ギリシャ問題

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欧州中央銀行(ECB)は2月4日、ギリシャ救済に伴う公約を順守する同国政府の姿勢に懸念が生じたことを理由に挙げ、ギリシャ国債に対する適格担保ルールの適用除外を停止することを決めたと発表した。

・ギリシャ政府が発行若しくは保証する債券について、現在適用除外としている最低格付要件を復活する。

担保とするには「投資適格」格付が条件だが、ECBはこれまで、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、キプロスの各国の国債について、格付けの水準に関係なく担保として受け入れていた。

担保として差し入れているギリシャ国債は、2月11日をもって適格担保要件を失う。

ギリシャの銀行は2010年以降、投機的格付けのギリシャ国債を担保としてECBが供給する資金(現行金利 年0.05%)にアクセスすることが認められてきたが、今回の決定に伴い、今後は金利がそれほど有利でないギリシャ銀行からの資金供給 (下記のELAによるもので、現行金利 1.55%)に頼るしかなくなる。

・ギリシャ救済プログラムのレビューがうまくいくとは思えないため、本来のルールを適用するものである。

・ギリシャの金融機関の信用状況には影響しない。

・代わりの担保が十分でない金融機関の流動性ニーズは、中央銀行が Emergency liquidity assistance (ELA)で
対応できる。 

ELAはユーロ圏の各国中央銀行が自国の金融機関に緊急融資する手段。
ECBはギリシャ中央銀行に対し、最大595億ユーロの緊急資金を国内銀行に供与することを認める方針 。

ECBにはギリシャ中央銀行のELAに基づく資金供給を許可しない権限があり、2週間ごとに手続きを見直す。

ECBが これほど早く今回のような行動に出るとは想定されていなかった。

新規融資は2014年12月で終了する計画だったが、ユーロ圏財務相会合は12月8日、金融支援を2015年2月末まで2カ月延長する方針を決めている。
これまでは、今月28日が期限となる現在の救済プログラムの検証をギリシャが完了し、次のプログラムを取り決めるとの前提で、適格担保の特例措置を継続する方針を示していた。

ーーー

1月25日に行われたギリシャの総選挙で、反緊縮派の急進左派連合(SYRIZA)が勝利した。
単独過半数には2議席足りなかったが、13議席を獲得した反緊縮の右派政党「独立ギリシャ人」と連立を組むことで合意、チプラス党首は1月26日、新首相に就任した。

選挙結果は以下の通り。総議席数は300だが、250が選挙で選ばれ、第一党に50議席のボーナス議席が与えられる。

     参考  2012/6/26 ギリシャ、連立政権発足

  選挙前 2012/5
選挙
2012/6
再選挙 
2015/1
選挙
 
全ギリシャ社会主義運動(PASOK) 160
(110+50)
41 33 13 緊縮推進
EUとの合意支持

 

新民主主義党(ND) 82 108
(58+50)
129
(79+50)
76
(連立与党) (242) (149)
組閣失敗
   
民主的左翼(DIMAR) 0 19 17 0
(連立与党)     (179)    
急進左派連合(SYRIZA) 13 52 71 149
(99+50)
反緊縮財政
独立ギリシャ人 (ANEL) 0 33 20 13 反緊縮財政(中道右派
2012年 NDから分離
(連立与党)       (162)  
ギリシャ共産党 (KKE) 21 26 12 15 EU、NATOからの脱退主張
黄金の夜明け(ΧΑ) 0 21 18 17 極右政党
正教民衆集会 15 0 0 0  
河 (Potami) 0 0 0 17 (新党) 親欧州派、反汚職
合計 291 300 300 300  


総選挙は2014年12月29日に議会が解散されたことを受けて行われた。

パプリアス大統領の後任となるスタブロス・ディマス欧州委員への信任を求める投票が議会で行われたが、1回目投票、2回目投票で大統領選出に必要な200票を上回ることができず、12月29日に行われた3回目の投票では選出に必要な賛成票は180票に引き下げられたが、賛成票を投じたのは168人に留まった。
憲法の規定(議会が3回にわたって大統領を選出できなかった場合、議会を10日以内に解散する)により、議会が解散された。

