韓国GMの破綻、ギリギリで回避

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経営破たんの危機に面していた韓国GMでは、会社側と労働組合の話し合いが続いていた。

会社側が、妥結できなければ法定管理(会社更生法)申請に踏み切るとしていた4月20日も妥結できず、23日も引き続き交渉を行った。

その結果、経営立て直しのため、労使が歩み寄ることで暫定合意した。組合は近く組合員投票を行い、賛成多数となれば正式合意とする。

組合との合意の内容は非公表だが、下記の内容と思われる。

組合は賃上げの凍結と福利厚生費の削減を受け入れ
会社側は群山工場閉鎖後、職場が決まらない約680人の雇用に配慮する。

残る問題は、GMが、韓国政府に要請している税金の免除と、産業銀行に要請している増資。
GMは韓国GMへの融資を株式に転換する代わりに、産業銀行に増資を要請している。但し、産業銀行側は、それでは産銀の出資比率が 17%から1%へと
激減するため、GM出資分の 差等減資
を求めている。

政府と産銀側は、韓国GMの赤字の原因に疑念を持っており、GMの了解のもと、調査をしているが、納得するには至っていない模様。
また、支援する場合は、GMに今後の投資計画を明らかにすることも求めている。

今回の合意は、韓国GMの存続のための条件の一つに過ぎず、今後も厳しい状況が続く。



付記

その後、事態が好転した。

韓国産業銀行とGMは4月26日、韓国GMの経営正常化のために7兆7000億ウォン(71億5000万ドル)を投じることで合意した。当初は6兆ウォンとされていた。

GM本社が6兆9000億ウォンを負担する。韓国GMへの融資金 3兆ウォンを出資に転換、新たに3兆9000億ウォンを投入する。
産業銀行は8000億ウォンを追加出資する。(当初案は5000億ウォン)

GMは韓国政府が要求した通り、新車配分等を通して韓国GMの生産施設を10年以上維持することにした。
また、GM本社が独断的に資産を売却したり市場から撤収したりできないように、産業銀行が拒否権を持つ内容も株主間の協約に盛り込むことにした。

これにより、韓国政府もGMが求める税金免除を認めると思われる。

ーーー

深刻な経営危機を迎えている韓国General Motors (GM)は2月13日、「群山工場の閉鎖」を電撃的に発表した。5月末までに閉鎖し、約2000人を削減する。
工場閉鎖に伴う最大850百万ドルの特別費用を第2四半期に計上する。

韓国GMは群山工場の閉鎖決定について「本社が現在の生産設備などをすべて維持したまま再建案を推進するのは不可能だと判断したため」とした 。

同時に、韓国の他の工場についても、事業継続を協議している韓国の政府と労働組合から必要な譲歩を得られなければ閉鎖し、同国から完全に撤退すると警告した。今後数週間以内に結論を出すとしている。

GMの今回の狙いは、 まず群山工場の閉鎖発表でGMの本気度を示し、他の工場の閉鎖を打ち出すことで、韓国政府と第二の株主の産業銀行の財政支援、労働組合の協力を引き出そうというもので、それらが無ければ、実際に撤退することも考えている。

韓国GMの株式は韓国産業銀行が17%、中国上海汽車(SAIC:中国でGMと合弁)が6%、残り77%をGM本社が保有している。

韓国GMが4月13日に発表した2017年決算は、純損失が1兆1600億ウォン(11億ドル)と、前年から84%拡大し、4年連続の赤字となった。 2017年の販売台数は106万8000台と、前年の125万9000台から減少した。余剰設備に絡む多額の固定費用と「上昇し続ける人件費」を赤字拡大の理由に挙げた。


韓国の企画財政相は4月16日、長期的に自力で存続できることが明確な場合にのみ公的支援が可能になるとの認識を示した。 主要株主や他の当事者は再建コストの分担について早急に合意する必要があると指摘した。

(1,000ウオンは約100円、1米ドル =1,068ウオン) 

韓国GMは、仁川市の富平(第一、第二工場計 年44万台)、慶尚南道昌原(21万台)、全羅北道群山(26万台)、忠清南道保寧(トランスミッション、エンジン部品)の国内4カ所で完成車とエンジン工場を稼動してきた。


