ギリシャ対策 難航

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ギリシャへの新たな金融支援の協議を始めるかどうかを決めるユーロ圏財務相会議は7月11日に8時間半にわたり改革案の実効性や信頼性について議論したが、結論が出ず、一旦終了した。

財政改革案をおおむね支持するフランスやイタリアと、不十分だとするドイツやフィンランドの意見が対立した。

デイセルブルム議長は、「信頼性が大きな問題になっている。ギリシャ政府が今後数年にわたり約束を実行すると信じていいのかという問題」としている。

ドイツはギリシャ側の提案は「重要な改革が欠けており」、新たな3年間の支援計画の基礎にはなり得ないと し、ギリシャのユーロ圏からの一時離脱さえ提案した。

ドイツは、ギリシャが議会の支持を得て「迅速かつ大幅に」改革案を改善させることとし、具体的には、
 1)  独立した信託会社に国有企業や資産 500億ユーロ分を移管しその売却益を債務返済に充てること、
 2)  欧州委員会の監督の下で行政改革を進めること、
 3)  財政赤字削減が目標に届かなかった場合に自動的な歳出削減を発動するため法を整備すること
を提案している。

その上で、信頼性のある改革案がなければ、ギリシャはEUには残留した上で、少なくとも5年間ユーロ圏から離脱し、人道援助などを受けながら債務を整理すべきだとの案を出した。

債務の元本削減はユーロ圏内では違法になるとしている。

さすがに、このアイディアは、違法かつナンセンスとしてEU側に無視され、財務相会議では議論されなかった。

フィンランドでは連立与党の一つが連立離脱をちらつかせ、ギリシャ支援反対を求めたため、合意文書に署名できなかったとされる。

財務相会議は7月12日に再開されたが、結論には至らず、ユーロ圏首脳会議での政治判断に委ねた。

声明案では、ギリシャは7月20日(ECB保有債券の償還期限)までに70億ユーロが必要で、8月半ばに満期となる分も合わせると120億ユーロが必要になるが、第3次支援交渉を開始するためには、ギリシャが、付加価値税引き上げ、年金制度改革、企業破綻制度の見直し、統計局の独立性強化を7月15日夜までに法制化する必要があるとしている。

また今回は、支援の条件を満たせなかった場合に一時的にユーロ圏から事実上離脱させるというドイツ案も盛り込んだ。
(ただし、この文言はカッコでくくられており、同意していない財務相がいるとみられる。
EUの高官は、ユーロ圏からの一時的な離脱は違法との見方を示した。)

これを受け、ユーロ圏首脳会議が開催されたが、各国の意見が割れた。

ギリシャのチプラス首相は、欧州の結束維持に向け「さらなる誠実な妥協」を望むとしたが、ドイツのメルケル首相は、支援協議を開始する状況にはないとの認識を示し「最も重要である信頼が失われてしまった。それは、厳しい協議になることを意味する」と語った。

フランスのオランド大統領は、フランスはギリシャをユーロ圏に留めるため「あらゆる方策」を尽くすと述べ、「ギリシャの一時的なユーロ離脱」を否定した。

イタリアのレンツィ首相は、ギリシャの財政再建策は「EU側が求めた内容に沿っている」と指摘し「われわれは絶対に合意しなければならない。ほぼ全て譲歩したパートナーに恥をかかせるのは考えられない」と語った。

こうしたなか、ギリシャ政府が15日までに財政再建策の一部を法制化し、その出方を見た上でEU側が15日以降に金融支援の開始を決めるという段取りで、ギリギリの調整が続いた。ギリシャ側は難色を示している模様。
(記事作成時点では終了していない。発表あれば追記します。)

7月12日に予定していたEU全体の首脳会議は取りやめとなった。
ここでは、
ギリシャのユーロ圏離脱をどう扱うか協議することが目的だったとされる。
ギリシャに3日間の猶予が与えられたとの報道がある。

 

「サムライ債」約117億円の償還期限が7月14日に迫っている。

ーーー

ギリシャのAlexis Tsipras 首相は6月27日の午前1時、突然テレビ演説し、EUなどから金融支援の条件として提案されている改革案の受け入れの是非を問う国民投票を7月5日に行うと表明した。

2015/6/8   ギリシャ、IMFへの6月分債務返済の一本化、月末先送りを要請
2015/6/20   ギリシャ支援合意できず
2015/6/27   ギリシャ、EU支援条件巡り7月5日に国民投票
2015/7/1   ギリシャ支援が失効 

7月5日の国民投票では、反対が61.31%、賛成が38.69%で、チプラス首相は 「ギリシャは歴史的なページを開いた」と述べ、反対派の勝利を宣言した。 

2015/7/6   ギリシャ国民投票、EUの財政緊縮策に反対 

しかし、ギリシャは7月9日夜、新たな金融支援の条件としてEUから求められた財政改革案を提出した。
ギリシャ議会は7月11日未明、チプラス政権がEUなど債権者側に示した120億ユーロ規模の財政改革案を 、賛成 251、反対 32、棄権 8、欠席 9 で承認した。

ギリシャの譲歩案は国民投票で拒否したEU側の要求にほぼ沿ったものだが、その見返りに、総額535億ユーロ(約7兆2000億円)の3年間の金融支援を「欧州安定メカニズム(ESM)」に求めている。
(債権団の実務者チームは金融支援に必要な額は740億ユーロに達するとの審査結果をまとめている。)

また、3000億ユーロに膨らんだ公的債務の返済負担軽減のための債務再編も要請している。

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改革案の中身を検討していたEU欧州委員会とIMF、欧州中央銀行(ECB)は7月10日夜、財務相会合に対し、ギリシャの提案は「交渉再開の土台になる」と内容に前向きの評価を報告した。

