアスベスト(石綿)の規制を怠ったのが原因だとして、国に計9億4600万円の賠償を求めた訴訟の判決が2010年5月19日、大阪地裁であった。


小西義博裁判長は「石綿対策を省令で義務づけなかったのは違法」とし、
賠償金を支払うよう命じた。
勝訴したのは26人で、賠償額は1人あたり 687万円~4,070万円で総額は
約4億3500万円

工場近くで石綿粉じんにさらされたとして「近隣暴露」を訴えた元周辺住民の請求は退けた。

2010/5/22  アスベスト被害で国の責任認定

これに対し、厚生労働省と環境省は控訴を断念する方向で調整に入っていたが、政府は関係閣僚会議を開き、控訴する方針を決めた。

仙谷国家戦略相は、「短時間でこの問題を確定させてしまえば、後々出てくる問題点について合理的な解決策を示す余地がなくなる。全体的な解決策を、裁判所に入っていただくこともありうる前提で検討する」と述べた。


この控訴審判決が8月25日、大阪高裁であった。

三浦潤裁判長は、国の不作為責任を初めて認めた1審判決を取り消し、原告側逆転敗訴の判決を言い渡した。
「国が1947年以降、健康被害の危険性を踏まえて行った法整備や行政指導は著しく合理性を欠いたとは認められない」と、国の責任を否定した。

裁判長は、「過去に吸い込んだアスベストによって深刻な被害が現実化していることを考えると、長期的な危機管理として必ずしも十分でない部分があったことは否定できない」とも述べた。

最近の訴訟では国の不作為責任を認める司法判断の流れが続いており、1審判決もこの流れに沿ったものであったが、控訴審は逆の判断を示した。

原告団と弁護団は「泉南地域の被害と国の加害の事実から目をそむけ、国民の生命、健康よりも経済発展を優先させた国の責任を不問に付すもので、信じがたい暴挙。直ちに上告し、引き続き泉南アスベスト被害の全面解決を求めて最後まで闘い抜く」との声明を出した。

ーーー

1審の大阪地裁と今回の高裁の判決理由はそれぞれ以下の通り。

1960年時点で石綿肺防止のための省令を制定しなかったこと

 地裁:違法

石綿肺の医学的知見が1959年におおむね集積され、被害の防止策を総合的にとる必要性も認識していた筈。

この時点で省令を制定せず、71年に旧特化則(特定化学物質等障害規則)で粉じんが飛散する屋内作業場に排気装置を設置することが義務付けられるまで、対策をとらなかった。

省令を制定・改正し、排気装置の設置を義務づける規定を設けなかったのは、著しく合理性を欠き、違法 。

 高裁:違法でない

当時は排気装置の設置が、技術的に確立していなかったうえ、コストの高さもあって工場が導入に積極的ではなかった。
1971年に設置を義務づけるまで国の対策が遅れたとは言えない。

国は、1947年に制定された旧労働安全衛生規則で、アスベストも規制の対象にして事業者に排気装置の設置や防じんマスクの着用などの適切な措置を指導するとともに、その後も法整備や行政指導を順次行ってきた。
日本がアスベストを禁止した時期も、海外に比べて特に遅れたとは言えない。

1972年時点で国が石綿肺防止の省令を制定しなかったこと

 地裁:違法

石綿粉じんと、肺がんと中皮腫発症の関連性があるという医学的知見は、1972年におおむね集積された。
粉じん測定機器としてメンブランフィルター法も実用化され、一般の事業所で粉じん濃度の測定ができるようになった。
特化則により、石綿を製造し、取り扱う屋内作業場で6カ月以内ごとに1回、定期的に粉じん濃度を測定、記録することが義務付けられた。

測定結果の報告などを義務づける必要があったが、国はこれを怠った。これは著しく合理性を欠き、違法。

省令制定権限不行使の違法と石綿粉じん暴露による損害との因果関係

 地裁:

国の省令制定権限不行使の違法と、60年以降に石綿粉じんに暴露し石綿関連疾患になった労働者の原告、またはその相続人らの損害には、相当因果関係がある。

・規制権限のあり方

 高裁:

化学物質の危険性が懸念されるからといって、ただちに製造、加工を禁止すれば産業社会の発展を著しく阻害しかねない。

規制の判断要素になる医学的知見などは変化するため、権限行使の時期や内容は大臣によるその時々の高度に専門的で裁量的な判断に委ねられている。

健康被害が発生した場合も、規制権限の不行使がただちに違法にはならない。
許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くときに限り違法

 

ーーー

労災認定の時効(死後5年)を理由に補償請求権を失ったアスベスト(石綿)関連患者の遺族らの救済措置を復活、延長する改正石綿健康被害救済法は8月26日の参院本会議で全会一致で可決、成立した。
救済措置が当面10年間延長される。近く施行される見通し。

現行の石綿救済法は2006年3月27日(同法施行日)までに死亡した住民らの遺族に特別遺族弔慰金など(約300万円)を支給しているが、今年3月末から新たな時効の救済が打ち切られていた。

このため改正法は、施行日から10年が経過する2016年3月27日前までに死亡した被害者に拡大する。(請求期限は2011年3月)

韓国の李大統領は8月21日からモンゴル、ウズベキスタン、カザフスタンを訪問し、資源・エネルギー分野の協力強化で合意した。

モンゴルでは、両国の関係を「善隣友好協力パートナー関係」から「包括的パートナー関係」に格上げし、レアアースなどの確保に向けたエネルギー・資源分野の戦略的協力了解覚書も締結した。

ウズベキスタンで41億6千万ドル規模のSurgil ガス田開発プロジェクト、カザフスタンでは石炭火力発電所とLG化学の石油化学JVなど80億ドル規模の契約を結んだ。

1)モンゴル

李明博大統領は8月22日、エルベグドルジ大統領と会談し、2006年に締結した「善隣友好協力パートナー」関係を1段階高い包括的パートナー関係に引き上げることで合意した。韓蒙間の「中期協力行動計画」もまとめた。

中期行動計画には、埋蔵量世界2位の銅、4位の石炭、14位のウラン、鉄などの原料加工分野に対する韓国企業の投資を増やすための政府間協力を進めるという内容が盛り込まれた。
また、豆満江開発事業(韓国、北朝鮮、中国、ロシア、蒙古の5カ国共同の地下資源・植物・地質などの探査)のために努力し、大陸鉄道網連結のための共同研究も進めることにした。

鉱物資源の探査・開発を強化するという了解覚書も締結された。特にレアアースとウランでの協力を強化する。


2)ウズベキスタン

ウズベキスタンのアラル海に近いSurgil ガス田を開発し、ガス化学プラントを建設する総額41億6千万ドル規模の超大型プロジェクト契約が8月23日に締結された。

2006年に韓国ガス公社(KOGAS) とウズベキスタン国営ガス公社(UNG) が了解覚書を締結し、2008年に双方が50%ずつ出資する合弁会社(UZ-KOR) を設立し交渉を続けてきた。

UZ-KOR 株主

ウズベキスタン Uzbekneftgaz(UNG)     50.0%
韓国 韓国ガス公社(KOGAS) 17.5%
湖南石油化学
(当初は子会社のロッテ大山石化)
17.5%
STX Energy(双竜グループ) 5.0%
LG International 5.0%
SK Gaz 5.0%

今回、GS Engineering & Construction、Samsung Engineering、Hyundai EngineeringとUNG、UZ-KORがガス田開発とパイプライン建設に対する契約を結んだ。韓国3社はまた、ガス設備、エタン分解設備、エチレン製造工場、付帯設備などの契約文書に署名した。

Surgil のガス埋蔵量は1300億立方メートルで、液化天然ガス換算で9600万トン、原油換算で8億3000万バレルに上る。

 

 


3)カザフスタン

李大統領は中央アジア歴訪最終日の8月25日、カザフスタンで政府間協定を含め80億ドル規模の事業権関連契約を締結した。

知識経済部とカザフスタン産業技術省は、Balkhash石炭火力発電所事業権を韓国コンソーシアムに与える内容の政府間協定を締結した。

Balkhash湖の南西部沿岸に45億ドルで66万kw規模の石炭火力発電所2基を建設し今後20~30年間にわたり運営する。
韓国側からは韓国電力 (35%) とSamsung C&T (35%) が、カザフスタンからは国営電力会社のSamruk-Energo (25%) とカザフスタン資源大手のKazakhmys (5%) が参加する。


LG化学と国営企業のKazakhstan Petrochemical  (KPI) はAtyrau石油化学団地建設と関連の合弁契約に署名した。
50/50JVを設立し、カスピ海近くのTengiz油田から出るエタンガスを活用してエチレン、ポリエチレンを製造する。
LG化学が工場建設・運営・製品販売を担当する。

KPIは国営石油会社KazMunaiGasが51%、私企業のSAT & Co が49%を保有する。

能力はエチレンが84万トン、PEが80万トン。
投資額は40億ドルで、両社が6億ドルずつ出資、残り28億ドルはプロジェクトファイナンス。2016年の生産開始を目指す。

LGでは低コスト原料の海外石化基地を確保でき、将来的に中東と競合する地位を得たとしている。

なお、KazMunaiGasのAtyrau 製油所では石化コンプレックス計画第一期としてSinopec Engineeringが芳香族工場の建設を請け負っている。
ベンゼン 133千トン、パラキシレン 496千トンで、2013年に生産開始の予定。

今回のLGの計画はAtyrauの石化コンプレックス計画の第二期になる。

 

LGとGMは8月25日、LGによるChevrolet Volt やOpel Ampera用のバッテリー供給での協力関係を拡大し、電気自動車を共同で開発すると発表した。

GMとLGの提携関係は、2009年にLG化学がGMの電気自動車シボレー・ボルト用バッテリーの単独供給メーカーに選定されたことから始まった。

2009/1/17 LG化学、GMに電気自動車用バッテリー独占供給へ

今後GMが製造する次世代電気自動車向けのバッテリーやモーター、車内冷暖房システムなど主要部品や中核ソリューションなどの開発をGMと共同で進める。

GMは今後、LGのバッテリーやその他のシステムを利用することにより製造販売する電気自動車の数と種類を増やし、LGはこれにより自動車部品メーカーとしての製品種類を広げる。

GMでは、この協力関係により、将来のニーズがより早く解決できるようになるとしている。需要家は最新の省エネ技術をより早く利用でき、我々は開発段階での時間と費用を節約できると述べた。

GMが開発を進める次世代EVは早ければ4‐5年後、市場に登場するものと予想されている。
GMのパートナーとなったLGは今後一定期間、主要部品をGMに独占的に供給する可能性が高い。

LGではこれまで、エネルギー、LivingEco、ヘルスケアを3大次世代成長エンジンとし、電気自動車事業をエネルギー部門の下位単位に分類してきたが、今回、電気自動車を加えて4大次世代成長エンジンとして育成する。

LGではLG電子がスマートホン時代に一歩遅れて対応したため不振に陥っており、LGディスプレーも液晶表示装置(LCD)市況の悪化に悩む。

このためLGはグループを挙げて電気自動車事業に「全てをかける」ことにした。
LG化学のバッテリー、LG電子のエアコンおよび換気システム、LGイノテックのモーター、LG CNSの充電インフラ、V-ENSの自動車部品設計など、系列会社を総動員して電気自動車事業に本格的に参入する計画。

このため、LGは大規模な電気自動車研究施設を設立することにし、今年初めから仁川市と用地選定について協議を行っている。

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自動車向け二次電池ではLGがトップを切っているが、その素材の大部分を日本からの輸入に頼っている。

2010/9/13 三菱化学、リチウムイオン二次電池用負極材の製造能力増強 (後半に各部品のシェア)

このため韓国政府は2010年7月、二次電池(充電式電池)を次世代の基幹産業に育てる2020年までの長期計画をまとめた

2010/7/15 韓国、「二次電池の競争力強化に向けた統合ロードマップ」を確定

今回のLGのように最終の自動車を抑えた上で、上流に遡られると、電池部品での日本の優位も危うくなる。

年間最大550億立方メートルのシベリアの天然ガスをサンクトペテルブルク北方のビポルクからバルト海海底約1200キロを通ってドイツ北東部グライフスバルトまで供給するNord Stream Pipelineがこのたび、OPAL natural gas pipeline(Baltic Sea Pipeline Link)と接続した。

Nord Stream Pipelineは、20059月、ロシアのGazpromとドイツの電力会社E.On、及びBASFのエネルギー分野の子会社Wintershall3社が設立し、 その後、オランダのNederlandse GasunieとフランスのGDF SUEZが参加した。
現在の出資比率は、
Gazprom 51%、Eon 15.5%、Wintershall 15.5%、Gasunie 9%、 GDF SUEZ 9%となっている。

なお、BASFのエネルギー分野の子会社Wintershallはロシアの South Stream 天然ガスパイプライン計画に参加することで合意している。
  2011/3/30  BASFがロシアの South Stream 天然ガスパイプライン計画に参加

 

OPALは全長470kmのパイプラインで、Nord Stream がドイツのLubminで地上に出たところからドイツとチェコの国境のOlbernhau まで南下する。

OPALはWINGAS Group が80%、E.ON が20%出資する。
WINGAS GroupはWintershallが50%+1株、ロシアのGazpromが50%-1株を所有する。

OPALと既存の欧州のガスパイプラインとの接続も検討されている。

OPALは既に完成しており、第4四半期にもロシアの天然ガスが欧州に流れる。

 

8月17日午後、韓国蔚山のSKの石化コンビナートでHyundai EP(旧称 Hyundai Engineering Plastics)のポリスチレン工場で爆発事故が発生した。

12日から16日まで操業を停止して整備しており、再稼働の過程で火災が発生、爆発した。作業員8人が重軽傷を負った。
 

Hyundai EP は1988年にHyundai Development Co. の石化部門として設立された。

1991年にSolvay Engineered Polymers((2008年にLyondellBasellに買収された)から技術を導入した。
1994年に工場を完成、Hyundai Motorにバンパーや内装材を供給した。

2000年にHyundai Engineering Plastics としてスピンオフし、2006年に現在のHyundai EP に改称した。

現在、自動車向けのPPコンパウンドを中心に、下記の製品を扱っている。
  PP Compound
  PE Compound
  Engineering Plastics (Nylon compounds, PBT compounds, PC
/ABS and PC/PBT alloys, m-PPO alloys)                            
  PS
/EPS  
  PB Pipe (Basell の高品質Polybutylene-1 のパイプ)

このうち、PSとEPSは2010年4月に東部韓農(Dongbu HiTek、旧称Dongbu Hannong Chemical)から買収した。

東部韓農は蔚山のSKコンプレックスに、SM 270千トン/PS 100千トン/ EPS 50千トンを持っていたが、PS/EPSを売却した。  

 なお、大山のHyundai Petrochemical はLG Chemと湖南石化に買収され現在は両社の工場となっている。
 2006/4/12 韓国の石油化学-3

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蔚山では過去に多くの事故が発生している。

2010年7月に砂糖メーカーの三養社の子会社三養ジェネクスで砂糖製造反応器が爆発
2011年2月 
タンクが爆発。
 同社では2004年に水素低圧タンクが爆発して3名死亡している。

2011年5月と6月に三養社サイロが爆発。

2011年2月 大韓油化のPP工場で爆発、1名死亡、2名負傷。
残留ガスを取り出した後、タンク内壁のスラッジをウォータークリーニング作業している間、原因不明の火災が発生しタンクが爆発した。

蔚山消防本部によると、これまでの発生数は2007年が38件、08年が44件、09年が31件、10年が33件。11年はすでに26件発生しており、人命被害は、2007年が1人死亡、5人負傷、09年が9人負傷、10年が1人死亡、9人負傷、11年は1人死亡、7人負傷だった。

聯合ニュースでは、大多数の石化プラントが建設されて30年を越えるなど施設が老朽化したためと、各企業が安全管理を徹底的にしなかったためと分析している。

 

 

厚労省は8月19日、新型インフルエンザワクチン開発・生産体制整備臨時特例交付金の第2次交付事業について4事業者が応募した事業を採択したと発表した。

対象事業は 細胞培養法ワクチン実生産施設整備等推進事業で、平成24年度までにワクチン生産のための実生産施設の構築・治験の実施等を行い、平成25年度の実用化を目指す。

昨年の第1次交付事業では細胞培養法開発事業の実験プラント整備等を補助対象にしており、今回、実生産工場整備等のための公募がなされた。

目標は全国民分の新型インフルエンザワクチンを約半年で生産可能な体制を平成25年度中を目処に構築することで、
現在の鶏卵培養法では1年半~2年を要するが、細胞培養法を開発することにより、半年に短縮する。

これにより、日本で大流行が起きた際に、これまでのように輸入ワクチンに頼らずに済む体制が整う。

6事業者から応募があり、4事業者が選ばれた。

事業者 基準額 ワクチン生産量
(製造後半年の量)
化学及血清療法研究所  23,984百万円 4000万人分以上
北里第一三共ワクチン 29,959百万円 4000万人分以上
武田薬品工業 23,984百万円 2500万人分以上
阪大微生物病研究会 23,984百万円 2500万人分以上

報道では他に、アステラス製薬と技術提携している医薬品ベンチャーのUMNファーマと、スイスのノバルティスの日本法人が応募したとされる。UMNファーマは第1次では選ばれて実験プラント整備事業を行ったが、今回は選ばれなかった。

