最高裁判決、 混合診療禁止は「適法」

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健康保険が使える保険診療と適用外の自由診療とを併せて受ける「混合診療」を原則として禁じている国の政策が適法かどうかが争点となった訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長)は10月25日、「国の政策は適法」との判断を示した。

健康保険法には「混合診療は全額自己負担にする」という明文規定はないが、現在の制度では、保険給付対象と対象外の治療を併用した場合(混合診療)は、全ての治療が保険の給付対象外となる。

これまで混合診療については、歯科において平成元年に東京地裁で、「治療行為のすべてが、療養の給付の対象外となる」という判決が出ている。

厚生労働省は、「医療の平等の確保」、「安全性と有効性の確保」、「患者の負担を抑える」といった理由から、混合診療を認めていない。患者が医師の言いなりになり、高額で安全性が確認されていない診療を受けて負担が増すことを防ぐ目的もあるとする。

但し、「先進医療」として指定された治療(後記)を指定機関で受けた場合は、例外として、保険給付対象治療については給付対象となる。(先進医療分は全額自己負担)

本件は、保険給付であるインターフェロン療法と、保険外である活性化自己リンパ球移入療法を併用した原告が、インターフェロン療法について療養の給付を受ける権利を有することの確認を求めた「確認訴訟」で、最高裁は、患者の上告を棄却し、患者側の敗訴が確定した。

本件では、2007年11月の一審・東京地裁判決は、「健康保険法などを検討しても、保険外の治療が併用されると保険診療について給付を受けられなくなるという根拠は見いだせない」とし、国による現状の法解釈と運用は誤りであるとの判断した。

一方で、同判決は、「法解釈の問題と、混合診療全体のあり方の問題とは次元の異なる問題」とも述べ、混合診療自体の是非についての言及は避けた。

しかし、2009年9月の二審・東京高裁判決は、1984年の健康保険法改正で国が特定の高度先進医療に限って例外的に混合診療を認めた点を踏まえ、「これ以外の混合診療は禁じていると解釈すべきだ」と述べ、一転して患者側敗訴としていた。

  • 法令で混合診療が禁止されているのは明らか

保険医療機関及び保険医療養担当規則第18条で
「保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生労働大臣の定めるもの(先進医療)のほか行つてはならない」
とされており、保険医が保険外診療を行なうことは禁止されている。

  • 混合診療は禁止されているのだから、給付の有無が明記されてなくても、「療養の給付」が給付されることにはならない
     
  • 憲法は合理的理由に基づいた区別を禁止しておらず、混合診療を禁止することには一定の合理性があるから、法律の裁量権の範囲内であり、受給できなくても憲法違反にはならない
     
  • 有効性が明らかでないとして特定療養費から外された療法を受けられなくなっても、生存権は脅かされないから憲法違反にはならない
     
  • LAK療法に代わる他の活性化リンパ球移入療法を受ける余地があるので、憲法違反にはならない


今回の最高裁の判決の骨子は以下の通りで、高裁判決を認めている。

例外的に保険診療分を支払う保険外併用療養費の先進医療制度の趣旨や目的を考慮すれば、健康保険法は混合診療を原則禁止していると解釈できる。
   
混合診療で保険外併用療養費の支給要件を満たさない場合、保険診療相当部分も保険給付ができないと解するのが妥当。
   
混合診療の原則禁止は、患者の治療選択の自由を不当に侵害して著しく合理性を欠くとはいえず、憲法違反ではない。
   

判決は五裁判官の全員一致だが、田原睦夫裁判官は「法の規定は明解に定められるべきである」とし、健康保険法に明確さが足りないと指摘した。1

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日本医師会は医療給付上の格差を拡大するものとして、混合診療に反対している。

保険外診療は、事前に有効性、安全性が認められていないために保険外となっているものである。
これを保険と併用した結果、なんらかの問題が発生した場合、患者にとって不利益となるばかりか、公的保険の信頼性が損なわれる。
   
「混合診療」が解禁され、新しい医療技術等は自己負担という流れができると、新たな医療技術等を保険下に組み入れようとするインセンティブが働きにくくなり、その結果、公的保険給付範囲が縮小する恐れがある。
   
混合診療が解禁された場合、「全額自己負担」は、「保険診療の一部負担+保険外診療の自己負担」になる。
しかし、すべての国民に、保険外診療の自己負担が可能なわけではない。

 

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「先進医療」の概要

「先進医療」は、2004年12月の厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣(規制改革、産業再生機構)、行政改革担当、構造改革特区・地域再生担当との「基本的合意」に基づき、国民の安全性を確保し、患者負担の増大を防止するといった観点も踏まえつつ、国民の選択肢を拡げ、利便性を向上するという観点から、保険診療との併用を認めることとしたもの。

厚生労働省解説 いわゆる「混合診療」問題について ①同 ②

混合診療は次の3つに分類されている。
 日本国内未承認薬の使用(諸外国では承認されているが日本では未承認 =「ドラッグ・ラグ」)
 高度先進医療(肝臓移植、体外衝撃波膵石破砕術など)
 制限回数を超える医療行為(腫瘍マーカー、ピロリ菌除去など)

2006年の健康保険法等の一部を改正する法律において、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」として、厚生労働大臣が定める「評価療養」の1つとされている。

具体的には、有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに一定の施設基準を設定し、施設基準に該当する保険医療機関は届出により保険診療との併用ができることとしたもの。
また、将来的な保険導入のための評価を行うものとして保険診療との併用を認めたもので、実施している保険医療機関から定期的に報告を求めることとしている。

201110月現在で、94種類の先進医療について、当該技術の施設の要件が設定されている。

先進医療を受けた場合、「先進医療に係る費用」は全額自己負担、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われる。

保険会社のTVコマーシャルで「先進医療特約ー1000万円の限度額までカバー」などとといっているのは、この自己負担分をカバーするもの。

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