イレッサ、大阪高裁でも原告全面敗訴

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肺がん治療薬「イレッサ」服用後に副作用の間質性肺炎で死亡した患者の遺族ら11人が、国と輸入販売元の製薬会社アストラゼネカに計約1億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は5月25日、アストラゼネカのみに賠償を命じた1審・大阪地裁判決を取り消し、原告側の請求を全面的に退けた。

先行する東京訴訟でも、一審東京地裁判決が国とア社双方の責任を認めたのに対し、二審東京高裁判決は一転して請求を退け、司法判断が分かれた。

イレッサ(一般名はGefitinib)は英国のAstraZenecaが開発した肺がん治療薬

厚生労働省は2002年7月、世界に先駆けて、申請から半年で輸入承認した。
2002年8月に発売され、2カ月の間に、1万人以上の患者に投与された。

がんの増殖、転移に関係する分子を狙い撃ちにする「分子標的治療薬」で、正常細胞を傷つける抗がん剤より副作用が軽いと期待されたが、市販開始直後から間質性肺炎などによる副作用死が相次いだ。

販売を始めた2002年7月には添付文書の「重大な副作用」の4番目に致死性の肺炎が記されていたが、副作用死が相次いだ。

厚労省は同年10月、全国の医療機関に緊急安全性情報を出し、肺炎の副作用を「警告欄」に記載するよう改めた。

致死性の肺炎の可能性の記載を「重大な副作用」の4番目から「警告欄」に移すまでの期間が問題となった。

これまでの多くの研究・調査の結果から、以下のことが明らかになっている。
・ゲフィチニブは上皮成長因子受容体に特定の遺伝子異常を有する人に対して高い有効性を示す。
・日本人肺癌患者の約30~40%程度にこの遺伝子異常が認められる。

2011年3月末時点での死亡者数は,報告されているだけでも825人にも上っている。

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大阪地裁と東京地裁で裁判が行われ、両地裁は和解勧告を行った。

原告側は和解による早期決着を求め、政府も和解を検討していた。

ところが、関係医学会から和解勧告を批判する見解が相次いで出され、結局は国もア社も和解を拒否した。

日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会、日本医学会が和解を批判した。「科学的に合理性を欠いた対策を取ることは避けるべき」とした。

この見解発表の前に、厚生労働省が、「日本医学会として懸念の声明を発します」との声明文案を渡していたことが判明した。東京・大阪両地裁が「非公開」を要請した和解勧告全文も渡していた。

厚生労働省は、「文案提供は過剰なサービス」として局長ら4人を訓告とした。
声明を出す働きかけそのものは、メディア対策として「通常の職務執行の範囲内」とした。

2011/1/31 政府、イレッサ訴訟で和解勧告拒否

和解拒否の結果、両地裁は判決を下した。

地裁判決と、その後の高裁判決の概要は以下の通り。

東京 東京地裁 判決 国とア社に1760万円の支払いを命じる
ア社 イレッサは特定の患者に高い効能、効果があり、製造上の欠陥はない
当初の添付文書の記載では医師らへの情報提供が不十分で、指示・警告上の欠陥
(PL法上で規定する「通常の安全性を欠いた状態」)
添付文書に致死的となる可能性を記載していれば、間質性肺炎で死亡することはなかった
国は承認前の時点で副作用による間質性肺炎で死に至る可能性があると認識
安全性確保のための必要な記載がない場合、国は記載するよう行政指導する責務がある。
間質性肺炎の危険性を目立つように記載するよう指導しなかった国の対応は違法
東京高裁 判決 地裁判決取り消し、遺族側主張を全面的に退ける
ア社 イレッサには有用性があり、製造における設計上の欠陥はない
イレッサの初版添付文書に警告欄がなく、副作用が致死的になり得るとの記載がなくても、指示・警告上の欠陥ではない

専門医が処方する薬剤
専門医であれば間質性肺炎による死亡の可能性を認識
国内の治験で死亡例はなく、海外の死亡例も因果関係があるとまでは言えない

欠陥があるとの前提事実がない以上、規制権限の不行使が違法かどうか論じるまでもない
大阪 大阪地裁 判決 ア社原告9人に計6050万円の支払いを命じる
ア社 警告欄に記載するなどして注意喚起を図るべきだった。
緊急安全性情報配布(2002/10)前は製造物責任法上の欠陥があり、賠償責任あり。
添付文書に関する行政指導は必ずしも十分ではないが、当時の知見のもとでは一定の合理性がある。
国家賠償法上の違法はない。
大阪高裁 判決 大阪地裁判決を取り消し、原告側の全面敗訴
ア社 担当医は肺がん治療を手掛ける医師であり、添付文書の重大な副作用欄を読めば、間質性肺炎の危険性を認識できた
副作用欄の4番目だからといって、担当医が致死的でないと理解するとは考えにくい
治験や海外症例などを含め、副作用の間質性肺炎による死亡は11例あったが、因果関係が明確と言えるのは1例で、「一般的な副作用を超える副作用を予測することは困難だった」
イレッサ自体に問題がない以上、責任はない

東京、大阪ともに、地裁が当初の添付文書の記載では医師らへの情報提供が不十分であるとし、東京地裁は国に指導の責任があるとした。

これに対し、高裁はいずれも、専門医であれば記載の個所に関係なく危険性を認識できるとした。

 

大阪の原告側は上告する方針。東京も原告の一部が上告中で、審理は最高裁に持ち越された。

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5月27日付毎日新聞社説は以下の通り述べている。

2審になると東京高裁も大阪高裁も一転して原告の訴えを退けた。イレッサは難治性の肺がんにも有効性があり、承認当時の添付文書の副作用欄に間質性肺炎が明記されていた。だから認可した国にも販売元の会社にも責任はない、というのが大阪高裁の判断だ。

では、販売後わずか半年で間質性肺炎によって180人が死亡、2年半で死者557人に上ったのはなぜか。
「(添付文書を読めば医師は)副作用発症の危険性を認識できた」と大阪高裁判決は断定する。医師たちは危険を分かりながら副作用死を出してきたというのだろうか。

イレッサは副作用の少ない「夢の新薬」と大々的に宣伝され、難治性の肺炎患者や家族の期待はいやが上にも高まった。間質性肺炎はたしかに添付文書に載ってはいたが、重大な副作用欄の後ろの方の目立たないところにあった。臨床試験では間質性肺炎とみられる死亡例がいくつも報告されていたが、それらは添付文書のどこにも載っていない。

やはり情報の伝え方に問題があったと見るのが自然ではないだろうか。実際、目立つように添付文書が書き換えられてから副作用死は急減した。ただ書いてあればいいということではないはずだ。



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