付記

北里第一三共ワクチンは、第一三共(51%)と北里研究所(49%)の合弁によるワクチン専門の開発・製造発売会社で、2011年4月に発足した。

4事業者は交付金を活用して最先端ラインを整備し、新型インフルエンザ専用ラインとするが、新型インフルが流行していない時期には季節性インフルや他の感染症向けワクチンの生産に利用でき、他社と比べ優位な地位を得たことになる。

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なお、第一次交付事業は2010年7月に下記の各事業者が選ばれている。

予算額は細胞培養法開発事業が127,700百万円、その他が164百万円となっている。

  事業者
細胞培養法開発事業
(実験プラント整備事業、増殖性試験実施事業等)
化学及血清療法研究所
北里研究所
武田薬品工業
UMNファーマ
鶏卵培養法生産能力強化事業 化学及血清療法研究所
「第3世代ワクチン」等
開発推進事業
皮内投与デバイス及び
皮内投与ワクチンの開発
テルモ
経鼻投与式細胞培養新型
インフルエンザワクチンの開発
阪大微生物病研究会

 

 

米国の石油会社 Sunocoは8月16日、 オハイオ州Haverhillフェノール工場を売却すると発表した。
これにより、同社の石油化学は消滅する。

Sunoco は2008年12月にアナリスト説明会を開催したが、その中で、能力で北米3位のPP、北米1位のフェノールを含む化学品部門の売却を考えていることを明らかにした。

同社は2004年に無水フタル酸、オキソ、エステル、2-エチルヘキサノールなどの可塑剤事業をBASFに売却している。

2008/12/19 Sunoco化学品部門の売却を検討

 

Sunocoは2010年2月、PP事業をブラジルのBraskemに売却する契約を締結したと発表した。

同社のPP工場は下記3工場(合計能力は95万トン)で、米国全体のPP能力の約13%を占める。PittsburghにあるR&Dセンターも売却する。

テキサス州La Porteとウエストバージニア州Nealは2000年に三菱商事から買収した旧Aristech Chemicalの工場で、
 
ペンシルバニア州Marcus Hookは元Epsilon Products(Sunoco とBAR-L のJV)の工場。

なお、Sunocoは2009年春にテキサス州Bayportの能力18万トンの工場を閉鎖している。これは2003年にEquistar Chemicals(その後Lyondell と合併、現在はLyondellBasell)から買収したプラント。

2010/2/3 Sunoco、ポリプロ事業をブラジルのBraskemに売却

フェノール、アセトンについては同社はFrankford (Philadelphia, PA) とHaverhill, OHに工場を持っていた。

Frankford は1998年7月にAlliedSignalから買収した。
能力はフェノールが450千トン、アセトンが280千トン、α-メチルスチレンが 30千トン。

Haverhillは2001年に三菱商事から買収したAristech Chemical の工場。

同社は2003年11月に老朽化した1系列160千トンを休止した。
現在の能力はフェノールが306千トン、アセトンが173千トン、ビスフェノールA が110千トンとなっている。

Sunocoは2011年5月、Frankford 工場をHoneywell International に85百万ドルで売却した。
Honeywell はHopewell, Virginiaに375千トンのカプロラクタム工場を持ち、これまでSunocoから原料のフェノールの供給を受けていた。

Frankford 工場の元の持ち主のAlliedSignal は1999年にHoneywellと合併しており、今回元の持ち主に戻ったことになる。

Sunocoは8月16日、Haverhill工場を、化学品商社のVinmar International などを有するコングロマリットGoradia Capital に売却する契約を締結した。売却額は106.5百万ドルで、Goradia Capitalは運営のためHaverhill Chemicalを設立した。

売却するのは、フェノールが306千トン、アセトンが173千トン、ビスフェノールA が110千トン。

この売却により、コア事業以外の事業を売却し、化学事業から離脱するという同社の戦略が完了することとなる。

Sunoco はPennsylvania州のMarcus HookとPhiladelphiaに製油所をもっている。
Philadelphia 製油所には545千トンのキュメン工場を持つが、これは維持する。

付記 

Sunocoは9月6日、Refinery事業からも撤退し、Marcus HookとPhiladelphiaの製油所の売却手続きを開始したと発表した。同時に抜本的な戦略レビューを行っていることを明らかにした。
事業の収益性悪化によるもので、収益性の高い
Retail とlogisticsに経営資源を集中させたいとしている。

なお、同社は子会社で冶金コークス大手のSunCoke Energy をスピンオフさせた。

同社のBusiness Unit は以下の通り。
  Refining & Supply 撤退検討
  Retail Marketing
  Chemicals    撤退完了
  Logistics
  Coke      スピンオフ

ーーー

参考

Sunocoは2001年に三菱商事からAristech Chemical を買収した。

Aristech Chemical は化学品(フェノール、アセトン他)、ポリマー製品(ポリプロピレン他)の製造販売を行っていた。

1989年にHuntsmanがAristech の買収を計画した。Aristech はこれを拒否、一時は住友化学にもPPを分離してJVにする提案もしたが、1990年に三菱商事が買収提案を行い、Huntsmanが買収を諦めたため、三菱商事による買収が確定した。
買収額は850百万$だが借入金の 引継ぎなどをいれると10億$以上となるといわれた。

当初同社には三菱化成、三菱油化、三菱瓦斯化学、三菱レ-ヨンが各4.48%出資して三菱グループ総力を挙げて取り組む姿勢を見せたが、その後、 三菱商事100%となった。
三菱商事は石油化学品事業の戦略において、北米の橋頭堡として位置づけてきたが、原料価格の上昇を製品価格に転化しきれず、採算が大幅に悪化し、売却した。

 

 

旭化成は8月19日、旭化成ファーマが開発したRho-kinase 阻害剤「ファスジル」のライセンス契約に関連して、スイスのActelion社およびその関連会社・役員を被告とする損害賠償請求訴訟で、被告らに対して総額516.6百万米ドルの支払いを命ずる第一審判決が下されたと発表した。

付記

旭化成は11月22日、判決後の原告・被告の異議申立手続において、裁判所が被告の主張を一部認容し、損害認定額が約101百万ドル減額され、訴訟費用を含め総額415.7百万ドルとなったと発表した。

旭は2006年6月に米国のCoTherix社に対してファスジルの開発・販売権を供与するライセンス契約を締結した。

CoTherixは2007年1月にActelionに買収されたが、買収完了の当日に旭化成に対しファスジルの開発を取り止めると通告、旭化成に返却した。

これに対し旭は、CoTherixに対しては、ライセンス契約の違反に基づく損害賠償を求めて国際商工会議所(ICC)において仲裁手続を行い、2009年12月、約91百万米ドルの支払いをCoTherix に命ずる裁定を得て、既に全額を受領している。

2009/12/26 旭化成ファーマ、ライセンス契約違反の仲裁裁定で91百万ドル受領へ

旭化成ファーマは並行して、Actelionおよびその関連会社・役員に対して、被告らが不法に開発を止めさせたことを理由として損害賠償を求める訴えを米国カリフォルニア州サンマテオ郡地方裁判所に提起した。

Actelionはファスジルと競合する自社のTracleerの利益を保護するため、ファスジルの開発を止めさせる目的でCoTherixを買収した。

第一審の陪審員は5月4日に旭の主張を認め、Actelionに577百万ドルの支払いを命じた。

利益喪失に358.95百万ドル、開発費として187.4百万ドル、役員の懲罰的賠償として20百万ドル。

これに対しActelionは仲裁により支払った額の一部を相殺するよう求め、裁判所は7月29日に70.35百万ドルの引き下げを認めた。

(差し引きすると506.6百万ドルとなり、旭化成発表と若干異なる。金利加算か?)

 

台湾の石油化学4社は817日、シノペックと組み、福建省の古雷半島で石油精製・石油化学基地を建設すると発表した。

参加するのは、台湾聚合化学品、李長栄化学、中国石油化学工業開発、和桐化学の4社で、この計画を主導する台湾区石油化学工業同業公会の陳武雄理事長(和桐の創業者)が代表団を率いて北京市を訪問し、シノペック及び福建省政府との間で一貫生産拠点の建設に向けた枠組み協議に調印した。

台湾聚合化学品
 USI
カプロラクタム、アクリロニトリル、氷酢酸、ナイロンチップなど
李長栄
 Lee Chang Yung Chemical
DME、アセトアルデヒド、MIBKMEKPPなど
中国石油化学工業開発(中石化)
 China Petrochemical Development Corporation
LDPE/EVA、LLDPE
和桐化学
 Ho Tung Chemical
Normal paraffin, Alkyl Benzene, LAS など

4社は台商古雷石化(漳州)を設立し、福建煉油化工(シノペックと福建省政府のJV)との折半出資で事業を行う。

投資額は45億米ドルとされる。

台湾紙によると、計画
内容は以下の通り。
さらに長春大連集団や国喬石油化学(グランド・パシフィック)などが参加を計画しており、全体の投資額は150億米ドルに上るとみられている。

  万トン 投資
石油精製 1,600 JV
ナフサ分解 120 JV
EVA 20 台湾聚合化学品
PE 49.1 台湾聚合化学品
合成ゴム 14 李長栄
PP 63.4 李長栄
n-パラフィン 16.6 和桐
LAB 20 和桐

 

年末にも始動し、3年内に稼働にこぎ着けたいとしているが、問題は台湾政府の認可が得られるかどうかである。

投資には経済部投資審議委員会の認可が必要となるが台湾政府は現在、「投資が認められるのは石油精製と川中~川下のみ」とし、エチレンについては認めていない。
政府は遅かれ早かれナフサ分解プラントの対中投資を解禁するとみられているが、総統選挙を控え年内に中台絡みの大きな政策変更をするのは難しいとの見方が強い。

本計画は2009年に既に明らかになっていた。
当時は福建省泉州市泉港区の泉港石化工業区で検討しており、和桐化学、大連化学、李長栄、長春人造樹脂、國喬石油化学、台湾合成ゴムの6社が参加するとしていた。

2009/5/26 台湾の石化メーカーが中国でエチレンコンプレックスを計画 

なお古雷半島には、パラキシレンの反対運動を受けて、騰龍アロマティックス福建省厦門の海滄投資区から移転している。



この計画の背景の一つに、台湾での今後のエチレン不足問題がある。

台湾国営の中国石油は高雄に日産 270千バレルの製油所と50万トンのエチレンコンプレックスを持つが、住民からの公害問題での苦情を受け、2015年までに閉鎖することが決まっている。

このため、中国石油は、2006年1月に、同社43%出資で誘導品各社との合弁会社の國光石化科技を設立し、雲林に日産30万バレルの製油所とエチレン120万トンを建設することを決めたが、土地買収に失敗した。

その後、彰化県大城濱海区での計画を進めていたが、 環境アセスメントをめぐり、地元住民との対立が続いた。

予定地 彰化県大城濱海区
着工予定 2011/11
完工予定 2015/4
主要工場 ナフサ分解、製油所誘導品約30プラント

馬英九総統は本年4月にこの計画を支持しない方針を正式に表明した。
建設予定地の彰化県を訪れた際に農民やカキ養殖業者が天に祈っている姿に心打たれたとし、同地は「国家湿地自然公園」として開発するよう内政部に指示した。

馬総統は、「政府は石化産業の発展を放棄したわけではない。ただ産業構造や政策の方向性を再検討する必要がある」とし、これまでの量的成長から質的成長へとかじを切る方針を示した。川中~川下産業の高品質、高付加価値化実現を目指すとしている。

中国石油では投資規模を縮小し、彰濱工業区か台中港区で特殊化学品を生産する方向で調整しており、エチレンについては海外への移転が焦点となる。

マレーシアやインドネシアなど候補先として挙げられているが、中国石油では一時、中東進出検討していた。
   
2007/1/24 
台湾の中国石油、中東進出か?

国石油のエチレン供給量は現在年間108万トンで、2013年に林園3ナフサの設備更新によって150万トンへの拡大が見込まれるが、5ナフサが停止すれば、直ちに50万トンの供給不足が生じるという。

 

中国で工場の環境汚染問題が多発している。

次の2件は単なる事故ではなく工場側の不当行為によるもので、当局の姿勢にも批判が出ており、今後の当局の対応が注目される。

1)江西省蓮花県

江西省萍郷市蓮花県にあるアロイ等を生産する隆森實業公司で8月16日、鉛やクロムなどの有害物質を排出しているとして操業停止を求めた住民数千人が出入り口をふさいで抗議し、警官隊との衝突で20人以上が負傷した。

工場周辺では、住民が鉛中毒の疑いで死亡するなど、工場で生産される鉛やクロムによるとみられる中毒症状が拡大。付近の川でも大量の魚が死ぬなどしたため、住民らが省政府にたびたび操業停止を求めていた。

住民は、工場側が賄賂を贈り、住民の要求を抑えたと批判している。

香港の人権団体「中国人権民主化運動情報センター」が最初にこれを報道し、ニューヨークに本部を置き、衛星放送で世界中で視聴できる中国語専門のテレビ局 新唐人テレビ(NTDTV )も記者を派遣し、詳しく報道した。
  日本語版 
http://www.ntdtv.jp/ntdtv_jap/environment/2011-08-20/632843263169.html

インターネットでも情報が飛び交っている。

8月14日に大連市で化学工場の移転を求める大規模デモが起き、地元当局が即日、工場移転を約束した。

2011/8/15 中国・大連で化学工場の撤去求め デモ

このまま住民の抗議を無視するわけにはいかないと思われ、今後の江西省当局の対応が注目される。

 

2)雲南省曲靖市

8月12日、雲南省曲靖市陸良県の化学会社 陸良化工実業公司工場が5000トン余りの重金属クロムスラグを違法に投棄し、汚染された水が南盤江に流れ込んだとの情報がネットを駆け巡った。

工場の排水口付近には3千人が暮らしており、2002年ごろからがん患者が増加した。

 

市当局は8月15日、工場がクロムを不当に廃棄したことを認めた。
2人のトラック運転手が輸送費節約のため道端に捨てたとし、2人は既に逮捕した。汚染されたのは現地で使われていなかった溜め池で、その面積もわずかの100立方メートルにすぎないとし、南盤江の水質をモニタリングしたところ、何ら異常は認められないとしている。

新華社は以下の通り問題点を列挙している。

 ・陸良化工はクロムの残渣を過去17年間処理せず、野積みしている。
 ・このような大規模な有害物質の廃棄を規制当局が知らない筈はない。なんらかの不正があったのではないか。
 ・当局が水質に異常は認められないとしたのはおかしい。隠そうとする意図があるのではないか。

中国中央政府・水利部の珠江水利委員会は8月17日、陸良化工の不法投棄で、「人畜の飲用水の安全に、深刻な影響が発生している」との調査結果を明らかにした。

陸良化工は4月から6月までの間、重金属であるクロムを含む汚泥を曲靖市内3カ所で、計5000トンを不法投棄した。現地では干ばつが続いているが、6月に降った少量の雨にクロムが溶け出し、周辺地域の川や地下水を汚染した。

調査チームは曲靖市および隣接する昆明市の河川で水質を検査した。今のところ汚泥が廃棄された周辺以外で六価クロムは検出されていないが、現在は干ばつであるために汚染が広がっていないだけの可能性もあり、今後も厳重な警戒が必要という。

陸良化工の社長は「2003年に当社を買収したが、その時すでに汚泥は屋外に積まれていた。合計で28万8400トンになる計算だ」と述べた。
同社はその後も汚泥を屋外に放置し続けた。操業を開始した1989年から数えると、22年にわたり猛毒の六価クロムを含む汚泥を屋外に積んでいた計算になる。


新唐人テレビ(NTDTV )の上記のホームページ (中国語版)は、南盤江付近の状況のビデオを掲載している。

 




 

 

東京電力は、福島第一原発の高濃度汚染水を浄化する新しい装置の試運転の作業を8月16日正午過ぎに始めた。

試運転は17日午後9時まで行い、想定通りの機能を確認できた。

その後、直ちに本格稼働の予定であったが、装置内の圧力が想定以上に高まり、プログラムの変更などを迫られた結果、18日午後から本格稼働させた。

このセシウム吸着装置は、SARRY (Simplified Active Water Retrieve and Recovery System) と呼ばれ、アメリカのShaw Groupが基本設計を行い、東芝とIHIが制作したもので、セシウム吸着塔は、直径1.4m、高さ3.6mの円筒形の容器。

Kurionと同じセシウム吸着装置だが、吸着塔自体に鉛遮蔽を施したことなどにより、従来のようなスキッドはなく、装置がシンプル。

吸着塔内部にはゼオライトとチタンケイ酸塩が詰めこまれており、これが5段直列に繋がる構造を持つ。 (2系列)
処理能力は1,200t/日。
汚染水を送り込むポンプが2台用意されていて、1台が壊れても、もう1台によって、そのまま処理を継続できる。

 

 

 

下記のような組み合わせが可能で、 いずれかの装置が故障しても、残りの装置で処理を続けられるため、浄化システムの稼働率向上につながる。

当初はKurionーSARRYーArevaの三つの装置を直列に接続した。
 

東京電力は8月19日、従来の
KurionーArevaの系列と、SARRY単独の系列を並行して運転し始めた。処理量は1時間あたり最大50トンから70トンに引き上げられるという。

