米国とカナダのNAFTA再交渉、再協議へ

| コメント(0)
米国とカナダが進めていた北米自由貿易協定(NAFTA)改定を巡る協議は、期限の8月31日中の合意には至らず、物別れに終わった。
9月5日に協議を再開する。


これを受けて、トランプ米大統領は、カナダとの合意のないまま、メキシコとのNAFTA改定案を11月下旬までに署名する意向であることを議会に正式通知した。但し、「カナダが望むならカナダとの協定にも署名する」としている。

トランプ政権は12月1日のメキシコの政権交代までに新協定の署名を終えたいとしている。

米国内法は議会が十分な審議を行えるよう、署名から90日前の通知を求めている。→ 8月31日が期限
なお、新協定文書を1カ月後に議会に送付することとなっている。 → 9月末

カナダを含めた3カ国が新協定に合意し、新協定文書を9月末に議会に提出できるかどうかが焦点となる。
米国は、間に合わなければ、米国とメキシコだけの新協定を結ぶとして、カナダに妥協を迫っている。

しかし、カナダは2019年に総選挙を控えており、政治的な妥協の余地は乏しい。特に酪農製品市場の開放は難しい。

米議会はカナダを含めた3カ国の協定を望んでおり、カナダを除外した新協定を認めない可能性は大きい。

トランプ大統領はツイッターで、 「議会が認めなければ、NAFTAをやめるだけだ。NAFTA 調印以前の方がよかった。新協定を結ぶか、NAFTA以前に戻るかだ」と牽制した。

There is no political necessity to keep Canada in the new NAFTA deal.
If we don't make a fair deal for the U.S. after decades of abuse, Canada will be out.

Congress should not interfere w/ these negotiations or I will simply terminate NAFTA entirely & we will be far better off...

....Remember, NAFTA was one of the WORST Trade Deals ever made. The U.S. lost thousands of businesses and millions of jobs.
We were far better off before NAFTA - should never have been signed. Even the Vat Tax was not accounted for. We make new deal or go back to pre-NAFTA!

(付加価値税を導入しておれば輸入品に課税できるが、導入していないため輸入品に有利という主張。これが国境税導入の主張につながる。)



次の点が問題になっているとされる。

カナダ側の主張:

・NAFTA 19条の維持

NAFTA19条では、輸出者が最終的なアンチ・ダンピング(AD)と相殺関税裁定を審査するよう二国間パネルに求めることを可能にする規定が ある。

米国は、米国の国家主権を侵害するとして、2国間審査プロセスを変更するか、あるいはそれを取り除きたいとする。今回、メキシコは除外することに同意した。

カナダは米政府の行動から自国産業を保護するためには、紛争解決制度が不可欠と考えており、除外には反対している。

「文化例外」規定の維持 (TPPでも最後まで問題となり、一定期間猶予する内容のサイドレターで解決した)

文化例外とは、自国文化を保護・育成するため、書籍や映像、音楽などの文化産業を自由貿易の原則から除外するというもの 。

フランス語圏で、カナダからの独立機運が強いケベック州は文化的な独自性の維持への関心が強く、カナダの歴代政権も同州への考慮などから、過去の通商協定で文化例外の規定を盛り込むよう求めてきた。ハリウッド映画に代表される米国の巨大な文化産業からカナダやケベック州の文化を守るため、例外規定は決定的に重要だと考えられてきた 。

カナダが求める例外規定で、カナダは自国産業への補助や外国からの投資規制ができる。

米国側の主張:

・カナダの酪農製品市場の更なる開放

トランプ大統領はカナダの農業政策により、米国産の乳製品はカナダ市場へのアクセスを不当に制限されているとして、繰り返し批判、カナダの卸売制度の変更を求めている。
カナダのトルドー首相は自国の制度を守ると主張している。 USTRは、「農産物でカナダからの譲歩は何もない」とけん制した。

今回の交渉で、カナダの交渉責任者であるフリーランド外相は、カナダは断固として国益を守るとの考えを示し、「単なる合意ではなく、良い合意を求めている。われわれはまだそこまで達していない」と述べた。


8月31日に物別れとなったが、8月30日のトランプ大統領のBloomberg Newsとのインタビューでの「オフレコ」の発言を、8月31日にカナダのToronto Star がすっぱ抜いた。

「一切譲歩できないが、それを言ってしまうと、彼らはディールができないことがわかって失礼だから言えないんだ」

"Here's the problem. If I say no -- the answer's no. If I say no, then you're going to put that and it's going to be so insulting they're not going to be able to make a deal ... I can't kill these people,"

「カナダとは、完全にこちらの望み通りとなる。」

"Any deal with Canada would be totally on our terms."

