イオン、ビール価格問題で公取委要請を拒否

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公取委は7月20日、ビールなどの販売を巡り、大手スーパー「イオン」に仕入れ値を下回る価格で卸した疑いがあるとして、大手卸売3社に警告する方針を固め、事前通知した。

警告を受けるのは、三菱食品、伊藤忠食品、日本酒類販売で、独禁法上の「警告」は、違反と認定するまでの証拠はないものの、違反の疑いが残る行為をやめさせるために行う行政指導。

ビール大手が安売り合戦を抑制するために、販売数量に応じて支払う報奨金(リベート)を2005年に廃止した際、反発したイオンが店頭価格を引き上げなかったことから、食品卸3社が原価を下回る価格でビール類をイオンに卸さざるをえなくなった。
「イオン周辺の酒販店が販売価格面で不利な状況に立たされている」との指摘から、公取委が調査を進めてきた。

報道では、公取委は、ビール大手4社とイオンにも不当廉売の原因があるとして、適正な価格で取引するよう異例の協力要請を行う。

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この報道を受け、イオンは7月23日に「見解」を発表した。
http://www.aeon.info/news/important/pdf/120723R_2_1.pdf

同社は以下の通り述べている。
・原価を下回る価格での納入を要請した事実はない。

・公取委から、独禁法違反(優越的地位の濫用)の疑いで調査を受けたが、その事実は認められなかった。

・公取委から事実上の値上げ要請があっても、取引条件を変更し、仕入れ価格の値上げに応じる意向はない。

概要は以下の通り。

(取引価格)
 ・卸売3社と十分に協議の上、合意した条件にて取引をしている。
 ・一方的に取引の条件を決定するなどした事実は一切ない。
 ・3社に対して、原価を下回る価格での納入を要請した事実もなく、
  3社が原価割れの状態で販売していた商品があるか否かについて確認できる立場にない。

 ・値上げ要請に対して真摯に交渉を重ねて根拠を確認し、やむを得ない事情があれば、応じてきた。
  (2006/4 酒税法改正、2007~2008 原材料価格高騰など)

(リベート削減による原価割れ)
 ・リベートはメーカーと卸との間のもので、内容は知らない。
 ・リベート削減は卸が自らの経営判断で合意したもの。
 ・イオンとしては、リベート削減はやむを得ないコスト増ではないため、値上げに応じていない。

 ・当時の公取委事務総長も2005年の新取引制度導入時に以下の発言をしている。

応量リベートが廃止されたから値上がりするというようなことではないと思います。
要するに、応量リベートがなくなるということは、それを織り込んだ出荷価格の交渉が行われるわけですので、市場の需給を反映しつつ、従来リベートとして支給されていた部分が出荷価格に反映されていくものと思われます。
(2004/12/15定例会見)

リベートがなくなったから高くなるといったことは、私どもには理解できないことでありまして・・・
当然これまでのリベート分を考慮しながら、交渉がなされ、・・・
 (2005/2/2会見)

(優先的地位の乱用)
 公取委からも、メーカーの販売奨励金の削減を理由とした値上げ要請について、優先的地位の乱用の疑いがあるのではとの調査があったが、事実は認められなかった。

(結論)
 公取委が、交渉により決定された取引条件を変更し、事実上の値上げとするよう協力要請がされるとすれば、
 事業者の契約内容決定の自由に対する大きな萎縮効果をもたらす結果となり、
 自由かつ活発な経済活動の根幹を揺るがしかねない。

 公取委から3社との間の価格調整をするよう協力要請がなされても、値上げに応ずる意向はない。

 今後も小売業の社会的使命として"消費者代位機能"を果たすべく、合理化によるコスト削減や商品価値の最大化を図っていく。

ーーー

リベート削減でビールの小売価格が上がったのは事実であるが、公取委事務総長の発言をもとにすると、ビール会社が、「従来リベートとして支給されていた部分を出荷価格に反映」させなかったのが問題ということになる。

そもそも、ビールのリベート廃止は公取委の指導で行われた。

「公正取引委員会としては、ビールメーカーが、卸売業者や、場合によっては小売業者に対して支払っている各種リベートのうち、明確な供与基準に基づいていない、あるいは、そもそも基準を作っていない、あるいは、それを裁量的に支給している場合には、しかもそのリベートの占める金銭的割合が大きいということになりますと、独占禁止法上の取引条件等における不当な差別取扱いの問題を生じさせるおそれがあるとして、当委員会として、ビールメーカーに対してこういった明確な基準に基づかない裁量的なリベートの適正化に向けての働きかけをしてきたことは事実であります。」
(2004/12/15 事務総長定例会見)


リベート削減は全体としてのコストアップではなく、イオンの言い分は理解できる。

この状態で立場の弱い卸を責めても、イオンがリベート問題による値上げを全面拒否している以上、問題は解決しない。

「リベートがなくなったから高くなるといったことは、私どもには理解できない」と言いながら、値上げをしないといって卸3社に警告するというのは、公取委としておかしいのではないか。

リベートがなくなったのに出荷価格を変えないというのは、メーカー側の「優先的地位の乱用」ではないのか。

また、公取委の「不当廉売」の定義もおかしい。イオンが値上げを呑まないから、卸3社とも原価を割った販売をしているが、これが不当廉売だろうか。
化学業界でも、需要家がコストアップの転嫁を認めてくれず、赤字になっているケースは多くある。


現在は卸3社への事前通知の段階だが、公取委がどう動くかが見ものである。

とにかくビールの価格を下げてほしい。


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不当廉売に関する独占禁止法上の考え方(公取委)

① 独占禁止法第2条第9項第3号

 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

② 不公正な取引方法第6項

 法第2条第9項第3号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。

(いずれにせよ問題なのは、ある目的の達成のために自己の判断で廉価販売をすることであり、今回のように、仕入れ先も販売先も価格変更に応じないために止むを得ず廉売することは対象にならない筈)

 他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ

通常の場合,廉売対象商品について当該廉売を行っている者と競争関係にある者を指す。
廉売の態様によっては、競争関係にない者が含まれる場合もあり得る。

例えば、有力な事業者が、他の事業者を排除する意図の下に、可変的性質を持つ費用を下回る価格で廉売を行い、その結果、急激に販売数量が増加し、当該市場において販売数量で首位に至るような場合

(本件の場合は、該当しないと思われる)

 正当な理由

廉売を正当化する特段の事情があれば、公正な競争を阻害するおそれがあるものとはいえず、不当廉売とはならない。

例えば、需給関係から廉売対象商品の販売価格が低落している場合、廉売対象商品の原材料の再調達価格が取得原価より低くなっている場合において、商品や原材料の市況に対応して低い価格を設定したとき、商品の価格を決定した後に原材料を調達する取引において、想定しがたい原材料価格の高騰により結果として供給に要する費用を著しく下回ることとなったときは、「正当な理由」があるものと考えられる。

(本件の場合、想定しがたい「リベートの廃止」により結果として供給に要する費用を下回ることとなったと言えるのでは? しかも、リベート廃止は公取委の指導によるもの。




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