総選挙では、サマラス首相が率いた与党の新民主主義党は第2党に後退、閣僚のほぼ半数が落選する惨敗を喫し、反緊縮財政派の急進左派連合が勝利した。

末尾の「これまでの経緯」にある通り、 ギリシャはIMF、EU、ECBの通称「トロイカ」と呼ばれる3つの組織から緊縮策の実施を条件として、総額2400億ユーロ(約31兆円)の金融支援を受けている。
トロイカは、金融支援でギリシャを救済する条件として、国内に緊縮財政を敷き、財政の再建を要求した。

しかし、この財政緊縮策は非常に厳しいもので、国民の不満が爆発した。

ギリシャ政府はこの5年で、年金を最大50%カット。
公務員を15,000人削減と、徹底的な経費削減を進めたんです。
その上こちらもきつい、消費税、19%だったのを23%にまで引き上げ。

問題なのは、ギリシャの景気そのものが悪化してしまったこと。
失業率はおよそ25%。
GDPの実に4分の1が失われた計算になるんですね。

野党はこれに反対し、『負担はもうたくさん』という、幅広い支持を集めています。
(NHK  2015年1月9日)

急進左派連合のチプラス党首は1月25日深夜、「緊縮策は過去のものだ」と強調、「公平で実現可能な解決の交渉を約束する」と述べ、EUに債務減免など金融支援の枠組みを見直すように求める意向を示した。
ユーロ圏に残留したうえで、財政緊縮について修正を求めるもの。

当初は債務の「半減」を目標に掲げたが、その後、債務減免は無理と考えたのか、従来の債務を新しい2種類のギリシャ国債との交換案も出している。
一つは支払額をギリシャの経済成長率に比例させる国債で、緊縮から成長への転換を後押しすることとなる。もう一つは元本の支払い時期を定めない永久国債。


ギリシャのバルファキス財務相は2月4日、債務救済条件の再交渉を目指す同国政府への支持を取り付けるため、フランクフルトでドラギECB総裁と会談した が、ECBはその数時間後に適格担保ルールの適用除外停止を公表した。

これに対し、チプラス首相は2月5日、EUの緊縮財政政策を永遠に終わらせると表明し、支援プログラムの合意順守を迫る欧州諸国との対決姿勢をあらためて鮮明にした。
「ギリシャはもう命令には従わない。宿題をやりなさいとの説教を聞き入れる惨めなパートナーでもない。わが国にはわが国の意見がある」「ギリシャを脅すことはできない。なぜなら欧州の民主主義が脅迫されることがあってはならないからだ」と述べ、ECBなどがギリシャに対し厳しい姿勢を維持していることを批判した。

交渉の期限が2月末に迫るなか、ユーロ圏は2月11日にギリシャへの金融支援について協議する臨時の財務相会合を開く予定。

 

付記 2月11日の会合では全く進展なく、今後の交渉の進め方さえも合意できず、共同声明も出せず。

付記

ギリシャは2月19日、ユーロ圏諸国に対し、6カ月の融資延長を正式に申請した。

19か国の財務相会議は2月20日、2月末で期限を迎えるギリシャの金融支援について4か月間延長することで合意した。
ギリシャ政府に対して2月23日までに財政再建や経済成長を後押しする構造改革案を提出するよう求めたうえで、4月末までにそれが妥当かどうかを判断する。

 

なお、S&Pは2月6日、ギリシャのソブリン信用格付けを「B」から「Bマイナス」に引き下げた。格下げ後も「クレジットウォッチネガティブ」を維持するとしている。
Moodysは2月6日、ギリシャの国債の格付けを現在の「Caa1」から格下げ方向で見直す方針を明らかにした。

