ギリシャ問題 混迷が続く

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ユーロ圏 19か国の財務相会議は2月20日、2月末で期限を迎えるギリシャの金融支援について4か月間延長することで合意したが、延長の条件とされた4月までの改革案策定が進まず、ギリシャはほとんど融資を受けていない。

ギリシャが抱える3200億ユーロ超の公的債務の大半は、ユーロ圏とIMFからの支援融資で、IMFからの融資は2015年中に期限を迎えるものも多い。
6月末までは、ギリシャのIMFへの返済額は毎月4億5000万~15億ユーロに上る。

さらに7、8月には、欧州中央銀行(ECB)が保有するギリシャ国債計78億ユーロの巨額の償還が控える。

EUは3月19日から2日間の日程で、ブリュッセルで首脳会議を開催、19日の全体会合後に、ギリシャのチプラス首相や独仏の首脳、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁らが協議した。EUは追加融資の条件として詳細な改革案の提示や実行を求め、ギリシャが数日内に財政・構造改革の詳細なリストを提出することになった。

ギリシャのチプラス政権が態度を変えないため、ユーロ圏の中で孤立している。Wall Street Journalは以下のように分析する。

アイルランド、ポルトガル、スペインおよびバルト諸国は、自分たちは難しい政治的コストを背負ったものの、最終的にこれが奏功したと認識しており、ギリシャだけこうした困難を避けるべきとする理由が理解できないとする。
スロバキアやバルト諸国などはギリシャ以上の貧困国であり、最低賃金もより低い。

どのような形であれ、ギリシャ債務に対する追加的減免策を講じれば、他のユーロ圏加盟国が債務を肩代わりすることになる。

域内の規則を守ろうとしないギリシャの急進派政権に大きく譲歩すれば自国の反対勢力が勢いを増し、自分たちの立場が危うくなる。

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ギリシャは場外戦を始めた。

ギリシャのチプラス首相は2月8日、ナチスドイツによる第二次世界大戦時の巨額損失をドイツに請求するべきだと表明した。
要求額は
1620億ユーロで、
ギリシャが抱える3200億ユーロ超の公的債務の半分を上回る。

1946年パリで行われた第一回国際会議で、ドイツはギリシャに7億ドルの賠償金を支払うことが決定していたことに加え、戦時中にナチスドイツがギリシャから強制的に借りた3.5億ドルの合計を、現在の物価に変換するとと1620億ユーロになるという。

これに対しドイツは、賠償問題はすでに終わっているとし、賠償金を払う意思がないことを伝えた。

チプラス首相は3月10日、今度は第2次世界大戦中のナチス・ドイツ占領による損害の賠償を求める考えを議会で示した。

第2次世界大戦中の1944年6月、ナチス・ドイツは抵抗組織をかくまったとして、ギリシャ中部のディストモで生後2カ月の乳児や妊婦、老人ら218人を虐殺した。

ギリシャ最高裁は2000年、ドイツに対し、この遺族への2800万ユーロの賠償を命じたが、ドイツの反発を恐れた当時の法相は、執行を命じる文書に署名しなかった。

これに対し、独政府の報道官は3月11日、「ドイツは1960年に1億1500万マルクを支払い、賠償問題に関して完全に終了した」と述べ、ギリシャの主張を否定したが、ギリシャのパラスケボポウロス法相は、適切な時期に最高裁の2000年の判決を執行する書類に署名し、ギリシャ国内にあるドイツ資産を没収する用意があると明らかにした。

1960年の協定でドイツはギリシャに1億1500万マルクを支払ったが、それはインフラの破壊や戦争犯罪、ナチスに強要された戦時融資を完全に賠償するものではないとしている。

ドイツがギリシャに所有する総資産は2690億~3320億ユーロだと推定される。

ドイツ国内でも、ドイツは賠償を払うべきだとの声もあると報じられている。


ギリシャ政府は別途、ドイツに対する奇妙な戦術を採っている。

ギリシャの防衛大臣は3月8日、ドイツがギリシャに打撃を与えるなら、ISILのテロメンバーを含む多数の難民をドイツに送り込むと脅した。外務大臣も同様の発言をしている。

ここ数年、イタリアに流れ着くシリアやソマリアの難民が問題になっていたが、ギリシャも地中海から、また、トルコ経由で陸路からも流入し、難民の保護でお手上げ状態になっている。

ドイツ内部ではギリシャを欧州における国境撤廃を目指すシェンゲン協定(Schengen agreement)の対象外にすべきだとの声が起こっている。

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ギリシャを側面から応援するような記事も出ている。

3月16日の英 Financial Times はフランスの財政赤字を取り上げ、これを罰しないのは誤り (Failure to fine the country is really an indictment of the EU's rules) とした。

以下、記事の概要。

ユーロ圏には1997年6月締結の「財政安定化・成長協定(SGP:Stability and Growth Pact)」がある。

・ 単年度の財政赤字額の比率がGDP の 3% を上回ってはならない
   (ここでいう財政とは、中央政府に限らず、地方政府などのすべての公共財政の合計を指す)
・ 国債残高が GDP の60%を下回ること

その基準をクリアできず、EU経済財務相理事会が「過剰な赤字」と評価すれば赤字是正が勧告され、その後、赤字の解消に進展がないとみなされればペナルティー(罰金)が科される。

1990年代半ばにドイツの連邦財務相Theodor Waigelが提唱したもので、単一通貨圏において、一国が多額の借り入れを行い、中央銀行が通貨膨張の圧力にさらされ、インフレになった場合、1つの国の浪費によるコストを他のすべての国々に拡散して負担させることになり、同盟でも弱体化させるからである。

ドイツとフランスは、2002年以降3年連続で違反を続け、罰金の適用も停止させた。



フランスとドイツの圧力を受け、2005年3月の欧州理事会で見直しが行われ、財政赤字規律の条件を超えても、「小幅かつ一時的」な場合、経済成長がマイナスであれば過剰財政赤字とはみなされないことになった。

単年度赤字発行 3%、累積公債発行残高 60% という上限は残されたものの、ある国に対して債務が基準を超過していることを通告するにあたって、景気にあわせた財政動向、債務水準、景気低迷の期間、赤字発行による生産性向上の可能性といった指標を用いることが認められた。

その後、フランスとドイツは別々の道をたどる。
ドイツは経済改革を急速に進めることで対応し、現在では経常黒字が7%になるまで回復している。
それとは対照的にフランスは1970年代から財政黒字を計上していない。本年の財政赤字は4%を超える見込みだ。

EU財務相会議は2013年、フランスが財政赤字の対GDP比率を3%以内とする期限を2015年まで2年延期することで合意した。

フランス政府は本年2月、これを3年先延ばしにし、2018年とするよう要請した。

これを受け、EU財務相は3月10日の理事会で、財政再建の達成期限の2年延長を承認した。

2000年以降でフランスが基準を達したのは2006年と07年の2回だけ。
フランスの期限延長は2009年以降3度目となり、EU財政規律の信頼性を損ねかねないとして懸念の声が上がっている。

アイルランド、ポルトガル、ギリシャは速やかに赤字を削減することでこれよりもっと深刻な景気後退を持ちこたえた。

欧州はその不均衡に悩まされている。それは単に小規模な赤字国の過失だけによるものではなく、これらの国々だけが非難されるべきではない。

二重基準では、既に弱体化している欧州の結束はぼろぼろになる。銀行の「大きすぎて破綻させられない」問題と同様に、この「大きすぎて罰金を科せられない」問題も有害だ。

 


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