菅首相、浜岡原発の全炉の運転停止を要請

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菅直人首相は5月6日、中部電力の浜岡原子力発電所について、定期検査中の3号機のほか現在稼働中の4、5号機も含めてすべての原子炉を停止するよう要請したと発表した。

期限は、津波対策などで中電が検討している「防波壁の設置など中長期の対策が完成するまでの間」とした。

浜岡原子力発電所
  運転開始  万kw 現状
1号機 1976 54  控訴審中に廃炉決定、2009/1運転停止
2号機 1978 84  同上
3号機 1987 110  定期検査で停止中
4号機 1993 113.7 運転中
5号機 2005 138  運転中

中部電力は今回の原発の被災状況を踏まえた浜岡原子力発電所の緊急安全対策について、経済産業大臣からの指示に基づきとりまとめ、4月20日、原子力安全・保安院へ報告書を提出した。
この中には砂丘と原子炉建屋の間に15メートルの防波壁を設置することが含まれている。(当初案は12メートル)
4月5日に地盤調査を開始、完成は2013年度中となっている。

 

 

付記(2012/1/2)

中部電は高さ18メートルの防波壁の建設などを柱とする約1000億円の対策工事に着手し、2012年末までに完成させる予定。

しかし、川勝平太・静岡県知事は、「福島第一原発事故で(浜岡原発と同じ)沸騰水型は危ないというのが日本人の共通認識になった」として、中部電の津波対策が完了しても再稼働を認めない方針を初めて明言した。

浜岡原発3、4号機が福島第一原発
と同じ沸騰水型軽水炉(BWR-5改良標準型)、5号機がその改良型(ABWR)であることを問題視し、「津波対策ができても再稼働の話にはならない。事故を繰り返さないためにはパラダイム(思考の枠組み)を変えるしかない」と述べた。

* 福島第一 1号機BWR-3、2-5号機BWR-4はいずれもMark-1(フラスコ型)、6号機BWR-5はMark-2(円錐型)

 


海江田万経済産業大臣は中部電力に対し、以下の要請を行った。

平成23年3月30日に貴社に対し緊急安全対策の実施を指示し、その実施状況に関する報告を受け、その内容を確認した結果、適切に措置されているものと評価します。
しかしながら、浜岡原子力発電所については、想定東海地震の震源域に近接して立地しており、文部科学省の地震調査研究推進本部の評価によれば、30年以内にマグニチュード8程度の想定東海地震が発生する可能性が87%と極めて切迫しているとされており、大規模な津波の襲来の可能性が高いことが懸念されることから、貴社の報告にある津波に対する防護対策及び海水ポンプの予備品の確保と空冷式非常用発電機等の設置についても確実に講ずることを求めます。
また、これらの対策が完了し、原子力安全・保安院の評価・確認を得るまでの間は浜岡原子力発電所の全ての号機について、運転を停止するよう求めます。

首相は記者会見では「浜岡原発で重大な事故が発生した場合、日本社会全体におよぶ甚大な影響を併せて考慮した結果だ」と強調した。
「先の震災とそれに伴う原子力事故に直面し、私自身、浜岡原発の安全性について様々な意見を聞いてきた。熟慮を重ねた上で内閣総理大臣として本日の決定をした」と語った。

中部電力は、「要請内容について迅速に検討いたします」とのコメントを出した。

同社の2011年度の供給計画(単位:万kw)では、

  計画 浜岡停止 停止後
供給力  3,000  -360  2,640
ピーク需要  2,560    2,560
予備電力   440      80

と浜岡停止で予備電力はほとんどなく、同社では
「極めて低い水準で、計画停電などの協力をお願いする可能性もある。東電に融通している電力供給にも影響が出る恐れがある」とする。
海江田経済産業相は、関西電力に対して中部電力に電力を融通するよう支援要請したことを明らかにした。

   

付記
    2011/5/11の河野太郎ブログは「中部電力の電力供給は足りないか」では、電力不足に疑問を呈している。
   
http://www.taro.org/2011/05/post-1003.php

ーーー

浜岡原発を抱える静岡県御前崎市の石原茂雄市長は、
「原発交付金に依存する自治体財政はどうなるのか、困惑を通り越してあっけに取られるばかりだ。菅首相は選挙目当てでこんな思い付きを言うのかと勘ぐってしまう。国策に従って原発を受け入れてきた自治体はどうなるのか。中部電力はどうするのか聞きたい」と怒りをあらわにした。

河野太郎衆院議員はブログで、「ようやく浜岡原発の停止を政府が要請した。残りの原発に関してもきちんとしたストレステストをすべきだ。そして自民党としても、今回の政府の要請を評価し、後押しをしなければならない」としている。

 

