米通商代表、ITCによるApple製品販売禁止命令を拒否

| コメント(0) | トラックバック(0)

米通商代表部(USTR)のMichael Froman 通商代表は8月3日、韓国サムスン電子の特許侵害を理由に Appleの一部製品(中国製)の米国への輸入と販売を禁止した米国際貿易委員会(ITC)の命令を拒否すると発表した。

ITCへのレター http://www.ustr.gov/sites/default/files/08032013 Letter_1.PDF

ーーー

本件は、Samsung と Apple が全世界で繰り広げている特許戦争の一部である。

ITCは6月4日、Appleがスマートフォン(高機能携帯電話)などで用いる技術をめぐり、Samsung Electronics の3G/UMTS 無線通信技術関連の特許1件を侵害したと認定する決定を下し、AT&T向けの4機種、iPhone 4、iPhone 3GS、iPad 3G、iPad 2 3G(中国で製造)米国への輸入を禁じた。

米国の関税法337条は、米国への輸入における不公正な行為により米国産業に被害が生じる恐れがあるときに、輸入品の排除、不公正行為の差し止めをITCが判断し、命令を発する権限を規定している。特許侵害は典型的な不公正行為にあたる。

Samsungでは該当端末1台あたり市販価格の2.4%にあたるライセンス料の支払いをAppleに求めていた。

それに対し、Appleはこの特許がいわゆる「必須標準特許」(FRAND特許)にあたると反論したが、ITCは「FRAND宣言をしていることは、限定的な差止め命令を妨げるものではない」とした。
(Samsungでは、
Appleはライセンスを受けようとしなかったとしている。)

FRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory):
ある企業の特許が技術標準として採択される場合、他企業がその特許を使用する時、特許権利者は「公平で、合理的、かつ非差別的」に協議しなければならないという義務。
特許権利を使用する企業はまず特許なしに製品を製造し、後に特許権利者にライセンスを購入し使用権を保有する。

Samsungは欧州でもAppleとの一連の特許訴訟のなかで、3G/UMTS 関連技術の必須標準特許の侵害を根拠に、iPhoneなどを対象とした販売差し止めを求めている。

欧州委員会はこれをFRAND特許濫用として問題視し、独禁法違反の疑いがあるとして調査を実施した。
Samsungは1998年に欧州電気通信標準化機構に対し、同社が保有する3G/UMTS関連技術の特許を、FRANDの原則に沿ってライセンス提供すると約束していた。

報道によると、Samsungは「必須標準特許」濫用問題の和解に向け、EU当局と協議中とされている。

欧州ではGoogle傘下のMotorola Mobilityも特許侵害を巡ってドイツでAppleに対する差し止めを求めているが、EUの欧州委員会は5月6日、Motorola Mobilityが欧州競争法に違反している可能性があるとの初期判断を明らかにした。

特許はモバイル・無線通信にとって重要な必須標準特許で、Motorola MobilityはFRAND(公正で合理的かつ差別のない)条件のもとで提供すると公約していたが、AppleがFRAND条件にもとづいたライセンス契約に前向きであったにもかかわらず、公正な交渉を行わなわず、差止めを求めたとしている。

欧州委員会はMotorolaに対し、「差し止め要請は特許侵害の対策の1つではあるが、問題とされているのが必須標準特許であり、ライセンシーが FRAND条件にもとづくライセンス契約を望んでいる場合は、優位性の乱用となる可能性がある」との見解を示した。

ーーー

ITCが6月4日に下した輸入禁止命令はオバマ政権へと送られ、60日以内に決定を審査し、判断を下すことになっていた。

通商代表は、命令を覆す理由について「米国における販売競争や米消費者への影響を考慮した」と指摘した。

米司法省は必須標準特許は法廷でロイヤルティーを争うべきもので、輸入を禁止すべき案件ではないという考えで、輸入禁止を特許権の乱用とする見方を強めており 、通商代表のITCへのレターでもこれに触れている。
今回の命令拒否はこうした方針に沿っている。

なお、Samsungに対しては、引き続き裁判を通じて特許侵害の有無を争うことができるとしている。

ITCによる輸入・販売禁止命令が拒否されるのは1987年以来、26年ぶり。

1987年にReagan政府はアルカリ乾電池の輸入禁止命令(Duracellが並行輸入品の禁止を要請)を拒否した。
それ以前にも、成形サンドイッチパネルと製紙に関して拒否している。

Carter政権も溶接ステンレススチールパイプで拒否した。

今回の決定を受けSamsung は、ITCの決定が拒否されたのは残念であるとし、ITCの決定は、Samsungが誠意をもって交渉してきたのに、Appleがライセンスを受けようとしなかったという事実を正しく認識したものであると述べた。

 

韓国紙は「知的財産権保護の伝統が退歩」、「オバマ政権、拒否権発動でサムスンをけん制」などと報じている。

ーーー

ITCは8月1日、サムスン電子製の携帯電話やタブレット型端末の一部がAppleの特許を侵害しているかが争われている特許紛争で、判断を9日まで延期すると明らかにした。理由は明らかにしていない。


ーーー

オバマ政権が輸入禁止の決定に拒否権を発動したことについて、韓国政府は公に懸念を表明した。
韓国産業通商資源部は8月5日、今回の拒否権発動について、「サムスン電子が保有する特許権の保護に与えるマイナスの影響に懸念を表明する」とした。

また、9日に予定されるAppleとSamsung電子の特許紛争をめぐるITCの決定と、それを受けた米政府の決定を鋭意注視するとし、「決定が公正かつ合理的に下されることを期待する」と注文を付けた。

Samsung電子は8月5日、オバマ政権の拒否権発動とは関係なく、既に米ITCの決定について、米連邦控訴裁に抗告を行ったことを明らかにした。
ITCは4件のうち1 件について、Appleが特許を侵害したと認め、輸入禁止措置を下したが、Samsungは残る3件についても特許を侵害しているとして、抗告を行った。


トラックバック(0)

トラックバックURL: https://blog.knak.jp/knak-mt/mt-tb.cgi/2271

コメントする

月別 アーカイブ