6月から稼働しているKurionーArevaの装置を使った汚染水処理施設では、ポンプの停止などのトラブルが相次ぎ、汚染水の量は思うように減っていない。東電は8月17日の会見で、前週の汚染水浄化装置の稼働率が88%だったと発表したが、浄化システムが本格稼働した6月17日からの通算の稼働率はまだ69%にとどまる。

 

付記

東京電力は8月21日、新たに淡水化装置2台が試運転に入ったと発表した。放射性物質を取り除いた汚染水から、逆浸透膜を使って塩分を取り除く装置で、試運転に問題がなければ本格運転に入る。淡水化の処理能力は1時間あたり50トンから70トンに増える。

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東京電力は8月22日、SARRY保守作業中に毎時3シーベルトの極めて高い放射線量を確認したため作業を中断、予定していた部品交換ができなかったと発表した。
原因は装置内部の圧力変動によって放射性汚染物質の塊が配管に漏れたため。東電は再発防止策として、装置内の弁を閉め、汚染物質が流出しないようにした。

 

 

参考 2011/6/16  福島原発、汚染水浄化装置

   2011/7/5    循環注水冷却が本格稼働

8月17日付の日本経済新聞は
「中国、資源買収 曲がり角 海外権益取得 急拡大のツケ」
というタイトルで、最近の中国企業の海外投資の失敗例を取り上げている。

しかし、それぞれを見ると然るべき理由があり、不可抗力や妥当な判断によるものが多く、必ずしも急拡大のツケとは言えない。

中国にとって資源の必要性は減っておらず、今後、人民元が切り上げられると、ますます買収に励む可能性がある。

過去のブログ記事のフォローも含め、取り上げられた事例を分析する。

1)Timor海Puffin油田

Sinopecは2008年に豪州のAED Oil から Puffin油田(AC/L6 and AC/P22)と AC/R1油田の権益の60%を6億豪ドルで買収し、両社のJVとした。

掘削にはノルウェーのSeaProduction LtdのFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)を起用したが、生産は設備の不調でうまくいかず、JVは2009年5月に生産を停止し、安全性や操業改善の措置が取られなかったとして契約を打ち切った。

これに対し、SeaProduction側は落ち度はないとして60百万ドルの補償を求め、調停に持ち込んだ。

調停委員会はこのたび、JV側に60百万ドルの補償をSeaProductionに支払うよう、決定した。

 これを受け、AED Oil 任意管理(voluntary administration)手続きに入った。管財人は、会社の全権を掌握し、事業を継続しつつ、負債の整理などを行う。

 

 


 

2)イランSouth Parsガス田

イラン政府は2009年6月、フランスの石油大手 Total と実施する予定のSouth Parsガス田開発を、同社に代えて中国石油天然気集団(CNPC)と進める方針を決め、イラン国営石油会社(NIOC) CNPC が北京で Cooperation contract に調印した。

2009/6/12 中国CNPC、イランで天然ガス開発

しかし現在のところ、CNPCはこの採掘を見合わせている。

イランでは日本はアザデガン油田から撤退したが、CNPCは2009年1月に北アザデガン油田開発の契約を締結し、2009年8月に南アザデガン油田の70%の権益を取得した。(日本撤退後はイラン側が30%)

これについても開発が進んでいるとは聞こえてこない。

CNPCとしては先ず権利を取得し、様子をみているものと思われる。


3)リビア

政情不安のリビアではCNPCが権益を取得した多くの油田が開発・生産中止に追い込まれ、全員が撤退、多額損失発生のリスクを抱える。

政府関係者は「インフラ開発まで含むリビアでの中国企業の損失は400億元(約4800億円)に達する恐れがある」とみる。

CNPCは2002年にリビアに進出した。

2002年にリビア国営石油とイタリアのAgipと共同で、砂漠地帯のWAFA油田と地中海側のMellitahを結ぶパイプライン建設を請け負った。
2005年12月に
リビア国営石油会社との間でPelagian Basin の海底油田の開発契約を締結した。

CNPCは2009年にリビアのGhadames Basin に利権を持つカナダの石油会社Verenex Energyを買収する契約を締結した。
しかし
リビアの石油利権の移譲についてはLibyan National Oil の承諾が必要となっており、リビアは承諾せず、最終的にCNPCは諦め、リビアの政府投資ファンドが買収した。

2009/9/24 中国石油天然気集団CNPC)、カナダの石油会社買収でリビア政府に敗退

2003年9月に国連安保理は対リビア制裁の解除を発表、この結果、米国はリビアを「テロ支援国家」指定から外し、その後、2006年5月にアメリカはリビアとの国交正常化を発表した。

このため、リビアの石油を狙い、多くの企業が進出している。

2007/4/25 Dow、リビアに石化JV設立    

2010/7/27 BP、リビア沖で深海油田掘削

 

付記

中国外務省の馬朝旭報道官は8月22日、「中国は国際社会と共に、リビアの再建で積極的な役割を果たしていきたい」との姿勢を表明した。「中国側はリビア国民の選択を尊重する。リビア情勢がいち早く安定を取り戻し、国民が正常に暮らせるよう希望する」と述べた。
中国は当初、米国とNATOによるリビア空爆に反対していたが、その後は黙認へと変化していた。


4)
カナダの天然ガス権益

PetroChinaは2011年210日、カナダの天然ガス最大手のEncana Corporation から天然ガスの権益の50%を54カナダドル(54.3億米ドル)で買収することで合意したと発表した。

2011/2/16  PetroChina、カナダの天然ガス権益取得

しかし、両社は6月21日、条件が折り合わず、交渉を中止したと発表した。CNPCは採算に合わないとして撤回した。


5)ナミビアのウラン権益

「 国有原子力発電大手、中国広東核電集団(CGNPC)はアフリカにウラン権益を持つ英Kalahari Minerals を7億5600万ポンド(約950億円)で買収することに合意したが、日本の原子力発電所事故に伴うウラン価格下落で、買収提案を撤回した。」

実際には、本年3月にCGNPCは1株2.9ポンド、総額7億5600万ポンドの提案を行ったが、ウラン価格の下落を受けて交渉し、Kalahariとの間で1株2.7ポンドに引き下げることで合意した。
しかし、英国政府がこれを認めず、断念した。

Kalahariは、ナミビア共和国に所在する世界最大級のフッサブ・ウラン鉱山(ロッシング・サウス鉱区を含む)を100%保有するExtract Resources の株式42%を持つ筆頭株主。
ロッシング・サウス鉱区は、世界有数の資源量を誇る大規模ウラン鉱区であり、現在、事業化調査が進められており、ウラン生産開始は2013年を予定している。
 

伊藤忠は2010年5月、Kalahariの株式14.9%を 約85億円で取得した。
同社は2010年7月、Extract Resources の株式10.3%を取得することで合意した。(2011/8の株主リストには未掲載)

6)豪銅鉱山開発大手Equinox Minerals

中国国有資源大手の中国五鉱集団の五鉱能源(Minmetals Resources)は、豪州とカナダに上場している銅鉱山開発会社のEquinox Minerals に対して買収提案を行った。全株取得を狙っており、買収提案額は63億カナダドル。

2011/4/15 中国五鉱集団、Equinox Minerals に買収提案 

五鉱資源は4月26日、買収計画を撤回した。
世界最大の産金会社、カナダのBarrick Gold が五鉱資源を上回る買収提示額(73億2000万カナダ・ドル)を示したことを受けた。


"Japan Held Nuclear Data, Leaving Evacuees in Peril"ーーー8月8日のNew York Times はこのタイトルの長文の記事を掲載した。
   http://www.nytimes.com/2011/08/09/world/asia/09japan.html

福島第一原発の事故の際、浪江町民は政府の指示のないまま、冬なので北風が吹くと考え、北西部の津島に避難した。
実際には風は直接、津島に向かって吹いた。3月12日から15日まで、町民は最も放射能のレベルの高いところに居た。

町民は2か月後に放射能の広がりを予測する政府の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information:Speedi)がそれを示していたことを知った。

町長はこの情報隠しは殺人に近いと怒っている。

  

 

文科省は当初、このコンピュータ予測はデータが不完全であるとして首相官邸に知らせなかった。
津波で原発にあるセンサーが破壊され、実際にどれだけの放射能が放出されたか分からないため、どこまで拡がるか測定できないというもの。

付記

原子力安全・保安院は9月2日、東日本大震災当日、福島第1原発1~3号機で全電源喪失などを想定し炉心溶融などを予測した「緊急時対策支援システム(ERSS)」の解析結果を公表した。
官邸の窓口に保安院職員を通じて渡したが説明はしておらず、どう活用されたかは不明という。

ERSSを開発した原子力安全基盤機構は3月11日、保安院の依頼でシステムを起動し、同原発で全電源が断たれた事態を想定したパターンを使い、1~3号機の原子炉内の水位や圧力、温度が今後どう推移するかの予測結果を同日午後10時に作成した。
それによると、11日午後10時50分に燃料棒が冷却水から露出すると予測。同11時50分に燃料の被覆管が破損し始め、12日午前0時50分に溶融が始まるとした。同3時20分に原子炉格納容器が設計上の限界圧力に達してベント(排気)が必要になり、放射性物質が外部に出ると予測した。

保安院は1号機の予測から導いた放射性物質の推定放出量を基にSPEEDIで拡散予測を実施した。
この計算結果も3月12日午前6時7分に出たが、保安院は官邸に報告していなかった。

 

首相官邸は最初はこれがあることを知らず、当初半径3kmを避難地域とし、順次広げた。

官邸は、これの存在を知り、専門家が不完全でもSpeediを使うべきだと進言した後も、この予測が問題とされた場合に、費用がかかる避難地域拡大の責任をとりたくなかったため、これを拒否した。

避難地域の拡大は数十万人を避難させ、住むところを探す必要がある。当初は道路が封鎖され、鉄道も動いていない。
これらを考え、避難を制限した。それにより補償費の支払い拡大も避けた。(官僚のインタビューから)

政府側は、Speedi が当初出したマップは首尾一貫せず、風向きにより日に何度も変わった、役に立たないものを公表しても仕方ないとするが、専門家は、専門家が見ればSpeediは非常に役に立つとしている。

ーーー

このコンピュータ予測は、政府が最初に公表しなかった情報の一つである。

福島原発のメルトダウンは何か月も公式に認められないままであった。
津波の翌日にメルトダウンの証拠であるtellurium 132を見付けたが、IAEAの訪問まで、約3か月これを抑えた。

学者グループはこれは極めて遺憾であると非難している。
同時に、被害の全容が分かる圧力容器内部の水の量や温度などを隠しているとみている。
また、冷却システムが破壊されたのが、津波のせいなのか、若しくは地震による破壊が要因なのかのデータを隠しているとしている。もし後者なら他の原発の安全性にも疑問が出てくる。

細野大臣は、当初パニックを起こすことを恐れて、Speediを含め、いくつかのデータを公表しなかったが、政府は考え方を変え、出来るだけ早くデータを公開するようにしていると述べた。

ConocoPhillipsと中国海洋石油(CNOOC)が共同で開発している渤海湾の海底油田のPenglai (蓬莱) 19-3で新たな原油流出が見付かり、ConocoPhillipsに対する批判が高まっている。

同油田はConocoPhillipsが権益49%を保有してオペレーターを務めており、残り51%はCNOOCが保有している。

1980年代に日中石油開発 (日本の石油公団と中国のCNOOCのJV)が蓬莱19-3油田エリアを含む25,000km2の鉱区を取得し探鉱を行ったが、当時は2,000m以深が主な対象層とされ、同エリアで商業量の発見はなく、放棄した。
その後CNOOCとConocoPhillipsが浅層を対象に掘削を行った結果、蓬莱油田を発見した。

 

 

蓬莱 19-3での最初の原油漏れは本年6月4日に Platform B付近で発見され、6月17日にはPlatform C 付近でも発見された。
しかし、
ConocoPhillipsとCNOOCはこの事実を1カ月近く隠し、非難を受けた。

7月10日に新たに油の流出が確認され、監督機関の国家海洋局は7月13日にConocoPhillipsに対し、Platform BとPlatform C(生産量は蓬莱油田の3分の1相当)の稼働停止を命じた。

中国国家海洋局は7月末に油田付近の4.6km2にいくつかの油膜が形成されていると明らかにした。Platform C で原油が毎日流出していることがわかり、 Platform B付近でも油膜が発見された。

7月14日までに集計された原油流出量は1,500バレルで、海水が汚染された面積は4,240km2と推測された。

原油流出によりすでに河北省と遼寧省一帯の海岸には黒い油膜が押し寄せており、該当地域の養殖業が大きな被害を受けている。

ConocoPhillipsは8月7日、蓬莱19-3で、6月の原油流出事故現場から10.8メートル離れた地点に新たな原油流出が発生したと認めた。現場の点検作業員が確認したという。

国家海洋局は8月10日、ConocoPhillipsに対し、クリーンアップの遅れを中国国民に謝罪するよう求めた。汚染地域、量、クリーンアップ済み地域と未処理地域、クリーンアップ方法、漏れ防止策などの報告を求めた。

中国の法律では原油漏れの罰金は最高で20万元(3万ドル強)となっており、これがConocoPhillipsの対応の遅さの理由ではないかと問題視する声が出ている。ConocoPhillipsには中国の海洋環境への社会的責任が欠けているとの批判もある。

 

付記

中国海洋石油総公司(CNOOC)の王宜林董事長は8月24日、香港で記者会見し、原油流出事故について謝罪した。事故原因の究明は中国政府の調査を待つとしたうえで、賠償問題もその結果に委ねる考えを示した。

 

ConocoPhillipsは期限として決められた8月31日に、原油流出が止まったと発表した。

しかし、国家海洋局は流出が完全に止まっていないと判断し、9月2日にPenglai (蓬莱) 19-3の生産停止を命じ、ConocoPhillipsはこの命令に従った。

 


コバレントマテリアルは8月11日、半導体ウエハー事業を台湾のSino-American Silicon Products Inc.(SAS:中美矽晶)に約4億5100万ドル(約347億円)で売却すると発表した。

子会社のコバレントシリコン(CVS)にシリコンウエハー事業を集約し、CVS全株式をSASに譲渡する。

収益が悪化していたウエハー事業を切り離し、セラミック関連事業に注力する。

半導体製造装置用セラミックス製品など、半導体関連部材事業について競争力の維持・強化を図るとともに、第二の柱となるエネルギー・環境事業も用途開発と新製品の投入を強化、成長を加速させる。

SASは台湾で太陽電池向けのウエハー事業を展開している。連結売上高は約600億円。コバレントのウエハー事業を買収することで半導体向け事業に参入する。

ーーー

コバレントの前身は東芝が40.4%を出資していた東芝セラミックス。

2006年10月、東芝セラミックスはCarlyle Groupとユニゾン・キャピタルが設立した特別目的会社エスアイシー・インベストメントを通じた自社株の株式公開買付を宣言、東芝の賛同を得て、これを実施した。

2007年6月にエスアイシーはTOBとその後の株式交換により完全子会社化した東芝セラッミクスと合併し、コバレントマテリアルとして発足した。

現在の株主は以下の通り。

Carlyle Group    45.6%
ユニゾンキャピタル    22.8%
UC Mask Investor   24.7%
東芝   3.1%

世界のシリコンウエハーのシェアは、信越化学が36%、SUMCO(旧三菱住友シリコン)が29%を占めるのに対し、コバレントはMEMC(米)、LG Siltron(韓)、Siltronic AG(独)の後塵を拝し、6位となっており、シェアは5%程度に過ぎない。

半導体需要は伸びているが、価格競争に拍車がかかっており、開発投資の負担も増えている。

同社の決算(百万円)は以下の通りだが、 前々期、前期とも大赤字で、累積損益は-33,239百万円となっている。
うち、ウエハーの営業損益は当期は黒字だが、 前々期は-2,212百万円、前期が-1,550百万円となっている。

当期も税引前損益は赤字で、最終が黒字になったのは繰延税金資産の計上によるものだが、これは今回の事業売却に伴う特別利益を前提にしたものである。

  2009/3 2010/3 2011/3
全社 セラミックス ウエーハ その他
売上高 93,717 67,859 82,867 37,832 40,949 4,085
営業損益 -3,818 -12,505 2,733 1,743 519 430
経常損益 -5,844 -14,356 -372      
税引前損益     -1,131      
税金     -1,762      
当期損益 -15,976 -16,408 573      

大株主として収益回復を急がせたいCarlyle等が事業譲渡を促したとみられている。

しかしウエハー事業の売却により、同社の売上高は半減することとなる。 

ーーー

売却先の台湾のSino-American Silicon 中美矽晶太陽光パネル用ウェハーで急成長してきた新興勢力。
2010年の連結売上高は約600億円。

半導体も太陽光パネルもシリコン製のウエハーを加工して生産するが、ユーザーが求める純度や品質の水準は半導体用が圧倒的に高い。
技術力で後れを取る台湾企業は、大量生産体制を築く資金力が勝敗を分ける太陽光パネル用で勢力を伸ばしてきた。

SASはコバレントの持つ高純度のウエハー製造・加工技術を獲得することで、半導体ウエハー事業に本格参入する。

SASでは、台湾には世界最大級の半導体メーカーのTSMC(Taiwan Semiconductor)、半導体受託生産で世界第二位のUMC、半導体組み立て/検査大手のASEがありながら、大手のウエハーメーカーがないが、今回の買収により台湾の半導体産業の国際競争力を著しく増大させるとしている。

