東芝は、アメリカの原子力事業の損失額について、当初の見通しよりさらにおよそ2000億円拡大し、7000億円規模に上る可能性があるという見通しを取りまとめたことが明らかになった。
東芝は12月27日、2015年末のStone & Webster (S&W) 買収で数十億ドル規模の「のれん」計上の可能性が生じたことを明らかにしていた。最高で5000億円とみられていた。
2016/12/30 東芝、Stone & Webster買収で数十億ドル規模の「のれん」計上の可能性
昨年末の想定を超える理由は、米の原発事業に絡むコストの実態解明が進んだことで、あらゆる費用を洗い出し、回収可能性を慎重に見積っている。円安で円建ての赤字が増える。
Westinghouseが受注し、S&Wが建設中の米国の4つの原発は、主にS&Wの責任により工事が大幅に遅延し、コストが急増している。 (安全基準の強化によるコストアップも)
Westinghouseは2015年にS&WをCB&I から、建設の遅れについては責任を一切免責する(to get a "complete end to responsibility or liability")という条件で無償で買収した 。
(既報の229百万ドルは、建設完成後の報酬と機器引き渡しなど事後にCB&Iが実施するものの対価である)
また、原発の発注元の電力会社との間では、S&W買収と同時に、コスト増のうちの電力会社負担分で合意しており、それ以上の求償できない。
このため、工事完成までのコストアップ分は全てWestinghouseが負担せざるを得ないこととなる。
WestinghouseはS&Wと一緒に事業を行っており、実態は熟知している筈である。
完成まで、どれだけ遅れるかは当然知っている。
電力会社との裁判を通じて、これまでのコストアップや今後の追加コストについても知っている筈である。
電力会社への追加請求ができないことも、自身が和解の当事者であるため知っている。
それにもかかわらず、CB&I を免責したのは理解しがたい。
また、東芝のトップが事態を2016年12月に初めて知ったというのも理解しがたい。
大幅なコストアップ分の負担が必要なことは早期に分かっている筈である。
後述するが、東芝は2016年8月21日の発表で、売買条件の実行についてCB&I が裁判所に申し立てをしたと明らかにしているが、実はWestinghouse側がコストアップ分20億ドルを請求していたのを、CB&I側が契約違反として申し立てたものであることがCB&I側の発表で分かった。
契約上、求償できないのは明らかである。
Westinghouseの経営陣と東芝の本事業担当の責任者は何を考えていたのであろうか。
今回は実態解明が進み、更なるコストアップが明らかになったもの。
「債務超過」を避けるため、東芝は主力のメモリー半導体事業を分社し、提携するハードディスク駆動装置(HDD)世界最大手の米 Western Degital などから出資を受ける交渉を始めている。半導体事業の分社化で数千億円を調達するほかに、他の事業を売却するなどして別途、3000億円規模を確保する。
但し、3月末までに間に合う保証はない。昨年の 東芝メディカル売却で使った奇手は使えない。
付記 2017年1月30日 東芝、原発事業を見直し
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東芝は2016年10月5日、Westinghouse が米国の電気設備メーカーであるAZZ Inc.との間で、同社の子会社で第三者の部品供給メーカーとして米国内で最大規模のNuclear Logistics, LLCの原子力発電所向け部品事業を取得することに合意したと発表したが、1月20日にこれを取り止めると発表した。代わりに、AZZ Inc.との間での原子力発電所向け部品事業における協業契約を締結した。
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Westinghouseは米国で4件、8基の原発を受注したが、このうち、Vogtle原発、Virgil C. Summer 原発の各2基を建設中である。いずれもS&Wが建設を担当している。
機種 | 当事者 | 経緯 | 現状 | ||
South Texas Project (テキサス州) |
3、4号機 | ABWR | (NRG Energy) / 東芝 | 2008/3 東芝受注、12%出資 2010/11 Shaw Group と提携(S&Wが建設) 2011/4 NRGが撤退(後継 未定) 2016/2 ABWRとして初の認可 |
(未着工) 新パートナーを探し、進め方を決める。 |
2016/5/16 東芝、米国大手エンジニアリング会社との原発建設に関する協力関係を解消 | |||||
Levy Project (フロリダ州) |
1、2号機 | AP1000 | Progress Energy→ Duke Energy |
2009/1 WH が受注 福島事故で認可時期が後ろ倒し 2013 建設断念 2014 契約解除 WH 352百万ドルの費用補填求め訴訟 2016/12 結審 30百万ドル+金利のみ |
(建設断念・解約) |
Vogtle Project (ジョージア州) |
3、4号機 | AP1000 | Southern Co. | 2012/2 NRC認可 | 現在建設中
建設遅れのコスト負担で訴訟 |
Virgil C. Summer Project (サウスカロライナ州) |
