米地裁、オプジーボの発明者に米学者2名を追加

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Massachusettsの米国地裁は5月17日、ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学 の本庶佑・特別教授が開発した癌の治療薬「オプジーボ」の特許について、ハーバード大学医学部の主要関連医療機関の一つである Dana-Farber Cancer Instituteの研究者 Gordon Freeman と Clive Woodの2人を共同発明者として認める判決を出した。

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癌細胞には、免疫細胞攻撃を防止する「免疫チェックポイント」という仕組みがある。

癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。

本庶教授は1992年に免疫細胞上のタンパク質(PD-1)を発見した。

1999年にPD-1欠損マウスが自己免疫疾患を発症することを発見、2002年に癌の免疫回避とPD-1の関与が判明した。その後、ヒトのPD-1の働きを阻害する抗体を開発した

提携していた小野薬品には抗体を作る技術がなかったが、2005年に米ベンチャー企業 Medarexとの提携で「完全ヒト型抗PD-1 抗体」を入手でき、オプジーボが誕生した。。

(その後2009年にBristol-Myers SquibbがMedarexを24億ドルで買収した。)

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 (治療薬の働き)

機能 承認 開発中
抗PD-1抗体 免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 オプジーボ(小野薬品/Bristol-Myers Squibb)
キイトルーダ(米Merck)
抗PD-L1抗体 癌細胞のPD-L1に結合し、PD-1とPD-L1の結合を防止 Roche/中外製薬
AstraZeneca
独Merck
/Pfyzer
抗CTLA-4抗体 免疫細胞のCTLA-4に結合し、CTLA-4と樹状細胞のB7の結合を防止 ヤーボイ(Bristol-Myers Squibb/小野薬品)
AstraZeneca


オプジーボの特許は本庶教授と小野薬品工業が持つ。
日本、韓国、台湾以外はBristol-Myers Squibbが開発・商業化の権利を持つ。

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今般、米地裁の
Patti B. Saris裁判官は111ページの判決文で、2人が本件の6つのパテントの権利を有すると判断した。

Freeman はその研究で、癌細胞にも健康な細胞にもPD-L1が現れることに注目した。PD-1とPD-L1 の接続が、癌細胞が免疫システムから免れる主要な役割を果たす。
この接続を防ぐことで、人体の免疫システムは癌細胞を攻撃できる。

2人と本庶教授は2000年に共同研究を発表し、PD-L1の発見を報告した。そこでは、PD-L1 がT 細胞のPD-1 と結合することで、T細胞に免疫システムを働かせないよう伝え、阻止効果を生むことを示している。

裁判では、本庶教授はDana-Farber Cancer Instituteの2人からは重要な助けを得てはいないと主張した。

証言は1999年と2000年の双方の研究者の間での生体物質と非公開のデータのやり取りが中心となった。

Saris 裁判官は彼女の結論として次のように述べた。

3人は特許権者として名前を出すに値する。3人は共同の目的に向かって研究した。本庶教授の発明のコンセプトは3人全ての協力の結果である。

判決を受け、Dana-Farberは免疫チェックポイント阻害剤の開発をする企業に技術をライセンスできるとしている。

本庶教授の弁護士は「現在、判決の内容を精査しているところで、特許の使用に関わっている
Bristol-Myers Squibbや小野薬品工業と協議したうえで今後の対応方針を決めたい」とコメントした。
小野薬品工業は、「判決は不服で、関係者と協議したうえで控訴する予定だ」とコメントしている。

オプジーボをめぐっては、本庶教授が小野薬品工業に対し、特許料が低いとして配分を見直すよう求めており、今回の判決は今後特許収入に影響を与える可能性が ある。

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京都大学の本庶佑特別教授らは4月10日、記者会見を開き、小野薬品工業と共同で取得したがん免疫薬「オプジーボ」に関する特許の対価について、引き上げを求めた。

2006年に特許のライセンス契約をした。

本庶氏はこの契約での取り分について、オプジーボによる小野薬品の売り上げや他社からのライセンス収入などの1%以下になっていたことを公表した。代理人弁護士は「常識的なレベルではない」と批判した。

2014年9月の販売開始から2018年12月までの4年の売上高約2890億円に対し、小野薬品からの支払(本庶氏が受け取りを拒否し、小野薬品は法務局に供託)は約26億円で1%以下となる。

本庶氏は抗がん剤として使う用途を視野にいれた特許と考えていたが、小野薬品はPD-1を作る遺伝子という狭い範囲の特許とみて契約を提示したため、料率の低い契約になったとしている。「用途特許ならば5~10%が常識的なレベルだ」(代理人弁護士)

本庶氏が2011年に対価の引き上げを要請したが、現在は交渉が途絶えているという。

代理人は①小野薬品の売り上げ②ブリストルから入る権利使用料③同様の薬を開発した別企業から入る使用料、の3種類の一部を本庶さんが受け取るべきだと主張しており、仮に試算すると、現時点で約830億円になるとし、「今後さらに増える」と強調する。対価の一部は若手研究者を支援する基金に投じる予定だ。


本庶氏は当初、京大に出願を要請したが、当時、京大には知財を扱う専門人材やノウハウがなく資金も不十分だったため、本庶氏本人が、小野薬品と共同出願したという経緯があり、このことがこの問題を生んだ。

当時の契約は本庶氏が弁護士を雇わずに署名したもの。

当時はがんの免疫療法が「海の物とも山の物ともわからないという扱い」だった。業界関係者はごく初期の特許の料率が1ケタになることは珍しくないとしている。

このことからも、当初の契約に本庶氏が自ら署名していることからも、裁判で契約を覆すのは難しいとみられる。


小野薬品は5月22日、次のコメントを発表した。契約の見直しは拒否、別途京大への寄付を検討するとしている。

先般より報道されているPD-1特許に関するライセンス契約については、本庶教授と当社が合意の下、2006年に締結している。

そして、2014年より契約に基づく対価を支払いしており、今後も契約に基づく対価を四半期ごとに支払いする。

2011年に本庶教授から当社に要請のあった契約の見直しに対しても誠意をもって話し合いを続けてきたが、合意に至らず、2018年11月に本庶教授に対し、対価の上乗せという枠組みではなく 、将来の基礎研究の促進や若手研究者の育成に資するという趣旨から京都大学への寄付を検討している旨、申し入れた。

今後は、本庶教授との話し合いを継続するとともに、基礎研究の促進や若手研究者の育成のための寄付について、慎重に検討 する。

米地裁判決への控訴には、小野薬品としては本庶氏との連携が不可欠になるが、特許契約を巡る対立から本庶氏と小野薬品の間では本件についても接触はないとされ、先行きは不透明である。


付記

小野薬品の発表に対し、本庶氏は次のように主張している。

特許料増額交渉は2011年からしており、後出しジャンケンではない。

2013年に小野薬品は書面で増額提示を行った。

現行契約 小野薬品提案
小野薬品の売り上げ 1%以下 2%
Bristol-Myers Squibbから入る特許料 10%
Merckから入る特許料 40%


本庶氏は「安すぎる」として合意せず、交渉を続けたが、小野薬品が一方的に撤回した。

交渉が再開されない場合、訴訟も排除しない。

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