EUの危機:難民問題

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イタリアのサルビーニ内相が難民問題で過激な発言をしている。難民問題でのEUの対応を求め、EU予算拠出見直しや国境検問を示唆、「統合欧州がまだ存在しているかどうかは1年以内に決まるだろう」と発言したと報じられている。

他方、難民受け入れで動くメルケル首相のドイツでは、内相が、難民を域内で最初に登録した国に送り返すEU合意を求め、メルケル首相に最後通牒を突き付けた。 メルケル連立内閣がつぶれる可能性も出てきた。

EUは6月28、29日に首脳会議を開き、難民問題を巡る議論を行うが、解決策は考え難い。統合欧州の危機である。

サルビーニ内相は、EUの移民政策を批判する「同盟」の書記長で、移民問題を扱う内相 兼 副首相である。

イタリアでは、3月4日の総選挙でジェンティローニ首相の「民主党」が大敗、その後、政治の空白が続いていたが、反EUの「五つ星運動」と「同盟」が連立することとなった。

両党は反EUの立場では同じだが、政治姿勢が異なる。

「五つ星」は失業者らへの最低所得保障など「ばらまき型」の経済刺激策を重視する。
「同盟」は、EUの移民政策を批判、違法移民の強制送還の強化や、難民が域内で最初に到着した国で保護申請することを義務づけたEUのダブリン規則の見直しを強く求める

6月1日、連立内閣が発足した。

行政法の専門家で、「五つ星」と近いジュセッペ・コンテ教授(フィレンツェ大)が首相に就任した。

「五つ星」のディ・マイオ党首が経済発展・労働相、同盟のサルビーニ書記長は移民問題を扱う内相として入閣し、ともに副首相となった。

2018/6/5 イタリアの混迷

EUには、難民が最初に入国したEU 加盟国のみが難民申請手続きを受け付けるという「Dublin 規則」があるが、「玄関口」にあたる国に負担が集中するため、EUの内相会議は2015年9月、加盟国の経済規模などに基づいて難民を割り当てることを賛成多数で決めた。

実際にはほとんど進んでいない。

ハンガリーでは2016年10月に、難民を分担して受け入れることの是非を問う国民投票が行われたが、投票率が43%しかなく、無効となった 。投票では反対が98%を超えた。

2016/10/8 EUの難民分担を問うハンガリー国民投票、投票率低く成立せず

ギリシャ、イタリア、フランス、ポルトガル、キプロス、マルタ、スペインのEUの南欧7カ国の首脳は2016年9月、アテネで初の南欧諸国会議を開き、難民・移民問題や失業、安全保障など南欧が苦しむ課題について提言をまとめ、EUに一層の対応を求めることで一致し、「アテネ宣言」を採択した。

2016/9/15 EUの南欧7カ国がEU構造改革を求めアテネ宣言採択 

欧州への難民の流入ルートには、地中海ルート(海路)とバルカン・ルート(陸路)があるが、地中海ルートが約8割を占めるといわれる。

アフリカからの難民が多数上陸するイタリアは、下記の諸点を望んでいる。

・負担の集中を避けるためEU が合法的移民について強制的な受け入れ枠を設定すること
・北アフリカに移民の管理センターを設けること
・リビアとチュニジアの当局が陸および海上でのコントロールを強化するための資金をEUが負担すること
・人道支援団体の移民船がイタリアの港に入るのを禁止すること

サルビーニ内相は国営放送RAI とのインタビューで、イタリアへの移民流入を抑制するために他のEU加盟国が協力しない場合、EU予算へのイタリアの拠出について見直す可能性があると発言した。

「年間60億ユーロも払っていて小突き回されるのではたまらない。この拠出について再協議を求めざるを得なくならないことを望む」と暗に警告した。

イタリア紙は、内相がコンテ首相との20日の会談で国境検問を開始する案に言及したと報じた。

また、ロマ(以前はジプシーと呼ばれていた)の人口調査を実施した上で、イタリア国籍を持たない者について国外追放する考えを示した。

サルビーニ内相はフェイスブックに投稿した動画で、難民の「マフィア」がやって来るのを止めたいと発言、難民船への対応でチュニジア当局の介入を求めたとも述べた。

「海上からの難民と非政府組織(NGO)をもうイタリアの港に入れない」とし、NGOは難民をオランダの港に連れて行くべきだと論じ、「制御不可能な状態になった難民問題の負担をイタリアだけで負うことは最早できない」と主張した。

「統合欧州がまだ存在しているかどうかは1年以内に決まるだろう」と発言したと報じられている。

他方、ドイツではゼーホーファー内相が、移民を域内で最初に登録した国に送り返すEU合意を求めた。

現在の第4次メルケル政権は、CDU・CSUと第2党のドイツ社会民主党(SPD)の大連立政権であるが、内相は、メルケル氏率いるキリスト教民主同盟(CDU)と組むキリスト教社会同盟(CSU)の党首である。

2018/3/17 メルケル首相 再選

内相は、寛容な難民政策が「欧州を分断させた」と糾弾し、他のEU諸国で難民登録済みの場合はドイツへの入国を許さず、元登録国に送還する措置の即時導入を要求した。

メルケル首相は「他国の負担になる」とこれに反対し、月末のEU首脳会議での協議を待つべきだと主張したが、内相はメルケル氏に18日までの同意を迫り、最後通告を突き付けた。 最終的には首脳会議まで待つこととなった。

しかし、首脳会議でこれが認められることはあり得ない。
今後、内相が送還措置の命令→首相が内相解任→CSUの連立離脱となり、
「連立政権は発足3カ月で終わりを迎える」 可能性もある。

EUは6月28、29日に首脳会議を開くが、その前に6月24日に緊急の非公式首脳会議を開いた。

問題点は分かっており、解決策としてEUの内相会議が2015年9月に加盟国の経済規模などに基づいて難民を割り当てることを賛成多数で決めている。
受入側がどの国も、これを実行できないのが問題である。 受入側の政府がこれを強行すれば、政府は倒されるだろう。

メルケル首相は緊急首脳会議の終了後、「多くの前向きな意思が示された」と述べたが、具体的な結論はなかった。「不法移民を減らし、EUの域外国境を守り、あらゆる移民・難民をめぐる問題に全員が責任を持つことで合意した」と総括したが、具体的な合意はなく、当初予定していた共同声明もイタリアの反対で採択を見送った。

月末の首脳会議で結論が出るとは思えない。

EUは内部を固めることで英国のEU離脱が他に広がることを抑えようとしているが、この問題が解決できなければ、サルビーニ内相のいうように、「統合欧州がまだ存在しているかどうかは1年以内に決まる」かも分からない。

そもそも、英国がEU離脱を決めたのは、移民(この場合は主に東欧)反対が理由である。

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