福島原発のトリチウムを含む低濃度汚染水を巡る問題

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福島第一原発の放射性物質トリチウムを含んだ低濃度汚染水は、事故後は構内にため続けており、今年2月時点で約105万トンあるタンク貯蔵水のうち約85万トンを占めている。
タンクの容量は現状で約110万トンで、東電は2020年までに137万トンまで増設を計画しているが、それ以降については未定。

経済産業省は放射性物質トリチウムを含んだ低濃度汚染水の処分方法をめぐり、公聴会を開く。
富岡町では、8月30日午前10時~午後0時半、郡山市では31日午前9時半~正午に開く。31日午後には東京都内でも開かれる。

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トリチウムは、質量数が3、すなわち原子核が陽子1つと中性子2つから構成される水素の放射性同位体である。半減期は約12年。
(水素は陽子1つのみ、重水素は陽子1つと中性子1つ)

通常の水とトリチウム水には化学的な差がほとんどなく分離が難しい。

日本ではこれまでは、排水の一部として海に流されていた。

1979年の米国のThree Mile Island原発事故では、トリチウム水が9000トン発生した。これは放出基準を満たしていたが、内陸のため、下流域で飲料水を取水する都市が反対した。
このため、1991年から1993年にかけて大気中
に蒸発させて処理した。

福島第一原発の廃炉作業について3回目の調査を行っていたIAEA(国際原子力機関)の調査団は2015年2月17日、調査報告書を発表した。そのなかで、汚染水を処理したあとのトリチウムを含んだ水について、国の基準以下まで薄めて海に放出することも含め検討する必要があるという考えを示した。

調査団のJuan Carlos Lentijo団長は記者会見で、汚染水対策が直近の課題だとした上で、以下のとおり述べた。

環境への影響がほぼ無視できることが確認されれば、管理した上で(国の基準以下まで薄めて) 海へ放出することは、福島第一原発の状況を大幅に改善できる有力な選択肢だ 。
海洋放出は(人や環境に)ほとんど影響しない。
濃度が国際的な基準値以下のトリチウム水を海に流すことは世界中の多くの原発で行われている。

実際の海洋放出にあたっては、漁業関係者や地元住民による受け入れや丁寧な放射能モニタリングが欠かせない。

原子力規制委員会の田中俊一委員長(当時)は2013年9月2日、日本外国特派員協会で講演し、汚染水問題への対応で、放射能濃度を許容範囲以下に薄めた水を海に放出する必要性を強調した。

2015/2/20 IAEA調査団の福島第一原発・廃炉作業の調査報告書 

ここにきて、第一原発の汚染水を処理した後の水にトリチウム以外の複数の放射性物質が残留していることが報道された。

8月19日に共同通信が取り残しを報じた後、8月23日には河北新報が、2017年度のデータを検証したところヨウ素129が法律で定められた放出のための濃度限度(告示濃度限度)を60回、超えていたと報じた。

東京電力福島第1原発の多核種除去設備(ALPS)で汚染水の浄化後に残る放射性物質トリチウムを含む水に、他の放射性物質も除去しきれず残っている問題で、排水の法令基準(1リットル当たり9ベクレル)を超えるヨウ素129の検出が2017年度に約60回あったことが分かった。2018年度も既に10回を超え、同様のペースで起きている。

原子力規制庁も実態を把握しており、フィルターの性能低下の可能性を指摘する。

東電は既設、増設、高性能の各ALPSの処理水の放射性物質濃度を定期的に測定。2017年度のヨウ素129の測定結果は1リットル当たり40ベクレル以上が9回あった。9月18日に採取した処理水は62.2ベクレルに上った。

東電は、能力に問題はないとして「ALPSの運用継続による汚染水処理を優先している」などと説明。基準超えが続いても「敷地境界の空間放射線量の目標値(年間1ミリシーベルト未満)には影響がないように運用している」と強調する。 

原子力規制庁の担当者は「基準超えの頻度増加は把握している。フィルターの性能低下が原因なら、交換で回復できるのではないか。ただ汚染水の放射性物質濃度は低減されており、直ちに問題とは言えない」と話した。

