経産省、中部電力の武豊石炭火力発電所ににCO2 削減勧告

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中部電力が石油火力発電所から石炭火力への置き換えを計画する武豊火力発電所(愛知県武豊町)について、環境省は2017年8月1日、「パリ協定」に基づく温室効果ガス削減目標が達成できないとして、再検討を促す内容の意見書を 経産省に提出した。

重油及び原油を燃料種とする発電設備を撤去し、相対的にCO2排出係数が高い石炭を燃料種とする発電設備を設置するもので、バイオマス混焼による削減効果を勘案してもなお、現状より年間200万トン程度増加するものであることから、環境保全面から極めて高い事業リスクを伴う。


石炭火力発電に係る環境保全面からの事業リスクが極めて高いことを改めて自覚し、2030年度及びそれ以降に向けた本事業に係る二酸化炭素(CO2)排出削減の取組への対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討することを含め、事業の実施についてあらゆる選択肢を勘案して検討することが重要である。

本事業を実施する場合には、省エネ法に基づくベンチマーク指標の目標を確実に達成するとともに、本事業が、今後JERAに移行することも踏まえ、事業者全体として、所有する低効率の火力発電所の休廃止・稼働抑制など、2030年以降に向けて、更なるCO2排出削減を実現する見通しをもって、計画的に実施することを求める。

経緯:

政府は2015年7月17日、地球温暖化対策推進本部を開き、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を「2030年までに2013年比26%削減」とする目標を正式決定した。

2015/7/18 温室効果ガス 2030年に2013年比 26%減 

日本では大型石炭火力発電所の建設計画が続出している。

中部電力は2015年2月6日、武豊火力発電所(愛知県武豊町)の建て替え計画を発表した。

運転開始から40年以上が経過している、石油を燃料とする既設の2~4号機を廃止・撤去し、新たに5号機として石炭火力発電所を新設する。
出力は2~4号機の合計とほぼ同じ107万キロワット。
国内最高水準の高効率な発電設備として2021年度の営業運転開始を目指す。


力業界各社は、2015年7月17日、低炭素社会の実現に向けた新たな自主的枠組みを構築するとともに、「電気事業における低炭素社会実行計画」を策定した。

容は下記のとおりで、2030年度の販売電力量1kWh当たりのCO2排出量を2013年度比約35%減らすというもの だが、参加各社はそれぞれの事業形態に応じた取り組みを結集するというだけで、具体的な「実行計画」はない

2030年度に排出係数 0.37kg-CO2 / kWh 程度(使用端)を目指す。

 2030年度CO2排出量(3.6億トン-CO2) / 電力需要想定(9.808億kWh) = 0.37kg-CO2/kWh

2013年度比 ▲35%程度相当と試算

火力発電所の新設等にあたり、BAT(Best Available Technology) を活用すること等により、最大削減ポテンシャルとして約1,100万トン-CO2の排出削減を見込む。

環境省は2015年8月14日、中部電力が愛知県武豊町で2022年の運転開始を目指す大型石炭火力発電所について、また、8月28日、九州電力・東京ガス・出光興産の3社が設立した「千葉袖ケ浦エナジー」が千葉県袖ケ浦市で計画している大型石炭火力発電所の建設について、「環境影響評価(アセスメント)法に基づき「現段階では是認できない」とする意見書を経済産業 省に提出した。

上記の「電気事業における低炭素社会実行計画」で公表した二酸化炭素削減目標は実効性が不十分なため、CO2排出量を2030年までに2013年比26%減らす政府目標達成に「支障を及ぼしかねない」と判断した。

2015/8/20 環境相、中部電力の石炭火力計画 是認せず 


しかし、丸川環境大臣は2016年2月8日、林経済産業大臣と会談し、石炭火力発電所の新設を容認する方針を伝えた。

環境省と経産省の合意内容は下記の通り。

・火力発電の効率に数値目標を設定、効率の悪い設備や休廃止
・再生可能エネルギーと原発を合わせた非化石電源の利用を合計で原則44%以上にするよう電力会社に求める
・発電所のCO2排出量などの情報の開示
・電力業界は削減計画を誠実に実行

今回、環境省は武豊火力発電所について、再検討を 求めたもの。

これを受け、経産省は8月18日、武豊火力発電所の建設計画について、二酸化炭素(CO2)排出削減を講じるよう勧告した。

効率が低い既存の火力発電所を休廃止したり、稼働を抑制したりすることで中部電全体としての排出量を抑制するよう求め ている。

(1)石炭火力発電を巡る環境保全に係る国内外の状況を十分認識し、本事業を検討すること。

(2)このような国内外の状況を踏まえた対応の道筋を描くことにより本事業を実施する場合には、ベンチマーク指標の目標を確実に達成するとともに、本事業が、今後JERA (
東京電力と中部電力の火力発電事業のJV)に移行することも踏まえ、事業者全体として、所有する低効率の火力発電所の休廃止・稼働抑制など、2030年以降に向けて、更なる二酸化炭素排出削減を実現する見通しをもって、計画的に実施すること。

(3)本事業の工事の実施及び施設の供用に当たっては、二酸化炭素の排出削減対策をはじめ、排ガス処理設備の適切な運転管理及び騒音・振動の発生源対策等による大気環境の保全対策、排水の適正な処理及び管理による水環境の保全対策等の環境保全措置を適切に講ずること。

今回の経産省の勧告について、環境省幹部は「石炭火力が地球温暖化対策に与える影響を経産省としても重く見た内容になっており、画期的だ」と評価している。

中部電力は、「すでに低効率火力の休廃止の検討を進めており、大きな影響はないが、勧告を真摯に受け止め計画を進めていく」としている。

ーーー

エネルギーの使用合理化等に関する法律(省エネ法)の平成20年度改正により、「ベンチマーク制度」が導入され、平成23年度より報告結果が公表されている。

特定の業種・分野について、当該業種に属する事業者の省エネ状況を業種内で比較できる指標(ベンチマーク指標)を設定し、省エネの取組が他社と比較して進んでいるか遅れているかを明確にし、非常に進んでいる事業者を評価するとともに、遅れている事業者には更なる努力を促すための制度。

「電力供給業」のベンチマーク制度は次のとおり。

ベンチマーク指標 目指すべき水準
熱効率標準化指標 当該事業を行っている工場の火力発電設備における定格出力の性能試験により得られた発電端熱効率を定格出力の設計効率で除した値を各工場の定格出力によって加重平均した値

100.3%
以上
火力発電熱効率 当該事業を行っている工場の火力発電設備における発電端電力量の合計値を、それを発生させるのに要した燃料の保有発熱量(高位発熱量)で除した値 未設定


資源エネルギー庁は2017年5月、ベンチマーク指標報告結果(平成28年度定期報告分)を発表した。

電力供給業
目指すべき水準:100.3%以上

平均値:99.1%

達成事業者数/報告者数:1/11達成事業者:電源開発のみ)

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