米国シャープ、手続きミスで損害賠償求償益が大幅減に

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米国でのブラウン管価格カルテルにからむ民事の損害賠償裁判で、Class Actionに(自社の意思でかどうかは不明だが)原告として加わっていたシャープは和解結果に不満を持ち、集団和解から離脱して個別に訴訟をしようとしていたが、連邦地裁は8月20日に離脱を認めない判決を下した。シャープは判断の見直しを求め控訴したが、このたび控訴審はこれを棄却した。

この結果、シャープは集団和解に拘束されることとなり、損害賠償の求償益が大幅に減ることとなる。

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米国の集団訴訟の一部のClass Action は、ある商品の被害者など共通の法的利害関係を有する地位(Class)に属する者の一部が、Class の他の構成員の事前の同意を得ることなく、そのClass全体を代表して訴えを起こすことを許す訴訟形態である。

原告は、Class全員の請求権の合計額を訴求でき、判決などの効力は、訴訟行為をしなかった者も含めて同じ Classに属する者全体に及ぶ。

なお、米最高裁は2011年と2013年の判決で、集団訴訟に厳しい制限を加えている。

2014/10/4 Dow Chemical、ポリウレタン独禁法違反の集団訴訟で控訴審でも敗訴 

しかし、原告がClass Actionに参加の意思がない場合や和解の結果に不満の場合、Class Action から離脱 (Opt-out) を申し出て、別途、個別に訴訟を行うことが出来る。
その場合、離脱の申し出の期限が決められ、それ以前に申し出ることが求められる。

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1995年から2007年にかけて、日立、パナソニック、東芝、Philips、LG、三星など多数のメーカーがブラウン管の国際カルテルを実施したとして、損害を受けた購入者や企業が集まり、多くのClass action 訴訟が行われた。2008年初めに1件にまとめられた。

このうち、被告の日立とSamsungとの和解が問題となった。

日立は2013年12月に13.4百万ドル、Samsungは2014年3月に33百万ドルでの和解を決めたが、2014年4月に裁判所が仮承認を行った。

このほか、パナソニックは2012年7月に17.5百万ドル、東芝は2013年3月に13.5百万ドルで和解している。

これを受け、Class Action の管理者は原告各社に対し、離脱者は6月12日期限で離脱を申し出るよう通知した。
合わせて、Wall Street Journalにその旨の公告を出すとともに、ホームページのQ&Aなどに記載した。

しかし、シャープとDell は期限までに申し出を行わなかった。6月26日に管理者が確認して初めて、両社は申し出を行った。

6月26日に被告側に提出した資料には、両社は離脱会社として記載されたが、日立は期限までに申し出がないとして拒否した。

このため、両社は離脱の確認を求め、裁判に訴えた。

シャープによれば、日立とSamsung のカルテルによる同社の被害は約36.6百万ドルで、3倍賠償では109.8百万ドルにもなる。
(裁判の結果次第であり、これが確定ではない)
しかし、和解では同社の取り分は1.3百万ドルしかない。

シャープもDell も、先ず、既に個別の訴訟の準備を進めており、離脱が前提であることは明確であるとし、更に申し出の遅延はルール上で認められるものであると主張した。

しかし、8月20日の判決では、前者については、訴訟の準備をしているかどうかは無関係で、遅延に正当な理由があるかどうかだけであるという被告側の日立の主張を認めた。

申し出の遅延については、裁判所はシャープの主張は却下し、Dell の主張は認めた。この結果、Dellの離脱は認められた。

シャープについては、期限の通知が「うっかりして (inadvertently) 外部弁護士に送られなかった」とするだけで、期限になぜ遅れたかについて何の説明もしていないと述べ、"Inadvertence" (うっかり)と "Miscommunication"(送り誤り)は 判例では十分な理由にはならないとした。

これに対し、裁判所はDell の説明を了解した。
 ・Class Action の管理者のホームページで、期限が正しく更新されていなかった。
 ・Dell への通知に期限が記載されていなかった。
 ・期限に関する reasonable mistake で期限に遅れたというもの

また、Dell の賠償対象となる購入額は膨大で、Class Action の管理者がこれを計算に入れていなかったのが管理者の証言で明らかとなった。

今回の控訴審での棄却で、シャープの離脱は認められないこととなる。

重要書類の扱いを誤ったことで、大きな影響が出る。
また、裁判での説明の仕方で大きな差が出た。


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ブラウン管カルテルは、2007年11月に日本、米国、EUが同時期に調査を開始した。

日本では、公取委が2009年10月に外国事業者を含むテレビ用ブラウン管の製造販売業者らに排除措置命令及び課徴金納付命令を出した。

2009/10/9 公取委、外国事業者に排除措置命令と課徴金納付命令

EUは2012年12月、テレビやコンピューターモニター用のブラウン管CRT)について、1996年から2006年までの10年にわたり価格カルテルを結んだとして、パナソニックや東芝を含む6社に対し、過去最高となる総額14億7000万ユーロの制裁金を科した。

2012/12/6 EU、ブラウン管カルテルに制裁金 


米国では、Samsung SDI が2011年3月にカラーブラウン管での価格カルテルを結んだことを認め、32百万ドルの罰金支払いに同意した。
合わせて同社の6人が起訴された。




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