2024年4月アーカイブ

米国の天然ガス価格が暴落している。

米国の天然ガス価格の相場であるHenry Hub spot price の推移は下図のとおりだが、Shale革命で価格が下がり、長期間、高くて6ドル、2~4ドルの間で推移していた。(単位は100万BTU当たりドル)

BTUはBritish thermal unitの略語で、日本では英熱量ともいう。 1常用ポンドの水の温度を1°Fだけ上げるのに要する熱量である。

Henry Hub は米国南部ルイジアナ州にある天然ガスの集積地名で、ここで売買される天然ガスの価格がNew York Mercantile Exchangeの先物価格の指標値(基準値)となっている。

2021/2月 Henry Hub 大寒波で急騰、3月に元に戻るが、その後、 エネルギー価格高騰で上昇が続いた。

2022年4月以降、ウクライナ問題で急騰し、8月には8.81ドルに達した。(8月23日には一時10ドルを超えた。)

その後の動きは下図の通り。

ウクライナ危機を契機とした原油価格、天然ガス価格の上昇により、米国のシェール・オイル、シェール・ガスの生産量は増加を始め、2023年12月の米国の原油生産量は日量1,331万バレルと米国の歴史上最高に達している。

リグ(新規油田開発のための掘削装置)の稼働数は、2010年代と比較して増加していないものの、掘削技術の向上、AI(人工知能)の活用、坑井仕上げの改善等により、1井戸当たりの生産性が向上し、投資額を抑制しつつ、シェール・オイルとシェール・ガスの生産量を増加させている。

さらに、ウクライナ危機によるガソリン価格の高騰を受けて、バイデン政権もシェール・オイル、シェール・ガスの開発規制を緩和し、石油企業も風力発電をはじめとした再生可能エネルギーよりも、石油・天然ガス事業のほうが利益率も高く、株式市場における評価も好ましいことから、再びシェール・オイル、シェール・ガスの開発に力を入れ、シェール・オイル、シェール・ガスの権益に係わるM&A(合併・買収)が活況を呈している。

米金融大手ゴールドマン・サックスは2023年1月末の調査リポートで、気温上昇や輸出能力の停滞を背景に、米天然ガス相場は2023年から2024年にかけて弱気サイクルに入るとの見方を明らかにした。

米国では暖冬で暖房需要が伸び悩み、ガスの需給が緩んだ。

これらの結果、Henry Hub価格は、2023年の月平均は2.54ドルにとどまり、2024年1月が3.18ドルであったのに対し、2月は1.72ドル、3月は1.49ドルと急落した。上の月別グラフでは3月の1.49ドルは過去最低である。

ExxonMobilが4月26日に発表した2024/1-3月の純利益は前年同期比28%減となった。天然ガス価格の下落が響いた。

米最高裁は4月25日、米国で3年前に起きた議会乱入事件を巡り、起訴されたトランプ前大統領が「在任中の大統領としての行動は刑事責任を問われない」と訴えていることについて弁論を開いた。

米連邦議会は2021年1月6日、上下両院合同会議を開いた。大統領選の結果を最終確定し、バイデン次期大統領を正式に選出することになっていた。

この議場にトランプ支持者が乱入し、大混乱となった。(この時点ではトランプはまだ大統領である。)

2021/1/7 米議会にトランプ支持者が乱入、大統領選確定の上下両院合同会議が中断

トランプ大統領は2021年1月20日、次期大統領の就任式には出席せず、任期を終える正午を前にホワイトハウスを出発してワシントン郊外の軍のAndrews 基地に向かい離任の式典に臨んだ。

3年前に起きた連邦議会への乱入事件を巡り、トランプ前大統領はその前の年に行われた大統領選挙の結果を覆そうとしたなどとして起訴されているが、トランプ氏は在任中の大統領としての行動には免責特権が適用され、刑事責任を問われないと主張している。

これについて、連邦最高裁判所で4月25日に弁論が開かれた。

トランプ氏本人は不倫の口止め料を巡り、業務記録を改ざんした罪に問われているニューヨーク州での裁判に出廷しているため(裁判長から、裁判の全日程に出席するよう命令を受けている)、連邦最高裁の弁論には出廷しなかった。

弁論には、最高裁判事全員が出席した。

性別 born 人種背景

指名した大統領

就任日 判断傾向
Clarence Thomas 男性 1948/6 アフリカ系 George H. W. Bush 1991年10月23日 保守
John Roberts  (Chief) 男性 1955/1 白人系 George W. Bush 2005年9月29日 保守
Samuel Alito 男性 1950/4 イタリア系 2006年1月31日 保守
Sonia Sotomayor 女性 1954/6 ラテン系 Barack Obama 2009年8月8日 リベラル
Elena Kagan 女性 1960/4 ユダヤ系 2010年8月7日 リベラル
Neil Gorsuch 男性 1967/8 白人系 Donald Trump 2017年4月10日 保守
Brett Kavanaugh 男性 1965/2 白人系 2018年10月6日 保守
Amy Coney Barrett 女性 1972/1 白人系 2020年10月26日 保守
Ketanji Brown Jackson 女性 1970/9 アフリカ系 Joe Biden 2022年6月30日 リベラル

このほか、次の2名が質問に答えている。

トランプ氏の弁護士 Dean John Sauer
米国政府を代表して Michael Dreeben 元司法長官代理で米国刑法の権威

US Special Counsel Jack Smith は、トランプが2020年選挙の結果を転覆しようとしたとして刑事告発を行った。この審理は、最高裁が6月に予想される決定を下すまで保留され ている。

それに対しトランプは、大統領在任中に犯した行為に対する刑事告発から絶対的な免責を受ける権利があるとするが、判事からは、すべての罪について免責特権を認めることには懐疑的な意見が示された。

一方、最高裁のロバーツ長官が、連邦高等裁判所が免責特権を認めなかったことについて、この意見に部分的に同意しかねると発言。「どの行動、もしくはどの文書を議論しているのか、高等裁判所は焦点を絞った審理に入らなかった」と述べた。

審理を差し戻すべきだとの意見が複数出された。
その場合、スミス特別検察官にとって、11月5日の大統領選挙前にワシントンの陪審員らがトランプ氏の容疑を評議できるように事を運ぶのは時間的に厳しい。
この裁判を担当する判事の場合、3ヶ月の準備期間と、2-3ヶ月の裁判期間が必要と見られており、大統領選までに裁判が終了しない。仮に結審までにトランプが大統領選挙で勝ってしまうと、また厄介なことになる。

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弁論は3時間にわたって行われ、最高裁判所は元大統領が起訴の対象から免除されるかどうか、およびそうである場合の具体的な意味が何であるかを検討した。

Justice Neil Gorsuch は、どのような決定であっても、各判事はそれが今後数年間のアメリカの民主主義を形作ることになると述べた。「私たちは歴史に残る規則を作成しています」。

トランプ氏の弁護士であるDean John Sauerの主張は、大統領在任中に犯した行為に対する刑事告発から絶対的な免責を受ける権利があるというものだが、

保守派判事は、すべての元米国大統領がある程度の免責を持つべきだという考えには開かれているようだが、絶対的免責には疑問符 をつけた。

判事たちのDean John Sauer への質問やコメント:

「絶対的な免責」で、将来の大統領が米軍を使って自らのライバルを殺すことができるようになるのか?

免責がなければ、退任した大統領が個々の検察官の気まぐれにさらされ、政治的な私怨の一環として投獄される可能性があるのか?

ウォーターゲート事件のカバーアップに対するリチャード・ニクソン元大統領の恩赦は?(「有罪」で、恩赦された。)

1960年代に当時のジョン・F・ケネディ大統領が中央情報局にフィデル・カストロに対する秘密作戦を実行させた Operation Mongooseは? (Kennedyは起訴されなかった。=免責を擁護)

「もし大統領が軍を使ってクーデターを起こすよう命じたらどうなるでしょうか?」 Justice Elena Kagan,が尋ねた。ソーヤー氏は答えるのをためらった後、「状況による」と述べると、
 判事は信じられないというような口調で
"That sounds pretty bad, doesn't it?" と返答した。

リベラル派の判事であるJustice Ketanji Brown Jacksonも、「私はオーバルオフィスを犯罪の座にする際の抑止力が何かを理解しようとしています」と述べた。

保守派の判事たちも、「公式行為」= 大統領職務の一環として行われる行為 と私的行為の区別について質問した。最高裁で最も保守的な判事の一人であるSamuel Alito 判事が「私の質問は、あなたが提唱している非常に強固な免責の形式が必要かどうかです」と尋ねた。

政府代表のMichael Dreeben は、大統領を刑事的責任から保護しないことの結果を通過させる際に、同じような厳しい尋問に直面した。

Clarence Thomas 判事が、「もし大統領が外国の土地で暴力的な攻撃を指示したら、その大統領は後で訴追される可能性があるでしょうか」と尋ねた。ドリーベン氏は、大統領が職務を遂行するために行動を起こした場合を含め、既に大統領を刑事責任から保護するための「層」が存在していると述べた。

特にSamuel Alito 判事は、もう1つの可能な結果について懸念を示した。大統領は、後任者によって、退任後に党派的攻撃の対象となる可能性がある。「これは私たちが知っている大統領職を破壊する可能性がある」

しかし、保守派の判事たちは結束しているわけではなかった。トランプ氏によって指名されたAmy Coney Barrett判事は、大統領が包括的な免責を受けるべきだという考えに疑問を抱いている。ドリーベン氏が「完璧なシステムはない」と述べ、現行システムがトランプ氏の「過激な提案」によって改善されるわけではないとしたとき、バレット判事は「同意します」と返答した。

トランプ氏の弁護士または特別検察官のどちらにも完全に同意しない分裂した判決は、代わりにその質問の一部を下級裁判所に送るかもしれない。これは間違いなくさらなる遅延を引き起こし、控訴の対象となる。つまり、この法廷闘争は今後数か月間、もしくは数年間続くことになる。

Washington Postは次のようにまとめている。

1.判事たちはトランプが完全な免責(blanket immunity)を持たないということで一般的に意見が一致

2. John Roberts 長官は本件での連邦高等裁判所の意見に不満

3. 保守派の判事はトランプの将来よりも将来の大統領に焦点

4. リベラル派の判事はトランプの免責は無法の王様を生むと主張

    Justice Elena Kagan:憲法起草者は、やろうと思えばできたが、憲法に免責条項を折り込まなかった。それよりも、法の上にあると主張する独裁者をつくらないように動いた。

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大統領が完全な免責を持たないことでは最高裁の意見はほぼ一致していると思われる。

ただし、どこまでの罪が免責されるかについては意見は一致していない。

Roberts長官は連邦高裁がどの行為が免責されないのかを定めていないことに不満を表している。これを明らかにするよう差し戻し、そのうえで最高裁の意見を決める可能性はある。

大統領選が迫っているため、6月末にも最高裁が意見を出す可能性はあるが、どこまでが免責され、どこからが免責されないか、私的行為も免責されるのか、等々 決めるのは簡単ではない。

Justice Neil Gorsuch が述べた通り、「私たちは歴史に残る規則を作成しています」 からである。

日本銀行は4月26日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、全員一致で、前月通りとすることを決定した。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。

なお、長期国債およびCP等・社債等の買入れについては、2024 年3月の金融政策決定会合において決定された方針に沿って実施する。

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日本銀行は3月18日~19日の金融政策決定会合で、従来の「マイナス金利政策」政策を 解除し、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促すことをきめた。この方針を実現するため、日本銀行当座預金(所要準備額相当部分を除く)に0.1%の付利金利を適用する。

日銀による利上げは2007年2月以来およそ17年ぶり。

2016年9月に導入し、短期金利に加えて長期金利を低く抑え込んできた長短金利操作=イールドカーブ・コントロールと呼ばれる金融政策の枠組みを終了する。

2024/3/20 日銀、マイナス金利政策を解除

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経済・物価情勢の展望(2024 年4月) 

実質GDP Core CPI 日銀 CoreCoreCPI
2023年度 +1.3% +2.8% +3.9%
2024年度 +0.8% +2.8% +1.9%
2025年度 +1.0% +1.9% +1.9%
2026年度 +1.0% +1.9% +2.1%

