医薬品のネット販売規制、違憲の訴え認めず 

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2014年6月施行の改正薬事法(現 医薬品医療機器法)により、処方箋なしで購入できる市販薬(一般用医薬品)のネット販売が3年前から解禁されたが、国は医療用から市販薬に切り替わったばかりで、副作用の評価が定まっていない一部の薬については原則として3年間ネット販売を禁止した。

この規制が憲法違反だとして、ネット通販を手掛ける楽天の子会社が国に販売規制の取り消しを求めた訴訟の判決が7月18日、東京地裁であり、裁判長は規制の合理性を認め楽天子会社の請求を退けた。この規制に対する司法判断は初めて。

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2009年6月までは、一般用医薬品は薬剤師を置かないと販売できなかったが、逆に、薬剤師を置けばインターネット販売も可能であった。

2009年6月1日に改正薬事法が施行され、コンビニエンスストアなどでも、登録販売者を置けば、「一般医薬品」の販売ができるようになるなど、医薬品販売の規制緩和がなされたが、厚生労働省は、改正薬事法施行に合わせて、一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を規制する内容の省令を公布した。

これに対し、ネット販売のケンコーコム(楽天子会社)とウエルネットは国を相手取り、医薬品ネット販売の権利確認と省令の無効確認・取消を求め、東京地裁に提訴した。

厚生労働省が改正省令が施行される2009年6月1日以降、一般用医薬品のうち、第1類医薬品、第2類医薬品の販売は、対面販売が求められることとされ、郵便等販売が禁止された。
これによりこれまで認められていた営業権を剥奪され、営業上不可償の深刻な不利益を被ることを受け、その権利救済を求める。 

地裁はこれを却下したが、東京高裁は一審判決を一部取り消し、2社に販売権を認める逆転判決を出し、最高裁も2013年1月に国の上告を棄却した。

この結果、省令以前の状態に戻り、ネット販売は従来どおり実施された。

安部首相は原則解禁の方針を表明したが、厚労省は最高裁の判断について、下記のように解釈した。

ネット販売禁止は職業選択の自由の制約になるが、賛否両論があるなか、国会の委任の範囲を超えて勝手に省令で規制するのが違法である。
従い、法改正により規制する。

政府は2013年11月6日、市販薬の99.8%の品目のインターネット販売を解禁する一方、安全性に懸念がある28品目は販売を禁止したり、制限したりする方針を発表した。
政府は11月12日、薬事法改正案を閣議決定し、国会に提出した。→ 2014年6月施行

政府の規制改革会議は2013年10月31日、一般用医薬品(市販薬)のネット販売について改めて議論、会議後、全品目のネット販売を求める追加の意見書を厚労省に提出した。

楽天の三木谷浩史社長は、「3年であれ4年であれ、科学的な議論もなく、一律に規制を行うのは違憲であり、甚だ遺憾だ。対面販売の方がインターネット販売よりも安全だという主張も話にならない」と述べ、政府の方針に強く反対する考えを示した。

そのうえで、「今回の規制は、ネットユーザーを中心に大きな波紋を呼ぶと考えているし、特定の団体の利益を守る規制については断固として反対する。基本的には、司法の場で争うことになるだろう」と述べた。

また、三木谷社長は、今回の政府の方針に反対して、政府の産業競争力会議の有識者議員を辞任する意向を固めた。

2013/11/8 一般用医薬品のネット販売規制

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2013年11月国会提出の改正薬事法では、医師の処方箋が必要な医療用医薬品もネット販売を認めず、対面販売でなければならないと明記した。
それまでも省令で禁じているが、市販薬の省令によるネット販売規制が最高裁で違法とされたため、法律で位置づけた。

楽天子会社のケンコーコムは2013年11月12日、国に対して処方箋薬郵便等販売の地位確認請求訴訟を東京地方裁判所に提起した。

処方箋薬のネット調剤の準備作業を進めてきたが、現行省令に禁止規定があるため自粛している。
しかしこの禁止規定は、一般用医薬品の郵便等販売に関する規定同様に現行薬事法に委任規定がないこと、仮に委任規定があっても、対面販売を要求し処方箋薬のネット調剤を禁止する立法事実が存在しないために無効である。

政府が資料提出を遅らせたため、2014年6月の改正薬事法(処方箋薬のネット販売禁止を明示)が間近となり、ケンコーコムは裁判長の示唆を受け、不本意ながら、本訴訟を取り下げ、下記の訴訟を行った。

ケンコーコムは2014年1月27日、まず要指導医薬品の指定処分の「差止」を求め、東京地裁に差止訴訟を提起した。

しかし、国が答弁に時間を要したこと等により裁判はほとんど進まないまま、2014年6月に要指導医薬品が指定される状況となり、差止請求は、訴訟要件(裁判所が判決を下すための前提条件)を欠くこととなった。

そのため、同社は訴えの変更を申し立てることにし、新設された要指導医薬品について、その「指定処分の取り消し」と、「インターネットで販売できる地位の確認」に変更した。
「副作用のリスクは対面販売でもネット販売でも同じだ」と主張、規制が憲法が定める職業選択の自由に反するとした。

国は従来の一般用医薬品から要指導医薬品という新しいカテゴリーを設け、インターネット販売を一律に禁止することについて、これまで合理的・科学的な根拠はまったく示していない。

また、要指導医薬品に指定された医薬品については、当社がこれまで、薬剤師による丁寧な情報提供のもとで慎重に販売することで、問題なく患者に届けてきた医薬品が含まれている。

当社に限らず、これまで要指導医薬品について、インターネット販売に起因する副作用の報告はされていない。

合理的・科学的な根拠のない要指導医薬品のインターネット販売禁止は、憲法の営業の自由を侵害するのみならず、医薬品を迅速かつ便利に入手しようとする患者の利益をも害するもの。

これに対し、国は「規制は原則3年だけで大衆薬の一部のみが対象であり、憲法違反ではない」と反論。「副作用のリスクが確かでない薬の販売には薬剤師による対面での指導や情報提供が必要だ」と規制の合理性を主張した。


今回、裁判長は、「副作用のリスクに照らせば、薬剤師の判断のもとで販売させる規制には相応の合理性がある」と対面販売の必要性を指摘し、要指導医薬品の品目数が少ないことなども踏まえ、憲法の職業活動の自由には違反しないと結論づけた。

ケンコーコムは、「判決は承服しがたい。規制の見直しに向けた働きかけを継続する」などとするコメントを出した。

厚労省によると、要指導医薬品は7月18日現在、花粉症向けの抗アレルギー用薬「クラリチンEX」、外用鎮痛消炎剤「ロキソニンSパップ」など13品目(8つの有効成分)。

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楽天の100%子会社で、ともに生活用品や日用品を取り扱うEC事業者あるケンコーコムと爽快ドラッグは7月1日合併し、Rakuten Direct ㈱となった。

楽天は楽天市場での日用品や健康関連商品の品ぞろえ強化を狙い、2015年にケンコーコムを、2016年に爽快ドラッグをそれぞれ買収。「事業形態が極めて近い両社を組織的に一体化することで、効率的な運営を図る」としていた。

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