2、3号機 | AP1000 | SCANA/Santee Cooper | 2012/3 NRC認可 | |
2012/4/4 米、2件目の原子力発電所新設を承認 |
しかし、両プロジェクトは、主にS&Wの問題で工事が大幅に遅延し、建設費も予算を大幅にオーバーした。
Vogtle Project で14億ドル、
Virgil C. Summer Project は当初予定の81.8億ドルから94.5億ドルに12.7億ドルの超過となる。(いずれも2015年時点)東芝は「別の工場で大型モジュールをつくり、現場に運んで組み立てるので、36カ月で完成する」と宣伝したが、S&Wは大型モデュールをつくれなかったという。
超過費用の負担で、電力会社側とWestinghouse、Westinghouse とS&Wの間の争いになった。
S&Wは、Westinghouse に20%出資するShaw Groupの子会社であった。
2012年7月に米国大手エンジニアリング会社のCB&I が Shaw Group を買収することで合意、2013年2月に買収した。
CB&I は原子力関係事業からの撤退を決めた。
このため、東芝は、2012年10月10日にWestinghouseの株式 20%を Shaw Groupから取得すると発表した。 (Shawが当初の株式取得時のオプションを行使 )
また、Westinghouse は2015年10月にS&Wの買収を決め、12月31日に子会社とした。
Westinghouseは、S&Wを取得することで、米国プロジェクト全体の一元管理・遂行が行える推進体制を構築する とした。
2016/5/16 東芝、米国大手エンジニアリング会社との原発建設に関する協力関係を解消
また、S&W取得のタイミングに合わせ、Vogtle Project と V.C. Summer Project での電力会社との間の訴訟で和解し、価格とスケジュールを見直すことにも合意した。
電力会社側は、WestinghouseがS&Wを買収し、建設側が一体化することを和解の条件とした。逆にいえば、買収しなければ争いが長期化する可能性があった。
Vogtle Project については、電力側の追加負担は建設側の要求よりも著しく少ない350百万ドルで、3号機は2019年稼働、4号機は2020年稼働とした。(当初予定は2016年4月稼働)
V.C. Summer Projectについては、電力側の負担は286百万ドルで、2号機は2019年8月末、3号機は2020年8月末完成とした。(当初予定は2018年後半~2019年上期)
S&Wの買収に際し、WestinghouseはAP1000プロジェクトクトすべてに関し、過去・現在・将来の責務を負担し、CB&Iを免責するとしている。
かつ、WestinghouseはCB&Iに対し、原発計画の完成後に161百万ドル、CB&Iが継続してモデュール、組み立てパイプや特定のサービスを供与することに対し68百万ドル、合計229百万ドルを支払う。
この時点で東芝は87百万ドルの「のれん」を想定していた。(大幅なコストアップ負担を引き受けたにしては、余りにも少なすぎる)
後の報道では、東芝関係者が「S&Wを買収しなければ、2015年中に減損処理に追い込まれていたかもしれない。資産査定などの時間は限られていたが決断せざるを得なかった」と述べたという。
十分な計算をせずに、買収を決めてしまったとみられる。
東芝の2016年8月12日の発表によると、S&Wの買収契約には 下記の「価格調整条項」がある。
購入契約上、CB&Iは S&B の運転資本額として1,174百万ドル相当額を計上した状況で株式を譲渡する義務を負う。
買収完了後に運転資本額を精査し、運転資本額がこれを下回った場合は、差額をCB&Iが支払い、
逆に、上回った場合は、差額をCB&Iに支払うこととなっている。見解に相違があった場合は、第三者の会計士が判断する。
この発表によると、Westinghouse では、これに基づく算定結果を含む書面をCB&Iに提出していたが、CB&Iは7月21日に 、第三者会計士へ判断を委ねることの差し止めを求めデラウエア州公衡平法裁判所に行った。
東芝は一切触れていないが、CB&Iによると、CB&Iは運転資本の算定の結果として基準を428百万ドル上回る結果を報告したが、Westinghouseは逆に20億ドルを請求したという。CB&IはS&Wの売買契約の免責条項を理由にこれを拒否し、裁判所に提訴した。
おそらく、Westinghouseはこの時点では30億ドル強の損失を認識し、これをマイナスの運転資本額として、差し引き20億ドルを請求したと思われる。
東芝は8月12日の発表時点で、Westinghouseが算定結果を含む書面をCB&Iに提出していること、即ち、多額の損失があること、かつCB&Iがこれを拒否していることを認識している。
Westinghouseの損失となる可能性が極めて強いが、このことを12月までトップにあげていないこととなる。
粉飾決算事件から再出発した筈の東芝の経営体制は一体、どうなっているのだろうか。
毎日新聞の1月23日付「風知草」は述べている。「議論なし、会計操作優先というメーカーに原発を造らせ、他国に輸出してよいか。安倍政権と経済産業省の良心に問いたい。」
東芝は2016年7月のカンパニー別PR説明会で、2030年度までに45基以上の原発受注を目指すと述べた。
2016/7/14 東芝、2030年度までに45基以上の原発受注を目指す
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