Core CPI=除く生鮮食品  日銀CoreCore=除く生鮮食品・エネルギー

今回の予測どおりとなれば消費者物価指数の上昇率は2022年度から3年連続で日銀が目指す2%を超え、その後も2%程度で推移することになる。


日銀総裁会見

声明文からも日銀総裁会見からも円安に配慮した部分はまったくみられなかった。追加利上げはすぐではなさそうだとみて、総裁会見中から円安がさらに進んだ。


2%の物価目標を達成する確度が高まっているかどうか

「ここ1カ月強に入ってきたいろいろなデータ、情報などはかなりの程度、3月時点でこうなるだろうと予想していた姿に近いものだと判断している」

このところの原油価格や円安の動きについて

「やや、見通しから少し上方にずれた動きであって、基調的な物価上昇率への影響の度合いを今後、注意深く見ていく」

円安の経済への影響について

「もちろん総需要サイドにも為替レートの動きが影響するわけで、そこにはプラスのものもあると思う。それを含めて経済全体の動きにどういう影響があるかそして、さらに結果としてインフレ率、特に中長期的な第2の力への影響も決まってくる」

「基調的な物価上昇率に、円安が今のところ大きな影響を与えているということではない

「程度によってはこれまでもそうだったが、実質所得に対する下押し圧力を通じて消費に悪影響が及ぶ可能性もゼロではないと思う」

「全体のインフレ率は下がってきていて、実質賃金、実質所得が改善の方向にあるということで消費が少し強い動きを示していくことに期待感を持っている。ただ、今の円安の話も関係して本当に実現していくかどうかが政策運営上の1つの重要なチェックポイントだ」

外国為替市場で円安が進んでいることによる基調的な物価への影響は無視できる範囲

「はい」 

「基調的な物価上昇率へ大きな影響はないと皆さんが判断したということになるかと思う。ただ、今後発生するリスクはゼロではないので注意して見ていきたい」

今後の利上げのペースについて

「少しずつ金利が上がっていく際にそれに対して経済がどういう反応を示すかという情報が非常に重要だ。過去に30年間、持続的に金利が上がった経験が少なくとも名目金利ではない。不確実性があるからといってゆっくりやっているとどこかで急激に利上げを進めないといけなくてそれに伴うショックが発生するリスクもある。よりよいバランスの取り方ができるように努力したい」

「すでに物価見通しが期間の後半にかけても2%前後になっていて、この見通しどおりに沿って現実が動いていけばそれだけで金融緩和度合いの調整の理由になる。その判断がいつの時点でできるかというのは非常に難しいが、見通しからずれる大きな動きがないと利上げの判断をしないということではなく、見通しどおりに動くことが重なれば、それで政策金利の変更の理由になる。また、見通しからさらに上方にずれる可能性が無視できない確率で出てくるという場合にはもちろん、さらなる調整の理由になる」

旭化成がEV向け電池用セパレータの工場をカナダに新設する。投資額は概算1800億円で、カナダにEVの新工場を建設予定のホンダなどに供給する。

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リチウムイオン電池用セパレータ「ハイポア™」(湿式膜)は、民生用電子機器用途から車載用途に販売を拡大してきた。

セパレータは、リチウムイオン電池の正極・負極間に位置する多孔質膜で、正極・負極間でリチウムイオンを透過させる機能を有するとともに、正極と負極の接触を遮断し、ショートを防止する部材

米国インフレ抑制法(IRA)の施行などにより、各社が北米における電気自動車等の車載用途向けLIB(リチウムイオン電池)を拡大している。


湿式セパレータの急速な需要拡大 も見込まれている。
そのような流れを踏まえ、同社は北米・日本をターゲットとする事業戦略を定め、同地域での車載市場における成長を実現する施策として、2023年10月に米国、日本および韓国における「ハイポア™」の塗工製造能力増強を決定した。

(1)設備投資額:約400億円
(2)立地:米国ノースカロライナ州シャーロット、宮崎県日向市、韓国平澤(ピョンテク)市
(3)塗工能力:約7億m2/年
(4)稼働時期:2026年度上期より順次商業運転開始

今般、 旭化成は米国インフレ抑制法等による北米における電動車向けセパレータ需要の増加及びリチウムイオン電池サプライチェーンの現地化に対応すべく、カナダに「ハイポア™」の製膜工程、塗工工程を含む一貫生産拠点を設立することを決定した。

カナダ投資(工場建設)の概要:

 (1)立地:カナダ・オンタリオ州

 (2)設備概要:「ハイポア™」製膜・塗工一貫ライン

 (3)概算投資額:1,800億円

 (4)生産能力:約7億m2/年(塗工膜換算)

 (5)商業運転開始時期:2027年予定

稼働開始から5年目の2031年には、ハイポア事業で売上高1,600億円、営業利益率20%以上を見込む 。

北米の電動車(xEV)市場は、中長期的な成長を予想しており、第2期、第3期の投資まで見据える。自動車メーカーや電池メーカーからの極めて旺盛な引き合いを受領し、これらの需要に確実に応えていくことが同社の使命と考える。

第3期までの投資を通じ、北米での市場シェア30%以上の獲得を目指す。将来的には、セパレータ事業を中核とする「蓄エネルギー」事業において、これまで培ってきた電池関連技術を用いて、さまざまなソリューション事業を展開する。

当該工場に関しては、本田技研工業と基本合意書を締結し、出資に関する検討を進めている。

また今回のカナダ工場建設において、旭化成バッテリーセパレータは、日本政策投資銀行に対し優先株を発行し、資金提供 (280億円出資)を受けることに合意した。さらに、カナダ連邦政府、オンタリオ州政府から補助金・税恩典等を受ける予定。

https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/library/business/pdf/240425.pdf

米連邦議会上院は4月23日、ウクライナなどを支援する緊急予算案を賛成多数で可決した。

下院が4月19日に賛成多数で可決したウクライナ支援追加予算案等の4法案を一つにまとめた。

 1)ウクライナ支援(総額608.4億ドルで、うち融資が79.0億ドル)

 2)イスラエル支援(263.8億ドル )

 3)インド太平洋の安全保障を強化する法案(81.2億ドル )

 4) 21st Century Peace through Strength Act 

2024/4/21 米下院、ウクライナ支援等の4法案を可決、上院へ送付

バイデン米大統領が24日に署名し、成立する。

  共和党 民主党系 合計
民主党 民主系無所属 無所属
賛成 31 46 1 1 79
反対 15 2 1 18
棄権 3 3
合計 49 48 2 1 100

民主系無所属はSanders, King 両議員、無所属は元民主党のSinema議員

ロシアの侵略が続くウクライナの支援に608億ドルを充てる。米政府は法案成立後、すみやかに弾薬や防空兵器などの供与を始める。米国防総省の報道官は、成立した場合「一般論だが、数日以内に支援物資を届けることができる」と語った。

ウクライナ支援の一部を返済義務が生じる融資に切り替え、財政規律を重視し支援に慎重だった共和議員の理解を得た。ロシア制裁によって凍結されたロシアの資産をウクライナ支援に活用することを可能にする内容も加えた。

イスラエル関連には264億ドルを拠出する。ロケット弾を撃ち落とす対空防衛システム「アイアンドーム」などを補充する。パレスチナ自治区ガザ地区への人道支援にも90億ドル以上を使う。

台湾を中心にインド太平洋の同盟国・地域を支援する予算には81億ドルを盛り込んだ。威圧的な行為を強める中国へ抑止力を強化するため、資金・防衛装備の両面で台湾に協力する。

中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の利用禁止につながる規定も可決した。売却までの猶予期間は最大1年とした。

米国は4月18日、パレスチナの国連加盟を勧告する安全保障理事会の決議案採決で拒否権を発動した。イスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザを支配している状態では「時期尚早だ」と主張した 。

パレスチナは2011年に国連加盟を申請したが、米国が拒否権行使を明言したことなどから採決を棚上げし、翌2012年に「非加盟オブザーバー組織」から「非加盟オブザーバー国家」に格上げする決議案を賛成多数で採択した経緯がある。オブザーバーは会合に参加できるが、投票権はない。

国連加盟には、安保理で勧告の決議が採択されたうえで、総会で3分の2以上の賛成を得る必要がある。パレスチナは4月2日、「加盟申請の再検討を望む」と表明した。安保理は下部組織の審査委員会を開いて協議したが、全会一致を意思決定の条件とする同委での議論は決裂し、非常任理事国のアルジェリアがアラブ諸国を代表して安保理に直接、勧告決議案を提出した。

18日の決議案採決では、安保理15カ国中、日韓仏を含む12カ国は賛成、反対は米国のみで、英国とスイスが棄権した。

安保理 15カ国  常任理事国:米、英、仏中、露
           非常任理事国:(2024年まで) エクアドル日本マルタモザンビークスイス
                     (2025年まで) アルジェリアガイアナ韓国シエラレオネスロベニア

     青字はパレスチナを国家承認している国   赤字はパレスチナを国家承認していない国

米国は拒否権行使について、引き続き「2国家解決」(それぞれの国家が隣り合って共存する案)を強く支持しているが、国連におけるパレスチナ国家の地位変更は、イスラエルとの交渉による和解の一環としてのみ実現すべきだと、反対理由を説明した。

反対が米国のみという事態は、なるべく避けたかったもので、投票に先立ち、米国が他の理事国を味方につけようと、水面下で激しいロビー活動を展開してたとの報道もある。イスラエル擁護を続ける米国への批判が一層強まることは避けられない。

日本はパレスチナを国家承認していないが賛成票を投じた。上村・中東担当政府代表は「この重大な局面で、パレスチナ国家樹立を促進する観点も考慮した包括的な決定だ」と説明した。 12カ国が賛成したことは「(パレスチナ国家樹立を前提とした)2国家解決しか『もう道はない』との共通認識が強まったということだ」と分析した。

水俣病の被害を訴える新潟市などの男女が、国と原因企業の昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)に1人当たり880万円の損害賠償などを求めた新潟水俣病第5次訴訟の判決が4月18日 に新潟地裁であった。

新潟水俣病は、1965年5月に新潟県の阿賀野川流域で公式確認されたメチル水銀による中毒症 で、阿賀野川上流で操業していた旧昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)鹿瀬工場の排水にメチル水銀が含まれ、汚染された川魚を食べた人が発症した。 熊本県の水俣病公式確認から9年後、1965年に公式確認され、行政の認定や水俣病被害者救済特別措置法などで救済された患者は計3696人(2024年3月末時点)に上る。

新潟県 新潟水俣病のあらまし


「ノーモア・ミナマタ」第2次訴訟と呼ばれる同種の訴訟は、新潟と大阪、熊本、東京の4地裁で起こされ、判決は3件目。昨年9月の大阪判決は原告128人全員を水俣病と認定したうえで国などに賠償を命じ、今年3月の熊本判決は請求を棄却した。

2023/9/28 大阪地裁、水俣病救済巡る訴訟で国側に賠償命じる 及び付記(熊本判決)

今回の訴訟は新潟県の住民らが2013年に集団提訴し、その後も原告が追加されていた。


原告149人のうち先行して審理を終えた50〜90代の原告47人について判決があり、

うち26人を水俣病と認め、1人当たり400万円、総額1億400万円を支払うよう昭電側に命じた。
19人については罹患している「高度の蓋然性があるとは認められない」とし、請求を棄却した。
国の責任は認めなかった。

問題点は下記の通り。

① 原告を水俣病と認めるかどうか。

原告側は、原告がメチル水銀に汚染された阿賀野川の魚を食べるなどして手足の感覚障害などを発症しており、長年診療に当たってきた民間医師が策定した「共通診断書」の所見に基づいて水俣病だと主張した。

判決では、共通診断書のみで罹患を判断するのは困難であり、主に公的検診の結果に依拠すべきだと指摘した。

水銀暴露から長期間が過ぎた後に発症する遅発性水俣病についても暴露後 6、7年以内に発症することがあり得るとした。

その上で、メチル水銀への暴露状況や症状などを個別に判断した。
公害健康被害補償法(公健法)上の患者認定を既に受けている2人を除く45人のうち26人を水俣病と認め、19人については罹患している「高度の蓋然性があるとは認められない」とし、請求を棄却した。

② 除斥期間

被告側は、20年の除斥期間が過ぎたと主張。

判決は除斥期間を経過していても原告が罹患を認識していなかったり、差別や偏見を懸念して請求をためらったりするケースもあったとし、除斥期間の適用は「著しく正義・公平の理念に反する」と断じた。

2023/9 大阪地裁判決

慢性水俣病の場合、損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する。当該損害の全部または一部が発生した時が除斥期間の起算点となる。
医師らの検査で水俣病と確認できた時期が除斥期間のスタート地点。

