三菱化学、インドと中国の高純度テレフタル酸(PTA) 事業を売却

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三菱化学は7月27日、インドでPTA事業を行う MCC PTA Idia、中国でPTA事業を行う 寧波三菱化学、同じくポリテトラメチレンエーテルグリコール (PTMG) 事業を行う MCC高新聚合産品(寧の持分を譲渡すると発表した。

同社が進めている石化事業の構造改革の一環。

PTAについては、中国では極めて大規模な設備投資の結果、設備過剰状態が継続し、供給量が需要を大きく上回る市場環境となっている。
インドでも競合他社の増設等により供給過剰となるなか、中国での市況低迷の影響を受け、同様に厳しい事業環境が継続している。

三菱ケミカルホールディングスは本年2月、2015年第3四半期の決算を発表したが、PTA事業で減損損失を計上した。

同社は以下の発表を行った。

当社のテレフタル酸事業を運営する連結子会社であるMCC PTA India 及び 寧波三菱化学において、近年の業況の著しい悪化及び将来においても事業環境の回復が見込めないことから、両社が保有する固定資産の回収可能性を検討したところ、両社にて、628億円(MCC PTA Indiaが424億円、寧波三菱化学が204億円)の固定資産減損損失を特別損失に計上しました。

* 最終的には、MCC PTA Indiaが432億円、寧波三菱化学が204億円で、合計636億円となった。

2016/2/9 三菱化学、テレフタル酸で減損損失計上

同社は2015年12月9日の事業説明会で、素材分野のアクションプランで「テレフタル酸事業の抜本的対策の実施」を挙げている。

三菱化学石塚社長の年頭挨拶でも、「テレフタル酸は中国の過剰設備により厳しい状況が続いているが、2016年度中に抜本的な対策を行う」としていた。

なお、ポリテトラメチレンエーテルグリコール (PTMG:スパンデックス、ウレタン樹脂等の主原料) についても、設備過剰の状態が継続し、スパンデックス市場の成長が鈍化しているため、今後の収益改善が見込めないことに加え、同工場が寧波三菱化学の構内にあってユーティリティの供給を受けており、事業継続には新たな投資が必要なことから、合わせて譲渡する。

中国の設備過剰については、実は、投資決定時点である程度は予測できた。

寧波三菱化学は2005年5月に建設に着手したが、完成前の2006年4月に本ブログは「しかし、こんなに増設して大丈夫であろうか。これもバブルではないのだろうか」と書いた。

2006/4/17 高純度テレフタル酸(PTA)の大増設

売却先は次のとおりで、各社の詳細は後記。

 MCC PTA Idia:Chatterjee Group 傘下のChatterjee Management Company(本社 New York)

 寧波三菱化学及びMCC高新聚合産 品(寧):香港の利万集団(Union King Holdings)とそのグループ会社の寧波宏邦石化 (Ningbo Hongbang Petrochemicals)

利万集団は寧波で石油精製・石油化学事業を行う中海石油寧波大榭石化に出資


今回の売却は、上記の2015年度の減損損失の計算に折り込んでおり、今後の損益への影響は軽微としている。

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各社の概要と売却の詳細は次のとおり。

1) MCC PTA India

社名 MCC PTA India Corporation Private Limited
場所 西ベンガル州 Haldia
株主 当初:
 三菱化学 66%
 西ベンガル州産業開発公社 5%
 三菱商事 9%日商岩井 8%トーメン 5%丸紅 5%住金物産 2%


現在:
 三菱化学 95%
 
西ベンガル州産業開発公社 5%

 * 発表はないが、今回の売却に備え、他株主の持分を買収したと思われる。

設立 1997/2
能力 第一期 350千トン 470千トン
第二期 800千トン
(現状 720千トン)
計   1,190千トン

 

売却手続き  2016年7月27日付けで株式譲渡契約を締結する。譲渡期日は2016年10月末の予定。

現状 事前処理 処理後 株式譲渡 譲渡後
三菱化学  95% ①貸付金の株式への転換
②三菱化学が増資引き受け
99.4% -90.4% 9.0%
西ベンガル州産業開発公社 5% 0.6% 0.6%
Chatterjee 90.4% 90.4%
合計 100% 100% 100%

 売却額:48百万米ドル

2) 寧波三菱化学  

社名 寧波三菱化学有限公司
場所 浙江省寧波市
株主 寧波PTA投資 90% (三菱化学 61%、伊藤忠商事 35%、三菱商事 4% )
中国中信集団(
CITIC)10%      
設立 2004
能力 60万トン/年
備考 2007/3 運転開始

