米国政府機関、再度の閉鎖、数時間後に予算合意で解除

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米上院は2月8日のつなぎ予算期限までに対応ができず、政府機関は再度の閉鎖となった。

上院は直後につなぎ予算を含む法案を可決したが、下院の案とは異なるため、待機していた下院で再審議となった。

下院では反対が強く、見通しが立たなかったが、9日早朝なんとか可決した。

両院で可決した上院の法案は、連邦政府支出を約3000億ドル増やす期間2年の予算合意で、債務上限を1年間停止することと3月23日までの暫定予算が含まれている。

トランプ米大統領は直ちに法案に署名、午前0時過ぎに始まった政府機関の一部閉鎖は数時間で終了した。

署名直後の大統領のtwitter:

Just signed Bill. Our Military will now be stronger than ever before. We love and need our Military and gave them everything -- and more.
First time this has happened in a long time. Also means JOBS, JOBS, JOBS!

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米議会上下院は1月22日午後、2月8日までのつなぎ予算をそれぞれ可決した。

米の2018年度(2017/10/1~2018/9/30) 連邦予算は年度初めに決まらず、12月8日までの暫定予算でスタートした。

その後も、本予算の議論がまとまらず、期限切れ前日の12月7日、上院と下院は12月22日までのつなぎ予算を賛成多数で可決した。
更に、両院は
12月21日に2018年1月19日までのつなぎ予算を可決した

今回も与党・共和党は1月19日までに予算措置を講じるのは難しいと判断した。トランプ大統領は、メキシコ国境の壁の建設を強く求めている。他方、民主党は予算成立に協力する条件として、幼少期に親と一緒に不法入国した若者(ドリーマー)に滞在許可を与える制度を続けるよう主張している。

2018/1/20 米政府機関、閉鎖 

2018/1/23 国、政府機関閉鎖解除へ 

その後も話し合いは難航した。

トランプ大統領は1月25日、未成年時に親に連れられ不法入国する形で米国に来た「ドリーマー」180万人に10~12年かけて市民権を付与する道を開く包括的な新移民法案の内容を明らかにした。

現行の救済制度「DACA」の下で登録されたドリーマーは69万人だが、ホワイトハウスでは資格があるにもかかわらず申請していない多くの移民がいるとみている。
これを含めた180万人のドリーマーは、職業を持ち犯罪歴がなければ、10 ─ 12年で市民権を得られるという案である。

新法案には、移住希望者に抽選で永住権(グリーンカード)を付与する「移民多様化ビザ抽選プログラム」の廃止や、移民の家族の呼び寄せの厳しい制限なども含まれている。

しかしこれと引き換えにトランプ大統領は、米国に合法的に移民することを現在よりも難しくするとともに、国土安全保障省がドリーマーを含む推定約1100万人の非正規移民を取り締まる手段と費用への増強を求めている。

更に、メキシコ国境に壁を建設するための250億ドルの「信託基金」設立や、カナダ国境の警備強化への投資などを求めている。

この条件は民主党にとって受け入れられないものだが、保守派からも懸念が噴出した。
対移民強硬論者である共和党のテッド・クルーズ上院議員は、不法移民に対して市民権への道を開くことは「重大な過ち」になると主張。選挙民に対する約束を違えることになると批判した。

このままでは2月9日に再度、政府機関が閉鎖される恐れがあった。


2月8日までのつなぎ予算の期限切れを間近にしながら、本予算の目途が立たないなか、下院は2月6日、3月23日までの5回目のつなぎ予算を決議した。

  共和党 民主党 合計
賛成 228 17 245
反対 8 174 182
棄権 1 2 3
合計 237 193 430

これまでのつなぎ予算は従来の経常支出をみとめるだけであったが、今回は異なる。

全体としては従来の経常支出を認めるだけだが、国防総省の予算については、ペンタゴンの求める全額 6590億ドル(軍人への賃上げを含む)を承認した。通常予算5840億ドルに追加し、海外緊急作戦予算750億ドルも認めた。

国勢調査局(Census Bureau)の2020年の調査の継続の費用や、中小企業庁が2017年のハリケーンや山火事の被害地域に対するローンなども認めた。

問題は上院である。フィリバスターを避けるには60票が必要だが、共和党は51議席しか持たない。

また、この予算が通った場合、債務上限が問題となる。議会予算局は、債務上限問題で3月前半に資金が枯渇する可能性を示した。当初、3月後半から4月にとしていたが、税制改革での税収減で早まった。

大統領の発言が問題を複雑にした。

2月6日の議員などの会合で、「民主党が新移民法の案を支持しないなら、政府機関の閉鎖を見たいものだ( "love to see a shutdown")」と述べた。


しかし、上院の与野党指導部は2月7日、国防費などを積み増すため、2018会計年度(2017年10月~2018年9月)と2019会計年度の歳出上限の引き上げで合意した。
合わせて、債務上限の2019年3月までの停止と、3月23日を期限とするつなぎ予算法案を通すことでも合意した。