同社は2008年に米国のエピウェーハのメーカーのGlobitechを買収して、売上高を3倍、利益を2倍にし、シナジー効果を体験している。

今後、欧米に加え、日本にも進出するとしている。

 

中国遼寧省大連市で8月14日、化学工場の撤去を求める市民およそ1万2,000人が市政府庁舎前に集まり、抗議を始めた。

撤去を求めているのは、大連の市街地から北東約20kmの大孤山石化産業園区の沿岸部にある大連福佳・大化石油化工有限公司の工場で、パラキシレンを生産している。(能力は年産 700千トンで、450千トンの増設計画あり) 

8月8日に台風9号中国名:梅花が接近した際、工場から約50mの距離にある防波堤が決壊した。
防波堤のすぐ近くに保管されていたパラキシレンが漏れ出す恐れが強まり、付近住民らが避難する騒ぎとなった。

大連の地元当局は9日、新華社通信などに「防波堤の修復は終わり、有毒物質は漏れなかった」と述べた。

市政府は当初、工場の移転を一つのオプションとして検討するとし、同時に有毒物質を出来るだけ早く取り除くとしていたが、夕方になり工場の即時操業停止と早期移転を決定し、抗議活動は収束した。

毎日新聞は以下の分析をしている。
経済の急成長に伴って市民の権利意識が高まる一方、浙江省温州市で先月起きた高速鉄道事故のずさんな対応などによって政府への不満がくすぶる。中国当局に、事態の長期化で批判の矛先が政府に向き、収拾がさらに難しくなるという懸念があったのは間違いない。

報道では、大連工科大学の専門家(匿名)が、国際的な規則ではパラキシレンは都市部から少なくとも100km離れて建設されることになっていると述べた。(これでは日本のコンピナートでは生産できないこととなる)
工場は大連から21kmしか離れていないため、市民に不安が広がった。

ほとんどの住民は工場で何を作っているかを知らなかったため、「危険施設がこんなに近くにあったとは」と住民らの反発は収まらず、インターネットなどでデモ呼びかけが行われた

ーーー

大連福佳・大化石油化工は大連福佳企業集団(Fujia)と大化集団(Dahua)のJV。
工場の建設に関して、疑惑が取りざたされている。

計画は2005年12月にNDRCの承認を得て、2009年5月に生産を開始した。しかし、環境部が環境インパクトの評価を行い、生産の許可を与えたのは2010年4月で、その1年近く前に生産を開始していたことになる。 

なお、同地では逸盛化学80%、大化集団20%のJVの逸盛大化石油化学が実質能力年産150万トンのPTAプラントを持っている。
同社は浙江省寧波市でPTA第3期の認可を取得、完成後は寧波で300万トン、大連を合わせ450万トンの能力となる。

2011/3/24 浙江逸盛石化、寧波でPTA第三期計画の認可を取得

ーーー

パラキシレンに関しては、2006年11月に台湾資本のDragon Group(騰龍グループ)は福建省厦門の海滄投資区で芳香族とPTAプラントの建設に着工した。PXはDragon Aromatics (Xiamen) Co.(騰龍アロマティックス)担当した

当初、コラムニストがPXプラントの危険性を問題とする記事を新聞に書いたが、市当局は関連記事の記載を禁止した。
ところが、「事故が起こると何千トンもの毒物が放出される」といった内容の記事がインターネットに次々掲載され、反対運動が広がった。

2007年12月、福建省と厦門市当局は騰龍アロマティックスの海滄投資区での芳香族計画を取り止め、これを福建省漳州市の古雷半島に移転させることを決定した。

2009年5月8日、古雷半島で2年遅れで建設が始まった。PTA(150万トン)の建設も同地で始まった。

2007/6/11 中国のインターネット反対運動が石化計画を止め 

 

中国のパラキシレンの能力及び新増設計画は以下の通り。

2009/9/30 中国でパラキシレン能力が需要を上回る 


大連福佳・大化石油化工の工場の安全対策がどうなっているのか不明だが、都市部から100km離れるのが国際的な基準などという誤ったコメントが新聞に載り、厦門市や大連市のように反対運動で当局が移転を決めたことが前例となり、他の工場にもこの動きが広がると大変なこととなる。


付記

コメントをいただいた、近くの北良港の穀物サイロです。

京都大学は8月11日、山中伸弥教授らが開発した新型万能細胞(iPS細胞)の作製技術に関する特許が米国で成立したと発表した。
 
8月5日付で米特許商標庁から通知を受けた。

特許の権利期間:2006年12月6日から2027年6月25日まで(推定)
通常の権利期間は20年間だが、今回はUSPTOの審査が遅延したため、その日数分(201日となる見込み)が加算される。 

付記

京大は11月24日、iPS細胞に関する特許について、4つの遺伝子を用いてiPS細胞を作製する方法に関する米国特許(出願番号 12/457,356、特許番号8,058,065)が1件成立したと発表した。 2件目の米国特許となる。

特許請求の範囲:
体細胞にOct3/4, Klf4, Sox2及びc-Mycの4遺伝子をレトロウイルスベクターで導入してiPS細胞を作製する方法
(2008年9月に成立した日本特許における審査結果を利用した特許審査ハイウェイを活用)
特許の権利期間: 2006年12月6日から20年間

付記

京都大学は2012年5月、3件目の米国特許を取得した。

今回の特許は
(1)「山中因子」と呼ばれる4種類の遺伝子か、そのうちの3種類を特殊なウイルスを使って皮膚などの細胞に組み込みiPS細胞を作る
(2)そこから別の細胞に変化させる
(3)できた細胞を使用して様々な研究開発をする――という一連の過程が対象。

これまで「別の細胞に変化させる」ところまでは権利が及んでいたが、「できた細胞」を、他の企業や研究機関が譲り受けて使用する場合は規制できなかった。今後は、こうした細胞を企業などが創薬研究に利用したり、販売したりする際、京大の許可が必要になる。特許の有効期限は2026年12月。

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iPS細胞基本特許は、日本では3件成立し、海外では欧州、南アフリカ、ユーラシア(*)、シンガポール(2件)、ニュージーランドおよびイスラエルで成立している。(他に、iPierianから譲渡を受けた英国特許:下記参照)

ユーラシアは旧ソ連諸国で、ユーラシア特許条約を締結、1995年8月12日に発効した。

加盟国はアルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、モルドバ、ロシア連邦、タジキスタン、トルクメニスタンの9か国で、ウクライナ、グルジアは条約に署名したが批准していない。
バルト三国及びウズベキスタンはこの条約に参加していない。

日本では、2008年9月12日に1件、2009年11月20日に2件の合計3件が成立している。
いずれも有効期間は出願日の2006年12月6日から20年間。

欧州では2011年5月30日付けで特許査定が通知され、7月7日付けで特許登録決定が通知された。
今後欧州特許庁において特許登録となり、その後、京大が指定する欧州特許条約加盟国(イギリス、ドイツ、フランス等)に移行し、各国毎の権利として登録される。31カ国で登録できるが、17カ国で手続きを取る意向。
権利期間は出願(2006年12月6日)から20年間。

各特許の権利範囲は以下の通りで、
日本特許は「Oct3/4」や「Klf4」など特定の遺伝子に限定されているが
米国、欧州特許は遺伝子の「ファミリー」という範囲をカバーし、より広い範囲で認められた。
欧州は、遺伝子だけでなく遺伝子産物にも権利が及び、米国よりもさらにより権利範囲が広い。

日本
(先願主義)
4種の遺伝子(Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2)でのiPS細胞の製造方法
3種の遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びSox2)/ bFGFの存在下で培養するiPS細胞の製造方法
3種の遺伝子(Oct3/4、 Klf4、及びSox2)/ bFGFの存在下で培養 or
4種の遺伝子(Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2)でのiPS細胞を製造する工程
このiPS細胞を分化誘導する工程を含む体細胞の製造方法
米国
(先発明主義)
(1)Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子を含む初期化因子
(2)Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びサイトカインを含む初期化因子
欧州
(先願主義)
(1)Octファミリー、Klfファミリー及びMycファミリーを含む初期化因子
(2)Octファミリー、Klfファミリー及びサイトカインを含む初期化因子
(3)前記初期化因子の、体細胞初期化における使用
  (各ファミリーは「遺伝子」でも「遺伝子産物」でも良い)

なお、2010年1月に米ベンチャー企業
iPierian, Incが英国特許の取得を発表した。
Bayerが特許を申請し、権利を譲渡されたもの。

バイエル薬品神戸リサーチセンターの研究チーム(桜田一洋センター長ほか)が山中伸弥京大教授らが2006年8月にマウスiPS細胞の作成を発表した直後から、ヒトでの研究を始め、山中教授らのチームより早く、ヒトの「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作成した。
Bayerは2007年6月15日付けで国内で特許を出願、これに基づき世界各国に出願した。

3因子によるiPS細胞樹立に関する特許内容の違い
  クレーム概要 特長
京大特許 Oct3/4、Sox2、Klf4遺伝子が導入された体細胞をbFGFの存在下で培養するiPS細胞の作製方法 ・体細胞の由来をヒトに限らない。(全ての動物種を含む)
・3因子以外の条件なし
iPierian社特許 ヒト体細胞に、Oct3/4、Sox2、Klf4遺伝子を導入し、C-Myc遺伝子は導入しないで、FGF-2(bFGF)の存在下で培養するヒトiPS細胞の作製方法 ・ヒトの体細胞に限定
・導入因子からC-Myc遺伝子は除く条件あり

京都大学は2011年2月1日、京大のiPS 細胞技術に関する知的財産の管理活用会社 iPSアカデミアジャパンを通じて、米国のiPierian Inc.にiPS細胞関連特許のライセンスを許諾し、iPierian Inc.から同社保有のiPS細胞特許を譲り受けたと発表した。

米国では、米国特許庁がどちらが先に発明したかを選定する審判Interference)の開始を宣言する可能性が高まった。

米国では先願主義でなく、先発明主義のため、係争になると、どちらが先に発明したかの調査などに膨大な時間と多額の費用がかかる。

このため、iPierianは2010年末に、山中所長の発明を尊重し、将来想定される京大との特許係争を回避するため同社保有特許を京大に譲渡したいと申し出た。

京大としても、もしiPierian社の特許が成立すれば、京大の米国でのクレーム内容はかなり限定されたものに留まり、ヒトiPS細胞の樹立技術の応用についてはiPierian社の意向に左右されてしまう可能性もあった。

金銭のやり取りはなく、見返りにiPierianは、全世界で京大有するiPS細胞関連特許に基づき、ヒト用治療薬の研究開発を行うことができる。

京都大学は2009年4月にiPierianの前身のiZumi Bio とiPS細胞の研究で協力することで合意している。

2011/2/3  京都大学、米社からiPS細胞関連特許を譲り受け

 

 

この数日、人民元が高騰している。

2010年6月19日以来、中国人民銀行が毎日発表する基準値に対し、±0.5%の変動を認めているが、本年初め以降は人民元の緩やかな上昇を狙い、終値が上昇した場合は翌日の基準値を下げるなどの操作を行ってきた。

しかし、8月9日の終値が上昇したにもかかわらず、10日の基準値は大幅に引き上げ、その後も終値が最高値を更新しているが、翌日の基準値を引き上げている。

12日の基準値、終値、一時高値はいずれも2005年7月の人民元切り上げ以来の最高値を更新した。
昨年6月18日の終値に対し、昨年末では3.59%の上昇であったが、12日の終値は6.83%の上昇となった。

  基準値 終値 一時高値 '10/6/18比
終値 一時
2010/6/18   6.8262      
           
2011/8/  8 6.4305 6.4360 6.4250 6.06% 6.24%
8/  9 6.4335 6.4306   6.15%  
8/10 6.4167 6.4181   6.36%  
8/11 6.3991 6.3945 6.3895 6.75% 6.83%
8/12 6.3972 6.3895 6.3890 6.83% 6.84%

7月の中国の消費者物価指数(CPI) は前年同月に比べ6.5%上昇した。6月の6.4%を上回り、2008年6月の7.1%以来、3年1カ月ぶりの高水準となった。(うち、食品が14.8%、非食品が2.9%の上昇であった。中国の食卓に欠かせない豚肉が56.7%上昇した。)

このため市場では「当局が輸入物価の値下がりにつながる元高を加速させ始めた」との見方が広がっている。

中国の政府系メディアは12日、中国人民銀行による政策変更の可能性を一斉に報道した。

中国証券報は、中国人民銀行が輸入インフレを管理する上で、人民元を主要ツールとして活用する用意があることを示していると報じた。 

人民日報は、元の上昇加速は短期的に物価圧力の緩和を可能にし、長期的には中国の輸出セクターの成長を助けるとの見方を伝えた。 

「元高傾向は、沿海の輸出産業の技術力強化、製品イノベーション、中西部地区への移転を推進する。同時に輸出部門の資源を、サービス業など内需部門に向けることを促し、経済の輸出に対する過度な依存を防ぐことができる。これらは産業のアップグレード、構造改革、経済発展方式の転換に役立つだろう」

中国政府にとっては、現在の物価高は国民生活に直接響くため対策が必要であるが、人民元の上昇は輸出産業に深刻な影響を与える。金融引き締めにも限度があり、非常に難しい選択を迫られている。

Rio Tintoと三菱商事は8月8日、豪石炭事業会社Coal & Alliedの株式の追加取得を提案したと発表した。

Rio Tintoと三菱商事(完全子会社の三菱デベロップメント)は合計で同社株を85.91%保有するが、残りの14.09%を14億8800万豪ドル(約1200億円)で買い取り、2社で経営権を完全に握る計画。

Rioは出資比率を現在の75.71%から80%へ、三菱商事は10.2%から20%にそれぞれ引き上げる。

残りのうち、大手投資ファンドのPerpetual Ltd は7.32%を保有していたが、本年4月に一部を売却し、現在は6.32%を保有している。
同社は、より優位な提案が新たに浮上しない限りにおいて、本提案を支持すると表明している。

なお、双日は同社の株の5.69%を保有していたが、2009年にすべてを売却した。約200億円の特別利益を計上。

Coal & Alliedは豪州最大級の電力用石炭(一般炭)の生産会社で、 2010年の生産実績は1870万トン、日本やアジアに輸出している。

Coal & Alliedはニューサウスウェールズ州のHunter Valley地区の3つの炭鉱(Mount Thorley Warkworth、Hunter Valley Operations、Bengalla)で生産中で、他に多くの開発計画を持っている。

操業中

 1) Mount Thorley Warkworth炭鉱

隣接するMount Thorley とWarkworth を統合して運営している。

Mount Thorley: Coal & Allied 80%、韓国POSCO 20%.
Warkworth: Coal & Allied 55.57%、三菱商事 28.9%、新日鉄 9.53%、三菱マテリアル 6%

 2) Hunter Valley Operations炭鉱
   Coal & Allied 100%

 3)Bengalla炭鉱
   Coal & Allied 40%、Wesfarmers 40%、台湾電力(Taipower) 10%、三井物産 10%

計画中のもの
 Mount Pleasant
 Lower Hunter Lands
 Hunter Valley Operations South
 Warkworth Extension

BASFは8月1日、CSM 子会社のPuracとの間でバイオベースのコハク酸製造のJVを設立する交渉を開始したと発表した。

CSMはオランダに本社を置 き、欧州、北米、南米、アジアで活動する世界最大規模の製菓製パン材料メーカー
PuracはCSMの子会社で、乳酸、乳酸の誘導品、ラクタイド(乳酸の環状二量体)のリーダー。米国、オランダ、スペイン、ブラジル、タイに工場を持ち、世界中で販売している。

BASFとPuracは2009年以降、共同開発契約の下でバイオベースのコハク酸の開発を続けてきた。

コハク酸の需要は今後急速に増大すると見られている。主な分野は、バイオプラスチック、化学品中間体、溶剤、ポリウレタン、可塑剤である。

まず、遅くとも2013年までにスペインBarcelona近郊のPuracの工場で、年産25千トンの発酵プラントの商業生産を開始し、需要の伸びに応じてワールドクラスの50千トンのプラント建設を計画する。

BASFでは新事業を担当するBASF Future Business GmbH (2001年4月設立)が担当している。

ーーー

バイオベースのコハク酸は多くの企業が手掛けている。

1)三菱化学

三菱化学は、コハク酸と1,4-ブタンジオールを主な原料とする環境持続型樹脂「GS Pla®」の市場開発を推進している。
これは
ポリブチレンサクシネート系樹脂(PBS系樹脂)、商品名は Green Sustainable Plastic から名づけた。

三菱化学は、生分解性プラスチック GS Plaの植物原料化に向け、バイオコハク酸の製品供給、研究開発及び製造について、米国のBioAmber(及び同社に既に出資している三井物産)と提携した。
  BioAmberは旧称
DNP Green Technology

GS Plaの原料であるバイオコハク酸をBioAmberから調達が可能となるとともに、BioAmberのもつバイオコハク酸の既存のプロセス技術と、三菱化学のもつ高度生産技術及び分離精製技術をそれぞれ組み合わせることによって、より高効率なバイオコハク酸の製造技術の確立を目指す。

三菱化学はまた、米国のGenomatica社と戦略的提携で合意した。
Genomaticaが開発した植物を原料に1,4-ブタンジオールを製造する技術に、三菱化学の技術を組み合わせ改良した技術を用いて、中東、インドを含むアジアでの1,4-ブ
タンジオール事業化を検討する。

付記
BioAmberはフランスに3千トンのバイオコハク酸のプラントを持つが、2011年8月にカナダのSarniaに17千トンのプラントの建設を決めた。2013年に稼働の予定で、2014年にはCargillとともに開発している次世代イーストを導入し倍増する。
また、DuPontから独占権を得たコハク酸を1,4 butanediol (BDO)に変換する技術で同地でBDOを生産する予定。
Sarniaでは最終的に35千トンのバイオコハク酸、23千トンのバイオBDOを生産する。

三菱化学は3月30日に、GS Plaの海外事業展開に向け、タイのPTT Public Company Limitedと合弁会社を設立した。
GS Pla事業の投資計画検討や更なるマーケティング等を実施する。

三菱化学は2010年7月、タイ王国政府科学技術省国立イノベーション機構が進めているバイオポリマー普及プロジェクトの一環として、PTTなどと共同で、生分解性樹脂普及プログラムを実施した。

生活ゴミによる環境問題が深刻化しているサメット島において、
「GS Pla」を使用したゴミ袋を使用し、有機廃棄物を効率的に収集するとともに、堆肥製造設備を設置し、ゴミの量を減らしかつ有効活用しようとするもの。

2)DSM

DSMは5月9日、フランスのスターチのメーカーのRoquette Frèresと共同でバイオベースのコハク酸を生産する商業規模のプラントを建設すると発表した。

年産10千トンのプラントをイタリアのRoquetteの工場内に建設し、2012年下期の生産開始を目指す。

 
3)
Myriant Technologies, Inc.