2024年3月 熊本地裁判決

不法行為から20年で損害賠償請求権が失われる「除斥期間」を適用して退けた。

③ 国の責任

原告側は、熊本県で水俣病の発生源となったチッソ水俣工場と同様に水銀を使う全国6工場で国が実施した排水調査に着目。水銀が検出された1961年までに国は新潟水俣病の発生を予見でき、排水規制をしていれば発生や被害拡大を防げたと主張した。

国は「公式発見以前に発生を具体的に認識していなかった」と反論した。

判決は、被害発生・拡大を防げなかった国の責任があるとする原告側の主張は「具体的に認識・予見できたといえず、国家賠償法上の違法があるとはいえない」と退けた。

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新潟日報 [新潟水俣病・公害と裁判の歴史] 上

[新潟水俣病・公害と裁判の歴史] 下

経済産業省は4月19日、AIの開発に必要な計算資源の整備に向け、国内IT 5社に最大725億円を助成を行うと発表した。クラウド事業の基盤を持つさくらインターネット、GMOインターネットグループ、KDDIなどを支援する。

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社会のデジタル化の進展に伴い、クラウドサービスは、幅広い国民生活・産業活動の情報処理を担う機能として不可欠なものとなっている。

こうした中、基盤的なクラウドサービス(基盤クラウド)の国内市場においては、国内に事業基盤を有する事業者のシェアは約3割であり、海外から提供されるサービスへの依存が高まっている状況にある。

基盤クラウドは、情報処理の根幹を担うものであり、その開発体制を国内で確保できなければ、我が国が自律的に管理すべき重要情報を扱うシステムも含め、完全に他国に依存することになるおそれがある。

また、「クラウドプログラム」の中でも、生成AIは、従来のAIでは不可能だった、様々な創造的な作業を人間に代わって行える可能性があることから、産業活動・国民生活に大きなインパクトを与えると考えられており、そのサービス供給に制約が生じた場合には、我が国に甚大な影響が生じると考えられ、その計算資源を国内に確保することで、我が国における開発基盤の構築・サービス提供体制の強靱化を図ることが重要である。

こうした状況を踏まえ、経済安全保障推進法に基づき、「クラウドプログラム」を特定重要物資に指定し、その安定供給確保に向けて、特に生成AIについて幅広い開発者が利用できる計算資源の国内への整備に関する計画を認定し、国として支援することとした。

経済安全保障推進法(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)は2022年5月11日に成立した。

国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等に伴い、安全保障を確保するためには、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大していることに鑑み、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進するため、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本方針を策定するとともに、安全保障の確保に関する経済施策として、所要の制度を創設するもの。

具体的には、法制上の手当てが必要な喫緊の課題に対応するため、(1)重要物資の安定的な供給の確保、(2)基幹インフラ役務の安定的な提供の確保、(3)先端的な重要技術の開発支援、(4)特許出願の非公開に関する4つの制度を創設するもの。

2022年12月、特定重要物資として、抗菌性物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械・産業用ロボット、航空機の部品、半導体、蓄電池、クラウドプログラム、天然ガス、重要鉱物及び船舶の部品の11物資を政令で指定した。また、2024年2月に新たに特定重要物資として先端電子部品(コンデンサー及びろ波器)を政令で指定し、既に指定されている重要鉱物の鉱種にウランを追加した。


経済産業省は2023年4月以降、5件を支援しており、今回の分を合わせ、合計10件となる。 (うち、さくらインターネットは3件)

さくらインターネットは2023年以降、NVIDIAなどから2000個の画像処理半導体(GPU)の調達を進めているが、今回、8000個を追加、2027年末までに合計1万個を購入する。

また、KDDIがAIスパコン事業に進出する。

詳細は下記の通り。No.6以降が今回のもの。

No. 設定日 事業者

助成額

供給確保計画 詳細
2023/4/1 東京大学 42億円 量子コンピューターを活用したクラウドサービスの提供 2021年7月、川崎市の研究開発拠点に米IBMの量子コンピューターを導入した。今回83億円をかけて、処理能力が5倍高い最先端品を導入する。創薬や新素材開発などに利用できるクラウドサービスとして、トヨタ自動車や東芝などの企業や学生が共同で利用する。
2 2023/6/16 さくらインターネット 68億円 AIに関わる計算資源としてのGPUクラウドサービスの提供 GPUクラウドサービスの提供に向けて、3年間で130億円規模の投資をし、「NVIDIA H100 Tensor コア GPU」を搭載した、合計2EFLOPSの大規模クラウドインフラを整備
3 2023/7/7 ソフトバンク 53億円 NVIDIA DGX SuperPOD™などを活用して高いデータ処理能力を有する計算環境を構築し、自社で取り組む生成AIの開発およびその他のAI関連事業に活用する他、生成AIを中心とした社外からのさまざまな利用ニーズに応えるため、大学や研究機関、企業などへ幅広く提供していく。この計算環境の構築に関わる設備投資額は約200億円を見込んでおり、そのうち53億円の助成を受ける。
4 2023/11/2 ゼウレカ(三井物産) 11億円 (創薬・ヘルスケア業界で最先端AIサービスを提供)
5 2024/2/20 さくらインターネット 6億円 計算資源の自動拡張/縮小制御技術、ソフトウェアによる共通化・効率化技術等の技術開発 「基盤クラウドプログラムの技術開発支援」の取組種類として、国内で重要情報を扱う事業者等が海外サービスに依存せずクラウドを安定的に利用できる状況を確保。対象となるIaaS型クラウドサービス「さくらのクラウド」の技術開発計画に係る人件費などについて助成を受ける。
6 2024/4/15 GMOインターネットグループ 19.3億円 AIに関わる計算資源としてのGPUクラウドサービスの提供 NVIDIA との協業を加速させ 100 億円規模の GPU サーバーを取得
7 2024/4/15 さくらインターネット 501.0億円 生成AI向けクラウドサービス「高火力」に最新の「NVIDIA HGX B200 システム」をはじめとするGPUが約10,000基が搭載され、合計約18.9EFLOPSの計算能力が整備される。
8 2024/4/19 RUTILEA &
AI福島
25.6億円 第一弾としてNVIDIA H100 GPUを搭載した第4世代DGXシステムである「NVIDIA DGX H100」をInfinibandを用いて複数ノード(最大8ノード)接続した『RUTILEA DGXクラウド(仮称)』サービスの展開を予定
9 2024/4/19 KDDI 102.4億円 生成AI開発のための大規模計算基盤の整備を開始。今後4年間で1,000億円規模の投資を行い、2024年中に本計算基盤の先行稼働開始を目指す。国内最高性能の大規模言語モデル(LLM)や領域特化型LLMの開発を加速する。
2023年11月から開始した「MUGENLABO 生成AI活用支援プログラム」をはじめとするスタートアップ支援プログラムを通じて、世界最高レベルのLLM開発にチャレンジする研究機関やスタートアップなどに対しても本計算基盤を提供。
10 2024/4/19 ハイレゾ&
ハイレゾ香川
77.0億円 香川県綾川町と高松市にある既存施設を利活用したGPUデータセンターを整備し、GPUSOROBANのサービス提供を2024年秋から開始。
業界最安値級のNVIDIA H100の先行予約を受け付け開始。

米下院は4月19日、ウクライナ支援追加予算案等の4法案の審議を進めるための議案を、賛成多数で可決した。20日に採決を行う。

共和党 民主党 合計 欠員
賛成 151 165 316  
反対 55 39 94  
棄権 12 9 21  
合計 218 213 431 4



米下院は4月20日土曜日、4つの緊急予算案の採決を行い、すべて可決した。法案は上院へ送られ、近く採決する予定。

1)ウクライナ支援(総額608.4億ドルで、うち融資が79.0億ドル)

約7割は米国国防総省に割り当てられ、232億ドルが米国の武器、在庫、施設の補充のため。

・ウクライナに提供された防衛装備品・防衛サービスの補充 232億ドル
・該当地域における 米軍事作戦を行うための費用  113億ドル
・防衛システム、防衛装備品、および防衛サービスの調達 138億ドル
・ウクライナに提供された援助および装備の監督と説明責任を継続するための2600万ドル。
・ウクライナへの経済援助 95億ドル うち融資が79.0億ドル
・パートナーや同盟国に公平な負担を求める

下院で多数派を占める野党・共和党のうち、支援に消極的な保守強硬派の議員を含むおよそ半数が反対したが、与党・民主党の議員のほとんどが賛成に回り、超党派での可決となった。

共和党 民主党 合計 欠員
賛成 101 210 311  
反対 112 0 112  
棄権 5 3 8  
合計 218 213 431 4


2)イスラエル支援(
263.8億ドル )

  • 防空システム「アイアンドーム」および 中・長距離迎撃ミサイル「デービッド・スリング」 40億ドル
  • アイアンビーム防衛システム 12億ドル
  • 対外軍事基金(Foreign Military Financing)を通じてイスラエルに資金提供 35億ドル
  • 砲弾・弾薬の生産・開発強化 10億ドル
  • イスラエルに提供された防衛装備品やサービス補充 44億ドル
  • 中東地域における米軍事作戦を行うための費用 24億ドル
  • 国外に保管されている米国の防衛装備品をイスラエル用に柔軟に提供できるようにする
  • 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金提供を禁止

米国内ではイスラエルのガザ地区への侵攻が「過剰だ」との世論が高まり、バイデン政権も避難民が集中する同地区南部ラファへの大規模侵攻には反対している。しかし、議会ではイスラエル支持が大勢を占めており、20日の予算案の採決も賛成366、反対58と大差がついた。

共和党 民主党 合計 欠員
賛成 193 173 366  
反対 21 37 58  
棄権 4 3 7  
合計 218 213 431 4


3) インド太平洋の安全保障を強化する法案(
81.2億ドル )

東アジア地域で強力な抑止力を確保するための予算
・米潜水艦の保守や維持を目的としたインフラ開発(ドライドッグ建設投資を含)33億ドル
・台湾およびインド太平洋地域の主要な同盟国と安全保障パートナーが中国の侵略に対抗するための対外軍事基金 20億ドル
・台湾および地域パートナーに提供された防衛装備品および防衛サービスの補充 19億ドル
・インド太平洋地域での米国軍強化 5億4200万ドル
・ 砲弾・弾薬の生産・開発強化  1.3億3300万ドル

共和党 民主党 合計 欠員
賛成 178 207 385  
反対 34 0 34  
棄権 6 6 12  
合計 218 213 431 4


4) 21st Century Peace through Strength Act

最後の段階で追加された。米国が問題とする諸問題への対策

 (ロシア中央銀行などの公的資産の活用)

  • ウクライナへの財政支援のため、凍結されたロシア中央銀行などの公的資産をウクライナに移転する権限を行政府に与える(REPO for Ukrainians Act)
    (3000億ドルのロシアの公的資産が凍結されているが、米国の管轄下にあるのは40~50億ドルしかない)

 (パレスチナ、シリア、イラン)

  • Hamas、 Palestinian Islamic Jihad、Al-Asqa Martyr's Brigade、the Lion's Denをはじめとしたパレスチナのテロリスト集団とその支援者に対する制裁を義務付ける
  • 戦争犯罪者であるバッシャール・アル=アサドを支持する不正取引関する個人への制裁
  • イラン産原油・石油製品の積み下ろしなど実施した港湾・製油所への制裁
  • ミサイルやドローンの製造に使用されるものを含め、イランへの米国原産品と技術の輸出または再輸出制限
  • 2023年10月に失効した国連の対イラン・ミサイル禁輸措置の対象となる活動に関与する者、イランのミサイルや無人機の供給、販売、譲渡、支援に関与する者に対し、制裁を義務付ける
  • 中国の金融機関がイラン産原油または石油製品の購入に関与しているかどうかを定期的に検査し、違反していたら制裁を発動するよう大統領に要請(IRAN-CHINA ENERGY SANCTIONS ACT OF 2023)
  • 行政府はイラン指導者の財政状況について議会に報告する。金融機関に対し、イラン指導者に関係する口座を閉鎖するよう求める

 (麻薬フェンタニル)

  • 国際的なフェンタニル密売を国家非常事態と宣言する。米財務省に対し、国際的なフェンタニル密売に関与する国際犯罪組織や麻薬カルテルの主要メンバーの金融資産を標的とし、制裁・阻止するよう指示する

 (TikTok)