2000年代のGMは、欧州で販売するシボレーブランドの車種を韓国で生産、輸出して好調な売り上げを記録してきた 。

しかし、2014年以降、欧州市場のリストラを開始した。
欧州のシボレーブランドを廃止してオペルとボクスホールに集約、やがてそれらブランドもPSA(旧社名 PSA・プジョーシトロエン)へ売却してコンパクトカーの生産から一歩引くこととなった。
韓国GMは主力生産車種を失った。

この結果、現在、工場稼働率が100%なのは小型のアベオとトラックスを生産する富平第1工場だけで、中型マリブとキャプティバを生産する富平第2工場は50%、軽自動車のスパークと商用車のダマス・ラボを生産する昌原工場の稼働率は70%にとどまっている。 ここ4年間で2兆6千億ウォン(約260億円)の赤字を出した。

群山工場は、一時生産量が年間8万台に達したが、2016年から3万台に激減した。3500人余りの社員数も2千人余りに減少した。最近3年間の平均稼働率は20%程度で、操業中断と再開を繰り返して稼働率がさらに落ち、2月8日からまた稼動を止めた状態だった。

膨大な累積赤字の韓国GMで、労働組合は賃上げを求めて頻繁にストライキを行った。

韓国GMは2017年7月の労使交渉で、基本給5万ウオンの引き上げと、一時金1050万ウオンの支給案を提示した。余力はないが、最大限の誠意を示したとした。

しかし、組合はこれを拒否、基本給15.5万ウオンの引き上げと、一時金2100万ウオンを求め、何度もストを行った。(9月に5回目のストを行った。)

最終的に、基本給の月5万ウォン引き上げ、激励金600万ウォンとインセンティブ報酬450万ウォンの支払いなどを柱とする当初の会社案とほぼ同じ内容で決定した。

韓国紙は韓国の自動車業界について以下の通り報じている。

韓国の自動車産業は世界的に見て人件費が最高レベルにある一方、生産性は非常に低い。

韓国GMの従業員1人当たりの賃金は年間8700万ウォンで、2002年に比べると2.5倍にも膨れ上がっている。しかもこれは現代自動車の米アラバマ工場の7700万ウォンよりも高く、現代 自動車の北京工場の1120万ウォンに比べるとなんと8倍だ。
ところがその生産性はこれら海外工場よりもはるかに低い。このような企業が生存を続けること自体がまさに奇跡だ。

世界最悪の高い費用と低効率の構造が形成された大きな原因は、韓国独特とも言える非常に保護された労働組合にある。

米GMの海外事業部門の社長は、群山閉鎖発表直後の2月20日に韓国国会で与野党議員と会談した。

まず、" We would like to stay in Korea" と述べ、新車を投じてコスト費用削減などを通じ韓国GMを再建させると強調した。「新車2種を富平第1・第2工場と昌原工場に 導入する。これを通じ年間生産台数50万台水準を維持するよう努力したい」し、「収益を出す構造に変えなければ残ることはできない」としてコスト削減案推進も示唆した 。
小型スポーツ多目的車(SUV)「トラックス」の後続モデルと、次世代クロスオーバー多目的車(CUV)を考えている。

但し、それには韓国政府と産業銀行の支援、労働組合の協力が必要だとした。

群山工場閉鎖計画撤回に対しては、撤回の可能性を問う議員の質問に「ノー」と言い切った。

GMの韓国GM再建案は下記の通り。

GMは韓国GMに対する債権3兆4千億ウオン(31.7億ドル)のうち、22億ドルを株式化する。

韓国側に総額10億ドルの支援を要請。
 産業銀行に5千億ウオン前後の追加出資と貸し付けを要請。
 韓国政府には税金減免などを要請。

税金減免については、富平工場と昌原工場を「外国人投資地域」に指定することを求め、申請書を提出した。指定されると、5年間の法人税全額免除などの優遇措置が受けられる。

この案では、GMは不良債権を株式に転換するだけで、現金支出は無く、韓国側は問題視した。

政府は大株主の責任ある役割、株主・債権者・労働組合を含むすべての利害関係者の苦痛分担、持続可能な経営正常化案という3大原則が満たされる場合にのみ 支援するという方針を立てた。
GMに対し、情報を求めた。

GMに対して、生産設備などの投資計画を具体的に示すよう求めた。

また、韓国GMの赤字の原因の調査を求め、了承を得た。
産業銀行が韓国GMから資料の提供を受け、原価構造の把握を行うもので、特に、本社からの借入金の利率、本社に 支払う管理費、技術使用料、人件費などを調べる。また、本社への販売価格(移転価格)の情報を求めた。