Myriant Technologiesは2009年、トウモロコシからコハク酸を精製する技術に関し、二酸化炭素の排出量抑制に大きく貢献できる画期的製法を開発した。従来の製法に比べてエネルギー効率が高く、工程を通じた二酸化炭素の排出量よりも吸収量の方が多い。
米ルイジアナ州にバイオコハク酸の新工場(14千トン)を建設中。 

なお、タイPTTの子会社のPTT Chemical2011年1月Myriant Technologiesに6000万ドル出資すると発表した。
Myriantは、PTT
Chemical
の出資で得た資金を上記の建設費に充てる。

PTT
Chemicalはバイオコハク酸を原料に、タイ初のバイオポリマー工場を建設する意向で、PTTと三菱化学とのJVと競合となる可能性がある。

 

中公新書の 「気候変動とエネルギー問題 - CO2温暖化論争を超えて」 を読んだ。

 

「地球温暖化の議論をリードしてきたIPCCがスキャンダルに揺れている。温暖化を印象付けるためのデータ操作や、不都合な報告の黙殺など、あるまじき行為が明るみに出た。」

本書では、気候変動の真因を最新の知見から解説する。

二酸化炭素が温室効果で気温を上昇させる可能性は否定しないが、その効果は小さい。

真の原因は宇宙線の影響である。現在の太陽活動は弱まっており、今後、気温は低下する。

「さらに化石燃料を温存する上で必要な、バイオマス、核融合など代替エネルギー技術の最前線を紹介する。震災復興が急がれる今、莫大な国費を根拠薄弱なC02削減策のために浪費することは許されない。」(同書の帯)

 

概要は以下の通り。

序章 クライメート事件 暴かれた二酸化炭素原因説の陰謀

序章では、クライメート事件の概要を述べ、IPCCが人為的温暖化説以外は排除し、「科学」が二酸化炭素削減という目的に奉仕するようになったとする。

地球温暖化は排出権取引などで国のレベルで金儲けの種になると判断されたに違いない。
「IPCCとは、・・・空気から排出権取引という巨大ビジネス ー 実業ならぬ虚業 ー を作り出した詐欺師と言う方が適当かも知れない。」
IPCCは原発推進の隠れ蓑になっているのではないかとの指摘もある。

二酸化炭素が気温変化の主因であったという科学的根拠は存在しない。将来に大きな気温上昇をもたらすという予測も科学的根拠はない。
南極の氷床コア試料の分析では、二酸化炭素の変動は気温の変動よりも遅れており、しかも二酸化炭素とメタンの濃度が全く同様の変化を示しており、共通の原因即ち気温によって変化していることが分かる。
 
大気中の二酸化炭素濃度が増えるにつれ、海洋中に溶解する量も増え、ある濃度で平衡化する。
 
大気中の二酸化炭素は植物の成長を促すプラスの効果はあっても、人間の環境にとっていかなる意味でもマイナス要因にはならない。
 
二酸化炭素排出削減は炭素資源を子孫に残すためにこそ意味がある。

日本だけがIPCC信仰は崩れておらず、二酸化炭素の排出削減を崇高な目標と信じ込まされている。
地球温暖化防止対策として年間1兆円を超える税金が使われており、排出権取得に巨額の負担を強いられる。
無意味な支出を止め、震災復興に使うべきだ。

* Climategateについては 2009/12/2 IPCCデータの捏造疑惑

第1章 気候変動はどうして起こるか

太陽黒点数と気候の相関は古くから気付かれていた。
しかし、太陽からの入射エネルギーの長期変動を気候の長期変動の主因とする見方は、大気圏外で流入エネルギーを測定した衛星観測の結果、エネルギーの変動幅が小さすぎることから否定された。

このため、二酸化炭素の温室効果がクローズアップされてきた。
IPCCは(偽装と分かった)ホッケースティックを論拠に、自然要因の長期変動は無視できるとした。

しかし、長い歴史にわたって比べると、気温と二酸化炭素の相関はあまり明らかでない。二酸化炭素が温室効果で気温を上昇させる可能性は否定しないが、その効果は小さい。
大気中の二酸化炭素は無限に増える訳ではなく、平衡状態に到達し、頭打ちになる。
6000万年前に濃度は約4000ppmもあったが、徐々に低下し、現在に到っている。地球には気温を安定化する機構が具わっている。

1998年になり、デンマークのH. Svensmark が宇宙線が低雲層量を変化させていることを見付けた。この後、気温と宇宙線との相関を示すデータが多数発表された。

宇宙線は超新星爆発で放出された高エネルギー粒子だが、太陽活動が活発な時は太陽磁場が強くなるため、地球に到達する一次宇宙線が少なくなる。

太陽磁場が強く、宇宙線強度が減ると、エアロゾルが出来難くなって雲量が減り、地表の温度は上がる。 
(水と植物プランクトンから出る硫酸が宇宙線でイオン化し、成長後にイオン再結合でエアロゾルの核を形成、水を吸着して水滴になり、雲を形成する。)

逆に、太陽磁場が弱まり、宇宙線強度が増えると、低雲層が増え、太陽エネルギーを反射するため、地表の気温を低下させる。
(水蒸気は温室効果で地表の気温を上昇させるが、低雲層は太陽エネルギーの反射により気温を低下させる。)

過去の氷河期もこれで説明できる。
地球形成初期に、若い太陽からの放射は7%も少なかったはずなのに地球が凍結しなかった「暗い太陽のパラドックス」も、当時の太陽磁場が非常に強く、宇宙線がほとんど地球に到達せず、雲による寒冷化が起こらなかったと説明される。

現在の太陽活動 は弱まりつつあり、今後、気温は低下傾向に動く。

過去120年の実績では、平均気温と太陽磁場の変動とで相関関係がみられる。二酸化炭素濃度との対応は良くない。

第2章 「地球温暖化」から「エネルギー問題」へ

温暖化対策で原発が復活したが、福島原発事故で原発停止の声が高まる。
原発抜きでエネルギー需要は賄えるか?

今や問題は「地球温暖化」から「エネルギー問題」へ移った。

   1.日本のエネルギー事情
   2.エネルギーをどこから得るか  
   3.エネルギーをどう使うか

炭素資源は数十年で使い尽くされる。代わりうるのは原子力しかないが、暴走の危険と放射性廃棄物問題があり、長期使用は好ましくない。

将来のエネルギーシステムで理想的なのは水素エネルギーシステムとバイオマスエネルギー(藻類に期待)。
究極のエネルギー源は下記の核融合。

第3章 未来のエネルギー源 - 核融合

   1.磁場核融合
   2.慣性核融合

第4章 これからどうするか

 

付録として、地球環境についての基礎知識と、詳細な引用文献がある。

 

BPは8月4日、JBF RAK LLC との間でベルギーのGeel に年産39万トンのPETプラント建設で合意した。

BPは同地にPTA 1,400 千トン、パラキシレン 560千トンのプラントを有しているが、JBF RAKがこのコンプレックスにPETプラントを建設し、BPはこれに原料のPTAを供給する。
2014年スタートを目指す。

両社の協力で、Geel工場を欧州における競争力ある PX-PTA-PET 統合コンプレックスとする。

   BPのPTAについては 2011/2/22  BP、中国のPTA事業を拡大

ーーー

JBF RAK はインドのポリエステルチップ、ポリエステル糸のメーカーのJBF Industries Ltd とアラブ首長国連邦のRas Al Khaimah首長国の王子が所有するRAKIA (Ras Al Khaimah Investment Authority) のJVである。

 

JBF Industries Ltd は1982年に設立された。
工場はインド西部の
Sarigam, Gujarat にある。

繊維グレード及びボトルグレードPET 625千トン
ポリエステル 部分延伸糸 (POY)     200千トン
ポリエステル 延伸糸 (FDY) .          50千トン

同社は最近、年産112万トンのPTAプラントをMangalore SEZ(Special Economic Zone) に建設することを決めた。

同社はまた、Oman Oil Companyとの間で、約680百万ドルを投じてOmanに年産120万トンのPTAプラントをJVで建設する覚書を締結した。
工場は Oman Aromatics のプラントに隣接し、同社からパラキシレンの供給を受ける。

Oman Aromatics Oman Oil が60%、Oman Refinery 20%、LGが20%出資するJVで、Benzene 210千トン、Paraxylene 810千トンを生産している。

 

JBF RAK はRas Al Khaimahに以下の工場を持っている。

Bottle Grade PET Resin     年産400千トン (一部はフィルム用、残りはボトルグレード)
BoPET(二軸延伸PETフィルム)      72千トン


 

8月7日付の英国のGuardian紙は、ドイツの脱原発の決定の結果、ドイツの多くの企業が安いエネルギーコストを求めて工場を移転する可能性があると報じた。

BayerのMarijn Dekkers社長は、「ドイツは他国と比して競争力がなければならない。さもなければ、Bayerはエネルギーコストの安い国に生産を移転することを考えねばならない」と述べた。「ドイツの電力コストは既にEUで最も高く、化学産業にとって魅力的ではなくなっている」としている。

平成21年度エネルギー白書によれば、電気料金の国際比較は以下の通り。
EUでは原子力大国のフランスが安いが、産業用ではイタリア(原発なし)と英国がドイツを上回っている。



 1.各国の1年間の使用形態を限定しない平均単価を計算したもの
 2.米国は課税前の価格
 3.2008年(日本とドイツは2007年)
 出所 OECD/IEA, Energy Prices & Taxes, 3rd Quarter 2009

Bayerはドイツ国内で 35千人以上を雇用している。Bayerはドイツで1700人など、世界で4500人の人員カットを計画しているが、同時にブラジル、インド、ロシア、中国などで新規に2500人を雇用している。

インターネット会社の 1&1の社長は、電力をノルウェーの水力発電所から購入しているが、それでもドイツの再生可能エネルギーの税金を払う必要があると述べ、移転したいとしている。

参考

英国のINEOSは節税のため、2010年に本社をスイスのRolleに移転した。

2010/3/5  INEOS、節税のためスイスへの移転を検討

ーーー

ドイツ政府は早くも 2002年に、原子力法を改正し、2021~23年の脱原発を決めた。

2009年の総選挙で過半数を獲得した保保連立政権が、脱原発期限を平均12年間延長する原子力法の改正を行った。

しかし、福島第一原発の事故を受け、本年3月に原発の運転を延長する政策を3カ月間凍結した。

メルケル首相は福島事故の直後に3カ月にわたる「原子力モラトリアム」を発令し、1980年末までに運転を開始したドイツで最も古い7基の原子炉を停止させた。

政府は6月6日、これら 7基とトラブルで2007年以降停止している1基の合計8基の原発を再稼動せず廃炉にすること、残りの9基の原発についても、2022年までに順次停止することを正式に閣議決定した。

全く新しい決定ではなく、2002年の脱原発決定の修正(運転延長)を取りやめただけ。

ドイツ連邦上院は7月8日、2022年までに国内17基の原発を停止する改正原子力法案に同意した。既に下院が可決しており、「脱原発」が法的に成立した。

  稼働中 廃止 停止時期
既停止 2010s 2020s  
Avr Juelich    1基       
Biblis  2基    moratorium    
Brokdorf  1基        2021
Brunsbuettel  1基    moratorium    
Emsland  1基        2022
Grafenrheinfeld  1基       2015  
Greifswald    5基       
Grohnde  1基        2021
Grosswelzheim    1基       
Gundremmingen  2基   1基    2017  2021
Isar  2基    moratorium   2022
KNK    2基       
Kruemmel  1基    2007 停止
  トラブル
   
Lingen    1基       
Muelheim-Kaerlich    1基       
MZFR    1基       
Neckarwestheim  2基    moratorium   2022
Niederaichbach    1基       
Obrigheim    1基       
Philippsburg  2基    moratorium  2019  
Rheinsberg    1基       
Stade    1基       
THTR-300    1基       
Unterweser  1基    moratorium    
Vak Kahl    1基       
Wuergassen    1基       
合計  17基   20基   7基+1基 3基 6基

Peabody Energy とArcelorMittalは8月1日、共同でMacarthur Coal 買収提案を行った。

Macarthurは世界最大の低揮発・高炉直接吹込用石炭(low volatile pulverized coal injection coal)のメーカーで、豪州のクイーンズランド州東部Bowen Basinで生産及び開発を行っている。

 

主な鉱山と権益は以下の通り。

  Macarthur  CITIC 丸紅 双日  JFE商事 日鉄商事 Gloucester
Coppabella鉱山 73.3% 7% 7% 7% 3.7% 2%  
Moorvale鉱山
Middlemount鉱山 50%           50%
新規 Codrilla鉱山 85% 15%          

中国中信集団(CITIC)はMacarthurの第一位の株主で24.60%を所有している。


Peabody は民間
企業としては世界最大の石炭生産企業で、米国の総発電需要の約10%、世界の2%の石炭を供給している。
米国内を中心として、豪州やベネズエラ(同国最大の炭鉱の権益を有する)で石炭生産に携わり、世界各国で約30の炭鉱を所有する。
モンゴルの
Tavan Tolgoi 開発にも応札している。

ArcelorMittalは、2006年にインドのMittal Steel が欧州のArcelorを買収して統合した世界最大の鉄鋼メーカー。
Macarthurの二位の株主で、16.07%を保有している。

両社は7月11日にMacarthur Coal に対して15.50豪ドルで買収提案をしたことを発表した。
その後、同社と協議し、7月14日にDue Diligenceを開始した。

この時点でMacarthurは買収価格を16豪ドル以上に引き上げるよう求め、さらに2社が株式の9割以上を取得した場合は買収価格を同18豪ドルにするよう主張したが、2社は結局、この条件を拒否した。

Due Diligenceの結果、今回の正式な買収提案となった。

2社は買収契約(Bid Implementation Agreement)の締結を求めたが、Macarthur は他の買収提案の可能性もあるとして拒否した。

両社が設立する新会社PEAMCoal Pty Ltd (Peabody 60%、ArcelorMittal 40%)が買収を行う。
ArcelorMittal は既に
Macarthurの株式の16.07%を所有している。

同社の第一位の株主は中国の中国中信集団(CITIC)で24.60%を所有している。
二位が
ArcelorMittal の16.07%で、五位に韓国POSCO(7.02%)がいる。

買収の条件は以下の通り。

・買収金額は1株当たり15.50豪ドル(7月11日終値に41%のプレミアム)
・総額47億豪ドルとなる。
・株主は第2四半期分の配当 16セントを受け取るため、実質15.66豪ドルとなる。
・最低 50.01%の買収
・政府、関係当局の認可

これに対し、Macarthur は8月1日、2社の提案は企業価値を正当に評価していないと批判し、株主には買収提案に反応しないよう訴えた。

付記

ArcelorMittal は2011年10月25日、Macarthurの買収から撤退すると発表した。

10月23日の発表では、同社とPeabody EnergyがMacarthur買収のため設立したPEAMCoalはMacarthur株の約59.85%を取得し、買収は成立したが、買収した株式はPeabodyが引き継ぐ。
 なお、
PEAMCoalは8月に買収提示額を1株当たり16豪ドルに引き上げた。

ーーー

Macarthur Coalに対しては2010年春に、Peabodyを含め、3社による買収合戦があった。

2009年12月に香港のコモディティ会社のNoble Groupが豪州の子会社 Gloucester Coal の株式と交換に、Macarthurの株式23.2%の購入を提案した。

Macarthurがこれを株式総会に諮る準備中の2010年3月にPeabodyが1株13豪ドルでの買収を提案、4月に14豪ドルにアップしたが、直後に豪州の同業のNew Hopeが14.58ドルでの買収を提案した。
これを受け、Peabodyは一気に16豪ドルに引き上げた。

