米、輸入自動車・部品の通商拡大法232条の判断延期

| コメント(0)

米国は5月17日、輸入自動車や部品に対する関税の判断を最大6カ月延期すると正式発表した。交渉相手の日本やEUに猶予を与える。

トランプ大統領はライトハイザーUSTR代表に対し、交渉を加速させるとともに180日以内に報告するよう指示し、交渉で合意できない場合、追加措置が必要かなどを判断するとした。

一部の輸入車が「米経済を弱め、国の安全保障を脅かしている」との商務省の見解に同意したことを明らかにし、「輸入を減らして国内の競争環境を改善する必要がある」とし、強い国内自動車産業は米国の軍時的優位性に極めて重要との認識を示した。

ーーー

本件は昨年5月のトランプ大統領の決定に端を発する。

トランプ大統領は2018年5月、自動車、トラック、部品の輸入を巡り、通商拡大法232条に基づく調査開始を検討するよう商務省に指示した。
「自動車や自動車部品など中核的な産業は国力の重要な要素だ」と主張し、これらの輸入が米国の安全保障を脅かすかどうかを判断するとした。

米商務省は5月23日、乗用車やトラックなどの車両や関連部品の輸入が国内の自動車産業を侵害し、安全保障を脅かしたかどうか通商拡大法232条に基づき調査を開始すると発表した。
鉄鋼・アルミニウム輸入制限と同様の手段を自動車にも用いる。

2019年2月17日、米商務省は、通商拡大法232条に基づく自動車関税に関する報告書をトランプ大統領に提出した。

その詳細は公表されていないが、恐らくは「追加関税が妥当」との内容が含まれているとの見方が多い。
全輸入車に対して最高25%の関税を検討するほか、電気自動車に代表される先進技術を使った自動車部品も対象とされる可能性がある。

法律によれば、大統領は報告書提出から「90日以内」に内容を精査した上で、報告書の勧告する措置に関して最終決定する必要がある。その上で大統領による最終決定から「15日以内」にその措置が実施に至ることが法律で求められている。

2月17日の90日後は5月18日になる。大統領の判断が注目されていた。

ーーー

この問題については、EUと日本は米国と交渉を続けている。

1) EU

米政府は2018年5月31日、カナダ、メキシコ、EUに対し鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税を適用すると発表した。適用は午前0時からで、税率は鉄鋼が25%、アルミニウムが10%。

2018/6/2 米、EU・カナダ・メキシコに鉄鋼・アルミ関税発動 

これを受け、EUの欧州委員会は6月6日、対抗措置として、米国からの輸入品に報復関税を課す方針を正式決定した。

EUは被害を2017年ベースで64億ユーロ(71億米ドル)とし、直ちに28億ユーロ(32億ドル)相当の製品に課税する。対象は、鉄鋼・アルミ製品のほか、オレンジジュース、バーボン、たばこ、化粧品、シャツ、ズボン、靴、バイク、ボートなど。

これを受け、トランプ大統領は6月22日、「EUが関税や障壁をすぐに取り除かないなら、輸入自動車全てに20%の関税をかける。米国で生産せよ!」と呟いた。

2018/6/7 EU、米国の鉄鋼・アルミニウム輸入制限への報復関税、7月発動へ

米オートバイ製造大手Harley-Davidsonは6月25日、EUの関税引き上げを受け、欧州向けオートバイの生産を米国から海外に移す方針を明らかにした。

2018/6/27 Harley-Davidson、一部生産を米国外に移転

トランプ米大統領は7月25日、訪米中のJean-Claude Juncker 欧州委員長との会談後、関税引き下げに向け EUと協力することで合意したと述べた。

米国とEUは直ちにExecutive Working Group を設置する。加えて、短期的な対策を検討する。

この間は、どちらかが交渉を取り止めない限り、この合意の精神に反する行動を行わない。

EUは、「相互に追加関税の発動を控える」とし、ロス商務長官も「自動車の追加関税は課さない」とするが、大統領は「合意の精神に反することはしない」とだけ述べている。

9月を目処に高官級の作業部会の初会合を開き、交渉内容の具体策の検討に入る。120日以内に結果を報告する方針であった。

2018/7/27 米国とEU、関税撤廃交渉へ 

しかし、現時点で本件は進展していない。EU加盟国は本年4月に、執行機関である欧州委員会に米国との通商交渉をする権限を認めたが、この権限にはトランプ政権が重視する農業分野は含まれていない。

2) 日本

2018年9月26日、日米首脳会談がニューヨークで行われ、安倍首相とトランプ大統領が「日米物品貿易協定(TAG:Trade Agreement on Goods )」の交渉入りで合意した。

TAGは投資・サービス分野などを含む自由貿易協定(FTA)とは異なりモノの関税に絞る。関税撤廃・削減を目指しており、対象は農産品や工業製品などほぼ全ての貿易品目に及ぶ。税関手続きの円滑化などの交渉も含む。
日米はTAG交渉の見通しが立った後、サービスや投資分野でも2国間交渉を始める。

首脳会談に同席した茂木経済再生相は、実際の交渉入りの時期について、米国議会手続きなどがあるため「少し時間がかかる」としたが、「日米が関税について自由で公正な新たな枠組みを構築することは、国際経済全体に良い影響を与える」と述べた。

TAGでは、日本の農産品についてTPP水準を超えた自由化をしないと米国側に念押しした。

また、交渉中は米政権が検討する輸入自動車への高関税措置を発動しないことを、会談で首相が直接、トランプ大統領に確認した。

2018/9/27 日米、物品貿易協定交渉へ、交渉中は自動車追加関税回避

米中貿易交渉が難航したこともあり、本件も進展していない。

トランプ大統領は4月26日の日米首脳会談で訪日時に調印したいと発言したが、首相が参院選挙を理由に延期を説得した。 大統領はライトハイザーUSTR代表らの助言を無視し、本格的な協議を先送りすることに応じた。

ーーー


大統領は今回、中国との交渉が挫折したばかりであることもあって、通商拡大法232条の発動を延期した。

しかし、EUとの交渉も、日本との交渉も進まないため、交渉を加速させることを求めた。


輸入自動車と同部品に対する追加関税については、米国の自動車業界からも当初から反対の声が相次いでいた。


2018/6/29 
米自動車業界も自動車の追加関税に反対 


今回も決定を単に延期しただけのため、懸念や不満の声が相次いでいる。

米自動車工業会(AAM)は「政権が自動車関税の検討を続けることにメーカー各社はなお強く懸念している」と訴えた。

トヨタは、輸入車が「安全保障上の脅威」だとトランプ大統領が判断したことを非難し、「われわれの投資が歓迎されていない」というメッセージを日本メーカーに送ることになると指摘した。

EUのマルムストローム欧州委員(通商担当)は、「我々の自動車の輸出が米国の安全保障上の脅威という考えを断固として拒絶する」と述べた。「自動車を含む貿易交渉の準備がある」とする一方、「WTOのルールに沿わない形ではない」とも指摘した。
米国のWTO違反ともとれる対応には応じられないとの考えを示した。

コメントする

月別 アーカイブ