参考  2011/4/19 「浜岡原発を止めよ」
  2011/4/22 浜岡原発について
  2011/5/3 「再び、浜岡原発を問う」

なお、4月28日の「経済情勢に関する検討会合」で「浜岡原発は止めるべきだ」と発言したのは、原発プラント輸出の旗振り役であった仙石官房副長官であることが判明した。

ーーー

付記

中部電力は5月9日午後に開いた臨時取締役会で、菅直人首相の要請を受け入れ、浜岡原子力発電所の全炉を数日中に停止することを決めた。

水野明久社長の記者会見でのやりとりは以下の通り。

 ――浜岡4、5号機の停止はいつごろになるのか。
 「電力を融通している東日本、九州の電力会社と調整してから、1基ずつ止める。数日をメドに完了できる」

 ――いつごろ再開できると想定しているのか。
 「津波の安全対策は2、3年かかる。早期完了に全力を挙げたい」

 ――菅直人首相の要請を受諾した理由は。
 「原子力事業は地域や社会の信頼を得て初めて成り立つ。福島第一原発の事故を契機とする新たな不安を真摯に受け止め、安全を最優先に進める」

 ――株主代表訴訟へのリスクは。
 「安全対策を施した後、運転を再開することが、長い目でみれば利益になると判断した」

 ――電力は本当に確保できるのか。
 「計画停電を実施しないで済むよう、あらゆる手段をとる。お客様には一層の節電をお願いしたい」

 ――電気料金の値上げは考えているのか。
 「現時点では考えていない。迷惑をかけないようにしていく」

 ――コスト増はリストラで対応するのか。
 「経営の効率化は常に頭に置いており、再度見直して、最大限の努力を続ける。具体的にはこれから詰める」

 ――今期の業績は営業赤字になるのか。
 「赤字になる可能性は否定できない。影響額は最大限、抑制したい」

 ――震災後も浜岡原発の安全性に自信を見せていたが。
 「安全対策は適切に実施されており、海江田万里経済産業大臣の確認もとれている。今回の停止は、一層安心を頂くためのものだ」

ーーー

日本の原子力発電所の現況は下記の通りで、合計54基のうち、震災で停止中が11基、定期検査で停止中が21基あり、稼働中は22基に過ぎない。

   付記 その後、浜岡④、⑤が停止。美浜③、川内①が定期検査入り。
       更に夏までに、大飯④、高浜④が定期検査。

      付記 東電は福島第一①~④の廃炉と⑦⑧の中止を決定した。

発電所名 電力会社 立地 能力(万KW)
稼働中 定期検査
 停止中
震災で
 停止中
廃炉   建設中   計画
北海道電力 北海道古宇郡泊村 ②57.9   ①57.9
③91.2
       
東通 東北電力 青森県下北郡東通村   ①110       ②138.5
東京電力         ①138.5 ②138.5
女川 東北電力 宮城県牡鹿郡女川町     52.4
82.5
82.5
     
福島第一 東京電力 福島県双葉郡
大熊町・双葉町
  ④78.4
⑤78.4
⑥110
①46.0
②78.4
③78.4
    ⑦138
⑧138
福島第二 東京電力 福島県双葉郡富岡町     ①110
②110
③110
④110
     
東海 日本原子力発電 茨城県那珂郡東海村     110.0 ①16    
柏崎刈羽 東京電力 新潟県柏崎市 ①110
⑤110

⑥135.6
⑦135.6
②110
③110
④110
       
浜岡 中部電力 静岡県御前崎市 ④113.7
⑤138
③110   ①54
②84
  ⑥138
志賀 北陸電力 石川県羽咋郡志賀町   54
②135.8
       
敦賀 日本原子力発電 福井県敦賀市 ②116
①35.7       ③153.8
④153.8
美浜 関西電力 福井県三方郡美浜町 ②50
③82.6
①34        
大飯 関西電力 福井県大飯郡おおい町 ②117.5
④118.0
①117.5
③118.0
       
高浜 関西電力 福井県大飯郡高浜町 ②82.6
③87.0
④87.0
①82.6        
島根 中国電力 島根県松江市 ②82.0 ①46.0     ③137.3  
伊方 四国電力 愛媛県西宇和郡伊方町 ①56.6
②56.6
③89.0        
玄海 九州電力 佐賀県東松浦郡玄海町 ①55.9
④118.0
②55.9
③118.0
       
川内 九州電力 鹿児島県薩摩川内市 ①89.0
②89.0
        ③159
合計     22基 21基 11基      
他に
もんじゅ
(高速増殖炉)
日本原子力
研究開発機構
福井県敦賀市 28
停止中

注 日本原子力発電は日本最初の商用原子力発電所(東海村東海発電所)建設のため、9電力会社(80%)と電源開発(20%)の出資によって1957年に設立された。     


目次、項目別目次

http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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