ーーー

これまでの経緯は以下の通り。

2009/10 総選拳で全ギリシャ社会主義運動が新民主主義党を破り、パパンドレウ政権発足。
前政権の財政赤字粉飾が発覚、危機表面化
2010/5 EUとIMFによるギリシャに対する支援策(2010~2012年で1,100億ユーロの協調融資
欧州金融安定化メカニズム(European Stabilization Mechanism)創設

2010/5/10 統一通貨ユーロの危機

2010/11 アイルランド支援(850億ユーロ)
2011/5 ポルトガル支援(780億ユーロ)
2011/6 EFSF拡充決定(2011/10 最後のスロバキアが一旦反対した後、賛成し、成立)
2011/7 ギリシャ向け第二次金融支援
 公的支援 1090億ユーロ、
   
民間金融機関による支援 370億ユーロ(21%の損失負担)
2011/10 欧州債務危機克朊に向けた「包括戦略」で合意。
ギリシャ問題については
民間銀行によるギリシャ債務の損失負担は7月時点の21%から50%に アップ
(新旧の国債交換、国債の再投資を通じギリシャ国債の元本を削減)
ギリシャ債務残高は2020年にGDP比120%に削減へ
ギリシャの財務状況を常時監視
ギリシャに下記の改革を求める。
 ・女性年金支給開始 60歳→65歳
 ・一定額以上の受給者への支給額減額
 ・公務員3万人の削減、給与カットも
 ・民間企業の賃下げのための規制緩和
 ・保有上動産からの利益に対する課税の導入
 ・付加価値税 21%→23%(実施済み)
 ・ガス(DEPA)、通信(OTE)など国営企業の民営化
 ・公共事業の凍結、削減(2011年度は前年比3.3%減)
 ・軍事費の大幅削減

ギリシャで政府の緊縮策に抗議する全国ゼネスト

2011/11 ギリシャ首相は、国民の反対を受け、一度は国民投票実施の意向。
EUとの協議の後、首相は11月3日、緊急閣議を開き、国民投票を撤回

G20首脳会議は11月4日、首脳宣言を採択。
EUが合意したギリシャの債務削減などの包括対策の速やかな実施を要請

2011/11/7   EU 金融危機

その後 EU・IMFの試算では、当初予定していた第2次支援を実施しても、2020年時点でギリシャの政府債務の対GDP比率は129%までしか低下せず、目標の120%を実現するための追加策が残された大きな論点となった。

ギリシャ政府の追加緊縮策が整わないことなどを理由に正式決定が先延ばしされてきた。

EUは第二次支援を1300億ユーロとするとともに、民間銀行のギリシャ国債元本削減幅を従来の50%から更に拡大することとし、ギリシャにそのための条件を科した。

2012/2 ギリシャ、3条件をようやく達成
1)「財政緊縮関連法案の議会承認」
   2012年で33億ユーロ分の 賃金、年金、公務員削減による節減策を議決

2)「財政緊縮策実行の誓約書」
   ギリシャ与党党首が「緊縮策実行の誓約書」に署名。

3)「歳出削減策の具体化《(これが難航した。)
   6億2500万ユーロの歳出削減めぐって暗礁に乗り上げたが、
    うち、3億ユーロを年金の削減で賄うことを決定
   残り 3億2500万ユーロについては、最終的に国防費や公共投資などの削減で賄うことを決定。

2012/2 ユーロ圏17カ国、ギリシャへの総額1300億ユーロの第2次支援を決定

条件
・ギリシャの対GDP債務比率を現状の160%から2020年に120.5%に
・ギリシャをEUの監視下に置き、財政緊縮策を確実に履行させる

2012/3 ギリシャ、債務削減に成功
2012/5  総選挙で財政緊縮派の全ギリシャと新民主の連立2与党が過半数割れ
2012/6 EUとIMFが支援凍結
2012/6 ギリシャ、連立政権発足 
2012/11 国会が13年緊縮予算案を可決。支援受け入れの条件クリア
ユーロ圏財務相会合がギリシャ財政再建の目標期限を16年まで2年延長することを基本承認
2012/11 凍結していたギリシャヘの融資実施でEUとIMF合意

 

 

 

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