ベトナム政府は11月10日、日本企業が受注しているベトナムで初めての原子力発電所の建設計画の中止を求める決議案を国会に提出した。11月22日採決の予定で、提案通り可決される可能性が高い。
付記 ベトナム政府は11月22日、同国南部に建設することになっていた原子力発電所の計画を中止すると決めた。
日本にとって新興国での初の原発受注で、インフラ輸出に弾みがつくと期待されていた。原発輸出を成長戦略の一つに位置づける安倍政権にとって大きな打撃となる。
安倍首相は11月11日、訪日中のインドのモディ首相と会談し、日印原子力協定に調印した。
インドへの原発輸出が可能になる。
インドは核拡散防止条約(NPT)に加盟していないため、インドが核実験を再開した場合、日本側が協定を破棄・停止できるという内容の「見解及び了解に関する公文」を交換した。(日本は協定本文への記載を求めたが、インド側は、「核政策は主権に関わる」として拒否した。)
ベトナム政府は、国内で初めてとなる原子力発電所を南部のニントゥアン省の2か所に建設することを計画し、日本とロシアの企業が1か所ずつ受注した。
立地 能力 担当 ニントゥアン第一原発 Ninh Thuan省Phuoc Dinh 200万kw x 2 ロシア ニントゥアン第二原発 Ninh Thuan省Vinh Hai 200万kw x 2 日本
当初は2014年に着工することになっていたが、2011年の東京電力福島第一原発事故のあと、安全基準の再検討などを理由に計画が延期され、着工のめどは立っていなかった。
福島事故を受け、住民の反発が強まっていた。
ベトナム共産党は本年1月、2016~20年の新指導部について最高指導者のグエン・フー・チョン書記長の留任を決めた。
原発計画を進めてきた親日派のグエン・タン・ズン首相は一時は書記長就任が本命視されていたが、4月7日に退任し、引退、グエン・スアン・フック首相が就任した。
グエン・タン・ズン前首相はTPP参加を決めるなど経済重視や改革を主導してきたが、党指導部からの反発も強かったとみられる。
その後、原発の建設費用が当初予定の2.7倍の270億ドルになるという試算が明らかになり、新体制下で、原発の安全性や財政面での不安が議論になったものとみられる。
原発計画を担当する国会の委員会の副委員長は以下の通り述べた。
想定を大幅に上回る建設コストや財政難、核廃棄物への懸念などが撤回の理由である。
原発建設コストが想定の2倍以上となることが見込まれ、発電コスト上昇も避けられず、このような大規模プロジェクトに投資し続けると、公的債務がさらなるリスクとなる。
2016年10月 に、ベトナム政府が原発の追加建設計画を取り消し、韓国政府が進めてきた韓国型原子力発電所のベトナムへの輸出が事実上白紙化された。
韓越両国は2011年11月の首脳会談で、「韓国型原発APR−1400」のベトナムでの建設を盛り込んだ「原発建設総合計画」を承認した。
その後、立地選定など実務内容を協議するための「予備妥当性調査」を進めてきた。
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ベトナムでは2000年代に入ると原発の建設計画が具体化し、各国政府(ロシア、中国、韓国、フランス、日本)および原子力企業の売り込みが活発になった。
2009年11月に、ベトナム国会で、2020年~2022年までに100万KW 2基の原子力発電所を2カ所に建設する計画が承認された。
第一原発はロシアが主導権を握ることとなり、2009年12月に両国政府が協定を結び、2011年12にロシアの原子力企業 Rosatomが建設に合意した 。
第二原発については、2010年10月31日に菅直人首相(当時)とグエン・タン・ズン首相との首脳会談がハノイで行われ、日本をパートナーとすることがズン 首相から表明された。
2011年2月に日本原子力発電がベトナム電力公社と原子力発電導入に関する協力協定を締結した。
原発輸出には原子力協定の締結が必要だが、2011年12月に、ヨルダン、ロシア、韓国、ベトナム4カ国との原子力協定が国会で承認された。
その後、ベトナム政府は2010年6月に、2030年までに原子力発電所を8カ所、計14基(計1500万~1600万キロワット)建設・稼働するとした原発開発方針を承認した。
ベトナム政府の当時の電力マスター・プランによると、ベトナム国内の電力需要は2005年から20年までの間で年率10%増加し続け、電力供給は逼迫する。
水力発電の比率は2010年では36%を締めるが、ベトナムではモンスーン気候の影響で年間を通じて安定的に供給できる電源とは言えず、また建設可能な水域が少なくなっている。
火力発電は資源価格の高騰や二酸化炭素排出の問題を考慮すると増設は困難となる。
このため、政府は原子力発電の開発を進めた。
今後、ベトナムのエネルギー計画が見直される。
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