更にスイスのXstrataがMacarthur Coalの株主との話し合いを始めた。

その後、Peabodyは帳簿をチェックし、豪州政府の新しい鉱山税の影響も勘案し、買値を15豪ドルに引き下げた。
(当時は増資前で、15豪ドルでも総額は38億豪ドルであった。)

しかし、MacarthurとGloucesterの合併交渉はつぶれ、New HopeとPeabodyの提案もMacarthurが安過ぎるとして拒否した。
Macarthurは拒否の理由の一つとして、大株主のCITICと
ArcelorMittal の意向を挙げている。

 

今回、PeabodyはそのArcelorMittal と組んで買収提案を行ったもの。

 

東京電力は8月9日、2011年1Qの決算を発表した。

電力の販売などが落ち込んだ一方、燃料費などの費用が膨らんだため、経常損益ベースで627億円の損失となった。
特別損失に5,032億円を計上し、当期損失は5,717億円となった。

2012年3月期の連結業績見通しは、需要と供給の両面で先行きを見通すのが困難として、開示しなかった。

 

連結決算 (億円)

  2011/1Q 2010/1Q 増減
売上高  11,331  12,216   -885 
営業損益 -520 628 -1,149
経常損益 -627 494 -1,122
特別損失  災害損失 -1,055   -1,055
損害賠償 -3,977   -3,977
資産除去会計   -571 571
合計 (-5,032) (-571) (-4,460)
当期損益 -5,717 -54 -5,663

   

特別損失(億円)

    2011/1Q 2010年度   累計
災害損失 福島第一原発1~4号機  693 6,333 7,026
その他 362 3,842 4,204
合計 1,055  10,175 11,230
原子力損害賠償 精神的損害 882   882
その他
 (就労損害 1,412
  営業損害  1,012
  他)
3,094   3,094
合計 3,977   3,977

 

原子力損害賠償について:

現在の仮払とは別で、原子力賠償損害紛争委員会がまとめた中間指針に基づき、9月から賠償申込みを受け付ける。
現時点で合理的に見積もり可能な金額だが、始めてみないと分からない。

中間指針等の記載内容や現時点で入手可能なデータ等により合理的に見積ることができない風評被害や間接被害及び財物価値の喪失や減少等については計上していない。

新設する損害賠償支援機構からの賠償資金は特別利益に計上し、損失を埋める。

 

参考  2011/5/20 東京電力 決算発表

8月5日のS&Pによる米国債の格下げ後、初の取り引きとなる8日のNY株式市場で、ダウ平均終値は前日比634.76ドル安の10,809.85ドルとなった。
2010年10月初め以来、約10か月ぶりの安値である。

NY原油先物相場も市場の警戒感が強まり、リスク回避の動きが加速する中、売りが加速し、
WTI原油の終値は81.31ドル/バレルとなった。
その後の時間外で一時80.17ドルまで下落した。

原油、ナフサの価格情報は https://www.knak.jp/

JXエネルギーと韓国のSK Innovationは8月5日、韓国でパラキシレンと潤滑油ベースオイル製造のJV設立製造に係る合弁会社を設立することで合意したと発表した。

SK Innovationは旧称 SK Energy。
2011年1月に石油事業(SK Energy)と化学事業(SK Global Chemical)を分離し、2009年設立のSK Lubricantsとともに100%子会社とした。

SK Innovationは持ち株会社で、主に研究開発(R&D)分野と資源開発(E&P)分野を担当し、リチウムイオン電池用分離膜(LiBS)事業も受け持つ。

今回の合意は、2007年1月22日に当時の新日本石油とSKが合意した戦略的業務提携に基づくもの。

新日本石油とSKはグローバル化が進展する石油産業において両社の競争力強化を図り、また、経済成長の著しいアジア地域における事業展開を通じて相互の発展を期するため、戦略的業務・資本提携について合意した。

期間は10年間(自動延長条項付き)で、検討・実施項目は以下の通り。

資本提携(取得株式数)
  新日石のSK株式購入:129万株(SKの発行済株式総数の1.0%)
  SKの新日石株式購入:1,432万株(新日石の発行済株式総数の1.0%)

業務提携
(1)上流分野
  探鉱・開発および資産買収案件における共同事業化の可能性検討
      技術委員会の設置など恒常的な評価分析・情報交換体制を構築。

(2)供給分野
  需要減少下における最適供給体制構築
     原油および石油製品の交換・融通、出荷設備・輸送機関等の相互利用・共同利用を推進
     製油所定修時の製品・半製品の相互融通も推進。

(3)石油化学分野
  アジア地域における圧倒的な競争力確立
     石油化学製品の相互融通等を推進すると共に、生産設備の共同建設も視野に入れ検討を推進。

(4)潤滑油分野
  需要増加の著しい海外潤滑油事業の拡大に向け、安定的かつ効率的な供給体制を構築
     潤滑油ベースオイルの交換および融通、潤滑油ブレンド設備の相互利用・共同利用を推進。

(5)海外事業分野
  経済成長の著しいアジア地域において、生産設備の共同建設を含む石油・エネルギー分野での共同事業化検討。

 この他、外航・精製・研究開発の各分野で、コスト削減・効率化、新たな事業機会の創出を検討。

 

(1)パラキシレン製造に係る合弁会社設立

新設備は、世界最大となる100万トン/年の生産能力による圧倒的なコスト競争力の実現が期待される。

JXエネルギーは、日本国内の製油所より今回の新設備にパラキシレン原料を供給することで、製油所の高付加価値化・石化工場化を推進し、またアジアにおけるパラキシレン外販のトップメーカーとしてのプレゼンスを更に高め る。

SK Global Chemicalにおいても、高付加価値化につながる石化製品製造装置の増設により 蔚山コンプレックスの競争力強化に資する。

1.社名 未定
2.所在地 蔚山広域市(SKエナジー社蔚山コンプレックス内)
3.設立時期 未定
4.出資比率 JXエネルギー      50%-1株
SK Global Chemical 50%+1株
5.事業内容 パラキシレンの製造
6.生産能力 約100万トン/年 (世界最大)
7.商業生産 2014年予定
8.総投資額 約1兆ウォン(約800億円)

(2)潤滑油ベースオイル製造に係る合弁会社設立

潤滑油ベースオイルは潤滑油製品の原料で、これに各種添加剤を配合することで、潤滑油製品となる。

潤滑油製品においては、より一層の省燃費・長寿命化への対応が求められており、高品質潤滑油製品の基材であるグループⅢベースオイル (最高グレードで、高粘度指数、低蒸発性、低温粘度特性に優れる)の需要拡大が見込まれている。

1.社名 未定
2.所在地 蔚山広域市(SKエナジー社蔚山コンプレックス内)
3.設立時期 未定
4.出資比率 JXエネルギー 28%
SK Lubricants 72%
5.事業内容 潤滑油(ベースオイル)の製造
6.生産能力 約135万kl/年
7.総投資額 約3,500億ウォン(約280億円)

 

先週、NHKBS世界のドキュメンタリー 「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」のアンコール放送を見た。

昨年12月の放映を見逃し、再放送は東日本大震災で2度も中止となっていた。

世界の資源地図を塗り替えると期待される、新しい天然ガス「シェールガス」。その開発に疑惑を持ち、コロラド、ワイオミング、テキサス、ルイジアナ・・・ と自家用車で旅を続けるジョシュが見たものは、飲み水や大気の汚染で深刻な健康被害に怯える人々と、無残な姿をさらすアメリカの大地だった。

行政担当者や環境問題の専門家などに話を聞くうち、汚染の原因は、岩石層の水圧破砕のために地下に注入する特殊溶液にある可能性が浮上してくる。アメリカでは飲料水の安全確保のため、水源地帯の土中に異物を混入する行為は厳重に規制されている。ところが、住民の要請を受け当局が調査を行った形跡はなく、ガス会社には溶液の成分を公表する義務さえないという腑に落ちない事実が明らかになっていく。

こうしたガス開発を優先する特例を推し進めたのは、巨大エネルギー会社のCEOからブッシュ政権入りしたチェイニー前副大統領だった。特例を認めるべきか?否か?安全な水を求めるジョシュの取材の旅は、ついに連邦議会での攻防の場へとたどり着くことに・・・ 
(NHK ホームページから)

見終わってゾッとした。米国でこんなことが許されるのか。

 

米国各地でオイルシェールが発見され、開発が進んでいる。

日本の企業も多数、参加している。
   2011/7/4  
三井物産、テキサス州のシェール開発に参加;米国でシェール論争

オイルシェールの採掘には水圧破砕法(Hydraulic fracturing 又は fracking)が使われている

これは1940年代にHalliburton Energy Servicesが開発したもので、同社はまた、水圧破砕溶剤の3大製造会社の1社である。
坑井内に高い圧力を加えて採収層に割れ目(フラクチャー)を作り、その中に砂などの支持材を充填することによりその閉塞を防ぎ、採収層内に非常に浸透性の高い油・ガスの通り道を形成するもの。
大量の水と600種類にも及ぶ薬剤を投入する。一つの井戸で18回も投入する。

第一の問題はこの薬剤が漏れて、近くの民家の井戸に混入したり、河川を汚染することである。

放送では井戸水に火がついたり、健康被害で苦しむ住民や河川の汚染の状況が 多く出てくる。

米国では水道用地下水源を保護するために、1974 年安全飲料水法で、固体、液体及び気体を含む流体の地下注入を規制する法律上の権限をEPAに与えている。

但し、石油とガス業界は危険物質を地下の飲料水の源泉の近くに注入する事を許可されている。

1995-2000年にHalliburtonのCEOであったDick Cheney副大統領のエネルギーポリシー特別対策委員会の努力で、2005年連邦エネルギーポリシー条令が水圧破砕を飲料水安全条令から適用除外にした。
これは「Halliburtonの抜け穴」と呼ばれる。

ガス会社は危険はないとしながらも、クレームがあれば井戸水を検査し、飲用不可の場合にはタンクを設置して飲み水を供給している。

放送ではまた、廃棄物処理の無茶苦茶を写している。

回収された薬剤入りの水は仮の溜池に保管されているが、池の土手から水が漏れている。
また、溜池から薬剤がどんどん蒸発している。

コンデンセートタンクからもガスがもうもうと蒸発しており、大気汚染を起こしている。

天然ガスのパイプラインは途中でガスを放出している。

環境当局は以下の通り述べている。

世の中に完全無欠なエネルギーはない。
オイルシェールも完璧ではない。
飲料水で問題のある所帯には水を供給している。
雇用や石油の外国依存によるリスクも考える必要がある。
水素エネルギーが利用できるまでは妥協が必要だ。

カナダのタールサンド開発での環境汚染に関して、クリントン国務長官は、
「中東の汚い石油か、カナダの汚い石油か、アメリカの選択肢は2つです」と述べている。

2011/4/14 「岐路に立つタールサンド開発」

放送では、コロラド、ワイオミング、テキサス、ルイジアナと移動する間、井戸は絶え間なく続き、各地で被害が出ている。

しかし、問題はこれからのMarcellus Shaleの開発である。

地図の赤い部分は未開発で、間もなく 5万本の井戸を掘る予定地域だが、ここはNew York 680万人、Pennsylvania 540万人、Delaware70万人、New Jersey 290万人の合計1,580万人に飲み水を供給する水源である。

これが汚染されれば、いったいどうなるのか。これだけの人口密集地に代わりの水を供給することは不可能である。

いつまでも、このようなことが許されるとは思えない。

 


 

本日のブログ記事、「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」で、2005年連邦エネルギーポリシー条令が水圧破砕を飲料水安全条令から適用除外にしたことを述べた。

日本でも原発が環境法の除外を受けている。

河野太郎代議士の「ごまめの歯ぎしり」はこれまでの自民党の原子力政策の誤りを追及している。

なぜ自民党は...したのか?(2011年07月12日)

自民党はどこで間違えたのか(2011年08月04日) 

そのなかで、「なぜ、自民党は、全ての環境法令について原発を適用除外にしたのか」を問うている。

ーーー

環境基本法
(放射性物質による大気の汚染等の防止)
第十三条  放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染の防止のための措置については、原子力基本法その他の関係法律で定めるところによる。

水質汚濁防止法
(適用除外等)
第二十三条  この法律の規定は、放射性物質による水質の汚濁及びその防止については、適用しない。

土壌汚染対策法
(定義)
第二条  この法律において「特定有害物質」とは、鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。

化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
(定義等)
第二条  この法律において「化学物質」とは、元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物(放射性物質及び次に掲げる物を除く。)をいう。


 

格付け会社Standard & Poor's(S&P)は8月5日、米国債の長期格付けを最上位の「AAA」から、「AA+」に1段階引き下げた。
米国債を格下げするのは1941年の現行制度開始以来初めて。 

 S&Pは7月14日に米国債を「クレジットウオッチ」に指定し、90日以内に格下げする確率が50%以上あると公表、信頼に足る財政再建には今後10年で4兆ドル程度の財政赤字の圧縮が必要だとの考え方も示していた。

米連邦政府の債務の上限額引き上げを巡り与野党が鋭く対立し、期限当日の8月2日に、債務上限を引き上げる一方、財政赤字額を今後10年で2.4兆ドル減らすことで決着した。
S&Pはこれが、「政府の中期的な債務構造の安定に不十分と判断した」としている。

発表文(まとめ部分)
- The downgrade reflects our opinion that the fiscal consolidation plan that Congress and the Administration recently agreed to falls short of what, in our view, would be necessary to stabilize the government's medium-term debt dynamics.
 
- More broadly, the downgrade reflects our view that the effectiveness, stability, and predictability of American policymaking and political institutions have weakened at a time of ongoing fiscal and economic challenges to a degree more than we envisioned when we assigned a negative outlook to the rating on April 18, 2011.
 
- Since then, we have changed our view of the difficulties in bridging the gulf between the political parties over fiscal policy, which makes us pessimistic about the capacity of Congress and the Administration to be able to leverage their agreement this week into a broader fiscal consolidation plan that stabilizes the government's debt dynamics any time soon.

同時に、S&Pは長期的な格付け見通しを「Negative(弱含み)」に指定した。
向こう2年間に歳出削減の動きが鈍ったり、金利急上昇などで財政への圧力が高まったりした場合には、格付けを「AA」にもう1段階引き下げるとしている。

米国債を巡っては、Moody'sは8月2日、最上位の「Aaa」で維持すると発表、Fitchも「AAA」に据え置くと発表している。 

S&Pによる主要国の長期国債(外貨建て)の格付けは以下の通り。(青字はPIIGS諸国)  

AAA 

 

フランス、ドイツ、英国、カナダ、シンガポール、豪州

AA+

 

米国、ベルギー

AA 

 

スペイン(S)、カタール、クウェート  付記 10/13 スペインをAA- に引き下げ

AA-

 

日本、中国、サウジ、台湾

A+ 

 

イタリア(I)、チリ     付記 9/19 イタリアをAに引き下げ

A

 

韓国

BBB+

 

アイルランド(I)

BBB 

 

ロシア

BBB- 

 

ポリトガル(P)

CC 

 

ギリシャ(G)

S&Pは日本の国債の長期国債の格付けについて、本年1月に「AA」から上から「AA-」に下げ、見通しは4月に「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げた。

付記
Moodysは8月24日、
日本国債の格付けを上から3番目の「Aa2」から4番目の「Aa3」(S&Pと同じレベル)に1段階引き下げると発表した。
東日本大震災で政府支出の増加が見込まれるなか、財政赤字削減の具体策が見えないと指摘。債務返済の可能性が低下したと判断した。

米国債保有高を1兆1600億ドル(5月時点)保有する中国は今回の格下げで「国際金融市場が混乱し、中国は大きな影響を受ける」と強く非難した。

新華社は「中国は最大の債権者として、米国に構造的な債務問題への対処と中国のドル資産の安全確保を要求する当然の権利がある」と強調、「借金依存症」を改め、「巨額の軍事費と社会保障費を削減しなければ、国債のさらなる格下げを招く」と警告した。

ーーー

S&Pの格下げに先立ち、中国の格付け機関、大公国際資信評価有限公司(Dagong Global Credit Rating Co.)は8月3日、米国債の格付けをA+からAに引き下げ、見通しを「ネガティブ」とした。

同社は2010年7月に初めて世界50カ国の信用格付けを発表した。

中国は自国通貨建てがAA+で外貨建てはAAA。
一方、米国はAA、AAで、いずれも中国の格付けを上とした。
英国とフランスは自国通貨建て、外貨建ていずれもAA-、ドイツはいずれもAA+とした。
 
その後、2010年11月に米国をA+に引き下げた。
さらに本年7月にマイナス観察リストに入れ、債務返済能力が実質的に改善される大きな出来事がなければ、格付けを引き下げると表明していた。

大公国際資信評価は格付けの引き下げの理由として、以下の通り述べている。

米連邦議会は政府の債務上限引き上げをめぐる決議を採択したが、国の債務の増加速度が経済・財政収入の伸びを上回るという基本的状況は変わっていない。このことは米政府の債務返済能力の一層の低下に向けたターニングポイントとなった。

米政党間の争いにより、政治体制の弊害が明るみに出た。
米政府が国のソブリン債務危機を根本的に処理するのが難しく、政治・経済制度による債権者の利益保障が十分でないことを示している。

