イタリアの混迷 

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5月29日の欧州市場では、イタリアの政局混乱を懸念する投資家が同国債を売る動きを拡大し、利回りが急上昇した。10年債利回りは一時、3.3%台と、2014年3月以来の高水準を記録した。
ポルトガルやスペインなど周辺国の国債も売られ、2%近く利回りが上昇した。ユーロを売る動きも広がった。

イタリアに続きスペインでも政治が流動化してきた。(別記)

3月4日の総選挙では、パオロ・ジェンティローニ首相の「民主党」が大敗した。

総選挙後、政治の空白が続いていたが、反EUの「五つ星運動」と「同盟」が連立することとなった。
しかし大統領が
EU・ユーロ懐疑派の経済相候補を拒否したため、再び混迷に陥り、再選挙の可能性もあった。

5月31日に状況が一変した。「五つ星運動」と「同盟」が経済相候補を入れ替え、大統領がこれを受け入れた。両党の推す法学者ジュセッペ・コンテの内閣が6月1日に発足した。

反EUの立場では同じだが、政治姿勢の異なる2つの党の連立である。連立の早期瓦解の可能性も指摘されている。

「五つ星」は失業者らへの最低所得保障など「ばらまき型」の経済刺激策を重視する。
同盟」は、EUの移民政策を批判、違法移民の強制送還の強化や、難民が域内で最初に到着した国で保護申請することを義務づけたEUのダブリン規則の見直しを強く求める 。

首相は学者で政治経験がなく、両党の主張をうまく調整できるか、疑問視されている。

イタリアの政府債務残高のGDP比で約130%と、欧州でギリシャ(180%)に次ぐ高水準であり、EUが求める60%以内という基準からはほど遠い なかで、選挙中に訴えた大型減税や最低所得保障の導入などのばら撒き色の強い政策をどう実施するかも問題である。

ユーロ圏第3の経済大国で、EUに懐疑的なポピュリズム政権が誕生したことは、 英国離脱で結束を固めようとしているEUを揺さぶる。

3月初めの総選挙後、ようやく新内閣がスタートしたが、問題はこれからで、世界経済のリスク要因にもなる。

ーーー

イタリアの総選挙は3月4日に行われ 、パオロ・ジェンティローニ首相の「民主党」が大敗した。五つ星運動が上院、下院とも議席を倍増させ、第一党となったが、過半数は取れなかった。

これまで議席の大部分が比例代表であったが、2017年に成立した選挙法改正によって3分の1が小選挙区で選出される制度に改められた。合わせて比例選挙での小政党乱立を防ぐ為の追加議席制度も廃止され、単一政党での政権獲得が困難になった。

  今回 2018年
元老(上院) 代議院(下院)
五つ星運動 112 +58 227 +118
同盟 58 +41 125 +107
(小計) (170) (352)
民主党 53 -52 112 -185
フォルツァ・イタリア 57 -41 104 +6
その他 35 -6 62 -46
合計 315 630
(過半数) (158) (316)


「五つ星運動」は、大衆の不満に率直な賛同を示す人民主義政党(ポピュリズム)として行動。反政党政治(直接民主主義)やEU離脱など急進的政策を掲げ、政治不信の募る若年層の間で急速に台頭した。五つの星は社会が守り抜くべき概念(発展・水資源・持続可能性のある交通・環境主義・インターネット社会)を指している。

「同盟」は右派ポピュリズム政党。イタリア北部の郷土主義政党「北部同盟」であったが、近年は反EUや排外主義などが支持基盤に変わりつつある。

「民主党」は社会民主主義政党で、近年はリベラル的な中道左派勢力が主導権を得ている。

「フォルツァ・イタリア」はキリスト教民主主義政党。フォルツァとはイタリア語で「がんばれ」を意味する。2009年に「自由の人民」となり、2013年に元に戻した。


直近の動きをまとめると次の通りとなる。

5/20 「五つ星運動」と「同盟」が連立政権樹立で合意
5/21 「五つ星運動」と「同盟」、大統領にコンテ氏を首相に推薦
5/23 大統領、コンテ氏に組閣を命じる。
5/27 コンテ氏、大統領に人事案を説明。大統領、経済相候補のサボナ氏を拒否、コンテ氏、組閣断念 。
「五つ星運動」と「同盟」、不満を表明。
5/28 大統領、コッタレリ氏に組閣を命じる。
5/30 「五つ星運動」と「同盟」が改めて連立政権に向け、動き、コッタレリ氏、組閣を中断 。
5/31 大統領がコンテ氏を首相に任命、閣僚名簿を受理
6/1 コンテ内閣発足


3月の総選挙以降、政治空白が続いていたが、「五つ星運動」と反移民を掲げる右派「同盟」が連立政権樹立に向けた政策で合意した。

経済弱者向けの政策を掲げ、貧しい南部で圧倒的な強さを見せ単独政党で最多議席を獲得した「五つ星」が、産業集積地の北部で支持を固め、得票率で3位となった「同盟」との連立を模索した。