 

売却手続き  2016年7月27日付けで株式譲渡契約を締結する。譲渡期日は2016年12月末の予定。

現状 事前処理 処理後 株式譲渡 譲渡後
寧波PTA投資 90% CITIC持分買収 100% -100%
中国中信集団(CITIC) 10%      
利万集団 33% 33%
宏邦石化 67% 67%
合計 100% 100% 100%


寧波PTA投資
は解散する。
 * 同社は
三菱化学 61%、伊藤忠商事 35%、三菱商事 4%のJVであった。
   発表にはないが、
今回の売却に備え、他株主の持分を買収したと思われる。

 売却額:470百万人民元(約 70百万米ドル)

3) MCC高新聚合産品(寧

社名 MCC高新聚合産(寧有限公司
  MCC Advanced Polymers Ningbo Co., Ltd.
場所 浙江省寧波市大榭開発区
株主 三菱化学100%
設立 2007年
能力 PTMG 2.5 万トン/年

 売却手続き  2016年7月27日付けで株式譲渡契約を締結する。譲渡期日は2016年12月末の予定。

現状 株式譲渡 譲渡後
三菱化学 100% -100%
利万集団 33% 33%
宏邦石化 67% 67%
合計 100% 100%

 売却額:26百万人民元(約 4百万米ドル)

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インド事業を買収するChatterjee Group、ベンガル出身のDr. Purnendu Chatterjeeが1989年に設立した投資会社で、米国に本拠を置き、米国・欧州・南アジアで石油化学、医薬、バイオ、金融、不動産、技術セクターに投資している。

石油化学ではMCC PTA IdiaのHaldia 工場の近隣で石化事業を行う Haldia Petrochemicals に出資しており、Biotech Park やIT Parkなどを運営するTCG Real Estate、医薬品R&Dの TCG Lifesciences などを持つ。

Haldia Petrochemicals :

出資 Government of West Bengal 43%、Chatterjee Group 43%、Tata group 14%、Indian Oil 7.5%
製品 エチレン 700千トン、LLDPE、HDPE、PP、ベンゼン、ブタジエン、シクロペンタン、ほか

中国事業を買収する利万集団(Union King Holdings)は香港を本拠とする。
寧波で石油精製・石油化学事業を行う中海石油寧波大榭石化に出資
する。

中海石油寧波大榭石化の前身は2001年に利万集団が設立した寧波大榭利万石化で、2004年7月にCNOOCが参加し、改称した。
2005年設立で2009年にCNOOCが参加した舟山石化と一体運営されている。

石油製品のほか、プロパン、プロピレン、ペンタン、ヘキサンなどを生産する。

ーーー

三菱化学インドと中国のほかに、インドネシアと韓国でPTA事業を行っている。

インドネシアについては、グループ向けの出荷が多いため、また、韓国については持分法JVであり、恐らくは他のパートナーの意向で、事業を継続する。

社名 PT. Mitsubishi Chemical Indonesia
旧称
 バクリー化成 2000/10 改称)
場所 インドネシア Cilegon
株主 三菱化学 83.3%
日本アジア投資(JAIC) 16.7%


当初
三菱化学 57.4%
JAIC 17.1%
Bakrie & Brothers 25.5%

設立 1991/3
能力 PTA 640千トン(320x2)
PET 52千トン
備考 Bakrie & Brothersは経営危機に陥り、金融機関から事業の再編成、化学事業からの撤退を要求され、2000年に全持株を日本側に売却

社名 Sam Nam Petrochemical Co., Ltd.
  三南石油化学
場所 韓国 麗川
株主 三菱化学 40%
三養社 40%
LGカルテックス 20%
設立 1988/1
能力 PTA 300千トン 
QTA(一段酸化PTA) 1,200千トン

ーーー

日経新聞(7/28) は本件について次のように述べている。

PTA撤退により、目立った不採算事業はなくなる。今後は炭素繊維や高機能樹脂など、成長が見込める分野に資金を配分する。

もっとも、注力する成長分野とて汎用化の波はいずれやってくる。中国・韓国勢も研究開発に力を入れており、高機能分野で日本勢の独壇場が続くとは限らない。三菱ケミカルの今回の事業売却が真に改革の総仕上げとなる保証はない。


日本企業の構造改革は、欧米の化学企業の構造改革には程遠いものである。

参考   2015/12/24  2015年 回顧と展望 再び 「ガラパゴス鎖国」論

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