国立がん研究センターなどと2014年に始めた研究プロジェクト「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」がこのほど終了し、その成果を事業化する。
癌ができると血液中に増える「マイクロRNA」を検出する手法で、東レはこれを検出する遺伝子解析チップを開発した。独自の素材や加工技術を生かし、従来に比べ100倍の感度で検出できるため、血液1滴分、50マイクロリットル程度あれば検査できる。癌の有無の判定精度も95%以上という。
本年4月8日に厚生労働省が第四回の先駆け審査指定制度の指定品目として発表しており、早期の承認が期待できる。
DNAチップによる膵臓・胆道癌検査キットMI-004(仮称)(東レ株式会社)
予定効能:血清から抽出したRNA中のマイクロRNAの発現パターン解析(膵臓癌・胆道癌の診断の補助)
指定理由:
①血清中のマイクロRNAの発現量の組み合わせを数値化し、膵臓癌・胆道癌の診断フローに用いる検査システムは、世界的にも実用化された事例がなく、画期性が高い。
②膵臓癌は最新がん統計(2017年)において年間死亡数3.4万人、3年生存率15%と極めて予後が悪い癌であり、胆道癌もまた年間死亡数1.8万人に及ぶ難治性の癌である。
③開発の過程において健康成人と膵臓癌・胆道癌患者を感度80%、特異度80%で鑑別するアルゴリズム及び閾値が得られている。また、初期の膵臓癌患者において、既存の腫瘍マーカーであるCA19-9 と比較して感度が高いことが示唆されている。これらに加え、従前の腫瘍マーカー検査とは異なるプロファイルに基づくことも勘案すると、膵臓癌・胆道癌が疑われ精密検査が必要とされる患者の選択に寄与し、治療成績の向上に資することが期待できる。
④国内で臨床性能試験を実施し、世界に先駆けて本邦において承認申請予定。
承認されれば、数万円で複数のがんを一度に調べられる見通し。
ーーー
マイクロRNAは生体高分子であるリボ核酸(RNA)の一種で、人間ではこれまでに2655種類が見つかっている。 分子のサイズの塩基数は18から25で、極めて小さい。
マイクロRNAは、エクソソームと呼ばれる粒子に入って血液中に放出される。その数は1mLあたり約5000億個とされる。
最近の研究で、マイクロRNAは癌等の疾患にともなって患者の血液中でその種類や量が変動することが明らかになってる。さらに、こうした血液中のマイクロRNA量は、抗癌剤の感受性の変化や転移、癌の消失等の病態の変化に相関するため、全く新しい疾患マーカーとして期待されている。
NEDOは2014年に、国立がん研究センター(研究部門と臨床部門)や東レなどと共に、マイクロRNAを使って健康診断などで簡便に癌や認知症を検査できる世界最先端の診断機器・検査システムの開発(体液中マイクロRNA測定技術基盤開発)プロジェクトに着手した。
概要は次の通り。
国立がん研究センター及び国立長寿医療研究センターのバイオバンクに保存されている数十万検体の血清から、13種類の癌及びアルツハイマー病等の認知症について、疾患の早期発見マーカーや、医療現場で必要とされる様々な疾患マーカーの探索を網羅的に行い、確度の高い疾患マーカーを得る。
13種類の癌は、胃癌、食道癌、肺癌、肝臓癌、胆道癌、膵臓癌、大腸癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、乳癌、肉腫、神経膠腫。
研究に不可欠な対照群として、長寿医療研究センターのバイオバンクに登録されている認知症などで癌ではない検体を調べる。
さらに、日本発のバイオツール技術によって高感度・高精度なマイクロRNA疾患マーカー検出ツールを開発することにより、一部欧米に先んじられている検査・診断分野の開発における日本の地位を引き上げる。
ーーー
2019年2月までに5万3000検体を解析した。その結果、下記のように高い精度でがん患者と健常者を識別でき、1次スクリーニングの検査方法として有用であることが示された。
|
|||||||||||||||||
「感度」とは、病気の人を正しく病気だと識別できる割合 「特異度」とは病気でない人を正しく病気でないと識別できる割合 |
卵巣癌など、癌の種類によっては、良性疾患を癌と判定してしまう場合がある。この場合も癌の可能性があることを患者に伝え、検査を勧めることができるので価値はある。
13種類の癌を一気に判別する手法も検討されている。
これまでに集積した患者のマイクロRNAプロファイルをDeep Learning に投入したところ、13種類のがんと健常の計14グループを高い精度で識別することができた。
認知症におけるマイクロRNAの有用性も検討された。認知症患者約5000人の血液中マイクロRNAを調べ、その結果を機械学習にかけた結果、3大認知症と呼ばれるアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体認知症を十分な精度で判別することに成功した。
今回の東レのマイクロRNAによる検査は、「感度」、「特異度」 から、これらとはかなり信頼度が異なるようだ。
コメントする