「五つ星」のディマイオ代表と「同盟」のサルビーニ書記長は、共に意欲をみせていた首相候補を辞退し、連立への妥協点を見いだした。

「同盟」と中道右派連合を形成する「フォルツァ・イタリア」の党首、ベルルスコーニ元首相が両勢力の連立を容認し、同党としては連立政権にが加わらない姿勢を示したことで事態が進展した。

「五つ星」と「同盟」は、5月18~20日に共通政策の是非を問う党員投票を実施。両党とも賛成が90%以上となり承認された。

両政党は、市場が警戒してきた共通通貨「ユーロ」からの離脱は言っていないが、「同盟」の看板政策である法人・個人所得税の大幅減税や「五つ星」の掲げた最低所得保障の導入など、有権者受けするバラマキ色の濃い政策を掲げ た。

また両党はEUの対露制裁解除に積極的である一方、マクロン仏大統領が提案する統合深化に向けたEU改革には否定的である。

「五つ星」のディマイオ代表と「同盟」のサルビーニ書記長は5月21日、マッタレッラ大統領と会い、フィレンツェ大のジュセッペ・コンテ教授を首相に推薦した。

マッタレッラ大統領は5月23日、新政権の首相にジュセッペ・コンテ教授(53)を指名し、組閣を命じた。

コンテ氏は行政法の専門家で、「五つ星」と近い関係にある。コンテ氏は5月24日、組閣作業を始めた。

「同盟」のサルビーニ書記長は経済・財務相候補にパオロ・サボナ元産業相(81)を推薦した。1990年代に産業相を務めた経験のあるサボナ氏は、EUへの批判的な姿勢で知られ、緊縮財政の反対派でもある。EUとユーロの創設を定めたマーストリヒト条約の締結にも反対したEU・ユーロ懐疑派である。

コンテ氏は5月27日、次期政権の閣僚人事案を提出する会談のためマッタレッラ大統領を訪ねたが、 大統領はサボナ氏がEUに激しく反対していることを理由に、経済・財務相への起用を拒否した。大統領は、提示された閣僚名簿のうち、欧州連合(EU)懐疑派のサボナ氏だけは支持できなかったと述べた。イタリアの法律では、大統領は閣僚の任命を拒否する権利を持つ。

これを受け、コンテ氏は、組閣を断念した。

五つ星運動のディ・マイオ党首は大統領の弾劾を要求した。同盟のマッテオ・サルビーニ書記長は新たな選挙を求めた。「民主主義では、やることはただ一つ、イタリア人に自らの意見を言わせることだ」と述べた。

マッタレッラ大統領は5月28日、緊縮財政派の経済学者、カルロ・コッタレリ氏に組閣を命じた。 コッタレリ氏は報道陣に対し、「私が投票により信任されたならば、2019年度予算案の採決といったプランを携えて議会に臨む。その後議会を解散し、2019年初めに総選挙を行う」と述べた。一方議会の信任が得られなかった場合は、「8月より後に」再び総選挙を行う可能性も示唆した。

しかし、コッタレリ氏は5月30日、マッタレッラ大統領に組閣作業を中断する考えを示した。議会信任が得られる見通しがない上、最大勢力の「五つ星運動」による連立政権樹立の動きが再燃したためとみられる。

「五つ星運動」と「同盟」はあらためて連立政権樹立に向けて動き出した。「五つ星」のディマイオ代表は5月29日、南部ナポリで「議会で過半数を占める勢力による政権を発足させるため、大統領に協力する用意がある」と演説した。経済相に別候補を挙げることで 大統領との妥協点を見いだそうとしているという。

しかし、「同盟」を率いるマッテオ・サルビーニ書記長は、イタリアはできる限り早急に選挙を行うべきだと主張 、「投票は早ければ早いほど良い。この窮地や混乱を抜け出す最良の方法だからだ」と指摘した。

再選挙の場合、「五つ星」と「同盟」が新たな選挙で議席を増やす恐れが浮上している。イタリアメディアが5月30日に公表した支持率世論調査では、「五つ星」は第1党の勢いを維持、「同盟」は勢いが増す結果が出ている。

ーーー

5月31日、両党の指導者らは、 一旦組閣を断念したジュセッペ・コンテ氏を再び首相に推薦したマッタレッラ大統領は同日夜、コンテ氏と会談し、次期首相に指名した。

コンテ氏は閣僚名簿を提出し、受理された。五つ星運動のディ・マイオ党首が経済発展・労働相、同盟のサルビーニ書記長は 移民問題を扱う内相として入閣 し、ともに副首相となる。
経済相への起用が拒否されたユーロ懐疑派エコノミストのパオロ・サボーナ氏は欧州担当相に就く。経済・財務相にはジョバンニ・トリア教授(経済学)を起用する。

6月1日午後、閣僚とともに宣誓式にのぞみ、「コンテ内閣」が発足した。

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