事業仕分け:科学技術予算カット批判への反論

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11月13日と17日の事業仕分け第3WGで科学技術予算が取り上げられた。結論は以下の通り。

番号 項目名 WG結論                 
3 - 17 (独)理化学研究所① 次世代スーパーコンピューティング技術の推進 来年度の予算計上の見送りに
限りなく近い縮減
3-18 (独)理化学研究所② 大型放射光施設(SPring-8) 1/3から1/2程度予算縮減
植物科学研究事業 1/3程度予算縮減
バイオリソース事業
3-19 (独)海洋研究開発機構 深海地球ドリリング計画推進 予算要求の1割から2割縮減
地球内部ダイナミクス研究 少なくとも来年度の予算の計上は
見送り
又は予算要求の半額縮減
3-20 競争的資金(先端研究) [予算] 科学技術振興調整費(外5) 予算は整理して縮減
競争的資金(先端研究) [制度] 一元化も含めシンプル化
3-21 競争的資金
(若手研究者育成)
①科学技術振興調整費 予算要求の縮減
②科学研究費補助金
③特別研究員事業
3-22 競争的資金
(外国人研究者招へい)
世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム 予算要求の縮減
学術国際交流事業
3-23 地域科学技術振興・
産官学連携
①知的クラスター創成事業、都市エリア
産学官連携促進等
廃止
②産学官連携戦略展開
③地域イノベーション創出総合支援
3 - 24 (独)科学技術振興機構 理科支援員等配置事業 廃止
日本科学未来館予算 縮減

3-33 (独)宇宙航空研究開発機構① GXロケット 来年度予算計上は見送り
3-34 (独)宇宙航空研究開発機構② 宇宙ステーション補給機(HTV) 予算要求の縮減(1割)
衛星打ち上げ
(24年度以降打ち上げ分)
予算要求の縮減(1割)
3-35 その他分野特定型 原子力システム研究開発事業 予算要求の縮減(2割)
先端計測分析技術・機器開発事業 予算要求の縮減(1割~2割)
3-38 ライフサイエンス分野 革新的タンパク質 細胞解析研究
イニシアティブ(ターゲットタンパク研究プログラム)
予算要求の縮減(2割~半減)
革新的医療品・医療機器の創出に向けた研究 
分子イメージング研究戦略推進プログラム
(第Ⅱ期)
予算要求の縮減(2割~1/3程度)
感染症研究国際ネットワーク推進プログラム
(第Ⅱ期)
廃止又は
予算要求の縮減(2割~半減)
3-39 科学技術振興調整費 女性研究者支援システム改革 予算要求の縮減(1/3程度)
3-40 研究環境国際化の手法開発 廃止
3-41 情報システム借料、開発・改修経費 予算要求の縮減(2割~3割)
3-36 (独)日本原子力研究開発機構① 高速増殖炉サイクル研究開発
(もんじゅ及び関連研究開発)
事業の見直し*
材料試験炉研究開発(JMTR)
3-37 (独)日本原子力研究開発機構② 高レベル廃棄物処分技術開発
(深地層部分)
結論持ち越し
国際熱核融合実験炉研究開発
(ITER サテライト・トカマク計画)

*3-36
 経済産業省と文部科学省の責任、役割分担が不明確であり、その整理をしなければ結論を出すのは困難。
 ただし、その前提の上であるが、もんじゅ本体の再開は残し、それ以外は凍結という大方の方向も示された。

これに対し、11月25日にノーベル賞受賞者(江崎利根川野依小林各氏)・フィールズ賞受賞者(森 重文氏) が「事業仕分けに対する緊急声明」を出した。

資源のない我が国が未来を持つためには、「科学技術創造立国」と「知的存在感ある国」こそが目指すべき目標でなければならない。この目標を実現す るために、苦しい財政事情の中でも、学術と科学技術に対して、科学研究費補助金を始め、それなりの配慮がなされてきた。このことを私たちは、研究者に対する国民の信頼と負託として受け止め、それに応えるべく日夜研究に打ち込んでいる。
学術と科学技術は、知的創造活動であり、その創造の源泉は人にある。優秀な人材を絶え間なく研究の世界に吸引し、育てながら、着実に「知」を蓄積し続けることが、「科学技術創造立国」にとって不可欠なのである。この積み上げの継続が一旦中断されると、人材が枯渇し、次なる発展を担うべき者がいないという 《取り返しのつかない》事態に陥る。
現在進行中の科学技術および学術に関する予算要求点検作業は、当該諸事業の評価において大いに問題があるばかりではなく、若者を我が国の学術・科学技術の世界から遠ざけ、あるいは海外流出を惹き起こすという深刻な結果をもたらすものであり、「科学技術創造立国」とは逆の方向を向いたものである。
学術と科学技術に対する予算の編成にあたっては、このような点検の結論をそのまま反映させるのではなく、学術と科学技術の専門家の意見を取り入れ、大学や研究機関運営の基盤的経費や研究開発費等に関する配慮を行い、将来に禍根を残すことのないよう、強く望むものである。