通常2~3ヵ月かかる調査を短縮し、早ければ3月末、遅くとも4月には調査結果を出したいとした。但し、関連資料の一部、特に移転価格の情報が提出され ていないという。

韓国側は、これらの情報をみて対応を決めたいとした。

なお4月に入り、産業銀行は増資問題で異議を唱えだした。

韓国GMの経営失敗の責任をGM本社が負担すべきであるとして、差等減資(経営の失敗に責任がある株主の持分を下げる)を提案している。GMが債権を出資に転換すると、産業銀行の出資比率は現在の17%から1%未満に下がってしまうため、GMに20対1以上の差等減資を求めている。

その後、労働組合との交渉が難航した。

韓国GMは2月末に、約150人の幹部のうち、マネジングディレクターかそれより上位の幹部の数を35%削減し、ディレクターやチームリーダーの数を20%削減する計画を明らかにした。

また労働組合との協議では、今年の基本給を凍結することやボーナスを出さないことが提案された 。しかし、組合は、「経営側は組合に対して一方的な犠牲を強いているが、会社は改善計画を用意すべきだ」と指摘した。

3月15日には、組合側は2018年の賃上げの凍結と成果報酬の見送りの案を経営側に提示したが、見返りに群山工場を閉鎖する計画の撤回などを求めた。 (会社側は拒否)
(組合員は、多額の最終赤字が続くなかでも1人当たり年約1000万ウォンの成果報酬を受け取っており、成果報酬が無くなると年間約1400億ウォンのコスト削減が見込める。)

3月26日に来韓したGM幹部は韓国GM労組と非公開で話し合い、次の通り述べた。

韓国政府は4月20日ごろまでには経営再建案を確定して提示することを望んでいるが、3月末までに労使の賃上げ交渉が暫定合意にも至らなければ再建案をまとめるのは難しい。
再建案を提示できなければ、政府や韓国産業銀行の支援も期待することができず、資金繰りに行き詰った現在の状況では不渡りを出しかねない。

4月末までに6億ドル程度の資金を調達する必要があり、賃上げ交渉の暫定合意に協力してほしい。
(韓国GMは早期退職者を募り、約2600人の社員が応じた。4月末までに退職慰労金を支給しなければならない。)

会社側は労働組合が4月20日までに条件の譲歩を拒んだ場合、破産申請を行うとし た。

7000億ウォンの借入金(ほとんどがGM本社やグループ会社からの借入金)の返済期限が3月末に迫っており、さらに4月8日までに9880億ウォンの債務も返済期限を迎える。

韓国GM社長は3月28日、全職員に対して要請文を送り、「3月末まで賃金団体協議で合意を実現することで、会社の持続可能性を守るための我々の意志を本社と政府に絶対示さなければならない」と強調した。続いて、「月末まで労使合意に至らなければ、4月初めに到来する各種費用の支払いのための資金確保が不可能になり、4月6日に支給することにした一時金と手当も支給不能状態に陥ることになる」と強調した。

3月末の期限に労使交渉はまとらなかった。

昨年の成果給のうち半分の1人あたり約450万ウォンを4月6日に支払う計画だったが、韓国GM社長は4月5日に役職員にメールを発送し、「6日の支給を約束していた2次成果給を支払えなくなった」と伝えた。

不払いの発表の午後、10人程度の組合員が仁川広域市のオフィスで最高経営責任者の部屋に押し入り椅子を蹴ったり投げたりし、大きな机を室外に運び出した。
組合は会社側の決定に抗議しCEOの退任を要求した。

この事件を受け、GM本社は韓国を出張禁止国に指定した。現地の危険状況などを考慮し役員社員の安全が保障されない場合に下される措置。

GM側が提示した4月20日の期限が近づき、韓国GMは財務・人事・法務組織を通じて法定管理申請の実務作業を始めた。

ダン・アンマンGM総括社長が「韓国GM利害関係者全員が4月20日に交渉テーブルに出てこなければいけない。合意にいたらなければ破産申請をするだろ う」と語った。

GM側が期限として提示した4月20日に労使交渉が行われた。経営側は年1000億ウオン規模の福利厚生費の削減を要求、組合側は群山工場閉鎖で職場が決まらない680人の雇用保証を求めたが、物別れに終わった。

経営側は夜に取締役会を開催、法定管理の申請について23日に改めて議論することとした。

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