東洋紡、米国でのザイロン(R) 繊維を使用した防弾ベストの訴訟で和解

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東洋紡は2月16日、米国の防弾ベストメーカーSecond Chance Body Armorからの損害賠償請求訴訟で和解契約を締結したと発表した。

破産した同社の破産管財人から提起されていた訴訟で、東洋紡が500万ドルを支払うことで和解する。
破産裁判所による承認が条件
となる。

ザイロンは有機系繊維の中では最高レベルの引張強度・弾性率を持つ繊維で、防弾チョッキ、コンクリート補強材、卓球ラケットなどに幅広く使用されている。DuPontのケブラーに比べ2倍の強度を持ち、弾性率、650℃高い分解温度、難燃性を持っている。

  poly(p-phenylenebenzobisoxazole

東洋紡は1998年にSecond Chance Body Armorとの間で、防弾チョッキ製造のためザイロンを供給する契約を締結した。

Second Chanceはザイロンでできた自社の防弾チョッキについて「もっとも薄く軽く、もっとも強い」と宣伝、1999年から2004年にかけて米国政府や地方の警察などに合計66千以上の防弾チョッキを販売した。

しかし、ザイロンには日光や熱、湿気にさらされると劣化する性質があった。
そうした欠陥がだんだんと分かってきたにもかかわらず、
Second Chanceは長らく米政府にそれを知らせなかった。

2003年9月に、Second Chanceが、ザイロンを使用した防弾チョッキの性能が予想より早く劣化するとして、これらの防弾チョッキの製造を中止し、販売済の製品を回収、補強、交換等の措置を取ることを発表した。

東洋紡はこれに関し、2001年7月から、強度保持性の指標として、高温、高湿下における強度保持のデータを定期的に開示してきており、一定以上の特殊な環境下でザイロン原糸の引っ張り強度が低下することは業界で広く理解されてきたと述べた。

2003年11月に、マサチューセッツ州の司法長官は、Second Chanceに対し、同社が製造・販売したザイロン使用の防弾チョッキの販売中止、交換、損害賠償等を求める訴訟を起こした。

2003年12月には、イリノイ州において、Second Chanceの防弾チョッキの購入者から、損害賠償を求める集団代表訴訟が提起された。

このほか、防弾ベストのユーザー等からオクラホマ州の地方裁判所に集団訴訟が行われた。

いずれも東洋紡も被告になっている。

東洋紡は、ザイロン繊維が欠陥ある製品であるとは考えておらず、ザイロンは防弾チョッキの一部分を構成する材料であり、いずれのケースも防弾チョッキメーカーの設計、製造、販売の問題であって、ザイロン繊維の瑕疵に起因するものではないと主張したが、いずれも和解している。

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Second Chance 2004年4月に、東洋紡に対する損害賠償請求訴訟を提起した。

Second Chance 、2004年10月に会社更生手続(Chapter 11)の申立をし、2005年11月に破産手続(Chapter 7)に移行した。
この結果、訴訟は破産管財人との間で、破産裁判所で進行した。

原告は、東洋紡がザイロン繊維に関する明示または黙示の保証に違反し、虚偽の品質情報を提供し、また契約に基づく誠実義務を履行せず、損害を生じさせたと主張した。

東洋紡は、相手方の主張が誤りで、同社に非がないことを主張し、長期間にわたって争ってきた。

今回、破産裁判所の指示による当事者間の協議の結果、訴訟を継続した場合の費用や判決の不確実性を勘案し、法的責任を認めることなく和解契約を締結することが妥当と判断し、500万ドルでの和解について合意した。

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現在、防弾ベストに関連し、米国政府との訴訟、Point Blank SolutionsやFirst Choice Armor & Equipmentとの訴訟など、東洋紡を被告とする複数の訴訟が継続している。

司法省は2005年6月、政府を代表してSecond Chance と東洋紡を訴えた。

この訴訟のもともとの原告は、Second Chance の元幹部で、訴状や証拠資料は秘密裏に司法省に送られ、財務省の監査官事務所な どが調査を開始、元幹部は内部告発者の立場で政府の調査に協力した。

米国の 不正請求防止法では、政府との取引で代金などを請求する際にウソを言った場合は、その業者は政府の損害額の3倍の金額と民事制裁金を政府に払わなければな らないと規定されている。
そうしたウソがあった事実を裏付ける証拠を持っている関係者は、政府に代位してみずから業者を相手取った訴訟の原告となることがで き、勝訴した場合は、回収額の最高3割を報奨金として受け取ることができる。
キイタム訴訟(Qui Tam Actions)と呼ばれる。
元幹部はこの制度に基づいて提訴した。

司法省は、東洋紡が欠陥を知っていながら、これを米政府に開示しなかったことを問題視した。
一方、東洋紡は、「ザイロン繊維の品質特性を何ら隠蔽していない」と反論。「ザイロンの劣化に関する各時点の最新の情報をSecond Chance に提供した」「東洋紡は政府に何らのウソもついておらず、責任はすべてSecond Chance にある」と主張して、東洋紡に対する訴えの却下を裁判所に申し立てた。

2010年2月、ワシントンDCの米連邦地裁は東洋紡の訴えを却下する決定を下し、東洋紡からの異議に対し、同年5月、結論を維持する決定を下した。

これから審理が本格化する。

Point Blank Solutions、First Choice Armor & Equipmentは、ザイロン繊維を用いて防弾ベストを製造し販売した米国の防弾ベストメーカーで、ザイロン繊維には欠陥および劣化の問題があると主張するとともに、東洋紡が当該欠陥等を知りながら隠してザイロン繊維を販売した結果、防弾ベストのリコールや販売中止のために多額の損失を被った、と主張している。

 


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