エネルギー供給構造高度化法で重質油利用促す新基準、石油業界の再編圧力に

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経済産業省は7月5日、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」((通称「エネルギー供給構造高度化法」)に基づき、
・化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する基本方針(告示第160号)及び
・原油等の有効な利用に関する石油精製業者の判断の基準(告示第161号)
を発表した。

基本方針
1. 事業者が講ずべき措置に関する事項
  石油精製業者は、石油をめぐる諸情勢を勘案し、重質油分解能力の向上、コンビナート連携の促進、関連技術の開発の推進等を通じて、原油等の有効な利用に取り組むこととする。
   
2. 施策に関する事項
  国は、石油をめぐる諸情勢を踏まえ、石油精製業者による原油等の有効な利用に係る取組が適切かつ円滑に進むよう、重質油分解装置の装備率の向上に係る基準を定め、着実に運用するとともに、石油精製業者による重質油分解能力の向上のための設備の運転面の改善等を促し、コンビナート連携の促進、関連技術の開発の推進等に係る所要の環境整備を進めることとする。
原油等の有効な利用に関する石油精製業者の判断の基準

我が国の重質油分解装置の装備率を2013年度までに現状の10%から13%程度まで引き上げることを目標とする。
  
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/koudoka/resource/kokuji4.pdf

アジアでは安い重質油を処理できる最新鋭の製油所が増えている。経産省によれば、アジア各国の重質油分解装置の装備率は中国が35%、シンガポールが22%。アジア平均でも19%だが、日本は10%程度にとどまり大きく立ち遅れている。

経産省では、我が国の重質油分解装置の装備率を2013年度までに現状の10%から13%程度まで引き上げることを目標とし、この目標達成のため、各石油精製業者又はそのグループ会社ごとに、以下のとおり、重質油分解装置の装備率を向上させることを求めた。

石油精製業者は、石油をめぐる諸情勢を総合的に勘案し、重質油分解装置の新設若しくは増設又は常圧蒸留装置の削減により適切に対応することとしている。

重質油分解装置の装備率 改善率
10%未満の企業  45%以上
10%以上13%未満の企業  30%以上
13%以上の企業  15%以上

重質油分解装置の装備率=重質油分解装置の処理能力÷常圧蒸留装置(トッパー)の処理能力

重質油分解装置の新設には500億円以上かかるとされ、内需が縮小する中で新増設は非現実的で、実質的にはトッパー能力削減しかないとされる。

国内の原油処理能力は日量479万バレルだが、ガソリンなどの需要減で現状の処理量は日量300万バレル台で推移、日量100万バレル以上の過剰能力を抱えている計算になる。

アジアでの競争力を高めるためにも、国内で設備廃棄による収益改善が急務ではある。

但し、この法律の本来の目的は安い重質油の分解能力の向上である筈だ。しかしながら、内需が縮小する中で、500億円もかかる重質油分解装置の新設はありえない。
その中で、重質油分解装置の装備
率の向上に係る基準を定めて強制するのは、経産省が設備処理を強制することとなり、法律の正しい運用かどうか、疑問である。

経産省が設備処理を強制することは出来ないが、装備率の向上を理由に、実質的に設備処理を強制している。
しかも、過去の経営判断で重質油分解能力が低いところが、狙い撃ちされることとなる。

どういう原料を使って、どういう製品をつくるかは、企業の判断であり、国が方向性を決めるのはよいが、強制するのはどうか。

付記 2010/7/21 エネルギー供給構造高度化法は第二の産構法か?

付記 
石油精製各社は、「エネルギー供給構造高度化法」による重質油分解装置の装備率の新基準について10月末に経済産業省に計画を提出したが、その内容は非開示であるという。

AOCホールディングスは富士石油・ 袖ケ浦製油所の第1常圧蒸留装置(5.2万バレル)の廃棄を経産省に届け出たとされる。(能力 19.2→14.0万バレル)

付記
出光興産は2011年11月1日、徳山製油所(12万バレル/日)を2014年3月に停止すると発表した。

ーーー

週間ダイヤモンド(2010年6月22日号)は4月時点で発表された案に基づき、各社別の試算を行っている。

重質油分解装置の装備目標達成のために、(重質油分解装置新設ではなく)トッパー処理能力をいくら減らすべきかを試算し、既に発表済みの削減計画でクリアできるかどうかをチェックした。(
表は一部補正、重質油分解能力は逆算した)