ノーベル化学賞受賞者で、理化学研究所の野依理事長は11月25日、自民党文部科学部会に出席し、理化学研究所が主体で研究開発している次世代スーパーコンピューターの開発予算が事実上凍結されたことについて、「不用意に事業の廃止、凍結を主張する方には将来、歴史の法廷に立つ覚悟ができているのか問いたい」と痛烈に批判した。
「科学技術振興や教育はコストではなく投資だ。コストと投資を一緒くたに仕分けするのはあまりに見識を欠く。次世代スパコンはいったん凍結すると、瞬く間に各国に追い抜かれ、その影響は計り知れない」と強調した。

一方、事業仕分け人に加わったJT生命誌研究館館長の中村桂子さん(元三菱化成生命科学究所部長)は12月4日の毎日新聞で以下の通り反論した。

私は日本の予算作りのシステムを変えるきっかけにしたいと思って、悩んだ末に仕分け人を引き受けました。
仕分け人の皆さんはよく勉強し、それぞれの専門や経験に基づいて発言していました。

継続中の事業を切ると問題が起きることは分かるので、複雑な思いはありました。しかし、ここで考え直すことが必要だと考えたのです。
科学技術基本法施行(95年)以後、科学も学術も「科学技術」という言葉で一くくりにした結果、短期的な成果を求めて限られた分野に莫大な予算が集中し、科学者は「役に立つ」という言い方で研究費を獲得するようになりました。真の継続性なしに、あたかも役に立つことができたかのように言い、必要なところにお金が回らず、無駄も増えました。この風潮を懸念している科学者は多いのです。大型プロジェクトに無駄がないとは決して言えません。

(ノーベル賞受賞者をはじめとする批判について)
科学技術の重要性を否定した仕分け人はいません。大事なのだから、もっと有効に限られたお金を使おうという努力です。そうそうたる学者や学長が、頭ごなしに「科学技術の大事さがわかっていない」とおっしゃる姿には違和感を覚えました。お金でなく、研究の魅力を語り、それへの共感を基本に、この国の学問を育てようと提案してほしかったです。

(閣僚が「科学技術については政治判断する」と発言した)
今回の判定がすべて正しいとは思いません。意見が分かれた場合、無理やり一つの結論にまとめたり、長期的に見て疑問に思う点もありました。全体を見て、再検討する機会が必要でしょう。
しかし、透明性をもって専門家の意見を聞くことなく、政治判断だけで結論を変えたのでは、システムを変えたいと思って参加したのに、何のためだったのか分からなくなります。

世界の情勢をきちんととらえ、無私の気持ちで研究のあり方を考える専門家の議論を踏まえて、必要なところに必要な予算がいくシステムをつくることが不可欠です。

ーーー

スーパーコンピューターについての仕分け人のコメントは以下の通り。

10ぺタスパコンを開発することが自己目的化している。巨額の税金を投入して世界最高水準のスパコンを創る以上、大事なのはスパコンを生かして、どのような政策効果を出していくのかを、明確にできなければ、国費投入は無理である。
必要最低限の予算へ見直しをする。来年度はこの開発計画を一度凍結し、計画の根本見直しをする。
一旦総合科学技術会議なりに戻して、何を実現するために何が必要かを見直すべき。ハードの戦いではなく、ソフトの戦いをするべき。
総合科学技術会議への差し戻し、再検討。科学技術の必要性、重要性は理解できるが、国民の理解には至っていない。世界一の頂のみを目指す時代ではない。
開発体制そのものの見直しが必要。システム部分等をカット。
ベクトル、スカラーの選択も、十分な総括ができていない。この段階で十分な説得力のない「世界一」という目的だけで、多額の投資をすべきではない。世界一番乗りと財政状況とのバランスを考えれば、これまでの経緯を踏まえ、基礎研究部分のみを残す。
技術は蓄積されているので、ここで計画を見直し、当初の目的に沿うようにする。抜本的変更が必要。
これまでの開発費の有効利用を考えての見直し。当初目的を満足しているのか、なぜNECが撤退したのか等の理由等を調査。立ち止まって見直しをする。世界一を目指す必要はない。
スパコンの国家戦略を再構築すべきである。従来の検討者以外の新しい研究者を入れて、新しい議論を公開しながら行うべき。現状はスパコンの巨艦巨砲主義に陥っていないか。競争のルールが変わってきている可能性はないか。世界の中での位置づけを検討すべき。おそらく日本の先端技術についての国の形を変えるかどうかを検討することになるだろう。
戦略の見直しをじっくりやってはどうか。
トヨタもF1から撤退した。苦渋かつ前向きの判断を。研究者が夢を追うだけではなく、一般人が「なるほど、巨額の税金投入の意義がある」と得心できる説明ができなければOKできない。日米共同なども模索すべき。

