算定に使われた「入倉・三宅式」(入倉孝次郎京都大名誉教授らが提唱し、震源の断層面積から地震規模を算出するもの)で、大飯原発の震源など地表に対して垂直に近い断層に適用すると、地震規模が他の計算式に比べて四分の一程度に過小評価されるという。
これを受け、原子力規制委員会は6月20日、関西電力大飯原発の基準地震動を他の手法で再計算することを決めた。
2016/6/21 大飯原発 基準地震動再計算へ
今回、揺れの大きさを断層の長さから求める「武村式」を使って再計算した結果、現在の基準地震動の856ガルに対し、再計算では644ガルだった。
規制委員会は7月13日、関電の想定を下回ったため、基準地震動の見直しは必要ないとの見解をとりまとめた。
これを受け、他原発では再計算しない としている。
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しかし、島崎邦彦・東大名誉教授(地震学)は7月14日、「結論には納得できない」として再々計算を求める抗議文を送った。
問題点は下記の通り。
1) 規制委の計算では、入倉・三宅式で計算した結果が356ガルで、関電の596ガルと比べ、約6割となっている。
島崎氏は「関電と同様の設定で計算すべきなのに、されておらず、関電の計算結果に比べて約6割と過小評価になった。補正すべきだ」とする。
規制委の計算の武村式についても、同様に、低く出ていると見ている。
2)基準地震動の策定は、基本パターンといわれる地震動を作ったあと、これに「不確かさの考慮」を上乗せ補正する。
大飯原発の審査では、過去に、別の原発で想定を大幅に上回る周期の短い地震の揺れが観測された実例を踏まえて補正をしている。
入倉・三宅式 596ガル→ 補正後 856ガル
今回はなぜか、この補正をせず、入倉・三宅式、武村式の結果だけを示している。
島崎氏は、1)と2)の補正をすれば、推定で1550ガルになるという。
3)東電・福島第1原発事故後の安全評価(ストレステスト)で、関電は、炉心冷却が確保できなくなる下限値を 1260ガルとしている。
島崎氏の推定の1550ガルはこれを上回る。
2014年5月21日の福井地裁での再稼動を認めない判決では以下の通り述べている。
1260ガルを超える地震によってこのシステムは崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能となり、メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないことは被告において自認しているところである 。
2014/5/30 大飯原発差し止め訴訟判決
4) なお、基準値振動は平均値であって、上限値ではなく、これを上回る可能性はある。
上記判決では、基準地振動そのものの問題について述べている。
全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地振動を超える地震が平成17年以後10年足らずの間に到来しているという事実を重視すべきは当然である。
2005/8/16 宮城沖地震 女川原発 2007/3/25 能登半島地震 志賀原発 2007/7/16 新潟県中越沖地震 柏崎刈羽原発 2011/3/11 東北地方太平洋沖地震 福島第一原発 女川原発
規制委員会では7月19日に、田中委員長が改めて島崎元委員と会って話を聞き、指摘に対する対応を検討するとしている。
再計算で「不確かさ」を考慮した評価をしていないことについては 、「今回使った計算式では不確かさをどこまで見込むべきかの評価がされておらず、専門的な判断が必要になる。どういう評価をすべきかは、今後、専門家の中で、やってもらうしかない」と述べた。
そのうえで、「規制委員会は学問的な議論をする場ではないので、一般的専門家の中で検証され新しい知見があれば、積極的に取り入れていく」と述べた。ーーー
島崎氏は地震学の専門家である。
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