  • ByteDanceに対しTikTokを売却するか、米国内での利用を禁止する法案
      
    2024/3/15 米下院、TikTok規制法案可決   165日以内に同アプリの米国事業売却 → 最大1年以内に売却
共和党 民主党 合計 欠員
賛成 186 174 360  
反対 25 33 58  
棄権 7 6 13  
合計 218 213 431 4

予算内訳は 別紙 及び https://ni225-topix.com/?p=10768





米共和党のジョンソン下院議長は4月15日、イスラエルとウクライナへの支援を今週、別個の法案として審議すると述べた。
上院は約2カ月前に両国への支援を一体化した法案を可決している。

ーーー

上院はこれまで与野党の対立で宙に浮いていたウクライナへの軍事支援の予算について、2月13日 に緊急の予算案を可決した。

緊急予算案は953.4億ドル(約14兆円)にのぼる。ウクライナやイスラエル支援に加え、インド太平洋地域向けの予算も計上した。

2月7日に否決された予算案から、トランプ前大統領の介入で政治問題になっている米国の国境不法移民対策の予算を除外し、ほぼ、前回と同じものである。

バイデン案 2/7 上院否決 2/13 上院可決
ウクライナ支援 614億ドル 601億ドル 600.6億ドル
米国国境不法移民対策  136億ドル 202億ドル

 除外

イスラエル支援 143億ドル 141億ドル 141億ドル
ガザ支援 92億ドル 100億ドル 91.5億ドル
インド-太平洋 74億ドル 48.3億ドル 48.3億ドル
紅海対策 24.4億ドル 24.4億ドル
その他 63億ドル 47.6億ドル
合計 1060億ドル 1180億ドル 953.4億ドル

2024/2/9 米連邦議会の混迷 

野党・共和党の ジョンソン下院議長は、国境の危機的な状況への対応を怠っているとして、この予算案に否定的な考えを示していた。

ジョンソン下院議長は共和党の超保守派議員から、移民政策で譲歩を引き出すことなしにウクライナ支援法案を可決させないよう圧力を受けている。超保守派議員が求めているのは亡命希望者全員を強制的にメキシコにとどまらせること、国境に壁を建設することなど、民主党にとっては受け入れがたい内容である。

なお、トランプ前大統領は2月10日、Social Media PlatformのTruth Socialで、米政府の対外国支援を返済義務が生じる融資又は紐付き融資に限定すべきだと表明した。反対してきた対ウクライナ追加支援の条件に浮上する可能性がある。

2024/2/15 米議会上院 ウクライナ支援の予算案可決  成立は不透明な状況

ーーー

ジョンソン下院議長は4月17日、イスラエル、インド太平洋地域、ウクライナの地域別に分割した三つの法案を20日に採決にかけると明らかにした。対外支援法案については米政府や外国から早期の採決を求める声が上がっていた一方で、一部の共和党員が強く反発していた。

下院歳出委員会は計950億ドル超の安全保障支援法案を公表した。ウクライナに608.4億ドル、イスラエルに263.8億ドル、インド太平洋に81.2億ドルを充てる。

ジョンソン議長は20日正午まで法案を精査し修正を提案する期間を設けると述べた。保守派の要求に応じ、国境警備に関する別の法案を公表する方針も示した。

2/13 上院可決 今回下院案
ウクライナ支援 600.6億ドル 608.4億ドル
(うち 融資) (79.0億ドル)
米国国境不法移民対策 

 除外

イスラエル支援 141億ドル 263.8億ドル
ガザ支援 91.5億ドル
インド-太平洋 48.3億ドル 81.2億ドル
紅海対策 24.4億ドル
その他 47.6億ドル
合計 953.4億ドル 953.4億ドル

詳細は別紙

トランプ前大統領の主張を踏まえ、ウクライナ支援法案にはこのうちの経済援助の79億ドルは2025年9月までの融資の形をとる。

政府は法案成立後60日以内にウクライナ政府と返済について合意する必要がある

なお、議会が認めれば、大統領は2024年11月15日以降にウクライナの債務の50%を、また2026年1月1日以降に残りすべてを、帳消しにできる。(バイデンが大統領選に勝てば、この規定でウクライナの債務を消せるが、トランプが勝てば、ウクライナ支援をローンにすることを主張しているため、これを求めないと思われる。)

下院指導部はその後、安全保障支援パッケージの一環として4番目の法案を提出した。上院案には盛り込まれていない凍結したロシア資産のウクライナへの移転やイスラム組織ハマスとイランに対する制裁が含まれた。

「TikTok」など中国の字節跳動(バイトダンス)傘下のアプリについて、米国内のアプリストアでの配信やホスティングサービスの利用を禁止する項目も入った。
バイトダンスやその他の「外国敵対勢力」の管理下にある企業との関係を断てば適用を免れる。

バイデン米大統領は17日、「イスラエルやウクライナ、パレスチナへの人道支援、インド太平洋の安全保障強化を提供する緊急予算案を強く支持する」と述べ、上下両院に早期可決を求めた。

共和党の保守強硬派は、ジョンソン議長がウクライナ支援と国境管理厳格化をセットにして民主党の譲歩を迫らなかったことに反発し、ジョンソン議長が法案を採決にかければ同氏の解任を求める構えを見せているが、下院民主党ではジョンソン下院議長の解任動議が提出されても同調せず、反対すべきだとの声が強まっている。


2023年10月に米下院共和党保守強硬派が、共和党のマッカーシー下院議長が政府機関閉鎖の回避に向けたつなぎ予算成立を図るため民主党の支持を得たことを問題視し、解任動議を提出したが、民主党議員全員がこれに賛成し、8人の共和党員の造反で、これが通ってしまった。共和党議員の大半の反対にもかかわらず民主党の望む法案を通してくれた議長を放り出すことになり、その後、混乱が続いた。

今回は予算案の成立を優先する。


付記 米下院は4月19日、ウクライナ支援追加予算案等の4法案の審議を進めるための議案を、賛成多数で可決した。20日に採決を行う。

共和党 民主党 合計 欠員
賛成 151 165 316  
反対 55 39 94  
棄権 12 9 21  
合計 218 213 431 4

4月18日の朝日新聞は、「宇宙から見える」砂漠に再エネ発電所 のタイトルで、インド西部グジャラート州の最西部にあるカッチ地方の砂漠で建設されているGujarat Hybrid Renewable Energy Park (Khavda Solar Park) の訪問記を掲載している。

用地面積はシンガポールの国土とほぼ同じ広さの約724平方キロメートルの人を寄せ付けない塩性湿地で、総事業費は22億6千万ドル(約3400億円) 、ディベロッパーはその巨大さをit will be visible from space と表現した。

インドの西北端で、パキスタンとの国境近くのKhavda村の近くにある。

官民計6社が設備を設置・運営し、計画段階の出力は計2770万キロワット。単純比較で大型火力発電所や原発約20基分に相当する。太陽光と風力発電に加え、蓄電設備も設ける。発電量が天候に左右される再エネの弱みを補い、24時間電気を供給できる計画である。

Sr.No Name of Park Developers Solar-Wind Hybrid capacity (MW) Allocated Land in (Ha.)
1 Gujarat Industrial Power Company Limited 2,375 4,750
2 Gujarat State Electricity Corporation Limited 3,325 6,650
3 National Thermal Power Corporation Limited 4,750 9,500
4 Adani Green Energy Limited 9,500 19,000
5 Sarjan Realities Limited 4,750 9,500
6 Solar Energy Corporation of India Limited

(only wind)  3,000

23,000
Total 27,700 MW 72,400 Ha

Developers は、2021/12/31から3年以内に能力の50%、5年以内に100%達成を義務付けられている。

ーーー

人口増加や経済発展によるエネルギー需要の急激な伸びが予測されるインドでは、効率的かつ環境に優しいエネルギーインフラの拡充が急務となっている。モディ首相は、2021年に開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)において、2070年までにネット・ゼロ・エミッションを達成する、具体的な目標年を発表、再生可能エネルギー発電容量を500GWまで増やし、2030年までにインドのエネルギー需要の50%を再生可能エネルギーで賄うことを宣言した。

国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年時点でインドは再生可能エネルギー容量と風力発電容量で世界第4位、太陽光発電容量で第5位である。また、インドはCOP21での公約を9年近く前倒しで達成し、すでに発電能力の40%を非化石燃料で賄っており、インドのエネルギーミックスに占める太陽光と風力の割合は驚異的に伸びている。

インドの再生可能エネルギー発電容量は過去数年間で急速に増加しており、FY16~FY23(2023年2月まで)の年平均成長率は14%を超える。

その内訳は、太陽光と風力がほとんどを占めている状況。2019年時点では風力が主流だったが、現在は太陽光が53%を占め、次いで風力35%、両者を合わせ、88%に上る。


以上、infoBRIDGE 情報

経済産業省は2023年12月13日、国が指定した秋田・新潟・長崎の3海域で洋上風力発電を担う事業者の公募結果を発表した。

公募された海域は再エネ海域利用法で促進区域に指定しており、事業者は最大30年間占有できる。今回は2021年末の初回に続く第2弾となる。

公募結果は下記の通り。秋田県八峰町及び能代市沖については、最も評価の高かった事業者に再提出させ、第三者委員会における評価等を経て、2024年3月に選定結果を公表する。

第1ラウンド 2022/2/24 国の洋上風力発電公募入札の評価基準が問題に

第2ラウンド(中間)  2023/12/14 経産省、洋上風力発電を担う事業者の公募結果を発表


3月に
秋田県八峰町及び能代市沖について、下記の通り発表され、第2ラウンドのすべてが揃った。

事業者 発電設備 運転開始 供給価格
秋田県八峰町及び能代市沖 ジャパン・リニューアブル・エナジー(ENEOS)
イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン、
東北電力 
37.5万kw(1.5万kW×25基、Vestas製) 2029年6月 @3
長崎県西海市江島沖 住友商事、東京電力リニューアブルパワー 42.0万kW (1.5万kW×28基、Vestas製) 2029年8月 @22.18
秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖 JERA、電源開発、伊藤忠商事、東北電力 31.5万kW (1.5万kW×21基、Vestas製) 2028年6月 @3
新潟県村上市及び胎内市沖 三井物産、RWE Offshore Wind Japan 、
大阪瓦斯
68.4万kW (1.8万kW×38基、GE製) 2029年6月 @3


長崎県西海市江島沖は
着床式で、ジャケット式基礎のため、上限価格を29円/kWhに設定
他の3つはモノパイル式で、「ゼロプレミアム水準」を3円/kWhとし、3円以下の価格はすべて価格点を満点(120点)とした。


各計画の詳細は次の通り。

1) 秋田県八峰町及び能代市沖

「合同会社八峰能代沖洋上風力」は、ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)、イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン(スペイン)、東北電力の3社で構成


2) 長崎県西海市江島沖

「みらいえのしまコンソーシアム」:住友商事、東京電力リニューアブルパワー

 

  

3) 秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖

「男鹿・潟上・秋田Offshore Green Energyコンソーシアム」は、JERA、電源開発、伊藤忠商事、東北電力の4社で構成する。

4) 新潟県村上市、胎内市沖

「村上胎内洋上風力コンソーシアム」は、三井物産、RWE Offshore Wind Japan 村上胎内、大阪瓦斯の3社で構成する。


全体計画は下図のとおり。

2024年1月19日、洋上風力第3ラウンドの事業者公募が開始された。今回の対象区域は「青森県沖日本海(南側)」「山形県遊佐町沖」の2つで、公募の期間は2024年1月19日〜2024年7月19日。

    選定事業者 運転開始
促進地域 ①長崎県五島市沖 1.7万kw 戸田建設グループ
②秋田県能代市・三種町・男鹿市沖 47.88万kw 三菱商事連合
③秋田県由利本荘市沖 81.9万kw 三菱商事連合
④千葉県銚子市沖 39.06万kw 三菱商事連合
⑤秋田県八峰町・能代市沖 37.5万kw ジャパン・リニューアブル・エナジー(ENEOS グループ)
イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン、
東北電力 
2029/6/30
有望な区域 ⑥長崎県西海市江島沖 42.0万kw 住友商事、東京電力リニューアブルパワー 2029/8/31
⑦青森県沖日本海(南側)

 第3ラウンド

⑧青森県沖日本海(北側)  
⑨秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖 31.5万kw JERA、電源開発、伊藤忠商事、東北電力 2028/6/30
⑩山形県遊佐町沖