東京大情報基盤センターの金田教授は毎日新聞で次のように述べている。

科学は世界一を目指すものだ。それは全く否定しない。ただしスパコンは他の研究に使われる道具だ。道具が必ず「世界一」である必要があるのか。それを使い生まれた成果が世界一であることこそ重要だろう。

スパコンはマシンの速度と動かすプ ログラムの質がかみ合って性能を発揮する。低速のマシンでもいいプログラムを動かせば上位をしのげる。現計画は無意味な「コンテスト」の勝利が目的のよう だ。しかも近く米国で20ペタマシンが登場し、その勝利すらおぼつかない。

10ペタマシン(1秒間の演算回数が10x1000兆)は、部品数から故障率が 1ペタの10倍以上に達し、プログラムを書くのも非常に難しい。計算機への意識が低い日本は、質の高いプログラムを書ける研究者が極端に少ない。現実には 「使えない」マシンになるだろう。

10ペタ1台の価格で安定して十分高速な1ペタが10台以上作れる。それを意欲ある大学院生らにどんどん使わせる。それが日本の科学を底上げする政策だし、プログラムが書ける研究者の育成にもつながる。

私は事業仕分けで計画の見直しを主張した。それは開発停止、凍結という意味ではない。10ペタへのこだわりを捨て、内容を変更すべきという考えだ。当然スパコン開発は継続せねばならない。日本にまだない1ペタ級のベクトル型、スカラー型のマシン複数をすぐに導入し、広く使ってもらう。そのうえで 次々世代の革新的スパコン開発に挑戦すべきだと考えている。

昨年、自民党のなかで事業仕分けを行った河野太郎議員はブログ「ごまめの歯ぎしり」(河野太郎の国会日記 2009/11/27)で以下の通り述べている。

ノーベル賞受賞者が総理に陳情に行かれたが、やや、論点がずれている。

科学技術を大事だと思わない仕分け人はいなかっただろう。
しかし、科学技術が大切だから、何でもかんでも予算をつけろというわけにはいかない。科学技術が大切だからこそ、予算を有効に使うべきだ。

たとえばスパコン。スパコンのシミュレーション能力が、様々な分野での国際競争力に直結しているのは事実だ。
だからスパコンの開発が大切だというのは理解できる。

では、世界で一番速いスパコンと二番目に速いスパコンでどの程度の差があるのか。競争力にどれだけの開きが出るのか。開発費用がどのくらい違うのか。文科省は全く説明ができない。

どれだけのスペックのものを作れば、その後、どれくらいの期間、どうなるのかという説明もない。開発しようとしているスペックの妥当性について、説明は何もない。諸外国のプロジェクトと比べてコストがどうなのかという説明もできない。

文科省の計画では、次世代のスパコンは、ベクトル型とスカラー型の複合システムとして開発するという方針の下、ベクトル型のNEC・日立とスカラー型の富士通の三者が開発に取り組んできた。しかし、途中でNECと日立が離脱し、富士通のみが開発を担当することになった。

ベクトル型とスカラー型の複合システムが良いといった最初の計画は、何だったのか。スカラー型でよいならば、なぜ最初からそうしなかったのか。こうした指摘にも文科省は答えていない。

莫大な予算をかけてスパコンを開発するというならば、ある程度、世の中の質問に文科省は答えなければならないはずだ。

質問に答える反射能力が問われているようだと言った科学者がいたが、とんでもない。スパコンのこうした疑問は去年から出されている話だ。

科学技術は大切だという大項目で話をしているノーベル賞受賞者と一つ一つの事業を見て、その事業にかけられているコストが適正かどうか、コストの理由が明確になっているかどうかを検証している仕分け人と、論点が違っている。

スパコンにしても、GXロケットにしても安易に予算を戻してはいけない。

事業仕分けの有効性がこれだけ知れ渡ったのだから、国会の予算委員会で、一つ一つの事業を取り上げて、それぞれの事業の予算の議論をするべきだ。

予算委員会でスキャンダルの話をしたり、つまらない演説を延々とされたりするよりも、省庁別の分科会にして、事業仕分けをやっていくべきだと思う。


* 総合目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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