ソフトバンクとドイツテレコム、子会社 Sprint とT-Mobile USの統合で合意 

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ソフトバンクグループ傘下で米携帯4位のSprintと同3位のT-Mobile US, Inc. は4月29日、経営統合することで合意したと発表した。

ソフトバンクとT-Mobileの親会社ドイツテレコムが互いに主導権を主張し交渉は難航したが 、統合会社をドイツテレコムの連結対象にすることで決着した。

統合は株式交換によって行い、Sprint 1株に対して、T-Mobile US株 0.10256株を割り当てる。
統合会社の社名は「T-Mobile」とし、T-MobileのCEO が統合会社のCEOとなる。

統合会社の持株比率はドイツテレコムが41.7%、ソフトバンクが27.4%となる。

取締役は14人で、ドイツテレコムが9人、ソフトバンクグループが4人を指名する(残り1名は中立系)。ソフトバンクグループの孫正義社長とSprintのCEOも取締役に加わる。

2019年半ばまでの取引完了を目指す。



SprintとT-Mobile USの契約者数は合わせて1億2600万人となり、1億5千万人のVerizon Communications、1億4千万人のAT&Tに迫る。

通信速度が現行の100倍の次世代通信規格「5G」の商用化は目前に迫っている。

ソフトバンクは5Gの競争を勝ち抜くためには規模の拡大が欠かせないと判断し、経営の主導権を譲って統合を優先したとみられる。両社は統合により顧客基盤を固め、3年で400億ドルを5Gなどに投資する計画という。 合併により年間60億ドルのコスト削減を見込む。

今後の焦点は米連邦通信委員会(FCC)や米司法省反トラスト局などが承認するかどうかに移る。

ソフトバンクは2013年にSprintを買収したが、米携帯電話市場は1位のVerizon Communications、2位のAT&Tの上位2社と、3位のT-Mobile US、4位の Sprintの下位2社との差が大きく、孫社長は下位2社の合併による「第3極」の必要性を訴えてきた。

ソフトバンクは2014年にT-Mobile US 買収でドイツテレコムと合意したが、 携帯会社が3社になることを懸念する米規制当局の承認を得ることが難しいことから断念した経緯がある。

今回は、 状況が変わっている。SprintのCEOは、「5Gの競争はもはや携帯大手4社によるものではない。ケーブルテレビ大手など7~8社がライバルになる」と述べた。T-MobileのCEOも、「地方などで何千人もの雇用を生み出すことができる。消費者や米国にとって良いことだ」と強調した。

また、米政権が規制緩和を主張するトランプ政権に代わった。ソフトバンクの孫社長はトランプ大統領と親しい関係にあることもあり、当局の方針が変わる可能性はある。

孫正義社長は2017年12月6日、Trump 次期米大統領とニューヨークの Trump Tower で45分間会談、孫社長は、米国のスタートアップ企業などに500億ドルを投資し、5万人の雇用を生みだすと約束した。Trump 氏は会談後、孫社長とともにTrump Tower のロビーに現れ、孫氏を「業界で最もすばらしい男の1人」とたたえた。

2016/12/7  ソフトバンク孫社長、米に500億ドル投資 

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ソフトバンクは2013年に総額約2兆円を投じ Sprint を買収した。

直後からソフトバンクはT-Mobile USの買収を目指して動き出した。

当時、ドイツテレコムは増え続ける投資負担から米国市場からの撤退を模索していた。
2011年3月には、T-Mobile US をAT&Tに390億ドルで売却することで合意した。しかし、AT&Tは競合や規制当局から独禁法違反で提訴され、2011年12月に断念した。

2014年6月、ソフトバンクとドイツテレコムがSprintとT-Mobile US の合併で合意したと報じられた。SprintがT-Mobile USの株を総額320億ドルで買収するということであった。

しかし、同年8月にSprint はT-Mobile USの買収交渉を中断した。米連邦通信委員会(FCC)や米司法省反トラスト局は大手携帯電話会社が4社から3社に減ることは競争上問題だとして難色を示していた。
日本の当局にも承認は難しいとのメッセージを送ってきていたという。

ソフトバンクは買収に向けてロビー活動を続けてきたが、当局の考えを変えることはできなかった。

その後、状況が一変した。

2014年ころまでは、T-Mobile US は親会社のドイツテレコムのお荷物だった。 その後、T-Mobile US は急成長し、稼ぎ頭になった。
ドイツテレコムは、T-Mobile US を成長産業と見るようになり、経営権を引き続き握ることと決めた。

2017年5月にソフトバンクとドイツテレコムは協議を再開した。
(米政府による周波数帯の入札に関連して、携帯通信業界の合併交渉は4月27日まで約1年間禁止されていた。)

ソフトバンクが統合会社において経営権を保有することを希望したが、 ドイツテレコムも統合会社の経営権を要求した。

ソフトバンクは統合に向け、様々なケースを模索した。ドイツテレコムに新会社の筆頭株主の座を譲っても、孫氏が会長につくなどして経営に影響を与え続ける、一度経営権を手放しても数年後に買い戻す――など。ギリギリの駆け引きの結果、2017年10月にはドイツテレコムと統合に向けて大筋合意した。

しかし、ファーストリテイリング の柳井正会長兼社長を含むソフトバンクの取締役会がこれに反対したとされる。Sprintの時価総額はT-Mobile USの時価総額の2/3程度のため、合併では新会社の持株比率はソフトバンクがドイツバンクの下になるため、「会社の規模を拡大しても米携帯市場への影響力が下がってしまえば元も子もない」と結論した。

2017年10月27日の取締役会で、Sprintについて「グループの戦略的に重要な拠点・会社であるか、それとも単なるアセットなのか」という議論を社外取締役を交えて行った結果、5年後から10年後を見据えた共通意見として、経営統合交渉の中止を決めた。世界最大の米国の携帯電話市場を「手放す訳にはいかない」とため、経営権にこだわった。

この時点で孫社長は次のように述べていた。

人間と人間をつなぐ通信ではVerizonやAT&Tが先を行っていて、これらを抜くのは難しい。しかし、IoTを考えるとグループにARM Holdingsを抱える我々はがぜん有利な立場にある。

インターネットはモバイルだけではない。

(ソフトバンクは2016年9月に、英半導体開発大手の ARM Holdings plc を、日本企業の海外買収案件としては過去最大の240億英ポンド(約3兆3千億円)で子会社化した。孫正義社長は、「今後10年でテクノロジー分野において最大級のプレーヤーになる。出資先のテクノロジー企業の発展に寄与することで、情報革命をさらに加速させていく」と述べた。)

現在では、孫社長の関心は、AIとIoTとスマートロボットの3つで、通信インフラより、それを活用するサービス分野に重点が移っている。IoTの通信基盤となる5Gの競争を勝ち抜くためには規模の拡大が欠かせないと判断し、経営権をドイツテレコムに譲っても合併を優先したとみられる。

また、統合により、連結決算対象であるSprintは対象から外れる。Sprintの有利子負債は4兆1千億円で、ソフトバンク連結全体の3割近くとなっており、支払金利は年2700億円に上る。
連結から外れることで、有利子負債が一気に減り、格下げ圧力も和らぐ。

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