ユーロ圏首脳会議、ギリシャ金融支援で合意

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ユーロ圏首脳会議は7月13日午前、約17時間にわたる協議を終え、ギリシャへの金融支援を行うことで大筋合意した。

ギリシャは当初、譲歩を渋ったものの、最も強硬なドイツの主張をほぼ全面的に受け入れ、ギリシャのユーロ圏からの離脱は、ひとまず回避された。

ドイツは、信頼性のある改革案がなければ、ギリシャはEUには残留した上で、少なくとも5年間ユーロ圏から離脱し、人道援助などを受けながら債務を整理すべきだとの案を出していた。 ドイツはこれを合意文書に入れようとしたが、さすがに各国が反対した。

EUはギリシャ議会での法制化を待って、7月15日にユーロ圏財務相会合を開催して改革の実行を確認し、各国議会での承認を経て、正式に支援策の交渉を開始する。
債務削減に反対するドイツの主張により、 債務元本は削減せずとしており、債務返済期間の延長などを検討する。


最初の関門となるのがギリシャ議会で、今回の改革案は、Pual Krugmanが「気違いじみている。国の主権を完全に破壊するもの」とするほど厳しいもので、しかも実質2日間で可決せよというもの。否決されれば、EUとの合意は白紙に戻る。 

 

第3次ギリシャ支援に向けた合意事項の要旨は以下の通り。

◎ギリシャは2016年3月以降もIMF支援を要請。

◎ギリシャは7月15日までに以下の施策を議会で可決する。

 ― 付加価値税率の簡素化
 ― 広範な課税
 ― 年金削減
 ― 国家統計局の独立

◎ギリシャは7月22日までに民事司法改革やEUの銀行破綻ルール実施を可決。

◎以下の改革について明確な日程を設定。
   
     ― 大胆な年金改革
     ― 製品市場の改革
     ― 送電網の民営化
     ― 団体交渉、ストライキ、集団解雇などの見直し
     ― 不良資産への対応や政治的介入の阻止など金融セクターの強化

◎以下の措置を講じる。

    ― 民営化や資産移管による独立基金で500億ユーロを設定。このうち3分の2は、銀行の資本増強や債務削減に充当。
    ― 行政コスト削減と政治的な影響力を抑制。7月20日までに最初の提案。
    ― 主要法案を議会などに提示する前に債権団の承認を得る

これらの措置へのコミットメントは、協議開始への最低条件であるとしている。

◎必要資金は820億―860億ユーロ。
      7月20日までに70億ユーロ、
      8月半ばまでにさらに50億ユーロが必要で、早急な決定が必要。

◎欧州安定メカニズム(ESM)の新プログラムには100億―250億ユーロの銀行対策を含む。

◎債務の再構築(reprofiling)は可能だが元本は削減せず。

ーーー

会見したドイツのメルケル首相は、今後3年間の金融支援の規模が約820億ユーロから860億ユーロになると説明。資本規制の導入などで経営が悪化しているギリシャ銀行への資本注入も進める。空港など約500億ユーロ相当の国有資産を外部ファンドを通じて売却・民営化し、債務返済に充てる。ファンドはギリシャに拠点を置く。

メルケル首相は「ギリシャは信頼を回復しなければならない」と発言。ギリシャ議会が年金や増税などの一連の財政改革を15日までに法制化できるかを見極めて、支援再開する姿勢を強調した。

ドイツは、ドイツ案が途上国の債務再編を行うパリクラブ(主要債権国会議)とギリシャの交渉が巨額債務を再編する「唯一の道」と強調、ギリシャを途上国扱いした。

ドイツの厳しい要求がツイッター上で話題となり、ドイツを非難する投稿が相次いでいる。

7月12日夜に、バルセロナの物理学教師を名乗るSandro Maccarrone という男性がツイッターで
「ユーログループの提案はギリシャ国民に対する隠れたクーデターだ。#ThisIsACoup」
とつぶやいたのが始まりで、それから数時間で、#ThisIsACoupのハッシュタグが付いた投稿は約20万回にのぼった。

特に非難の対象となったのが、500億ユーロの国の資産をギリシャの政治家の手の及ばない独立した信託会社に移し、その売却資金を直接、借入金返済に充てるという条件 である。

ドイツは1990年の東西統一後にこの手法を使い、旧東独の国営企業資産を売却した。

ノーベル経済学賞受賞者のPual KrugmanもNew York Timesのブログで、 次の通り述べた。

ユーログループの要求は気違いじみている。話題のツイッター #ThisIsACoup は全く正しい。厳しいを通り越し、執念深く、国の主権を完全に破壊するもので、救いがない。ギリシャが受け入れられないもので、欧州がよって立つ全てをグロテスクに裏切るものだ。

イタリアやフランスがなんとかしようとしているが、既にダメージが出ている。今後、誰がドイツの善意を信用するだろうか?

この数週間で分かったことは、ユーロ圏のメンバーであることは、一歩踏み外せば債権者が国の経済を破壊するということだ。

私が賞賛し支持してきた欧州のプロジェクトは、恐ろしく、多分 致命的な打撃を受けた。ギリシャについてどう考えているかに係わらず、やったのはギリシャではない。

Thomas Piketty や Jeffrey SachsなどギリシャへのEUの財政緊縮政策に批判的な経済学者ら5人も、メルケル首相にギリシャの債務減免を求める公開書簡を出している。

2015/7/9   メルケル首相への公開書簡


イタリアのレンツィ首相は、ギリシャ金融支援協議で強硬姿勢を崩さないドイツに関し「イタリアはギリシャのユーロ圏離脱を望まない。ドイツにはこう言いたい。もうたくさんだ」と述べたと報じられている。


フランス人 Emmanuel Toddのインタビュー集「ドイツ帝国が世界を破滅させる」がベストセラーとなっている。(右枠上)

冷戦終結と欧州統合が生み出した「ドイツ帝国」。EUとユーロは欧州諸国民を閉じ込め、ドイツが一人勝ちするシステムと化している。ウクライナ問題で緊張を高めているのもロシアではなくドイツだ。かつての悪夢が再び甦るのか?

共通通貨ユーロの導入で実質的に通貨安の恩恵を受けて輸出増で一人勝ちし、低コストの東欧を下請けにすることで支配した。逆にユーロ導入で通貨の切り下げが出来ず、経済が立ち行かなくなったギリシャや南欧諸国(ユーロの制度の欠陥の犠牲者である)を政治的に支配しようとしている。「ドイツ帝国」の復活である。

安井至先生の「市民のための環境学ガイド」 (2015/7/15) も「ギリシャの今後を考えるために」として、この本を取り上げ、「ドイツ帝国」は力で支配する権威主義的な文化を強めるだろうと思うね、としている。

http://www.yasuienv.net/GreeceEU.htm

 

付記

ギリシャの円建て国債「サムライ債」のうち7月14日に償還期限が来た約117億円は全額返済された。

しかし、7月13日が期限のIMFからの借入金 4.5億ユーロは返済されなかった。

 




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