米議会は2011年に、政府債務の悪化に歯止めをかけるため、10年間の歳出上限を定める「予算管理法」を成立させた。

2011年8月2日の期限切れでの米国史上初のデフォルトを目前にし、米与野党指導者は7月31日夜、連邦政府の債務上限を2.1兆ドル引き上げるとともに、その条件として今後10年間で2.5兆ドルの財政赤字を削減することで合意に達した。

2011/8/3 米国、債務上限引き上げ、デフォルト回避 

この予算管理法では、社会保障費などを除く「裁量的経費」に上限を設けている。国防費と非国防費に分かれ、国防費が半分を占める。

国防費 非国防費 合計
2018年度 5,483億ドル 5,174億ドル 10,657億ドル
2019年度 5,613億ドル 5,313億ドル 10,927億ドル

2014年以降は特例法で上限を引き上げてきたが、2018年度については与野党対立が長引き、決まっていなかった。

これまでも、その都度法案で上限を引き上げてきたが、 今回、下記の通り上限を大幅に引き上げた。

2018年度 2019年度 累計
国防費 800億ドル 850億ドル 1650億ドル
非国防費 630億ドル 680億ドル 1310億ドル
合計 1430億ドル 1530億ドル 2960億ドル
引き上げ後 12087億ドル 12457億ドル

トランプ政権は2017年5月に提示した予算教書で、2018会計年度の国防費を540億ドル積み増す一方、非国防費を逆に540億ドル減らすとしていた。
今回合意した2018年度の国防費の引き上げ額は800億ドルとさらに大きくなり、非国防費も減額から一転して大幅増となった。

米議会が大幅な歳出増で合意したのは、2018年秋に中間選挙を控えるためで、共和党は有権者に国防費の大幅積み増しを訴え、民主党も医療用鎮痛剤「オピオイド」の中毒対策やインフラ投資を求め、与野党の妥協策で国防・非国防費の大幅積み増しにつながった。

この案が議会で成立すれば、2018年度の歳出上限は前年度比1割強も高まる。今後、大型減税で税収が年1千億ドル規模も減る見通しで、20兆ドルと過去最大に膨らんだ連邦政府債務は一段の悪化が避けられない。

同案が上下両院を通過すれば、政府機関の一部閉鎖といったリスクは当面回避できることとなる。

しかし、政府機関閉鎖を避けるため、不法移民問題を棚上げにしたことから、下院には反対意見が強い。
民主党下院トップのナンシー ペロシ院内総務は、不法移民問題を中心に、下院での演説時間としては史上最長の8時間7分の演説を行い、ドリーマーの救済策が折り込まれなければ法案に反対すると述べた。 共和党にも反対が多い。

肝心の上院でトラブルが発生した。共和党のRand Paul上院議員が大幅な予算増に反対した。

2月8日の午前中に下院で議決したつなぎ予算の議決にはいるかどうか(Cloture motion) の投票をしたが、否決された。共和党のRand Paul上院議員は反対した。(可決には60票が必要)
上院民主党首脳は下院案ではなく、与野党合意案を通す意向。

  共和党 民主党 無所属 合計
賛成 49 6 55
反対 1 41 2 44
棄権 1 1
合計 51 47 2 100

共和党McCain上院議員は療養中で棄権

Rand Paul上院議員は、上院与野党首脳が決めた法案(歳出上限引き上げ、債務限度引き上げ、つなぎ予算)について、案の修正があるまでは投票しないと長時間反抗した。

上院に続き下院も法案を8日中に通す必要があり、深夜を過ぎると政府機関の閉鎖となるが、同議員は法案の議決に入るかどうか(Cloture motion) の投票をしないとしている。その間、投票が締め切れないため、法案の議決ができない。

2月9日午前0時35分に行政管理予算局(Office of Management and Budget)は政府機関の閉鎖を指令した。

ルール(投票時間制限)では深夜1時になれば法案の投票ができる。

直ちにCloture motionを73対26(Paul 議員の反対を含む)で可決し、法案の投票を開始した。

午前1時50分に上院は賛成71、反対28で 法案を可決し、下院に送付した。

  共和党 民主党 無所属 合計
賛成 34 36 1 71
反対 16 11 1 28
棄権 1 1
合計 51 47 2 100

下院は上院の可決を待っており、全員に深夜又は早朝の議決に備えるよう通知していた。

下院で通るかどうかは不明であった。上記の通り、民主党は移民問題の棚上げで反対しており、共和党内の財政保守派「フリーダム・コーカス(自由議連)」も反対姿勢を示していた。

しかし、公共事業などの積み増しを求めてきた民主党の一部が賛成に回る見込みで、ライアン下院議長(共和)は可決に自信をみせていた。

2月9日の午前5時半に下院で賛成多数で可決した。

  共和党 民主党 合計
賛成 167 73 240
反対 67 119 186
棄権 4 1 5
合計 238 193 431

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