政府は7月29日、第2回エネルギー・環境会議を開催した。
議題 1.当面のエネルギー需給安定策について
2.「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理について
概要は以下の通り。
1.当面のエネルギー需給安定策
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20110729/siryo1_1.pdf
原子力発電所が再起動しない場合の電力需給動向は以下の通り。 (単位:万kw)
ピーク需要 | 供給能力 | 過不足 | 対策 | |||
今夏 | 東日本 | 7,986 | 7,401 | -585 | -7.3% | 平日昼間における15%の節電要請と 大口需要家への電力使用制限 |
中西日本 | 9,968 | 10,070 | 102 | +1.0% | 関西電力管内は、平日昼間における10%超の節電要請 | |
合計 | 17,954 | 17,471 | -483 | -2.7% | ||
今冬 | 東日本 | 7,149 | 7,069 | -80 | -1.1% | 平日昼間における節電要請に加えて 補正予算などを活用した政策支援 |
中西日本 | 8,662 | 8,629 | -33 | -0.4% | 同上 | |
合計 | 15,811 | 15,698 | -113 | -0.7% | ||
来夏 | 東日本 | 7,986 | 7,152 | -834 | -10.4% | 同上 |
中西日本 | 9,968 | 9,145 | -823 | -8.3% | 同上 | |
合計 | 17,954 | 16,297 | -1,657 | -9.2% |
前提
①最大電力需要は、昨年実績 or 各社の今後の見通し
(需給調整契約によるカットを折り込まず) →対策余地あり
②定期検査に入った原子力発電所について再起動なしの場合
③火力発電所等は、7月27日時点の見通し
→電力会社による供給力の積み増し、自家発による供給力積み増しを期待
原発を再稼働させない場合の電力コストアップは3.16兆円(経産省試算)
原発発電量 x (火力燃料費 ー 原発燃料費)
原発発電量 2745億kwh(2009年実績稼働率)
火力燃料費 12.5円/kwh (LNG 11円、石油 16円)
原発燃料費 1円/kwhLNG価格上昇など、折り込まず。
基本的な対処方針5原則
(1)原子力発電所の停止が広範に生じた場合でもピーク時の電力不足とコスト上昇を最小化する
(2)計画停電、電力使用制限、コストの安易な転嫁を極力回避する。
(3)政策支援や規制・制度改革で持続的かつ合理的な国民行動を全面支援し、エネルギー構造改革を先行実施。
(4)経済活性化策としてエネルギー需給安定策を位置づける。
(5)国民参加の対策とするため、3年間の工程を提示する。
目標達成へ向けた具体的な対策
(1)需要構造の改革 | ||
○ | 省エネ商品の導入促進 | |
○ | 産業の省エネ投資の促進 | |
○ | 住宅や工場、ビルの省エネ投資促進等 | |
○ | 家庭も含む需要家による投資促進 | |
○ | スマートメーター(通信機能付き高性能メーター)の導入促進及び活用 | |
○ | 地域ぐるみの節電行動への支援、地域における分散型エネルギーの地産地消システムの構築、地域主体の発電事業者の育成 | |
○ | 就業日・時間のシフト等、社会行動改革の促進 | |
(2)効率性と環境性を重視、あらゆる主体の電力供給への参加を促す | ||
○ | 再生可能エネルギーの導入拡大 | |
○ | 火力発電の増強、高効率化支援等 | |
○ | 資源確保戦略の強化 | |
○ | ピーク電力供給力強化 | |
○ | 分散型電源(再生可能エネルギー、熱やガスを併給する燃料電池やコジェネレーションシステム等環境性の高いエネルギー)、スマートコミュニティー(次世代エネルギー・社会システム)の導入促進 | |
(3)電力システムの改革(需要構造改革と供給構造の多様化の視点で) | ||
○ | 柔軟な料金メニューの設定などの需要家のピークカットの誘引強化、小売事業の自由化などを通じた需要家の選択肢の拡大 | |
○ | 電力卸売市場の整備など、電力会社間及び電力会社と自家発の間の競争促進 | |
○ | 電力会社の調達改革によるコスト構造のスリム化 | |
○ | 送電・配電システムの機能強化 (送電・配電網のスマート化や連系送電網の整備、再生可能エネルギー導入の基礎となる送電網の拡充) | |
○ | 送電・配電事業の中立性・公平性の強化 | |
(4)再起動も含め原子力安全対策を徹底するという国の姿勢を明示 | ||
2.「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20110729/siryo2_1.pdf
戦略の基本理念
基本理念1:新たなベストミックス実現に向けた三原則
原則1:原発への依存度低減のシナリオを描く。
原則2:エネルギーの不足や価格高騰等を回避するため、明確かつ戦略的な工程を策定する。
原則3:原子力政策の徹底検証を行い、新たな姿を追求する。
基本理念2:新たなエネルギーシステム実現に向けた三原則
原則1:分散型のエネルギーシステムの実現を目指す。
原則2:課題解決先進国としての国際的な貢献を目指す。
原則3:分散型エネルギーシステム実現に向け複眼的アプローチで臨む。
基本理念3:国民合意の形成に向けた三原則
原則1:「反原発」と「原発推進」の二項対立を乗り越えた国民的議論を展開する。
原則2:客観的なデータの検証に基づき戦略を検討する。
原則3:国民各層との対話を続けながら、革新的エネルギー・環境戦略を構築する。
戦略工程
(1)短期(今後3年の対応)
エネルギー構造改革の先行実施。当面は需給安定に全力。
原発への依存度低減について、国民的議論を深め、対応を決定。
(2)中期(2020年を目指して)
新たなベストミックスとエネルギーシステムを目指す。
(3)長期(2020年から、2030年又は2050年を目指して)
新たなベストミックスとエネルギーシステムの成果を実現する。
「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた論点を整理する
①原子力をはじめとしたコストの徹底的な洗い出し及び中長期的な見通し、
②再生可能エネルギーをはじめとした技術革新と経済拡大効果の見極め、
③化石燃料をはじめとした環境性能向上の可能性の評価等、前提となる検証事項について具体化する。
「コスト等試算・検討委員会(仮称)」の設置
「客観的なデータの検証に基づき戦略を検討する」ことが原則となる。
原発をはじめとする電源別のコスト、再生可能エネルギーの導入可能量等などを検討し、方針策定に反映。
① どのような試算方法が適当か。
② 前提条件の設定が適切か。
③ 政策経費を勘案すべきではないか
④ 各電源別に、それぞれ考慮すべき重要な項目があるのではないか。
⑤ その他、試算にあたっては影響を考えるべき事項もあるのではないか。
資料:発電コスト試算比較(今後の方向性)
筆者注
各エネルギーの縦棒の上下にある数値は、これまでに発表された発電コストの幅を示す。
それに対し、点線の矢印(紫の上向き、ブルーの下向き)で今後の変動の可能性を示している。太陽光発電の、2020年14円、2030年7円はNEDO「太陽光発電ロードマップ」(2009年6月)
原子力の「バックエンド」は放射性廃棄物の処分費用で、現在一部だけが計算に入っている。
(原子力では、一般会計のエネルギー対策費や電源開発促進対策特別会計もコスト計算に入っていない)
原子力のコストについては大島堅一立命館大教授の分析がある。
詳細な解説は http://iwakamiyasumi.com/archives/8207
水力発電には揚水発電(原発の夜間電力利用)が含まれ、これを除くともっと安い(最近で3.5円)としている。
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