エイズが完治 ?

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HIV(エイズウイルス)に感染したロンドン在住の男性が幹細胞移植を受け、完治した可能性があるとの症例研究が発表された。 3月5日発行のNatureで、Cambridge University のRavindra Gupta教授(治療時はUniversity College London)らが報告した。

患者はロンドンに住む匿名の男性(後記の理由で"the London patient"と呼ばれる)で、2003年にHIV感染が判明、2012年以降、HIVを制御する抗レトロウイルス薬で治療を受けていた。その後、進行した悪性リンパ腫
ホジキンリンパ腫)が見つかったため化学療法を受けた後、2016年に幹細胞移植を受けた。

移植は比較的スムースに行われたが、 移植片対宿主病(ドナーの臓器が、免疫応答によってレシピエントの臓器を攻撃)を含む副作用があった。

ドナーはHIVに耐性のある変異遺伝子(CCR5 delta 32)を持っていた。

CCR5(C-C chemokine receptor type 5)という遺伝子にCCR5-Δ32として知られている変異を持つ集団がいる。

多くのHIV株が、宿主細胞に入り感染するための最初の段階でCCR5を利用しているが、この突然変異がある遺伝子を持つ人々は「CCR5」の受容器(レセプター)に欠損があるため、「CCR5」を利用して感染するエイズウイルスに感染しない。ヨーロッパに住む白人の1~3%が保持している。

但し、この遺伝子は、HIVに対する耐性が高い一方で、西ナイルウイルスに感染しやすい。

患者は移植後も1年4カ月の間、抗レトロウイルス薬による治療を続けたが、1年半前に投与を中止した後もHIVは検出されていない。

チームは完治したと判断するにはまだ早すぎるとして、今後も引き続き患者の状態を観察する。


HIV感染者が幹細胞移植で完治したとされる例は、10年以上前にベルリンで報告されている。

Berlin patient と呼ばれるアメリカ人Timothy Brownで、HIV感染で抗レトロウイルス薬の治療を受けている間に急性骨髄性白血病と診断され、2007年にHIV耐性を持つドナーから2回の幹細胞移植を受けた。抗レトロウイルス薬の投与を中止してから数年後にHIVの痕跡が見つかったものの、ウイルス量は検出限界以下の状態が続き、唯一の完治例とみなされている。現在、米国に居住しており、HIV-freeである。

研究者らはこれまで、Berlin patient の治療を再現しようと試みてきたが、成功例は報告されていなかった。

Gupta教授は「同様の治療で2人目の患者が寛解したことにより、ベルリン患者が例外だったのではなく、この治療がHIVを消滅させたということが立証された」と話す。

ただし専門家らによると、HIV耐性を持つドナーからの幹細胞移植によって一部のエイズ患者だけが治る仕組みはまだ分かっていない。
また、HIVに感染しても通常は抗レトロウイルス薬により健康状態を維持できる一方、幹細胞移植には大きなリスクも伴う。そのため現時点での対象者は、エイズ以外の理由で移植が必要な人に限られる。

チームは、リスク面などから、現時点では造血幹細胞移植をHIV感染の標準治療とすることは適切でないとしている。日本でも造血幹細胞移植は、HIV感染の治療法として認められていない。

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