第3ラウンド

⑪新潟県村上市及び胎内市沖 68.4万kw 三井物産、RWE Offshore Wind Japan村上胎内、大阪瓦斯 2029/6/30
⑫千葉県いすみ市沖  

三菱商事は4月16日、Shell US Gas & Powerなどが米国ルイジアナ州で検討を進める大気中の CO2 を直接回収するプロジェクト(Pelican Gulf Coast Carbon Removal Project)への参画を決定したと発表した。

参画企業・団体は、シェル、ルイジアナ州立大学、ヒューストン大学と三菱商事で、ルイジアナ州立大学が主導する。最先端の直接空気回収(Direct Air Capture)技術を活用して大気中のCO2を回収し、ルイジアナ州を中心としたエリアに地下貯留することで炭素除去(Carbon Dioxide Removal)を行う。将来的にCO2換算年間約100万トンの炭素除去を目指す。

今後、大幅なコスト削減が見込まれる複数の有望なDirect Air Capture技術会社と共に技術実証を進め、Direct Air Capture技術の精査と設計作業を通じて当該技術の成熟度を高めつつ、Direct Air Capture技術会社への資金拠出を含めた商業化支援、エネルギー消費・用水・土地利用等におけるコスト削減機会の追求などを通じ、Direct Air Capture事業の早期商業化を目指す。

将来的には回収したCO2の一部をe-methane (非化石エネルギー源を原料として製造された合成メタン)やSustainaやSustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)などの三菱商事が取り組む合成燃料の原料として活用することや、直接空気回収事業の他地域での展開も視野に入れながら、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するとしている。


米国エネルギー省は2023年8月に、本プロジェクトの第一段階を支援するために、490万ドルのプロジェクト助成金を授与した。

ーーー

直接空気回収(Direct Air Capture)技術には下記の4つの方法がある。(産業技術総合研究所)

DACの種類特徴主な材料
化学吸収法 空気を吸収液に通すことで、大気中のCO2を吸収・分離し、加熱によってCO2を回収する。 アルカリ水溶液
アミン
化学吸着法 空気を吸着材に通すことで、大気中のCO2を吸着・分離し、加熱・減圧・加湿操作によりCO2を回収する。 アルカリ金属塩
アミン担持多孔質材
金属有機構造体(MOF)
イオン交換樹脂
膜分離法 空気を分離膜に通すことで、大気中のCO2を分離・回収する。 高分子膜
イオン液体膜
深冷分離法 CO2の凝固点まで空気を冷却し、CO2をドライアイスにして分離する。


Harvard Medical School のMassachusetts General Hospital は3月21日、遺伝子操作を行ったブタの腎臓を脳死者でない患者に世界で初めて移植したと発表した。同病院では1954年に世界で初めて腎臓移植が行われている。

移植を受けたのは重い腎臓病を患っていた男性 Rick Slayman(62)で、手術は3月16日に行われ、4時間に及んだ。術後の経過は順調で、患者は手術から2週間あまりがたった4月3日に退院した。

手術を執刀したのはハーバード大学外科教授の河合達郎医師(67歳)で、2023年8月にMassachusetts General Hospital に新設された臨床移植免疫寛容センター(Legoretta Center for Clinical Transplant Tolerance)の初代所長に就任した。

移植寛容は、臓器移植と同時に骨髄或いは血液幹細胞を移植することにより長期間の免疫抑制剤を必要とせずに、患者の免疫系が新しい臓器を維持することを可能にする革新的な方法で、移植の成功を確保しながら、患者が薬物療法を減らす、又は中止することを可能にする。Legoretta夫妻の2500万ドルの寄付で、移植寛容における世界有数のセンターとなることを目的に設立された。

患者は11年間移植を待ち、2018年に腎臓の提供を受けた。しかし昨年から腎不全の兆候が現れ始め、透析を再開、「末期」との診断が下された。

医師らからブタの腎臓の移植について提案され、男性は「自分が助かるためだけでなく、移植を必要とする多くの人に希望を与えるものだと考えた」と決断に至った経緯を説明した。

河合医師によると(毎日新聞インタビュー)、今回の手術の前にサルで100例以上ブタの腎臓を移植したが、今回、移植直後の腎臓の様子がこれほど良かった例はなかったという。移植した腎臓に血液が流れ始めると 、きれいなピンク色になり、すぐに尿が出た。

人間の場合は腎臓の動脈が2本や3本、たまに4本あることもあるが、ブタはいつも1本で、その意味では実は人間のドナーよりも技術的には簡単だが、今回の患者は透析が難しいほどに血管の病変が進み、移植で使える動脈が限られるなどの難しさはあったという。

今回使用したブタは、米スタートアップの eGenesisが、拒絶反応が起こりにくくなるように遺伝子を改変したもの。ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」が2012に登場し、2015年に同社が創業した。

eGenesisは、ハーバード大学の遺伝学者 George Church と30歳のMs. Luhan Yang(Chief Scientific Officer )が2015年に共同設立した。

人間の病気や臓器の拒否反応の原因となり得る特定の遺伝子を不活性化することで、豚の臓器を人間に移植可能なものにすることを目指している。

この手術で使用されたドナー腎臓(EGEN-2784)は、同社の腎移植のリード候補であり、以下の3つのクラスの編集をした。

(1)ハイパーアキュート(超急性)拒絶に関与する糖鎖抗原の合成に関与する3つの遺伝子のノックアウト、
(2)拒絶を調節する経路の調節に関与する7つのヒトトランスジェンの挿入:炎症、先天性免疫、凝固、および補体、
(3)豚のゲノム内の内因性レトロウイルスの不活化。

遺伝子改変を行わない場合、豚の腎臓は人間の受容体によって直ちに拒絶される。eGenesisは、臓器の安全性と有効性を解決するために、これらのすべての編集を持つ臓器を開発している業界で唯一の企業。

河合医師は5年ほど前まで異種移植をあきらめかけていた。2000年代初め、異種移植後の急性の拒絶反応を抑えるため、Gal(ギャル)という抗原を生む遺伝子をノックアウト(欠失)させたブタが登場したが、その腎臓をサルに移植してもせいぜい100日くらいまでしか生きられず、その先の展望が見えなかった。

そこにクリスパーが登場、さらに多くの拒絶や感染を引き起こす可能性のあるブタの遺伝子を除去したり、特定のヒトの遺伝子を追加したりすることが簡単になった。

それからまた試してみようかという雰囲気になった。

eGenesisと共同研究を始めたのは2017年ごろで、新しいドナーのブタの作製が続けられ、河合医師らは週2~3例のペースでサルでの移植を続けた。免疫抑制法を工夫するなどしてついに術後2年以上生存させることに成功し、これならヒトでも可能かもしれないと思ったという。

過去にゲノム編集されたブタの心臓移植を2人の患者が受けている。
1人目は2022年1月、2人目は23年9月に手術を受けたが、いずれも2カ月足らずで死亡した。

Massachusetts General Hospital の医療チームは、さらに多くの患者でゲノム編集したブタの腎臓移植を実施すべく、正式な臨床試験を開始する予定だが、さしあたり、スレイマンの健康維持に主な焦点を置いている。

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明治大学発ベンチャーのポル・メド・テック社とeGenesis は、eGenesis が開発した遺伝子改変ブタを日本で再現生産することに成功した。3頭のブタが2024年2月11日に誕生し、今後前臨床研究のために日本国内の医療機関に供給される予定。

ポル・メド・テックは、明治大学バイオリソース研究国際インスティテュートにおける遺伝子改変ブタ作出技術の事業化を目的に2017年2月に設立された。

事業内容は、
 医療用ブタによる臓器移植・再生医療事業
 疾患モデルブタの製造販売事業
 技術サービス事業

2023年9月にポル・メド・テックはeGenesisから遺伝子改変ブタ細胞を輸入し、明治大学バイオリソース研究国際インスティテュートで開発された体細胞核移植技術を用いてクローン子豚を作製した。

実績を有する遺伝子改変ブタのクローン個体が日本で誕生したことにより、今後我が国での臨床応用実現に向けての取り組みが加速化されることが期待される。


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東京慈恵医科大や国立成育医療研究センターなどの研究チームが、重い腎臓病の胎児にブタの腎臓を一時的に移植する臨床研究を計画している。年内にも、国が認定する委員会への研究計画の申請を目指している。



腎臓に問題がある「ポッター症候群」の胎児に、受精後30日のブタ胎児から取り出した約2mmの腎臓を移植する。移植手術は出産予定日の約4週間前に行い、胎児の背中の皮下に特殊な注射針でブタの腎臓を注入する。

ポッター症候群は、生まれつき腎臓が正常に作られず、体内の水分や老廃物を十分に排出できない病気で、5000~1万人に1人の頻度で発症するとの報告もある。妊娠中に羊水の量が少なくなることで見つかり、肺などに障害が出る。生後、透析が受けられないと、間もなく死亡するケースが多い。

移植した腎臓は周囲の血管と自然に結合し、1日数十ml 程度の尿を作ることが期待できるという。出産後、赤ちゃんの背中にチューブを挿入し、たまった尿を排出する。

治療は、赤ちゃんが透析を安全に受けられるようになるまでの数週間、病気の腎臓の代役となる「橋渡し」との位置づけで、その後、ブタの腎臓は取り除くという。

チームの横尾隆・慈恵医大教授(腎臓高血圧内科)は「亡くなるのを見守るしかなかった赤ちゃんの命を救える可能性がある」と話す。

新タイプの肥満症治療薬の利用者が、米国を中心に世界で急増している。

先駆けとなったのが、デンマーク製薬大手Novo Nordisk Wegovy(ウゴービ )で、2021年に米国で承認された。もともと糖尿病(内臓脂肪の蓄積が主な原因)のために開発した薬(GLP-1受容体作動薬)を肥満症治療に応用したもので、食欲を抑制することでやせる効果があるとされる。日本では「セマグルチド(遺伝子組換え)」として2023年3月に承認された。

食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンをインクレチンといい、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド )とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)がある。
2型糖尿病に対する治療薬として注目されるのがGLP-1である。

GLP-1は、食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌され、すい臓のβ 細胞表面にあるGLP-1の鍵穴 (受容体) にくっつき、β 細胞内からインスリンを分泌させる。GLP-1は、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴がある。摂取した食物の胃からの排出を遅らせる作用や食欲を抑える作用などもある。

GIPも食欲を抑制するだけでなく、体内での糖分や脂肪の分解を改善する可能性がある。

Eli Lillyは昨年12月、同様の働きを持つ肥満症治療薬Zepboundを米市場に投入した。

Amgen や Pfizerなど多くのメーカーが開発を急ぐ。

CNBCによると、各社の開発状況は下記の通り。

製品名

メーカー

用法

米承認

Wegovy

Novo Nordisk

週1回の注射

2021 承認

GLP-1を活性化 

Zepbound

Eli Lilly

週1回の注射

2023 承認

GLP-1とGIPを活性化   

Saxenda

Novo Nordisk

週1回の注射

2020 承認

GLP-1を活性化

MariTide

Amgen

月1回の注射

Experimental

GLP-1を活性化し、GIPをブロック

Danuglipron

Pfizer

1日1回の錠剤

Experimental

GLP-1を活性化

VK2735

Viking Therapeutics

週1回の注射

Experimental

GLP-1とGIPを活性化

Pemvidutide

Altimmune

週1回の注射

Experimental

GLP-1を活性化

GSBR-1290

Structure Therapeutics

週1回の錠剤

Experimental

GLP-1を活性化

Survodutide

Zealand Pharma,
Boehringer Ingelheim

週1回の注射

Experimental

GLP-1とグルカゴンを活性化


Amgen のMariTide は、他の薬剤が週1回の注射が必要なのに対し、月1回の注射でよいことで注目されている。

Eli Lilly のZepbound はGLP-1とともにGIPを活性化する。GIPは食欲を抑制するだけでなく、体内での糖分や脂肪の分解を改善する可能性がある。

しかし、AmgenのMariTideはGIPをブロックする。同社では、これを遺伝学的研究に基づいているとしている。

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これとは別に、日本では2023年2月17日に大正製薬が、肥満の人向けの肥満症予防薬オルリスタットをOTC医薬品として厚生労働省より製造販売承認を取得した。欧米ではRocheがXenical、GraxoSmithKlineがAlliの商品名で販売している。

薬局・薬店で薬剤師から指導を受けて購入する「要指導医薬品」に指定されている。「腹部が太めな方の内臓脂肪および腹囲の減少(生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限る)」の効能・効果をうたう。

