マリーンホース国際カルテルでのイタリア人被告の米国への引渡し

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日経新聞は5月4日、国際カルテルを巡り、米国での裁判を避けて海外にいた外国人被告の身柄引き渡しが初めて実現したことから、 米司法省が日本企業幹部の引き渡しを要求するとの観測も浮上していると報じた。

本件は2007年のマリーンホースカルテルに関するものである。

米司法省は2007年5月、原油の海上輸送に使うマリンホースの販売で国際的な価格カルテルに関与した疑いがあるとして日欧企業の幹部8人を逮捕したと発表した。

司法省が横浜ゴムの自主申告で調査を開始し、横浜ゴム担当者になりすまして開かせた会合現場で横浜ゴム担当者以外を逮捕した。

2007/7/9 マリーンホース国際カルテル事件

これまで、個別に司法取引や裁判を行ってきたが、状況は以下の通り。

企業:

 

罰金

Dunlop Marine and Oil(英)  4,540千ドル
Trelleborg (仏)  11,000千ドル
Parker ITR(伊) 2,290千ドル
Manuli SPa (伊) 2,000千ドル
ブリヂストン 28,000千ドル
横浜ゴム 自主申告により免責 


個人:

    現場
逮捕
禁固 罰金 備考
PW Consulting
(元
Dunlop
Peter Whittle 30 months $100,000 英国で同一期間の禁固刑を受け、米国での禁固刑は免除
Dunlop Oil & Marine Bryan Allison  24 month $100,000
David Brammar 20 months $ 75,000
Uwe Bangert       逃亡中 時効中断
Manuli Rubber Industries SpA Robert L. Furness   14 months $ 75,000  
Charles J. Gillespie   12 months and
one day
$ 20,000  
Francesco Scaglia

陪審裁判で無罪

Val M. Northcutt  
Trelleborg Industrie S.A.S Christian Caleca 14 months $ 75,000  
Jacques Cognard 14 months  $100,000  
Parker ITR S.r.l. Giovanni Scodeggio six months
自宅監禁
$ 20,000  
Romano Pisciotti   2 years $50,000 今回、引渡し
ブリヂストン Misao Hioki two years $ 80,000  


2008/12/12 マリンホース国際カテル事件で日本人に有罪判決


上記のうち3人を除く全員が司法取引で有罪を認めたが、Manuli Rubberの2人は裁判で無罪を訴えた。

裁判では政府側の証人の上司2人(いずれも禁固刑)が私腹を肥していたことなどが明らかになり陪審員の印象を悪化させた。
弁護士は、Sherman法では外国との取引の場合、米国の取引又は米国の競合者に直接の、実質的な、予期しうる影響を与えない限り適用されないとの規定があると指摘、最終的に無罪を勝ち取った。
弁護士のブログより)

ーーー

なお、欧州委員会は2009年1月に5社に合計131.51百万ユーロの制裁金支払いを命ずる決定を下した。

2009/1/29 EU、マリンホースカルテルに制裁金


当時米国におらず逮捕を免れていたイタリアのParker ITRのRomano Pisciottiは、2013年6月にドイツで逮捕され、本年4月3日に米国に送還された。
独禁法違反で海外から米国に引き渡された最初の例になる。

Romano Pisciottiはナイジェリアからイタリアに戻る途中、ドイツの空港で逮捕された。
その後、Pisciottiはイタリアの裁判所とEUの人権裁判所に訴え、EUの法律が適用されるべきこと、ドイツによる国籍差別の犠牲者であると主張していた。

Romano Pisciottiは4月24日、有罪を認め、禁固2年、罰金5万ドルを受け入れた。
ドイツでの拘束期間の(9ヶ月+ 16日)がこれから差し引かれる。

ーーー

米国で個人が起訴された場合、海外在住であれば米国から見ると国外逃亡で時効中断となる。
米国入国の際に逮捕されることはもちろん、他国に入国しても、犯罪人引渡し条約で米国に引き渡される。

但しこれまでは、独禁法違反の場合には日本政府は該当せずとし、引渡しは行われないとされていた。

起訴された某氏によると、当時、米国の弁護士に相談したところ、海外に行くと逮捕され、米国に送られる可能性があるが、日本に留まっているなら全く問題なしとのことであったという。

2004年までは、日本人で起訴されたのは役員クラスだけで、すべて時効中断となっていた。

日本人の服役の第1号はダイセルの社員(防カビ剤のソルビン酸価格カルテル、チッソの自主申告で摘発)で、チッソの提出した詳細情報のために若い担当者が起訴されることとなった。
日本にいたため、そのままでは「国外逃亡」のままとなるが、海外に行けないのでは仕事にならないため、自主的に服役(3ヶ月の禁固刑)を選んだ。

米国司法省は、独禁法を有効に施行するという司法省の能力を示すものとして、「日本人で最初に服役」と誇らしげにこれを発表している。
http://www.usdoj.gov/opa/pr/2004/August/04_at_543.htm

第2号がこのマリーンホースカルテルである。
この場合は米国で逮捕されたため、刑に服するしかなかった。

それ以外に多数が起訴されたが、刑に服したのはこの2人だけであった。

この後、2011年から今日まで、自動車部品カルテルで多くの日本企業と日本人が起訴され、これまでと異なり、日本にいたと思われる多くの日本人が有罪を認め、刑に服している。

現時点で、自動車部品カルテルで32名が起訴され、うち有罪を認め禁固刑に服したのが23名となっている。(うち、外国人は1名のみ)
残り9名は「国外逃亡」で時効中断と思われる。

http://www.knak.jp/blog/2013-10-1.htm#cartel

全くの推測だが、今回、非常に多数の日本人が刑に服したのは、米国の姿勢が強硬で、企業が司法取引をする際に、これを罰金の減額の条件にしたのかも分からない。

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今回の件を受け、日本でも引渡しがあるのではとの意見が出ている。

日米犯罪人引渡条約では、日本及び米国の法令により、死刑又は無期若しくは長期1年以上の拘禁刑(懲役 or 禁錮)に処すべき罪を犯したとされることが要件となっている。

日本の独禁法では、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金となっており、米国では最高10年以下の拘禁刑が適用される。

また、条約の付表では、独禁法は対象となっている。

45) 私的独占又は不公正な商取引の禁止に関する法令に違反する罪

更に、米国では最近は(上表の通り)ほとんどが1年以上の禁固となっている。
(日本では刑事告発は少なく、判決も懲役1年以上はあるが、全て執行猶予となっている。)

時効については海外逃亡で時効中断となっており、問題にはならない。

以上から、本件のような場合は、条約上は対象となる。

但し、条約第5条では、「被請求国は、自国民を引渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる」となっており、日本政府の判断で引渡しを行うこととなる。

米司法省は先ず、自動車部品カルテルの残りの9名について 、引渡の請求をするかも分からない。



 


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