合意なき離脱の場合のアイルランドの扱い

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Brexitの最大の問題はアイルランド問題である。

英国のEU離脱で、アイルランド島の内部で、英国の北アイルランドとEUに残るアイルランド共和国との間に再度国境管理が行われると、1998年4月10日のベルファスト合意(聖金曜日協定)で収拾した北アイルランド紛争の再発が懸念される。

共通旅行区域(CTA)制度は両国のEU加盟以前からある取り決めであると指摘し、税関や検疫も含め、物理的な国境設備の設置を避けることを目指すと明言し、日常的に住民や農業従事者、小規模な商業従事者が往来し物資の移動が行われている現状に配慮する必要性を訴え、通関申告を免除するなど「可能な限り摩擦のない陸上国境の実現」を目指すべきとしている。

また、ベルファスト合意を全面的に支持する姿勢を強調、同合意で定められた通り、北アイルランドの住民には両国間の往来の自由を認めると共に、両国の二重国籍を取得する権利やアイルランド国籍に由来するEU市民権も認めるよう求めている。

2019/2/11 Brexitの問題の根源(続き)-「北アイルランド国境問題」

英政府は本年3月13日、合意なき離脱となった場合、アイルランドと北アイルランドの厳格な国境管理を回避すると表明した。

合意なき離脱となった場合、アイルランドから北アイルランドへの商品の輸入について新たな検査や管理を導入しない。企業の自己申告に頼り、国境を越えた取引を記録するためアプリベースのシステムを活用するという。新たな輸入関税制度は適用しない。

この計画は一時的かつ一方向のもので、長期的な対策については、EU・アイルランド政府と早急に協議を開始するとしている。

英政府は同日、合意なき離脱となった場合、輸入関税を引き下げると発表した。

金額ベースで英国への輸入品の87%に相当する商品が無関税となる。現在は80%が無関税。

EUからの輸入品は現在は100%が無関税だが、82%が無関税となる。
EU以外からの輸入品は現在は56%が無関税だが、92%が無関税となる。

これは、英国の輸入関税の話であり、輸出先はこれと無関係に、(従来のEUメンバーとしての関税ではなく)WTOルールで関税をかける。
輸出産業は被害を受けることとなる。

英国の生産者を保護するための措置も継続する。自動車メーカー、牛肉、ラム肉、豚肉、鶏肉、酪農製品の生産者などが対象となる。

2019/3/14  英下院、「合意なき離脱」を否決 

しかし欧州側は、合意なき離脱に備え、アイルランドには国境を越えた貿易の検査体制を準備すべきだと圧力をかけている。アイルランド・英国間の貿易に対して大規模な検査体制を敷く必要があるとする。

アイルランド首相は、合意なき離脱の場合でも、国境を越えた貿易の検査は避けられると期待していたが、EUは、監視が少しでも欠けたら欧州の単一市場に大きな穴が開くことを懸念し、この方針を退けた。

欧州のある有力外交官は、「アイルランドの友人たちは、まだ現実を見ていない。我々は壁の建設について話しているわけではないが、単一市場の一体性を守る必要がある。加盟国の間では、アイルランドの準備不足を心配する人が増えている」と述べている。

アイルランド政府内では、国境を越える貿易に関税をかけ、通関手続きや食品・動物の検疫を実施するために対策が必要なことは暗に受け入れた。

工場や輸送中の製品など、国境から離れた場所での検査について議論している。

首相は4月3日、アイルランド議会に対し、関税や通関料はオンラインないし税務署で徴収できると述べ、合意なき離脱の場合も多くの検査は遠隔で実施できると語った。

しかし、問題は動物の検疫で、獣医によって物理的に行うしか方法がない。「そうした検疫は港で実施されるべきで、衛生基準と植物検疫基準についてはアイルランド島が島全体として扱われるべきだというのが我々の見解だ。それには英国の協力が必要になる」と語った。

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