   
国の債務返済能力は改善されておらず、政府の債務負担は引き続き重くなり、米国のソブリン債務危機は深刻化すると見られる。
   
米国の財政赤字削減の速度は、新たな債務の増加速度を大きく下回っている。
   
米議会は、国の経済成長の原動力不足を根本的に解決するための建設的決議を打ち出していない。
経済成長率の低さと財政赤字、債務増加が債務返済能力に及ぼす根本的な影響を解決することができず、債務返済能力の低下が避けられないことを示している。

東日本大震災でコスモ石油千葉製油所で火災爆発事故が発生した。

311 1547分頃 LPGタンク付近で火災を確認、全装置停止
3
21日 10時10分   鎮火確認

経済産業省原子力安全・保安院は6月30日、コスモ石油に対し、千葉製油所の高圧ガス保安法に基づく完成検査及び保安検査に係わる認定を取り消す行政処分を行ったと発表した。緊急時の安全確保基準に違反していたと判断した。

2011/7/2 経産省、東日本大震災の火災事故でコスモ石油に行政処分  

付記
コスモ石油は2012年3月30日、稼働を停止していた千葉製油所の第2常圧蒸留装置(120,000バレル/日)が3月23日に保安検査証を受領し、3月30日に稼働を再開したと発表した。「製油所」としての機能が回復した。
今後は第1常圧蒸留装置(100,000バレル/日)を含めたその他の装置につきましても稼働再開の準備を進める。

 

コスモ石油は8月2日、事故原因と対策を発表した。

1.事故概要

  14時46分に震度5弱の東北地方太平洋沖地震が発生

・当時満水状態のLPG364番タンクの支柱筋交いの多くが破断した。
 (開放検査中で、タンク内の空気を除去する為に水を注入していた。)

  15時15分に震度4の茨城県沖地震が発生

・筋交いが破断した364番タンクの支柱が座屈、LPGタンク本体が倒壊、近接の複数の配管が破断し、LPGが漏洩。
・漏洩、拡散したLPGに着火し、火災が発生。
・火災の影響により隣接するLPGタンクが爆発し、延焼。
・それにより、付近の複数のLPGタンクが爆発し、火災が拡大。

2.主な被害状況

1. 人的被害:負傷者6名(重傷者 1名、軽傷者 5名)

2. 物的被害:
  発災箇所に設置してある全LPGタンク(17基)、及び周辺配管・道路が損傷。
  爆発による飛散物・爆風等の影響により丸善石油化学及びチッソ石油化学の構内で火災が発生。
  その他

     
2011/7/16 丸善石油化学、C5系石油樹脂と液状石油樹脂事業から撤退 

3.原因

(1)LPGタンクの支柱筋交いの多くが破断し、LPGタンクの支柱が座屈・倒壊

LPGタンクは耐震基準を満たしていたが、解放検査のため、軽量のLPGではなく、水が注入され満水状態であった事から地震で支柱の筋交い部分に荷重が作用し、筋交いが破断、倒壊した。

(2)LPGの漏洩
 
3箇所から漏洩が継続しており、その内1箇所の破断した配管に繋がる緊急遮断弁を開状態で固定していた。

緊急遮断弁を開閉するため供給されている空気配管で微量の漏洩が確認され、補修を行うまでの間、空気圧力が低下した場合に緊急遮断弁が閉止する事を避けるための措置であった。
緊急時は現場で開状態の固定を解除する運用としていたが、LPG漏洩により現場に近づけなかった。

(3)着火源及び爆発・延焼
 
着火源となる対象について特定には至らなかった。

周囲のLPGタンクに対して散水による冷却を継続していたが、火災の勢いが強くなり、タンク本体の表面温度上昇により強度が低下し、内圧に耐えられず爆発し、延焼したものと推定。

 4.対策

(1)安全総点検活動
(2)緊急異常時の対応能力向上
(3)再発防止策の進捗管理および水平展開

 

会社更生手続き中のバイオ企業 林原は8月3日、長瀬産業とスポンサー契約を結んだと発表した。
今後、管財人が11月18日までに更生計画案を提出する。

経緯については、
 2011/1/28
 林原が私的整理手続き  
 2011/2/7   林原が会社更生法申請

長瀬産業は再建中の林原グループ3社に対し、総額700億円の資金支援を実施する。

長瀬産業は林原のバイオ技術を自社の酵素研究に取り込みたい意向で、700億円の買収額についても、「私どものグループになって相乗効果で将来の発展を考えれば高くはない」としている。

長瀬産業は、酵素事業をバイオ分野の基盤と位置付け重点育成する方針で、バイオケミカル技術の確立も視野に入れている。
酵素ビジネス では、1939年にアミラーゼを工業化して以来70年以上の歴史を持つ。
1950年代に深層液体発酵技術、70年代には国産初の異性化糖製造技術を確立した。

現在は遺伝子工学、たん白質工学、細胞工学・代謝工学、生物情報科学といった基盤技術をベースに、ナガセR&Dセンターが製品設計、新規商品の開発を行い、ナガセケムテックス福知山事業所での生産に結びつける体制を敷いている。
主なターゲットはエキス・調味料、ヘルスケア製品をはじめとした食品分野。とくに海外市場での販売に力を入れる。

裁判所の認可を経て、林原(製造、グループ統括)、林原商事(販売)、林原生物化学研究所(R&D)の3社は合併し、統合後に100%減資を実施する。
長瀬産業は存続会社が発行する全株式を取得し、弁済資金の貸し付けなどとあわせ、総額700億円を拠出する。

林原のスポンサーには当初70~80社程度の企業から打診があり、多数の会社が応募したが、7月25日の最終入札には次の4社が残った。

長瀬産業  
日本たばこ産業(JT  
韓国CJグループ
(国内ファンドのユニゾン・キャピタルとの連合)
サムスングループの製糖事業(第一精糖 Cheil Jedangがルーツ。
1993年にサムスンから独立
韓国内外で食品やバイオ、流通、メディア事業などを展開
群栄化学工業 フェノール系樹脂、澱粉糖類、高機能繊維、高機能複合材料、その他

 

スポンサー選択には、「トレハロース」をはじめとする食品素材、香粧品素材、医薬品素材、機能性色素事業について、その研究開発・製造販売活動が一体として継続・発展することが基本方針で、買収額のほか、美術館や博物館、チンパンジー研究など林原が行っていたメセナを含めた事業の一括引き受けが条件となった。

当初、買収金額は400億円規模とみられたが、林原の持つトレハロースの技術が評価され、価格は段階的に引き上げられた。

ーーー

長瀬産業は8月4日、林原の本社で会見した。

長瀬社長は「今のまま岡山に軸足を置いて事業を続けてもらい、林原の会社名も当面は残す」との考えを示し、従業員の雇用も継続すると断言した。

メセナ活動については、「林原のメセナが社会的にも意味のある事業であることは理解している。当面はそのままの継続を考えている」としたが、「将来、もっといい主体が出てきたら引き継ぐか考えたい」と述べた。
「当面」の時期については、「2、3カ月ということはないが、1年なのか数年なのか十数年なのかは、今の時点でお答えしかねる」と答えた。

ーーー

林原の事業の状況は以下の通り。

会社更生法申請 林原
(製造、グループ統括)
合併
 統合後に100%減資
 増資を長瀬産業が引き受け
  (引受と貸付で700億円拠出)
林原商事
(販売)
林原生物化学研究所)
(R&D)
太陽殖産
(不動産)
不動産部門  

 

保険部門
    林原美術館 当面 長瀬が引き受け
  林原自然科学博物館
  林原共済会
   (メセナ活動)
京都センチュリーホテル 2011/7/25 京阪電気鉄道が99.72%を買収 
H+Bライフサイエンス
(健康食品)
2011/6/21 ㈱ハーバー研究所が買収
       (無添加化粧品メーカー)
 アメニティルネサンス  
ザ ハヤシバラシティ  駅前の土地の事業(下記)

 

林原の管財人は、林原が所有するJR岡山駅前の駐車場(約45千m2)について、別の入札で来月をめどに売却先を決めると説明した。
中国銀行が設定した担保権を無効とする否認請求も東京地裁に行っており、管財人は100~200億円の売却額を想定している。

管財人は又、林原健・前社長、林原靖・前専務と前常務、前取締役の旧経営陣4人に対する損害賠償査定を8月3日付で東京地裁に申し立てたことを明らかにした。前社長に200億円、前専務に150億円とされる。
裁判所が賠償責任を認めれば、前社長らに支払いが求められる。

 

なお、林原グループの負債総額は約1400億円。
 

 


 

8月4日のNew York株式市場は急反落し、前日比512.76ドル安の11,383.68ドルとなった。
世界的な景気減速懸念が強まり、投資家のリスク回避的な動きが加速した。

この結果、金融市場全体にリスク回避の動きが拡大、原油も売りが強まり、売りが売りを呼ぶ展開となった。

NY原油先物相場は7月28日以来、終値は続落していたが、8月4日は急落し、前日比5.30ドル安の86.63ドルとなった。一時86.00ドル付近まで下落した。

  7/28    97.44$/bbl
29    95.70
8/1    94.89
2    93.79
3    91.93
4    86.63

 原油、ナフサの価格情報は https://www.knak.jp/

台湾プラスチックグループ(台プラ)の第6ナフサ分解プラント(雲林県麦寮:エチレン年産2,935千トン)で7月30日、過去1年で6回目の火災事故が発生した。

 
グループ企業の南亜プラスチックの嘉儀での火災を入れると7回目となる。

 

2010/10/3 南亜プラスチック 嘉儀 PEPA工場 PEPA(合成紙)工場2階から出火
 
2010/7/7 台塑石化 麦寮第6 オレフィン第一  
2010/7/25 台塑石化 同上 第二製油所 原油精製、水添脱硫装置が原油漏れで爆発火事
2011/5/12 台塑石化 同上 オレフィン第一付近 LPGパイプラインから気体が漏れ爆発、発火
2011/5/18 南亜プラスチック 同上 イソデシルアルコール工場  
2011/7/26 台塑石化 同上 オレフィン第一付近 各生産工場にUtilitlyを供給する「第1公用工場」の
水素パイプラインで失火
2011/7/30 台塑石化 同上 第三製油所  プロピレン回収工程の脱硫乾燥器が破裂し、
 プロピレンが外部に漏れた。

 

これを受け、行政院は7月31日、政府部門を横断した会議を開き、台プラへの要求4項目を決議した。

具体的な内容は
【1】昨年7月以来、これまでに発生した7度の火災に関連する設備の稼働を即座に止め、全面的な検査を実施
【2】今回の7度目の火災が発生した設備と同種の材料を使用した圧力容器の稼働を直ちに止めて検査
【3】同プラント内にあるその他の設備も1年内に順番に稼働を止めて検査
【4】これらの全面的な稼働停止と検査の過程、結果について、公正な第3者機関から監督・認可を得る――。

台プラ幹部によると、稼働を停止せねばならない工場は同プラント内の全66基の半数近くとなる約30基に達する。今回の火災が起きた第3製油所に加えて、第1、第2製油所もすでに操業を停止している。

同プラント内には、PVCメーカーの台湾塑膠工業(Formosa Plastics)やエチレングリコール世界4大メーカーの南亜塑膠工業(南亜プラスチック)、高純度テレフタル酸で世界最大手の台湾化学繊維(Formosa Chemicals & Fiber)の工場がある。

このため、アジアの石油化学の需給に大きな影響を与える可能性がある。

経済部は声明を発表し、「安全不在のところに石化製品の生産は不在」と強調した。
さらに製油所の操業停止への対応で、台プラに対し、域内のガソリンやディーゼル油、プロピレンなどが不足する場合は、域内の需要を優先し、必要に応じて輸出を控えるよう求めた。

地元の雲林県政府は7月31日、県内にある台プラのプラントの全面的な稼働停止を経済部に強く要求した。

日本触媒のインドネシア子会社PT. Nippon Shokubai Indonesiaは7月28日、アクリル酸(AA)8万トン/年および高吸水性樹脂(SAP)9万トン/年設備建設の起工式を行った。

2013年8月に商業生産開始の予定で、これにより生産能力はAAが14万トン、SAPが9万トンとなる。

世界トップクラスのシェアを維持するため、SAP増産を当初の計画(30千トン)より拡大し、原料であるAAも含め増強する。

2011/4/6 日本触媒、インドネシアでアクリル酸と高吸水性樹脂を増強

 同社は8月2日、2013 年5 月末完工を目途に姫路製造所内に生産能力年8万トンのアクリル酸の新プラントを建設すると発表。
 合わせて、
アクリル酸特殊エステル年産能力2万トンの新プラントを川崎製造所に建設し、姫路と合わせ6万トンにすると発表した。
 

日本触媒の現状と計画は下記の通り。(千トン)

  アクリル酸 SAP
現状 計画 現状 計画
日本 460   80 320  
US 60   60  
ベルギー     60  
インドネシア 60 80   90
シンガポール 40      
中国     30 30
Total   620   160   470  90
780 560 +30


付記

日本触媒は2012年1月31日、中国の能力を倍増すると発表した。
2014年3月末完成、7月から商業運転を開始する予定。

 

ーーー

住友精化は7月26日、高吸水性樹脂の堅調な需要の伸びに対応するため、姫路工場での増設を決定したと発表した。
新設備の能力は54千トンで、増強後の姫路の総能力は164千トンとなる。

併せて、7,000KWHの自家発電設備も増設する。
いずれも2012年12月に完成の予定。

同社は5月31日に、フランスで高吸水性樹脂を増設すると発表した。

同社は2008年4月にArkemaからこの事業を買収して、ArkemaのCaring工場で製造委託を行っているが、ここに27千トンの設備を増強し、合計能力を47千トンとする。
完成は2013年春を予定している。
販売はSumitomo Seika Europeが行っている。

このほかSumitomo Seika Singapore(住友精化 80%、住化シンガポール 20%)が、シンガポールSakra島で製造している。

住友精化の現状と計画は下記の通り。(千トン)

  現状 増強 完成後
姫路工場   110   54 164
フランス 20 27 47
シンガポール 69   69
合計 199 81 280

ーーー

なお、三洋化成工業 60%/三菱化学 40%のJVのサンダイヤポリマーは2010年4月、中国の子会社三大雅精細化学品(南通)有限公司で70千トンの増強を行うと発表した。2011年7月完成予定。

同社の現状と計画は下記の通り。(千トン)

  現状 増強 完成後
名古屋工場   105    105
大垣工場 20   20
中国 65 70 135
合計 190 70 260

 

同社では完成後は年産26万トンで世界第4位になるとしている。
しかし、各社とも増強しており、増強後には、日本触媒、BASF、Evonik、住友精化に次ぐ5位と思われる。

各社の詳細は 2009/9/26 高吸水性樹脂業界の動き

ーーー

日本触媒は世界の主要SAPメーカーの生産能力を以下の通りとしている。(2010/11/5決算説明会資料)
(筆者の数値と若干異なる。日本触媒以外の社名は筆者の推定) 

付記 
BASFは2011年8月19日、ブラジルの
Camaçariに5億ユーロ以上を投じて、アクリル酸、ブチルアクリレート、SAPプラントを建設すると発表した。能力は明らかにしていない。アクリル酸とSAPは南米で初めての工場となる。

 

BASFは2010年12月17日、ベルギーと米国の高吸水性樹脂の能力を増強すると発表した。
ベルギーのAntwerpと米国のFreeportのプラントをデボトルネッキングなどで2012年までにそれぞれ35千トン増強し、同社の合計能力を年産47万トンとする。

BASFの高吸水性樹脂の主工場はAntwerpとFreeportで、ほかにドイツのMannheim とタイのRayongにもプラントを持つ。

同社の能力は以下の通り。(単位:千トン)
現在、SinopecとのJVのBASF-YPC(南京市)で60千トンのプラントを建設中。

    過去 現状 増強後  
欧州 Antwerp   115   175 210  
Mannheim 25 25 25  
米国 Portsnmouth,VA 115 - - 元Clariant
Aberdeen, MS 65 - - 元Chemdal
Freeport,TX - 180 215  
タイ Rayong 20 20 20 元Chemdal
合計   340 400 470  
中国JV 南京(BASF-YPC) - - 60  
再計   340 400 530  

 

2010/12/22  BASF、高吸水性樹脂を増強 

8月2日の期限切れでの米国史上初のデフォルトを目前にし、米与野党指導者は7月31日夜、連邦政府の債務上限を2.1兆ドル引き上げるとともに、その条件として今後10年間で2.5兆ドルの財政赤字を削減することで合意に達した。

下院は8月1日、賛成269票、反対161票で可決した。
上院は8月2日、賛成74、反対26で可決した。

オバマ大統領は直ちに署名し、法律となり、デフォルトは寸前に回避された。

しかし、最大の焦点だった財政赤字削減の具体策は先送りされ、米国債の格下げ懸念も続く。

 

連邦政府の債務については、 1917年成立の公債法(Second Liberty Bond Act)で上限が定められている。
1917年には限度額が4000億ドルと決められたが、1962年3月以降74回、2001年以降では10回引き上げられている。

現在の上限は14.29兆ドル(約1130兆円)で、 5月に上限に達し、つなぎの資金繰り対策でしのいでいるが、8月2日までに上限が引き上げられなければ、米国は新たな借り入れができなくなり、米国債の利払いなどの資金が不足して、米国史上初のデフォルトに陥るおそれが指摘されていた。

