大阪大学大学院の髙島義徳教授、宇山浩教授らの研究グループは、生分解性ポリマーに特異な分子設計・材料設計を施し、従来の8倍もの材料の強靭性(安定性と長寿命化)を実現した。
また、得られた生分解性ポリマーにおいては、生体触媒であるリパーゼを用いた酵素触媒分解、20倍の分解速度向上、ポリマー材料の再構築を実現し、当材料を循環させることに成功した。
分解後の低分子量体が互いに結合していく再重合によるリサイクルが可能なだけでなく、別種のポリエステルや無機ポリマーを分子レベルで組み込む共重合によるアップサイクルを実現した。
生体触媒であるリパーゼを用いて分解できる生分解性ポリマー材料には ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)などがある。 この材料は固定された分子の結合によってポリマー鎖同士が結ばれている。
これまでにリパーゼを用いたポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)の酵素触媒分解および再重合は宇山教授より報告されていた。この生体触媒技術を活用しつつ、かつ社会実装に適した分子量の高いPCLにて、分解性と強靭性、さらにはリサイクルを両立するためには、PCL自身の分子設計・材料設計を改良する必要があった。
研究グループは、「紐が輪を貫通した構造」を有する可動性架橋を生分解性ポリマーのポリ(ε-カプロラクトン)-ポリ(ウレタン)(PCL-PU)へ導入し、有機溶媒中でノボザイム435を酵素として用いた。
この可動性架橋のポリマー材料(PCL-PU)への導入により強靭化を実現し、生体触媒リパーゼを用いた分解性と再重合により資源循環を実現した。
可動性架橋の分解性ポリマー(PCL-PU)への導入により、通常の PCL-PU よりも分解が 20 倍加速した。この分解の加速は、リング状分子であるシクロデキストリン(CD)の嵩(かさ)高さにより高分子鎖間の相互作用を弱めた結果、リパーゼが反応しやすくなったと考えられる。
可動性架橋の応力分散性により、通常の PCL-PU 材料よりも靭性が 8 倍以上に向上した。反応条件の最適化により、分解とは逆の分子量増加による更なる強靭化を達成した。スーパーの袋などに用いられるポリエチレン(HDPE)と比較すると 1.2 倍の強度と 2.8 倍の靭性を有している。
分解後の低分子量体は再重合によりリサイクルできた。別種のポリエステルとの共重合では、材料のヤング率(変形しにくさ)が元の可動性架橋 PCL-PU と比較して 40%向上するアップサイクルを実現した。さらに無機ポリマーとの共重合では、材料の安定性の向上により分解性を抑制した。
これにより、使用後のポリマー材料が、廃棄物でなく、再利用・更なる価値の付与が可能な資源として再定義されることで、資源循環における新たな視点・価値を提供するゲームチェンジャーとなることが期待される。
可動性架橋を導入する材料設計法は他の様々なポリマー材料への応用が可能で、原料となるリング状分子のシクロデキストリン(CD)誘導体・CD 修飾ポリマーは、現在、化学会社から購入することができる。
混合する先のマトリックスポリマー材料に応じて、CD 誘導体・CD 修飾ポリマーを最適化することも可能であり、ポリマー材料メーカー・接着剤メーカー・塗料メーカーなどと協力して、この研究成果の社会実装を目指す。
研究グループでは、廃棄した服の繊維素材に組み込んで再生するなどの用途を想定しており、5年以内の実用化をめざす。
上記をまとめると下図のとおりとなる。
【髙島教授のコメント】
生分解性ポリマーの強靭化と分解性の両立は容易ではなく、さらに靭性の向上は分解性や再利用性の低下を招く可能性が高く、"3R"を実現することは難しいと予想していました。今回、新たな分子設計・材料設計により、強靭性、分解性、再利用性、さらにはアップサイクルまで両立することができました。
今回のポリマー材料の循環システムでは、分解物を有益な資源として視る価値観を提示しています。社会で利用されている衣類のポリエステルや回収されたポリエステルに対して、基幹分子・基幹ポリマーを添加剤として混合することにより、強靭化に加えて、分解や再利用が生体触媒で実現されれば、環境負荷の軽減かつ循環型社会の実現に少しは貢献できると考えております。
大阪大学発表
2024/11/24 https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/wp-content/uploads/2024/10/PR_Takashima.pdf
この成果は米化学誌 Chem(電子版)に掲載された。
2024/10/29
Exploring enzymatic degradation, reinforcement, recycling, and upcycling of poly(ester)s-poly(urethane) with movable crosslinks
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