日本ガイシは9月3日、米国司法省との間で自動車用触媒担体の取引の一部に関して米国反トラスト法違反で有罪を認め、罰金6530万米ドルを支払うことを主な内容とする司法取引に合意した。
証拠隠滅などにより当局の捜査を妨害した疑いもあり、司法省は同社がこの件でも有罪を認めるだろうとしている。
司法妨害でも別途罰金を課せられる可能性がある。
自動車用触媒担体は、米国その他の GM、トヨタ、日産などに供給されている。少なくとも2000年7月から2010年2月まで、共謀する他社(1社)との間で価格等の話し合いを行った。
同社はこれに加え、調査開始に気づき、2010年2月から2012年7月までの間、調査を妨害するため、司法妨害したとして訴えられている。
幹部と社員が電子ファイルを抹消し、書類を破棄や隠匿し、幹部のパソコンを取り替えたり、米国事務所に蓄積されている電子ファイルを除去したり隠したりした。
日本経済新聞によると、日本ガイシの前社長(現在 相談役)は2002年から2007年まで、排ガス浄化装置を扱うセラミックス事業本部長を務めており、調査に非協力的だったこともあり、他の2名とともに免責されなかった模様。
起訴された場合、1部上場企業のトップとしては初めてとなる。 (東証2部上場のダイヤモンド電機では元社長と元副社長が禁固刑を受けている)
起訴された場合、禁固刑&罰金刑の可能性がある。
出頭しない場合は「海外逃亡」で時効が中断する。犯罪人引渡し条約により他国に入国した時点で逮捕・米国送還される(下記の1例あり)。
2014/5/8 マリーンホース国際カルテルでのイタリア人被告の米国への引渡し
日本への引渡し要請の可能性もある。
炭素ブラシのカルテルと司法妨害で訴えられた英国のMorgan
Crucibleの元CEOが英国から米国に引き渡され、18ヶ月の禁固刑を受けた例もある。
(カルテル時点ではカルテルは英国での犯罪ではなかったとの主張で、カルテルは外され、司法妨害の罪で引き渡された)
日本の場合は1980年の条約で、両国でいずれも処罰の対象となり両国の法律で死刑、無期懲役、1年以上の拘禁刑に当たる罪の場合は引渡しが可能となっているが、独禁法違反の場合には日本政府は該当せずとし、引渡しは行われなかった。
2009年改正により、独禁法の最高が懲役5年となったため、執行猶予の対象外となり、条約上の引渡し対象となる。
(それまでは最高が懲役3年のため、執行猶予が付いた。)条約第5条では、「被請求国は、自国民を引渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる」となっており、日本政府の判断で引渡しを行うかどうかを決めることとなる。
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2011年9月に古河電工が自動車用ワイヤーハーネスに係るカルテルに関して司法省との司法取引に合意して以降、多くの企業(ほとんどは日本企業)が自動車部品カルテルで起訴され、司法取引を行っている。
今回の日本ガイシを含め、合計36社(うち日本企業は31社)が総額25億67百万ドルの罰金を支払っている。
このなかには、1936年に日本ガイシ(NGK Insulators)
から独立した日本特殊陶業(NGK Spark Plug)も含まれている。
自動車部品カルテルでは企業に加え、担当の責任者も多数起訴されている。
(企業が司法取引をする場合、責任者や担当者も免責されるが、違法行為がひどい場合は免責されず、起訴される。)
現時点で55名が起訴され、うち30名が禁固刑と罰金刑(2万ドル)を受けている。
このうち、タカタの米国人1名が禁固刑を受けた以外、すべて日本人である。
自動車部品カルテルの以前には、日本人で禁固刑を受けたのは2名のみであった。
うち1名は、
若い担当者のため、将来海外に行けないのは困るとして、自ら渡米して刑を受けた。もう1名は米国で謀議中に逮捕された。
他にも多数が起訴されているが、日本から出ず、「海外逃亡」で時効中断となっている。
2015年に入り、海上貨物輸送カルテル で3社の3名が禁固刑を受けた。
この結果、日本人で禁固刑を受けたのは34名となっている。
詳細は下記の通り。
自動車部品カルテル | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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罰金は殆どが各2万ドルで、ダイヤモンド電機の場合は2人が各5千ドル。
これ以外の日本人の禁固刑
氏名 | 禁固 | 罰金 | ||
ダイセル ソルビン酸価格カルテル |
H. H. | 2004/8/5 | 3ヶ月 | 2万ドル |
ブリヂストン マリンホース国際カルテル |
M. H. | 2008/12/10 | 2年 | 8万ドル |
海上貨物輸送カルテル | |||||||||||||||
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通常、起訴されるのは役員クラスだが、ダイセルの場合、減免制度でチッソが提出した詳細情報に若い担当者の関与が記載されており、起訴された。
海外に行けないのでは仕事にならないため、服役を選んだ。
米国司法省は、「日本人で最初に服役」と誇らしげにこれを発表するとともに、本人には3ヶ月の禁固という軽い刑にし、その他でも特別待遇をしたという。
出所後は欧州勤務をするなど、活躍している。
付記 ソルビン酸カルテル事件
企業 罰金 | 個人 | |||||
ダイセル | 53百万ドル | 2000/7/25 | K. K. |
2000/7/25
起訴 (時効中断) |
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H. I. | ||||||
T. M. | ||||||
H. H. | 禁固3ヶ月 罰金 2万ドル |
2004/8/5 | ||||
上野製薬 | 11百万ドル | 2001/1/23 | Y. K. |
2001/1/23起訴 (時効中断) |
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Y. K. | ||||||
W. S. | ||||||
日本合成 (事業撤退) |
21百万ドル | 1999/7/14 | H. I. | 罰金 35万ドル | 1999/7/14 | |
Eastman | 11百万ドル | 1998/9/30 | ||||
Hoechst | 36百万ドル | 1999/5/5 | Manager | 罰金 25万ドル | 1999/5/5 | |
チッソ (事業撤退) |
情報提供で免除 |
EU 2003/10/1
課徴金 | |
ダイセル | 16.6百万ユーロ |
上野製薬 | 12.3百万ユーロ |
日本合成 | 10.5百万ユーロ |
Hoechst | 99.0百万ユーロ |
チッソ | 情報提供で免除 |
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米当局は現在、キャパシタ(電解コンデンサー)業界のカルテルの調査を行っている。
司法省は9月2日、NECトーキンが罪を認め、1380万ドルの罰金を支払うと発表した。
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