京大が iPS創薬の世界初の治験開始

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京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)と大日本住友製薬は8月1日、戸口田淳也教授、池谷真准教授を中心とするグループが iPS細胞を使って、進行性骨化性線維異形成症(FOP)の異所性骨化のメカニズムを解明し、それを抑える薬の候補としてラパマイシンを同定したと発表した。

この研究成果は7月31日にThe Journal of Clinical Investigation で公開された。

Activin-A enhances mTOR signaling to promote aberrant chondrogenesis in fibrodysplasia ossificans progressiva

iPS細胞研究所はまた、このグループが 進行性骨化性線維異形成症という希少難病に対して、iPS細胞を活用した創薬研究としては世界で初めての医師主導治験を、医学部附属病院において開始することになったと発表した。

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進行性骨化性線維異形成症は、200万人に1人という極めて希な疾患で、国内の患者は約80名と推定されている。幼少期より、まず背部の骨格筋や腱のような本来骨が存在しない部位に骨組織が出現(異所性骨化)し、徐々に四肢に広がり、著しい運動機能障害をきたす疾患。

2006年にこの疾患の原因が骨形成因子(BMP)の受容であるACVR1のアミノ酸置換変異であることが判明したが、変異受容体がどのようにして骨化のシグナルを伝えるのかは未解決のままで、有効な治療法はない状態が続いていた。

本研究グループは、大日本住友製薬との共同研究によって、まず患者からiPS細胞を樹立して、培養皿の中で病気を再現し、異所性骨化発生の引き金となる物質としてアクチビンAを同定することに成功した。

そしてアクチビンAがどのようにして異所性骨化を誘導するのかを解析することで、mTORというシグナル伝達因子が重要な役割を果たしていることを見出した。

異所性骨化は、アクチビンAが変異型ACVR1に作用し、ENPP2というタンパク質が作られ、mTORのシグナルを活発にすることが原因であることが分かった。

異所性骨化のモデルマウスでも mTORシグナルの重要性を確認した。

更に、mTORの働きを阻害する薬剤のうち、ラパマイシン(Rapamycin :別名Sirolimus)という、既に他の疾患の治療薬として国内でも使用されている薬剤が異所性骨化を抑制することを確認した。

ラパマイシンは、臓器移植後の拒絶反応を抑える免疫抑制剤として使われている。 日本ではノーベルファーマがラパリムス錠1 mgとして、海外ではPfizerがRapamune名で販売している。

大日本住友製薬は2011年4月、京都大学iPS細胞研究所との間で難治性希少疾患の治療法創成を目的とする5年間の共同研究を行うことについて合意し、共同研究契約を締結した。

遺伝子の変異に起因する難治性希少疾患の一つに焦点を当て、その疾患特異的iPS細胞を用いて、産学協同して病気が進行するメカニズムを解明し、患者に特有の疾患関連シグナルを同定してその経路を阻害する治療薬を探索する としていたが、疾患の名前は公表していなかった。

本研究グループの日野恭介CiRA研究員は大日本住友製薬からの出向。

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本研究グループは、進行性骨化性線維異形成症に対して、京都大学医学部附属病院においてラパマイシンを使った医師主導治験を開始する。

研究結果をもとに、ラパマイシンを用いた医師主導治験を計画し、治験薬提供者のノーベルファーマ及び医学部附属病院臨床研究総合センターの支援を受けて多施設共同医師主導治験として、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の助言の基に最終案を作成し、医学部附属病院の医薬品等臨床研究審査委員会(IRB)の承認を得て、PMDAに治験計画届を提出し受理された。

京都大学を含む全国4機関での共同治験となる見込みで、実際に患者の受け入れなどを始めるのは、最も早い京都大学でも9月以降となる。

iPS細胞を使った創薬の治験は世界で初めてとなる。

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iPS細胞の応用では、① 体の組織を作って移植する再生医療と② 創薬が二本柱として期待されている。

再生医療では理化学研究所などがiPS細胞を使い、滲出型加齢黄斑変性の患者に目の網膜を再生する研究をすでに進めている。

大阪大学の澤芳樹教授らのグループは6月20日、重い心臓病の患者に、iPS細胞から作製した心臓の筋肉の細胞をシート状にして貼り付けて治療を行う世界初の臨床研究を、学内の審査委員会に申請した。
チームは、患者の太ももから取った筋肉の細胞を培養して作る「細胞シート」を心臓に移植して重い心不全の患者を治療する研究で実績がある。

しかし、再生医療にはいろいろのハードルがあり、時間がかかる。(上記の2つは比較的ハードルが低い例である。)

それに対し、②の創薬は、患者の細胞をもとに作ったiPS細胞から、病気を引き起こす細胞を実際に作り出 し、患者の体内を実験室に再現できることで、新薬を試す実験が進む。

実際の患者で実験は出来ないし、マウス等での実験でもヒトに同じ効果があるかどうか、副作用がないかなどは分からない。
iPS細胞から病気を引き起こす細胞を実際に作り出すことにより、いわば人体実験を実験室で行うことができることとなる。

京大の別のチームは2012年に、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)に慢性骨髄性白血病の薬が効果を発揮することを見つけている。

iPS細胞研究所と武田薬品は2015年12月、iPS細胞研究に関する共同研究を開始した。がん、心不全、糖尿病、神経変性疾患、難治性筋疾患など6つの疾患領域で、iPS細胞技術をツールとして用い、創薬および難治性疾患の画期的な治療法の創出に対する新たなアプローチの開発に向け、今後10年にわたり研究を行う。

山中伸弥所長は当初より②が本命であるとしていた。

今回、山中伸弥所長は次のコメントを出した。

iPS細胞を使って選び出した薬の候補物質を使った治験を開始できることとなりました。ヒトiPS細胞が出来て10年の節目となる今年に、この様な発表が行われたことを嬉しく思います。

この治験をきっかけに、iPS細胞を使った創薬研究がますます活発に行われ、他の様々な難病に対する新しい治療法の開発につながることを期待しています。

 

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