IMFのラガルド専務理事は7月8日、ワシントン市内で講演し、財政危機で金融支援を受けたポルトガルやアイルランドなどが改革に取り組んだことを踏まえ、ギリシャについても「財政健全化と重要な改革が必要だ」と強調する一方、EUに対しては「ギリシャのケースでは、財政持続のために債務の再編が必要だ」と述べ、借金の減免や返済期限の延期を促した。

ダウ・ジョーンズ通信は7月11日、IMFが、ギリシャの債務返済期限を現在の平均約30年から60年に延長することを提案していると報じた。

米国のルー財務長官は7月10日の講演で、ギリシャ政府の債務はGDPの約1.8倍もあり、「財政は持ちこたえられない」と指摘し、ギリシャ政府に対し厳しい改革を求める一方、「ギリシャ政府が抱える債務を整理する必要がある」と述べ、EUに対して返済条件の見直しを改めて求めた。

中国やロシアがギリシャに接近している。地中海の要衝でNATO加盟国のギリシャの混乱は安全保障問題に直結しており、米国は懸念している。

クリミアの二の舞を踏むことのないように、場合によってはギリシャでクーデターを起こすとの噂も飛び交った。
仮にギリシャがNATOから離れれば、その次はトルコだという不安がある。

ドイツの態度を批判する声も出ている。
2015/7/9   メルケル首相への公開書簡

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各紙の報道によると、ギリシャ側の財政改革案は下記のとおり。

  EC側要求 ギリシャ譲歩案
予算目標 基礎的財政収支の黒字を
 
2015年はGDPの1%
    2016年は2%
    2017年は3%
    2018年は3.5%
受入
Sales tax

 現状 一般税率23%
        軽減税率13%,  6.5%
           (電気料金は13%)

  ギリシャ危機前の税率
            一般税率19%
       軽減税率 9%,  4.5%
GDPの1%分増税


ホテル、レストラン等の税率引き上げ

電気料金の23%への引き上げも

(本年10月実施)
ホテル 6.5%→13%
レストラン等 13%→23%


軽減税率13%:食料品、エネルギー、水(電気料金は据置き)
軽減税率 6.5%:医薬品、書籍、劇場

離島向け軽減税率廃止
(現在は通常税率から30%軽減)
遠隔地以外は廃止


先ず最も人気のある島(Mykonos、Santorini、Rhodes、Kos)から実施
他は2016年末までに実施

防衛費 4億ユーロ削減 2015年に1億ユーロ削減、
2016年に2億ユーロ削減
法人税率 ギリシャ政府の当初案は厳しすぎる。
企業へのしわ寄せは望ましくない。
 
当初案   26%→29%
      +大企業に一度だけの12%課税


修正 26%→28%

農家の優遇税制と燃料補助を廃止
造船業は従量税率引き上げ、優遇税制の順次撤廃
長さ5メートル以上のレジャー船に贅沢税を賦課
贅沢税率 10%→13%
年金 GDPの1%(約18億ユーロ)削減 2015年にGDPの0.25~0.5%の節減
2016年以降は1%節減
支給開始年齢引き上げ前倒し 早期支給を廃止する方向

2022年までに支給年齢67歳を基準に
(困難な仕事、障碍児を育てる母親は除く )
民間セクター改革   2019年までに賃金の下方修正、技能・業績・責任を重視
有給休暇や旅費補助などはEU基準にあわせ簡素化
公共セクターの従業員を必要な場所に移せるように調整
月末までに不正防止策
政党の資金の透明化
経済犯罪調査への政治介入を防止
徴税 徴税制度の改革
 
独立したtax revenue agencyの設置
徴税、脱税摘発、燃料密輸の体制整備
金融   破産法改正でローンを返済させる
不良債権処理のためにコンサルタント起用
外人投資家にギリシャの銀行に投資させる手段をとる。
市場   規制緩和で事業開始を容易にする。
天然ガス市場の改革
民営化 民営化推進 電線網、地方空港、港湾の民営化
Pireaus港、Thessaloniki 港の売却を含む

 

 

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ギリシャ人たちが危機に陥っているのは、彼らが怠け者で借金を踏み倒す連中だからだ、というのは正しいか?

Wall Street Journal のオピニオン欄 「ギリシャ危機、金融メディアが語らない10のこと」は、全く正しくないとしている。
  
http://jp.wsj.com/articles/SB10468926462754674708104581085121389238598

1. ギリシャ人は既に要請されている以上に緊縮している。

2. 本当の問題はトロイカの薬が効かなかったということだ。

3. 引用される「専門家」の発言は、皆バイアスがかかっている。

4. (返済を停止したり、ユーロから離脱したりすれば、経済的な災厄に直面するとの主張があるが)
  ギリシャは既に破局している。

5. 国というものは、財政緊縮でマネーを「創出」できない。

6. 本当は、ギリシャのドラクマ再導入は極めて容易だ。

7. 本当は、ユーロ無しでもギリシャはやっていける。

8. ギリシャだけがこの危機の原因だったのではない。非は「ユーロ」構想

9. パニックになるな。今回のギリシャ危機は他の世界にとって大きな問題にならないはずだ。

10. トロイカの提案する「治療薬」は無意味だ。


作家 三橋貴明のブログでも下記のように述べている。

ギリシャ人の労働時間は、OECD諸国の中では最長です。ドイツ人はもちろんのこと、日本人よりも多いのです。

そして、2014年のギリシャ政府はプライマリーバランス(基礎的財政収支)が黒字化していました。

さらに、パパンドレウ政権までのギリシャの公務員数が妙に多かったのは確かですが、今は激減し、主要先進国の中では「日本に次いで」少なくなっています。



 

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