しかし、前提となる財政赤字削減策で、民主党と共和党が争い、ぎりぎりまでもつれ込んだ。

民主党は富裕層向けの増税を主張、共和党は増税に反対、社会保障費のカットを主張した。

草の根保守派運動「Tea Party」の支持を受ける共和党議員らは上限の引き上げ自体に反対した。

共和党は半年程度の資金手当てに必要な1兆ドル規模の上限引き上げを実施した後、総額3兆ドルの赤字削減で合意すれば再度引き上げに応じる2段階方式を提案 した。
これに対し、民主党は来年末まで資金を手当てできるよう2兆7千億ドルの引き上げを行い、同額の赤字を10年間で削減する案を主張したが、共和党は「赤字削減の実現性が疑わしい」と批判した。

7月29日、下院は共和党のベイナー下院議長が提出した法案を、賛成218票、反対210票の小差で可決した。

まず9000億ドルだけ債務上限を引き上げ、2012年2月までに与野党で総額3兆ドルの赤字削減で合意すれば、更に1.6兆ドルを引き上げるもの。

法案は上院に即日送付されたが、与党民主党が賛成多数で同法案を審議しないことを決め、廃案となった。 

 

今回の合意内容は以下の通り。(細目追加

 ・今後10年間で約1兆ドルの支出を削減(先行決定)

10月1日から10年間9170億ドルの削減(初年度は210億ドル)

 ・大統領に2.1兆ドルの債務上限引き上げ権限

デフォルトを避けるため、直ちに4000億ドル
9月中に追加の5000億ドル(議決必要だが、大統領に拒否権)

12月末に予算修正案が通れば、追加の1.5兆ドル、通らなければ1.2兆ドルの引き上げ権限授与

 ・超党派の特別委員会が11月末までに1.5兆ドル規模の財政赤字の追加削減策を大統領と議会に報告    

11月23日までに1.2~1.5兆ドルの削減案決定(増税、福祉費、軍事費を含める)
議会は12月23日までに採決(修正なしで yes or no、遅延認めず) 

付記 米議会の超党派委員会が、11月23日の期限を前に、決裂した。
    民主党:2.3兆ドルの赤字削減、うち富裕層向けに1兆ドルの増税
    共和党:年金、医療保険の大幅縮減

否決の場合、10年間1.2兆ドルの予算カット条項発動(2013年1月から)
  半分は国防・安全保障費、メディケアも一部カット、
Social Security とMedicaidは除外

      12月末に予算修正案(シンボリックなもの)
     通れば、追加の1.5兆ドル、通らなければ1.2兆ドルの債務上限引き上げ権限授与

 

先行決定の1兆ドルの支出削減には、大統領が強く求めていた富裕層向けなどの増税措置は盛り込まず、基本的に歳出削減で対応する。

追加赤字削減策の対象には、
  社会保障費や高齢者医療保険への切り込み:民主党リベラル派にとり妥協の余地は少ない、
  税制改革も対象:共和党主張の「増税なき財政赤字削減」路線が覆る可能性
  軍事費削減
が含まれ、難航は必至であり、今回は単に時間稼ぎをしたに過ぎない。

また、2012会計年度の予算教書ベースでは、米財政赤字は向こう10年で累計7兆ドル超に上る見込みで、仮に2.5兆ドル規模の赤字削減が実現しても、巨額の財政赤字が残ることとなる。 

 

付記

米格付け会社Standard & Poor'sは8月5日、米長期国債の格付けを最上位の「AAA」から1段階引き下げて「AA+」に格下げしたと発表した。
米政府の債務削減計画が格付けを維持するには不十分と判断した。

さらに今後の格付けの見通しを、追加引き下げの可能性がある「Negative(弱含み)」とした。今後2年以内にさらに1段階格下げして「AA」にする可能性があるという。

日本の国債の長期国債の格付けについては、本年1月に「AA」から上から4番目の「AA-」に下げ、見通しは4月に「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げた。

 

  

韓国鉱物資源公社(Korea Resources Corp.) とPOSCOのコンソーシアムは7月30日、ボリビアで国営鉱業会社COMIBOL:Corporacion Minera de Boliviaとリチウムバッテリー事業推進のための合弁会社を設立する覚書を締結した。

覚書は韓国をボリビアのリチウム事業推進の戦略的パートナーと認定し、来月にも合弁事業推進のためのタスクフォースを構成し、詳細を詰める。

SK Innovation とLG Chem もこれに参加する予定。

SK Innovationは旧称 SK Energy。
2011年1月に石油事業(SK Energy)と化学事業(SK Global Chemical)を分離し、2009年設立のSK Lubricantsとともに100%子会社とした。

SK Innovationは持ち株会社で、主に研究開発(R&D)分野と資源開発(E&P)分野を担当し、リチウムイオン電池用分離膜(LiBS)事業も受け持つ。

LG Chemは電気自動車用バッテリーを現代・起亜自動車、CT&T、GM、Eaton Corporation、長安汽車、ボルボ、Fordなどに供給、子会社のCompact Powerがミシガン州Hollandでリチウムイオン電池工場を建設している。

2010/7/17 オバマ大統領、LG化学の米工場起工式で祝辞

覚書に基づき、韓国各社はリチウム採掘の共同調査のため、近くウユニ塩湖に調査団を派遣する。

また世界4位の鉄鋼メーカーであるPOSCOは、ウユニでの炭酸リチウム製造・加工設備建設にも応札する予定。

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鉱物資源公社は2009年8月、ボリビア科学委員会および国営鉱業企業と了解覚書を締結し、ウユニ湖の塩水で炭酸リチウムを製造する技術を開発してきた。

2009/5/5 韓国鉱物資源公社、ボリビアでリチウム鉱開発へ

2010年8月、ボリビアのモラレス大統領が韓国を国賓訪問した。同大統領と李大統領は、韓国鉱物資源公社とボリビア鉱山公社の「ウユニ塩鉱山の蒸発資源産業化研究開発に関する了解覚書」締結式に立ち会った。

モラレス大統領は訪韓中、LG化学研究所を訪問し、韓国の最先端リチウムイオン電池生産技術を見学した。

2010/8/27 韓国とボリビア、リチウム開発で覚書

ボリビアのピメンテル鉱業・金属相は2010年11月、リチウムの共同開発のパートナー国の選定については、国内のリチウムイオン電池の生産が条件となると明言した。

日本とフランスなど約10か国がCOMIBOLと交渉を続けているが、鉱物資源公社では、今回の覚書締結で、リチウム開発で有利な地位に立ったとしている。

 

富士フィルムは7月28日、ジェネリック医薬品大手のインドのDr. Reddy's Laboratories Ltd(DRL)と、日本市場向けのジェネリック医薬品事業で業務提携し、国内に合弁会社を設立する基本合意を締結した。

設立する合弁会社はジェネリック医薬品の開発・製造をするもので、出資比率は富士フイルムが51%、DRLが49%となる。
2014年のジェネリック医薬品の市場導入を目指す。

富士フイルムが写真フィルムで培った高度な品質管理技術や生産技術と、DRLがグローバル展開の中で蓄積してきた原薬や製剤中間体の低コスト生産技術などを融合して、高品質でコスト競争力に優れたジェネリック医薬品を開発・製造する。
日本市場のニーズを取り入れた製品設計を行なうことで、信頼性の高いジェネリック医薬品を提供し、さらなる普及を図る。

また、DRLとの提携を足がかりに、DRLのネットワークを通じて、ワールドワイドにスーパージェネリック医薬品を提供することも検討していくとしている。

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DRLは1984年設立のインドのトップクラスの大手医薬品会社で、世界でもトップ10に入るジェネリック医薬品の開発・製造・販売会社。
売上高2011年3月期で1,667百万米ドル、その31%を北米、22%を欧州、15%をロシア、32%をインドを含むその他地域で占めている。
事業構成は医薬品原薬事業、開発薬事業、後発医薬品事業、委託生産サービス事業となっており、後発医薬事業は欧米市場向けに伸びている。

2009年にGlaxoSmithKline (GSK)と提携、GSKはDRLの100以上の製品をアフリカ、中東、アジア太平洋、ラテンアメリカで販売する権利を得た。特定の市場では両社が販売する。

本年6月には、DRLはGSKから米国のペニシリン事業を買収した。テネシー州Bristolの工場と、2つのブランドを取得した。他の地域ではGSKが引き続き販売する。

同社は昨年8月に、日本の後発医薬品市場に参入するため、提携先と協議中であることを明らかにした。
当時は、東和薬品、沢井製薬、富士製薬工業などが相手ではないかと推測されていた。

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富士フイルムは、メディカル・ライフサイエンス事業を重要な成長分野として位置付け、「予防~診断~治療」の全領域をカバーする総合ヘルスケアカンパニーを目指した事業展開を進めている。

2008/2/19 富士フイルム、富山化学を買収、総合ヘルスケア企業を目指す

2010/2/22  富士フイルム 医薬品開発・販売に本格参入

2010/9/3  富士フイルム、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングと資本提携

2011/2/28  富士フイルム、米メルクからバイオ医薬事業買収

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世界のgeneric医薬品メーカー大手は以下の通り。医薬品大手が含まれている。
シェアは日経推計 (2011/5/3)

企業 備考 シェア
 
(%)
日本の活動
Teva Pharmaceutical イスラエル 米国 Barr Pharmaceuticals を買収
ドイツRatiopharmを買収
12.0 興和テバ 
大洋薬品を買収
Sandoz ドイツ Novartis のgeneric 部門 6.3 サンド
ニプロと業務提携
Mylan アメリカ ドイツMerck のgeneric部門買収
インド Matrix Laboratories を買収
4.0 マイラン製薬
Watson Pharmaceuticals アメリカ Andrx を買収 1.7  
Greenstone アメリカ Pfizerのgeneric 部門   ファイザー
Apotex カナダ      
Stada Arzneimittel ドイツ      
Winthrop 英国 Sanofi-Aventis のgeneric 部門    
Bayer ドイツ      
Actavis Group アイスランド 米 Amide Pharmaceutical を買収
Alpharmaを買収
(
AlpharmaCoxを含む
Hoechstgeneric部門を買収)
  あすかActavis製薬
Dr. Reddy's Laboratories インド     富士フィルムとJV設立
Ranbaxy Laboratories インド 第一三共が買収    
Sanofi Aventis フランス     日医工サノフィ・アベンティス

 

政府は7月29日、第2回エネルギー・環境会議を開催した。

  議題 1.当面のエネルギー需給安定策について 
      2.「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理について

概要は以下の通り。

1.当面のエネルギー需給安定策
   http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20110729/siryo1_1.pdf

原子力発電所が再起動しない場合の電力需給動向は以下の通り。 (単位:万kw

    ピーク需要 供給能力 過不足 対策
今夏 東日本 7,986 7,401   -585 -7.3% 平日昼間における15%の節電要請と
大口需要家への電力使用制限
中西日本 9,968 10,070 102 +1.0% 関西電力管内は、平日昼間における10%超の節電要請
合計 17,954 17,471 -483 -2.7%  
     
今冬 東日本 7,149 7,069 -80 -1.1% 平日昼間における節電要請に加えて
補正予算などを活用した政策支援
中西日本 8,662 8,629 -33 -0.4% 同上
合計 15,811 15,698 -113 -0.7%  
     
来夏 東日本 7,986 7,152 -834  -10.4% 同上
中西日本 9,968 9,145 -823 -8.3% 同上
合計 17,954 16,297 -1,657 -9.2%  

前提
①最大電力需要は、昨年実績 or 各社の今後の見通し
   (需給調整契約によるカットを折り込まず)   →対策余地あり
②定期検査に入った原子力発電所について再起動なしの場合
③火力発電所等は、7月27日時点の見通し
   →電力会社による供給力の積み増し、自家発による供給力積み増しを期待

原発を再稼働させない場合の電力コストアップは3.16兆円(経産省試算)
 原発発電量 x (火力燃料費 ー 原発燃料費)

 原発発電量 2745億kwh(2009年実績稼働率)
 火力燃料費 12.5円/kwh (LNG 11円、石油 16円)
 原発燃料費 1円/kwh

 LNG価格上昇など、折り込まず。

基本的な対処方針5原則

(1)原子力発電所の停止が広範に生じた場合でもピーク時の電力不足とコスト上昇を最小化する
(2)計画停電、電力使用制限、コストの安易な転嫁を極力回避する。
(3)政策支援や規制・制度改革で持続的かつ合理的な国民行動を全面支援し、エネルギー構造改革を先行実施。
(4)経済活性化策としてエネルギー需給安定策を位置づける。
(5)国民参加の対策とするため、3年間の工程を提示する。
 

目標達成へ向けた具体的な対策

 (1)需要構造の改革
      省エネ商品の導入促進
  産業の省エネ投資の促進
  住宅や工場、ビルの省エネ投資促進等
  家庭も含む需要家による投資促進
  スマートメーター(通信機能付き高性能メーター)の導入促進及び活用
  地域ぐるみの節電行動への支援、地域における分散型エネルギーの地産地消システムの構築、地域主体の発電事業者の育成
  就業日・時間のシフト等、社会行動改革の促進
     
 (2)効率性と環境性を重視、あらゆる主体の電力供給への参加を促す
  再生可能エネルギーの導入拡大
  火力発電の増強、高効率化支援等
  資源確保戦略の強化
  ピーク電力供給力強化
  分散型電源(再生可能エネルギー、熱やガスを併給する燃料電池やコジェネレーションシステム等環境性の高いエネルギー)、スマートコミュニティー(次世代エネルギー・社会システム)の導入促進
     
 (3)電力システムの改革(需要構造改革と供給構造の多様化の視点で)
  柔軟な料金メニューの設定などの需要家のピークカットの誘引強化、小売事業の自由化などを通じた需要家の選択肢の拡大
   電力卸売市場の整備など、電力会社間及び電力会社と自家発の間の競争促進
  電力会社の調達改革によるコスト構造のスリム化
  送電・配電システムの機能強化
 (送電・配電網のスマート化や連系送電網の整備、再生可能エネルギー導入の基礎となる送電網の拡充) 
  送電・配電事業の中立性・公平性の強化
     
 (4)再起動も含め原子力安全対策を徹底するという国の姿勢を明示
     

 

2.「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理
  http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20110729/siryo2_1.pdf
 

戦略の基本理念

 基本理念1:新たなベストミックス実現に向けた三原則

   原則1:原発への依存度低減のシナリオを描く。
   原則2:エネルギーの不足や価格高騰等を回避するため、明確かつ戦略的な工程を策定する。
   原則3:原子力政策の徹底検証を行い、新たな姿を追求する。

 基本理念2:新たなエネルギーシステム実現に向けた三原則

   原則1:分散型のエネルギーシステムの実現を目指す。
   原則2:課題解決先進国としての国際的な貢献を目指す。
   原則3:分散型エネルギーシステム実現に向け複眼的アプローチで臨む。

 基本理念3:国民合意の形成に向けた三原則

   原則1:「反原発」と「原発推進」の二項対立を乗り越えた国民的議論を展開する。
   原則2:客観的なデータの検証に基づき戦略を検討する。
   原則3:国民各層との対話を続けながら、革新的エネルギー・環境戦略を構築する。
 

戦略工程

(1)短期(今後3年の対応)
   エネルギー構造改革の先行実施。当面は需給安定に全力。
   原発への依存度低減について、国民的議論を深め、対応を決定。

(2)中期(2020年を目指して)
   新たなベストミックスとエネルギーシステムを目指す。

(3)長期(2020年から、2030年又は2050年を目指して)
   新たなベストミックスとエネルギーシステムの成果を実現する。


「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた論点を整理する
  ①原子力をはじめとしたコストの徹底的な洗い出し及び中長期的な見通し、
  ②再生可能エネルギーをはじめとした技術革新と経済拡大効果の見極め、
  ③化石燃料をはじめとした環境性能向上の可能性の評価等、前提となる検証事項について具体化する。

「コスト等試算・検討委員会(仮称)」の設置
 「客観的なデータの検証に基づき戦略を検討する」ことが原則となる。
 原発をはじめとする電源別のコスト、再生可能エネルギーの導入可能量等などを検討し、方針策定に反映。

① どのような試算方法が適当か。
② 前提条件の設定が適切か。
③ 政策経費を勘案すべきではないか
④ 各電源別に、それぞれ考慮すべき重要な項目があるのではないか。
⑤ その他、試算にあたっては影響を考えるべき事項もあるのではないか。

 

資料:発電コスト試算比較(今後の方向性)

筆者注
各エネルギーの縦棒の上下にある数値は、これまでに発表された発電コストの幅を示す。
それに対し、点線の矢印(紫の上向き、ブルーの下向き)で今後の変動の可能性を示している。

太陽光発電の、2020年14円、2030年7円はNEDO「太陽光発電ロードマップ」(2009年6月)

原子力の「バックエンド」は
放射性廃棄物の処分費用で、現在一部だけが計算に入っている。
(原子力では、一般会計のエネルギー対策費や電源開発促進対策特別会計もコスト計算に入っていない)

 

原子力のコストについては大島堅一立命館大教授の分析がある。


    詳細な解説は http://iwakamiyasumi.com/archives/8207

             水力発電には揚水発電(原発の夜間電力利用)が含まれ、これを除くともっと安い(最近で3.5円)としている。

 

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