ポリプロカルテルで高裁判決

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2000年のポリプロカルテルについては、トクヤマ、出光興産、住友化学、サンアロマーの4社が2007年8月8日の審決を不満として東京高裁に審決取消を求めて提訴していたが、その判決が9月25日にあったことが、10月13日付けの公正取引委員会メールマガジンで明らかになった。

4社は
(1)本件審決は原告ら7社の間でポリプロピレンの販売価格の引上げに関する合意を行ったと認定しているが、そのような事実はなく、
(2)本件審決の事実認定は、引用する証拠自体が実験則や経験則に反しており、実質的な証拠がないなどとして、本件審決の取消しを求めた。

東京高裁は、本件審決の認定は、経験則、採証法則等に反するとはいえず、実質的証拠があって、本件審決が(上記)会合において本件合意(意思の連絡)が成立したと認めたことは合理的であるということができ、本件審決には、原告らの主張するような違法はなく、原告らの請求は理由がないとして、原告らの請求をいずれも棄却した。

判決文 http://snk.jftc.go.jp/JDS/data/pdf/H210925H19G09000035_/090925.pdf

このなかで、「意思の連絡」について、下記の通り述べている。

独禁法3条で禁止されている「不当な取引制限」すなわち「事業者が、他の事業者と共同して対価を引き上げる等相互に事業活動を拘束し、又は遂行することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(2条6項)にいう「共同して」に該当するというためには、複数事業者が対価を引き上げるに当たって、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解される。
この「意思の連絡」とは、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識、認容するのみでは足りないが、
事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる
と解するのが相当である。(中略)
特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には、その行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、強調的な行動をとることを期待し合う関係があり、上記の「意思の連絡」があるものと推認されるのもやむを得ないというべきである(以上につき、東芝ケミカル事件に関する前掲東京高裁平成7年9月25日判例参照)。なお、事業者としては、特段の事情の立証により上記の推認を破ることができるほか、
対価引上げに関する情報交換という不明朗な行為自体を避けさえすれば、上記の推認を受けないものである。

住友化学は14日、「主張が認められなかったことは残念だが、上告しないことにした」とのコメントを発表した。
残りの3社はいずれも「今後の方針を現在検討中」としているが、事態は収束の方向に向かうと見られる。

ーーー

本件の経緯は下記の通りで、公取委の立入検査(2000/5/30)から9年もかかっている。

2000 1 21 部長会で値上げの必要性について意見交換
    2 7 現状のPPの販売価格で採算が取れるナフサ価格の水準 17,000~18,000円/kl で共通認識
(各社:共通認識はない)
    2 21 PPの値上げについて意見の一致をみず
    3 6 4月以降のナフサ価格の見通し 22,000から23,000円/klで一致
10円/kg目処の
引き上げで合意
(各社は「合意なし」と主張)
    3 17 各社の値上げの打出しの内容、対外発表時期等を確認
(各社:値上げ手続き後であり、事前合意がなくとも進捗状況の話はする)
    3 27 各社の責任分担ユーザーを取り決め
(各社:送別会の集まり。酒席で,各社が値上げ交渉に入っている中での難物ユーザーの名を挙げることは、カルテル合意
     の存在を前提としなくても行われ得る)
   4   (4/15~5/1)各社の値上げ実施予定日 →課徴金計算始期
   5 30 公正取引委員会が立入検査   →前日が課徴金計算終期(2007/6/19 審決:日本ポリプロ、チッソ)
  9   チッソ、日本ポリケム、グランドポリマー 
 本件合意から離脱する旨等を他の各社に文書で通知→課徴金計算終期(2003/3/31納付命令:三井化学
2001 5 30 公取委勧告
 

 拒否:住友化学、サンアロマー、出光石油化学(→出光興産)、トクヤマ
      
2001/6/27 審判開始決定
          9/12 第1回審判
      2006/8/4  第28回審判(審判手続終結)


 応諾:日本ポリケム
(→日本ポリプロ)、グランドポリマー(→三井化学)、チッソ

 ○日本ポリケム:
   勧告を厳粛に受け止めている
 ○グランドポリマー:
   ・
合意が成立など認識と異なる部分もあり、応諾するか否か苦慮
   ・まぎらわしい行為があったことも事実
   ・早く結論を出して欲しいという社員の気持にも配慮し、応諾
   ・認識と異なる点については上申書提出

 ○チッソ:
   早く事業に専念したいため応諾

2003 3 31 応諾3社に課徴金納付命令
日本ポリケム  8億4517万円 →審判
三井化学
(グランドポリマー)
 7億6008万円 →応諾
チッソ  4億3513万円 →審判
2007 6 19 日本ポリプロ、チッソ審決
日本ポリプロ
(日本ポリケム)
 2億2087万円
チッソ  1億1662万円

課徴金計算終期の見直しで当初の命令より大幅減額

2007 8 8 勧告拒否4社に審決

  結論 独禁法違反あり(各社は否定しているが)

住友化学、サンアロマー 価格引き上げ合意の消滅の確認とその周知徹底等
出光興産、トクヤマ 格別の措置なし(PPの製造販売業を実質的に営んでいない)

その後、4社全てが東京高裁に控訴

2008 6 20 公取委、残り4社に対し課徴金納付命令

各社の課徴金は以下の通り。(青字が確定分)

  当初課徴金 審判課徴金 今回の命令
三井化学(グランドポリマー)  7億6008万円    
日本ポリケム  8億4517万円  2億2087万円  
チッソ  4億3513万円  1億1662万円  
出光興産      1億4215万円
住友化学      1億1716万円
サンアロマー         5097万円
トクヤマ         4781万円

公取委は8月29日、4社からの審判手続の開始請求を受け、審判を開始すると発表した。

2009 5 19 公取委、住友化学とトクヤマに対し、課徴金納付を命ずる審決
  2008/6/20命令 2009/5/19審決
出光興産  1億4215万円  
住友化学  1億1716万円  1億1716万円
サンアロマー     5097万円  
トクヤマ     4781万円     4779万円

出光興産、サンアロマーは審判継続中

2009 9 25 東京高裁、審決取消請求事件で原告らの請求を棄却する判決

 


* 総合目次、項目別目次
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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