昭和シェル石油グループ、JXグループ、出光興産は既に発表しているトッパー処理能力削減計画により基準をクリアできるが、コスモ石油、東燃ゼネラル石油はクリアできない。

社名 製油所 トッパー
処理能力
(万bbl/d)
重質油分解装置 改善達成
のための
トッパー
能力
(万bbl/d)
トッパー
能力
削減
義務量
(万bbl/d)
トッパー能力
削減計画発表
分解能力
(万bbl/d)
現状
装備率
(%) a
改善
目標率
(%) b
改善後
装備率(%)
 a x b
昭和シェル石油グループ
昭和四日市石油 四日市 21 29.0 2011年
京浜の
12万バレル
(クリア)
西部石油 山口 12
東亜石油 京浜 18.5 14.6
合計 51.5 8.8 17.1 15 19.665 44.8 6.7
JXグループ
  ジャパンエナジー 水島 20.52 14.6 2013年度末までに
60万バレル
(クリア)
鹿島石油 鹿島 27
新日本石油精製 室蘭 18
仙台 14.5 29.7
根岸 34 11.8
大阪 11.5
水島 25 18.4
麻里布 12.7 17.3
大分 16 16.3
合計 179.22 20.6 11.5 30 14.95 137.9 41.4
出光興産
北海道 14 23.6 2013年度中に
10万バレル
(クリア)
千葉 22
愛知 16 31.3
徳山 12
合計 64 8.3 13.0 15 14.95 55.7 8.3
コスモ石油
千葉 24 8万バレル
(不足)
四日市 17.5
8 31.3
坂出 14
合計 63.5 2.5 3.9 45 5.66 43.8 19.7
東燃ゼネラル石油
川崎 33.5 8.4 発表なし
(不足)
15.6
和歌山 17
合計 66.1 2.8 4.2 45 6.09 45.6 20.5
太陽石油 四国 12 2.5 20.8 15 23.92 10.4 1.6
富士石油 袖ヶ浦 19.2 2.4 12.5 30 16.25 14.8 4.4
極東石油工業 千葉 17.5 3.4 19.4 15 22.31 15.2 2.3

コスモ石油、東燃ゼネラル石油はいずれも30%程度の設備削減が必要で、製油所周辺地域への製品の安定供給などの観点から「他社との提携に踏み切らざるを得ない」との見方もあり、業界再編につながる可能性もある。

ーーー

エネルギー供給構造高度化法は2009年7月1日に成立した。

電気やガス、石油事業者といったエネルギー供給事業者に対し、非化石エネルギー源の利用を拡大するとともに、化石エネルギー原料の有効利用を促進することを目的とするもの。

具体的には、経済産業大臣が基本的な方針を策定するとともに、エネルギー供給事業者が取り組むべき事項について、ガイドラインとなる判断基準を定める、これらの下で、事業者の計画的な取組を促し、その取組状況が判断基準に照らして不十分な場合には、経済産業大臣が勧告や命令をできる。

エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律  (平成21年法律第72号)


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


コメント(2)

EMは日本撤退か?もう一つ地下タンク一重殻タンクの問題も2013年迄だ、石油業界はどうなってしまうのか?

石油精製各社は、「エネルギー供給構造高度化法」による重質油分解装置の装備率の新基準について2010年10月末に経済産業省に計画を提出したが、その内容は非開示であるという。
もしかしたら、METIが独禁法違反という批判を気にしたのか。


ExxonMobil(東燃ゼネラル)については、これについて述べているブログを見つけた。
http://oilers.blog101.fc2.com/blog-category-22.html
製油所の廃棄はないだろうというもの。
筆者もこの見方に同意する。堺も和歌山も存在の意味があり、仮にどちらかを止めても、まだ不足する。

どう見ても独禁法に違反するMETIの「告示」(法律ではない)を強制はできないだろう。

地下タンク一重殻タンクの問題は下記参照
  http://www.city.sapporo.jp/shobo/yobo/kikenbutsu/shisetsu/chika_tank20130201.html#2
背景 http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g60421a04-2j.pdf

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