iPS細胞で脊髄損傷治療

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厚生労働省の専門部会は2月18日、iPS細胞を使って脊髄損傷を治療する慶応義塾大学の臨床研究計画を了承した。
慶應義塾特定認定再生医療等委員会が、2018年11月27日に計画を承認し、厚生労働大臣へ申請していた。


慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、整形外科学教室の中村雅也教授らが研究を
進める「亜急性期脊髄損傷に対する iPS 細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療」の臨床研究。

iPS細胞から作った神経のもとになる神経前駆細胞を患者に移植し、機能改善につなげる世界初の臨床研究で、2019年夏にも始まる見通し。

京都大学iPS細胞研究所が備蓄する他人のiPS細胞から、慶應義塾大学および大阪医療センターで移植用神経前駆細胞を作製し、凍結ストックとして保存する。

これを、患者1人あたり200万個を損傷部に注射で移植する。

計画では脊髄の損傷から2~4週間が経過し、運動などの感覚が完全にまひした18歳以上の患者4人が対象。


移植から1年かけて安全性や効果を確かめる。移植とともにリハビリもして、手足などの運動機能の改善を目指す。他人の細胞を移植するので拒絶反応を抑えるため免疫抑制剤を使う。

脊髄損傷は、脊髄そのものが外傷などにより損傷を受けて、損傷部より下位の運動・知覚・自律神経系の麻痺をもたらす。

国内には10万人以上の患者がいるが、これまで脊髄損傷に対する有効な治療法はなかった。

しかし岡野教授・中村教授らによるこれまでの研究により、神経のもとになる細胞(神経前駆細胞)を、受傷後比較的早期に患者の損傷脊髄に移植すれば、脊髄損傷に対する有効な治療となる可能性が高いことがわかってきた。

また、iPS細胞技術により、脊髄損傷に対する移植治療に必要な神経前駆細胞を大量に作成することができるようになった。

中村教授によると、「今まで中枢神経である脊髄は、ひとたび切れたら決してつながらないと言われていた。しかしiPS細胞を使い、環境を整えることで延ばす方法の開発に我々は成功した。既に、霊長類である猿の治療にも成功している。ほとんど動けなかった猿が、ケージを飛び移れるほど回復した姿を、僕はこの目で見た。」

岡野教授と中村教授は、研究成果の実用化のため、慶応大発ベンチャー、ケイファーマ (K Pharma, Inc.) を2016年11月に設立した。

今回の臨床研究で安全性などが確認できれば、効果をより詳細に調べるための臨床試験(治験)の実施など実用化に向けた次の段階に進み、一般的な治療としての普及を目指す。

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脊髄損傷治療については、ニプロの治療用幹細胞が承認を受けている。

医療機器大手ニプロは2018年12月28日、脊髄損傷の治療に用いる自己骨髄間葉系幹細胞ステミラック注について条件及び期限付承認を取得したと発表した。

この製剤は札幌医科大の本望修教授らがニプロと共同開発したもので、患者から骨髄液を採取し、骨や血管などになる能力を持つ「間葉系幹細胞」を取り出し、5千万~2億個に大量培養してつくった細胞製剤を、脊髄を損傷してから31日以内を目安に体内に静脈注射する。

間葉系幹細胞が脊髄の損傷部に自然に集まり、炎症を抑えて神経の再生を促したり、神経細胞に分化したりして、修復する 。

間葉系幹細胞は普段から血流に乗って体中を巡っていて、骨や臓器や神経など身体の中の傷ついた部位を修復する働きをしている。間葉系幹細胞は人体の自然治癒力に関係している。

脊髄損傷の治療では、普段の間葉系幹細胞の数では足りないので、数を大幅に増やして傷ついた部位に働きかける。

本人の体性幹細胞であるため、拒絶反応や癌化する心配がない。

2018/11/24 厚労省、初の脊髄損傷治療用幹細胞の承認了承 

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