公取委、合併審査見直し

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公正取引委員会が企業合併の審査基準を見直す方針を決めた。

しかし、企業側がシェア基準の引き上げを希望しているのに対して、公取委の上杉秋則事務総長は会見で、シェア基準という着目点については明らかに世界の流れと違うとして単純なシェア上限の引き上げを否定、また、国際的に競争が行われていれば、それは考慮される仕組みになってると主張した。(文末に会見議事録)

6/16の日本経済新聞に竹島一彦委員長のインタビューがある。
 「単純に上限を引き上げるというのは世界的な競争政策との整合性がとれない。現在のガイドラインの基準は欧米と比べて厳しいわけではない」
 「シェアが50%を超えても認めているケースはある。」
 「市場寡占度をみる『HHI』という基準のほうが合理的だ」
 「大型合併で効率化が進みユーザーにもプラスになるというのであれば、個別審査して認めていけばいい」
 「素材のように品質がほとんど変わらず世界的に調達できるようなものは輸入圧力も判断材料になる。こうした判断基準がわかりにくいのであれば、ガイドラインに明記する方向で検討する」。
 「製薬のように世界市場で競争しているケースは国内シェアだけで統合の可否を判断するわけではなく、海外企業との競争圧力も判断材料にする」

米国では水平的合併の審査基準に"HHI"Herfindahl-Hirschman Index)を使用する。
同じ市場で競争する事業者のそれぞれのシェアを二乗し、それを合計する。
例えば、企業10社が各10%のシェアで競う市場ではHHIは 1000となるが、首位企業のシェアが40%、2位が30%、3位が20%、4位が10%の場合は 3000となり、市場の寡占度は高いとみなされる。

1992年4月発表のHorizontal Merger Guidelinesでは以下の通り規定している。
 
http://www.usdoj.gov/atr/public/guidelines/horiz_book/toc.html

統合後の
HHI
市場認識 HHIの増加 結論
1000未満 unconcentrated   問題なし、検討不要
1000-1800 moderately concentrated 100未満 問題なし、検討不要
100以上 競争上の懸念、検討要
1800以上 highly concentrated  50未満 問題なし、検討不要
 50以上 競争上の懸念、検討要
100以上 市場支配力の行使が容易と推定

公取委は既にこの概念を使用している。

2005/4/1の PSジャパン及び大日本インキ化学工業のポリスチレン事業の統合(承認せず)では
「当事会社のPSの合算販売数量シェアは,約50%・第1位となる(統合後のHHI約 3,600・HHI 増加分約900)」とし、
注として「HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)は,当該一定の取引分野における各事業者の市場シェアの2乗の総和によって算出され,
1,800以上であれば,高度に寡占的であるとされている」としている。

2005/1/24の東海カーボンと三菱化学のカーボンブラック事業の統合(承認せず)では、
タイヤ用CBでは「合算販売数量シェアは,約45%・第1位となる(統合後のHHI約 3100・HHI増加分約900)」
一般工業用CBでは「合算販売数量シェアは,約40%・第1位となる(統合後のHHI約 2600・HHI増加分約850)」としている。

2004/12/7の三井化学及び出光興産のポリオレフィン事業の統合(承認)では
HDPEでは「統合会社の市場シェアは,約25%・第2位(統合後のHHI約 2400・HHI増加分約300)となる」と1800以上だが問題なしとした。(シェア25%)
PPでは「市場シェアは約40%・第1位(HHI 約2900・増加分約700)となる」として問題ありとし、会社側の対策案を受け入れ承認した。

このほか、2002/7/21の大日本インキ化学工業と旭化成ライフ&リビングによる二軸延伸ポリスチレンシート事業の統合(承認)や2004年度の 山之内製薬と藤沢薬品工業の合併(承認)でもシェアに加え、HHI分析を行っている。

それ以前の日本ポリケム及び日本ポリオレフィンのポリエチレン事業の統合(承認)等ではシェア分析だけで、HHIには触れていない。

竹島委員長は「市場寡占度が低ければ現行基準より緩和することになるが、寡占度が高ければ現行よりも厳しくなる」としているが、石油化学の場合はほとんどが今より厳しくなる。アジア市場のなかでの競争をどう考えるかであろう。

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2006/6/7 公取委 事務総長会見記録

(問)企業結合審査に関して,また改めて昨日,自民党の部会とか,自民党の方で,方向性みたいな決議案を採択されたということなんですが,改めて公取としての対処というか,お考えは。

(事務総長)何度も同じことを言うしかありませんね。我々としては,国際的な流れに沿ったことであれば対応してきましたし,これからも対応していくつもりです。けれども,日本だけ異なるというようなものはできないし,どこも悪くないとまでは思っていませんが,ただ,
シェア基準という着目点については,明らかに世界の流れと違うという認識なので,もっと有意な方向での議論を期待したいと思います。

(問)それは単純に引上げるというのは世界の流れと違っているということか。

(事務総長)要するに,あの議論,つまり,35%まではいいとか,35%から50%までもいいとかいうのは,それは,要するに,需要の価格に対する弾力性とか,取引の形態で相当違い,それは何でもそうだなんてものじゃないわけですから,それは,そうでないものをそうだと言っちゃったら,それは今度は企業を惑わすことになります。
我々は,白のものは白だし,黒のものは黒と言っているわけで,それは,かなり財の特質に依存するものですが,企業の方は,とにかくどんな財でもというものを期待されますが,それは無理です。それは世界のガイドラインというか,世界の競争当局に聞いてもらえば,公取が信用できないならちゃんと聞いてもらえば,いくらでも答えが出てきます。要するに,50%ならいいとか,50%ならだめだとか言っている先進国の当局はありません。

(問)ガイドラインの見直しといいますのは,世界市場も踏まえた上でのガイドラインの見直しというよりは審査基準があいまいだという批判もあるが。

(事務総長)そこはですね,
国際的に競争が行われていれば,それは考慮される仕組になっていまして,日本市場を中心に,日本との輸出入,それから,外での競争状況等も見ますので,実際に世界と異なることをやっているとはちょっと思いません。世界市場というのがないのかというと,それはあり得るし,我々は,特に物ではなく技術の取引というのは,世界市場で行われているだろうというふうに思います。
あと,世界的調達をやっているものですね。どこで使うかを問わず,地域を問わず調達しているような特殊なものというのがありまして,それはそれで判断しています。マーケットがどこであるかというのも,まさに当該財の特質が大きく左右するわけです。企業からすると,世界で厳しく競争しているのだから,日本でシェアが高くなったりしてもいいのではないかということだと思うのですが,そうであるならば,
ちゃんと競争しているデータを示せればそこは判断できます。

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6月17日までのバックナンバーを見易く整理しました。下記をご覧ください。
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm

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