カプセルタイプで1日3回、食事中もしくは食後に服用する。

オルリスタットには、脂質の吸収を抑える効果がある。通常、小腸では、リパーゼという脂肪分解酵素が脂質を分解して、脂質が吸収される。オルリスタットを服用すると、オルリスタットはリパーゼと結合し、リパーゼの働きが抑えられる。その結果、脂質は分解されず、そのまま便として排出され、肥満症を予防する。


神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の田口 精一特命教授、高 相昊特命助教と産総研とカネカの共同研究グループは4月10日、"強靭性" と "生分解性" を両立する次世代型ポリ乳酸の開発に成功したと発表した。

   https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20240402-65194/

石油系プラスチックは、衣類・食品容器・医療器材など、日常生活を豊かにしてくれる欠かせない材料だが、世界で年間4億トンも製造される巨大産業で、毎年約600万トンのプラスチックごみが海洋へ流出している。

気候変動対策としてのCO2削減、不適切な廃棄による海洋汚染問題が世界的な課題となる中で、これらの課題解決に応える"実用的な"生分解性プラスチック素材の開発が求められている。

ポリ乳酸は、木や草などの未利用な植物バイオマスを原料から作られるバイオプラスチックの代表格であり、石油由来の合成プラスチックの代替素材として注目されているが、ポリ乳酸には、"硬い・成型しづらい"という実用面の課題と、海水中では "難分解" という環境面での課題を抱えており、利用拡大の妨げとなっている。

今回開発に成功した次世代型ポリ乳酸は、使用時は"強靭" でありながら、使用後は、海水中でも速やかに "生分解" されるため、地球にやさしい実用的なバイオプラスチック製品の開発に繋げることが期待できる。

「次世代型ポリ乳酸に立脚した循環型プラスチック材料開発」 の全体像 は下図の通り。



神戸大学の研究グループでは、遺伝子組換え大腸菌により、乳酸(LA)と3-ヒドロキシブタン酸(HB)の共重合体(LAHB)の合成に世界で初めて成功した。

微生物によって生合成される天然ポリエステルの "3-ヒドロキシブタン酸" の基本骨格に、非天然の "乳酸"を組み込むことで実現した成果で、天然の生分解性を持つポリヒドロキシブタン酸実用物性を持つポリ乳酸の両方の長所を兼ね備えたハイブリッドな性質を示すため、まさに、次世代型のポリ乳酸と言える。

従来のアカデミック用途の "大腸菌" を用いたLAHB生産系では、「生産性が低い」ことが実用化に向けての大きなハードルとなっていた。

今回、生分解性プラスチック GreenPlanet TM の商用生産に成功しているカネカとの共同研究を行い、産業実績のある "水素細菌" に注目し、代謝経路の最適化を行う合成生物学的アプローチによって、LAHBの大量生産技術を世界で初めて確立した。

水素細菌から生産されるLAHBは、分子量100万を超える "超高分子量" で強靭なプラスチックであることが明らかになった。成型加工プロセスで要求される "強靭性" を発揮する実用的なプラスチック素材である点が、従来技術と大きく異なる。

今回得られたLAHBは、強靭な特性を持ちながら、海水中に含まれる微生物によって、常温でも速やかに生分解されることも明らかになった。

さらに産総研の共同研究において、LAHBをポリ乳酸に添加剤として少量加えることで、ポリ乳酸の伸びの大幅な改善と、ポリ乳酸の海水中での生分解が促進されることを見いだした。

すなわち、LAHBがポリ乳酸の "強靭性""生分解" の弱点を解消する "モディファイアー (改質剤)" として機能するという、これまでのポリ乳酸が分解されないという常識を覆す革新的な研究成果である。


今後の展開として、
様々な環境に応じて、生分解性を制御し、かつ、本来の性能や機能を発揮できるような自律的プラスチック材料あるいは、ポリ乳酸の改質剤としての展開を図る。
将来的には、バイオ・サーキュラーエコノミー社会への貢献が期待される。



この研究成果は、4月10日に、国際誌「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」に掲載された。

日本産業パートナーズは2023年3月23日、東芝を株式公開買い付け(TOB)で非公開化することを目指すと発表、8月8日から買付を行い、9月20日に応募が成立に必要な 3分の2を上回り(78.65%)、TOBが成立した。

この結果、東芝は2023年12月20日をもって上場廃止となり、TOBに応募しなかった株主には、スクイーズアウト手続きにより公開買付け価格と同額の1株あたり4,620円の金銭が交付される。

11月22日に臨時株主総会を開き、株式併合を決めた。普通株93,000,000 株を1株に併合するもので、併合後の発行済株式はたった4株になった。

2023/8/8 東芝、国内連合が8月8日からTOB 付記

他方、東芝の過去の不適切会計問題を巡り、株主が旧経営陣の経営責任を追及する株主代表訴訟が多数、進展している。

2015年に発覚した不正会計問題で、東芝は旧経営陣に責任があるとして佐々木則夫元社長ら5人を提訴、別途、個人株主が他の歴代幹部10人に株主代表訴訟を起こした。 東京地裁はこれを統合した裁判で2023年3月に、東芝が訴えた3人と株主が訴えた2人の計5人の賠償責任を認め、総額3億860万円の賠償を命じた。

会社提訴は5人のうち2人が請求却下、3人が連帯で合計2億円、株主代表訴訟での2人が1億860万円となる。

2023/3/30 東芝粉飾事件で元役員に対する損害賠償請求訴訟の判決

上記の控訴審や、別の訴訟の判決が順次、出つつある。

ここで、「株式併合」が問題となった。

上記の裁判の控訴審で東京高裁 は2024年3月6日、株主代表訴訟分について、株式併合で原告株主の保有株が1株未満になったため「原告適格を失った」と判断し、内容は何も判断せずに、この分の一審判決を取り消し、株主の訴えを却下した。

東京地裁で審理が続いていた監査法人への訴訟も2024年3月28日、同様の理由で却下された。

株式併合で原告株主の保有株が1株未満になったため「原告適格を失う」だけでなく、TOBに応募しなかった株主は上場廃止後ににはスクイーズアウト手続きにより新株主に強制的に買い上げられるため、原告としての法的な立場を失う。

TOBがからむ限り、「会社役員の意思決定や行動等により会社に対して損害を与えたにもかかわらず、会社がその責任を追及しない場合、株主が所定の手続を経たうえで会社に代わってその会社役員の責任を追及する訴訟を提起できる」という会社法 第847条の規定が意味がないこととなる。

弁護団は、TOBで株主の地位を引き継いだ日本産業パートナーズ陣営に株主側の訴えを引き継いでもらう必要があるとして、質問状を送り、訴訟の経緯とともに、一部の賠償請求権が失われることを説明したが、現在も回答はないという。

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株主代表訴訟ではなく、旧株主として損害を受けたとして訴えた場合は、TOBで株主の地位を失っても原告としての資格は失わない。

東芝の不正会計問題で株価が下落し損失が生じたとして、個人株主244人が同社と旧経営陣に計約7億2200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は2024年3月22日、東芝に対し、そのうちの174人へ計約4805万円を支払うよう命じた。
旧経営陣に対する賠償請求は棄却した。  

原告側は、2008~14年度の有価証券報告書などで不正会計による報告書の虚偽記載があり、不正を知っていれば株を購入しなかったと主張。東芝側は請求額の一部は虚偽記載と因果関係がないなどと主張していた。

判決では、2009、11、12年度の報告書で重要事項の虚偽記載があったと認定。一方、旧経営陣は虚偽記載への責任を負わないとした。  

大阪、高松、福岡などで起こされた同種訴訟では、各地裁や高裁が東芝に請求額の一部の賠償を命じ、旧経営陣への賠償請求は棄却する判断が続いている。  

SaudiAramcoは4月2日、サウジアラビア東部のJubailのFadhili Gas Plantの大規模拡張に向けて、77億ドル相当のエンジニアリング・調達・建設(EPC)契約を韓国のSAMSUNG Engineering Company、GS Engineering & Construction Corporation、およびサウジの大手請負会社のNesma & Partnersと締結したと発表した。


このプロジェクトにより、工場の処理能力は 1 日あたり 25 億標準立方フィート から最大40 億標準立方フィートに増加する。
また、工場の拡張により、硫黄生産量がさらに1日あたり2,300トン増加する。これらの工事は 2027年11月までに完了する予定。


同社では、この
15億標準立方フィートの処理能力追加は、2030 年までにガス生産量を 2021 年のレベルと比較して 60% 以上増加させるという同社の戦略に貢献するとしている。「これらの契約の締結は、天然ガスの供給を増やし、温室効果ガス排出削減の取り組みを支援し、より多くの原油を付加価値のある精製と輸出のために解放するというアラムコの目標を反映している」と述べた。

Aramcoは3社の契約内訳を発表していないが、韓国側は、Samsungの受注額は60億ドル、GSの受注額は12.2億ドルと発表した。これによれはサウジのNesma & Partnersの受注額は4.8億ドルになる。



Fadhili Gas Plantは、陸上および沖合の両方の油田から非随伴ガス(原油の生産に伴って生産される随伴ガスではなく、ガス井戸から気体のみの形で生産される天然ガス) を処理する初のプラントである。


Tail Gas 処理技術を使用するように設計された最初のAramcoのプラントで、これにより、硫黄回収率が99.9%以上に達することが可能となっている。

Fadhili Gas Plantは2021年に設計ガス処理能力の2.5 bscfdに達し、会社のマスターガスシステムの一部として、サウジアラビアのエネルギー需要の増加に対応するのに役立っている。

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韓国大統領室によると、今回の2社の72.2億ドルの受注は韓国企業の海外建設事業のうち、アラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原発(2009年、191億ドル)とイラクのニュータウン(2012年、77億ドル)に続く3番目の規模となる。

バラカ原発については、2024/3/5 韓国が輸出したUAEのバラカ原発4号機が稼働

イラクのニュータウン工事は、ハンファグループが受注したもので、首都バグダッドの南東10キロにあるビスマヤ地区で、道路や上下水道などのニュータウン造成工事と10万戸の公営住宅建設工事を行った。

韓国企業がサウジアラビアで受注した事業のうち最大規模で、大統領室は「韓国・サウジアラビア首脳外交の結実」と評価した。

尹錫悦大統領は2022年11月にソウルでサウジのムハンマド皇太子と会談、2023年10月にはサウジを国賓として訪問している。大統領室は「建設・インフラ分野での協力を強化することで合意した首脳外交の成果」としており、今回の受注により、今年の海外建設受注目標額400億ドルの達成に「青信号が出た」としている。

LG Energy Solutionは4月4日、アリゾナ州知事等を米アリゾナ州Queen Creek の新工場に招待し、工場の着工に本格的に突入したと発表した。

LG Energy Solutionは2023年3月24日、米国アリゾナ州Queen Creekで電気自動車(EV)用円筒型バッテリーと蓄電システム用リン酸鉄リチウムイオン(LFP)パウチ型バッテリーの複合生産工場を建設すると発表した。

総投資額は55億ドルで、EV用円筒型バッテリー工場建設には32億ドルを投じ、主に北米EVメーカー向けの2170型セルの生産を2025年から開始する計画で、年間生産能力は27ギガワット時(→36ギガワット時に変更)。

蓄電システム向けのLFPパウチ型バッテリー工場建設には23億ドルを投じ、2026年生産開始を目指している。年間生産能力は16GWh(→17ギガワット時に変更)。

同社は2022年3月に、13億ドルを投資し、年間生産能力11GwhのEV用バッテリー工場をアリゾナ州クイーンクリークに建設し、2024年から生産を開始すると発表していたが、同年6月に米国の経済環境や投資環境を理由に工場建設の計画を再検討とした。

今回発表では、投資規模が4倍以上に拡大した。「インフレ削減法(IRA)のEV税額控除要件を満たすため、EVメーカーから現地生産の高品質・高性能バッテリーへの要求が高まっているため」と説明している。

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LG Energy Solutionは米国において、①単独資本工場をミシガン州で、②ゼネラルモーターズ(GM)との合弁工場をオハイオ州で運営している。さらに同社は、北米でのバッテリー生産工場への投資を加速しており、現在、③GMとの合弁工場をテネシー州とミシガン州で、④ホンダとの合弁工場をオハイオ州で、⑤ステランティスとの合弁工場をカナダのオンタリオ州で建設している。