原子力規制委員会が認可した福島第1原発の実施計画では、ALPSの設置目的はトリチウム以外の放射性物質の濃度を基準値未満に下げることと明記している。

付記

東京電力は9月28日、福島第1原発の汚染水を浄化した後にタンクで保管している水の約8割に当たる75万トンで、トリチウム以外の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を超過しているとの調査結果を明らかにした。今後、海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化するとしている。


これについて、原子力規制委員会の更田豊志委員長は22日、トリチウム以外についても希釈して法令基準濃度を下回れば海洋放出を容認する考えを示した。(東京新聞 8月23日)

更田委員長は、汚染水を浄化するALPSの運用開始当初から残留を認識していたとして「希釈すれば法令基準を下回るのは明白なことで、大きく問題にすることがなかった」と説明。汚染水の処分方法としての海洋放出に関し「現実的な唯一の選択肢」との考えを改めて示した。

委員長が、委員会が承認したALPS設置での「トリチウム以外の放射性物質の濃度を基準値未満に下げること」の条件に違反して当初から他の放射性物質が残っていることを知っており、これを明らかにしなかったことは問題である。政府、委員会、東電の説明の信頼性が失われる。

福島県の内堀雅雄知事は20日の記者会見で、次の通り述べた。

現在保管されているトリチウム水の状況は非常に重要です。トリチウム水の今後の取扱いについては、現在、国において、社会的な影響も踏まえた議論がなされているところであり、今月末には広く国民から意見を聴く公聴会が開催されます。国及び東京電力においては、こうした現在のトリチウム水の状況というデータも含めて、環境や風評への影響などを国民や県民に丁寧に説明し、慎重に議論を進めていただきたいと考えております。

(海洋放出について)
科学的なデータももちろん重要ですが、一方で、社会的な影響、特に風評の問題をどのように勘案していくか、あるいは対応していくかが、福島県全体にとって重要であると考えております。

あの震災と原発事故から7年5か月が経過しておりますが、我々は依然として、風評に苦しめられております。例えば、海外では福島県産の農産物等に輸入規制をかけている国がまだ20数か国に及ぶのが現実です。こういった社会的影響への対応が一つの重要な側面でもありますので、国及び東京電力に対しては、環境や風評への影響などについて、しっかりと議論を進めて、丁寧に説明し、慎重に対応していくことを求めてまいりたいと考えております。

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別途、6月29日に、大学プレスセンターが、汚染水からトリチウム水を取り除く技術の開発を発表した。

近畿大学工学部教授 井原辰彦、近畿大学原子力研究所、東洋アルミニウムおよび近大発のベンチャー企業である株式会社ア・アトムテクノル近大らの研究チームが、「トリチウム水」を分離・回収する方法及び装置を開発した。

研究チームは、多量の小さな穴を持つ構造「多孔質体」と、「毛管凝縮」に着目し、この現象を除染技術に応用するため研究を進めてきた。

完成した多孔質体は、直径5nm以下の大きさの微細な穴「細孔」を有し、毛管凝縮によって細孔内に水とトリチウム水を取り込んだ後、トリチウム水を細孔内に保持したまま、水だけを放出する機能があ る。
この多孔質体を格納したフィルターによって、汚染水からトリチウム水を高効率に分離することができる。

また、多孔質体を加熱することで、細孔内に残ったトリチウム水を放出し回収することができ る。装置は繰り返し利用できるため、低コストでのトリチウム除染が可能となる。

ベーマイト処理済み(アルミニウムに熱水処理を施すことで、アルミニウム系酸化皮膜を形成)のアルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを格納した本発明装置を用いて、実証実験を行 った結果は下図の通り。いずれも処理量が増加するにつれて除染率は低下するが、ベーマイト処理を行ったフィルターでは初期段階で、ほぼ100%除染されていることを確認した。


チームは今後、福島県内の企業などと協力し、原発の汚染水処理ができる実用機器の開発を進めるという。

処理すべき水は大量であり、実用までには時間がかかると思われ、政府、東電がそれを待つとは考え難い。

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