「カナダへ必死だ。こちらは、なにか問題が出るたびに、(GMがカナダ工場で生産している)Chevrolet Impalaの写真を見せるのだ。」(輸入車に関税を掛けると脅しているのだという意味)

"Off the record, Canada's working their ass off. And every time we have a problem with a point, I just put up a picture of a Chevrolet Impala"

トランプ大統領はツイートでこの発言を認めた。

Wow, I made OFF THE RECORD COMMENTS to Bloomberg concerning Canada, and this powerful understanding was BLATANTLY VIOLATED.
Oh well, just more dishonest reporting. I am used to it. At least Canada knows where I stand!

Still can't believe that Bloomberg violated a firm OFF THE RECORD statement. Will they put out an apology?

その後のスピーチでは、オフレコ破りに不満を示しながら、カナダ側がトランプの考えを知ることになるため、いいことだと述べた。

"These are very dishonourable people. But I said, in the end it's OK, because at least Canada knows how I feel. So it's fine. It's fine. It's true."

Bloomberg はオフレコの約束は守っているとしている。Starは、この情報をあるソースから得たが、Star はBloombergと大統領とのオフレコの約束に拘束されないとしている。

Trudeau首相はこの発言について聞かれ、「我々はカナダにとって良いものならサインするというだけだ。カナダとカナダ人にとってよくないなら、無い方がましだ。はっきりしている」と述べた。

ーーー

メキシコとの合意でも、自動車関税を使って脅している。

詳細は発表されていないが、米国とメキシコは争点だった自動車の原産地規則について、現地調達率を現行の62.5%から75%に引き上げることで合意した。

両国はまた部品の40─45%を、時間当たり賃金が最低16ドルの工場で生産することで合意。これにより、メキシコの低賃金地域への工場流出を防ぐ。
米国製の鉄鋼、アルミニウム、ガラス、プラスチックの利用を増やすことも義務付けたとされる。

上記の基準を満たさない場合は、(現行では)普通車では2.5%の関税が課せられる。(最恵国に対するこの2.5%の関税を引き上げる可能性、基準を満たさない車には別の税率を適用する可能性についても触れられている。)

更に付帯合意ではメキシコからの年間自動車輸入が240万台、部品については年間輸入額が 900億ドル1080億ドルを超えた場合、米国は検討中の「安全保障を理由とした」関税(25%?)を適用することができる。

2017年のメキシコから米国への自動車輸出は約180万台だったが、早い時期に現状ペースでは2021年にはこれに達する見込み。

メキシコ側が「現地調達率」、「労務費規定」、「数量制限」を呑んだのは、米国が検討中の「安全保障を理由とした」関税の適用除外を受けるためとされる。

米国は今後、日本を含めた各国に、自動車関税の適用除外を条件にいろいろな要求をしてくるものと思われる。

"Every time we have a problem with a point, I just put up a picture of a Toyota XX" ということになる。

6月にWhite House で行われた日米首脳会談で、トランプ大統領は"I remember Pearl Harbor"と述べ、米国の対日赤字を非難、二国間貿易協定の交渉を求めている。


なお、米国は、協定が5年ごとに再交渉され、合意に至らなければ自動的に廃止になる「サンセット条項」を導入する要求を撤回した。

16年の期限が設けられ、見直しを経てさらに16年の延長が可能になる。

上記の通り、メキシコは紛争解決手法を定めた19条を除外することに合意した。

米国とメキシコ間で取引される農産物は関税をゼロに据え置く。農業技術の発展を支援するためバイオテクノロジーの導入に取り組む。

メキシコ人の賃金を引き上げる取り組みとして、ILOの労働基準を順守することをメキシコに義務付ける条項も盛り込んだ。

付記 

NAFTA再交渉を巡り、米国とメキシコの両政府が通貨政策の透明性を約束する「為替条項」の導入で合意したことが分かった。輸出促進のための競争的な通貨安誘導を控えることを見直し後の新協定に盛り込む見通し。

ーーー

日系企業の3カ国での2017 年の生産台数(万台)は次の通り。

USA Canada Mexico
トヨタ 126 57 11
日産 93 - 83
ホンダ 121 43 21
マツダ - - 19

コメントする

月別 アーカイブ