中外製薬、特許権侵害訴訟で最高裁で勝訴

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中外製薬は3月24日、同社が保有する尋常性乾癬等角化症治療剤「オキサロール軟膏25μg/g」の製法特許(特許第3310301号)の侵害を理由とする、後発医薬品の製造販売の差止め請求訴訟で、最高裁判所が後発医薬品メーカー側の上告を棄却する判決を言い渡し、同社の勝訴が最終的に確定したと発表した。

オキサロール軟膏は、活性型ビタミンD3誘導体であるマキサカルシトールを有効成分とする角化症治療剤で、尋常性乾癬や魚鱗癬群、掌蹠角化症、掌蹠膿疱症の4疾患に効能・効果を有する。

後発医薬品は、原体をスイスのCerbios-Pharma SA が製造、これをDKSHジャパンが輸入し、岩城製薬、高田製薬、ポーラファルマの3社が販売した。(2012年12月に薬価収載)

中外製薬によると、製法特許を巡り3社と話し合いを行ってきたが、未調整の段階で販売が開始されたのを確認し、提訴に踏み切った。

経緯:

2013/2/19 中外製薬が、DKSHジャパン、岩城製薬、高田製薬、ポーラファルマの4社に対し、特許権侵害行為の差し止めを求める訴訟を東京地裁に提起
2014/12/24 東京地裁、中外の請求を全面的に認める判決
2015/1/6 4社、知的財産高等裁判所に控訴
2015/2/25 東京地裁、4社に対し原薬の輸入販売および本剤の販売の差止、廃棄の仮処分命令
2016/3/25 知財高裁、控訴棄却の判決(大合議判決)
2016/4/7 4社、最高裁判所に上告受理申立


最高裁はこれを受理したうえで、今回(2017/3/24)、第二小法廷で上告を棄却する判決を言い渡し、中外製薬の勝訴が確定した。

なお、現在、後発医薬品メーカー3社に対する本件特許侵害の損害賠償請求事件が東京地裁に係属中。

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最高裁判所は上告受理申立てに対して、大部分の事件では申立て棄却の決定をする。

しかし、本件( 平成28年(受)第1242号特許権侵害行為差止請求事件)では特許法における均等論の法律問題の重要性に鑑みて、上告を受理して、判決で法律問題についての最高裁判所の見解を示した。

均等論(Doctrine of Equivalents)は、特許法において一定の要件のもとで特許発明の技術的範囲(特許権の効力が及ぶ範囲)を拡張することを認める理論。

特許請求の範囲に記載が無くても、記載分と均等と評価される技術的構成まで含まれるという考え方。

日本では、1998年の「無限摺動用ボールスプライン軸受」に関する特許の最高裁判決で初めて認められ、これを踏襲した判決が多数繰り返されている。

特許請求の範囲に記載されていない場合でも、以下の5つの要件全てを満たす場合は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解する。

  1. 対象製品等との相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと。
  2. 相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏すること。
  3. 相違部分を対象製品等におけるものと置き換えることが、対象製品等の製造等の時点において容易に想到できたこと。
  4. 対象製品等が、特許発明の出願時における公知技術と同一、または公知技術から容易に推考できたものではないこと。
  5. 対象製品等が特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと。

今回の問題点は下記の通り。

中外製薬の特許請求の範囲では、目的化合物を製造するための出発物質等としてシス体のビタミンD 構造のものを記載していたが、
その 幾何異性体であるトランス体のビタミンD構造のものは記載していなかった。
Cerbios-Pharmaの製造方法ではトランス体のビタミンD 構造のものである。(これだけが相違点)
中外製薬は、Cerbios-Pharmaの製品は中外特許品と均等のモノであると主張。
4社は、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するから、中外の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとはいえないと主張


知財高裁は控訴棄却の判決を下したが、理由としては、発明の本質部分は別のところにあり、ビタミンDの構造がシス体かトランス体かは本質的部分ではないとしている。そのうえで、トランス体とシス体を区分していないとし、Cerbios-Pharmaの製品は中外特許品と均等のモノであるとした。

最高裁の判決理由は以下の通り。

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。
あえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。


本ケースでは、あえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたという事情があるとはうかがわれない。
(トランス体のビタミンD構造のものは書かれていないが、これを除くとの表示をしておらず、トランス体のビタミンD構造も特許に含まれる。)

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