LG単独ではミシガン州Hollandに5GWhの工場を持ち、GM、Ford Motor、Chrysler などに供給している。ミシガン工場は 当初はいろいろな問題が発生した。

2013/9/10 LG化学のミシガン州のリチウムイオン電池工場、生産開始2か月で停止

LGはGMとのJVのUltium Cells LLCで、オハイオ州 Lordstown の近辺に23億ドルを投資して生産能力30GWhの次世代グローバルEVバッテリーシステムの生産工場を建設。

2020/1/3 GMとLG Chem、世界最大級のEV用電池工場建設計画を発表

③GMとLGは2021年4月16日、第二工場のテネシー州Spring Hillでの建設を発表した。能力は35GWh。

 GMは2022年1月25日、EVの生産能力の強化に向けて、米国で3つ目となる新たな電池工場の建設を発表した。LG Energy Solution との50/50 JVのUltium Cells LLCが26億ドルを投じ、ミシガン州 Lansing に第3工場を建設する。

2022/1/28 GM、米国で3つ目の電池工場を建設、電気自動車生産投資も

④ホンダとLG Energy Solution のEV用リチウムイオンバッテリーの生産合弁会社は2023年2月28日、米国オハイオ州Jeffersonville の工場建設予定地で工場の建設に着工した。

2023/3/7 ホンダとLGの米バッテリー工場 起工式

Stellantis N.V.は2021年10月18日、LG Energy Solutionと合弁会社を設立し、北米で電動車用の電池を生産すると発表した。
立地:カナダ オンタリオ州 Windsor

2022/5/27 Stellantis、米国での2つのEV向け電池合弁会社の内容が確定



アリゾナ州Queen Creekの新工場は、ミシガン工場に次ぐLG Energy Solutionの2番目の北米単独工場となる。



計53GWhの生産能力のうち、EV用の円筒形バッテリーが36GWh、エネルギー貯蔵装置(ESS)用リチウムリン酸鉄(LFP)バッテリーが17GWhの規模でそれぞれ運営される予定。

同社では「最近、工場敷地の地ならしを終えて着工に入り、現在、鉄骨建設作業が順調に行われている」とし、「2026年の稼動と共に、計4桁の新規雇用も生まれるだろう」と話した。

特に、米国内初の円筒型専用工場ということで意味が大きいと会社は強調した。アリゾナの新工場では、電気自動車用46シリーズ(直径46ミリ)のバッテリーが生産される予定。「次世代バッテリー」と呼ばれる46シリーズは、従来の21シリーズ(直径21ミリ)より容量と出力がそれぞれ5倍ほど向上した高付加価値バッテリーで、テスラを皮切りに、BMWやボルボ、GMなどが搭載を進めており、成長性の高い製品である。

17GWh規模で建設されるESS専用バッテリー工場への期待も大きい。米国は世界最大のESS市場であり、エコ政策のおかげで急成長している。現地生産を通じて物流や関税費用を削減し、価格競争力を確保する方針で、顧客の要求に直ちに対応し、現場を管理できる体系を構築し、差別化された顧客価値を提供すると強調した。

HBMメーカーの韓国 SK hynix は4月3日、Indiana州West Lafayetteに38.7億ドルを投資し、次世代HBM向け先端パッケージング生産施設とR&D施設を建設すると発表した。R&Dで 現地のPurdue University、Ivy Tech Community College と協力する。

HBM (High Bandwidth Memory:広帯域メモリーは、高い価値と高い性能を持つ複数のDRAMチップを垂直に接続し、従来のDRAM製品と比較してデータ処理速度を劇的に向上させるメモリ。最新のHBM4は、HBM、HBM2、HBM2E、HBM3、およびHBM3Eに続く6世代目の製品。

米国では最初の計画で、AI サプライチェーンでイノベーションをもたらすとともに、1000人以上の雇用をもたらす。

West Lafayette を選んだのは、州及び地方政府からの強いサポートがあること、インフラが整っていること、同市にあるPurdue University と協力できることなどが理由である。

「半導体業界初のAI半導体向け先端パッケージング生産施設を米国に建設できてうれしい」。SKの郭魯正最高経営責任者(CEO)は、米インディアナ州で開かれた式典で米政府関係者らに満足げに思いを伝えた。

SKは計38.7億ドル(約5800億円)を投じ、同社として米国初となる半導体工場を新設する。2028年下半期の量産を目指し、生成AIの駆動に必要な高性能半導体「広帯域メモリー(HBM)」の仕上げ工程を行う。

コンピューターの演算処理を行うロジック半導体の分野では、台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子が相次ぎ米国進出を決めている。記憶媒体のメモリーで高い技術力を持つSKも参入することで、米国の半導体の供給網は一段と整備が進む。

2022/12/8 TSMC、米国で3ナノ品生産 

2021/11/26 サムスン電子、米テキサス州に半導体工場新設 &付記

2024年4月5日、サムスン電子が米テキサス州に建設中の半導体工場への投資額を約440億ドル(約6兆7000億円)と従来計画の2倍超に増やす可能性があることがわかった。


Chat GPTなどに使われる生成AIの普及も、SKの決断を後押しした。大量のデータを高速で処理するためにはHBMが欠かせない。SKは米NVIDIAとの協業で量産技術をいち早く確立し た。

生成AI用半導体の製造には、複数のウエハーの積層や穴の貫通といった複雑な技術が求められる。同州にあるPurdue Universityは最先端半導体の研究を手がける。

HBMという新技術で一気に優位に躍り出たSKは、サムスンに差を付けようと量産計画を急ぐ。

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バイデン大統領は3月20日、CHIPS and Science Act に基づき、インテルに最大で85億ドルの補助金を出すと明らかにした。

2024/3/22 米政府、CHIPS and Science Act に基づき Intelに最大で85億ドルの補助金

3月14日のBloomberg は関係筋の話として、米政府は韓国のサムスン電子に対して、同社が発表したテキサスプロジェクトを越えて投資を拡大するよう支援するために60億ドル以上の補助金を支給する方針と報じた。

サムスン電子は2021年11月24日、米国テキサス州Austin近郊のTaylor市に最先端の半導体工場を新設すると発表した。建物、土地、工場設備などを含めた総投資額は170億ドルの見込みで、同社にとり米国最大の投資案件となる。

2021/11/26 サムスン電子、米テキサス州に半導体工場新設  

Wall Street Journal は2024年4月5日、サムスン電子が米テキサス州に建設中の半導体工場への投資額を約440億ドルと従来計画の2倍超に増やす可能性があることが分かったと報じた。

付記 米政府は4月15日、韓国サムスン電子がテキサス州に建設する半導体の新工場と研究開発拠点に、最大64億ドルを補助すると発表した。

これは、台湾のTSMCが受け取るものと知られている50億ドルを上回る金額である。

台湾のTSMCは12月6日、2024年の操業開始を目指してアメリカ西部アリゾナ州に建設している工場のそばに、新たに別の工場を建設すると発表した。この工場では、現在、世界で量産されている半導体のなかでも最先端の、回路の幅が3ナノメートルの製品を2026年から生産する。TSMCにとっては、海外で先端品をつくる初の拠点となる。

2つの工場の建設で、TSMCのアリゾナ州への投資額は、従来計画比3倍強の400億ドルにのぼることになる。

付記

米商務省は2024年4月8日、TSMCがアリゾナ州に建設する新工場に最大66億ドル(約1兆円)の補助金を支給すると発表した。TSMCは第3工場を設け、先端半導体を生産する。米国は中国に頼らない半導体供給網の構築をめざす。

TSMCは既に2つの工場を同州に建設中で、レモンド米商務長官は、TSMCが新たに第3工場の建設を確約したと明かした。第3工場では「2ナノ(ナノは10億分の1)メートルか、それ以下の先端半導体が作られる」との見通しを示した。

2022/12/8 TSMC、米国で3ナノ品生産

SK hynix も当然、補助金を期待している。

バイデン米政権は中西部ミシガン州のすでに廃炉となったPalisades原発に対し、再稼働の支援に約15億ドルの融資を決めた。

廃炉となった原発が再稼働すれば米国で初めてで、世界的にも異例で、温暖化ガスを排出しない安定電源として原発が再評価された。

Palisades原発(PWR、85.7万kW)は1971年稼働で、CMS Energy が保有していたが、2007年にEntergyに売却された。

同原発は2017年に経済性の悪化で5年後の廃炉方針を発表、2022年5月に稼働を恒久的に停止し、同年6月に廃炉を手掛けるHoltec International に売却された。

同発電所には運転開始後50年以上安全に稼働した実績があり、閉鎖直前には577日間の連続運転を記録するなど、NRCは同発電所を「最も高い安全性を有する原子炉」のカテゴリーに分類しており、原子力産業界でも高パフォーマンスの発電所として評価されていた。

Holtec International は当初は廃炉の予定であったが、原子力のようにクリーンなエネルギー源が重視される時代となったと考え、2022年9月に連邦政府の支援を当て込んで一転して再稼働を目指し、動き出した。

2023年10月、同社は運転認可の再交付を米原子力規制委員会(NRC)に申請した。事前にNRCスタッフと複数回にわたり協議を重ねていた。

Palisades原発の再稼働方針については、ミシガン州知事も2022年9月に支持を表明、2023年7月には、同発電所の再稼働に1億5,000万ドルの支援を盛り込んだ2024会計年度の州政府予算法案に署名した。

Holtec はエネルギー省のLoan Programs Office に再稼働のための資金援助を申請しており、エネルギー省も、稼働再開を支援するために15億ドルの融資を提供する準備が整っていると報じられている。

Holtec も、同発電所が発電する電力を州内のWolverine Power Cooperativeに販売するため、2023年9月に子会社を通じて長期の電力売買契約(PPA)を締結している。

稼働が再開されれば、Palisades原発は国内で最初に稼働を再開する原子力発電所となる。

再稼働は2025年後半を目標とし、少なくとも2051年まで運転する計画とされる。

三井物産は、1970年代初頭の設立時からタイにおいて石油・天然ガスの探鉱、開発、 生産事業を行っており、現在もタイ沖でのガス生産は同社の経営基盤を支える主力事業である。

石油・天然ガスの供給を通じてタイの経済発展に貢献してきており、タイ国内でも高く評価されている。

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ガス田が隣り合うベトナムでは100%子会社である三井石油開発(MOECO)を通じて参画する上流ガス田及びガス火力発電所までの輸送パイプラインを含めた一体開発事業(「Block B事業」)を進めてきたが、3月28日に最終投資決断を行い、関連契約を締結した。

Block B事業は、三井石油開発にとって次世代の中核となる事業で、探鉱段階より参画している競争力の高い案件であり、中長期に亘り安定収益が期待される。

日量490百万立方フィートの生産能力を見込み、生産開始時期は2026年末を予定している。

上流事業であるガス田の開発に加えて、ガスを輸送する中流事業の開発も実施予定で、ガスの販売はPetroVietnamが行う。

事業パートナーは次の通り。

三井石油開発は、上流事業(約5.6億米ドル)はJOGMECとの共同出資会社、中流事業(約1.8億米ドル)は三井石油開発100%子会社を通じた権益保有 を行う。

ガス田開発

保有割合
ベトナム PetroVietnam(Operator)/ PetroVietnam Exploration Production 69%
日本 三井石油開発 / JOGMEC 23%
タイ PTTEP South Vietnam / PTTEP Kim Long Vietnam 8%

中流事業

保有割合
ベトナム PetroVietnam(Operator)/ PV Gas 80%
日本 三井石油開発子会社 15%
タイ PTTEP Southwest Vietnam Pipeline 5%


洋上ガス処理設備などの建設費用やパイプライン敷設費用を主とした開発費は三井石油開発子会社持分で約7.4億米ドル(約1,100億円) を予定している。

新第一塩ビの終焉

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トクヤマは2024年4月1日に、トクヤマを吸収合併存続会社、100%子会社の新第一塩ビを吸収合併消滅会社とする吸収合併を行った。

新第一塩ビは1995年7月1日に、日本ゼオン、住友化学、トクヤマ、サンアロー(トクヤマ子会社)による、日本の合成樹脂メーカーで最初の事業統合会社としてスタートしたが、同社は1982年4月1日(産構法スタートの1年前)に最初の共販会社として営業開始した第一塩ビ販売を祖とする。 呉羽化学(クレハ)は離脱したが、他の3社が共販時代の協力の結果を活かし、発展させ、第一塩ビ販売の社名変更の形でスタートした。

