アルゼンチン、再び債務危機

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アルゼンチンの2002年のデフォルトに係わる債務再編をめぐる米国の地裁判決について、アルゼンチン政府が米最高裁に判決見直しを求めていたが、最高裁が6月16日、これを却下したため、アルゼンチンが再びデフォルトとなる可能性が出てきた。

(経緯)

アルゼンチンは1990年代半ば以降、財政赤字と対外債務の拡大が続き、ブラジルの通貨危機等をきっかけに、2001年に債務危機が発生し、政府は2002年1月、イタリア・リラ建て国債(2,800万ドル相当)の利払い停止を発表、国債のデフォルトとなった。3月には、円建て国債の利払いも不履行となった。

デフォルト発生後、債権者との交渉は難航した。資金協力を受けていたIMFとの交渉は長引き、2003年1月にようやく暫定合意に達した。
その後、他の国際機関とも債務返済について合意、民間債務について2004年12月に債務再編案を提示した。

対象となる民間保有の国債の元本総額は約810億ドルで、この75% をカットするというものであったが、2005年に対象国債保有者の76%がこの提案に応じた。

その後、アルゼンチン政府は国際的な資本市場へのアクセスを回復するため、 残る債権者との交渉を行い、2010年にデフォルト国債183億ドルのうち、約121億ドル分の保有者が新たな債券との交換に応じた。 これで2005年の債務再編と合わせると、デフォルトに陥った国債全体の92.4%が交換された。

この結果、デフォルト状態の債務の残高は未払いの利息も含めてざっと150億ドルになっている。
これらの債権者は
"holdout" (不服)債権者と呼ばれる。

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今回の問題は、このうちの約15億ドルの債務について起こった。

 米国の富豪Paul Singerが支配するヘッジファンド、 Elliott Managementの子会社のNML Capital が支払いを求め、米国で訴訟を起こした。

Paul Singerは2006年のリポートでサブプライムローンの証券化市場は歴史的な詐欺と宣告し、並外れた洞察力を示した。

2012年にニューヨーク連邦地裁のThomas Griesa判事が判決を下した。

2005年と2010年の2度にわたる債務再編に応じて新しい債券を受け取った債権者(新債券保有者)にアルゼンチンが支払いを続けるのであれば、債務再編に応じなかった債権者(不服債権者)の保有債券についても、負っている金額を全額支払わねばならない とした。

しかし、米国の判事が直接、アルゼンチン政府に支払いを命じることは出来ない。

このため判決は、もし不服債権者に支払わない場合は、米国の金融機関はアルゼンチン政府から新債権保有者への支払い手続きをしてはならないとした。
現在、支払いは全てニューヨークで行われている。

アルゼンチン政府は米国の最高裁判所に対し、アルゼンチンの債務再編に応じていない債権者への支払いを命じた下級審の判決を見直すよう求めていたが、最高裁はこれを却下した。

地裁は、NML側が支払いを確保するため、アルゼンチンの資産を調べることを認めた。
アルゼンチンと米国の両政府は米国法は主権国家に対する証拠開示命令を禁じていると主張したが、最高裁はForeign Sovereign Immunities Act は裁判所が命じる証拠開示命令を禁じていないとしこれを却下した。

Elliott Associatesは2012年にガーナでアルゼンチンの海軍練習船を一時差し押さえたことがある。
この時は国連の
国際海洋法裁判所が、海軍の船は免責特権があるとして釈放を命じた。

最高裁はまた、地裁判決を取り消すことを拒否した。

アルゼンチンの国債で異常な点は、1994年の売り出しにあたり、如何なる紛争も米国法に基づき解決するとの条項を入れたことである。

アルゼンチン大統領はTVで、判決には従わないとし、今後交渉は続けるが、大統領としてこんなゆすりに負けるわけにはいかないと述べた。
大統領によると、NMLは既にデフォルトしていた債券を2008年に購入し、これで1608%のリターンを上げることになる。「犯罪組織だってこれほどのリターンをこれほどの短期間では上げていないと思う」と述べた。

しかし、問題は深刻である。

今回問題となっている金額は約15億ドルだが、他の債権者も同じ扱いを要求すると思われる。
また、債務再編に応じた新債券保有者との契約条項から、彼らにも同じ扱いをする必要があり、外貨準備が280億ドルしかないアルゼンチンにとり、これは不可能である。

欧米各紙はいろいろな選択肢とその実現可能性を分析している。

1) NMLへの支払いを拒否

ニューヨーク連邦地裁の判決により、債務再編に応じた新債権保有者への米国での支払い手続きを出来なくなる。

このため、新債券保有者への支払いをやめ、デフォルトし、債権者に米国の裁判官に文句を言えと伝える。

債券の条項に違反したことに基づく「テクニカル・デフォルト」であるが、デフォルトには変わりはない。

この場合、大規模なシェールガス田の開発資金を新規借り入れで調達したいアルゼンチンにとり、国際資本市場へのアクセスの回復が後退することとなる。

2)新債権保有者への支払いを米国を通さない方法を考える。

アルゼンチンの経済財務相は6月17日、債務再編をめぐる米最高裁判断を受けてデフォルトの可能性が高まる中、新債権保有者への支払いを継続できるよう、米国法に準拠する再編した債券を自国法に準拠した債券と交換すると表明した。

しかし、米連邦地裁のThomas Griesa判事は6月18日、これが米裁判所命令に違反するとの見解を示した。

いずれにせよ、次回支払期限が6月30日で、それまでに米国以外のルートで支払いをするのは間に合わないとみられる。

3)NMLにのみ支払い

債務再編に応じた新債券保有者との契約には、アルゼンチンがほかの債権者に自発的により良い条件を提示した場合には、新債券保有者も同じ条件を要求できるという 条項があり、これが本年末までは有効となっている。

このため、新債券保有者から訴えられる。

4) 2015年まで待ち、NMLと債務返済について和解

上記の新債券保有者との契約条項が期限切れとなってから和解する。

この案が実際的とみられている。


アルゼンチン政府は6月23日、米国の地方裁判所に対して、支払いの留保を求めた。

付記 

米連邦地裁は6月26日、この申し立てを却下した。

6月30日の支払いが出来なくなり、今後、30日間の猶予期間に利払いができなければ再び債務不履行に陥ることになる。


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IMFなどは、これにより、今後の債務再編が難しくなると危惧する。

しかし、最近は契約に集団行動条項が盛り込まれており、債券の保有者は多数決による決定に従わなければならないため、今回のような事例は 起こらないと見られている。

 


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