EU、イラン原油禁輸を7月完全実施へ

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1月23日、ブリュッセルで外相理事会を開き、イランへの制裁措置として、同国産原油の輸入禁止と同国中央銀行の資産凍結など、下記の項目を正式決定した。

・イラン原油及び石油製品の欧州での輸送・購入・輸入の禁止、及び関連するファイナンスと保険契約の禁止
  既に締結済の契約は6月末までは認める。5月1日までに再検討する。

付記
EUは6月25日の外相理事会で、7月1日から域内保険会社がイラン産原油輸送タンカーに損害保険を販売することを禁止することを決めた。

日本では、「 特定タンカーに係る特定賠償義務履行担保契約等に関する特別措置法」が6月20日の参議院本会議で全会一致で可決・成立した。
イラン産原油を運ぶ日本のタンカーに重大な事故が起きた場合、最大で76億ドルを国が補償する。

・イランのエネルギー部門への重要技術の輸出禁止、及びイランの石油化学企業、JVへの新規投資の禁止

・EU内のイラン中央銀行資産の凍結、イラン政府と中央銀行との金・希少金属・ダイヤモンドの売買禁止

・ "Sensitive dual use" goods(軍事用にも使用できる製品)のイランへの販売禁止

原油禁輸をめぐっては、フランスなどが早期発動を主張。一方、財政危機に直面しているギリシャはイラン原油への依存度が高い上、低価格で調達しており、経済的影響を配慮して猶予期間などの調整が図られていた。

EUの決定に対し、イランはこれを強く非難し、ホルムズ海峡の封鎖を警告した。

パネッタ米国防長官は1月18日の記者会見で、イランが海峡封鎖を実行すれば、軍事行動を取る方針を改めて明言した。

中東を歴訪している中国の温家宝首相は1月19日、ホルムズ海峡の封鎖について「どのような状況でも、海峡の安全と正常な航行は保障されるべきだ」と述べ、緊張回避に向けイランに自重を求めた。

他方で、イランの核兵器開発には「断固反対」とする一方、「中国とイランの石油貿易は正常な活動で、保護されるべきだ」とイランからの原油輸入を続ける意向を示した。

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米エネルギー省によると、ホルムズ海峡を通過する原油の量は2009~10年は平均1550万~1600万バレルで、2011年には日量1700万バレルまで増え、世界の原油需要の2割近い。

ホルムズ海峡を回避するルートは以下の通りで、30%程度しかカバー出来ない。

  単位:bbl/d
能力 既使用 使用可能量 
サウジ East-west Pipeline    500万   150万 350万
サウジ Trans Arabian Pipeline 50万 5~50万
Abu Dhabi Crude Oil Pipeline 150万 150万
Iraq-Turkey Pipeline 30万 30万
合計     535~580万

 


サウジのEast-west PipelineJubail とYanbuの1170kmを結ぶもので、1982年に完成した。

Yanbuの石化コンプレックスに原料を送るNGLパイプライン(日量 555千バレル)と、ホルムズ海峡が封鎖された場合に備え紅海側に原油を送るための原油パイプライン(日量500万バレル)がある。

PetroRabighは、精製する石油はYanbuからタンカーで運び、石化原料はEast-west Pipelineから分岐したパイプで受け入れている。
PetroRabighの精製能力は日量40万バレル。

East-west Pipelineの送油量は500万バレルだが、現在の使用量は150万バレル程度とみられている。

YanbuからBab al-Mandab海峡を通って主な需要家のアジアに運ぶには、ホルムズ海峡を通るのと比べ往復5日が余分に必要なため。

Trans Arabian Pipelineはサウジからヨルダン、シリアを通り、レバノンまで原油を運ぶものだが、政情不安によるテロの脅威から送油が停止されている。実際の送油可能量は能力の1/10の5万バレル程度との説がある。

Abu Dhabi Crude Oil Pipeline2008年から建設を進めてきたもので、アブダビ南西のHabshan(Abu Dhabiの陸上原油の半分以上を集める拠点)からUAE東部のFujairah港まで370kmを結び、UAEの原油生産量の約7割に相当する日量150万バレルのMurban 原油を輸送する。

2010年12月に試運転を開始、本年6月に稼動を開始する。

2010/12/3 Abu Dhabi Crude Oil Pipeline 完成  

イラクのパイプラインは以下の通り。

Iraq-Turley Pipelineは使用可能だが、Iraq-Syria-Lebanon Pipelineは何度も爆破され、修理には新設と同額程度の費用が必要とされている。

1991年まで、イラクから165万バレルの石油をサウジの紅海沿岸までつなぐIraq-Saudi Arabia Pipelineが使われていたが、サウジのEast-west Pipelineにつながるので、容量は増えない。
 

 

 

 

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