共販会社として1982年にスタートした会社が42年後に終末を迎えたことになる。同社はすでに実質的にトクヤマの子会社であったが、これで名実ともにトクヤマの事業となる。

同社の歴史をまとめた。(トクヤマは改称前は徳山曹達)

1982/4/1 第一塩ビ販売 営業開始
(設立は1982/3/12)
住友化学、呉羽化学、サンアロー化学、日本ゼオン 各25%出資

  日本塩ビ販売(三井系) 1982/8/1 営業開始
  中央塩ビ販売(三菱系) 1982/8/1 営業開始
  共同塩ビ販売(興銀系) 1982/9/1 営業開始

  ポリオレフィン共販会社は産構法によるため、1983/7/1 営業開始

1990/7
第一塩ビ製造を設立 住友化学36% / 日本ゼオン24% / 呉羽化学24% / サン・アロー化学12% / 第一塩ビ販売4%
工場 住友化学千葉工場内 80千トン
呉羽が開発した内部ジャケット方式を改良、4社共有特許
1994/12 塩ビ事業統合発表(呉羽を除く) 当初、第一塩ビ販売の株主全社が参加し、事業統合の検討を進めた。
最後の段階で呉羽が離脱
1994/12/31 呉羽が第一塩ビ販売から実質離脱
1995/2/1 呉羽の第一塩ビ販売持株を3社が買い取り
トクヤマも出資
出資比率  
日本ゼオン 40% / 住友化学 30% / サンアロー 20% / トクヤマ 10%
1995/7/1 新第一塩ビ スタート
  第一塩ビ販売の社名変更による
出資比率 上記
共販時には扱っていなかったペースト等の特殊品も含む。
各社の塩ビ事業設備を買い取り
汎用品:ゼオン(水島 120千トン)、住化(千葉 35千トン)、サンアロー(徳山 125千トン)第一塩ビ製造(60千トン*) * クレハ枠 20千トンを除く (後、買い取り)
特殊品:ゼオン(高岡 65千トン)、住化(愛媛 25千トン)

原料VCMは各社が供給
ゼオン(山陽モノマー)、住化(千葉塩ビモノマー)、トクヤマ(サンアロー)
塩ビ業界
 1996/4/1
に大洋塩ビが営業開始
 2000/4/1にヴイテックが営業開始
ポリオレフィン業界
 
日本ポリオレフィン 1995/10 営業開始
 グランドポリマー  1995/10 営業開始
 日本ポリケム    1996/9 営業開始

1995/12 新第一塩ビ、インドネシアに技術輸出 相手先 Siam Maspion Polymer
    (タイのSiam CementとインドネシアのMaspionのJV)
内部ジャケット方式 能力 120千トン
1999 トクヤマがサンアローを吸収合併
1999/6 新第一塩ビ改組 1999/6月末に全額減資して累積損失を一掃し、同月及び2000/3月にそれぞれ40億円、合計80億円の増資
資本金 トクヤマ ゼオン 住化
当初 70億円 30.0% 40.0% 30.0%
2000/3 80億円 71.0% 14.5% 14.5%

実質、トクヤマの事業(ゼオン、住化の増資払込は、トクヤマが引き継いだ事業の含み損の両社負担)

2000/3 水島工場(ゼオン)閉鎖
2008/3 高岡工場(ゼオン)閉鎖 水島、高岡の閉鎖で、日本ゼオンは実質全面離脱
2015/9 千葉工場(住友化学)閉鎖 住友化学は愛媛の特殊品のみ残る。
2017/10 ゼオン持株をトクヤマが買収  出資比率 トクヤマ85.5%、住友化学 14.5%
2023/4/1 住友化学持株をトクヤマが買収 出資比率 トクヤマ100%
愛媛特殊品工場は設備を住友化学に売却したうえで、引き続き住友化学に生産委託
(2024/4/1に新第一塩ビを吸収合併をすると、愛媛の特殊品工場はトクヤマ資産となるため、これを避けて運営を簡素化した。

2024/4/1

トクヤマ、新第一塩ビを吸収合併

上記により、日本ゼオンと住友化学は完全に離脱し、関係がなくなるため、「新第一塩ビ」を存続させる意味がなくなる。


第一塩ビ
販売は日本で最初の共販会社としてスタートした。

共販会社の組み合わせは当時の塩ビ協会長の高橋社長が私案としてつくったとされるが、三菱系、三井系、興銀系をまとめ、残った4社が第一塩ビ販売グループである。

メンバーの
日本ゼオン、住友化学、トクヤマ、トクヤマの各社は、住友化学が他の3社と取引があった以外、相互に全く関係はなかった。

しかし、日本ゼオンの首脳が業界の一体化に熱心で、指導力を発揮し、他社がそれに従った。

他の共販が完全縦割りで、共同販売事務所会社(下図)であったのに対し、将来の一体化を目指し、工場の相互訪問、合理化の共同研究、将来の共同生産を目指し、新工場の共同研究を行った。

新工場の共同研究の結果、呉羽化学発案の内部ジャケット方式(リアクターの内側に水を流すことで冷却時間を大幅に節減し、生産能力を高めるもの)を完成、住友化学千葉製造所内に共同の新プラント(第一塩ビ製造)を建設した。

ーーー

日本で最初の事業統合会社である。(日本ポリオレフィンは1995/7設立で同じだが、営業開始は1995/10)

当時は共同生産はあったが、販売を統合することは考えられなかった。需要家との関係が重要であり、販売を統合すると永年の需要家との直接の関係が切れてしまう。
呉羽化学が離脱した理由はいろいろあるが、統合に参加し、大企業の一員として全国に展開するよりも、地方企業として何十年もの付き合いの同じ地域の需要家との取引を続けたいというものが理由の一つである。

1994年8月に日経が第一塩ビグループの一体化構想をすっぱ抜くと業界に衝撃を与えた。早速、検討を始める企業が出た。

1995年7月に新第一塩ビがスタートするとすぐに、
塩ビでは大洋塩ビ(
東ソ-、三井東圧、電気化学)、ずっと遅れてヴイテック(三菱化学、東亞合成)が設立され、
ポリオレフィンでは日本ポリオレフィン(昭和電工、日本石油化学)、日本ポリケム(三菱化学、東燃化学)、
ポリプロでグランドポリマー(三井石油化学と宇部興産、2年後に三井東圧が参加)が設立された。

またPSでは日本ポリスチレン(住友化学と三井東圧)、A&Mスチレン(旭化成と三菱化学)、東洋スチレン(電気化学、新日鉄化学、ダイセル)が、
ABSでテクノポリマー(JSRと三菱化学)、遅れて日本エイアンドエル(住友化学、三井化学)、UMG ABS(宇部サイコンと三菱レイヨン)が相次いだ。

この結果、それぞれの石油化学製品のメーカー数は激減した。異なる共販メンバー同士の統合が相次ぎ、共販制度は解体した。


しかし、この動きに乗らない企業があった。統合して大きくならないと駄目だとの報道に反発し、単独でやっていけるとした。

塩ビ業界でトップクラスの信越化学、カネカなどがそうで、当時すでに過剰能力であったなかで次々増設をおこなった。

その結果、値下げ競争が起こり、後ぎめ価格方式の弊害もあって価格は大幅に下がり、塩ビ各社の損益は悪化した。

ーーー

「選択と集中」

新第一塩ビの資本金食いつぶしを受け、対策を協議した結果、日本ゼオンと住友化学は塩ビ事業(モノマー&ポリマー)からの撤退を決め、新第一塩ビはトクヤマが引き継いだ。同社は苛性ソーダが主事業の一つであり、副産の塩素の消費を続ける必要があったという理由もある。

一体化で塩ビ事業の生産と販売は新第一塩ビに移管したとはいえ、新第一塩ビの主株主として需要家との関係は続けてきたが、これを切ることになる。

特に日本ゼオンは古河グループが塩ビ事業進出のために設立した会社であり、当時では塩ビ事業は合成ゴム事業と並ぶ主事業であった。住友化学も日本で最初に塩ビ事業に進出した企業の一つであり、需要家のなかには他の製品を納入している企業も多い。

両社の撤退は各社にショックを与えた。

そしてこれを契機に「選択と集中」が謳い文句になり、各社の合理化が進んだ。

ーーー

第一塩ビグループは、これらの動きのなかで「第一」であった。

レゾナックは3月28日、半導体材料の製造過程で生じる使用済みプラスチ ックを自社のケミカルリサイクル技術を活用して水素や炭酸ガスに換え、資源として循環させる検討を開始したと発表した。

本年1月末に初回の実証試験を行い、技術的に問題なくガス化できることを確認した。

今回試験に使用した使用済みプラスチックは、山崎事業所の感光性フィルムと、五井事業所のダイボンディングフ ィルムの製造過程から発生したもの。
(ダイボンディングフィルムは、半導体チップ=ダイ と基板, あるいは半導体チップ同士の接着に使用されるフィルム状接着剤)

試験では RPF(古紙及び廃プラスチック類を主原料とした高品位の固形燃料)に加工後、川崎プラスチックケミカルリサイクル事業で分子レベルまで分解、水素及び炭酸ガスを生成した。

RPF:Refuse derived paper and plastics densified Fuel:厨芥・紙・プラスチックなどを乾燥粉砕して石灰等を混ぜ、クレヨン状に成形加工し、固形化した燃料

川崎プラスチックケミカルリサイクル事業:2003年に稼働開始し、20年にわたり安定運転しているガス化ケミカルリサイクルプラント。日本のケミカルリサイクルの約22%に相当する年間約7万トンの使用済みプラスチックをガス化している。

水素はアンモニアの原料として、半導体製造用の 高純度ガスを始め、繊維や接着剤の原料、窒素系肥料などに利用され、炭酸ガスは大気中に放出されることなく、 ドライアイスや飲料用炭酸として再利用される。

半導体材料の使用済みプラスチックは、現状では RPF(固形燃料)に加工し、焼却されている。

今回の実証実験で使用済 みプラスチックを焼却せずにガス化することで CO2 排出量を削減できる。

ガス化手法の工程は下記の通り。

 工程1 破砕成形設備で減容成形

収集された使用済みプラスチックは川崎事業所に運ばれ、粉砕機に投入される。

破砕した使用済みプラスチックは異物を除去した後、成形機でより小さな固まり(成形プラ)に加工される。

 工程2 ガス化設備で合成ガスを製造

成形プラは「低温ガス化炉」と「高温ガス化炉」の中で温度と圧力を調整され、水素とCO2の合成ガスとなる。

この過程で回収されるスラグ、金属類、塩、硫黄はすべて、「資源」として有効利用される。

 工程3 合成ガス中の水素からアンモニアを製造

水素とCO2の合成ガスはアンモニア製造設備へ運ばれ、水素を取り出し、その水素を利用してアンモニアが作られる。

CO2は隣接工場でドライアイス、液化炭酸ガスとして出荷される。

JERAは3月25日、ExxonMobilの低炭素水素・アンモニアの製造プロジェクトへの参画についての共同検討に関する契約を締結したと発表した。

ExxonMobilは、現在、米国テキサス州ベイタウン複合施設において、世界最大規模となる低炭素水素製造プラントの開発プロジェクトを進めて いる。

年間約90万トンの低炭素水素を生産するとともに、その水素の一部を原料とした年間約100万トン以上のアンモニアを生産することを想定している。現在、基本設計の検討を行っており、2028年の生産開始を目指してい る。

JERAは、本プロジェクトへ参画し、本プロジェクトで生産する低炭素アンモニアについて日本国内向け(年間約50万トン)を調達する。

ーーー

低炭素水素は、生産過程の炭素排出量を最小限に抑えた水素で、 一般的にはグリーン水素、ブルー水素と呼ばれるものの総称。

ExzxonMobilの計画では、CO2を回収・貯留・利用するブルー水素を指す。

天然ガスとスチームを反応させ、水素とCO2をつくる。CO2は近くの適切な場所に運び、地中深くの岩層に注入し、安全に永久貯蔵する。世界最大級のカーボン捕捉・貯蔵計画である。

水素はテキサス州Baytown に輸送、オレフィンプラントに注入(エタンの代替)し、既存オレフィンプラントと比べ、CO2排出を30%減らす。



将来は、水素からアンモニアを生産、石化原料(エタン代替)と燃料に利用する。

JERAはこのアンモニアを購入し、日本に輸送する。

  

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